説明

圧密化前にカーボンコンポジット成形体全体にわたって均質に炭素繊維フィラメントをデバンドル及び分散させる方法

炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を製造する方法は、(a)選択される分散流体に可溶性のサイジング材料を有する炭素繊維束を選択する工程と、(b)炭素繊維をデバンドルさせ、且つ個々の炭素繊維が実質的にランダムに配向され且つ全体にわたって均質に分散される、ブレンド成分のスラリーを生成するように、分散流体中で選択される炭素束と他のブレンド成分とを混合する工程と、(c)スラリーの固体を形成して、実質的にランダムに配向され且つ全体にわたって均質に分散される個々の炭素繊維を有する炭素繊維強化カーボンコンポジット物品とするプロセス前又はプロセス中のいずれかで、分散流体を除去する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化カーボンコンポジット(carbon composite;炭素複合材)を製造する組成物及び方法に関する。より詳細には、本発明は、ランダムに配向される炭素繊維フィラメントの実質的に均質な分散を有する炭素繊維強化カーボンコンポジットを製造する組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、バルク複合製品の特定の性質を改善させるのに複合物品中で広範に使用されている。例えば、炭素繊維は、ポリマー、金属、セラミック又は炭素マトリクス中にたびたび包埋されて、複合(composite)製品のバルク引張強度、バルク重量、熱膨張係数(CTE)、剛性、及び温度安定性のような性質を改善させる。有用な炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、及びレーヨンが挙げられる。ブレンド成分と混合する場合、これらの炭素繊維は、ピッチ、フェノール類及びフラン類などのマトリクス材料中に包埋されており、成形されてグリーン(green;未加工の)複合物品又は前駆複合物品となる。その後、これらのグリーン物品は、必要に応じて硬化、熱硬化、炭化、圧密化及び黒鉛化によってカーボンコンポジットになる。
【0003】
特に、産業上の関心は炭素繊維強化カーボンコンポジットにある。或る特定の炭素繊維強化カーボンコンポジットは、高温安定性、強度、剛性、硬度、靭性及び亀裂抵抗を有する軽量な複合物品を形成するのに有用である。例えば、ピッチ系炭素繊維は、ブレーキ要素;滑り止め要素;本体パネル等の構造要素;航空機、高性能自動車、列車及び宇宙船などの乗り物用のピストン及びシリンダ;並びに飛翔(missile)要素のような物品を形成するための、黒鉛化された炭素繊維強化カーボンコンポジット成形体(compact)に使用されている。
【0004】
他の炭素繊維強化カーボンコンポジットも、バルク黒鉛製品において広範に使用されている。例えば、炭素繊維は、電極及びピンの特定の性質を改善させるのに使用されている。ルイス(Lewis)及びシンガー(Singer)に対する英国特許第1,526,809号では、50重量%〜80重量%のメソフェーズピッチ系炭素繊維を、20重量%〜50重量%のピッチバインダに添加した後、黒鉛化され得るカーボンコンポジット物品を形成するように押出成形している。黒鉛化された複合体(composite;コンポジット)は、低電気抵抗及び低縦CTEを示す。共にシャオ(Shao)他に対する米国特許第6,280,663号及び米国特許出願第2004/0041291号では、メソフェーズピッチ又はポリアクリロニトリルPANに由来の炭素繊維を、成分全体の約0.4重量%〜約10重量%の量でコークス及び液状ピッチバインダを含有する他のブレンド成分に添加し、押出成形してグリーン電極原料を形成するための電極原料ブレンドを形成している。押出成形、炭化、圧密化及び黒鉛化の後、得られた炭素繊維強化カーボンコンポジット物品は、縦CTEのかなりの低減、並びにヤング率及び曲げ強度の顕著な増大を示した。
【0005】
このようなバルク黒鉛製品の製造中、炭素繊維を、結合され(bound:束ねられ)且つサイジング材料の使用により圧縮成形される炭素繊維束としてブレンドに添加する。これらのバルク黒鉛製品に使用される炭素束は、約2000〜約20000本の炭素繊維(又はフィラメント)を含有する。しかしながら、炭素繊維は一般的にブレンド中に個々に分散されるものでなく、結束形態で維持される。
【0006】
マトリクス材料中に個々に包埋される炭素繊維の量、及び個々の繊維の平均長を両方とも最適化することは、複合体の炭素繊維強化材の強化特性を最大にするという点で特に産業上の関心が注がれるであろう。理論的に、炭素繊維の最大の強化効果は、繊維の本来の長さを維持しながらカーボンコンポジット物品にわたるランダムに配向される個々の炭素繊維の完全且つ均質な分散(本明細書中では十分な分散と称される)を保証することによって達成され得る。炭素繊維を十分に分散させる過去の試みは、繊維が個々の繊維としてブレンド中にデバンドル(debundle;脱結束)及び分散されるまで、機械的攪拌によってブレンドの他の構成部分と共に繊維束を混合することに関する。しかしながら、機械攪拌の重大な欠点は、混合プロセスが個々の繊維を破壊し、且つ炭素繊維束から繊維を機械的にデバンドルさせる傾向にあることである。繊維長のこのような縮小は、炭素繊維の強化特性に悪影響を与える。このため、これらの従来技術の方法は、デバンドル量(結束量)、繊維の分散度及び繊維長の縮小量の間の有効な妥協点(トレードオフ)を必要とする。この妥協点は、ブレンド成分全体の重量%で測定される場合に低レベルで添加される炭素繊維を有する複合体において不利益であり、炭素繊維がブレンド成分全体の約1重量%〜約3重量%で添加される場合に特に不利益である。炭素繊維のこのような低い濃度では、炭素繊維束が、得られるブレンド中で個々の繊維へと完全に分離されていない。
【0007】
異なるアプローチが、シャオ(Shao)他によって米国特許第6,395,220号に、黒鉛ピンを製造するプロセスとして教示されている。特定の実施態様では、メソフェーズピッチ系炭素繊維が、サイジング材料と共に圧縮成形されて、各々およそ12000本の炭素繊維の束となり、その後、1/4インチの長さに切断される。炭素繊維の重量%は、ブレンド成分全体の3.2%であった。炭素繊維束を、溶融ピッチバインダと共にシリンダミキサ中で配合し、初めに炭素繊維をマトリクス材料中に分散させた。残りのブレンド成分を添加して機械攪拌した。攪拌全体には約1時間の混合が含まれている。得られたピン原料ブレンドをその後ピン原料として押出成形し、これをその後炭化、圧密化及び黒鉛化した。ピッチ体積内における炭素繊維の高度な分散はこの方法によって達成され得るが、溶融ピッチ中における炭素繊維の増粘効果のために、炭素繊維−ピッチ混合物は混合温度でさらに粘性となる。か焼コークス粒子及び微細繊維(flour)を含む残りのブレンド成分を粘性炭素繊維−ピッチ混合物に添加した場合、この方法では、得られるピン原料ブレンド全体にわたって(though out)炭素繊維が分散されなかった。このため、この方法は、カーボンコンポジット物品全体にわたって炭素繊維を十分に分散させようとする試みにおいて不完全にしか成功していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
要求されることは、複合物品全体にわたるランダムに配向される個々の炭素繊維の実質的に均質な分散を有する炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を製造する方法である。
【0009】
また、要求されることは、炭素繊維強化カーボンコンポジット物品全体にわたって、実質的に均質且つランダムに配向されるように炭素繊維を分散させると共に、個々の炭素繊維の本来の長さを全体的に(generally)保存する製造方法である。
【0010】
最後に、要求されることは、個々の炭素繊維がデバンドルされ且つ複合物品全体にわたって十分に分散される度合いに対し、また炭素繊維の本来の長さの保存の度合いに対して、炭素繊維の強化特性を最大にするような炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を製造する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ランダムに配向される個々の炭素モノフィラメント(本明細書中では「炭素繊維」と称される)の実質的に均質な分散を有する炭素繊維強化カーボンコンポジット物品は、分散流体中で、可溶性サイジング材料を有する炭素繊維束を含有するブレンド成分を混合して、全体にわたって均質に分散される個々の炭素繊維を有するブレンド成分のスラリーを生成するプロセスによって、製造することができる。選択される溶媒流体に可溶性のサイジング材料を有する炭素繊維束を選択することによって、炭素繊維は、サイジング材料を溶解することによって実質的にデバンドルすることができる。さらに、成分を混合する低粘度流体を使用して、個々の炭素繊維が、実質的にランダムに配向され且つブレンド成分のスラリー全体にわたって均質に分散される、ブレンド成分のスラリーを生成することができる。好ましい実施態様では、単一流体(本明細書中では「分散流体」と称される)を、成分を混合する溶媒及び流体の両方として使用する。炭素繊維が、ブレンド成分のスラリー全体にわたって十分に分散されると、分散流体は、スラリーの固体を形成して炭素繊維強化カーボンコンポジット物品とするプロセス前又はプロセス中のいずれかで、除去され得る。
【0012】
この新規な方法で使用される分散流体は好ましくは、水、又はアルコール等の他の極性溶媒である。好ましいサイジング材料は、少なくとも1つのこのような溶媒に可溶性であるように選択される。1つの好ましい実施態様において、サイジング材料は水溶性ポリアミドである。
【0013】
好ましい実施態様において、可溶性サイジング材料を有する炭素繊維束は最初に、分散流体と混合されて、炭素繊維をデバンドルさせ、得られるスラリー全体にわたって個々の炭素繊維を均質に分散させる。次に、ピッチバインダ等のマトリクス材料を含有する他の選択されるブレンド成分をスラリーに添加及び混合して、全体にわたって十分に分散される個々の炭素繊維を有するブレンド成分のスラリーを生成する。別の好ましい実施態様では、最初に炭素繊維束をブレンドの他の成分と合わせた後、これを分散流体と混合して、十分に分散される個々の炭素繊維を有するブレンド成分のスラリーを生成する。
【0014】
ブレンド成分は、分散流体とブレンド成分との混合を促すように、またブレンド成分のスラリー中における個々の炭素繊維の分散を促すように選択され得る。1つの好ましい実施態様では、粉末状ピッチの選択が、スラリー内にマトリクス材料の分散の改良をもたらし、且つブレンド成分のスラリー中における個々の炭素繊維の十分な分散をもたらす。
【0015】
混合期間並びに攪拌機形状及び速度等の、混合工程のプロセスパラメータは、必要に応じて炭素繊維の長さを保存又は縮小するように選択することができる。実施態様によっては、個々の炭素繊維の分散及び炭素繊維長の保存について、複合体中の炭素繊維の最適プロセスパラメータ及び選択される特性が存在し得る。一般的に、大量の分散流体の選択、より容易に分散されるブレンド成分、及び十分な本来の繊維長は、繊維の実質的に十分な分散及び少なくとも最小限の繊維長の維持をもたらすことによって、複合体内における炭素繊維の強化特性を最大にする。
【0016】
ブレンド成分のスラリーが混合され、且つ個々の炭素繊維が十分に分散されると、分散流体はその後、濾過、遠心分離、リンギング(wringing)、乾燥、又は加熱及び加圧の任意の組合せによって実質的に除去される。好ましい実施態様では、スラリーを脱水型に入れ、選択されるスラリーの減量(reduction)温度及び減量圧力を加える。次に、減量されたスラリー混合物を炭化可能な前駆複合物品に成形する。好ましくは、予備成形工程を、スラリー減量工程又はその一部と組み合わせる。1つの好ましい実施態様において、ブレンド成分のスラリーを型に入れた後、分散流体の相当量を除去する第1の期間において、選択されるスラリーの減量温度及び減量圧力を加え、続いて、十分に分散される炭素繊維を有する炭化可能な予備成形複合物品をもたらす第2の期間において、選択される成形温度及び成形圧力をかける。
【0017】
本発明の炭化工程は、必要に応じて、脱水及び/又は成形の工程と併せて実施してもよい。1つの好ましい実施態様では、ブレンド成分のスラリーをホットプレス型の空洞に入れる。圧力式且つ抵抗式の加熱は、最初に成分のブレンドを脱水し、その後成形し、最後に炭化して、炭化させた前駆カーボンコンポジットとする事前プログラム様式で適用される。その後必要に応じて、圧密化、黒鉛化及び機械加工の工程が実施される。
【0018】
本発明の少なくとも1つの実施態様の利点は、この新規な方法に従って製造される炭素繊維強化カーボンコンポジット物品が、複合物品全体にわたる、ランダムに配向される個々の炭素繊維の実質的に均質な分配を有することである。
【0019】
本発明の少なくとも1つの実施態様の別の利点は、この新規な製造方法が全体的に、炭素繊維強化カーボンコンポジット物品全体にわたって実質的に均質且つランダムに配向されるように炭素繊維を分散させると共に、個々の炭素繊維の本来の長さを保存することである。
【0020】
本発明の少なくとも1つの実施態様の第3の利点は、この新規な製造方法が全体的に、個々の炭素繊維がデバンドルされ且つ複合物品全体にわたって十分に分散される度合いに対し、また炭素繊維の本来の長さの保存及び少なくとも最小限の繊維長の維持の度合いに対して、炭素繊維の強化特性を最大にすることである。
【0021】
本発明のさらなる利点は、以下の開示を読めば当業者にとって容易に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の好ましい実施態様において、ランダムに配向される炭素繊維フィラメントの実質的に均質な分散を有する炭素繊維強化カーボンコンポジット物品が、炭素繊維をデバンドルさせ且つ得られるスラリー全体にわたって個々の炭素繊維を均質に分散させる第1の期間において、選択される分散流体中で可溶性サイジング材料を有する選択される炭素繊維束を最初に混合するプロセスによって、製造され得る。次に、ピッチバインダ等のマトリクス材料を含有する他の選択されるブレンド成分をスラリーに添加し、全体にわたって均質に分散される個々の炭素繊維を有する、ブレンド成分のスラリーを生成する第2の期間において混合する。本発明の別の好ましい実施態様では、このような炭素繊維強化カーボンコンポジット物品は、最初に炭素繊維束をブレンドの他の成分と合わせた後、十分に分散される個々の炭素繊維を有する、ブレンド成分のスラリーを生成するようにこれを分散流体と混合するプロセスによって、製造することができる。本発明の範囲は、バンドル(結束)されていない炭素繊維をブレンド成分の選択される炭素繊維束に代用した、上記2つの好ましい実施態様と同様の実施態様も含む。
【0023】
本発明によれば、有用な炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、レーヨン、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。また本発明の範囲は、炭素繊維が、複合物質の強化以外の特性に関して選択され、且つこのような炭素繊維が実質的にランダムに配向され、且つ複合物質全体又はその一部にわたって均質に分散されることが望まれるカーボンコンポジット物質の形成に関する実施態様を含む。
【0024】
本発明の好ましい実施態様によれば、炭素繊維束は、それらの強化特性に関して、また炭素繊維を圧縮成形及び結合させて束とするのに使用されるサイジング材料の特徴に関して選択される。上述のように、サイジング材料は、種々の溶媒中におけるその可溶性に関して選択される。炭素繊維の強化特性は、とりわけ、繊維長及び選択されるマトリクス材料に対する繊維表面の接着性によって決定される。炭素繊維の接着性は、繊維の表面処理によって増強され得る。炭素−炭素物質を形成する技術分野における当業者は、成分炭素繊維に望ましい接着性を最適化するように、炭素繊維の種類、最小繊維長及び繊維の表面処理を選択することができる。
【0025】
本発明の1つの好ましい実施態様において、炭素繊維束は各々、約5mm〜約40mmの長さを有し、約2000〜約50000本の炭素繊維を含む。本発明のより好ましい実施態様では、選択される炭素繊維束は、可溶性サイジング材料によって圧縮成形及び結合される約2000〜約20000本の炭素繊維を含む。複合物質の炭素繊維が実質的にランダムに配向され且つ物質全体又はその一部にわたって均質に分散されることが望ましい限り、本発明の範囲はまた、選択される炭素繊維束が約40mmを超えるか又は約5mm未満の長さを有する実施態様を含み、また炭素繊維束が約50000本を越えるか又は約2000本未満の炭素繊維を有する実施態様を含む。このような実施態様は全て炭素繊維複合体を形成する技術分野における当業者によって選択される。
【0026】
本発明によれば、炭素繊維は、ブレンド成分の総量の約0.5重量%〜約80重量%の量で供給され、このような炭素繊維は好ましくは炭素繊維束として供給される。炭素繊維強化黒鉛電極又はピンの形成に関する本発明の1つの好ましい実施態様において、選択される炭素繊維は、ブレンド成分の総量の約0.5重量%〜約10重量%の量で供給される。ブレーキパッド等の炭素繊維強化炭素成形体の形成に関する本発明の別の好ましい実施態様では、選択される炭素繊維が、ブレンド成分の総量の約20重量%〜約50重量%の量で供給される。
【0027】
本発明の好ましい実施態様において、分散流体は、水、又はエタノール若しくは他のアルコール等の他の極性溶媒であり、且つ選択される炭素束のサイジング材料は、水又はこのような他の極性溶媒に可溶性のものである。より好ましい実施態様では、サイジング材料が水溶性であり、分散流体が水である。1つのより好ましい実施態様では、サイジング材料が水溶性ポリアミドである。
【0028】
本発明によれば、分散流体は、炭素繊維束のサイジング材料を溶解し且つブレンド成分のスラリー全体にわたって個々の炭素繊維を均質に分散させるのに十分な量(本明細書中では分散体積と称される)で供給される。一実施態様において、分散流体は、サイジング材料を溶解し且つ流体体積全体にわたって個々の炭素繊維を分散させるのに十分な分散体積で供給される。その後の他のブレンド成分の添加及び混合中に、混合物の機械攪拌によって、分散流体及び分散すべき繊維を分散させ、スラリーが生成されるように他のブレンド成分中に残す(carry over)。この実施態様において、重大なことに、攪拌は、全体にわたって十分に分散される個々の炭素繊維を有する、ブレンド成分のスラリーを生成するのに必要とされ得るものである。さらに、攪拌強度及び全攪拌時間が、個々の炭素繊維の少なくとも一部を破壊するため、本来の炭素繊維長が縮小される可能性がある。
【0029】
好ましい実施態様において、分散流体は、分散流体体積全体にわたって個々の炭素繊維を分散させるのに十分で、且つブレンド成分のスラリー全体にわたって他のブレンド成分の少なくとも一部を分散させるのに十分な分散体積で供給される。この実施態様では、ブレンド成分と分散流体との混合によって、ブレンド成分のわずかな顆粒状スラリー又は粘性スラリーが得られ、炭素繊維は容易に、スラリー全体にわたって十分に分散される。一般に、本発明のこの実施態様は、攪拌強度がより小さく合計攪拌時間がより短いことを要求しており、このため、個々の炭素繊維の大部分を破壊する可能性が低い。
【0030】
本発明によれば、ブレンド成分は、ブレンド成分との分散流体の混合を促すように、またブレンド成分のスラリー中における個々の炭素繊維の分散を促すように選択され得る。1つの好ましい実施態様では、粉末状ブレンド成分及び微細繊維状ブレンド成分の選択が、スラリー内に他のブレンド成分の分散の改良をもたらし、且つブレンド成分のスラリー中における個々の炭素繊維の十分な分散をもたらす。特に好ましい実施態様では、粉末状ピッチ又は粉末状フェノール若しくはフラン等の粉末状バインダは、水と共に用いられて、十分に分散される個々の炭素繊維を有する、ブレンド成分のスラリーを生成する。このようなブレンド成分のスラリーは特に、炭化可能な(又は「グリーン原料」)前駆物品に成形するために、又はホットプレスによって炭化されたカーボンコンポジットを形成するために、十分に分散される炭素繊維を有する脱水混合物をさらに形成する上で有用である。
【0031】
本発明によれば、混合工程のプロセスパラメータは、必要に応じて炭素繊維の長さを保存又は縮小するように選択することができる。本明細書中で使用される場合、プロセスパラメータとしては、混合装置の種類,攪拌機形状,攪拌速度,混合期間,及び炭素繊維がバンドル(結束)されていない状態で提供された場合の、供給される炭素繊維に等しい体積(本明細書中では繊維体積と称される)に対する分散流体の体積の百分率(本明細書中では分散率と称される)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの好ましい実施態様では、分散流体が水であり、分散率が少なくとも200%である。
【0032】
本発明のスラリー減量(又は「脱水」)工程は、分散流体の相当量の除去を含み、多数の手段のいずれかによって達成され得る。例えば、このような流体は、濾過、遠心分離、リンギング、乾燥、又は「減量された」混合物中に残るブレンド成分の物理的特徴若しくは化学的特徴に影響を及ぼすことのない加熱及び加圧の任意の組合せによって除去することができる。好ましい実施態様において、ブレンド成分のスラリーを脱水型に入れ、分散流体の相当量を除去する第1の期間において、選択されるスラリーの減量温度及び減量圧力を加えて、十分に分散される炭素繊維を有する炭化可能な混合物をもたらす。別の好ましい実施態様では、ブレンド成分のスラリー中の流体の第1の部分を、濾過、遠心分離又はリンギングによって除去する。その後、流体の第2の部分を、上記のような脱水型中で脱水によって除去する。
【0033】
本発明の予備成形工程は、減量されたスラリー混合物のブレンド成分を、炭化可能な前駆複合物品へと成形することを含む。好ましくは、予備成形工程は、スラリー減量工程又はその一部と組み合わされる。好ましい実施態様において、ブレンド成分のスラリーを脱水及び予備成形用の型に入れ、分散流体の相当量を除去する第1の期間において、選択されるスラリーの減量温度及び減量圧力をかけ、続いて、十分に分散される炭素繊維を有する炭化可能な予備成形複合物品をもたらす第2の期間において、選択される成形温度及び成形圧力をかける。1つの好ましい実施態様において、型は、脱水及び押出成形用の部分を有する押出成形型である。別の好ましい実施態様において、型は、ブレンド成分のスラリーを受容し、上記選択される減量温度及び減量圧力でスラリーを上記第1の期間において加熱するか又は圧縮し、その後、上記選択される成形温度及び成形圧力で得られる減量されたスラリー混合物を上記続く第2の期間において加熱又は圧縮して炭化可能な予備成形物品を作製するのに適するものである。より好ましい実施態様では、このような選択される期間、温度及び圧力が、事前にプログラムされた時間、温度及び圧力である。
【0034】
本発明の炭化工程は、別々に実施されてもよく、又は、成形工程及び/若しくはスラリー減量工程の実施と併せて実施されてもよい。1つの好ましい実施態様において、ブレンド成分の少なくとも部分的に脱水されたスラリーをホットプレス型の空洞に入れる。圧力式且つ抵抗式の加熱は、最初に成分のブレンドを脱水し、その後成形し、最後に炭化して、炭化させた前駆カーボンコンポジットとするような事前プログラム様式で適用される。
【0035】
本発明はまた、適切に配列された炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を得るように、圧密化、黒鉛化及び機械加工の続く工程を含む。得られる炭素繊維強化カーボンコンポジット物品は、ブレーキ要素;滑り止め要素;本体パネル等の構造要素;航空機、高性能自動車、列車及び宇宙船などの乗り物用のピストン及びシリンダ;並びに飛翔要素を含む広範な用途に適する。
【0036】
本発明の範囲はまた、炭化工程、圧密化工程及び黒鉛化工程を省き、熱硬化等の代替的な硬化プロセスを使用する実施態様を含む。本発明のこの態様は、フェノール系及びフラン系バインダをブレンド成分の要素として有する特に利用可能な実施態様である。
【実施例】
【0037】
三菱化学株式会社(日本、東京)製のグレードK 223−SEとして設計されたメソフェーズピッチ系炭素繊維(以下、MPCF)の束を用いて2回の試行を行った。繊維をサイジングによって約12000本の束に圧縮成形し、約6mmの長さに切断した。組成物Aを第1の試行の生成物とし、組成物Bを第2の試行の生成物とした。各試行において、MPCF炭素繊維束を圧縮成形及び結合するのに用いられる水溶性サイジングに起因し得る容易に分散可能な性質のために、MPCFを選択した。第1の試行において、MPCF炭素繊維束を、総ブレンド成分の約28重量%で供給した。第2の試行では、その重量%を約14%にまで下げた。
【0038】
各試行について、MPCF束およびバインダ微細繊維を含むブレンド成分を、選択した混合機に入れた。次に、分散流体として水を選択し、試行の繊維体積を約2倍した分散率に等しい量で各混合機に供給した。第1の試行では、水とブレンド成分とを組み合わせたものを、約30秒〜約5分の間高速で混合した。試行2の成分は同様の期間低速で混合した。混合工程後、濾過、遠心分離、乾燥、並びにブレンド成分に影響を及ぼすことのない加熱及び加圧の組合せのような容易に利用可能な手段によって、水のかなりの部分をブレンド成分のスラリーから除去した。
【0039】
脱水工程後、得られた組成物A及び組成物Bは、前駆カーボンコンポジットへと成形することができるグリーン原料混合物として両方とも許容可能であった。組成物Aの分析は、平均繊維長が約6mmから約1mmへと縮小されたことを示した。対照的に、組成物Bの分析は、平均繊維長が約6mmで保存されたことを示した。これは、選択した混合速度の差に起因していた。顕微鏡分析により、組成物A及び組成物Bは両方とも、グリーン原料混合物全体にわたる個々の炭素繊維の実質的に十分な分散を有していることが確認された。
【0040】
このように、圧密化前にカーボンコンポジット成形体全体にわたって均質に炭素繊維フィラメントをデバンドル及び分散させる新規且つ有用な方法の本発明の特定の実施態様が記載されているが、このような参照は、特許請求の範囲に記載されるもの以外、本発明の範囲に対する限定として解釈されるように意図されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を製造する方法であって、
(a)サイジング材料によって結合される炭素繊維を各々含む炭素繊維束と、
マトリクス材料と、
を含有する複数のブレンド成分を供給する工程と、
(b)前記サイジング材料を溶解するのに適用される分散流体を供給する工程と、
(c)前記分散流体と、前記ブレンド成分とを合わせることによってスラリーを生成する工程と、
(d)前駆混合物を生成するように、少なくとも一部の前記分散流体を除去する工程と、
(e)前記炭素繊維が全体的にランダムに配向され且つ物品全体にわたって均質に分散される前駆炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を形成するように、前記前駆混合物を成形する工程と、
を含む、前駆炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を製造する方法。
【請求項2】
前記サイジング材料が水溶性サイジング材料を含み、且つ
前記分散流体が水を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性サイジング材料が水溶性ポリアミドを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記サイジング材料が、選択される極性溶媒に可溶性のサイジング材料を含み、且つ
前記分散流体が前記選択される極性溶媒を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記選択される極性溶媒がアルコールを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記アルコールがエタノールを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
全体的に前記炭素繊維束が各々、約2000〜約50000本の炭素繊維を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
全体的に前記炭素繊維束が各々、約2000〜約20000本の炭素繊維を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記炭素繊維束が、ピッチ系炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、レーヨン、及びそれらの組合せを含む群から選択される炭素繊維を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
全体的に前記炭素繊維束が各々、約5mm〜約40mmの長さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
工程(a)が、前記ブレンド成分の約0.5重量%〜約50重量%の量で炭素繊維束を供給することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
工程(b)が、少なくともおおよその分散体積の分散流体を供給することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
工程(a)で供給される炭素繊維の量が、繊維体積を確定し、
工程(b)で供給される前記分散体積が、少なくともおおよその分散率に前記繊維体積を乗算したものに等しい、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記分散率が少なくとも約200%である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
工程(c)が、
前記サイジング材料が全体的に溶解し、且つデバンドルされた前記炭素繊維が全体的に前記分散流体全体にわたって分散して得られる混合物を生成する第1の期間において、前記炭素繊維束及び前記分散流体を混合する工程と、
スラリーを生成する第2の期間において、前記得られた混合物と前記ブレンド成分の残りとを混合する工程と、
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
工程(c)が、
乾燥混合物を生成するように、前記炭素繊維束を含有する前記ブレンド成分を混合すること、及び
全体的にランダムに配向され且つ全体にわたって均質に分散される炭素繊維を有するスラリーを生成する第1の期間において、前記分散流体と前記乾燥混合物とを混合すること、
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前駆カーボンコンポジット混合物を製造する方法であって、
(a)水溶性サイジング材料によって結合される約2000〜約50000本の炭素繊維を全体的に各々含む、ブレンド成分の約0.5重量%〜約50重量%の量の炭素繊維束と、
マトリクス材料と、
を含有する複数のブレンド成分を供給する工程と、
(b)少なくとも分散体積の水を供給する工程と、
(c)前記水と前記ブレンド成分とを合わせることによってスラリーを生成する工程と、
(d)前記炭素繊維が、全体的にランダムに配向され且つ混合物全体にわたって均質に分散される前駆カーボンコンポジット混合物を生成するように、少なくとも一部の前記水を除去する工程と、
を含む、前駆カーボンコンポジット混合物を製造する方法。
【請求項18】
工程(c)が、
前記サイジング材料が全体的に溶解し、且つデバンドルされた前記炭素繊維が全体的に前記分散流体全体にわたって分散して得られる混合物を生成する第1の期間において、前記炭素繊維束と前記分散流体とを混合する工程と、
スラリーを生成する第2の期間において、前記得られた混合物と前記ブレンド成分の残りとを混合する工程と、
を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
工程(c)が、
乾燥混合物を生成するように、前記炭素繊維束を含有する前記ブレンド成分を混合すること、及び
全体的にランダムに配向され且つ全体にわたって均質に分散される炭素繊維を有するスラリーを生成する第1の期間において、前記分散流体と前記乾燥混合物とを混合すること、
を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を製造する方法であって、
(a)水溶性サイジング材料によって結合される約2000〜約20000本の炭素繊維を全体的に各々含む、ブレンド成分の約0.5重量%〜約50重量%の量の炭素繊維束と、
マトリクス材料と、
を含有する複数のブレンド成分を供給する工程と、
(b)少なくとも分散体積の水を供給する工程と、
(c)前記水と前記ブレンド成分とを合わせることによってスラリーを生成する工程と、
(d)前記炭素繊維が、全体的にランダムに配向され且つ混合物全体にわたって均質に分散される前駆混合物を生成するように、少なくとも一部の前記水を除去する工程と、
(e)前駆カーボンコンポジット物品を形成するように、前記前駆混合物を成形する工程と、
(f)前記前駆カーボンコンポジット物品を炭化する工程と、
(g)炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を形成するように、前記炭化された物品を黒鉛化する工程と、
を含む、炭素繊維強化カーボンコンポジット物品を製造する方法。
【請求項21】
前記ブレンド成分が少なくとも1つの微細繊維状又は粉末状ブレンド成分を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記マトリクス材料が微細繊維状又は粉末状ピッチを含む、請求項20記載の方法。
【請求項23】
圧密化の工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
工程(d)、(e)及び(f)が、圧縮式且つ抵抗式の加熱によって実施される、請求項20記載の方法。

【公表番号】特表2009−520126(P2009−520126A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545920(P2008−545920)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/061741
【国際公開番号】WO2008/048327
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(507393218)グラフテック、インターナショナル、ホールディングス、インコーポレーテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】GrafTech International Holdings Inc.
【Fターム(参考)】