説明

圧力温度複合センサ

【課題】圧力媒体の圧力および温度を検出する圧力温度複合センサにおいて、温度測定の精度を向上させる。
【解決手段】ハウジング10に縦孔15が設けられ、この縦孔15内に銅材20が配置される。ここで、銅材20の一端側には黒体膜30が設けられ、他端側が縦孔15の開口部13に向けられる。そして、銅材20の他端側が圧力媒体の熱を受けると、当該熱が銅材20を介して黒体膜30に伝達される。これにより、黒体膜30から圧力媒体の熱の温度に応じた赤外線が発せられ、当該赤外線が非接触型の赤外線温度センサ80にて検出される。これにより圧力媒体の温度測定が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力媒体の圧力および温度を検出する圧力温度複合センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、温度および圧力を検出できる複合型センサが、例えば特許文献1で提案されている。具体的に、特許文献1では、ハウジングに一端側から他端側に貫通する圧力導入孔が設けられ、ハウジングの他端側から一端側に孔部が設けられており、圧力導入孔においてハウジングの他端側がダイヤフラムに覆われ、孔部の底に温度検出のための温度センサが配置されたものが示されている。
【0003】
また、孔部の内部には充填剤が充填されており、当該充填剤にて温度センサが固定されている。そして、温度センサにて、当該温度センサ周りに充填された充填剤の温度変化が計測され、ハウジングおよび充填剤を経由して温度センサに伝達された圧力媒体の温度が測定されるようになっている。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1096241号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、温度センサは充填剤にて固定されているため、圧力媒体に直接接触することがない。したがって、ハウジングの熱伝導率や、ハウジングが外部環境から受ける温度の影響によって、温度センサの測定精度が変化してしまう。また、温度センサは物質と接触することで温度計測を可能としているが、温度センサ周辺に充填剤が注入されているため、温度センサは充填剤の熱伝導率にも大きな影響を受けてしまう。これにより、温度センサの温度測定の精度が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記点に鑑み、圧力媒体の圧力および温度を検出する圧力温度複合センサにおいて、温度測定の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の特徴では、圧力導入孔(14)と縦孔(15)とを有するハウジング(10)と、圧力導入孔(14)の一端側の開口部(12)から他端側に導入される圧力媒体の圧力を検出する圧力検出部(40、50)と、縦孔(15)内に配置され、縦孔(15)の内部を一端側と他端側とに分割するものであり、一面(31)および他面(32)を有し、一面(31)にて縦孔(15)の一端側の開口部(13)から導入される圧力媒体の熱エネルギーを受け、当該熱エネルギーに相当する赤外線を他面(32)から縦孔(15)の他端側に発する黒体膜(30)と、黒体膜(30)よりも縦孔(15)の他端側に配置され、黒体膜(30)の他面(32)から発せられて縦孔(15)内を通過する赤外線を受光して温度測定を行う赤外線温度センサ(80)とを備えていることを特徴とする。
【0007】
これにより、黒体膜(30)が圧力媒体に直接接触することで生じる黒体膜(30)の温度変化を、非接触型の赤外線温度センサ(80)で計測することができる。すなわち、圧力媒体の熱を伝達する黒体膜(30)と温度測定を行う赤外線温度センサ(80)とを分離して、圧力媒体の熱を赤外線として黒体膜(30)から赤外線温度センサ(80)に伝達しているため、赤外線温度センサ(80)が他の部品と接触することによる温度低下を回避することができる。このようにして、圧力媒体の温度が黒体膜(30)から赤外線温度センサ(80)に直接伝達されることにより、圧力媒体の高精度な温度計測を行うことができる。
【0008】
この場合、棒状であって、縦孔(15)内のうち黒体膜(30)よりも縦孔(15)内の一端側に配置されると共に、黒体膜(30)の一面(31)に接合される金属材(20)を備えた構成とすることができる。
【0009】
これにより、金属材(20)が受けた圧力媒体の熱を黒体膜(30)に直接伝達させることができ、金属材(20)から受けた熱によって黒体膜(30)にて赤外線を発しやすくすることができる。
【0010】
金属材(20)としては、熱伝導率が高い銅の材質のものや銀の材質のもの等を採用することができる。銅の熱伝導率は390W・m−1・K−1であり、銀の熱伝導率は420W・m−1・K−1である。これらのように他の材質のものと比較して熱伝導率が高い銅や銀等を金属材(20)として用いることができる。
【0011】
他方、黒体膜(30)の一面(31)に金属薄膜(120)が設けられ、黒体膜(30)と一体化された金属薄膜(120)が縦孔(15)の開口部(13)に配置された構成とすることができる。
【0012】
これにより、金属材(20)を用いる場合よりも、金属薄膜(120)内を伝達する熱の経路を短くすることができ、金属薄膜(120)内を伝達する熱が外部から影響を受けにくくすることができる。
【0013】
また、ハウジング(10)は鉄で構成されていることが好ましい。これにより、金属材(20)を伝達する熱がハウジング(10)に逃げにくくすることができる。
【0014】
そして、棒状であって、縦孔(15)内のうち黒体膜(30)よりも縦孔(15)の他端側に配置されると共に、黒体膜(30)の他面(32)に接合される透過ガラス材(130)を備えた構成とすることもできる。
【0015】
この場合、透過ガラス材(130)として、赤外線を選択的に通過させる赤外線透過ガラスを用いることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の特徴では、圧力導入孔(14)と縦孔(15)とを有するハウジング(10)と、圧力導入孔(14)の一端側の開口部(12)から他端側に導入される圧力媒体の圧力を検出する圧力検出部(40、50)と、棒状であって、縦孔(15)内に配置され、一端部(131)が縦孔(15)の一端側の開口部(13)に配置される透過ガラス材(130)と、一部(18a)が縦孔(15)の開口部(13)に対向するようにハウジング(10)に一体化された突起部(18)と、突起部(18)の一部(18a)のうち少なくとも縦孔(15)の開口部(13)に対向する壁面に配置され、圧力媒体の熱エネルギーを受けて当該熱エネルギーに相当する赤外線を発する黒体膜(30)と、透過ガラス材(130)よりも縦孔(15)の他端側に配置され、黒体膜(30)から発せられて透過ガラス材(130)を通過する赤外線を受光して温度測定を行う赤外線温度センサ(80)とを備えていることを特徴とする。
【0017】
このような構成によっても、黒体膜(30)から発せられた赤外線を、透過ガラス材(130)を介して赤外線温度センサ(80)にて検出することができる。
【0018】
また、本発明の第3の特徴では、圧力導入孔(14)と縦孔(15)とを有するハウジング(10)と、圧力導入孔(14)の一端側の開口部(12)から他端側に導入される圧力媒体の圧力を検出する圧力検出部(40、50)と、棒状であって、縦孔(15)内に配置され、一端部(131)が縦孔(15)の一端側の開口部(13)に配置される透過ガラス材(130)と、圧力媒体が存在する配管(140)内のうち、ハウジング(10)が配管(140)に取り付けられた際に縦孔(15)の開口部(13)に対向する壁面に配置され、圧力媒体の熱エネルギーを受けて当該熱エネルギーに相当する赤外線を発する黒体膜(30)と、透過ガラス材(130)よりも縦孔(15)の他端側に配置され、配管(140)内の黒体膜(30)から発せられて透過ガラス材(130)を通過する赤外線を受光して温度測定を行う赤外線温度センサ(80)とを備えていることを特徴とする。
【0019】
このように、黒体膜(30)が縦孔(15)に設けられておらず、圧力温度複合センサが取り付けられる配管(140)内に配置された構成となっていても、黒体膜(30)から発せられた赤外線を赤外線温度センサ(80)にて検出することができる。
【0020】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。本実施形態で示される圧力温度複合センサは、例えば自動車における燃料パイプに取り付けられ、この燃料パイプ内の圧力媒体としての液体または気液混合気の圧力および温度を検出するものに適用される。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態に係る圧力温度複合センサの断面図である。また、図2は、図1に示される圧力温度複合センサのうち圧力導入孔14および縦孔15近傍の拡大断面図である。以下、図1および図2を参照して説明する。
【0024】
図1および図2に示されるように、圧力温度複合センサは、ハウジング10と、銅材20と、黒体膜30と、ステム40と、センサチップ50と、回路基板60と、圧力計測用ターミナル70と、赤外線温度センサ80と、温度計測用ターミナル90と、コネクタ100とを備えて構成されている。
【0025】
ハウジング10は、切削や冷間鍛造等により加工された中空形状の金属製のケースであり、その一端側の外周面には、燃料配管等の被測定体にネジ結合可能なネジ部11が形成されている。ハウジング10の一端側には、ハウジング10の一端に形成された2つの開口部12、13からハウジング10の他端側に向かって2つの孔、すなわち圧力導入孔14および縦孔15が形成されている。圧力導入孔14は圧力導入通路として用いられる孔であり、縦孔15は圧力媒体の温度の計測に用いられる孔である。
【0026】
銅材20は、棒状をなしており、縦孔15の開口部13から縦孔15内に挿入され、縦孔15の壁面に設けられた段差15aにて支持されている。そして、ハウジング10と銅材20とが溶接された溶接部21により、銅材20が縦孔15内に固定されている。この銅材20は、縦孔15の開口部13側である一端側にて圧力媒体の熱を受け、当該熱を他端側に伝達させる役割を果たす。なお、銅材20は、本発明の金属材に相当する。
【0027】
黒体膜30は、一面31および他面32を有する赤外線を発するものであり、縦孔15の内部を当該縦孔15の一端側と他端側とに分割するように縦孔15内に配置されている。
【0028】
本実施形態では、黒体膜30は銅材20よりも縦孔15の他端側に配置されると共に、黒体膜30の一面31に銅材20が接合されている。これにより、黒体膜30は一面31にて銅材20から伝達される圧力媒体の熱エネルギーを受け、当該熱エネルギーに相当する赤外線を他面32から縦孔15の他端側に発する。
【0029】
このような黒体膜30として、例えば酸化膜が採用される。本実施形態では、銅材20の一方の端面が高温加熱されることで形成される酸化銅が採用される。また、黒体膜30の厚さは、例えば数+μm〜数百μm程度である。
【0030】
ステム40は、中空円筒形状に加工された金属製の部材であり、ハウジング10の他端側に設けられた2つの凹部16a、16bのうち、圧力導入孔14が接続される一方の凹部16aに配置されている。ステム40は、外周部に設けられたネジ部41により、ハウジング10の凹部16aにねじ止めされている。
【0031】
また、ステム40は、その軸の一端側にハウジング10に導入された圧力によって変形可能な薄肉状のダイヤフラム42を有し、軸の他端側にダイヤフラム42に繋がる通路43を有する。そして、当該通路43とハウジング10の圧力導入孔14とが連通された状態にされ、圧力媒体の圧力が圧力導入孔14からダイヤフラム42に伝えられるようになっている。
【0032】
センサチップ50は、単結晶Si(シリコン)からなる圧力検出用のチップであり、ステム40のダイヤフラム42上に配置されている。センサチップ50はブリッジ回路を有しており、圧力導入孔14および通路43を介してステム40内部に導入された圧力によってダイヤフラム42が変形したとき、この変形に応じた抵抗値変化を電気信号に変換して出力する検出部(歪みゲージ)として機能する。
【0033】
なお、上記ステム40およびセンサチップ50は、圧力導入孔14の一端側の開口部12から他端側に導入される圧力媒体の圧力を検出する圧力検出部として構成されるものである。すなわち、ステム40およびセンサチップ50は、本発明の圧力検出部に相当する。
【0034】
回路基板60は、ステム40のダイヤフラム42上のセンサチップ50から出力された電気信号を増幅・特性調整する回路を備えたものである。この回路基板60の中央部分には図示しない貫通孔が設けられ、この貫通孔にステム40のダイヤフラム42側が配置される。そして、図示しないがセンサチップ50と回路基板60に設けられた回路とがワイヤボンディングされ、センサチップ50の出力が回路基板60の回路に入力されるようになっている。
【0035】
圧力計測用ターミナル70は、回路基板60で処理されたセンサチップ50に対応した電気信号を圧力温度複合センサの外部に出力するものである。本実施形態では、圧力計測に対応した圧力計測用ターミナル70がスペーサー71にインサート成形されている。この圧力計測用ターミナル70は、ピン61により回路基板60の回路と電気的に接続されている。
【0036】
赤外線温度センサ80は、黒体放射に基づく赤外線の放射エネルギー吸収による温度変化を検出する非接触型の温度計測センサであり、黒体膜30の他面32から発せられて縦孔15内を通過する赤外線を受光して温度計測を行うものである。具体的に、赤外線温度センサ80は、強誘電体に赤外線が照射されると、当該強誘電体に赤外線の熱エネルギーが吸収されて強誘電体の自発分極が変化する焦電効果を利用したセンサである。すなわち、赤外線の熱エネルギーによって例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体の表面に帯電する電荷の増減により発生する起電力を検出することにより、温度計測が可能なものである。
【0037】
このような赤外線温度センサ80は、黒体膜30よりも縦孔15の他端側に配置され、本実施形態ではハウジング10の凹部16bに開口する縦孔15の開口部15bに取り付けられている。そして、黒体膜30から発せられた赤外線の熱エネルギー、すなわち圧力媒体の温度に相当する電気(電圧)信号を出力する。
【0038】
温度計測用ターミナル90は、赤外線温度センサ80から出力される電気信号を圧力温度複合センサの外部に出力するものである。この温度計測用ターミナル90はスペーサー91にインサート成形されており、ハウジング10の凹部16bに収納されている。
【0039】
コネクタ100は、圧力温度複合センサで検出された圧力および温度の各伝記信号を外部に出力するためのコネクタ部をなすものであり、樹脂等により形成されたものである。このコネクタ100は、Oリング110を介してハウジング10の他端側にはめ込まれた状態で、ハウジング10のかしめ部17にかしめ固定されている。これにより、コネクタ100とハウジング10とが一体化されている。
【0040】
そして、コネクタ100に図示しない外部コネクタが接続されることで、自動車のECU等へ配線部材を介して電気的に接続される。以上が、本実施形態に係る圧力センサの全体構成である。
【0041】
次に、図1および図2に示される黒体膜30の製造方法について、図3を参照して説明する。図3は、黒体膜30の製造工程を示した図である。この図に示されるように、銅材20を用意し、当該銅材20の端面を加熱酸化させることで酸化膜を形成する。この酸化膜が黒体膜30となる。このようにして、黒体膜30が成膜する。この場合、銅材20の加熱温度や加熱環境により、黒体膜30の膜厚を調整することが可能である。
【0042】
続いて、上記図1に示される圧力温度複合センサの製造方法について説明する。まず、圧力導入孔14および縦孔15が設けられたハウジング10、センサチップ50が搭載されたダイヤフラム42が設けられたステム40をそれぞれ用意し、ステム40をハウジング10にネジ固定する。
【0043】
また、棒状の銅材20を用意し、図3に示されるようにして端面に黒体膜30を成膜する。そして、銅材20に形成された黒体膜30をハウジング10の他端側に向け、銅材20をハウジング10の縦孔15の開口部13から挿入し、銅材20の側面を縦孔15の壁面に溶接する。
【0044】
また、ピン61が設けられた回路基板60、圧力計測用ターミナル70がインサート成形されたスペーサー71、温度計測用ターミナル90がインサート成形されたスペーサー91を用意する。温度計測用ターミナル90には、赤外線温度センサ80を接続しておく。
【0045】
そして、スペーサー91をハウジング10の凹部16bに配置する。この場合、赤外線温度センサ80を縦孔15の開口部15bに接着固定しても良い。そして、回路基板60をハウジング10の凹部16aに配置して回路基板60の図示しない貫通孔にステム40のダイヤフラム42側を配置する。これにより、回路基板60の回路面とセンサチップ50のパッド面とを同じ高さにできる。
【0046】
この後、センサチップ50と回路基板60の回路とをワイヤボンドし、スペーサー71をハウジング10の凹部16aに収納して回路基板60のピン61に接触させる。そして、Oリング110を介してコネクタ100をハウジング10の他端側にはめ込み、ハウジング10のかしめ部17にてコネクタ100とハウジング10とを一体化させることで図1に示される圧力センサが完成する。
【0047】
なお、ハウジング10にコネクタ100を取り付けた後に銅材20を縦孔15に溶接しても良い。また、ステム40をハウジング10に取り付ける前に銅材20を縦孔15に溶接しても良い。
【0048】
次に、上記圧力温度複合センサにおける圧力検出について説明する。圧力温度複合センサは、ハウジング10のネジ部11を介して、配管等に取り付けられる。そして、配管内の圧力媒体がハウジング10の開口部12より圧力導入孔14を介して圧力温度複合センサ内に導入される。
【0049】
すると、導入された圧力媒体の圧力がステム40のダイヤフラム42に印加される。これにより、ダイヤフラム42上に配置されたセンサチップ50の歪みゲージが歪む。そして、圧力に応じた電気信号がセンサチップ50から出力され、当該電気信号が回路基板60の回路にて信号処理される。
【0050】
こうして回路基板60の回路にて処理された電気信号は、圧力計測用ターミナル70を介して外部に出力される。このようにして、圧力検出が行われる。
【0051】
次に、上記圧力温度複合センサにおける温度検出について説明する。上記のように、圧力温度複合センサが配管等に取り付けられ、銅材20が圧力媒体にさらされると、図2に示されるように、圧力媒体の温度は、銅材20を介してハウジング10の他端側に伝達される。
【0052】
そして、銅材20から伝達された熱により、銅材20に形成された黒体膜30の一面31にて当該熱を受け、黒体膜30の他面32から赤外線が発せられる。この赤外線は、図2に示されるように、黒体膜30と赤外線温度センサ80との間を通過して赤外線温度センサ80にて受光される。
【0053】
これにより、赤外線温度センサ80では、赤外線の熱エネルギーに相当する起電力が発生し、この起電力が電気信号として温度計測用ターミナル90から外部に出力される。このようにして、温度計測が行われる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、ハウジング10に縦孔15を設け、この縦孔15内に黒体膜30を成膜した銅材20を配置し、銅材20が伝達した圧力媒体の温度に応じた赤外線を黒体膜30から発するようにして、当該赤外線を非接触型の赤外線温度センサ80で検出することで圧力媒体の温度測定を行うことが特徴となっている。
【0055】
このように、非接触型の赤外線温度センサ80を用いているため、赤外線温度センサ80を他の部品に接触させる必要がない。すなわち、ハウジング10等を介する従来の熱の経路とは異なり、熱伝導率が高い銅材20および黒体膜30を介するだけの経路であるので、赤外線温度センサ80に至るまでの圧力媒体の温度の経路が低減されている。したがって、圧力媒体の熱の温度低下を回避することができ、温度測定の精度を向上させることができる。
【0056】
また、非接触型の赤外線温度センサ80を用いていることから、黒体膜30から発せられるあらゆる熱エネルギーの赤外線を受光することができる。したがって、温度計測範囲を広くすることができ、どの温度に対しても温度測定が可能となる。これにより、圧力温度複合センサを様々な用途に用いることができ、汎用性を向上させることができる。
【0057】
そして、様々な材質のものに対して熱伝導率が高い銅材20を用いることで、銅材20が受けた圧力媒体の熱を黒体膜30に伝達させやすくすることができる。
【0058】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。図4は、本実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図であり、図2の拡大断面図に対応する図である。
【0059】
図4に示されるように、圧力温度複合センサは、銅材20ではなく、金属薄膜120を備えている。金属薄膜120は黒体膜30の一面31に設けられ、黒体膜30と一体化されている。すなわち、金属薄膜120が縦孔15の開口部13側に位置し、黒体膜30の他面32が赤外線温度センサ80に対向している。そして、金属薄膜120は、縦孔15の開口部13に溶接されている。このような金属薄膜120として、例えば銅薄膜が採用される。また、金属薄膜120の厚さは例えば2〜3mm程度である。
【0060】
このような構成によると、黒体膜30の他面32から発せられた赤外線は、縦孔15内において黒体膜30と赤外線温度センサ80との間の空間を通過して赤外線温度センサ80に入射することとなる。
【0061】
以上のように、黒体膜30を金属薄膜120と一体化することで、第1実施形態で示された銅材20よりも熱伝達経路を短くすることができ、金属薄膜120内を伝達する熱が外部からの影響を受けにくくすることができる。
【0062】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。本実施形態では、ハウジング10は鉄で構成されていることが特徴となっている。
【0063】
図5は、本実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。鉄のハウジング10は、銅材20や金属薄膜120よりも熱伝導率が低い。図5に示される矢印は、熱伝達の大きさを示しており、銅材20や金属薄膜120と比較して明らかに鉄のハウジング10の熱伝達が小さい。このため、銅材20や金属薄膜120を伝達する熱がハウジング10に逃げにくくすることができる。
【0064】
(第4実施形態)
本実施形態では、上記各実施形態と異なる部分についてのみ説明する。図6は、本実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。この図に示されるように、圧力温度複合センサは、棒状の透過ガラス材130を備えている。
【0065】
透過ガラス材130は、縦孔15内に配置され、縦孔15内のうち黒体膜30よりも縦孔15の他端側に配置されると共に、一端部131が黒体膜30の他面32に接合されている。これにより、黒体膜30は、縦孔15の開口部13に配置され、一面31にて圧力媒体の熱を受けるようになっている。透過ガラス材130として、赤外線を選択的に(積極的に)通過させる赤外線透過ガラスが採用される。
【0066】
また、黒体膜30は用意された透過ガラス材130の端面に塗布される(後述する図9参照)。そして、透過ガラス材130のうち黒体膜30が設けられた端部の反対側の端部が縦孔15の開口部13から挿入され、接着剤にて縦孔15内に固定される。なお、透過ガラス材130は、縦孔15内の段差15aによって支持される。
【0067】
このような構成では、黒体膜30の一面31が圧力媒体の熱を受けると、当該熱に相当する熱エネルギーに相当する赤外線が黒体膜30の他面32から発せられる。黒体膜30から発せられた赤外線は、透過ガラス材130内を通過した後、赤外線温度センサ80にて受光される。
【0068】
以上のように、縦孔15に透過ガラス材130を配置して、黒体膜30から発せられた赤外線を赤外線温度センサ80に導く構成とすることができる。
【0069】
(第5実施形態)
本実施形態では、上記各実施形態と異なる部分についてのみ説明する。図7は、本実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図であり、圧力温度複合センサを配管140に取り付けた様子を示したものである。
【0070】
図7に示されるように、ハウジング10の一端側にL字状の突起部18が設けられており、ハウジング10一体化されている。この突起部18の先端18aは、縦孔15の開口部13に対向する形態とされている。
【0071】
なお、突起部18の先端18aは、本発明の突起部の一部に相当する。また、突起部18はハウジング10と別体として用意されたものがハウジング10に溶接により一体化される。さらに、本実施形態では、突起部18はハウジング10の一端側のうち圧力導入孔14の開口部12付近に接合されているが、他の場所に接合されても良い。
【0072】
また、黒体膜30は突起部18の先端18aのうち少なくとも縦孔15の開口部13に対向する壁面に配置されている。これにより、黒体膜30は縦孔15の開口部13、すなわち透過ガラス材130の一端部131に対向した位置に配置される。
【0073】
そして、本実施形態では、縦孔15内に第4実施形態で示された透過ガラス材130が配置されている。
【0074】
このような構成の圧力温度複合センサが配管140に取り付けられ、黒体膜30が配管140内の圧力媒体の熱を受けると、当該熱に相当する熱エネルギーに相当する赤外線が黒体膜30から発せられる。この赤外線は、縦孔15内の透過ガラス材130を通過した後、赤外線温度センサ80にて受光される。
【0075】
以上のように、突起部18の先端18aに黒体膜30を設け、この黒体膜30から発せられた赤外線を赤外線温度センサ80にて受光することにより、温度測定を行うことができる。
【0076】
(第6実施形態)
本実施形態では、上記各実施形態と異なる部分についてのみ説明する。図8は、本実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図であり、圧力温度複合センサを配管140に取り付けた様子を示したものである。
【0077】
図8に示されるように、第5実施形態と同様に縦孔15内に透過ガラス材130が配置されている。また、圧力温度複合センサが配管140に取り付けられたとき、黒体膜30は、圧力媒体が存在する配管140内のうち、縦孔15の開口部13、すなわち透過ガラス材130の一端部131に対向する壁面に直接配置されている。なお、黒体膜30は、例えば塗布の方法により配管140の壁面に設けられる。
【0078】
このような構成において、黒体膜30が配管140内の圧力媒体の熱を受けると、黒体膜30から当該熱の熱エネルギーに相当する赤外線が発せられる。赤外線は、黒体膜30に対向する透過ガラス材130の一端部131から透過ガラス材130内に導かれ、透過ガラス材130を通過した後、赤外線温度センサ80にて受光される。
【0079】
以上のように、圧力温度複合センサに黒体膜30を設けるのではなく、黒体膜30を配管140に直接設置して温度計測を行う構成とすることができる。
【0080】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示された圧力温度複合センサの各構成は一例を示すものであって、これらに限定されるものではない。
【0081】
上記実施形態では、ハウジング10の縦孔15内に銅材20や透過ガラス材130が設置された形態が示されているが、縦孔15内に黒体膜30が配置され、黒体膜30よりもハウジング10の他端側に赤外線温度センサ80が配置された構成になっていれば良い。すなわち、温度計測を行う場合、ハウジングに縦孔15を設け、縦孔15内に少なくとも黒体膜30と赤外線温度センサとを配置した構成とすれば良い。
【0082】
上記実施形態では、金属材として銅材20を採用しているが、銅材20の他に銀や金の材質のものを採用することができる。
【0083】
上記実施形態では、透過ガラス材130として赤外線透過ガラスが採用されているが、この赤外線透過ガラスに限らず、他のガラス材であっても良い。すなわち、光を透過させることができるガラス材であれば良い。
【0084】
第5実施形態では、L字状の突起部18が示されているが、突起部18は例えばコの字状になっており、当該コの字状の突起部18の各端部がハウジング10に一体化されたものであっても良い。この場合、突起部18のうち開口部13に対向する一部に黒体膜30が設けられていれば良い。
【0085】
黒体膜30の成膜方法として、図3に示される方法の他に、塗布による方法を採用することもできる。図9は、塗布によって黒体膜30を形成する工程を示した図である。まず、図9(a)に示す工程では、銅材20や透過ガラス材130を用意し、銅材20や透過ガラス材130の端面に黒体膜30となるカーボンペースト150を塗布する。この後、図9(b)に示す工程では、銅材20や透過ガラス材130を図示しないスピンコーターに設置し、カーボンペースト150をカーボンペースト150をスピンコートする。こうして、黒体膜30が完成する。
【0086】
このようにカーボンペースト150を用いる方法では、カーボンペースト150は酸化銅よりも熱伝導性が高く、より黒いため、赤外線を発しやすいという特徴がある。また、カーボンペースト150を塗布するだけで良いという点で、酸化銅を形成する場合よりも製造が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧力温度複合センサの断面図である。
【図2】図1に示される圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。
【図3】黒体膜の製造工程を示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。
【図8】本発明の第6実施形態に係る圧力温度複合センサのうち圧力導入孔および縦孔近傍の拡大断面図である。
【図9】他の実施形態において、塗布によって黒体膜を形成する工程を示した図である。
【符号の説明】
【0088】
10…ハウジング、12…開口部、13…縦孔の開口部、14…圧力導入孔、15…縦孔、18…突起部、18a…突起部の先端、20…銅材、30…黒体膜、31…黒体膜の一面、32…黒体膜の他面、40…ステム、50…センサチップ、80…赤外線温度センサ、120…金属薄膜、130…透過ガラス材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力導入孔(14)と縦孔(15)とを有するハウジング(10)と、
前記圧力導入孔(14)の一端側の開口部(12)から他端側に導入される圧力媒体の圧力を検出する圧力検出部(40、50)と、
前記縦孔(15)内に配置され、前記縦孔(15)の内部を一端側と他端側とに分割するものであり、一面(31)および他面(32)を有し、前記一面(31)にて前記縦孔(15)の一端側の開口部(13)から導入される前記圧力媒体の熱エネルギーを受け、当該熱エネルギーに相当する赤外線を前記他面(32)から前記縦孔(15)の他端側に発する黒体膜(30)と、
前記黒体膜(30)よりも前記縦孔(15)の他端側に配置され、前記黒体膜(30)の他面(32)から発せられて前記縦孔(15)内を通過する赤外線を受光して温度測定を行う赤外線温度センサ(80)とを備えていることを特徴とする圧力温度複合センサ。
【請求項2】
棒状であって、前記縦孔(15)内のうち前記黒体膜(30)よりも前記縦孔(15)内の一端側に配置されると共に、前記黒体膜(30)の一面(31)に接合される金属材(20)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の圧力温度複合センサ。
【請求項3】
前記黒体膜(30)の一面(31)に金属薄膜(120)が設けられ、前記黒体膜(30)と一体化された前記金属薄膜(120)が前記縦孔(15)の開口部(13)に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の圧力温度複合センサ。
【請求項4】
前記ハウジング(10)は鉄で構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の圧力温度複合センサ。
【請求項5】
棒状であって、前記縦孔(15)内のうち前記黒体膜(30)よりも前記縦孔(15)の他端側に配置されると共に、前記黒体膜(30)の他面(32)に接合される透過ガラス材(130)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の圧力温度複合センサ。
【請求項6】
圧力導入孔(14)と縦孔(15)とを有するハウジング(10)と、
前記圧力導入孔(14)の一端側の開口部(12)から他端側に導入される圧力媒体の圧力を検出する圧力検出部(40、50)と、
棒状であって、前記縦孔(15)内に配置され、一端部(131)が前記縦孔(15)の一端側の開口部(13)に配置される透過ガラス材(130)と、
一部(18a)が前記縦孔(15)の開口部(13)に対向するように前記ハウジング(10)に一体化された突起部(18)と、
前記突起部(18)の一部(18a)のうち少なくとも前記縦孔(15)の開口部(13)に対向する壁面に配置され、前記圧力媒体の熱エネルギーを受けて当該熱エネルギーに相当する赤外線を発する黒体膜(30)と、
前記透過ガラス材(130)よりも前記縦孔(15)の他端側に配置され、前記黒体膜(30)から発せられて前記透過ガラス材(130)を通過する赤外線を受光して温度測定を行う赤外線温度センサ(80)とを備えていることを特徴とする圧力温度複合センサ。
【請求項7】
圧力導入孔(14)と縦孔(15)とを有するハウジング(10)と、
前記圧力導入孔(14)の一端側の開口部(12)から他端側に導入される圧力媒体の圧力を検出する圧力検出部(40、50)と、
棒状であって、前記縦孔(15)内に配置され、一端部(131)が前記縦孔(15)の一端側の開口部(13)に配置される透過ガラス材(130)と、
前記圧力媒体が存在する配管(140)内のうち、前記ハウジング(10)が前記配管(140)に取り付けられた際に前記縦孔(15)の開口部(13)に対向する壁面に配置され、前記圧力媒体の熱エネルギーを受けて当該熱エネルギーに相当する赤外線を発する黒体膜(30)と、
前記透過ガラス材(130)よりも前記縦孔(15)の他端側に配置され、前記配管(140)内の前記黒体膜(30)から発せられて前記透過ガラス材(130)を通過する赤外線を受光して温度測定を行う赤外線温度センサ(80)とを備えていることを特徴とする圧力温度複合センサ。
【請求項8】
前記透過ガラス材(130)は、赤外線を選択的に通過させる赤外線透過ガラスであることを特徴とする請求項5または7に記載の圧力温度複合センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−109266(P2009−109266A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280114(P2007−280114)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】