説明

圧力センサ用光ファイバケーブル

【課題】高温高圧域での圧力計測が可能な耐熱性を有する圧力センサ用光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】被検出圧力により変形可能な支持体13と、支持体13に支持された圧力検知用光ファイバ11と、支持体13を被覆する外被16を備える圧力センサ用光ファイバケーブル10において、支持体13がアルミニウム製の中空パイプからなり、外被16がフッ素系樹脂からなる。支持体13は外周面にらせん状の溝14を有し、圧力検知用光ファイバ11は、らせん状の溝14に配置され、かつ外被16に被覆されていることが好ましい。また、支持体13を構成する中空パイプの中空部15に温度補償用光ファイバ12が配置されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを用いて水圧や油圧等の圧力を検知する光ファイバ圧力センサに用いられる圧力センサ用光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバに加わる外乱を光の変化に変換して検知を行う光ファイバセンサとして種々の構成が知られている。
例えば特許文献1には、中空パイプ肉厚内部の内層に2本のファイバを螺旋巻きして固定し、さらに外層に別の2本の光ファイバを螺旋巻きして固定した構成の、圧力等を検知する光ファイバセンサが開示されている。
特許文献2には、複数の円筒体(マンドレル)に光ファイバを密巻したセンシング部分を間欠的に設けて干渉計とし、水中音波を検出する音響センサ(ハイドロホン)として使用可能な光ファイバセンサが開示されている。
特許文献3には、歪検知箇所のそれぞれにおいて歪検知用光ファイバを円筒の外部に露出し、一方、温度補償用の光ファイバを円筒内の全長にわたってルースに収納した構成の歪センサが開示されている。
特許文献4には、光ファイバ心線をセンサとし、該光ファイバ心線中のブリルアン散乱光を用いて光ファイバケーブルの歪分布を測定する歪分布測定システムにおいて、光ファイバ心線の温度分布を測定し、光ファイバ心線のブリルアン散乱光分布測定結果の温度補正を行い光ファイバケーブルの歪分布を導出する測定システムが開示されている。
特許文献5には、被検出圧力により変形可能な可撓性材の太丸線状支持体と、その支持体上にスパイラル状に巻かれた光ファイバとを具備した圧力センサ用光ファイバケーブルが開示されている。
特許文献6には、パイプの外面に少なくとも二本の歪計測用光ファイバセンサを配置し、前記パイプをボーリング孔に挿入した後に、パイプ外面とボーリング孔内面との間にグラウトを注入して地中に埋設する光ファイバセンサの敷設方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0071158号明細書
【特許文献2】米国特許第5475216号明細書
【特許文献3】米国特許第5094527号明細書
【特許文献4】特開平11−173943号公報
【特許文献5】特開平6−43056号公報
【特許文献6】特開2002−156215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光ファイバケーブルを用いてそのケーブルの長手方向にわたって全体で圧力の検知(センシング)を行う分布型光ファイバ圧力センサ(例えば特許文献5を参照)は、圧力の分布を連続的に測定することが可能である。
【0004】
従来の分布型光ファイバ圧力センサでは、適用環境が60℃以下および計測レンジの上限が4MPa程度であった。つまり、従来の分布型光ファイバ圧力センサでは、図3に示すように、環境温度が高くなると、支持体の弾性率が低下して歪感受性が高くなる。しかし、60℃以上の環境になると、支持体がポリエチレンなど一般的な熱可塑性樹脂からなる場合、支持体が座屈して圧力検知用光ファイバにベンドが生じ、伝送損失が悪化して計測が不可能になる問題があった。
【0005】
そこで本発明者らがフッ素系などの高融点の熱可塑性樹脂を支持体に用いる検討をしたが、これらの樹脂は熱による体積収縮率が大きい。そのため、図4に示すように外被26を被覆する際の熱により支持体23の体積収縮が大きく、支持体23の溝24に配置した圧力検知用光ファイバ21にベンドが生じ、伝送損失が悪化して計測が不可能になる問題が生じた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温高圧域での圧力計測が可能な耐熱性を有する圧力センサ用光ファイバケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、被検出圧力により変形可能な支持体と、前記支持体に支持された圧力検知用光ファイバと、前記支持体を被覆する外被を備え、前記支持体がアルミニウム製の中空パイプからなり、前記外被がフッ素系樹脂からなることを特徴とする圧力センサ用光ファイバケーブルを提供する。
前記支持体は外周面にらせん状の溝を有し、前記圧力検知用光ファイバは、前記らせん状の溝に配置され、かつ前記外被に被覆されていることが好ましい。
前記支持体を構成する中空パイプの中空部に温度補償用光ファイバが配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の圧力センサ用光ファイバケーブルによれば、高温高圧域での圧力計測が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明の圧力センサ用光ファイバケーブルの一例を示す図であり、(a)は、光ファイバケーブルの断面図、(b)はらせん状の溝付近の部分拡大断面図、(c)は光ファイバの配置を模式的に示す斜視図である。
【0010】
本形態例の圧力センサ用光ファイバケーブル10(以下「ケーブル10」と略記する場合がある。)は、被検出圧力により変形可能な支持体13と、支持体13に支持された圧力検知用光ファイバ11と、支持体13を被覆する外被16を備え、支持体13がアルミニウム製の中空パイプからなり、かつ外被16がフッ素系樹脂からなるものである。
【0011】
本形態例のケーブル10は、光ファイバ圧力センサにおいて、圧力を検知する検知部として用いられる。特に、ケーブル10の全長にわたって圧力を検知することが可能であるので、圧力の分布を連続的に測定する分布型光ファイバ圧力センサに適用することが可能である。
本発明は、約200℃までの高温環境で、10MPa程度までの圧力計測レンジを実現するため、後述のように、支持体13および外被16の構成を改良したものである。
【0012】
支持体13は、ケーブル10の全長にわたって圧力検知用光ファイバ11を支持するものであり、外部の圧力を受ける受圧部として機能する。このため、少なくとも測定環境の温度範囲において、被検出圧力により変形可能であることを要する。本形態例においては、高温高圧域での圧力計測を可能とするため、支持体13の材料を金属製としている。具体的には、アルミニウム製の中空パイプが好ましい。
【0013】
外被16は、ケーブル10の外側から印加された周囲環境の圧力を、支持体13および圧力検知用光ファイバ11に直接伝えることが可能で、かつ外部の物質(水や油など)の浸透を防ぐことができる程度の厚さに形成されている。また、本形態例においては、高温高圧域での圧力計測を可能とするため、外被16の材料をフッ素系樹脂としている。フッ素系樹脂としては、PFA(テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのペルフルオロアルコキシアルカン樹脂)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などが挙げられる。
【0014】
圧力検知用光ファイバ11は、該光ファイバ11に加わる歪によって生じるレイリー散乱光やブリルアン散乱光の変化をBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)やBOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)などを用いて測定することにより、ケーブル10に加わる圧力を検出するためのものである。つまり、ケーブル10に加わる圧力の分布や時間的変化に応じて、光ファイバ11の歪にも分布や時間的変化が生じる。そこで、散乱光の変化を計測することにより、圧力の変化を検知することが可能である。
【0015】
圧力検知用光ファイバ11は、ケーブル10の全長にわたって支持体13に支持される。支持体13は、圧力が加わると軸方向および長手方向に圧縮応力を受ける。圧力に応じた歪が圧力検知用光ファイバ11に印加されるようにするため、圧力検知用光ファイバ11は、支持体13の変形によって歪を受けるように支持体13に支持される。圧力検知用光ファイバ11が支持体13と一体化していると、一緒に圧縮応力(圧縮歪)を受ける。その圧縮応力を高分解能のBOTDAやBOTDRにより計測することで、圧力を検知することができる。
【0016】
支持体13に支持された圧力検知用光ファイバ11の配線形状は、支持体13の外周に沿って、らせん状とすることが好ましい。
高温高圧下でも圧力検知用光ファイバ11の位置ずれやベンドを防ぐため、支持体13を構成する中空パイプの外周面にらせん状の溝14を有し、らせん状の溝14に沿って圧力検知用光ファイバ11を配置することが好ましい。この場合、外被16が支持体13および圧力検知用光ファイバ11を被覆するように設けられる。
本形態例においては、図1(b)に示すように、溝14の深さは、光ファイバ11の外径(光ファイバ心線の場合は被覆を含む外径)より小さく、図1(a)に示すように、光ファイバ11の断面のうち溝14からはみ出た部分は、外被16に埋設されている。
【0017】
圧力検知用光ファイバ11の本数は特に限定されるものではなく、1本のケーブル10に複数本の圧力検知用光ファイバ11を設けても構わない。
本形態例においては、図1(c)に示すように、2本の圧力検知用光ファイバ11を、略円筒状である支持体13の外周面に沿って約180°離れた位置に対向して配置されている(対抗巻)。この場合、径方向、軸方向、捻りの応力など、2つ以上の因子が同時に働いたときでも、2本の圧力検知用光ファイバ11から2つの情報を得て、各因子の影響を分離することができる。
【0018】
圧力検知用光ファイバ11で検知した歪の変化は、温度変化による歪の変化も含む。その影響を排除するため、支持体13の変形に影響されないように、温度補償用光ファイバ12を設けることが好ましい。本形態例のケーブル10では、支持体13を構成する中空パイプの中空部15に温度補償用光ファイバ12が配置されている。中空部15内に収容された温度補償用光ファイバ12は、支持体13に対して固定されることなく、ルースに配置される。
【0019】
温度補償用光ファイバ12の位置ずれを防ぐため、図示しない抗張力繊維を一緒に中空部15内に収容し、抗張力繊維に縦添えしたり、抗張力繊維と撚り合わせたりして、振動や自重などにより光ファイバ12が移動しない構造とすることが好ましい。
温度補償用光ファイバ12の本数は特に限定されるものではなく、1本のケーブル10に複数本の温度補償用光ファイバ12を設けても構わない。
【0020】
温度補償用光ファイバ12は、圧力の影響を受けないため、温度補償用光ファイバ12から得られる情報と圧力検知用光ファイバ11から得られる情報を組み合わせることにより、温度による影響を分離することができる。
なお、ここで、温度による影響とは、光ファイバの温度変化による歪変化のみならず、支持体の温度変化により支持体が変形した結果として光ファイバに生じる歪変化が含まれる。
【0021】
圧力検知用光ファイバ11による計測と、温度補償用光ファイバ12による計測は、いずれもブリルアン散乱光の周波数シフト量に基づき、歪変化として検知することが好ましい。これにより、歪変化量の差分を取るという簡便な手法で、圧力による正確な歪量を得ることができる。
【0022】
本形態例において、圧力検知用光ファイバ11および温度補償用光ファイバ12は、その材質、コア径、クラッド径、被覆の構造などに関して、特に限定されず、適宜選択して使用することができる。特に、強度や安定性に優れ、かつ良好な伝送特性が得られることから、石英ガラス系光ファイバに1層以上の被覆を施した光ファイバ素線や光ファイバ心線などを用いることが好ましい。
【0023】
なお、本発明の圧力センサ用光ファイバケーブルは、水圧を測定するため水中に設置する場合に限らず、気体や液体の圧力の分布を測定する必要がある場所に適用可能である。ケーブル全体でも可撓性を有するため、ケーブルを湾曲して設置することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
外径17mm、肉厚0.7mmのアルミニウム製のパイプ状支持体を用意し、らせんピッチ50mmで圧力検知用光ファイバを配置し、その上に肉厚1mmのPFA樹脂を被覆して外被を形成した構成とする。圧力検知用光ファイバは、石英ガラス系光ファイバの周囲に、シリコーン樹脂からなるバッファ層と、PFAからなる表面層を設け、被覆径φ0.7mmとした光ファイバ心線としている。
【0025】
歪の感度を決定するのは、支持体の外径および弾性率と、圧力検知用光ファイバの巻きピッチである。支持体の側圧試験を実施して弾性率を予測できることから、従来の知見にある経験式に当てはめることで、圧力に対する歪変化量をシミュレートした。
【0026】
図2は、環境温度200℃、支持体外径φ17mm、肉厚0.7mm、巻きピッチ50mmでのシミュレート結果を示す。図2より、環境温度200℃、圧力10MPaにおいて、7000μεの歪変化量が予測され、圧力センサとして使用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、水圧や油圧などの分布の計測に利用することができる。油井など、地下の高温高圧下となるエリアでの圧力分布測定などにより、地下資源開発への貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の圧力センサ用光ファイバケーブルの一例を示す図であり、(a)は、光ファイバケーブルの断面図、(b)はらせん状の溝付近の部分拡大断面図、(c)は光ファイバの配置を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例における圧力に対する歪変化量のシミュレート結果を示すグラフである。
【図3】支持体がポリエチレンからなる場合の一定圧力下での温度依存性を示すグラフである。
【図4】支持体が高融点の熱可塑性樹脂からなる場合の問題点を説明するため、(a)外被を被覆する前、(b)外被を被覆した後の状態を示す部分側面図である。
【符号の説明】
【0029】
10…圧力センサ用光ファイバケーブル、11…圧力検知用光ファイバ、12…温度補償用光ファイバ、13…中空パイプ(支持体)、14…らせん状の溝、15…中空パイプの中空部、16…外被。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出圧力により変形可能な支持体と、前記支持体に支持された圧力検知用光ファイバと、前記支持体を被覆する外被を備え、前記支持体がアルミニウム製の中空パイプからなり、前記外被がフッ素系樹脂からなることを特徴とする圧力センサ用光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記支持体は外周面にらせん状の溝を有し、前記圧力検知用光ファイバは、前記らせん状の溝に配置され、かつ前記外被に被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ用光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記支持体を構成する中空パイプの中空部に温度補償用光ファイバが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力センサ用光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−264748(P2009−264748A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110620(P2008−110620)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】