説明

圧縮機のシールキャップ

【課題】吸入配管又は吐出配管を装着した状態と同じシール状態を実現するとともに、吸入孔又は吐出孔からの抜け出しを防止することができる圧縮機のシールキャップの提供にある。
【解決手段】圧縮機のハウジング11に形成された吸入孔12を圧入により封栓する円柱状のキャップ本体16を備えた圧縮機のシールキャップ15であって、キャップ本体16は、吸入孔12を形成する孔壁11Aに設定されたシール設定位置Sにて封栓するシール部と、シール部と離隔して形成され、孔壁11Aに圧接する圧接部と、を有した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮機のシールキャップに関し、特に、圧縮機が備える吸入孔や吐出孔を封栓する圧縮機のシールキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
車両空調用の圧縮機の場合、工場において圧縮機が生産された後、潤滑油を圧縮機内部に封入する。
圧縮機のハウジングには、外部配管と接続される吸入孔や吐出孔が形成されている。 潤滑油封入後、ゴム等の弾性材料により形成されたシールキャップが吸入孔や吐出孔にそれぞれ圧入され、吸入孔および吐出孔はシールキャップにより封栓される。
封栓された圧縮機内には検査用のガスが注入され、ガスの注入後に圧縮機の気密性を確認する気密性試験が行なわれる。気密性試験の後、シールキャップの装着により内部が密閉された圧縮機は出荷され、出荷先の自動車の組立工場等において吸入孔や吐出孔にシールキャップの付けた状態で車両に組み付けられる。
【0003】
例えば、図9(a)に示すように、圧縮機のハウジング11に形成された吸入孔12に公知のシールキャップ91が圧入により装着された状態でシールキャップ91を取り外す。
そして、図9(b)に示すように、ボルト92のハウジング11のねじ孔13への螺入により外部配管である吸入配管93を吸入孔12に装着する。吸入配管93は、外部冷媒回路の一部を構成する配管部94と、ボルト用通孔96を形成したフランジ部95と、吸入孔12に挿入される挿入部97を備えている。挿入部97にはシール部材としてのOリング98が、吸入孔12を形成する孔壁11Aに圧接して、吸入孔12からの冷媒や潤滑油の漏れを防止している。
なお、圧縮機の吐出孔においても吸入配管と同様の構成の吐出配管が装着される。
【0004】
ところで、圧縮機を出荷する際、客先への移送中に温度変化により、圧縮機内の圧力が上昇する場合がある。圧縮機内の圧力の上昇は、吸入孔や吐出孔から抜け出す方向の力をシールキャップに付与し、この力が大きくなるとシールキャップが吸入孔や吐出孔から抜け出すことがある。
【0005】
そこで、従来では、シールキャップの抜け止めを図る技術が提案されており、例えば、特許文献1に開示された圧縮機のシールキャップが知られている。このシールキャップでは、キャップ本体の上部に一体形成された鍔部の外周に圧入部を一体に形成し、連結部の下面に対しネジ孔に嵌合される圧入部を一体に形成している。連結部の上面には把手部が一体に形成され、キャップ本体の外周面には環状溝を複数個所に形成し、吸入口の内周面に対する摩擦抵抗を増大する。
このシールキャップによれば、シールキャップの吸入口又は吐出口への着脱を容易に行なうことができるほか、キャップ本体の吸入口からの抜け出しを阻止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−158564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術のシールキャップは、吸入孔又は吐出孔に挿入されている部位の殆どが孔壁に圧接されており、吸入配管又は吐出配管のシール部材の孔壁に対する圧接位置や圧接範囲とは異なっている。つまり、シールキャップを圧縮機に装着したシール状態は吸入配管又は吐出配管を圧縮機に装着したシール状態と異なっている。
その結果、シールキャップを装着したシール状態での圧縮機の気密性試験を行なっても、吸入配管又は吐出配管のシール部材によるシール状態の気密性を反映する試験結果を得ることができない。また、単に吸入配管又は吐出配管のシール部材と同じシール状態となる形状のシールキャップを用いるだけでは、例えば、シールキャップが吸入孔又は吐出孔から抜け出すという問題を生じる。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、吸入配管又は吐出配管に設けられるシール部材と同じシール状態を実現するとともに、従来と同じ程度に吸入孔又は吐出孔からの抜け出しを防止することができる圧縮機のシールキャップの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、圧縮機のハウジングに形成された吸入孔又は吐出孔を圧入により封栓する円柱状のキャップ本体を備えた圧縮機のシールキャップであって、前記キャップ本体は、前記吸入孔又は前記吐出孔を形成する孔壁に設定されたシール設定位置にて封栓するシール部と、前記シール部と離隔して形成され、前記孔壁に圧接する圧接部と、を有することを特徴とする。
シール設定位置とは、吸入孔に装着される吸入配管又は吐出孔に装着される吐出配管が備えるシール部材の孔壁におけるシール位置である。
【0010】
本発明によれば、シールキャップが吸入孔又は吐出孔を圧入により封栓する状態では、キャップ本体のシール部が孔壁に設定されたシール設定位置において孔壁の周方向にわたって圧接し、吸入配管又は吐出配管のシール部材によるシール状態と同じシール状態を実現することができる。また、シール部と離隔してキャップ本体に設けられた圧接部と孔壁との圧接により、抜け止めのための摩擦力の不足を補う摩擦力が得られ、吸入孔又は吐出孔からの抜け出しを防止することができる。
その結果、シールキャップを装着したシール状態での気密性の試験を行なっても、吸入配管又は吐出配管のシール部材によるシール状態の気密性を正確に反映する試験結果を得ることができるとともに、シールの抜け出しを防止することができる。
【0011】
また、本発明によれば、上記の圧縮機のシールキャップにおいて、前記圧接部は、前記キャップ本体の外周面にて周方向に形成された環状の突条を有し、前記突条を分断する溝が形成されてもよい。
【0012】
この場合、環状の突条がキャップ本体の外周面にて周方向に形成されているが、溝が突条を分断するから、突条はシール部のようなシール機能を果たすことはなく、突条と孔壁との圧接による抜け止めのための摩擦力が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、上記の圧縮機のシールキャップにおいて、前記キャップ本体の一方の端部にフランジ体が形成され、前記フランジ体は、前記ハウジングに当接して前記キャップ本体の圧入深さを規定するハウジング側当接面を備え、前記ハウジング側当接面は、前記キャップ本体側と前記フランジ体の外周縁側との間に形成された連通路を備えてもよい。
【0014】
この場合、キャップ本体を吸入孔又は吐出孔に圧入するとき、フランジ体がハウジングに当接することによりキャップ本体の圧入深さが規定される。フランジ体がハウジングに当接しても、ハウジング側当接面におけるキャップ本体側とフランジ体の外周縁側との間では連通路による通気が可能であり、フランジ体がシール機能を果たすことはない。
【0015】
また、本発明によれば、上記の圧縮機のシールキャップにおいて、ゴム系材料により一体形成されてもよい。
【0016】
この場合、シールキャップがゴム系材料により一体形成されることにより、製作コストを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、吸入配管又は吐出配管に設けられるシール部材と同じシール状態を実現するとともに、従来と同じ程度に吸入孔又は吐出孔からの抜け出しを防止することができる圧縮機のシールキャップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る圧縮機のシールキャップの側面図である。
【図2】第1の実施形態に係る圧縮機のシールキャップの平面図である。
【図3】(a)は図1におけるA−A線矢視図であり、(b)は図2におけるB−B線矢視図である。
【図4】第1の実施形態に係る圧縮機のシールキャップが圧縮機に装着され、かつブラケットが固定された状態を示す断面側面図である。
【図5】圧縮機に装着されたシールキャップの要部を拡大した拡大断面図である。
【図6】(a)は第2の実施形態に係るシールキャップの側面図であり、(b)は第2の実施形態の変形例に係るシールキャップの側面図である。
【図7】第3の実施形態に係るシールキャップの側面図である。
【図8】第4の実施形態に係るシールキャップの側面図である。
【図9】(a)は公知のシールキャップが圧縮機に装着された状態を示す断面側面図であり、(b)は圧縮機に接続された吸入配管を示す断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る圧縮機のシールキャップ(以下、単に「シールキャップ」と表記する)について図面に基づき説明する。本実施形態は車両用空調装置の一部を構成する圧縮機に適用されるシールキャップを示す。
図1に示すように、圧縮機のハウジング11には吸入通路を形成する吸入孔12が形成されており、吸入通路は圧縮機の吸入室(図示せず)と連通する。ハウジング11には、吸入孔12のほか、吐出室(図示)と連通する吐出通路を形成する吐出孔(図示せず)を有している。ハウジング11には、図9(b)に示す吸入配管93をボルト92により吸入孔12に固定するねじ孔13が設けられている。
【0020】
吸入孔12を形成する孔壁11Aには、吸入配管93を吸入孔12に接続したときに吸入配管93のOリング98と圧接するシール設定位置Sが設定されている。シール設定位置Sとは、吸入孔12に装着される吸入配管93が備えるOリング98の孔壁11Aにおけるシール位置である。なお、Oリング98はニトリルゴム(NBR)等の弾性を有するゴム系材料で形成され、吸入配管93に装着されている状態では吸入孔12を形成する孔壁11Aと圧接する嵌め代が設定されている。
【0021】
工場出荷前の圧縮機の吸入孔12には、図1および図2に示すシールキャップ15が装着され、吐出孔にもシールキャップ15と同一構成のシールキャップ(図示せず)が装着され、圧縮機は密閉状態にされる。本実施形態では、吸入孔12に装着されるシールキャップ15について説明し、吐出孔に装着されるシールキャップはシールキャップ15の説明を援用する。
【0022】
シールキャップ15は、充分な弾性を有するゴム系材料であるニトリルゴム(NBR)により一体形成されている。シールキャップ15は、円柱状のキャップ本体16と、キャップ本体16の一方の端部に形成したフランジ体17と、フランジ体17の表面側に立設された把手体18と、を備えている。キャップ本体16は吸入孔12に圧入される部位である。
キャップ本体16のフランジ体17側と反対の端部(他方の端部)の中心には、キャップ本体側凹部19が形成されており、キャップ本体側凹部19はシールキャップ15の中心部における圧入方向(円柱状のキャップ本体16の軸方向)の肉厚を小さくしている。
【0023】
この実施形態のキャップ本体16の直径は吸入孔12の孔径よりも小さく設定されている。キャップ本体16は外周面の周方向にわたって形成されたシール部としての環状突部20を備えている。環状突部20はキャップ本体16の外周面から径方向外側へ山形状に突出している。シールキャップ15が吸入孔12に装着された状態では、環状突部20が孔壁11Aに設定されたシール設定位置Sに位置するように、キャップ本体16の外周面に環状突部20が設けられている。キャップ本体16の直径は、吸入孔12の孔径よりも大きく設定してもよい。その場合、圧接後の変形により、シール設定位置S以外でシールせず、吸入孔12と外部との通気が可能であるように設定する。
環状突部20の外周径は、吸入孔12の孔径よりも大きく設定されており、環状突部20の外周径と吸入孔12の孔径との寸法差を嵌め代として設定している。従って、シールキャップ15が吸入孔12に装着された状態では、環状突部20は弾性変形し、吸入配管93が備えるOリング98と同じ位置にて孔壁11Aに同様に圧接される。
【0024】
キャップ本体16の外周面における環状突部20とフランジ体17との間には、環状突部20と離隔して形成された環状の突条21が形成されている。キャップ本体16の外周面における環状突部20と他方の端部との間には、環状突部20と離隔して形成された別の環状の突条22が形成されている。
突条21、22は、キャップ本体16の外周面にて周方向に形成され、キャップ本体16の外周面から径方向外側へ山形状に突出している。突条21、22には環状突部20と同じ嵌め代が設定されており、シールキャップ15が吸入孔12に装着された状態では、弾性変形して孔壁11Aと圧接する。突条21、22は、孔壁11Aとの圧接によりシールキャップ15の吸入孔12からの抜け止めのための摩擦力を得るための要素である。
【0025】
突条21、22は、キャップ本体16の外周面にて周方向に形成されているが、突条21を分断する溝23と突条22を分断する溝24が形成されている。この実施形態では、図2に示すように、突条21は周方向において90度の角度毎に設けられた4つの溝23により4分割されている。
また、図3(a)に示すように、突条22も同様の4つの溝24により4分割されている。溝24の溝幅は、径方向外側へ向かうほど拡大しており、シールキャップ15が吸入孔12に装着された状態でも、孔壁11Aとの圧接による突条22の変形による溝24の閉塞を防止する。なお、図3(a)には図示されないが、溝23の溝幅も溝24と同様に径方向外側へ向かうほど拡大している。
【0026】
キャップ本体16の一方の端部にはフランジ体17が形成されているが、フランジ体17は、フランジ外周面25と、把手体18側となる把手側フランジ面26と、キャップ本体16側となるキャップ側フランジ面27と、を備えている。フランジ体17の外周径は吸入孔12の孔径よりも充分に大きく設定されている。把手側フランジ面26のフランジ外周面25寄りには把手体18が立設されており、把手体18は、吸入孔12に装着されたシールキャップ15を引っ張りにより吸入孔12から取り外し易くする充分な長さに設定されている。
【0027】
図3(b)に示すように、把手側フランジ面26の中心部にはフランジ側凹部28が形成されており、フランジ側凹部28はキャップ本体側凹部19とともにシールキャップ15の中心部における圧入方向(円柱状のキャップ本体16の軸方向)の肉厚を小さくする。
キャップ側フランジ面27は、シールキャップ15が吸入孔12に装着された状態ではハウジング11の表面に当接してキャップ本体16の圧入深さを規定する。キャップ側フランジ面27はハウジング側当接面に相当する。
【0028】
キャップ側フランジ面27には、キャップ本体16側からフランジ体17の外周縁側であるフランジ外周面25側へ向けて連通路としての溝29が形成されている。溝29は、シールキャップ15が吸入孔12に装着された状態でも、吸入孔12と外部との連通を図る通路である。つまり、溝29は、フランジ体17とハウジング11の表面との当接によるフランジ体17の吸入孔12に対するシール作用を防止する機能を有する。
この実施形態では、キャップ側フランジ面27の周方向において90度の角度毎に溝29が設けられているから、フランジ体17は4つの溝29を有する。溝29はどの角度に設けてもよいが、図4に示すブラケット31を搭載する際に溝29による連通が確保される位置に設けることが好ましい。
【0029】
次に、このシールキャップ15を使用について説明する。
工場出荷前の圧縮機の吸入孔12には、図4に示すようにシールキャップ15が吸入孔12に装着される。シールキャップ15の装着時において、キャップ本体16の吸入孔12に対する圧入深さはフランジ体17のキャップ側フランジ面27がハウジング11の表面に当接することにより規定される。
図5に示すように、キャップ側フランジ面27がハウジング11の表面に当接した状態では、シールキャップ15の環状突部20は、シール設定位置Sに位置している。また、環状突部20は締め代の分だけ弾性変形しつつ孔壁11Aに対して周方向にわたって圧接し、吸入孔12に対する封栓を図っている。環状突部20の弾性変形により孔壁11Aとの間には摩擦力が発生し、この摩擦力はシールキャップ15の吸入孔12からの抜け止めの摩擦力の一部となる。
【0030】
突条21、22は、環状突部20と同様に締め代の分だけ弾性変形しつつ孔壁11Aに対して圧接する。突条21、22の圧接により突条21、22と孔壁との摩擦力が生じ、これらの摩擦力は、環状突部20と孔壁11Aとの摩擦力と併せてシールキャップ15の吸入孔12からの抜け止めの摩擦力となる。
突条21を分断する溝23が設けられているので溝23を通じた通気が可能であり、これにより突条21が吸入孔12を封栓することはない。同様に突条22を分断する溝24が設けられているから突条22が吸入孔12を封栓することはない。
【0031】
フランジ体17のキャップ側フランジ面27とハウジング11の表面は当接するが、溝29が吸入孔12と外部を連通することから、フランジ体17が吸入孔12を封栓することはない。なお、封栓前の圧縮機には設定量の潤滑油が封入されている。
また、図示されない吐出孔にも同種のシールキャップが装着され、吐出孔を封栓するシールキャップは吸入孔12のシールキャップ15とともに圧縮機を密封状態にする。
【0032】
圧縮機の工場出荷前には、圧縮機の気密性を確認する気密性試験が行なわれる。気密性試験を行なう前には、気密試験時や出荷前までの各工程においてシールキャップ15が吸入孔12から抜け出すことを防止するため、図4に示すように、シールキャップ15のフランジ体17を押さえ付けるブラケット31をハウジング11に取り付ける。ボルト32をねじ孔13に螺入することによりブラケット31はハウジング11に固定される。
なお、吐出孔のシールキャップについてもブラケット31と同構造のブラケットをハウジング11に固定し、吐出孔のシールキャップをブラケットにより押さえ付ける。
【0033】
気密性試験では、シールキャップ15のフランジ側凹部28からキャップ本体側凹部へ注射針Hを貫通させ、注射針Hを通じて検査用のガスを圧縮機内に注入し、圧縮機からのこのガスの洩れの有無により圧縮機の気密性を評価する。
シールキャップ15による吸入孔12の封栓や吐出孔の封栓が図られている場合には、気密性試験において検査用のガスの漏れがない結果となる。一方、吸入孔12の孔壁11Aのシール設定位置Sに傷や凹部(例えば、ハウジング11の鋳造時に発生した引け巣)などが存在する場合、気密性試験において検査用のガスの漏れが生じる結果となる。
なお、吐出孔の孔壁のシール設定位置に同様の傷や凹部が存在する場合についても同様に気密性試験において検査用のガスの漏れが生じる結果となる。
【0034】
検査用のガスの漏れが生じた圧縮機は出荷されないが、気密性試験において検査用のガスの漏れが発生しなかった圧縮機は、出荷までの各工程(洗浄工程、検査用のガスの抜き取り工程等)を経て、出荷直前にブラケット31とボルト32が取り外される。そして、圧縮機は吸入孔12にはシールキャップ15が装着され、吐出孔にはシールキャップが装着された状態のまま出荷される。
【0035】
自動車組立工場等の出荷先では、圧縮機はシールキャップ15を装着したまま車両に取り付けられる。
シールキャップ15を取り外す際、作業者はシールキャップ15の把手体18を掴んで引っ張るようにして取り外すようにすれば、シールキャップ15の取り外し作業は、把手体18を備えていないシールキャップを取り外す場合と比較して容易である。なお、吐出孔に装着されているシールキャップもこの時に取り外される。
【0036】
シールキャップ15が取り外された吸入孔12には、吸入配管93がボルト92を介して連結される。吸入配管93が備えるOリング98はシール設定位置Sにおいて弾性変形して孔壁11Aと圧接し、吸入孔12から冷媒が洩れないようにシールする。シールキャップが取り外された吐出孔には、吐出配管がボルトを介して連結される。圧縮機から取り外されたシールキャップは廃棄される。
【0037】
この実施形態は以下の作用効果を奏する。
(1)シールキャップ15が吸入孔12を圧入により封栓する状態では、環状突部20が吸入配管のOリング98によるシール状態と同じシール状態を実現するほか、突条21、22と孔壁11Aとの圧接により、環状突部20と孔壁11Aとの摩擦力の不足を補う摩擦力を得ることができる。その結果、シールキャップ15を装着したシール状態での気密性試験を行なっても、吸入配管93のOリング98によるシール状態の気密性を正確に反映する試験結果を得ることができるとともに、シールキャップ15の抜け出しを防止することができる。
(2)突条21、22がキャップ本体16の外周面にて周方向外側に形成されているが、溝23、24が対応する突条21、22を分断するから、突条21、22がシール機能を果たすことはなく、突条21、22と孔壁11Aとの圧接により抜け止めのための摩擦力を得ることができる。
(3)フランジ体17がハウジング11の表面に当接することによりキャップ本体16の圧入深さが規定される。フランジ体17がハウジング11の表面に当接しても、キャップ側フランジ面27における溝29により吸入孔12と外部との間の通気が可能であり、フランジ体17がシール機能を果たすことはない。
【0038】
(4)シールキャップ15がゴム系材料により一体形成されることにより、最小部品点数のシールキャップを得ることができ、複数の部品点数を有するシールキャップと比較して製作コストを抑制することができる。また、複数の材料を用いるシールキャップよりもシールキャップの廃棄や分別回収の面では、材料毎の分別が必要としないため有利である。
(5)把手体18が設けられていることにより、吸入孔12に装着されているシールキャップ15の取り外し作業は、把手体18を備えないシールキャップの取り外しと比べると容易となる。
(6)キャップ本体16の外周面において突条21、22の間に環状突部20が形成されているので、突条21、22の間に環状突部20が位置しない場合と比較すると、シールキャップ15を吸入孔12に装着している状態では異物が環状突部20に入り込み難い。
なお、吐出孔に装着される同構造のシールキャップについても作用効果(1)〜(6)を奏する。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るシールキャップについて説明する。
この実施形態に係るシールキャップは、圧接部としての突条がキャップ本体の外周面におけるフランジ体と環状突部との間に設けられ、環状突部と他方の端部との間に突条が設けられていない例である。従って、第1の実施形態と共通または類似する要素については符号を共通して用い、第1の実施形態の説明を援用する。
【0040】
図6(a)に示すシールキャップ41はニトリルゴム(NBR)により一体形成され、円柱状のキャップ本体16、フランジ体17および把手体18を備えている。
フランジ体17および把手体18は第1の実施形態と同一構成なので説明を省略する。
キャップ本体16の外周面にはシール部としての環状突部20が形成されている。キャップ本体16の外周面において環状突部20とフランジ体17との間には、圧接部としての突条42が形成されている。そして、キャップ本体16の外周面において環状突部20と他方の端部との間に突条は設けられていない。
【0041】
突条42は、第1の実施形態の突条21と比較すると圧入方向の長さが大きく設定されている。これは、キャップ本体16の外周面において環状突部20と他方の端部との間に突条は設けられていないことから、突条42と孔壁11Aとの圧接による摩擦力をより大きくするためである。
この実施形態では、環状突部20と孔壁11Aとの圧接による摩擦力と突条42と孔壁11Aとの圧接による摩擦力とにより吸入孔12からのシールキャップ41の抜け止めを可能としている。突条42を分断する溝43が設けられている。
【0042】
この実施形態のシールキャップ41は、第1の実施形態のシールキャップ15と同様に用いられる。また、図示しない吐出孔にはシールキャップ41と同種のシールキャップを装着するようにしてもよい。この実施形態は第1の実施形態の作用効果(1)〜(5)と実質的に同等の作用効果を奏する。
【0043】
なお、第2の実施形態の変形例として、図6(b)に示すシールキャップ51としてもよい。
シールキャップ51では、圧接部としての突条42と同形状の突条52を、キャップ本体16の外周面において環状突部20と他方の端部との間に設け、環状突部20とフランジ体17との間に突条を設けないようにしている。また、突条52を分断する溝53が設けられている。従って、この変形例は第2の実施形態の作用効果と実質的に同等の作用効果を奏する。
【0044】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態に係るシールキャップについて説明する。
この実施形態に係るシールキャップは、圧接部としての突起がキャップ本体の外周面におけるフランジ体と環状突部との間と、環状突部と他方の端部との間に設けられる例である。従って、第1の実施形態と共通または類似する要素については符号を共通して用い、第1の実施形態の説明を援用する。
【0045】
図7に示すシールキャップ61はニトリルゴム(NBR)により一体形成され、円柱状のキャップ本体16、フランジ体17および把手体18を備えている。フランジ体17および把手体18は第1の実施形態と同一構成なので説明を省略する。
キャップ本体16の外周面にはシール部としての環状突部20が形成されている。キャップ本体16の外周面において環状突部20とフランジ体17との間には、圧接部としての複数の突起62が形成されている。キャップ本体16の外周面において環状突部20と他方の端部との間に複数の突起63が形成されている。
【0046】
突起62、63はキャップ本体16の外周面から径方向外側へ半球状に突出して形成されている。複数の突起62、63は、キャップ本体16の外周面の周方向において所定の間隔を保って配設されている。突起62、63には、吸入孔12に対する締め代が設定されている。従って、シールキャップ61が吸入孔12に装着された状態において、突起62、63は弾性変形して孔壁11Aに圧接し、各突起62、63と孔壁11Aとの間に摩擦力が発生する。
各突起62、63と孔壁11Aとの摩擦力は、環状突部20と孔壁11Aとの摩擦力とともにシールキャップ61の吸入孔12からの抜け止めを図る。
【0047】
この実施形態のシールキャップ61は、第1の実施形態のシールキャップ15と同様に用いられる。また、図示しない吐出孔にはシールキャップ61と同種のシールキャップを装着するようにしてもよい。この実施形態は、キャップ本体16に突条を分断する溝を設ける必要がなく、第1の実施形態の作用効果(1)、(2)、(4)、(5)と実質的に同等の作用効果を奏する。
【0048】
(第4の実施形態)
次に第4の実施形態に係るシールキャップについて説明する。この実施形態のシールキャップは、キャップ本体の吸入孔に対する圧入深さを自在とする例である。
図8に示すシールキャップ71はゴム系材料により一体形成されており、円柱状のキャップ本体72とキャップ本体72の上面に立設された把手体73を備えている。
【0049】
キャップ本体72の直径は吸入孔12の孔径よりも小さく設定されている。キャップ本体72には直径が小さく設定された小径部74が形成されている。小径部74はキャップ本体72の吸入孔12に対する圧入深さを規定するブラケット80により係止される部位である。ブラケット80はボルト用通孔81と、キャップ本体72の小径部74に嵌合する係止溝82を備えている。
【0050】
キャップ本体72は外周面の周方向にわたって形成されたシール部としての環状突部75を備えている。環状突部75はキャップ本体72の外周面から径方向外側へ山形状に突出している。環状突部75の外周径は、吸入孔12の孔径よりも大きく設定されており、環状突部75の外周径と吸入孔12の孔径との寸法差を嵌め代として設定している。
【0051】
キャップ本体72の外周面には、環状突部75と離隔して形成された環状の突条76、77が形成されている。突条76、77は、キャップ本体72の外周面にて周方向に形成され、キャップ本体72の外周面から径方向外側へ山形状に突出している。突条76、77には環状突部75と同じ嵌め代が設定されている。
突条76、77は、キャップ本体72の外周面にて周方向に形成されているが、突条76を分断する溝78と突条77を分断する溝79が形成されている。この実施形態の環状突部75、突条76、77、溝78、79の構成は第1の実施形態と同一である。
【0052】
この実施形態に係るシールキャップ71を吸入孔12に装着する場合、ボルト32により固定されるブラケット80を用いる。ブラケット80を介してシールキャップ71が吸入孔12に装着された状態では、キャップ本体72の圧入深さがブラケット80により規定され、環状突部75が孔壁11Aに設定されたシール設定位置Sに位置する。
そして、シールキャップ71が吸入孔12に装着された状態では、環状突部75は、吸入配管93が備えるOリング98と同じ位置にて孔壁11Aに同様に圧接される。
【0053】
ところで、異なる車種に同じ圧縮機を搭載する場合がある。
この場合、圧縮機を搭載する車種が変わると、吸入孔12には吸入配管93とは仕様の異なる別の吸入配管(図示せず)が接続されることがある。異なる別の吸入配管が接続される場合、孔壁11AにおけるOリングの圧接位置(シール設定位置)が吸入配管93のOリング98の圧接位置(シール設定位置S)と異なる。この場合、別の吸入配管のOリングが位置する圧接位置にシールキャップ71の環状突部75を位置させるように設定した別のブラケットを用い、シールキャップ71を吸入孔12に装着する。吸入孔12に接続される吸入配管の仕様が異なっても、吸入配管の仕様毎のブラケットを準備しておくことにより、シールキャップ71の環状突部75を孔壁11Aにおけるシール設定位置に位置させることができる。
【0054】
なお、上記の実施形態に係るシールキャップは、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
○ 第1、第2、第4の実施形態では、圧接部としての2つ又は1つの突条が形成されたが、シールキャップの抜け止めに必要な孔壁との摩擦力を得ることができるように突条の寸法や数を設定すればよい。例えば、突条の締め代や挿入方向の長さを大きくして孔壁との摩擦力を増大させてもよく、あるいは、突条の数を増やして摩擦力を増大させることも可能である。また、突条を分断する複数の溝が設けられたが溝の数は1以上設ければよく、シールキャップを吸入孔又は吐出孔に装着した場合に突条の弾性変形により閉塞されない溝であればよく、また、突条毎に設ける溝の数が異なってもよい。
○ 第3の実施形態では、圧接部として複数の半球状の突起を用いたが、突起の寸法や形状はシールキャップの抜け止めに必要な突起と孔壁との摩擦力を得ることができるように設定すればよい。
○ 第1〜第3の実施形態では、フランジ側当接面としてのキャップ側フランジ面に連通路としての4本の溝を形成したが、連通路の数は1つ以上とすればよく、連通路の数は限定されない。また、連通路は溝に限らず吸入孔又は吐出孔と外部との間にて通気が可能であればよく、連通路として、例えば、通孔や切欠きであってもよい。また、シールキャップを吸入孔又は吐出孔への装着した状態でフランジ側当接面とハウジング表面との密着しない場合には、必ずしも連通路を設ける必要はなく、連通路を備えないシールキャップとしてもよい。
○ 第1〜第4の実施形態では、シールキャップをゴム系材料であるNBRにより形成するとしたが、シールキャップはゴム系材料に限らず、シール機能に適した弾性変形が可能であって耐熱性・耐油性を有する材料により形成されてもよい。
○ 第1〜第4の実施形態では、圧縮機の形式を特定しなかったが、本発明のシールキャップは車両空調用の圧縮機として、例えば、斜板式ピストン往復型圧縮機やスクロール型圧縮機に用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
11 ハウジング
12 吸入孔
15、41、51、61、71、91 シールキャップ
16、72 キャップ本体
17 フランジ体
18、73 把手体
20、75 環状突部(シール部)
21、22、42、52、76、77 突条(圧接部)
23、24、78、79 溝
27 キャップ側フランジ面(ハウジング側当接面)
29 溝(連通路)
31、80 ブラケット
62、63 突起(圧接部)
93 吸入配管
94 配管部
95 フランジ部
96 ボルト用通孔
97 挿入部
98 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機のハウジングに形成された吸入孔又は吐出孔を圧入により封栓する円柱状のキャップ本体を備えた圧縮機のシールキャップであって、
前記キャップ本体は、
前記吸入孔又は前記吐出孔を形成する孔壁に設定されたシール設定位置にて封栓するシール部と、
前記シール部と離隔して形成され、前記孔壁に圧接する圧接部と、を有することを特徴とする圧縮機のシールキャップ。
【請求項2】
前記圧接部は、前記キャップ本体の外周面にて周方向に形成された環状の突条を有し、
前記突条を分断する溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載の圧縮機のシールキャップ。
【請求項3】
前記キャップ本体の一方の端部にフランジ体が形成され、
前記フランジ体は、前記ハウジングに当接して前記キャップ本体の圧入深さを規定するハウジング側当接面を備え、
前記ハウジング側当接面は、前記キャップ本体側と前記フランジ体の外周縁側との間に形成された連通路を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の圧縮機のシールキャップ。
【請求項4】
ゴム系材料により一体形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の圧縮機のシールキャップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−157817(P2011−157817A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17584(P2010−17584)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】