説明

圧延銅箔及びその製造方法

【課題】軟化温度が高く、耐熱性に優れると共に、高光沢であっても表面の微小キズおよびスジが目立たず、オイルピット以外の凹凸が低減されて表面の均一性に優れた圧延銅箔及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】Sが20ppm以下で、表面の圧延平行方向の光沢度(JIS Z8741準拠)Gs(60°)が600を超え、かつ半軟化温度が120℃以上である圧延銅箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブル配線板(FPC:Flexible Printed Circuit)の銅張積層板(CCL)や、リチウムイオン電池等の集電体に用いられる圧延銅箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば銅張積層板(CCL)や電池集電体には、厚み5〜20μm程度の極薄の圧延銅箔が用いられている。このような圧延銅箔として、表面粗さRaが0.1μm以下で、光沢度がG60で350〜500%である高光沢で表面の平滑な銅箔が開発されている(特許文献1参照)。又、圧延面のX線回折で求めた(200)面の積分強度(I)と微粉末銅の(200)面の積分強度(I0)との割合I/I0が20以上であり、光沢度がG60で150%以上である屈曲性に優れた圧延銅箔が開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-281249号公報
【特許文献2】特開2006-326684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、CCL用途の銅箔には板厚20μm以上のものがあったが、機械の小型化、高精密化に伴い、さらに薄い銅箔が求められている。またリチウムイオン電池の集電体に用いられる銅箔は板厚10μmが主流である。たとえば板厚10μm以下の圧延銅箔を従来の工程のまま、つぶし代だけを増やして圧延すると圧延で蓄積される塑性歪みが増大し、時間の経過により常温で軟化し強度が低下するという問題がある。銅箔が軟化すると、ハンドリング時にしわや折れが入りやすいなどの不具合が生じるため、特に、常温で軟化しやすい銅箔を取り扱うときは、銅箔が軟化しない状態で使用できるように、保管期間を短く設定するなどの対応が必要となり、管理が難しくなる。一方、仕上げ圧延前の最終再結晶焼鈍にて、焼鈍温度が高いほど仕上げ圧延後の銅箔の軟化温度が高くなり、常温で軟化しにくくなるものの、再結晶焼鈍で結晶粒が粗大化することで、圧延時にこの粗大粒が表面にスジ状に残って表面欠陥(スジ)となる。従って、再結晶焼鈍温度を高くして軟化を防止することには限界がある。
また、光沢度については、冷間圧延時のオイルピット密度により調整することが可能であり、オイルピット密度を低く、すなわち光沢度を高くすることで、繰返し材料屈曲時の疲労亀裂の起点を少なくして屈曲性を改善することが出来る。しかし、光沢度を高くしすぎるとオイルピットの密度が極端に低く、オイルピット以外の微細な凹凸、例えば、焼鈍後の酸洗で結晶粒界が優先的に溶出して溝状の凹凸が生じる(微小キズ)ために、外観不良となるため、特許文献2記載の技術では光沢度(G60)を600%以下としている。
【0005】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、軟化温度が高く、耐熱性に優れると共に、高光沢であっても表面の微小キズおよびスジが目立たず、オイルピット以外の凹凸が低減されて表面の均一性に優れた圧延銅箔及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、再結晶焼鈍前に行う中間圧延の加工度を85%以上に高くすることで軟化温度が高くなり、耐熱性に優れることを見出した。この理由としては、再結晶焼鈍前の圧延加工度を高くすることで、最終再結晶焼鈍にて立方体集合組織が発達し、これを仕上げ圧延した場合に加工歪が蓄積し難くなり、仕上げ圧延後の再結晶温度が上昇するためであると推定される。
さらに再結晶粒の平均粒径が40μm以上、かつ60μm以下になるように再結晶焼鈍を行うことで、粒界侵食が目立たず、オイルピット以外の凹凸が低減されるので、表面の均一性を保って表面の微小キズが目立たなくなることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の圧延銅箔は、Sが20ppm以下で、表面の圧延平行方向の光沢度(JIS Z8741準拠)Gs(60°)が600を超え、かつ半軟化温度が120℃以上である。
【0008】
200℃で30分加熱後、圧延面につきX線回折で求めた(200)面の強度(I)が、(200)、(111)、(220)、および(311)面の合計強度(I)に対し、I/I<0.95を満たすことが好ましい。
【0009】
本発明の圧延銅箔の製造方法は、請求項1又は2に記載の圧延銅箔の製造方法であって、インゴットを熱間圧延及び冷間圧延した後、焼鈍してから加工度85%以上の中間圧延を行い、該中間圧延後に再結晶粒の平均粒径が40μm以上かつ60μm以下になるように最終再結晶焼鈍を行い、さらに仕上げ冷間圧延する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軟化温度が高く、耐熱性に優れると共に、高光沢であっても表面の微小キズおよびスジが目立たず、オイルピット以外の凹凸が低減されて表面の均一性に優れた圧延銅箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】製品表面、圧延面を光学顕微鏡にて200倍で撮影した写真であり、高光沢でオイルピットを低減させた本発明の実施形態に係る銅箔材料を示す図である。
【図2】製品表面、圧延面を光学顕微鏡にて200倍で撮影した写真であり、従来のオイルピットが多い銅箔材料を示す図である。
【図3】製品表面、圧延面を実体顕微鏡で撮影した写真であり、焼鈍温度を上げすぎて結晶粒が粗大化したために、圧延後の製品にスジ模様として残ったことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る圧延銅箔について説明する。
<組成>
圧延銅箔の組成としては、JIS H3100にC1100の番号で規定するタフピッチ銅(銅含有量99.9質量%以上。酸素含有量100〜500質量ppm。)を挙げることができる。又、これらに微量元素が混入し、その量が増えると電気的特性(導電率)の低下を引き起こすため、上限をAg、As、Sb、Bi、Se、Te、PbおよびSnについて40ppmとしている。Sについては、濃度の増加により半軟化温度が増加し、軟化が改善されるが、CuS介在物を形成し曲げ性を劣化させるため、FPC用途で要求される屈曲性を低下させる可能性があり、一定値以上のSの増加は好ましくなく、本発明ではSの上限は20ppmとする。
又、圧延銅箔の厚みは5〜20μm程度とすることができる。
【0013】
<光沢度>
圧延銅箔表面の圧延平行方向の光沢度(JIS Z8741準拠)をGs(60°)で600%を超えるものとする。
本発明においては、最終再結晶焼鈍において立方体集合組織を発達させることで、加工硬化しにくく、圧延時にせん断帯が発生しにくくなることで、材料にオイルピットが入りにくくなるため、光沢度が高くなる。従来は、光沢度を高くしすぎると表面の微小キズが目立つため、例えば特許文献2記載の技術では光沢度(G60)を600%以下としている。
しかしながら、本発明においては、後述するように再結晶粒の平均粒径が40μm以上になるように再結晶焼鈍を行うことで、粒界侵食が目立たず、オイルピット以外の凹凸が低減され、Gs(60°)を600%超えたとしても差し支えない。一方、最終再結晶焼鈍にて立方体集合組織が十分に発達しない場合には、材料にオイルピットが入りやすくなることで光沢度が低下し、Gs(60°)が600%以下となる。
【0014】
<200℃で30分加熱後の(200)面の強度(I)の割合>
ここで、最終再結晶焼鈍における立方体集合組織((200)面)の発達の程度は、仕上げ圧延後の圧延銅箔につき、200℃で30分加熱後の圧延面のX線回折で求めた(200)面の強度(I)と、(200)、(111)、(220)、および(311)面の合計強度(I)との比であるI/Iで見積もることができる。そして、I/I<0.95を満たした場合に、軟化し難くなるので好ましい。
この理由は明確ではないが、後述するように、焼鈍してから加工度85%以上の中間圧延を行うことで、従来と比較して仕上げ圧延の加工度が小さくなるか、又は仕上げ圧延前の再結晶焼鈍での結晶粒径が大きくなる。その結果、従来工程の材料と比較して、仕上げ圧延後の圧延銅箔を再結晶焼鈍した際に、立方体集合組織が発達し難いためであると推察される。圧延面のX線回折強度は、例えば理学電機社製X線ディフラクトメーターRINT2000等を使用して測定できる。
【0015】
<半軟化温度>
本発明において、圧延銅箔の半軟化温度が120℃以上である。これは、上記したように、最終再結晶焼鈍において立方体集合組織を発達させることで、仕上げ圧延にて材料が加工硬化しにくく軟化し難い特性を得ているためであり、半軟化温度が120℃以上であれば、常温で軟化し難い。
なお、半軟化温度は次のようにして求めることができる。まず、種々の温度で30分間の焼鈍を行なった後の引張り強さを測定する。そして,これら種々の温度での焼鈍後の引張り強さが,圧延上がりの引張り強さと200℃で30分間焼鈍し完全に軟化させた後の引張り強さとの中間の値になるときの焼鈍温度を半軟化温度とする。
【0016】
次に、本発明の実施形態に係る圧延銅箔の製造方法について説明する。
本発明においては、まず、上記組成の銅インゴットを熱間圧延及び冷間圧延した後、焼鈍し、次いで加工度85%以上の中間圧延を行う。そして、中間圧延後に再結晶粒の平均粒径が40μm以上、かつ60μm以下になるように最終再結晶焼鈍を行い、さらに仕上げ冷間圧延する。これにより、Gs(60°)が600%以上で、かつ半軟化温度が120℃以上である圧延銅箔が得られる。
焼鈍と最終再結晶焼鈍との間に加工度85%以上の中間圧延を行うと、材料に強加工が施された後で再結晶焼鈍されるため、再結晶粒が大きくなる。これに対し、従来は、70%程度の加工度で圧延と焼鈍を繰り返した後、最終再結晶焼鈍されており、再結晶粒の成長が促進されなかった。
又、再結晶粒の平均粒径を40μm以上に大きくすると、最終再結晶焼鈍後の酸洗等による粒界侵食(結晶粒界のうち優先的に溶出する部分)が目立たず、オイルピット以外の凹凸が低減されるので、Gs(60°)が600%以上であっても表面の均一性を保ち、表面の微小キズが目立たなくなる。
なお、平均粒径が60μmを超える程度に再結晶焼鈍温度を高くし過ぎると、軟化し難くなるが、部分的に再結晶粒が粗大化する箇所ができる。従って、平均粒径は60μm以下とするのが好ましい。結晶粒径は再結晶焼鈍温度で調整することができ、例えば、保持時間を1分間とした場合、粒径40μm以上、かつ60μm以下で、結晶粒が粗大化しない温度範囲は700〜730℃である。
【実施例】
【0017】
まず、タフピッチ銅(JIS−H−3100に規定されるC1100。Cu分99.9質量%以上。)を組成とする銅インゴットを製造し、厚み10mmまで熱間圧延を行った。その後、冷間圧延し、さらに焼鈍した後、表1に示す加工度で中間圧延した後、表1に示す温度で1分間再結晶焼鈍を行った。さらに表1に示す加工度で仕上げ冷間圧延し、厚み18μmおよび10μmの圧延銅箔を得た。なお、仕上げ冷間圧延の全てのパスの油膜当量を23000とした。
油膜当量は下記式で表される。
(油膜当量)={(圧延油粘度、40℃の動粘度;cSt)×(圧延速度;m/分)}/{(材料の降伏応力;kg/mm2)×(ロール噛込角;rad)}
【0018】
<再結晶焼鈍後の特性>
再結晶焼鈍後で仕上げ冷間圧延前の試料表面の結晶粒径(GS)を、JIS-H0501に規定する切断法によって求めた。
又、再結晶焼鈍後で仕上げ冷間圧延前の試料の圧延面のX線回折強度を、理学電機社製X線ディフラクトメーターRINT2000で測定し、(I)及び(I)を求めた。
【0019】
<最終製品の特性>
最終製品(厚み18μmおよび10μmの圧延銅箔)の各種特性を以下のようにして評価した。
(1)半軟化温度
仕上げ冷間圧延直後の製品について、種々の温度で30分間の焼鈍を行なった後の引張り強さを測定した。そして,これら種々の温度での焼鈍後の引張り強さが,仕上げ冷間圧延直後の製品の引張り強さと200℃で30分間焼鈍し完全に軟化させた後の引張り強さとの中間の値になるときの焼鈍温度を半軟化温度とした。
(2)引張強さ(TS)
仕上げ冷間圧延直後、及び仕上げ冷間圧延から50日経過後の製品について、JIS−Z2241に従い、引張試験機によって圧延方向と平行な方向における引張強さをそれぞれ測定した。
ここで、圧延銅箔は一般的な電解銅箔よりも機械的特性に優れているが、従来の軟化する圧延銅箔は、強度について、2週間経過後で95%前後、3週間後では90%前後であるのに対して、50日経過後では一般的な電解銅箔と同レベルまで低下していた。各実施例の銅箔は、50日経過後も圧延直後に比べ80%以上の強度を保持しており、一般的な電解銅箔と比較して、強度に優れることが判明した。
(3)光沢度
仕上げ冷間圧延直後の製品について、表面の圧延平行方向の光沢度(JIS Z8741準拠)をGs(60°)で測定した。
(4)Ry(最大高さ)
レーザーテック社製コンフォーカル顕微鏡を用い、仕上げ冷間圧延直後の製品表面について、JIS B0601に準拠してRy(最大高さ)を測定した。発明例では、立方体集合組織の発達により、圧延でより均質な変形が可能となり、その材料においては平滑な表面が得られたため、表面粗さが小さく、具体的には、Ryが0.32以下であることが望ましい。
(5)スジ
製品表面、圧延面に目視で図3のような模様が見られた場合は×、見られない場合は○と判定した。
(6)微小キズ
製品表面の圧延面を目視で観察した際に、キズが見られた場合は×、見られない場合は○と判定した。
(7)屈曲性
厚み18μmの銅箔につき、試験片幅:12.7mm、試験片長さ:200mmの試料を200℃で30分間加熱して再結晶させた後に、IPC摺動屈曲試験機を用いて曲げ半径:2.5mm、振動ストローク:25mm、振動速度1500回/分として、屈曲性を評価した。屈曲疲労寿命が100万回を超える場合を屈曲性良好と判定した。
厚み10μmの銅箔につき、試験片幅:12.7mm、試験片長さ:200mmの試料を200℃で30分間加熱して再結晶させた後に、IPC摺動屈曲試験機を用いて曲げ半径:1.4mm、振動ストローク:25mm、振動速度:1500回/分として、屈曲性を評価した。屈曲疲労寿命が100万回を超える場合を屈曲性良好と判定した。
【0020】
得られた結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1から明らかなように、S濃度20ppm以下で、Gs(60°)が600を超え、かつ半軟化温度が120℃以上である発明例1〜5の場合、耐熱性に優れていた。又、各実施例の場合、Gs(60°)で600%を超える高光沢であるにも関らず、表面のスジおよび微小キズが目立たず、屈曲性も良好であった。なお、各実施例の場合、最終再結晶粒の平均粒径が40〜60μmになるよう加工度85%以上の中間圧延を行い、かつ、700〜730℃で再結晶焼鈍し、I/I<0.95となった。
【0023】
一方、Gs(60°)が600以下で、かつ半軟化温度が120℃未満である比較例6〜8の場合、微小キズが目立つとともに耐熱性に劣った。なお、比較例6〜8の場合、中間圧延の加工度が85%未満と低下したため、最終再結晶焼鈍における平均粒径が40μm未満と小さくなり、I/Iが0.95を超えた。
また、実施例1〜5の場合、仕上げ圧延後50日経過後も引張強さはほとんど減少しなかったのに対し、比較例6〜8の場合、仕上げ圧延後50日経過後に引張強さが20%以上減少した。
図1、図2にそれぞれ実施例1及び比較例6の製品表面の光学顕微鏡像を示す。実施例1のほうが表面が平滑であることがわかる。
【0024】
I/I<0.95であるものの、Gs(60°)が600以下で、かつ半軟化温度が120℃未満である比較例9の場合、表面のスジが目立った。
なお、比較例9の場合、再結晶焼鈍温度を750℃と高くしたため、再結晶粒の平均粒径が60μmを超え、I/I<0.95となり、表面の微小キズは低減した。
図3に比較例9の製品表面の外観を示す。図3の縦方向中央付近に、横に延びるスジが生じていることがわかる。
また、比較例6〜9はGs(60°)が600%未満であったために屈曲性に劣った。
【0025】
S濃度20ppmを超えた比較例10の場合、屈曲性に劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sが20ppm以下で、表面の圧延平行方向の光沢度(JIS Z8741準拠)Gs(60°)が600を超え、かつ半軟化温度が120℃以上である圧延銅箔。
【請求項2】
200℃で30分加熱後、圧延面につきX線回折で求めた(200)面の強度(I)が、(200)、(111)、(220)、および(311)面の合計強度(I)に対し、I/I<0.95を満たす請求項1に記載の圧延銅箔。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧延銅箔の製造方法であって、
インゴットを熱間圧延及び冷間圧延した後、焼鈍してから加工度85%以上の中間圧延を行い、該中間圧延後に再結晶粒の平均粒径が40μm以上かつ60μm以下になるように最終再結晶焼鈍を行い、さらに仕上げ冷間圧延する圧延銅箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−201926(P2012−201926A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67473(P2011−67473)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】