説明

圧縮機

【課題】圧縮性能を損なうことなく再起動時の負荷を軽減できる圧縮機を提供する。
【解決手段】本発明の圧縮機は、二段側シリンダ内に設けられた揺動型ピストン1と、このピストンに形成され、圧縮運転が止まってから再起動するまでの間に圧縮室から圧縮エアを逃がすためのエア抜き通路7と、圧縮運転している間、エア抜き通路を閉じるための弁体8とを有する。圧縮運転中はシリンダ内の圧縮エアにより弁体8が押圧されてエア抜き通路7を塞ぐ。したがって圧縮運転の間は、圧縮エアがシリンダから漏れ出ないので、圧縮性能を損なうことはない。一方、圧縮運転が停止すると、弁体8が元の取り付け位置に戻るため、シリンダ内に残留していた圧縮エアは、エア抜き通路7を介してクランクケース側へ抜け出る。したがって、圧縮運転が停止するとエア抜き通路を介してシリンダ内が減圧されるので、再起動する際の負荷が軽減されることとなり、圧縮機をスムーズに起動できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起動時の負荷を軽減できる構造を備えた空気圧縮機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
圧縮エアを生成する装置として圧縮機が一般的に知られている。特許文献1には、「ロッキングピストン」と称される揺動ピストンを備えた圧縮機が開示されている。この種の圧縮機は、筒状のシリンダと、シリンダ内に圧縮室を画成する揺動ピストンと、シリンダと揺動ピストンとの間をシールする環状のリップリングとを有している。
【0003】
かかる圧縮機を作動させるとモータが駆動し、揺動ピストンがシリンダ内で揺動しつつ往復動して圧縮エアを生成する。その際、リップリングのリップ部がシリンダの内周面に常時摺接しているので、シリンダと揺動ピストンとの間は気密にシールされている。これにより、シリンダ内におけるエアの圧縮効率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−283643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リップリングを使用する場合、気密性が保たれるためシリンダ内の圧縮エアが抜けにくく、再起動時においてもシリンダ内の圧力が下がることがない。そのため、リップリングを使用する場合の問題点として、シリンダ内に残留した圧縮エアが抵抗となって、再起動の際により大きなトルクが必要となり、起動不良となるといった問題があった。
【0006】
かかる問題点を解決すべく、次に掲げるような方法も提案された。
1.起動時のみコンデンサを介してトルクをアップさせる方法。
2.停止後にシリンダ及びシリンダヘッド圧力をモータ停止信号により逃がす方法。
3.停止後にピストンリングの隙間からシリンダ圧力を逃がす方法。
4.シリンダ側面の下死点付近に小さな穴を明け、停止した時にシリンダ内の圧縮エアを逃がす方法。
【0007】
しかしながら、
上記1.2.の方法では、圧縮機外部に部品及び配線・配管が必要となり、スペースが大きくなり、またコストアップが生じるといった問題がある。
上記3.の方法では、圧縮運転時において圧縮エアの漏れを伴うため、圧縮性能が低下するといった問題がある。
上記4.の方法では、圧縮中は常に穴からの排気音が出るためうるさく、圧縮性能が低下するといった問題がある。
【0008】
そこで、上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、圧縮性能を損なうことなく低コストで再起動時の負荷を軽減できる構造を備えた圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した本発明の目的は、シリンダ内の圧縮室のエアを圧縮するピストンと、前記ピストンに形成され、圧縮運転(吸込行程と圧縮行程の繰り返し運転)が止まってから再起動するまでの間に前記圧縮室から圧縮エアを逃がすためのエア抜き通路と、圧縮運転している間、前記エア抜き通路を閉じるための弁体とを有する圧縮機によって達成される。
【0010】
前記弁体は、弾性部材を含んで構成され、圧縮エアに押圧されて前記エア抜き通路を閉じる方向に弾性変形するように設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧縮機によれば、圧縮運転中はシリンダ内の圧縮エアにより弁体が押し付けられてエア抜き通路を塞ぐ。したがって、圧縮運転の間、圧縮エアがシリンダの圧縮室から漏れ出ることはないので、圧縮性能を損なうことはない。
一方、圧縮運転が停止すると、弁体が元の取り付け位置に戻るため、シリンダ内に残留していた圧縮エアは、エア抜き通路を介してクランクケース側へ抜け出る。したがって、圧縮運転を停止するとエア抜き通路を介してシリンダ内が減圧されるので、再起動する際の負荷が軽減されることとなり、圧縮機をスムーズに起動することが可能になる。
しかも、このような再起動時の負荷軽減機構は、ピストンに形成したエア抜き通路と、弾性部材を含んでなる弁体で構成できるので、コストアップを招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る圧縮機(二段圧縮機)の概略構成を示す全体図である。
【図2】図1に示す圧縮機の二段側で用いられるピストン及びコネクティングロッドを示す断面図及び平面図である。
【図3】図2(B)に示すピストンをシリンダに収めた状態を示す拡大図である。
【図4】エア抜き通路を開閉する弁体(板バネ)の動作を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(圧縮機の概略構成)
本実施形態で説明する圧縮機は、図1に示すように二段圧縮機として構成されており、クランクケースと、クランクケースに設けられた一段側シリンダ(低圧用のシリンダ)と、この一段側シリンダ内を揺動しつつ往復動する揺動型のピストンと、クランクケースに設けられた二段側シリンダ(高圧用のシリンダ)と、この二段側シリンダ内を揺動しつつ往復動する揺動型のピストンとを有している。
【0014】
各シリンダは円筒状に形成され、シリンダの先端側には、従来と同様にシリンダヘッドが搭載されている。シリンダヘッド内には、エアを吸い込む吸込室と、圧縮エアを吐出する吐出室とが画成されている。各シリンダには揺動型のピストンが設けられ、シリンダ内に圧縮室を画成している。一段側シリンダで圧縮されたエアは、シリンダヘッドの吐出室を介して二段側へ送出され、二段側シリンダにおいて更に圧縮される。二段側シリンダで生成された圧縮エアは、シリンダヘッドの吐出室を介して吐出され、外部のエアタンクに貯留される。
【0015】
圧縮運転を続けエアタンク内の圧力が所定の最大設定圧力に達すると圧力センサがこれを感知し、安全上の理由から制御回路がモータを停止させ、圧縮運転が止まる。そして、圧縮エアの消費によりエアタンク内の圧力が所定の再起動設定圧力値以下に低下すると圧力センサがこれを感知し、制御回路がモータを再起動させ、再び前述した圧縮エアの生成を行う。
【0016】
(二段側ピストンの構成)
以下、図2〜図4に基づき、二段側シリンダ(高圧用のシリンダ)に設けられるピストンの構成について詳細に説明する。
【0017】
二段側に設けられるピストン1は、一般的に「ロッキングピストン」と称される揺動ピストンである。このピストン1は、コネクティングロッド2の先端に固設されたピストン本体4と、ピストン本体4に被嵌される略円盤状のリテーナ5(リップリング固定部材)と、往復動するピストン1とシリンダとの間をシールするリップリング6(シール部材)と、停止している間にシリンダ内の圧縮エアを逃がすためのエア抜き通路7(通路57、隙間47、通路45からなる通路)と、圧縮運転している間エア抜き通路7を塞ぐための板バネ状の弁体8(エア抜きバルブ)とを有している。
【0018】
ピストン本体4の上面側(圧縮室を向いた側)には、リテーナの凸部51と凹凸嵌合する円形の凹部41と、該凹部を囲む環状凸部43が形成されている。また、ピストン本体4には、凹部41からピストン本体の裏面側(上面側とは反対の側)へ貫通する通路45が形成されている。ピストン本体4の裏面側には、コネクティングロッド2の先端が固設されている。コネクティングロッド2は、その先端側がシリンダ内に進入しており、その先端部に設けられたピストン1をシリンダ内で揺動しつつ往復動させるものである。コネクティングロッド2の基端側には環部21が設けられ、軸受を介してクランク軸に連結されている。
【0019】
リテーナ5は段付円盤状に形成され、ピストン本体の凹部41と凹凸嵌合する円形の凸部51と、該凸部を囲むフランジ状の環状縁部53とを有している。リテーナ5の上面側(圧縮室を臨む側)には、弁体8を位置決めするための−形状のマイナス溝55が形成されている。またリテーナ5には、その上面側から凸部51のある裏面側へ貫通する通路57が形成されている。この通路57の上側開口部はマイナス溝55の底部に位置しており、圧縮運転している間は弁体8によって塞がれるようになっている。
【0020】
リテーナ5のマイナス溝55は、その内側に弁体8(板バネ)を収めた状態で該弁体が自在に弾性変形できるように、弁体8よりも僅かに幅広い寸法を有している。図4に示すように、マイナス溝55の底部には段差が設けてあり、弁体8の端部を載せて固定するための上段領域58と、該上段領域から弁体8が片持ち梁状に張り出すように凹ませた下段領域59が形成されている。
【0021】
リップリング6は、底部に円形の開口部を有するカップ状の形態を有し、可撓性のある樹脂材料から形成されている。このリップリング6は、断面略L字状のシールリングとして形成されており、リテーナの環状縁部53とピストン本体の環状凸部43との間に介在する平環状の取付部61と、リテーナ5を取り囲むように取付部61の外縁から上方へ向けて屈曲するリップ部63とを有している。リップ部63は、ピストン1が往復動している間シリンダの内周面に対し全周にわたって常時摺接する。これにより、ピストンとシリンダとの間が気密にシールされ、圧縮室内の圧縮エアがピストン外周とシリンダの間の隙間から漏れるのが防止される。
【0022】
ピストン本体4とリテーナ5は、図3に示すように、環状凸部43と環状縁部53の間にリップリングの取付部61が介在し、かつ、凹部41と凸部51が凹凸嵌合するように組み合わされている。本実施形態ではリップリングの取付部61は、環状凸部43と環状縁部53との間で挟持されており、この状態で、ピストン本体4とリテーナ5は、ボルト91で固定されている。
【0023】
ピストン本体4とリテーナ5が凹凸嵌合しボルト91で締結された状態において、ピストン本体の凹部41の底面と、リテーナの凸部51の端面との間には、隙間47が形成されている。この隙間47は、リテーナの通路57とピストン本体の通路45のそれぞれに連通している。リテーナの通路57と、ピストン本体とリテーナの間の隙間47と、ピストン本体の通路45は、エア抜き通路7を形成している。後述する弁体8が開弁状態にあるときに、シリンダ内に残留した圧縮空気がエア抜き通路7を介してクランクケース側へ逃がされるようになっている。
【0024】
弁体8は弾性部材を含んで構成されており、図示する実施形態では一例として板バネから構成されている。この弁体8は図4に示すように、リテーナ5の上面側にあるマイナス溝55に収まった状態で、その一端側(基端側)がリテーナ5の上段領域58に対しボルト93で固定されている。弁体8の他端側(先端側)は自由端となっており、下段領域59の側に片持ち梁状に張り出している。下段領域59の側に張り出した弁体8は、図4(A)に示すように通路57の開口部の上方を覆っており、リテーナ上面の下段領域59との間に僅かな隙間9(本実施形態ではおよそ0.2mmの隙間)をあけている。
【0025】
上記構成の弁体8は、圧縮運転している間は、図4(B)に示すようにシリンダ内の圧縮エアにより押し付けられて弾性変形する。その結果、リテーナ表面との間に僅かな隙間9’(弁体8が弾性変形する前の隙間9よりも狭小な隙間)を残しつつ、弁体8の先端側が通路57の開口部を塞いで閉弁する。
一方、圧縮運転が停止すると、図4(A)に示すように弁体8は原形に復帰して元の取り付け位置に戻り、密着していた通路57の開口部周囲との間に隙間9をあけて開弁する。
【0026】
(圧縮機の動作)
モータが駆動すると、従来と同様に、ピストン1がシリンダ内を揺動しつつ往復動する。これにより圧縮機は、吸込室から圧縮室内にエアを吸い込む吸込行程と、圧縮室内のエアを圧縮して吐出室に吐出する圧縮行程とを繰り返し、圧縮エアを生成する。生成された圧縮エアは、外部のエアタンクに貯留され、釘打ち機などの用途に供される。
【0027】
吸込行程(ピストン1が下死点へ移動する過程)では、一段側で圧縮された高圧エアが二段側シリンダ内に吸い込まれるため、弁体8には、図4(B)で矢印で示す方向の押し付け力が圧縮エアにより作用する。一方、圧縮行程(ピストン1が上死点へ移動する過程)では、二段側シリンダに吸い込まれた圧縮エアが更に圧縮されるため、弁体8には、図4(B)で矢印で示す方向の押し付け力が圧縮エアにより作用する。
【0028】
よって、圧縮運転している間、すなわち吸込行程および圧縮行程のいずれの行程でも、圧縮エアにより弁体8が常に閉弁方向(エア抜き通路7を塞ぐ方向)に押圧されて弾性変形する。その結果、リテーナ5との間に僅かな隙間9’をあけた状態で、弁体8の先端側が、通路57の開口部の周囲でリテーナ5に密着する。そのため、圧縮運転している間は、閉弁状態の弁体8によって圧縮室の気密性は保たれ、エア抜き通路7を介して圧縮エアが漏れ出ることはない。すなわち、圧縮室の気密性は弁体8とリップリング6によって保たれるので、エア抜き通路が圧縮性能を阻害することはない。
【0029】
上述した圧縮運転を続けエアタンク内の圧力が最大設定圧力に達すると、安全上の理由からモータが停止して圧縮運転が止まる。すると、弁体8の上面側に対して作用する圧力と同じ圧力が、隙間9’を介して弁体8の下面側に対しても作用する。したがって、弾性変形していた弁体8は、通路57の開口部から離れて元の取り付け位置に戻り、その結果、図4(A)に示すようにリテーナ表面との間に隙間9をあける開弁位置に至る。これにより、シリンダ内に残留していた圧縮エアは、図3に示すようにエア抜き通路7を介してクランクケース内へ抜け出るので、シリンダ内の圧力が減圧される。
【0030】
そして、圧縮エアの消費によりエアタンク内の圧力が所定の再起動設定圧力値以下に低下すると、制御回路がモータを再起動させる。このとき既に、シリンダ内に残留していた圧縮エアはエア抜き通7を介してクランクケース内へ抜け出ているので、シリンダ内のエアが抵抗となることはなく、再起動時の負荷を軽減させることができる。そして、再び前述と同様に圧縮運転を続け、エアタンク内の圧力が最大設定圧力に達するまで圧縮エアを生成する。
【0031】
(変形例)
上述した実施形態は一例であって、特許請求の範囲内で種々の改変が可能である。
例えば、本発明で用いられる揺動型ピストンが具備すべきシール部材(ピストンとシリンダとの間を気密にシールするための部材)は、リップリングに限定されるものではなく、これに代えて公知のピストンリングを採用することも可能である。
また、弁体の構成、弁体の取り付け態様、弁体とリテーナとの間に隙間を形成するための構成は、図示するものに限定されない。すなわち、停止しているときには、弁体がエア抜き通路の開口部から離隔しピストンとの間に隙間をあけ、圧縮運転しているときには、ピストンとの間に僅かに隙間をあけつつ、弁体がエア抜き通路の開口部を塞ぐような、他の構成・形態を採用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 ピストン(ロッキングピストン/揺動型ピストン)
2 コネクティングロッド
4 ピストン本体
5 リテーナ(リップリング固定部材)
6 リップリング(シール部材)
7 エア抜き通路
8 弁体(エア抜きバルブ)
9 隙間
9’ 隙間
21 環部
41 凹部
43 環状凸部
45 通路
47 隙間
51 凸部
53 環状縁部
55 マイナス溝
57 通路
58 上段領域
59 下段領域
61 取付部
63 リップ部
91 ボルト
93 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内の圧縮室のエアを圧縮するピストンと、
前記ピストンに形成され、圧縮運転が止まってから再起動するまでの間に前記圧縮室から圧縮エアを逃がすためのエア抜き通路と、
圧縮運転している間、前記エア抜き通路を閉じるための弁体と、
を有することを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記弁体は、
弾性部材を含んで構成され、
圧縮エアに押圧されて前記エア抜き通路を閉じる方向に弾性変形するように設けられていることを特徴とする請求項1記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−57531(P2012−57531A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201348(P2010−201348)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(591181160)尼寺空圧工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】