説明

圧延材の水冷制御方法

【課題】棒鋼や線材の熱間圧延過程で材質改善などを目的とした中間水冷を行なう場合に、冷却水の残留や復熱時間が圧延材の表面温度に及ぼす影響を抑制して、仕上げ圧延温度を精度よく制御できる水冷制御方法を提供することである。
【解決手段】棒鋼または線材圧延設備の、中間圧延機列1と仕上げ圧延機列2の間の中間水冷帯3で圧延材11を強制水冷する場合に、水冷後の圧延材の温度として、仕上げ圧延機列2の先頭圧延機2aの出側温度を、または先頭圧延機2aの圧延負荷を水冷制御に用いるようにしたのである。このようにすれば、圧延後の復熱過程での断面内の温度分布が大きい不安定な状態の圧延材温度を用いずに済み、また、中間水冷後の早い段階での測定値を水冷制御に用いるため、目標仕上げ温度に対して、仕上げ圧延機列2の出側温度を、より精度よく制御することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、棒鋼、線材など条材の熱間連続圧延における圧延材の水冷制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
棒鋼および線材(バーインコイル)などの条材は、加熱炉で熱間圧延温度域に加熱された鋼片、または連続鋳造設備から直送された鋼片を、多段に圧延機を配置した粗圧延から仕上げ圧延に至る複数の圧延機列での熱間圧延により、順次断面積を小さくして所要の寸法・形状に製造される。近年では、圧延製品の材質や表面性状などの品質改善のため、圧延機列間に中間水冷帯を設置して圧延材を強制水冷し、従来よりも仕上げ温度を低温側に制御するなどの制御圧延が行なわれている。このような仕上げ温度制御では、通常、中間水冷帯出側での圧延材の目標温度を予め定め、この目標温度に出来るだけ近づけるように冷却水流量が制御される。前記目標温度は、一般には圧延材の表面温度である。
【0003】
このような冷却水流量の制御方法としては、従来から、水冷帯出側で実測した圧延材の実績温度と予め決定した水冷帯出側での目標温度との偏差に基づいて冷却水流量を制御するフィードバック制御、水冷帯入側で実測した圧延材の温度と水冷帯入側での目標温度との偏差に基づいて冷却水流量を制御するフィ−ドフォワード制御、および次圧延材への冷却水流量のプリセットが行なわれている。例えば、特許文献1では、上流側に圧延機、下流側に水冷帯を備えた棒鋼類の圧延設備で、圧延機側には圧延速度検出器、水冷帯の入側および出側には圧延材の温度検出器をそれぞれ設け、圧延速度検出器からの圧延速度信号と当該棒鋼情報とに基づいて棒鋼の位置トラッキングを行い、棒鋼長手方向部位について入側温度検出器からの温度信号に基づいて温度トラッキングを行い、この温度に基づいて前記水冷帯の水量をフィ−ドフォワード制御し、このときの制御量(冷却水流量)を出側温度検出器からの温度信号に基づいて補正し、当該棒鋼の後端が水冷帯を通過時または通過後において、当該棒鋼についての制御水量、または直近の複数本の棒鋼についての制御水量の平均値を次棒鋼の制御水量としてプリセットする棒鋼類圧延設備における水冷制御方法が開示されている。
【特許文献1】特開平9−239423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来から行なわれている水冷制御方法や、特許文献1に開示された水冷制御方法では、圧延材の温度は、その表面温度を検出したものである。水冷直後の圧延材表面には冷却水が残留しており、水冷による表面温度むらが発生するため、正確な温度測定が難しい。また、水冷帯出側では、通常の圧延過程での圧延材の温度分布とは異なり、水冷により、圧延材中心部の温度低下に比べて表層部の温度低下が大きいため、圧延材の表面温度と中心温度との差が大きく、水冷後の復熱過程で圧延材の温度を測定しても、断面内平均温度で代表される圧延材の適正温度を測定していることにはならない。水冷後の復熱過程での圧延材の表面温度は復熱時間の関数となるため、水冷帯での冷却水流量が同じでも、すなわち圧延材の温度降下量が同じでも、圧延速度が異なると圧延材が水冷帯出側から温度検出位置に達するまでの時間(復熱時間)が異なり、復熱過程で測定される圧延材表面温度が異なることになる。
【0005】
図3は、前記圧延機列間に設置した中間水冷帯での水冷過程および水冷後の復熱過程での圧延材の表面温度(Ts)、中心温度(Tc)および断面内の平均温度(Tm)の推移を示したものである。この圧延材の温度推移は、水冷前後の圧延材の実測表面温度に基づいて温度解析により算出したものである。圧延材の表面温度(Ts)に着目すると、中間水冷帯出側(水冷終了時)ではTs=740℃であり、水冷後0.1秒経過時には、Ts=781℃まで復熱し、水冷後0.2秒経過時には、Ts=798℃まで復熱している。このように、復熱時間が0.1秒異なるだけでも、圧延材表面温度に17℃の温度差が生じる。一方、圧延材の断面内平均温度(Tm)については、中間水冷帯入側(冷却開始時)ではTm=973℃、中間水冷帯出側(冷却終了時)ではTm=892℃で、水冷による温度降下量ΔTm=81℃であり、水冷後の復熱過程では断面内平均温度(Tm)は殆んど降下していない。前記復熱時間、すなわち水冷後温度検出までの時間が0.1秒異なるだけで生じる17℃の圧延材表面温度の差は、断面内平均温度(Tm)の降下量(ΔTm)の81℃に対して約20%に相当し、測温誤差の許容範囲を超えた大きな温度差となっている。
【0006】
そこで、この発明の課題は、棒鋼や線材などの条材の熱間圧延過程で材質改善などを目的として圧延材を水冷する場合に、水冷後の冷却水の残留や復熱時間が圧延材の表面温度に及ぼす影響を最小限に抑制して、仕上げ圧延温度を精度よく制御できる水冷制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0008】
請求項1に係る圧延材の水冷制御方法は、連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機出側での圧延材表面温度が所定の温度となるように前記水冷装置への冷却水供給流量を制御することを特徴とする。
【0009】
一般に、棒鋼または線材の圧延過程で材質改善などを目的として、仕上げ圧延温度を制御するために中間水冷などの強制水冷を行なう場合に、通常、水冷帯出側での圧延材の温度、すなわち圧延材表面温度が所定の温度となるように冷却水流量の調節などの水冷制御が行なわれる。しかし、前述のように、水冷帯出側直後の圧延材表面には、冷却水の残留や水冷過程で発生した温度むらが存在するため、圧延材の温度を正確に測定することは難しい。また、圧延材の表面温度を水冷帯出側の復熱過程で測定した場合には、圧延材の断面内平均温度と表面温度との差が大きく、圧延材表面温度は、圧延材断面内平均温度、すなわち圧延材の代表温度を表したものとは言えない。このため、復熱が完全に終了した時点の圧延材の表面温度を測定することが望ましいが、復熱が完全に終了するためには通常1秒程度の時間が必要であり、水冷帯と仕上げ圧延機列などの下流側の圧延機列との間に充分な距離が必要となる。この距離は、例えば、圧延速度が6m/sであれば、6m以上必要となり、圧延設備長さの制約から充分な距離を取れないことが多い。これに対し、圧延機で塑性変形を受けたロール孔型出側の圧延材は、メタルフローにより圧延材の表面性状が均一化してきて、塑性変形による加工発熱も圧延材中心部よりも表層部に多く発生するため、圧延材断面内の温度分布も均一化してくる。したがって、圧延後の表面温度は、復熱過程での表面温度に比べて、圧延材断面内平均温度、すなわち圧延材の代表温度により近づくため、仕上げ圧延機列などの前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機出側の圧延材表面温度を測定し、この温度が目標温度と一致するように水冷帯の冷却水流量を調整することにより、仕上げ圧延温度等、圧延温度を精度よくコントロールできる高精度の水冷制御が可能となる。ここで、先頭の圧延機出側とは、この圧延機の出側から下流側の次圧延機の入側までの間を意味する。以下の記載においても同様である。
【0010】
請求項2に係る圧延材の水冷制御方法は、連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で圧延材を水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機出側での圧延材表面温度と予め設定した目標表面温度との偏差に基づき、次圧延材に対して前記水冷装置への冷却水供給流量および/または圧延速度の設定値を調整することを特徴とする。
【0011】
このように、当該圧延材についての水冷制御結果に基づいて次圧延材の冷却水供給流量および/または圧延速度の設定値(プリセット流量およびプリセット圧延速度)を調整すれば、前記の圧延材1本内の冷却水流量の調整と相俟って、次圧延材の先端側から、圧延温度をさらに精度よくコントロールできる高精度の水冷制御が可能となる。
【0012】
請求項3に係る圧延材の水冷制御方法は、連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で圧延材を水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機での圧延負荷が所定の圧延負荷となるように前記水冷装置への冷却水供給流量を制御することを特徴とする。
【0013】
圧延鋼種、圧延速度および断面減少率が同一であれば、圧延負荷は圧延材の断面内の平均温度に比例するため、一般に圧延荷重または圧延動力で表される圧延負荷と圧延材の断面内平均温度との関係を求めておけば、圧延負荷を測定することは圧延材の断面内平均温度を測定することと同等になる。したがって、仕上げ圧延機列の先頭の圧延機での圧延負荷を測定し、この圧延負荷が目標とする圧延負荷と一致するように、水冷帯の冷却水流量および/または圧延速度を調整することにより、仕上げ圧延温度等、圧延温度を精度よくコントロールできる高精度の水冷制御が可能となる。
【0014】
請求項4に係る圧延材の水冷制御方法は、連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で圧延材を水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機の圧延負荷と予め設定した目標圧延負荷との偏差に基づき、次圧延材に対して前記水冷装置への冷却水供給流量および/または圧延速度の設定値を調整することを特徴とする。
【0015】
このように、当該圧延材についての水冷制御結果に基づいて次圧延材の冷却水供給流量および/または圧延速度の設定値(プリセット流量およびプリセット圧延速度)を調整すれば、制御パラメータとして、圧延材表面温度の代わりに圧延負荷を用いる場合にも、前記の圧延材1本内の冷却水流量の調整と相俟って、次圧延材の先端側から、圧延温度をさらに精度よくコントロールできる高精度の水冷制御が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
この発明では、棒鋼または線材の圧延過程で、仕上げ温度制御等を目的として圧延機列間に設けた水冷帯で圧延材の強制水冷を行なう場合に、従来のように、正確な温度測定が難しい水冷帯出側での圧延材の表面温度に基づかず、水冷帯の下流側圧延機列の先頭圧延機出側での圧延材表面温度が所定の温度となるように、または前記先頭圧延機での圧延負荷が目標圧延負荷と一致するように、水冷帯への冷却水供給流量および/または圧延速度を制御するようにしたので、圧延材の代表温度(断面内平均温度)に基づいて、仕上げ圧延温度等、圧延温度を精度よくコントロールできる高精度の水冷制御を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、この発明の実施形態を添付の図1から図3に基づいて説明する。
【0018】
図1は、棒鋼または線材圧延設備の要部を示したもので、連続して多段に配置された圧延機1a〜1f、および圧延機列2a〜2fからそれぞれなる上流側の中間圧延機列1と下流側の仕上げ圧延機列2の間に中間水冷帯3が配置されている。この実施形態では、中間水冷帯3の入側には入側温度計(入側温度検出器)4が、中間水冷帯3の下流側の仕上げ圧延機列2の先頭の圧延機2aの出側には出側温度計(出側温度検出器)5がそれぞれ設けられている。また、中間圧延機列1および仕上げ圧延機列2の各圧延機1a〜1fおよび2a〜2fには、圧延材の噛み込みを検出するメタルイン検出器6、7、および圧延速度を検出する線速検出器8、9がそれぞれ設けられている。図1では、メタルイン検出器6、7、および線速検出器8、9を中間圧延機列1の最下流側の圧延機1fと、仕上げ圧延機列2の最上流、すなわち先頭の圧延機2aについてのみ記載し、他の圧延機については図示を省略している。前記の各検出器からの噛み込み信号、線速検出信号および温度検出信号はそれぞれ水冷制御装置10に取り込まれる。
【0019】
圧延材11が中間圧延機列1に到達した時点から、水冷制御装置10により、圧延材11の詳細なトラッキングが行なわれる。圧延材11が中間圧延機列1の最後尾の圧延機1fに到達したかどうかは、メタルイン検出器6により検出される。そして、予め決定されている当該圧延材のパススケジュールと、線速検出器8によって検出される圧延速度と、入側温度計(入側温度検出器)4による圧延材の温度計測値から、中間水冷帯3を通過するときの、圧延材の長手方向の部位と温度と圧延速度とが対応づけられ、これらの値がリンクされて水冷制御装置10に取り込まれる。メタル検出器6により圧延材先端が中間圧延機列1の最後尾の圧延機1fに達したことが検出されると、水冷制御装置10により、この検出時点から圧延材の先端が中間水冷帯に到達するまで時間が算出されて、この到達時間から、入側温度計4により、中間水冷帯3入側の圧延材長手方向の温度T1が、所定の時間間隔で計測される。そして、この温度計測値T1は、前記のように、圧延材の長手方向の部位と対応づけて水冷制御装置10に取り込まれている。次に、メタル検出器7により、圧延材の先端が、仕上げ圧延機列2の先頭圧延機2aに到達したことが検出されると、水冷制御装置10からの指令で、先頭圧延機2aの出側温度計5により、圧延材長手方向の温度T2が所定の時間間隔で、すなわち、中間水冷帯3の入側で温度計測された圧延材の長手方向の部位に対応する部位の温度T2が計測される。この検出温度T2と予め設定した先頭圧延機2a出側温度計5の位置での目標温度T2aとの差ΔT2に応じて、すなわち、圧延材の温度T2が目標温度T2aに一致するように、当該圧延材に対しては中間水冷帯3の冷却水流量をフィ−ドバック制御する。また、次圧延材に対しては、冷却水流量の設定量および/または圧延速度を制御する。
【0020】
前記当該圧延材に対する冷却水流量の制御は、目標温度T2aからの差ΔT2に対して、水冷帯の冷却水流量Waを温度偏差ΔT2の解消に必要な冷却水流量ΔWaだけ補正する。なお、前記目標温度T2aとの温度偏差を比較する先頭圧延機2a出側での計測温度T2は、温度計測のバラツキを考慮して、圧延材長手方向の複数の計測温度を平均した平均値(T2av.)である。したがって、ΔT2=ABS(T2a−T2)=ABS(T2a−T2av.)である。ABSは絶対値を表わす記号である。同様に、中間水冷帯3入側の圧延材長手方向の温度T1として、圧延材長手方向の複数の計測温度の平均値(T1av.)が用いられる。この先頭圧延機2aの出側および中間水冷帯3の入側の計測温度の平均化は、圧延材の長手方向に沿って、温度計測部位グループについて繰り返される。そして、中間水冷帯3の入側の平均温度T1av.、前記先頭圧延機2aの出側の平均温度T2av、温度降下量(T1av.−T2av)、先頭圧延機2aの出側の目標温度T2aからの温度偏差ΔT2、前記平均温度を算出した計測部位が中間水冷帯3を通過したときの冷却水流量Wa(平均流量)、前記温度偏差ΔT2に基づく補正流量ΔWa(平均流量)、および当該圧延材に対する中間水冷帯3入側の目標温度T1a、目標温度降下量(T1a−T2a)、圧延速度、当該圧延材の製品寸法(仕上げ線径)、鋼種がそれぞれ水冷制御装置10の記憶部(図示省略)に記憶される。そして、同一ロットの次圧延材を含めて、同一鋼種または同一鋼種グループ、同一製品寸法の圧延材に対して、記憶した水冷制御結果に基づいて、中間水冷帯3の初期設定流量Wpおよび目標温度T2aからの偏差1℃あたりの補正流量ΔWuを修正して水冷制御精度を向上させる。なお、前記冷却水の初期設定流量Wpは、中間水冷帯3での目標温度降下量(T1a−T2a)に対して、鋼種、製品寸法、圧延速度等の圧延条件に対して、水冷制御実績値等から予め求めておいた冷却水流量に基づいて決定することができる。また、目標温度T2aからの偏差1℃あたりの補正流量ΔWuは、当該圧延材に対する補正流量ΔWaの平均値ΔWamと、目標温度T2aと当該圧延材についてのT2の平均温度T2mとの偏差に基づいて算出することが可能である。
【0021】
前記圧延材の温度は、通常、加熱炉での加熱状態等に起因して、1本の圧延材内で、その先後端部や中間部の全長にわたって変動し、圧延材間でも変動する。このため、目標温度からの偏差に基づいた、水冷制御装置10からの制御指令により、的確かつタイムリーに冷却水流量の調節弁を作動させるためには、流量調節弁の動作は遅れを伴うことを考慮して、目標温度T2aからの温度偏差ΔT2に対する冷却水の補正流量ΔWaを、次圧延材に対して早い目のタイミングで、すなわち、次圧延材の先端部が中間水冷帯3に到達する時点では、前記流量調節弁の開度が前記補正流量ΔWaを取り込んだ初期設定流量(=Wp+ΔWp(=ΔWa))の弁開度となるように弁開度の動作指示を与えることが望ましい。
【0022】
図2は、図1の場合と同様に、棒鋼または線材圧延設備の要部を示したもので、この実施形態では、中間水冷帯3の下流側の仕上げ圧延機列2の先頭圧延機2aの出側に温度計5を設ける(図1参照)代わりに、先頭圧延機2aに、圧延負荷検出器12として圧延荷重の検出器が付設されており、それ以外の設備構成は図1の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0023】
圧延材11が中間圧延機列1に到達した時点から、水冷制御装置10により、圧延材11の詳細なトラッキングが行なわれる。圧延材11が中間圧延機列1の最後尾の圧延機1fに到達したかどうかは、メタルイン検出器6により検出される。そして、予め決定されている当該圧延材のパススケジュールと、線速検出器8によって検出される圧延速度と、入側温度計(入側温度検出器)4による圧延材の温度計測値から、中間水冷帯3を通過するときの、圧延材の長手方向の部位と温度と圧延速度とが対応づけられ、これらの値がリンクされて水冷制御装置10に取り込まれる。メタル検出器6により圧延材先端が中間圧延機列1の最後尾の圧延機1fに達したことが検出されると、水冷制御装置10により、この検出時点から圧延材11の先端が中間水冷帯3に到達するまで時間が算出されて、この到達時間から、入側温度計4により、中間水冷帯3入側の圧延材長手方向の温度T1が所定の時間間隔で計測される。そして、この温度計測値T1は、前記のように、圧延材の長手方向の部位と対応づけて水冷制御装置10に取り込まれている。次に、メタル検出器7により、圧延材11の先端が、仕上げ圧延機列2の先頭圧延機2aに到達したことが検出されると、水冷制御装置10からの指令で、前記圧延負荷検出器12により圧延材長手方向の所定の時間間隔で、すなわち、中間水冷帯3の入側で温度計測された圧延材11の長手方向の部位に対応する部位に圧延負荷の圧延荷重Fが計測される。この計測した圧延荷重Fと予め設定した目標圧延荷重Faとの差ΔFに応じて、すなわち、計測負荷が目標負荷に一致するように、当該圧延材に対しては、中間水冷帯3の冷却水流量をフィ−ドバック制御する。また、次圧延材に対しては、冷却水流量および/または圧延速度の設定値(プリセット値)を調整する。
【0024】
前記当該圧延材に対する冷却水流量の制御は、目標圧延荷重Faからの差ΔFに対して、水冷帯の冷却水流量WaをΔFに対応する冷却水流量ΔWaだけ補正する。なお、前記目標圧延荷重Faとの差を比較する先頭圧延機2aの圧延荷重Fは、計測圧延荷重のバラツキを考慮して、圧延材長手方向の複数の計測圧延荷重の平均値(Fav.)である。したがって、ΔF=ABS(Fa−F)=ABS(Fa−Fav.)である。同様に、中間冷却帯1入側の圧延材長手方向の温度T1として、先頭圧延機2aの圧延荷重計測部位に対応する、圧延材長手方向の複数の計測温度の平均値(T1av.)が用いられる。この先頭圧延機2aの計測圧延荷重Fおよび中間圧延機列1の入側の計測温度T1の平均化は、圧延材の長手方向に沿って、圧延荷重および温度計測部位グループについて繰り返される。そして、中間水冷帯3の入側の平均温度T1av.、前記先頭圧延機2aの平均圧延荷重Fav.、目標圧延荷重Faからの荷重偏差ΔF、前記平均温度T1av.を算出した計測部位が中間水冷帯3を通過したときの冷却水流量Wa(平均流量)、補正流量ΔWa(平均流量)、および圧延速度、当該圧延材の製品寸法(仕上げ線径)、鋼種が水冷制御装置10の記憶部(図示省略)に記憶される。そして、同一ロットの次圧延材を含めて、同一鋼種または同一鋼種グループ、同一製品寸法の圧延材に対して、記憶した前記水冷制御結果に基づいて、中間水冷帯3の初期設定流量Wpおよび目標圧延荷重Faからの偏差単位圧延荷重あたりの補正流量ΔWuを修正して水冷制御精度を向上させる。なお、前記冷却水の初期設定流量Wpは、鋼種、製品寸法、圧延速度等の圧延条件ごとに、中間水冷帯3の入側温度T1av.と前記先頭圧延機2aの目標圧延荷重Faに対して、水冷制御実績値等から予め求めておいた冷却水流量に基づいて決定することができる。また、目標温度からの偏差単位圧延荷重あたりの補正流量ΔWuは、当該圧延材に対する補正流量ΔWaの平均値ΔWamと、目標圧延荷重Faと当該圧延材についての圧延荷重Fの平均荷重Fmとの偏差に基づいて算出することが可能である。
【0025】
前述の、先頭圧延機2a出側の圧延材の温度を計測する前記実施形態の場合と同様に、先頭圧延機2aの圧延荷重を計測する上記実施形態の場合も、目標圧延荷重からの偏差に基づいた、水冷制御装置10からの制御指令により、的確かつタイムリーに冷却水流量の調節弁を作動させるために、流量調節弁の動作は遅れを伴うことを考慮して、目標圧延荷重F2aからの荷重偏差ΔFに対する冷却水の補正流量ΔWaを、次圧延材に対して早い目のタイミングで、すなわち、次圧延材の先端部が中間水冷帯3に到達する時点では、前記流量調節弁の開度が前記補正流量ΔWaを取り込んだ初期設定流量(=Wp+ΔWp(=ΔWa))の弁開度となるように弁開度の動作指示を与えることが望ましい。
【0026】
なお、上記の実施形態では、圧延負荷として圧延荷重Fを使用する形態を示したが、圧延負荷として、圧延ロールを駆動する電動機の負荷電流Iを使用することができる。また、圧延負荷として、圧延荷重または負荷電流のいずれを用いる場合でも、圧延速度を変化させると、圧延材の温度が同じでもこれらの圧延負荷が変化するため、前記目標圧延荷重Faまたは目標負荷電流Iaは、圧延速度によって補正できるようにしておくことが望ましい。また、前記先頭圧延機2a出側の計測温度、および先頭圧延機2aの計測圧延負荷は、中間水冷帯3の入側の圧延材温度と目標温度との偏差に基づいてフィ−ドフォワード制御を行なう場合にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態の水冷制御を行なう棒鋼/線材圧延設備のレイアウトの要部を示す説明図である。
【図2】他の実施形態の水冷制御を行なう棒鋼/線材圧延設備のレイアウトの要部を示す説明図である。
【図3】中間水冷過程および復熱過程での圧延材の温度推移を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1:中間圧延機列 1a〜1f:圧延機 2:仕上げ圧延機列
2a〜2f:圧延機 3:中間水冷帯 4:入側温度計
5:出側温度計 6、7:メタルイン(噛み込み)検出器
8、9:線速検出器 10:水冷制御装置 11:圧延材
12:圧延負荷検出器 13:仕上げ温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機出側での圧延材表面温度が所定の温度となるように前記水冷装置への冷却水供給流量を制御することを特徴とする圧延材の水冷制御方法。
【請求項2】
連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で圧延材を水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機出側での圧延材表面温度と予め設定した目標表面温度との偏差に基づき、次圧延材に対して前記水冷装置への冷却水供給流量および/または圧延速度の設定値を調整することを特徴とする圧延材の水冷制御方法。
【請求項3】
連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で圧延材を水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機での圧延負荷が所定の圧延負荷となるように前記水冷装置への冷却水供給流量を制御することを特徴とする圧延材の水冷制御方法。
【請求項4】
連続して多段に配置された圧延機で複数の圧延機列が形成され、上流側と下流側の圧延機列間に、冷却水流量調整手段を備えた水冷制御手段を有する水冷装置を配置した棒鋼または線材圧延設備での圧延材の水冷制御方法であって、前記水冷制御手段により、前記水冷装置で圧延材を水冷後、前記下流側の圧延機列の先頭の圧延機の圧延負荷と予め設定した目標圧延負荷との偏差に基づき、次圧延材に対して前記水冷装置への冷却水供給流量および/または圧延速度の設定値を調整することを特徴とする圧延材の水冷制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−160316(P2007−160316A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356540(P2005−356540)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】