圧着金型および端子付き電線の製造方法
【課題】円筒形状の端子圧着部を有する端子金具において、亀裂や割れの発生を抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成可能な技術を提供する。
【解決手段】圧着金型3は、電線圧着部22と対応した形状の凹型面40で電線圧着部22を拘束する第1金型4と、凹型面40と対をなす凸型面50を備える第2金型5とを備える。ここにおいて、凹型面40における凹部41の幅d401と、凸型面50における凸部51の幅d501とが、電線圧着部22の外直径d201と同一である。電線圧着部22を第1金型4の凹型面40と第2金型5の凸型面50とで加圧成形して、電線圧着部22とその筒内部に差し込まれた電線11とを圧着固定する。
【解決手段】圧着金型3は、電線圧着部22と対応した形状の凹型面40で電線圧着部22を拘束する第1金型4と、凹型面40と対をなす凸型面50を備える第2金型5とを備える。ここにおいて、凹型面40における凹部41の幅d401と、凸型面50における凸部51の幅d501とが、電線圧着部22の外直径d201と同一である。電線圧着部22を第1金型4の凹型面40と第2金型5の凸型面50とで加圧成形して、電線圧着部22とその筒内部に差し込まれた電線11とを圧着固定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線と端子金具とを圧着固定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、絶縁体で被覆され、端末において導体線が露出する電線と、当該端末に圧着固定される端子金具とを備える端子付き電線が知られている。端子付き電線の端子金具には各種の形状が存在するが、その一つに、円筒形状の電線圧着部(所謂、クローズドバレル部)を備えるものがある。このクローズドバレル型の端子金具は、高い防水機能を有するため、屋外環境で使用される可能性があるコネクタ(例えば、電気自動車の充電コネクタ)等に好適である。
【0003】
クローズドバレル型の端子金具に関して、例えば特許文献1,2には、クローズドバレル部に電線の導体線を差し込んだ状態で、クローズドバレル部を加圧変形させて電線と端子金具とを圧着固定する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−153187号公報
【特許文献2】実開平6−48171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、端子金具においては、バレル部を十分に変形させて導体線と端子金具とを確実に圧着固定しなければ導通不良等の不具合が生じるところ、変形の度合いが大きくなると、変形させる際に端子金具に亀裂や割れが発生しやすい。特に、クローズドバレル型の端子金具は、削り出しにより成形されるため、削りやすい材料(すなわち、比較的脆い材料)を用いて形成されるという事情がある。このため、クローズドバレル型の端子金具を圧縮変形させる際には、クローズドバレル部に亀裂や割れが非常に発生しやすく、亀裂や割れを発生させずに電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することは容易な事ではなかった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、円筒形状の端子圧着部を有する端子金具において、亀裂や割れの発生を抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、圧着金型であって、端子金具が備える円筒形状の電線圧着部を拘束する凹型面が形成された第1金型と、前記凹型面と対をなす凸型面が形成された第2金型と、を備え、前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一であり、前記電線圧着部を前記凹型面と前記凸型面との間で挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係る圧着金型であって、前記第1金型が、前記凹型面における前記凹部の底面に立設され、前記凹部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第1突起部、を備え、前記第2金型が、前記凸型面における前記凸部の上端面に立設され、前記凸部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第2突起部、を備える。
【0009】
第3の態様は、第2の態様に係る圧着金型であって、前記第1突起部および前記第2突起部の各突起高さが、前記電線圧着部の径方向の厚みの10%以上でありかつ36%以下である。
【0010】
第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様に係る圧着金型であって、前記凹部の底面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凹部の深さ方向に傾斜する第1傾斜面部分、を備え、前記凸部の上端面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凸部の突出方向と逆の方向に傾斜する第2傾斜面部分、を備え、前記第1傾斜面部分と前記第2傾斜面部分とのそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる。
【0011】
第5の態様は、円筒形状の電線圧着部を備える端子金具と電線とを圧着固定して端子付き電線を製造する端子付き電線の製造方法であって、a)前記電線圧着部の筒内部に前記電線が差し込まれた状態とする工程と、b)第1金型に形成された凹型面と、第2金型に形成された凸型面との間に前記電線圧着部が配置された状態とする工程と、c)前記凹型面と前記凸型面との間で前記電線圧着部を挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する工程と、を備え、前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一である。
【発明の効果】
【0012】
第1、第5の態様によると、第1金型の凹型面における凹部の幅と、第2金型の凸型面における凸部の幅とが、電線圧着部の外直径と同一とされている。この構成によると、電線圧着部が圧縮変形される過程において、電線圧着部は、その幅方向の長さを一定に保ったまま上下方向の長さが狭まるように変形されるので、亀裂や割れの発生を抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0013】
第2の態様によると、凹型面における凹部の底面に第1突起部が形成されるとともに、凸型面における凸部の上端面に第2突起部が形成されるので、電線圧着部が圧縮変形されて電線と圧着固定される過程において、電線圧着部の周方向に沿って互いに対向する位置に押し込みが形成される。これによって、電気的性能が確実に担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0014】
第3の態様によると、第1突起部および第2突起部の各突起高さが、電線圧着部の径方向の厚みの10%以上でありかつ36%以下とされる。この構成によると、亀裂や割れの発生の抑制と、良好な電気的性能とを確実に両立することができる。
【0015】
第4の態様によると、凹部の底面が備える第1傾斜面部分、および、凸部の上端面が備える第2傾斜面部分のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる。したがって、これらの傾斜面部分に挟まれて形成されるベルマウス部は、多段階に分けて徐々に拡径した形状とされる。このため、電線圧着部が圧縮変形されて電線と圧着固定される過程において、ベルマウス部に亀裂や割れが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】端子付き電線を模式的に示す側断面図である。
【図2】電線に圧着固定される前の端子金具を模式的に示す側断面図である。
【図3】第1金型を模式的に示す斜視図である。
【図4】第1金型の一部を模式的に示す正面図である。
【図5】第1金型を模式的に示す側断面図である。
【図6】第2金型を模式的に示す斜視図である。
【図7】第2金型の一部を模式的に示す正面図である。
【図8】第2金型を模式的に示す側断面図である。
【図9】圧着工程の格段階の様子を模式的に示す図である。
【図10】圧着工程の格段階の様子を模式的に示す図である。
【図11】互いに異なる圧着固定態様で得られる端子付き電線の各断面図を示す図である。
【図12】互いに異なる金型幅の圧着金型で圧縮変形させて得られる端子付き電線における割れ試験の結果を示す図である。
【図13】互いに異なる押し込み量で得られる端子付き電線の割れ試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、以下の説明において参照される各図には、各部材の位置関係や動作方向を明確化するために、共通のXYZ直交座標系が適宜付されている。
【0018】
<1.端子付き電線100>
端子付き電線100について、図1を参照しながら説明する。図1は、端子付き電線100を模式的に示す側断面図である。
【0019】
端子付き電線100は、電線1と、電線1に圧着された端子金具2とを含む。電線1は、撚り線状に配置された複数本の導体線11と、導体線11を絶縁体で被覆する絶縁被覆12とを備える。電線1は、端末において絶縁被覆12が部分的に除去されて導体線11が露出した状態となっており、この端末に、端子金具2が圧着固定されている。
【0020】
<2.端子金具2>
端子金具2について、図1に加え図2を参照しながら説明する。図2は、電線1に圧着固定される前の端子金具2を模式的に示す側断面図である。
【0021】
端子金具2は、電気接触部21と電線圧着部22とを含む。電気接触部21は、相手方端子と嵌合可能な形状(例えば、ピン状、リング状)に形成されている。電線圧着部22は、導体線11と圧着固定されるワイヤバレル部であり、円筒形状に形成されている。
【0022】
円筒形状の電線圧着部22(所謂「クローズドバレル」)を備える端子金具2は、一般に、削り出しにより成形される。このため、端子金具2は、削り出し成形が容易な材料(例えば、黄銅(材料記号C2801)、快削黄銅(材料記号C3604)等)で形成される。快削黄銅は、黄銅よりも被削性がよいため加工コストを抑えられる半面、黄銅に比べて脆いために、圧縮変形させる際に亀裂や割れが発生しやすいという難点があった。このため、快削黄銅は端子金具2の材料として採用されにくかったが、後に明らかになるように、圧着金型3を用いた圧着固定の態様によると、快削黄銅のような比較的脆い材料で形成された端子金具2であっても、電線圧着部22に亀裂や割れを発生させずに、電気的性能が確実に担保された適切な圧着固定状態を形成できる。
【0023】
<3.端子付き電線100の製造>
端子付き電線100を製造する態様について説明する。端子付き電線100は、端子金具2の電線圧着部22に電線1の導体線11を差し込んだ状態で、圧着金型3を用いて電線圧着部22を圧縮変形させて、導体線11と電線圧着部22とを圧着固定することによって製造される(図9、図10参照)。以下において、電線圧着部22の圧縮変形に供される圧着金型3について具体的に説明する。
【0024】
<3−1.圧着金型3>
圧着金型3は、第1金型(上型)4と第2金型(下型)5とを含む。
【0025】
<第1金型4>
第1金型4の構成について、図3〜図5を参照しながら説明する。図3は、第1金型4を模式的に示す斜視図である。図4は、第1金型4の一部を模式的に示す正面図である。図5は、第1金型4を模式的に示す側断面図である。なお、図4、図5には、第1金型4の各部の寸法と端子金具2の各部の寸法との関係を示すために、端子金具2が仮想線で示されている。
【0026】
第1金型4は、その下端面(−Z側面)に形成された凹型面40を備える。
【0027】
凹型面40は、その幅方向(X方向)に沿う中央部付近に形成され、奥行き方向(Y方向)の両端および深さ方向(Z方向)の一方端(−Z側端)に開口した凹部41を備える。凹部41は電線圧着部22と対応した形状に形成され、凹型面40はこの凹部41において電線圧着部22を拘束する。
【0028】
凹部41は、その幅方向(X方向)の長さd401が電線圧着部22の外直径d201と同一とされる。また、その奥行き方向(Y方向)の長さd402が電線圧着部22の延在方向の長さd202と同一とされる。なお、凹部41は、−Z側の開口端の付近において幅方向の長さが僅かに長くなる裾広がりの形状に形成されることが好ましい。ただし、凹部41の一対の側壁面において、電線圧着部22を圧着変形する過程において、電線圧着部22の幅方向(X方向)に沿う両端(電線圧着部22の断面(径方向に沿う断面)を上下二分する中心線の両端)が当接する領域X(図9参照)を含む領域は、深さ方向に互いに平行に延びる平行面部分を形成しており、上述した凹部41の幅401は、この平行面部分における一対の側壁面の離間距離を指す。
【0029】
凹部41の底面(+Z側端面)42は、その幅方向(X方向)の両端において、凹部41の側壁面と緩やかな曲線によって滑らかに連ねられており、幅方向に沿う断面が略半長円形状とされている。また、底面42には、その幅方向の中央部に、その奥行き方向(Y方向)に沿って延在する突起部(第1突起部)43が立設される。第1突起部43は、その延在方向から見た先端が弧状とされ、最も突起高さが大きい部分の突起高さd403が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上でありかつ36%以下とされる。
【0030】
また、凹部41の底面42は、その奥行き方向の各端部付近にそれぞれ形成された傾斜面部分44,45と、傾斜面部分44,45の間に形成された平坦面部分46を備える。各傾斜面部分44,45は、底面42の奥行き方向の端部に向かうにつれて、凹部41の深さ方向(+Z方向)に傾斜する面部分である。一方、平坦面部分46は、底面42の奥行き方向に沿って、深さ方向に対して傾斜せずに延在する面部分である。
【0031】
ここで、一方の傾斜面部分(+Y側の傾斜面部分)44は、傾斜角度が一定である。当該傾斜面部分44が平坦面部分46となす角度は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。
【0032】
他方の傾斜面部分(以下「第1多段傾斜面部分」ともいう)45は、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する。具体的には、第1多段傾斜面部分45は、平坦面部分46に連なり、平坦面部分46に対して角度θ1だけ深さ方向に傾斜して延在する第1段階傾斜部451と、第1段階傾斜部451に連なり、第1段階傾斜部451に対して角度θ2だけ深さ方向に傾斜して(すなわち、平坦面部分46に対して角度(θ1+θ2)だけ深さ方向に傾斜して)延在する第2段階傾斜部452とを備える。第1段階傾斜部451が平坦面部分46となす角度θ1は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。また、第2段階傾斜部452が第1段階傾斜部451なす角度θ2も、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。傾斜角度が大きくなるように非連続的に変化する形状は、傾斜角度が連続的に大きくなるように変化する形状に比べて、加工が容易(製造しやすい)という利点がある。
【0033】
<第2金型5>
第2金型5の構成について、図6〜図8を参照しながら説明する。図6は、第2金型5を模式的に示す斜視図である。図7は、第2金型5の一部を模式的に示す正面図である。図8は、第2金型5を模式的に示す側断面図である。なお、図7、図8には、第2金型5の各部の寸法と端子金具2の各部の寸法との関係を示すために、端子金具2が仮想線で示されている。
【0034】
第2金型5は、その上端面(+Z側面)に形成された凸型面50を備える。
【0035】
凸型面50は、その幅方向(X方向)に沿う中央部付近に形成された凸部51を備える。凸部51は、凹部41と対応した形状に形成され、凹部41内に挿入可能に形成される。
【0036】
凸部51は、その幅方向(X方向)の長さd501が電線圧着部22の外直径d201と同一とされる。また、その奥行き方向(Y方向)の長さd502が電線圧着部22の延在方向の長さd202と同一とされる。なお、凸部51は、下端付近において幅方向の長さが上端付近の幅方向の長さd501よりも僅かに長くなる裾広がりの形状に形成されてもよい。ただし、凸部51は、少なくともその上端付近においては幅方向の厚みが一定に形成されており、凸部51の上端面(+Z側端面)52の幅方向(X方向)の長さは、凸部51の幅方向の長さd501と等しくなっている。すなわち、凸部51の上端面52の幅方向の長さは、電線圧着部22の外直径d201と同一とされる。
【0037】
凸部51の上端面52は、凹部41の底面42を上下反転した形状とされている。すなわち、上端面52は、その幅方向の両端において緩やかに反り上がっており、幅方向に沿う断面が略半長円形状とされている。また、上端面52には、その幅方向の中央部に、その奥行き方向(Y方向)に沿って延在する突起部(第2突起部)53が立設される。第2突起部53は、その延在方向から見た先端が弧状とされ、最も突起高さが大きい部分の突起高さd503が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上でありかつ36%以下とされる。
【0038】
また、凸部51の上端面52は、その奥行き方向の各端部付近にそれぞれ形成された傾斜面部分54,55と、傾斜面部分54,55の間に形成された平坦面部分56を備える。各傾斜面部分54,55は、上端面52の奥行き方向の端部に向かうにつれて、凸部51の突出方向と逆の方向(−Z方向)に傾斜する面部分である。一方、平坦面部分56は、上端面52の奥行き方向に沿って、凸部51の突出方向に対して傾斜せずに延在する面部分である。
【0039】
ここで、一方の傾斜面部分(+Y側の傾斜面部分)54は、傾斜角度が一定である。当該傾斜面部分54が平坦面部分56となす角度は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。
【0040】
他方の傾斜面部分(以下「第2多段傾斜面部分」ともいう)55は、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する。具体的には、第2多段傾斜面部分55は、平坦面部分56に連なり、平坦面部分56に対して角度θ1だけ深さ方向に傾斜して延在する第1段階傾斜部551と、第1段階傾斜部551に連なり、第1段階傾斜部551に対して角度θ2だけ深さ方向に傾斜して(すなわち、平坦面部分56に対して角度(θ1+θ2)だけ深さ方向に傾斜して)延在する第2段階傾斜部552とを備える。第1段階傾斜部551が平坦面部分56となす角度θ1は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。また、第2段階傾斜部452が第1段階傾斜部451なす角度θ2も、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。上述したとおり、傾斜角度が大きくなるように非連続的に変化する形状は、傾斜角度が連続的に大きくなるように変化する形状に比べて、加工が容易(製造しやすい)という利点がある。
【0041】
<3−2.圧着工程>
次に、圧着金型3を用いて端子付き電線100を製造する工程(圧着工程)について、図9、図10を参照しながら説明する。図9、図10は、圧着工程の格段階における圧着金型3および端子金具2の断面の様子を模式的に示す図である。
【0042】
第1金型4と第2金型5とは、凹型面40と凸型面50とを上下に対向させた姿勢で上下に離間して配置されており、一方の金型(ここでは、第1金型4)は、固定的に支持された他方の金型(ここでは、第2金型5)に対して鉛直軸に沿って進退移動可能に構成される。
【0043】
圧着工程においては、まず、端子金具2の電線圧着部22の筒内部に導体線11が差し込まれた状態とする。続いて、筒内部に導体線11が差し込まれた電線圧着部22を、その延在方向を第2金型5の凸部51の上端面52の奥行き方向に沿わせるような姿勢で、上端面52に載置された状態とする。これによって、電線圧着部22が第1金型4の凹型面40と第2金型5の凸型面50との間に配置された状態となる。なお、電線圧着部22を上端面52に載置してから(あるいは、載置すると同時に)、電線圧着部22に導体線11を差し込んでもよい。
【0044】
続いて、第1金型4を下方に移動させることにより凹型面40を凸型面50に近づける。すると、凸部51および上端面52に載置された電線圧着部22が、凹型面40の凹部41内に誘い込まれる。なお、凹部41を裾広がりの形状に形成しておけば、凸部51および電線圧着部22が凹部41内にスムースに誘い込まれる。
【0045】
第1金型4がさらに下方に移動されると、凹部41の底面42が電線圧着部22の上端(+Z側端)に当接する(図9、図10の上段に示される状態)。つまり、この状態においては、電線圧着部22は、その上端において底面42と当接するとともに、その下端(−Z側端)において上端面52と当接した状態となる。また、上述したとおり、凹部41の幅方向の長さd401および凸部51の幅方向の長さd501はいずれも電線圧着部22の外直径と略同一とされているため、この状態において、電線圧着部22は、その幅方向(X方向)に沿う両端のそれぞれにおいて、凹部41の側壁と当接した状態となる。
【0046】
第1金型4がさらに下方に移動されると、電線圧着部22が凹型面40と凸型面50との間に挟まれて圧縮変形される(図9、図10の下段に示される状態)。具体的には、電線圧着部22は、その幅方向の長さを変えずに、その高さ方向について圧縮されて、略長円形状に変形される。これによって、電線圧着部22とその筒内部に差し込まれた導体線11とが圧着固定される。
【0047】
ただし、凹型面40と凸型面50との間に挟まれて圧縮変形される際に、電線圧着部22には、その上端辺の中央付近において、凹部41の底面42に形成された第1突起部43により押し込みがつけられるとともに、その下端辺の中央付近において凸部51の上端面52に形成された第2突起部53により押し込みがつけられる。これによって、電線圧着部22の幅方向の中央付近における圧着不良の発生が回避され、電線圧着部22が導体線11と確実に圧着固定される。
【0048】
また、凹型面40と凸型面50との間に挟まれて圧縮変形される際に、電線圧着部22には、その延在方向に沿う端部のうち、開口側の端部は、底面42に形成された傾斜面部分44と、上端面52に形成された傾斜面部分54との間に挟み込まれることによって、端部に近づくにつれて拡径した拡径部201が形成される。一方、電気接触部21側の端部は、底面42に形成された第1多段傾斜面部分45と、上端面52に形成された第2多段傾斜面部分55との間に挟み込まれることによって、端部に近づくにつれて、多段階に分けて徐々に拡径した拡径部(ベルマウス部)202が形成される。
【0049】
<4.効果>
<4−1.凹部41と凸部51の幅>
圧着金型3においては、第1金型4の凹型面40における凹部41の幅d401と、第2金型5の凸型面50における凸部51の幅d501とが、電線圧着部22の外直径d201と同一とされている。この構成によると、電線圧着部22が圧縮変形される過程において、電線圧着部22は、その幅方向の長さを一定に保ったまま上下方向の長さが狭まるように変形されるので、例えば快削黄銅のような比較的脆い材料で形成された端子金具2であっても、亀裂や割れの発生を抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0050】
この点について、図11には、快削黄銅により形成された端子金具2を、それぞれ異なる態様で電線1の導体線11に圧着固定して得られる端子付き電線の断面におけるCAE解析結果が模式的に示されている。図においては、割れの原因となりうる大きな歪みが生じた部分が網掛けで示されており、色が濃いほど大きな歪みが生じたことを示している。なお、図11には、圧縮変形の前後における端子金具の幅の変化を示すために、圧縮変形される前の端子金具2が仮想線で示されている。
【0051】
第1の端子付き電線は、上記に説明した端子付き電線100であり、圧着金型3を用いて製造されたものである。第2の端子付き電線(第1比較例)901は、導体線11が差し込まれた電線圧着部22に上下左右の四方から棒状の金型等を押し込んで電線圧着部22を圧縮変形させてこれを導体線11に圧着固定したものである。第3の端子付き電線(第2比較例)902は、電線圧着部22の外直径よりも幅広の凹部を有する凹型面と電線圧着部22の外直径よりも幅広の凸部を有する凸型面との間に電線圧着部22を挟み込んでこれを圧縮変形させて、電線圧着部22を導体線11に圧着固定したものである。
【0052】
第1比較例901においては、電線圧着部22は、断面円形状から断面略矩形状に変形されており、一群の導体線11は断面略矩形状に束ねられて電線圧着部22と圧着固定されている。この構成においては、電線圧着部22において金型からの押し込みを受けた部分の付近に割れの原因となりうる大きな歪みが確認された。また、束ねられた導体線11の角部から電線圧着部22の径方向に沿う亀裂が発生しやすいことも確認された。また、電線圧着部22の外観にも割れが発生しやすいことも確認された。
【0053】
一方、第2比較例902においては、電線圧着部22は、上下方向の長さが狭まるとともに、幅方向の長さが広がるように変形されており、一群の導体線11は、幅方向に沿う中央付近がくびれた扁平な瓢箪形状に束ねられて電線圧着部22と圧着固定されている。この構成においては、電線圧着部22において幅方向に沿う両端部分に割れの原因となりうる大きな歪みが確認された。また、束ねられた導体線11の幅方向に沿う端部から電線圧着部22の径方向に沿う亀裂が発生しやすいことも確認された。
【0054】
これに対し、端子付き電線100においては、電線圧着部22は、幅方向の長さを一定に保ったまま上下方向の長さが狭まるように変形されて、円形状から略長円形状(2つの半円を直線でつないだ形状)に変形されており、一群の導体線11は、電線圧着部22と略相似の長円形状に束ねられて電線圧着部22と圧着固定されている。この構成においては、電線圧着部22において割れの原因となる大きな歪みが生じる部分は確認されなかった。また、導体線11と電線圧着部22との境界部分から電線圧着部22の径方向に沿う亀裂も確認されなかった。また、電気的性能も担保されることが確認された。
【0055】
また、図12には、快削黄銅により形成された各種サイズの端子金具2を、それぞれ金型幅が異なる圧着金型で圧縮変形させて得られる端子付き電線における割れ試験の結果が示されている。ただし、「金型幅」とは、圧着金型の凹部の幅(すなわち、凸部の幅)を意味している。なお、図中、「割れ結果」については、割れが確認されなかった場合に「○」が、割れが確認された場合に「×」が、それぞれ付与されている。
【0056】
この試験でも、金型幅が電線圧着部22の外直径と等しい場合には割れが発生せず、電線圧着部22の外直径よりも大きい場合、あるいは、小さい場合には、割れが発生することが確認された。
【0057】
<4−2.押し込み>
また、圧着金型3においては、凹型面40における凹部41の底面42に第1突起部43が形成されるとともに、凸型面50における凸部51の上端面52に第2突起部53が形成されるので、電線圧着部22が圧縮変形されて導体線11と圧着固定される過程において、電線圧着部22の周方向に沿って互いに対向する位置に押し込みが形成される。これによって、電気的性能が確実に担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0058】
なお、第1突起部43および第2突起部53による押し込み量(具体的には、第1突起部43の高さd403および第2突起部53の高さd504)は、上述したとおり、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上でありかつ36%以下であることが好ましい。この構成によると、亀裂や割れの発生の抑制と、良好な電気的性能とを簡易かつ確実に両立することができる。
【0059】
この点について、図13には、快削黄銅により形成された各種サイズの端子金具2を、それぞれ異なる押し込み量で電線1の導体線11に圧着固定して得られる端子付き電線における割れ試験の結果が示されている。
【0060】
この試験では、押し込み量が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の36%以下の場合は、割れが発生しないことが確認された。一方、押し込み量が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の50%以上になると、割れが発生することが確認された。これは、押し込み量が大きくなるにつれて、圧縮変形の過程において電線圧着部22に生じる歪みが大きくなることに起因するものと考えられる。
【0061】
ただし、押し込み量が小さくなると、割れの発生は抑制されるものの、実用に足る電気的性能が担保できない可能性がでてくる。したがって、電気的性能を確保するためには、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上の押し込み量が形成されることが望ましい。
【0062】
<4−3.ベルマウス部202>
また、圧着金型3においては、凹部41の底面42が備える第1多段傾斜面部分45、および、凸部51の上端面52が備える第2多段傾斜面部分55のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる。したがって、これらの多段傾斜面部分45,55に挟まれて形成されるベルマウス部202は、多段階に分けて徐々に拡径した形状とされる。このため、電線圧着部22が圧縮変形されて導体線11と圧着固定される過程において、ベルマウス部202に亀裂や割れが発生しにくい。
【0063】
<5.変形例>
上記の実施形態に係る圧着金型3においては、凹部41の幅d401と凸部51の幅d501とが、電線圧着部22の外直径d201と同一とされており(第1の構成)、かつ、凹部41の底面42に第1突起部43が、また、凸部51の上端面52に第2突起部53がそれぞれ形成されており(第2の構成)、かつ、凹部41の底面42が備える第1多段傾斜面部分45、および、凸部51の上端面52が備える第2多段傾斜面部分55のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされていた(第3の構成)。ここで、圧着金型3は、必ずしも第1〜第3の構成の全てを併せ持つ必要はない。
【0064】
例えば、第1の構成と第2の構成とを採用した圧着金型(凹部の幅と凸部の幅とが、電線圧着部22の外直径d201と同一であり、凹部の底面と凸部の上端面とに押し込みのための突起が形成される圧着金型であって、凹部の底面が備える各傾斜面部分、および、凸部の上端面が備える各段傾斜面部分のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が変化しない形状のもの)も有効である。この態様においても、亀裂や割れの発生をある程度抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することができる。なお、この構成において、凹部の底面と凸部の上端面とに押し込みのための突起を形成しない態様も実現可能である。ただし、上述したとおり、電気的性能を確実に担保するためには、凹部の底面および凸部の上端面に押し込みのための突起を形成することがより好ましい。
【0065】
また例えば、第3の構成のみを採用した圧着金型(凹部の底面が備える一方の傾斜面部分、および、凸部の上端面が備える一方の段傾斜面部分のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状の圧着金型であって、凹部の幅と凸部の幅とが電線圧着部22の外直径d201と同一ではなく、また、凹部の底面も凸部の上端面にも押し込みのための突起も形成されない形状のもの)も有効である。この態様においては、特に、多段傾斜面部分に挟まれて形成されるベルマウス部に亀裂や割れが発生しにくいという効果が得られる。また、第3の構成は、例えば、円筒形状以外の形状の電線圧着部を備える端子金具と電線とを圧着固定する際に用いる圧着金型においても単独で採用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 電線
11 導体線
2 端子金具
22 電線圧着部
3 圧着金型
4 第1金型
5 第2金型
40 凹型面
41 凹部
42 底面
43 第1突起部
45 第1多段傾斜面部分
50 凸型面
51 凸部
52 上端面
53 第2突起部
55 第2多段傾斜面部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線と端子金具とを圧着固定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、絶縁体で被覆され、端末において導体線が露出する電線と、当該端末に圧着固定される端子金具とを備える端子付き電線が知られている。端子付き電線の端子金具には各種の形状が存在するが、その一つに、円筒形状の電線圧着部(所謂、クローズドバレル部)を備えるものがある。このクローズドバレル型の端子金具は、高い防水機能を有するため、屋外環境で使用される可能性があるコネクタ(例えば、電気自動車の充電コネクタ)等に好適である。
【0003】
クローズドバレル型の端子金具に関して、例えば特許文献1,2には、クローズドバレル部に電線の導体線を差し込んだ状態で、クローズドバレル部を加圧変形させて電線と端子金具とを圧着固定する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−153187号公報
【特許文献2】実開平6−48171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、端子金具においては、バレル部を十分に変形させて導体線と端子金具とを確実に圧着固定しなければ導通不良等の不具合が生じるところ、変形の度合いが大きくなると、変形させる際に端子金具に亀裂や割れが発生しやすい。特に、クローズドバレル型の端子金具は、削り出しにより成形されるため、削りやすい材料(すなわち、比較的脆い材料)を用いて形成されるという事情がある。このため、クローズドバレル型の端子金具を圧縮変形させる際には、クローズドバレル部に亀裂や割れが非常に発生しやすく、亀裂や割れを発生させずに電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することは容易な事ではなかった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、円筒形状の端子圧着部を有する端子金具において、亀裂や割れの発生を抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様は、圧着金型であって、端子金具が備える円筒形状の電線圧着部を拘束する凹型面が形成された第1金型と、前記凹型面と対をなす凸型面が形成された第2金型と、を備え、前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一であり、前記電線圧着部を前記凹型面と前記凸型面との間で挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係る圧着金型であって、前記第1金型が、前記凹型面における前記凹部の底面に立設され、前記凹部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第1突起部、を備え、前記第2金型が、前記凸型面における前記凸部の上端面に立設され、前記凸部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第2突起部、を備える。
【0009】
第3の態様は、第2の態様に係る圧着金型であって、前記第1突起部および前記第2突起部の各突起高さが、前記電線圧着部の径方向の厚みの10%以上でありかつ36%以下である。
【0010】
第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様に係る圧着金型であって、前記凹部の底面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凹部の深さ方向に傾斜する第1傾斜面部分、を備え、前記凸部の上端面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凸部の突出方向と逆の方向に傾斜する第2傾斜面部分、を備え、前記第1傾斜面部分と前記第2傾斜面部分とのそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる。
【0011】
第5の態様は、円筒形状の電線圧着部を備える端子金具と電線とを圧着固定して端子付き電線を製造する端子付き電線の製造方法であって、a)前記電線圧着部の筒内部に前記電線が差し込まれた状態とする工程と、b)第1金型に形成された凹型面と、第2金型に形成された凸型面との間に前記電線圧着部が配置された状態とする工程と、c)前記凹型面と前記凸型面との間で前記電線圧着部を挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する工程と、を備え、前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一である。
【発明の効果】
【0012】
第1、第5の態様によると、第1金型の凹型面における凹部の幅と、第2金型の凸型面における凸部の幅とが、電線圧着部の外直径と同一とされている。この構成によると、電線圧着部が圧縮変形される過程において、電線圧着部は、その幅方向の長さを一定に保ったまま上下方向の長さが狭まるように変形されるので、亀裂や割れの発生を抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0013】
第2の態様によると、凹型面における凹部の底面に第1突起部が形成されるとともに、凸型面における凸部の上端面に第2突起部が形成されるので、電線圧着部が圧縮変形されて電線と圧着固定される過程において、電線圧着部の周方向に沿って互いに対向する位置に押し込みが形成される。これによって、電気的性能が確実に担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0014】
第3の態様によると、第1突起部および第2突起部の各突起高さが、電線圧着部の径方向の厚みの10%以上でありかつ36%以下とされる。この構成によると、亀裂や割れの発生の抑制と、良好な電気的性能とを確実に両立することができる。
【0015】
第4の態様によると、凹部の底面が備える第1傾斜面部分、および、凸部の上端面が備える第2傾斜面部分のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる。したがって、これらの傾斜面部分に挟まれて形成されるベルマウス部は、多段階に分けて徐々に拡径した形状とされる。このため、電線圧着部が圧縮変形されて電線と圧着固定される過程において、ベルマウス部に亀裂や割れが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】端子付き電線を模式的に示す側断面図である。
【図2】電線に圧着固定される前の端子金具を模式的に示す側断面図である。
【図3】第1金型を模式的に示す斜視図である。
【図4】第1金型の一部を模式的に示す正面図である。
【図5】第1金型を模式的に示す側断面図である。
【図6】第2金型を模式的に示す斜視図である。
【図7】第2金型の一部を模式的に示す正面図である。
【図8】第2金型を模式的に示す側断面図である。
【図9】圧着工程の格段階の様子を模式的に示す図である。
【図10】圧着工程の格段階の様子を模式的に示す図である。
【図11】互いに異なる圧着固定態様で得られる端子付き電線の各断面図を示す図である。
【図12】互いに異なる金型幅の圧着金型で圧縮変形させて得られる端子付き電線における割れ試験の結果を示す図である。
【図13】互いに異なる押し込み量で得られる端子付き電線の割れ試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、以下の説明において参照される各図には、各部材の位置関係や動作方向を明確化するために、共通のXYZ直交座標系が適宜付されている。
【0018】
<1.端子付き電線100>
端子付き電線100について、図1を参照しながら説明する。図1は、端子付き電線100を模式的に示す側断面図である。
【0019】
端子付き電線100は、電線1と、電線1に圧着された端子金具2とを含む。電線1は、撚り線状に配置された複数本の導体線11と、導体線11を絶縁体で被覆する絶縁被覆12とを備える。電線1は、端末において絶縁被覆12が部分的に除去されて導体線11が露出した状態となっており、この端末に、端子金具2が圧着固定されている。
【0020】
<2.端子金具2>
端子金具2について、図1に加え図2を参照しながら説明する。図2は、電線1に圧着固定される前の端子金具2を模式的に示す側断面図である。
【0021】
端子金具2は、電気接触部21と電線圧着部22とを含む。電気接触部21は、相手方端子と嵌合可能な形状(例えば、ピン状、リング状)に形成されている。電線圧着部22は、導体線11と圧着固定されるワイヤバレル部であり、円筒形状に形成されている。
【0022】
円筒形状の電線圧着部22(所謂「クローズドバレル」)を備える端子金具2は、一般に、削り出しにより成形される。このため、端子金具2は、削り出し成形が容易な材料(例えば、黄銅(材料記号C2801)、快削黄銅(材料記号C3604)等)で形成される。快削黄銅は、黄銅よりも被削性がよいため加工コストを抑えられる半面、黄銅に比べて脆いために、圧縮変形させる際に亀裂や割れが発生しやすいという難点があった。このため、快削黄銅は端子金具2の材料として採用されにくかったが、後に明らかになるように、圧着金型3を用いた圧着固定の態様によると、快削黄銅のような比較的脆い材料で形成された端子金具2であっても、電線圧着部22に亀裂や割れを発生させずに、電気的性能が確実に担保された適切な圧着固定状態を形成できる。
【0023】
<3.端子付き電線100の製造>
端子付き電線100を製造する態様について説明する。端子付き電線100は、端子金具2の電線圧着部22に電線1の導体線11を差し込んだ状態で、圧着金型3を用いて電線圧着部22を圧縮変形させて、導体線11と電線圧着部22とを圧着固定することによって製造される(図9、図10参照)。以下において、電線圧着部22の圧縮変形に供される圧着金型3について具体的に説明する。
【0024】
<3−1.圧着金型3>
圧着金型3は、第1金型(上型)4と第2金型(下型)5とを含む。
【0025】
<第1金型4>
第1金型4の構成について、図3〜図5を参照しながら説明する。図3は、第1金型4を模式的に示す斜視図である。図4は、第1金型4の一部を模式的に示す正面図である。図5は、第1金型4を模式的に示す側断面図である。なお、図4、図5には、第1金型4の各部の寸法と端子金具2の各部の寸法との関係を示すために、端子金具2が仮想線で示されている。
【0026】
第1金型4は、その下端面(−Z側面)に形成された凹型面40を備える。
【0027】
凹型面40は、その幅方向(X方向)に沿う中央部付近に形成され、奥行き方向(Y方向)の両端および深さ方向(Z方向)の一方端(−Z側端)に開口した凹部41を備える。凹部41は電線圧着部22と対応した形状に形成され、凹型面40はこの凹部41において電線圧着部22を拘束する。
【0028】
凹部41は、その幅方向(X方向)の長さd401が電線圧着部22の外直径d201と同一とされる。また、その奥行き方向(Y方向)の長さd402が電線圧着部22の延在方向の長さd202と同一とされる。なお、凹部41は、−Z側の開口端の付近において幅方向の長さが僅かに長くなる裾広がりの形状に形成されることが好ましい。ただし、凹部41の一対の側壁面において、電線圧着部22を圧着変形する過程において、電線圧着部22の幅方向(X方向)に沿う両端(電線圧着部22の断面(径方向に沿う断面)を上下二分する中心線の両端)が当接する領域X(図9参照)を含む領域は、深さ方向に互いに平行に延びる平行面部分を形成しており、上述した凹部41の幅401は、この平行面部分における一対の側壁面の離間距離を指す。
【0029】
凹部41の底面(+Z側端面)42は、その幅方向(X方向)の両端において、凹部41の側壁面と緩やかな曲線によって滑らかに連ねられており、幅方向に沿う断面が略半長円形状とされている。また、底面42には、その幅方向の中央部に、その奥行き方向(Y方向)に沿って延在する突起部(第1突起部)43が立設される。第1突起部43は、その延在方向から見た先端が弧状とされ、最も突起高さが大きい部分の突起高さd403が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上でありかつ36%以下とされる。
【0030】
また、凹部41の底面42は、その奥行き方向の各端部付近にそれぞれ形成された傾斜面部分44,45と、傾斜面部分44,45の間に形成された平坦面部分46を備える。各傾斜面部分44,45は、底面42の奥行き方向の端部に向かうにつれて、凹部41の深さ方向(+Z方向)に傾斜する面部分である。一方、平坦面部分46は、底面42の奥行き方向に沿って、深さ方向に対して傾斜せずに延在する面部分である。
【0031】
ここで、一方の傾斜面部分(+Y側の傾斜面部分)44は、傾斜角度が一定である。当該傾斜面部分44が平坦面部分46となす角度は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。
【0032】
他方の傾斜面部分(以下「第1多段傾斜面部分」ともいう)45は、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する。具体的には、第1多段傾斜面部分45は、平坦面部分46に連なり、平坦面部分46に対して角度θ1だけ深さ方向に傾斜して延在する第1段階傾斜部451と、第1段階傾斜部451に連なり、第1段階傾斜部451に対して角度θ2だけ深さ方向に傾斜して(すなわち、平坦面部分46に対して角度(θ1+θ2)だけ深さ方向に傾斜して)延在する第2段階傾斜部452とを備える。第1段階傾斜部451が平坦面部分46となす角度θ1は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。また、第2段階傾斜部452が第1段階傾斜部451なす角度θ2も、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。傾斜角度が大きくなるように非連続的に変化する形状は、傾斜角度が連続的に大きくなるように変化する形状に比べて、加工が容易(製造しやすい)という利点がある。
【0033】
<第2金型5>
第2金型5の構成について、図6〜図8を参照しながら説明する。図6は、第2金型5を模式的に示す斜視図である。図7は、第2金型5の一部を模式的に示す正面図である。図8は、第2金型5を模式的に示す側断面図である。なお、図7、図8には、第2金型5の各部の寸法と端子金具2の各部の寸法との関係を示すために、端子金具2が仮想線で示されている。
【0034】
第2金型5は、その上端面(+Z側面)に形成された凸型面50を備える。
【0035】
凸型面50は、その幅方向(X方向)に沿う中央部付近に形成された凸部51を備える。凸部51は、凹部41と対応した形状に形成され、凹部41内に挿入可能に形成される。
【0036】
凸部51は、その幅方向(X方向)の長さd501が電線圧着部22の外直径d201と同一とされる。また、その奥行き方向(Y方向)の長さd502が電線圧着部22の延在方向の長さd202と同一とされる。なお、凸部51は、下端付近において幅方向の長さが上端付近の幅方向の長さd501よりも僅かに長くなる裾広がりの形状に形成されてもよい。ただし、凸部51は、少なくともその上端付近においては幅方向の厚みが一定に形成されており、凸部51の上端面(+Z側端面)52の幅方向(X方向)の長さは、凸部51の幅方向の長さd501と等しくなっている。すなわち、凸部51の上端面52の幅方向の長さは、電線圧着部22の外直径d201と同一とされる。
【0037】
凸部51の上端面52は、凹部41の底面42を上下反転した形状とされている。すなわち、上端面52は、その幅方向の両端において緩やかに反り上がっており、幅方向に沿う断面が略半長円形状とされている。また、上端面52には、その幅方向の中央部に、その奥行き方向(Y方向)に沿って延在する突起部(第2突起部)53が立設される。第2突起部53は、その延在方向から見た先端が弧状とされ、最も突起高さが大きい部分の突起高さd503が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上でありかつ36%以下とされる。
【0038】
また、凸部51の上端面52は、その奥行き方向の各端部付近にそれぞれ形成された傾斜面部分54,55と、傾斜面部分54,55の間に形成された平坦面部分56を備える。各傾斜面部分54,55は、上端面52の奥行き方向の端部に向かうにつれて、凸部51の突出方向と逆の方向(−Z方向)に傾斜する面部分である。一方、平坦面部分56は、上端面52の奥行き方向に沿って、凸部51の突出方向に対して傾斜せずに延在する面部分である。
【0039】
ここで、一方の傾斜面部分(+Y側の傾斜面部分)54は、傾斜角度が一定である。当該傾斜面部分54が平坦面部分56となす角度は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。
【0040】
他方の傾斜面部分(以下「第2多段傾斜面部分」ともいう)55は、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する。具体的には、第2多段傾斜面部分55は、平坦面部分56に連なり、平坦面部分56に対して角度θ1だけ深さ方向に傾斜して延在する第1段階傾斜部551と、第1段階傾斜部551に連なり、第1段階傾斜部551に対して角度θ2だけ深さ方向に傾斜して(すなわち、平坦面部分56に対して角度(θ1+θ2)だけ深さ方向に傾斜して)延在する第2段階傾斜部552とを備える。第1段階傾斜部551が平坦面部分56となす角度θ1は、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。また、第2段階傾斜部452が第1段階傾斜部451なす角度θ2も、30°より小さいことが好ましく、例えば15°とすることができる。上述したとおり、傾斜角度が大きくなるように非連続的に変化する形状は、傾斜角度が連続的に大きくなるように変化する形状に比べて、加工が容易(製造しやすい)という利点がある。
【0041】
<3−2.圧着工程>
次に、圧着金型3を用いて端子付き電線100を製造する工程(圧着工程)について、図9、図10を参照しながら説明する。図9、図10は、圧着工程の格段階における圧着金型3および端子金具2の断面の様子を模式的に示す図である。
【0042】
第1金型4と第2金型5とは、凹型面40と凸型面50とを上下に対向させた姿勢で上下に離間して配置されており、一方の金型(ここでは、第1金型4)は、固定的に支持された他方の金型(ここでは、第2金型5)に対して鉛直軸に沿って進退移動可能に構成される。
【0043】
圧着工程においては、まず、端子金具2の電線圧着部22の筒内部に導体線11が差し込まれた状態とする。続いて、筒内部に導体線11が差し込まれた電線圧着部22を、その延在方向を第2金型5の凸部51の上端面52の奥行き方向に沿わせるような姿勢で、上端面52に載置された状態とする。これによって、電線圧着部22が第1金型4の凹型面40と第2金型5の凸型面50との間に配置された状態となる。なお、電線圧着部22を上端面52に載置してから(あるいは、載置すると同時に)、電線圧着部22に導体線11を差し込んでもよい。
【0044】
続いて、第1金型4を下方に移動させることにより凹型面40を凸型面50に近づける。すると、凸部51および上端面52に載置された電線圧着部22が、凹型面40の凹部41内に誘い込まれる。なお、凹部41を裾広がりの形状に形成しておけば、凸部51および電線圧着部22が凹部41内にスムースに誘い込まれる。
【0045】
第1金型4がさらに下方に移動されると、凹部41の底面42が電線圧着部22の上端(+Z側端)に当接する(図9、図10の上段に示される状態)。つまり、この状態においては、電線圧着部22は、その上端において底面42と当接するとともに、その下端(−Z側端)において上端面52と当接した状態となる。また、上述したとおり、凹部41の幅方向の長さd401および凸部51の幅方向の長さd501はいずれも電線圧着部22の外直径と略同一とされているため、この状態において、電線圧着部22は、その幅方向(X方向)に沿う両端のそれぞれにおいて、凹部41の側壁と当接した状態となる。
【0046】
第1金型4がさらに下方に移動されると、電線圧着部22が凹型面40と凸型面50との間に挟まれて圧縮変形される(図9、図10の下段に示される状態)。具体的には、電線圧着部22は、その幅方向の長さを変えずに、その高さ方向について圧縮されて、略長円形状に変形される。これによって、電線圧着部22とその筒内部に差し込まれた導体線11とが圧着固定される。
【0047】
ただし、凹型面40と凸型面50との間に挟まれて圧縮変形される際に、電線圧着部22には、その上端辺の中央付近において、凹部41の底面42に形成された第1突起部43により押し込みがつけられるとともに、その下端辺の中央付近において凸部51の上端面52に形成された第2突起部53により押し込みがつけられる。これによって、電線圧着部22の幅方向の中央付近における圧着不良の発生が回避され、電線圧着部22が導体線11と確実に圧着固定される。
【0048】
また、凹型面40と凸型面50との間に挟まれて圧縮変形される際に、電線圧着部22には、その延在方向に沿う端部のうち、開口側の端部は、底面42に形成された傾斜面部分44と、上端面52に形成された傾斜面部分54との間に挟み込まれることによって、端部に近づくにつれて拡径した拡径部201が形成される。一方、電気接触部21側の端部は、底面42に形成された第1多段傾斜面部分45と、上端面52に形成された第2多段傾斜面部分55との間に挟み込まれることによって、端部に近づくにつれて、多段階に分けて徐々に拡径した拡径部(ベルマウス部)202が形成される。
【0049】
<4.効果>
<4−1.凹部41と凸部51の幅>
圧着金型3においては、第1金型4の凹型面40における凹部41の幅d401と、第2金型5の凸型面50における凸部51の幅d501とが、電線圧着部22の外直径d201と同一とされている。この構成によると、電線圧着部22が圧縮変形される過程において、電線圧着部22は、その幅方向の長さを一定に保ったまま上下方向の長さが狭まるように変形されるので、例えば快削黄銅のような比較的脆い材料で形成された端子金具2であっても、亀裂や割れの発生を抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0050】
この点について、図11には、快削黄銅により形成された端子金具2を、それぞれ異なる態様で電線1の導体線11に圧着固定して得られる端子付き電線の断面におけるCAE解析結果が模式的に示されている。図においては、割れの原因となりうる大きな歪みが生じた部分が網掛けで示されており、色が濃いほど大きな歪みが生じたことを示している。なお、図11には、圧縮変形の前後における端子金具の幅の変化を示すために、圧縮変形される前の端子金具2が仮想線で示されている。
【0051】
第1の端子付き電線は、上記に説明した端子付き電線100であり、圧着金型3を用いて製造されたものである。第2の端子付き電線(第1比較例)901は、導体線11が差し込まれた電線圧着部22に上下左右の四方から棒状の金型等を押し込んで電線圧着部22を圧縮変形させてこれを導体線11に圧着固定したものである。第3の端子付き電線(第2比較例)902は、電線圧着部22の外直径よりも幅広の凹部を有する凹型面と電線圧着部22の外直径よりも幅広の凸部を有する凸型面との間に電線圧着部22を挟み込んでこれを圧縮変形させて、電線圧着部22を導体線11に圧着固定したものである。
【0052】
第1比較例901においては、電線圧着部22は、断面円形状から断面略矩形状に変形されており、一群の導体線11は断面略矩形状に束ねられて電線圧着部22と圧着固定されている。この構成においては、電線圧着部22において金型からの押し込みを受けた部分の付近に割れの原因となりうる大きな歪みが確認された。また、束ねられた導体線11の角部から電線圧着部22の径方向に沿う亀裂が発生しやすいことも確認された。また、電線圧着部22の外観にも割れが発生しやすいことも確認された。
【0053】
一方、第2比較例902においては、電線圧着部22は、上下方向の長さが狭まるとともに、幅方向の長さが広がるように変形されており、一群の導体線11は、幅方向に沿う中央付近がくびれた扁平な瓢箪形状に束ねられて電線圧着部22と圧着固定されている。この構成においては、電線圧着部22において幅方向に沿う両端部分に割れの原因となりうる大きな歪みが確認された。また、束ねられた導体線11の幅方向に沿う端部から電線圧着部22の径方向に沿う亀裂が発生しやすいことも確認された。
【0054】
これに対し、端子付き電線100においては、電線圧着部22は、幅方向の長さを一定に保ったまま上下方向の長さが狭まるように変形されて、円形状から略長円形状(2つの半円を直線でつないだ形状)に変形されており、一群の導体線11は、電線圧着部22と略相似の長円形状に束ねられて電線圧着部22と圧着固定されている。この構成においては、電線圧着部22において割れの原因となる大きな歪みが生じる部分は確認されなかった。また、導体線11と電線圧着部22との境界部分から電線圧着部22の径方向に沿う亀裂も確認されなかった。また、電気的性能も担保されることが確認された。
【0055】
また、図12には、快削黄銅により形成された各種サイズの端子金具2を、それぞれ金型幅が異なる圧着金型で圧縮変形させて得られる端子付き電線における割れ試験の結果が示されている。ただし、「金型幅」とは、圧着金型の凹部の幅(すなわち、凸部の幅)を意味している。なお、図中、「割れ結果」については、割れが確認されなかった場合に「○」が、割れが確認された場合に「×」が、それぞれ付与されている。
【0056】
この試験でも、金型幅が電線圧着部22の外直径と等しい場合には割れが発生せず、電線圧着部22の外直径よりも大きい場合、あるいは、小さい場合には、割れが発生することが確認された。
【0057】
<4−2.押し込み>
また、圧着金型3においては、凹型面40における凹部41の底面42に第1突起部43が形成されるとともに、凸型面50における凸部51の上端面52に第2突起部53が形成されるので、電線圧着部22が圧縮変形されて導体線11と圧着固定される過程において、電線圧着部22の周方向に沿って互いに対向する位置に押し込みが形成される。これによって、電気的性能が確実に担保された圧着固定状態を形成することができる。
【0058】
なお、第1突起部43および第2突起部53による押し込み量(具体的には、第1突起部43の高さd403および第2突起部53の高さd504)は、上述したとおり、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上でありかつ36%以下であることが好ましい。この構成によると、亀裂や割れの発生の抑制と、良好な電気的性能とを簡易かつ確実に両立することができる。
【0059】
この点について、図13には、快削黄銅により形成された各種サイズの端子金具2を、それぞれ異なる押し込み量で電線1の導体線11に圧着固定して得られる端子付き電線における割れ試験の結果が示されている。
【0060】
この試験では、押し込み量が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の36%以下の場合は、割れが発生しないことが確認された。一方、押し込み量が、電線圧着部22の径方向の厚みd203の50%以上になると、割れが発生することが確認された。これは、押し込み量が大きくなるにつれて、圧縮変形の過程において電線圧着部22に生じる歪みが大きくなることに起因するものと考えられる。
【0061】
ただし、押し込み量が小さくなると、割れの発生は抑制されるものの、実用に足る電気的性能が担保できない可能性がでてくる。したがって、電気的性能を確保するためには、電線圧着部22の径方向の厚みd203の10%以上の押し込み量が形成されることが望ましい。
【0062】
<4−3.ベルマウス部202>
また、圧着金型3においては、凹部41の底面42が備える第1多段傾斜面部分45、および、凸部51の上端面52が備える第2多段傾斜面部分55のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる。したがって、これらの多段傾斜面部分45,55に挟まれて形成されるベルマウス部202は、多段階に分けて徐々に拡径した形状とされる。このため、電線圧着部22が圧縮変形されて導体線11と圧着固定される過程において、ベルマウス部202に亀裂や割れが発生しにくい。
【0063】
<5.変形例>
上記の実施形態に係る圧着金型3においては、凹部41の幅d401と凸部51の幅d501とが、電線圧着部22の外直径d201と同一とされており(第1の構成)、かつ、凹部41の底面42に第1突起部43が、また、凸部51の上端面52に第2突起部53がそれぞれ形成されており(第2の構成)、かつ、凹部41の底面42が備える第1多段傾斜面部分45、および、凸部51の上端面52が備える第2多段傾斜面部分55のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされていた(第3の構成)。ここで、圧着金型3は、必ずしも第1〜第3の構成の全てを併せ持つ必要はない。
【0064】
例えば、第1の構成と第2の構成とを採用した圧着金型(凹部の幅と凸部の幅とが、電線圧着部22の外直径d201と同一であり、凹部の底面と凸部の上端面とに押し込みのための突起が形成される圧着金型であって、凹部の底面が備える各傾斜面部分、および、凸部の上端面が備える各段傾斜面部分のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が変化しない形状のもの)も有効である。この態様においても、亀裂や割れの発生をある程度抑制しつつ、電気的性能が担保された圧着固定状態を形成することができる。なお、この構成において、凹部の底面と凸部の上端面とに押し込みのための突起を形成しない態様も実現可能である。ただし、上述したとおり、電気的性能を確実に担保するためには、凹部の底面および凸部の上端面に押し込みのための突起を形成することがより好ましい。
【0065】
また例えば、第3の構成のみを採用した圧着金型(凹部の底面が備える一方の傾斜面部分、および、凸部の上端面が備える一方の段傾斜面部分のそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状の圧着金型であって、凹部の幅と凸部の幅とが電線圧着部22の外直径d201と同一ではなく、また、凹部の底面も凸部の上端面にも押し込みのための突起も形成されない形状のもの)も有効である。この態様においては、特に、多段傾斜面部分に挟まれて形成されるベルマウス部に亀裂や割れが発生しにくいという効果が得られる。また、第3の構成は、例えば、円筒形状以外の形状の電線圧着部を備える端子金具と電線とを圧着固定する際に用いる圧着金型においても単独で採用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 電線
11 導体線
2 端子金具
22 電線圧着部
3 圧着金型
4 第1金型
5 第2金型
40 凹型面
41 凹部
42 底面
43 第1突起部
45 第1多段傾斜面部分
50 凸型面
51 凸部
52 上端面
53 第2突起部
55 第2多段傾斜面部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧着金型であって、
端子金具が備える円筒形状の電線圧着部を拘束する凹型面が形成された第1金型と、
前記凹型面と対をなす凸型面が形成された第2金型と、
を備え、
前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一であり、
前記電線圧着部を前記凹型面と前記凸型面との間で挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する、圧着金型。
【請求項2】
請求項1に記載の圧着金型であって、
前記第1金型が、
前記凹型面における前記凹部の底面に立設され、前記凹部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第1突起部、
を備え、
前記第2金型が、
前記凸型面における前記凸部の上端面に立設され、前記凸部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第2突起部、
を備える、圧着金型。
【請求項3】
請求項2に記載の圧着金型であって、
前記第1突起部および前記第2突起部の各突起高さが、
前記電線圧着部の径方向の厚みの10%以上でありかつ36%以下である、圧着金型。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の圧着金型であって、
前記凹部の底面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凹部の深さ方向に傾斜する第1傾斜面部分、を備え、
前記凸部の上端面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凸部の突出方向と逆の方向に傾斜する第2傾斜面部分、を備え、
前記第1傾斜面部分と前記第2傾斜面部分とのそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる、圧着金型。
【請求項5】
円筒形状の電線圧着部を備える端子金具と電線とを圧着固定して端子付き電線を製造する端子付き電線の製造方法であって、
a)前記電線圧着部の筒内部に前記電線が差し込まれた状態とする工程と、
b)第1金型に形成された凹型面と、第2金型に形成された凸型面との間に前記電線圧着部が配置された状態とする工程と、
c)前記凹型面と前記凸型面との間で前記電線圧着部を挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する工程と、
を備え、
前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一である、端子付き電線の製造方法。
【請求項1】
圧着金型であって、
端子金具が備える円筒形状の電線圧着部を拘束する凹型面が形成された第1金型と、
前記凹型面と対をなす凸型面が形成された第2金型と、
を備え、
前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一であり、
前記電線圧着部を前記凹型面と前記凸型面との間で挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する、圧着金型。
【請求項2】
請求項1に記載の圧着金型であって、
前記第1金型が、
前記凹型面における前記凹部の底面に立設され、前記凹部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第1突起部、
を備え、
前記第2金型が、
前記凸型面における前記凸部の上端面に立設され、前記凸部の幅方向と直交する奥行き方向に沿って延在する第2突起部、
を備える、圧着金型。
【請求項3】
請求項2に記載の圧着金型であって、
前記第1突起部および前記第2突起部の各突起高さが、
前記電線圧着部の径方向の厚みの10%以上でありかつ36%以下である、圧着金型。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の圧着金型であって、
前記凹部の底面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凹部の深さ方向に傾斜する第1傾斜面部分、を備え、
前記凸部の上端面が、前記奥行き方向の端部に向かうにつれて前記凸部の突出方向と逆の方向に傾斜する第2傾斜面部分、を備え、
前記第1傾斜面部分と前記第2傾斜面部分とのそれぞれが、端部に向かうにつれて傾斜角度が大きくなるように非連続的に傾斜角度が変化する形状とされる、圧着金型。
【請求項5】
円筒形状の電線圧着部を備える端子金具と電線とを圧着固定して端子付き電線を製造する端子付き電線の製造方法であって、
a)前記電線圧着部の筒内部に前記電線が差し込まれた状態とする工程と、
b)第1金型に形成された凹型面と、第2金型に形成された凸型面との間に前記電線圧着部が配置された状態とする工程と、
c)前記凹型面と前記凸型面との間で前記電線圧着部を挟み込んで前記電線圧着部を圧縮変形させて、前記電線圧着部とその筒内部に差し込まれた前記電線とを圧着固定する工程と、
を備え、
前記凹型面における凹部の幅と、前記凸型面における凸部の幅とが、前記電線圧着部の外直径と同一である、端子付き電線の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−30274(P2013−30274A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163457(P2011−163457)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]