説明

圧力センサ

【課題】冷熱サイクル耐用性に優れ、実用的であるサニタリ用オイルレス圧力センサを提供する。
【解決手段】一面が測定流体に接する金属製測定ダイアフラム1と、前記測定ダイアフラムの他面に順次積層蒸着された絶縁薄膜2、薄膜歪ゲージ3および電極パッド薄膜4と、前記電極パッド薄膜に接続され、前記薄膜歪ゲージの電気信号を取り出す中継リード線5とを備えた圧力センサにおいて、前記電極薄膜の膜厚を2.0〜6.0μmに選定し、前記中継リード線を前記電極パッド薄膜に直接溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力センサに関し、特にサニタリ用オイルレス圧力センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に示すサニタリ用オイルレス圧力センサは、一面が測定流体に接する金属製測定ダイアフラム1を有する。さらに、測定ダイアフラム1の他面に絶縁薄膜2、薄膜歪ゲージ3および電極パッド薄膜4が順次積層蒸着され、中継リード線5が電極パッド薄膜4に接続され、中継リード線5によって薄膜歪ゲージ3の電気信号が取り出される(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−148002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この場合、中継リード線5を電極パッド薄膜4に直接溶接すると、溶接熱によって絶縁薄膜2が破壊され、絶縁不良が生じる。溶接条件を変更し、溶接熱を低減させ、絶縁薄膜2が破壊されないようにすることはできるが、溶接熱を低減させると、電極パッド薄膜4と中継リード線5の引っ張り剥離強度が低下し、実用に耐える品質を得ることができない。
【0004】
したがって、中継リード線5を電極パッド薄膜4に直接溶接することができず、はんだ付け部6によって中継リード線5と電極パッド薄膜4がはんだ付けされることが多い。中継リード線5には銅単線、錫またははんだメッキした被覆単線が使用され、はんだには融点が180〜230℃の錫−鉛系はんだまたは錫−銀を主体とした融点170〜210℃の鉛レスはんだが使用される。
【0005】
ところで、この圧力センサは食品産業に使用されることが多い。しかしながら、測定される洗浄液、殺菌用高温スチーム、冷却炭酸ガスなどの液体または気体が頻繁に導入され、その圧力が測定ダイアフラム1に作用し、高温スチームや冷却ガスによる冷熱サイクルによってはんだ付け部6の機械的脆化およびはんだクラックが生じ、通常、半年から一年で電極パッド薄膜4と中継リード線5が剥離し、断線状態となるという問題があった。
【0006】
図7に示すように、金層が積層蒸着された電極パッド薄膜4に金細線7がボンディングされることもある。金細線7の直径は0.02〜0.05μmである。さらに、中継端子台8に積層蒸着された電極パッド薄膜9に金層が積層蒸着され、その電極パッド薄膜9に金細線7がボンディングされ、はんだ付け部6によって中継リード線5と電極パッド薄膜9がはんだ付けされ、電極パッド薄膜9によって金細線7と中継リード線5が接続される。
【0007】
しかしながら、図7の構成は、金細線7、中継端子台8および電極パッド薄膜9が必要となり、構造が複雑であり、小型化が困難であるだけではなく、工数が増加し、高価な材料を使用せねばならず、コストが高く、実用的ではないという問題があった。
【0008】
上記課題を鑑みて、本発明は、冷熱サイクル耐用性に優れ、実用的であるサニタリ用オイルレス圧力センサを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、圧力センサの小型化および経済性の両面から改良に取り組み、中継リード線5を電極パッド薄膜4に直接溶接することについて研究し、一定の条件下であれば、直接溶接しても、問題はないことを見出した。
すなわち、本発明は、一面が測定流体に接する金属製測定ダイアフラムと、前記測定ダイアフラムの他面に順次積層蒸着された絶縁薄膜、薄膜歪ゲージおよび電極パッド薄膜と、前記電極パッド薄膜に接続され、前記薄膜歪ゲージの電気信号を取り出す中継リード線とを備えた圧力センサにおいて、前記電極パッド薄膜の膜厚を2.0〜6.0μmに選定し、前記中継リード線を前記電極パッド薄膜に直接溶接したことを特徴とするものである。
【0010】
また、上記電極パッド薄膜にニッケル、クロムまたは銀薄膜を使用することが好ましい。
【0011】
さらに、上記中継リード線は銀メッキした銅単線であり、その直径は0.10〜0.16mmであり、銀メッキ厚さは1.0〜2.0μmであることが好ましい。
【0012】
そして、上記中継リード線を押圧して偏平形状となし、その偏平厚さが、リード線径の60〜70%とし、偏平面をフラットとすることが好ましい。
【0013】
また、上記電極パッド薄膜と中継リード線の引っ張り剥離強度が100g以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧力センサは、中継リード線5と電極パッド薄膜4とをはんだ付けする必要がなく、中継リード線5を電極パッド薄膜4に直接溶接することができ、食品産業などの高頻度の冷熱サイクルを受けるサニタリ用途において、長寿命の圧力センサを得ることができる。
また、測定ダイアフラムと受圧支持部とを溶接するとき、溶接熱によってはんだ付け部6が再溶融するという問題もなく、作業が容易であり、品質が安定する。そして、はんだ付けにともなうフラックス残渣を洗浄する必要もなく、工程が短縮化され、環境問題に貢献することができる。
さらに、金細線7、中継端子台8および電極パッド薄膜9は使用しないため、コストは低く、実用的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施例を説明する。
図1は本発明に係る圧力センサを示す。この圧力センサはサニタリ用オイルレス圧力センサであり、一面が測定流体FLに接する金属製測定ダイアフラム1を有する。測定ダイアフラム1はオーステナイト系ステンレスまたはコバルト−ニッケル合金などの金属製であり、感圧部10に形成される。
【0016】
この圧力センサは2つの薄膜歪ゲージ3を有する。一方の歪ゲージ3は圧縮歪ゲージであり、他方の歪ゲージ3は引っ張り歪ゲージである。その歪ゲージ3はスパッタされた酸化クロム薄膜ゲージ、炭化ケイ素クロム薄膜ゲージまたはその他のスパッタ薄膜ゲージからなる。そして、図2に示すように、測定ダイアフラム1の他面に絶縁薄膜2、薄膜歪ゲージ3および電極パッド薄膜4が順次積層蒸着されている。絶縁薄膜2は酸化ケイ素薄膜からなる。電極パッド薄膜4は薄膜歪ゲージ3にスパッタ蒸着したもので、ニッケル、クロムまたは銀薄膜からなるが、その薄膜に銀薄膜を積層蒸着したものであってもよい。
【0017】
さらに、測定ダイアフラム1の他面側において、感圧部10と支持部11によって基準圧力室12が形成されており、基準圧力P0が測定ダイアフラム1に導かれる。したがって、基準圧力P0と測定流体FLの圧力の差によって測定ダイアフラム1が変形し、薄膜歪ゲージ3によって測定流体FLの圧力が検出される。さらに、中継リード線5が電極パッド薄膜4に接続され、増幅回路基板13に接続されており、中継リード線5によって薄膜歪ゲージ3の電気信号が取り出されるものであり、これは図6の圧力センサと同様である。
【0018】
さらに、この圧力センサでは、電極パッド薄膜4にニッケル、クロムまたは銀薄膜が使用されるが、その膜厚が2.0〜6.0μmに設定され、中継リード線5が電極パッド薄膜4に直接溶接されている。溶接は抵抗溶接であってもよく、超音波溶接であってもよく、スポット溶接であってもよい。
【0019】
電極パッド薄膜厚さと引っ張り強度および耐電圧の関係を試験するため、下記の試料を作製した。
測定ダイアフラムの他面側に、絶縁薄膜2を厚さ5.0μmとなるように酸化ケイ素を蒸着し、次に薄膜歪みゲージ3を線幅40μm、厚さ0.1μmとなるように酸化クロムを蒸着し、さらにニッケルを蒸着して電極パッド薄膜4とした。電極パッド薄膜厚さは1.0μm、2.0μm、6.0μm、10.0μmの4種類を作製した。
電極パッド薄膜4に溶接する中継リード線5は、銀メッキした銅線であり、0.1mmφと0.16mmφの2種類使用し、銅線の表面に厚さ1.0μmの銀メッキを施したものである。
銀メッキ厚さは、1.0μm未満になると、溶接時にメッキの銀が溶融して、リード線に残らず溶接強度が低下し、また強度のバラツキが大きくなる。
銀メッキ厚さが2.0μmを超えると、溶接電流が低抵抗の銀に流れ、電流を大きくしないと、ニッケル電極パッドに溶接できない。
よって、銀メッキ厚さは1.0〜2.0μmが好適である。
【0020】
本試料では中継リード線の金属メッキに銀を使用したが、金、銅、ニッケル、錫でもよい。電極パッドのニッケルより融点が低くはんだより融点が高いこと、電極パッドのニッケルと相性(相溶性)がよいこと、銅線にメッキが工業的に可能なこと、表面酸化腐食が起こりにくいことなどから、銀メッキが好適である。
【0021】
中継リード線を溶接前に、鏡面加工面を有するバイスで、中継リード線をスペーサではさみ、中継リード線径の65%の偏平厚さになるように圧力を加えた。
偏平厚さが60%未満になると、断線するトラブルが発生しやすく、溶接後の引張り強度が著しく低下する。
また、偏平厚さが70%を超えると、溶接面積が小さくなり溶接強度が低下する。よって扁平厚さは60〜70%が好適である。
偏平面は、鏡面加工面を持つバイスで、フラットになるように加工した。
【0022】
リード線の溶接条件は、0.16mmφの中継リード線を用いたものは、加圧力:2.0kg、電圧:2.0V、電流:120A、時間:4.0msec、また、0.10mmφ中継リード線を用いたものは、加圧力:2.0kg、電圧:0.6V、電流:100A、時間:3.5msecとした。
中継リード線径と電極パッド厚さの組合せ毎に各300個の試料を作製し、以下の各試験でそれぞれ100個使用した。測定データは平均値と測定範囲を示した。
【0023】
図3はニッケル電極厚さ(ニッケル薄膜からなる電極パッド薄膜の厚さ)と中継リード線の引っ張り破壊強度の試験結果を示す。
ニッケル電極厚さ1.0μmの場合、中継リード線の引張破壊強度は著しく低下し、バラツキも大きくなる傾向が認められた。引っ張り破壊箇所はニッケル電極と歪ゲージ薄膜の界面での剥離が主で、溶接時の熱影響で、ニッケル層が破壊され、下地歪ゲージとの接着強度を低下させたものと思われる。2.0μm以上では比較的溶接強度が高く、バラツキも少ない。これは2.0μm以上になれば、ニッケル層が破壊されず、良好な接着強度を保持していることを示している。
【0024】
図4は、作製した試料に金属ダイアフラムと溶接電極間での直流耐電圧試験を実施したものである。本テストは初期耐圧試験として実施されているものであり、400VDC1分間の電圧を印加する。ニッケル電極厚1.0μmの試料は著しく耐電圧が低下していることがわかる。他の水準の試料は全て、400VDC以上を保持している。通常金属ダイアフラム上の絶縁体薄膜の破壊電圧は500VDC以上あるので、耐電圧の低下は溶接時の熱で絶縁体薄膜が何らかのダメージを受け、クラック等が発生し、耐電圧が低下したものと考えられる。
【0025】
図5は、作製した試料の熱サイクル試験(150℃20秒―5℃20秒のサイクル)を1万回実施した後、中継リード線の引っ張り破壊試験を上記と同様に実施したものである。ニッケル厚10.0μmの試料のみリード線引っ張り破壊強度のバラツキが大きくなり、平均強度も著しく低下している。本試料を分析した結果、破壊点はニッケル電極パッドと歪ゲージの界面の剥離が認められた。
これはニッケル電極が厚くなることにより、下地絶縁薄膜や歪ゲージとの熱膨張係数の違いにより冷熱サイクル時、剥離ストレスが上記界面で発生し、1万回の冷熱サイクルにより、電極剥れが一部発生したものと思われる。したがってニッケル電極厚みは総合的に判断すれば、2.0〜6.0μmが安定溶接および製品の熱ショック対策またコスト面においても、有効な範囲であることがわかった。
【実施例】
【0026】
以下、実施例1、2、比較例、従来例に基づいて、さらに本発明を具体的に説明する。まず、表1に示す構成で圧力センサを各3台作製した。そして、冷熱ヒートショック繰返し寿命試験を実施し、その測定結果を表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
冷熱ショック繰返し寿命試験は上記と同様の条件(150℃20秒−5℃20秒のサイクル)で実施し、1.0MPaで加圧した。 判定基準は、装置の出力値の異常変動でもって寿命とし、サイクル数を測定した。
【0029】
【表2】


上記結果、実施例1、2は従来例に比べ12倍以上の長期寿命が得られた。また、比較例はバラツキが大きいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例を示す断面図である。
【図2】図1の圧力センサの要部を示す拡大図である。
【図3】図2の圧力センサの溶接後のニッケル電極厚さと引っ張り剥離強度の関係を示すグラフである。
【図4】図2の圧力センサの溶接後のニッケル電極厚さと破壊電圧の関係を示すグラフである。
【図5】図2の圧力センサの冷熱サイクル試験後のニッケル電極厚さと引っ張り剥離強度の関係を示すグラフである。
【図6】従来の圧力センサの要部を示す拡大図である。
【図7】従来の圧力センサの要部を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
1 測定ダイアフラム
2 絶縁薄膜
3 薄膜歪ゲージ
4 電極パッド薄膜
5 中継リード線
6 はんだ付け部
7 金細線
8 中継端子台
9 電極パッド薄膜
10 感圧部
11 支持部
12 基準圧力室
13 増幅回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面が測定流体に接する金属製測定ダイアフラムと、前記測定ダイアフラムの他面に順次積層蒸着された絶縁薄膜、薄膜歪ゲージおよび電極パッド薄膜と、前記電極パッド薄膜に接続され、前記薄膜歪ゲージの電気信号を取り出す中継リード線とを備えた圧力センサにおいて、前記電極パッド薄膜の膜厚を2.0〜6.0μmに選定し、前記中継リード線を前記電極パッド薄膜に直接溶接したことを特徴とする圧力センサ。
【請求項2】
前記電極パッド薄膜にニッケル、クロムまたは銀薄膜を使用したことを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。
【請求項3】
前記中継リード線は銀メッキした銅単線であり、その直径は0.10〜0.16mmであり、銀メッキ厚さは1.0〜2.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。
【請求項4】
前記中継リード線を押圧して偏平形状となし、その偏平厚さが、リード線径の60〜70%とし、偏平面をフラットとしたことを特徴とする請求項1および3に記載の圧力センサ。
【請求項5】
前記電極パッド薄膜と中継リード線の引っ張り剥離強度が100g以上であることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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