説明

圧縮機

【課題】圧縮効率を低下させることなく、圧縮機の騒音を低減することができる圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機1は、密閉ケーシング10と、密閉ケーシング10内に収容され、ロータ51及びロータ51の径方向外側に配置されるステータ52を有するモータ20とを備えている。そして、ロータ51のロータ本体53には、その下面であるロータ下面53aに吸音室開口を有するヘルムホルツ共鳴器となる吸音室54aが設けられている。これら吸音室54aは、ロータ本体53の回転軸Oに対して180°間隔で配置されるとともに、平面視して、ロータ本体53に埋設されている磁石60bの内側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転時に発生する騒音を低減するための吸音室を備えた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧縮機内にヘルムホルツ型の共鳴室を設けることにより、圧縮機の運転時に発生する騒音の低減が図られている。このような圧縮機の一例として、特許文献1には、圧縮室と連通するヘルムホルツ型共鳴室が形成され、この共鳴室と圧縮室との連通路を、圧縮機の運転状態に応じて作動する弁体で開閉するロータリコンプレッサの消音構造を備える圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4−100092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された共鳴室を備えた圧縮機では、圧縮室で圧縮された冷媒ガスが共鳴室内に残留することがあり、その状態で、圧縮室内に冷媒ガスを吸入すると、共鳴室内に残留している冷媒ガスが低圧状態の圧縮室内で膨張するため、圧縮効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、圧縮効率を低下させることなく、圧縮機の騒音を低減することができる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る圧縮機は、密閉容器と、密閉容器内に収容され、回転子及び回転子の径方向外側に配置される固定子を有する駆動機構とを備え、回転子の下面には、ヘルムホルツ共鳴器となる吸音室が設けられている。
【0007】
この圧縮機では、ヘルムホルツ共鳴器である吸音室が圧縮室に連通しておらず、圧縮ガスが吸音室に残留することがないため、圧縮効率を低下させることなく騒音を低減することが可能となる。また、この吸音室を回転子の上面に設けた場合、圧縮機内を循環する潤滑油が吸音室に流入する可能性があるが、この圧縮機では、吸音室が回転子の下面に設けられているため、潤滑油が吸音室に流入することなく騒音を低減することが可能となる。
【0008】
第2の発明に係る圧縮機は、第1の発明に係る圧縮機において、回転子はその軸方向に沿って延在する磁石を有しており、吸音室は平面視において磁石より内側に配置されている。
【0009】
この圧縮機では、磁石よりも内側に吸音室が配置されていることにより、吸音室が回転子及び固定子の鉄板内を通る磁束の流れを妨げることがないため、モータの効率を低下させることなく、騒音を低減することが可能となる。
【0010】
第3の発明に係る圧縮機は、第1又は第2の発明に係る圧縮機において、回転子の下面には、複数の吸音室が設けられており、この複数の吸音室は、平面視において回転子の回転軸を中心として略等角度間隔で配置されている。
【0011】
この圧縮機では、複数の吸音室を平面視において回転子の回転軸を中心として略等角度間隔で配置することにより、回転子が回転する際に、各吸音室が交互に圧縮機構のマフラに設けられた吐出口と周期的に対向する。すると、吐出口から吐出した冷媒ガスに起因する騒音をこの複数の吸音室が周期的に吸音するため、吸音のタイミングに偏りが生じず、安定して騒音を低減することが可能となる。
【0012】
第4の発明に係る圧縮機は、第1から第3のいずれかの発明に係る圧縮機において、駆動機構は、前記回転子の中央を貫通するクランク軸と、前記クランク軸に設けられた偏心部とを有しており、前記吸音室は、平面視において、クランク軸の中心と偏心部の中心とを通過する第1直線に対して対称に配置されている。
【0013】
この圧縮機では、平面視においてロータにおける第1直線で仕切られる2つの部分の重量バランスが保たれるため、駆動機構の運転時におけるロータの振動を低減することが可能となる。
【0014】
第5の発明に係る圧縮機は、第1から第4のいずれかの発明に係る圧縮機において、駆動機構は、回転子の中央を貫通するクランク軸と、クランク軸に設けられた偏心部とを有しており、吸音室は、平面視において、クランク軸の中心と偏心部の中心とを通過する第1直線と垂直であり且つクランク軸の中心を通過する第2直線に対して対称に配置されている。
【0015】
この圧縮機では、平面視においてロータにおける第1直線とは垂直の第2直線で仕切られる2つの部分の重量バランスが保たれるため、駆動機構の運転時におけるロータの振動を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0017】
第1の発明では、上記のとおり、ヘルムホルツ共鳴器である吸音室が圧縮室に連通しておらず、圧縮ガスが吸音室に残留することがないため、圧縮効率を低下させることなく騒音を低減することが可能となる。また、この吸音室を回転子の上面に設けた場合、圧縮機内を循環する潤滑油が吸音室に流入する可能性があるが、この圧縮機では、吸音室が回転子の下面に設けられているため、潤滑油が吸音室に流入することなく騒音を低減することが可能となる。
【0018】
第2の発明では、上記のとおり、磁石よりも内側に吸音室が配置されていることにより、吸音室が回転子及び固定子の鉄板内を通る磁束の流れを妨げることがないため、モータの効率を低下させることなく、騒音を低減することが可能となる。
【0019】
第3の発明では、上記のとおり、複数の吸音室を平面視において回転子の回転軸を中心として略等角度間隔で配置することにより、回転子が回転する際に、各吸音室が交互に圧縮機構のマフラに設けられた吐出口と周期的に対向する。すると、吐出口から吐出した冷媒ガスに起因する騒音をこの複数の吸音室が周期的に吸音するため、吸音のタイミングに偏りが生じず、安定して騒音を低減することが可能となる。
【0020】
第4の発明では、上記のとおり、平面視においてロータにおける第1直線で仕切られる2つの部分の重量バランスが保たれるため、駆動機構の運転時におけるロータの振動を低減することが可能となる。
【0021】
第5の発明では、上記のとおり、平面視においてロータにおける第1直線とは垂直の第2直線で仕切られる2つの部分の重量バランスが保たれるため、駆動機構の運転時におけるロータの振動を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態に係る圧縮機の断面図である。
【図2】第1実施形態に係るロータを示す図であり、(A)は(B)におけるA−A’縦断面図であり、(B)は(A)の矢印方向から視た回転子の下面図である。
【図3】第1実施形態に係るロータ、シャフト及びバランスウェイトを示す図であり、(A)は(B)におけるX−X’断面であり、(B)は上面視図である。
【図4】第2実施形態に係るロータ、シャフト及びバランスウェイトを示す図であり、(A)は(B)におけるX−X’断面であり、(B)は上面視図である。
【図5】ロータ、シャフト及びバランスウェイトの一例を示す図であり、(A)は(B)におけるX−X’断面であり、(B)は上面視図である。
【図6】ロータの第1例を示す図である。
【図7】ロータの第2例を示す図である。
【図8】ロータの第3例を示す図である。
【図9】ロータの第4例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて、本発明に係る圧縮機の実施形態について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。図2は、ロータを示す図であって、図2(A)はロータの縦断面図であり、図2(B)はロータの下面視図である。なお、図2(A)は、図2(B)のA−O−B断面図である。図3は、ロータ本体と一体となって構成されたシャフトを示す図であって、図3(A)はシャフトの縦断面図であり、図3(B)はシャフトの上面視図である。以下、図1〜図3に基づいて、本発明の実施形態に係る圧縮機について説明する。なお、図1に示す回転子の断面は、図2(B)のA−A’断面である。
【0025】
[圧縮機の全体構成]
圧縮機1は、図1に示すように、1シリンダ型の冷媒用ロータリ圧縮機として構成されており、後述する圧縮機構30と吸入管3を介して連通するアキュムレータ2から導入される冷媒を圧縮して、その上端部に配置された吐出管11aから圧縮した圧縮冷媒を排出するものである。この圧縮機1は、密閉ケーシング10と、密閉ケーシング10内に配置される駆動機構としてのモータ20と、このモータ20によって駆動される圧縮機構30とを備えている。また、この圧縮機1は、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機であって、密閉ケーシング10内において、圧縮機構30がモータ20の下側に配置される。また、密閉ケーシング10の下部には、圧縮機構30の各摺動部に供給される潤滑油40が貯留されている。
【0026】
[密閉ケーシングの構成]
密閉ケーシング10は、密閉空間を形成するためのトップ11、パイプ12及びボトム13で構成されている。トップ11は、パイプ12の上端の開口を塞ぐ部材として設けられている。このトップ11には、圧縮機構30によって圧縮された高温高圧の冷媒を密閉ケーシング10の外部に吐出するための吐出管11aが設けられている。このトップ11には、駆動機構であるモータ20に接続されるターミナル端子11bが設けられている。ボトム13は、パイプ12の下端の開口を塞ぐ部材として設けられると共に、その内部には油溜部41が設けられている。
【0027】
[モータの構成]
モータ20は、シャフト50と、このシャフト50が取り付けられたロータ51(回転子)と、このロータ51の径方向外側にエアギャップを介して配置されるステータ52とを有している。ロータ51は、積層された電磁鋼板からなるロータ本体53と、このロータ本体53に埋設された4つの磁石60a〜60dとを有している。また、ロータ本体53には、後述するヘルムホルツ型の吸音室54a,54bが形成されている。さらに、ロータ本体53の上下両端面には、重心を安定させることによってロータ本体53が回転時に傾くのを防止するためのバランスウェイト61a,61bが配設されている。
【0028】
ステータ52は、パイプ12に焼き嵌めによって固定されている。ステータ52の外周部にはパイプ12との間に切欠きを設けて貫通穴を形成している。圧縮機構30から吐出された冷媒ガスは、この貫通穴を通過して下方から上方へと移動する。ステータ52は、コア55と、このコア55の上下両端面にそれぞれ配置された上側インシュレータ56及び下側インシュレータ57と、コイルとを有している。コア55は、例えば積層された複数の鋼板からなる。上側インシュレータ56及び下側インシュレータ57は、例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド及びポリエステル等の耐熱性の高い樹脂材料で構成される。なお、上側インシュレータ56及び下側インシュレータ57は、その強度を向上させるために、例えばガラス繊維入りの材料で構成しても良い。
【0029】
モータ20は、ステータ52で発生する電磁力をロータ51に埋設されている磁石60a〜60dに作用させることにより、ロータ51をシャフト50と共に回転させる。シャフト50は、ロータ本体53の略中央部に形成されている軸穴58を貫通するクランク軸50aと、このクランク軸50aの下端部に設けられた偏心部50bと、を有している。この偏心部50bには、ローラ34が装着されている。クランク軸50aは、ロータ51と共に回転することによって偏心部50bをシリンダ室A1内で回転させ、シリンダ室A1に流入した冷媒ガスを圧縮する。
【0030】
[圧縮機構の構成]
圧縮機構30は、ロータ51の回転軸Oに沿って上から下に向かって配置された、フロントマフラ31と、フロントヘッド32と、シリンダ33と、リアヘッド35とを有している。フロントマフラ31は、フロントヘッド32に設けられた吐出ポート(図示せず)から吐出された冷媒の脈動に起因する騒音を低減する。フロントマフラ31の上面のフロントヘッド32に近接する位置には、吐出口36が形成されており、吐出口36は、フロントマフラ31で騒音を低減した冷媒を、1次空間B1に吐出する。この吐出口36は、後述するロータ本体53の下端面(以下「ロータ下面53a」という。)と対向している。また、後述する吸音室54a,54bは、このロータ下面53aに開口を有しているため、吐出口36は、吸音室54a,54bとも対向している。
【0031】
フロントヘッド32は、シリンダ33の上面に接合されており、シリンダ室A1の上端の開口を塞いでいる。このフロントヘッド32には、シリンダ室A1において圧縮された冷媒を、フロントマフラ31によって形成されるマフラ空間C1に吐出するための吐出ポート(図示せず)が設けられている。
【0032】
シリンダ33には、その中央部分にシリンダ室A1が設けられている。シリンダ室A1には、クランク軸50aの回転に伴って偏心回転運動する偏心部50bが配置されている。このシリンダ室A1は、上記したフロントヘッド32に設けられている吐出ポート(図示せず)を介して、マフラ空間C1に連通している。したがって、偏心部50bに装着されるローラ34の偏心回転運動によって圧縮された冷媒は、シリンダ室A1からマフラ空間C1に導かれる。ローラ34は、シリンダ室A1の内周面に沿って偏心回転運動を行い、アキュムレータ2から吸入された冷媒を圧縮する。ローラ34の外周面には、図示しないブレードが配置されており、これらのローラ34及びブレードは、それぞれ、別体として構成されている。
【0033】
[ロータの構成]
次に、ロータ51を構成するロータ本体53について説明する。ロータ本体53は、図2(B)に示すように、ヘルムホルツ型の吸音室である2個の吸音室54a,54bと、クランク軸50aを貫通させるための軸穴58と、を有している。また、ロータ本体53には、回転軸Oを中心に回転させるための4個の磁石60a〜60dが埋設されている。
【0034】
軸穴58は、クランク軸50aを貫通・嵌合させるためのものであって、平面視においてロータ本体53の略中央部に設けられている。軸穴58は、クランク軸50aの径と略同一の径を備えた筒状であって、その中心軸はロータ51の回転軸O(即ち、ロータ本体53の回転軸)と一致する。
【0035】
磁石60a〜60dは、板状の磁石である。ロータ本体53には、磁石60a〜60dと略同一形状の取付孔が設けられており、磁石60a〜60dは、この取付孔に取り付けられてロータ本体53に埋設されている。また、磁石60a〜60dは、図2(B)に示すように、ロータ本体53の下面(ロータ下面)53aから視て回転軸Oを中心として時計回りに約90°間隔で磁石60a,60b,60c,60dの順に配置されている。これら磁石60a〜60dからは、ロータ本体53の径方向外側において、図2(B)に模式的に示した点線に沿って磁束が流れており、コア55に巻回されたコイルから発生する磁気力と相互作用することによってロータ本体53を回転させている。
【0036】
[吸音室の構成]
吸音室54a,54bは、ヘルムホルツ型共鳴器であって、ロータ下面53aに設けられており、その開口(吸音室開口)541a,541bがロータ下面53aに設けられている。ロータ下面53aは、図1に示すように、モータ20と圧縮機構30との間の空間である1次空間B1に面し、圧縮機構30に設けられた後述する吐出口36に対向している。従って、ロータ下面53aに設けられている吸音室開口541a,541bも、この吐出口36に対向している。吸音室54a,54bは、ともに同一の構造及び機能等を備えている。そこで、吸音室54aを例に、その構造及び機能等について説明する。
【0037】
吸音室54aは、図2(A)に示すように、吸音室開口541aと、入口部542aと、この入口部542aと接続する共鳴室543aと、を備えている。入口部542aと共鳴室543aとは、ともに円筒状であって、共鳴室543aの径は入口部542aの径よりも大きい。また、入口部542aの上端部と共鳴室543aの下端部とが接続しており、入口部542aと共鳴室543aとによって一つの空間が形成されている。このような構造を備えることにより、圧縮機構30の吐出口36から吐出されたガスに圧力脈動が起こって騒音が発生すると、その音波が入口部542a及び共鳴室543aを満たしたガスを介してこれら入口部542a及び共鳴室543aへ侵入して共鳴する。その結果、吐出ガスの騒音の音エネルギーが熱エネルギーに変換され、音エネルギーが減少し、騒音が低減する。
【0038】
吸音室54a,54bは、図2(B)に示すように、平面視してロータ本体53の回転軸Oを中心として180°間隔で配置されている。このように配置されることにより、ロータ本体53が回転軸Oを中心として回転する際に、吸音室54a,54bは、圧縮機構30の吐出口36と、交互に周期的に対向する。すると、吸音室54a,54bは、吐出孔36から吐出した冷媒ガスの脈動に起因する騒音を周期的に吸音するため、吸音のタイミングに偏りが生じない。また、吸音室54a,54bは、ロータ下面53aにおいて4つの磁石60a〜60dよりも内側に配設されている。つまり、吸音室54a,54bは、磁石60a〜60dから発生する磁束の流れる範囲より外側に配置されている。
【0039】
[バランスウェイトの構成]
次に、図3を参照して、バランスウェイトについて説明する。図3は、ロータ本体53と一体として構成されたシャフト50を示す図であって、図3(A)は図3(B)の第1直線X−X’断面を矢印方向から視た断面図であり、図3(B)は図3(A)の矢印方向から視た上面視図である。なお、図3(B)中の第1直線X−X’は回転軸Oと偏心部50bの中心Cとを結ぶ直線であり、第2直線Y−Y’は第1直線X−X’に垂直であって回転軸Oを通過する直線である。
【0040】
バランスウェイト61a,61bは、それぞれロータ本体53の上端面及び下端面に配設されており、材質が同一であり、図3(B)に示すように、その形状は半リング状である。ただし、下端面に配設されているバランスウェイト61aの厚みは、図3(A)に示すように、上端面に配設されているバランスウェイト61bの厚みよりも厚い。従って、バランスウェイト61aがバランスウェイト61bよりも重い。
【0041】
次に、バランスウェイト61a,61bの配設される位置について説明する。なお、説明の便宜上、図3(B)において、第2直線Y−Y’よりも偏心部50bの中心C側を「右側」、第2直線Y−Y’よりも中心Cとは反対側を「左側」、第1直線X−X’よりもY側を「上側」、第1直線X−X’よりもY’側を「下側」と呼ぶ。
【0042】
ロータ本体53に吸音室が形成されていない場合には、偏心部50bの右側部分が左側部分よりも大きいため、ロータ本体53と一体として構成されたシャフト50の重心は、左右方向に関して右側に偏っている。一方、シャフト50及びロータ本体53はともに第1直線X−X’に関して線対称であるため、ロータ本体53と一体として構成されたシャフト50の重心は、上下方向に関して偏っておらず、回転軸Oと一致している。
【0043】
従って、左右方向に関する重心の偏りを解消するため、即ち、右側部分の重量と左側部分の重量との差を解消するため、重量の大きいバランスウェイト61aはロータ下面53aの左側に配設され、重量の小さいバランスウェイト61bはロータ本体53の上面の右側に配設されている。一方、上下方向に関する重心の偏りが生じるのを防止するため、バランスウェイト61a,61bが第1直線X−X’に関して線対称となるように配設されている。従って、バランスウェイト61a,61bは、図3(B)に示すように、平面視して180°間隔で配置されており、互いの位置関係は、平面視して第2直線Y−Y’に関して線対称もしくは回転軸Oに対して点対称の関係にある。
【0044】
[吸音室の配置]
吸音室54a,54bは、ロータ本体53と一体として構成されたシャフト50の重心が上下方向及び左右方向に関して偏りが生じないように設けられる。従って、第1直線X−X’及び第2直線Y−Y’に関して線対称となるように吸音室54a,54bを設ける必要がある。まず、重心が左右方向に関して偏るのを防止するために、吸音室54a,54bを第2直線Y−Y’に関して対称に配置する(図3(A)参照)。つまり、吸音室54a,54bは、中心軸Oに関して180°間隔で配置されている。即ち、吸音室54a,54bは、中心軸Oに関して点対称となるように配置されている(図3(B)参照)。
【0045】
さらに、重心が上下方向に関して偏るのを防止するために、吸音室54a,54bを第1直線X−X’に関して線対称に配置する。つまり、吸音室54a,54bの円形状の横断面が第1直線X−X’に関して線対称に、即ち、入口部541a,541b及び共鳴室542a,542bのそれぞれ中心が第1直線X−X’上となるように配置されている(図3(B)参照)。
【0046】
このように、吸音室54a,54bを平面視して第1直線X−X’及び第2直線Y−Y’に関して線対称に配置することにより、ロータ本体53と一体として構成されたシャフト50の重心が上下方向及び左右方向に偏るのを防止しつつ(即ち、重心を平面視して回転軸Oと一致させつつ)、圧縮機構30の吐出口36から吐出した冷媒ガスの脈動に起因する騒音を低減することが可能となる。
【0047】
(第1実施形態に係る圧縮機の特徴)
第1実施形態に係る圧縮機には、以下のような特徴がある。
【0048】
第1実施形態の圧縮機では、吸音室54a,54bが圧縮室B1に連通しておらず、圧縮された冷媒ガスが吸音室54a,54b内に残留することがないため、圧縮効率を低下させることなく騒音を低減することが可能となる。また、ロータ本体53の上面に吸音室を設けた場合、圧縮機内を循環する潤滑油が吸音室に流入する可能性がある。これに対して、第1実施形態の圧縮機では、ロータ下面53aにおいて下方に吸音室開口541a,541bを有するように吸音室54a,54bが設けられているため、潤滑油40が吸音室54a,54bに流入することなく騒音を低減することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態の圧縮機では、ロータ本体53に設けられている磁石60a〜60dよりも内側に吸音室54a,54bが配置されており、吸音室54a,54bがロータ51及びステータ52の鉄板内を通る磁束の流れを妨げることがないため、モータ20の効率を低下させることなく、騒音を低減することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態の圧縮機では、吸音室54a,54bを、回転軸Oを中心として180°間隔で配置しているため、ロータ本体53が回転する際に、吸音室54a,54bが交互に周期的に圧縮機構30の吐出口36に対向する。従って、吸音のタイミングに偏りが生じず、安定して騒音を低減することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態の圧縮機では、吸音室54a,54bが第1直線X−X’及び第2直線Y−Y’に関して線対称に配置されているため、ロータ本体53と一体として構成されたシャフト50の重心が上下方向及び左右方向に偏るのを防止しつつ(即ち、重心を回転軸Oと一致させつつ)、圧縮機構30の吐出口36から吐出した冷媒ガスの脈動に起因する騒音を低減することが可能となる。
【0052】
(第2実施形態)
第1実施形態では、ロータ本体に吸音室を2つ設けた場合について説明したが、吸音室の個数はこれに限られない。そこで、第2実施形態では、ロータ本体に吸音室を1つ設けた場合について、図4,5を参照して説明する。
【0053】
図4は、ロータ本体530と一体として構成されたシャフト50を示す図であって、図4(A)は図4(B)の第1直線X−X’断面を矢印方向から視た断面図であり、図4(B)は図4(A)の矢印方向から視た上面視図である。なお、図4(B)中の第1直線X−X’及び第2直線Y−Y’についての説明は、第1実施形態の図3における説明と同様である。
【0054】
シャフト50及び偏心部50bは、第1実施形態に係るものと同一のものであるため、説明を省略する。一方、ロータ本体530は、第1実施形態に係るロータ本体53とは異なるものであって、内部に形成されている吸音室は吸音室54bのみである。吸音室54bの配置については後述する。なお、吸音室54bの構造及び機能は、第1実施形態におけるものと同様である。
【0055】
バランスウェイト62a,62bは、ロータ本体530のそれぞれ下端面及び上端面に配設されている。バランスウェイト62a,62bは、材質が同一であり、図4(A)、(B)に示すように、ともに円板状である。以下、バランスウェイト62a,62bの配置について説明する。
【0056】
まず、説明の便宜のため、ロータ本体530に吸音室54bが形成されていない場合について説明する。図5は、吸音室が形成されていないロータ本体530’と一体として構成されたシャフト50を示す図であって、図5(A)は、シャフト50の縦断面図であり、図5(B)は、シャフト50の上面視図である。
【0057】
ロータ本体530’と一体として構成されたシャフト50の重心は、偏心部50bの右側部分が左側部分よりも大きいため、左右方向に関して右側に偏っている。一方、シャフト50及びロータ本体530’はともに第1直線X−X’に関して線対称であるため、重心は上下方向に関して偏っておらず、回転軸Oと一致している。
【0058】
従って、左右方向に関する重心の偏りを解消するため、重量の大きいバランスウェイト62a’はロータ下面530aの左側に配設され、重量の小さいバランスウェイト62b’はロータ本体530の上面の右側に配設されている。一方、上下方向に関する重心の偏りが生じるのを防止するため、バランスウェイト62a’,62b’が第1直線X−X’に関して線対称となるように配置されている。
【0059】
これに対して、吸音室54bが形成されているロータ本体530と一体となって構成されたシャフト50では、ロータ本体530については、左側部分が吸音室54bの形成されている右側部分よりも重く、シャフト50については、偏心部50bの右側部分が左側部分よりも大きいため、その右側部分が左側部分よりも重い。一方、シャフト50及びロータ本体530’はともに第1直線X−X’に関して線対称であるため、重心は上下方向に関して偏っておらず、回転軸Oと一致している。
【0060】
従って、ロータ本体530と一体となって構成されたシャフト50の右側部分の重量と左側部分の重量との差を解消するとともに、重心に上下方向の偏りが生じないようにバランスウェイト62a,62bを配置する。上下方向に関しては、バランスウェイト62a,62bは上述のとおり円板状であるため、その中心が第1直線X−X’上になるように配置する。一方、左右方向に関しては、第2直線Y−Y’に関して線対称となるように配置する。
【0061】
次に、バランスウェイト62a,62bの重量について説明する。ロータ本体530と一体として構成されたシャフト50と、ロータ本体530’と一体として構成されたシャフト50とを対比すると、前者における右側部分の重量と左側部分の重量との差は、後者における右側部分の重量と左側部分の重量との差よりも小さい。従って、バランスウェイトは右側部分の重量と左側部分の重量との差を解消するために設けられるため、吸音室54bが形成されている場合におけるバランスウェイト62a,62bの全体の重量は、吸音室54bが形成されていない場合におけるバランスウェイト62a’,62b’の全体の重量よりも軽いものである。
【0062】
(第2実施形態に係る圧縮機の特徴)
第2実施形態に係る圧縮機には、以下のような特徴がある。
【0063】
第2実施形態の圧縮機では、ロータ本体530と一体として構成されたシャフト50と、ロータ本体530’と一体として構成されたシャフト50とを対比すると、前者における右側部分の重量と左側部分の重量との差は、後者における右側部分の重量と左側部分の重量との差よりも小さい。従って、吸音室54bが形成されている場合におけるバランスウェイト62a,62bの全体の重量は、吸音室54bが形成されていない場合におけるバランスウェイト62a’,62b’の全体の重量よりも軽くすることが可能となる。それに伴って、バランスウェイトのコストを低減させることができるため、圧縮機の製造コストも低減することが可能となる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0065】
上記実施形態では、ロータ本体に1個又は2個のヘルムホルツ型の吸音室を設けたが、これに限定されず、例えば、図6に示すロータ本体531のように、回転軸Oに関して略90°間隔で4個の吸音室54a〜54dを設けてもよい。なお、これら吸音室54a〜54dは、磁石60a〜60dよりも内側に配置されているため、モータの効率を低下させることなく騒音を低減することが可能である。
【0066】
また、上記実施形態では、ロータ本体に4個の磁石を設けたが、これに限定されず、例えば、図7に示すロータ本体532のように、回転軸Oに関して120°間隔で3つの吸音室54e〜54gを設け、さらに、回転軸Oに関して60°間隔で6つの磁石62a〜62fを設けてもよい。また、吸音室54e〜54gは、吸音室54a〜54dと異なる形状を備えさせることにより、吸音室54a〜54dとは異なる周波数の騒音を低減させてもよい。この他にも、例えば、図8に示すロータ本体533のように、1個の吸音室54eと6個の磁石62a〜62fとを設けてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、ロータに4個の板状の磁石60a〜60dを埋設したが、これに限定されず、例えば、図9に示すように、ロータ本体534の径よりも小さな径を有する略半円筒状の2個の磁石63a,63bを埋設してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明を利用すれば、圧縮効率を低下させることなく、圧縮機の騒音を低減させることが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 圧縮機
20 モータ
30 圧縮機構
50 シャフト
50a クランク軸
50b 偏心部
51 ロータ
52 ステータ
53,530〜534 ロータ本体
53a ロータ下面
54a〜54f 吸音室(ヘルムホルツ型)
541a,541b 吸音室開口
542a,542b 共鳴室
60a〜60d,62a〜62f,63a〜63b 磁石
B1 1次空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器内に収容され、回転子及び前記回転子の径方向外側に配置される固定子を有する駆動機構とを備え、
前記回転子の下面には、ヘルムホルツ共鳴器となる吸音室が設けられている、
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記回転子は、その軸方向に沿って延在する磁石を有しており、
前記吸音室は、平面視において前記磁石より内側に配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記回転子の下面には、複数の吸音室が設けられており、
前記複数の吸音室は、平面視において前記回転子の回転軸に関して略等角度間隔で配置されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の圧縮機。
【請求項4】
前記駆動機構は、
前記回転子の中央を貫通するクランク軸と、
前記クランク軸に設けられた偏心部とを有しており、
前記吸音室は、平面視において、前記クランク軸の中心と前記偏心部の中心とを通過する第1直線に対して対称に配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の圧縮機。
【請求項5】
前記駆動機構は、
前記回転子の中央を貫通するクランク軸と、
前記クランク軸に設けられた偏心部とを有しており、
前記吸音室は、平面視において、前記クランク軸の中心と前記偏心部の中心とを通過する第1直線と垂直であり且つ前記クランク軸の中心を通過する第2直線に対して対称に配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−12592(P2011−12592A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156968(P2009−156968)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】