説明

圧入嵌合部材およびパイプ製品

【課題】パイプ材の内部に挿入することが容易で、かつ小さい圧力でパイプ材の内部に簡単かつ確実に圧入することができる圧入嵌合部材と、その圧入嵌合部材が圧入嵌合されたパイプ製品の提供する。
【解決手段】パイプ材1にフランジ部3の先端周縁に、面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上の基端側面取り部4と、面取り角が前記基端側面取り部4の面取り角より大きい面取り角の先端側面取り部5を2段に形成する。これにより、基端側面取り部4の屈曲部6の尖り度合いが適度に緩和され、小さい圧力で圧入嵌合部材2をパイプ材1に簡単かつ確実に圧入嵌合することができると共に、面取り部5の挿入案内の働きを効果的に行うことができ、圧入嵌合部材2の先端部をパイプ材1の内部に挿入することが容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コピー機、プリンター等の感光ドラム、マグネットローラ等に用いるパイプ材に圧入嵌合する軸受け等の圧入嵌合部材と、その圧入嵌合部材をパイプ材に圧入嵌合したパイプ製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コピー機、プリンター等の感光ドラム、スリーブ等に用いるパイプ材(51)に圧入嵌合する軸受け等の圧入嵌合部材(52)として、図7に示すように、圧入嵌合部材(52)の一端部に径大のフランジ部(53)を形成し、該フランジ部(53)の先端周縁に面取り部(54)を形成したものが知られている。これによれば、前記圧入嵌合部材(52)を前記パイプ材(51)に圧入していく前段階であって、圧入嵌合部材(52)の先端部をパイプ材(51)の開口端部から挿入する段階において、前記フランジ部(53)の面取り部(54)がパイプ材(51)の開口端部に沿って挿入案内の働きをするので、圧入嵌合部材(52)の先端部を前記パイプ材(51)に挿入することが容易となる。そして、面取り部(54)の面取り角が小さいと、上述のような面取り部(54)の挿入案内の働きが十分に発揮されず、前記圧入嵌合部材(52)の先端部をパイプ材(51)に挿入しにくくなるので、従来の圧入嵌合部材(52)の面取り部(54)の面取り角は約45度以上の角度に形成されていた。
【特許文献1】特開平06−262447号公報
【特許文献2】実開平07−001378号公報
【特許文献3】特開平10−227944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のように圧入嵌合部材(52)の面取り角を45度以上に形成すると、面取り部(54)の屈曲部(55)の尖り度合いが鋭くなることによって、圧入の際に面取り部(54)の屈曲部(55)とパイプ材(51)との間に大きな抵抗が生じ、その抵抗に対する大きな圧入圧力を必要としていたので、その圧入圧力を実現するべく設備の巨大化や製造コストの増大を招くという問題があった。また、最近では感光ドラムやスリーブ等に用いるパイプ材(51)は薄肉に形成されているので、圧入の際にあまり大きな圧力が加わると、パイプ材(51)が座屈等の変形を起こしたり、圧入後のパイプ材(51)と圧入嵌合部材(52)の両軸線がずれるという問題もあった。さらに、圧入の際にパイプ材(51)の内面が面取り部(54)の鋭い屈曲部(55)に削られて、その削りかすが圧入の進行につれてパイプ材(51)と圧入嵌合部材(52)との接触面に潜り込み、さらにはパイプ材(51)の開口端部から漏れ出すという問題もあった。
【0004】
この発明は上述の問題に鑑みてなされたものであって、パイプ材に挿入することが容易で、かつ小さい圧力でパイプ材に簡単かつ確実に圧入することができる圧入嵌合部材と、その圧入嵌合部材がパイプ材に圧入嵌合されたパイプ製品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、この発明は、圧入嵌合部材の面取り角が大きい場合はパイプ材に挿入しやいという性質と、面取り角が小さい場合は面取り部の屈曲部の尖角度が小さくなり、パイプ材に圧入しやすくなるという性質とに着目したものある。
【0006】
すなわち、この発明は、パイプ材に圧入嵌合される端部の周縁に、隣り合うもの同士の面取り角が互いに異なる複数の面取り部が軸線方向に多段に形成された圧入嵌合部材であって、前記各面取り部のうち最も基端側の面取り部において、その面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上に形成されると共に、最も先端側の面取り部において、その面取り角が前記基端側の面取り部の面取り角より大きい角度に形成されていることを特徴とする。
【0007】
これによれば、前記各面取り部のうち最も基端側の面取り部において、面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上に形成されることによって、基端側面取り部の尖り度合いが適度に緩和されるので、小さい圧力で圧入嵌合部材をパイプ材に簡単かつ確実に圧入嵌合することができる。また、最も先端側の面取り部において、面取り角が前記基端側の面取り部の面取り角より大きい角度に形成されているので、面取り部の挿入案内の働きを効果的に行うことができ、圧入嵌合部材の先端部をパイプ材に挿入することが容易となる。
【0008】
また、前記圧入嵌合部材が、前記面取り部が形成された端部をパイプ材の内部に圧入嵌合されてなるパイプ製品にあっては、小さい圧入圧力でパイプ材に圧入嵌合部材が圧入嵌合されているので、パイプ材が座屈等の変形を起こしたり、圧入後のパイプ材と圧入嵌合部材の両軸線がずれることが防止されると共に、圧入嵌合の際の削りかすの発生がほとんどない高品質のパイプ製品が得られる。
【0009】
なお、この発明において面取り角とは、面取り部が圧入嵌合部材の軸線方向に対してなす角度をいい、面取り高さとは、面取り部における圧入嵌合部材の軸線方向の長さをいい、面取り幅とは、面取り部における圧入嵌合部材の軸線方向と垂直な方向の長さをいう。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、前記各面取り部のうち最も基端側の面取り部において、面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上に形成されることによって、基端側面取り部の尖り度合いが適度に緩和されているので、小さい圧入圧力でパイプ材に圧入嵌合部材を簡単かつ確実に圧入嵌合することができる。このため、圧入嵌合の際にパイプ材が座屈等の変形を起こしたり、両部材の軸線がずれたりすることを防止することができるとともに、パイプ材の内面が面取り部の屈曲部に削られて削りかすが発生することを防止することができ、さらに圧入嵌合に必要な設備の規模や製造コストを抑えることができる。
【0011】
また、最も先端側の面取り部において、面取り角が前記基端側の面取り部の面取り角より大きい角度に形成されているので、面取り部の挿入案内の働きが十分に発揮され、圧入嵌合部材の先端部をパイプ材に挿入することが容易となり作業効率が向上する。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、小さい圧入圧力でパイプ材に圧入嵌合部材が圧入嵌合されているので、パイプ材が座屈等の変形を起こしたり、圧入後のパイプ材と圧入嵌合部材の両軸線がずれることが防止されると共に、圧入嵌合の際の削りかすの発生がほとんどない高品質のパイプ製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、この発明をコピー機やプリンタに用いるマグネットローラに適用した実施形態について、図1〜図5を参照しつつ詳述する。
【0014】
これらの図において(A)はコピー機やプリンタに用いるマグネットローラである。該マグネットローラ(A)は、棒状のパイプ材(1)と、その長さ方向の両端に圧入嵌合された合計2個の圧入嵌合部材(2)(2)によって形成される。
【0015】
前記パイプ材(1)は、中空部を有するアルミニウム押出パイプ材を所定長さに切断することによって形成されたものである。パイプ材(1)の肉厚と外径は、肉厚/直径≦0.1の関係を有している。
【0016】
一方、前記圧入嵌合部材(2)は、中空部を有するアルミニウム押出パイプ材を所定長さに切断したあと、一端部を膨隆状に加工することによって形成されたもので、該一端部は前記パイプ材(1)に圧入嵌合されるとともに、他端部は軸受けとしてコピー機等のその他の部材に接続される。そして、この圧入嵌合部材(2)は、前記パイプ材(1)と同等以上の硬度を有し、かつ表面粗さがRa0.2〜0.8となされている。
【0017】
前記圧入嵌合部材(2)のフランジ部(3)は、前記パイプ材(1)に確実に圧入嵌合するために、該パイプ材(1)の内径より0.005mm〜0.060mm程大きい外径の円柱状に形成されている。そして、そのフランジ部(3)の先端周縁には、図2に示すように、面取り角が互いに異なる面取り部(4)(5)が軸線方向に2段に形成されている。この面取り部(4)(5)のうち基端側面取り部(4)は、図4に示すように、その面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上に形成される一方、先端側面取り部(5)は、その面取り角が前記基端側面取り部(4)の面取り角より大きい角度、例えば約45度に形成されている。なお、この発明において面取り角とは、面取り部(4)(5)が圧入嵌合部材(2)の軸線方向に対してなす角度をいい、面取り高さhとは、基端側面取り部(4)における圧入嵌合部材(2)の軸線方向の長さをいい、面取り幅wとは、基端側面取り部(4)における圧入嵌合部材(2)の軸線方向と垂直な方向の長さをいう。
【0018】
このように、基端側面取り部(4)において、面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上に形成されることによって、基端側面取り部(4)の基端側の屈曲部(6)の尖り度合いが適度に緩和されるので、小さい圧入圧力でパイプ材(1)に圧入嵌合部材(2)を簡単かつ確実に圧入することができる。また、前記先端側面取り部(5)において、面取り角が前記基端側面取り部(4)の面取り角より大きい角度に形成されているので、面取り部の挿入案内の働きが十分に発揮され、圧入嵌合部材(2)の先端部をパイプ材(1)に挿入することが容易となる。
【0019】
なお、前記圧入嵌合部材(2)の内部は、図3に示すように、外形状にほぼ対応するように、他端部からフランジ部(3)にかけて円柱状中空部(7)に形成されるとともに、フランジ部(3)においては該円柱状中空部(7)から開口端部に向けて次第に拡径する円錐台状中空部(8)に形成され、かつ該円錐台状中空部(8)から開口端部にかけて円柱状中空部(9)に形成されている。また、圧入嵌合部材(2)のフランジ部(3)の基端面(3a)にはフランジ部(3)の形成時の都合により段部(10)が形成されている。
【0020】
次に図1に示した実施形態のマグネットローラ(A)の製造方法について説明する。
【0021】
まず、パイプ材(1)と圧入嵌合部材(2)の軸線をほぼ一致させ、パイプ材(1)の端部内面に圧入嵌合部材(2)の先端側面取り部(5)を沿わせながら、圧入嵌合部材(2)の先端部をパイプ材(1)の内部に挿入し、さらにパイプ材(1)の端部内面に基端側面取り部(4)を沿わせながら圧入嵌合部材(2)の挿入を進める。このとき、圧入嵌合部材(2)の先端側面取り部(5)において、面取り角が基端側面取り部(4)の面取り角より大きい角度(約45度)に形成されているので、先端側面取り部(5)の挿入案内の働きが十分に発揮され、圧入嵌合部材(2)の先端部をパイプ材(1)に挿入するのが容易となる。
【0022】
その後、パイプ材(1)に対して圧入嵌合部材(2)をそのまま軸線方向に加圧していくと、圧入嵌合部材(2)のフランジ部(3)が次第にパイプ材(1)の内部に圧入されていき、前記フランジ部(3)全体がパイプ材(1)の内部に完全に圧入され、圧入嵌合部材(2)のフランジ部(3)の基端面(3a)とパイプ材(1)の端面(1a)が一致したところで圧入嵌合部材(2)の圧入作業を終了する。このとき、基端側面取り部(4)において、面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上に形成されることによって、基端側面取り部(4)の屈曲部(6)の尖り度合いが適度に緩和されているので、小さい圧力で圧入嵌合部材(2)をパイプ材(1)に簡単かつ確実に圧入することができる。
【0023】
しかして、パイプ材(1)の他端開口部にもう一方の圧入嵌合部材(2)を上述と同様に圧入嵌合すれば、パイプ材(1)が座屈等の変形を起こしたり、圧入後のパイプ材(1)と圧入嵌合部材(2)の両軸線がずれることが防止されると共に、圧入嵌合の際の削りかすの発生がほとんどない高品質のマグネットローラ(A)が得られる。なお、要すれば、パイプ材(1)と圧入嵌合部材(2)の結合部を摩擦溶接等により溶接したり、接着剤で接着して、両部材(1)(2)の結合をより強いものとしてもよい。
【0024】
なお、以上の実施形態では、圧入嵌合部材(2)の面取り部は2段に構成したが、これに限られず、多段に構成するものとしてもよい。
【0025】
また、基端側の基端側面取り部(4)を縦断面直線状に形成したが、図6に示すように縦断面曲線状に形成するものとしてもよい。
【0026】
また、圧入嵌合部材(2)の圧入嵌合される一端部を膨隆状に形成し、該フランジ部(3)の先端周縁に面取り部(4)(5)を形成したが、前記圧入嵌合部材(2)の一端部を膨隆状に形成することなく、圧入嵌合部材(2)の先端周縁に面取り部(4)(5)を直接形成するものとしてもよい。
【0027】
また、パイプ材(1)や圧入嵌合部材(2)の材料としてアルミニウムを用いたが、アルミニウム以外の例えば鉄系材料等を用いてもよいし、またパイプ材(1)と圧入嵌合部材(2)とを異種材料で形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係るマグネットローラを、パイプ材と圧入嵌合部材とに分離して示す断面図である。
【図2】図1の圧入嵌合部材の側面図である。
【図3】図1の圧入嵌合部材の縦断面図である。
【図4】図2のI部の拡大図である。
【図5】マグネットローラを、パイプ材に圧入嵌合部材を圧入嵌合して示す断面図である。
【図6】この発明の他の実施形態に係る圧入嵌合部材の要部拡大図である。
【図7】従来のマグネットローラを示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・パイプ材
2・・・圧入嵌合部材
3・・・フランジ部
4・・・基端側面取り部
5・・・先端側面取り部
6・・・屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ材の内部に圧入嵌合される端部の周縁に、隣り合うもの同士の面取り角が互いに異なる複数の面取り部が軸線方向に多段に形成された圧入嵌合部材であって、
前記各面取り部のうち最も基端側の面取り部において、その面取り高さhと面取り幅wの比w/hが0.3以下、かつ面取り幅wが0.15mm以上に形成されると共に、最も先端側の面取り部において、その面取り角が前記基端側の面取り部の面取り角より大きい角度に形成されていることを特徴とする圧入嵌合部材。
【請求項2】
前記面取り部が2段である請求項1に記載の圧入嵌合部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧入嵌合部材が、前記面取り部が形成された端部をパイプ材の内部に圧入嵌合されてなることを特徴とするパイプ製品。
【請求項4】
前記パイプ材の肉厚と外径は、肉厚/直径≦0.1の関係を有している請求項3に記載のパイプ製品。
【請求項5】
前記圧入嵌合部材は、前記パイプ材と同等以上の硬度を有している請求項3または4に記載のパイプ製品。
【請求項6】
前記圧入嵌合部材の表面粗さがRa0.2〜0.8である請求項5に記載のパイプ製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−51006(P2009−51006A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263762(P2008−263762)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【分割の表示】特願平11−366502の分割
【原出願日】平成11年12月24日(1999.12.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】