説明

圧縮機

【課題】摺動部のおける異常摩耗の発生を防止する。
【解決手段】
二酸化炭素を冷媒として冷凍サイクルを構成する冷凍回路に用いられ、冷凍機油に合成油が用いられる一方、互いに摺動する第1摺動部材と第2摺動部材とを有する圧縮機構を備えている。第1摺動部材と第2摺動部材とは、第2摺動部材の硬度V2と第1摺動部材の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hv以上+400Hv未満の範囲に含まれる材料から選定されている。具体的に、第1摺動部材は、SKH51で構成され、第2摺動部材は、SCM415H、SKH51、SCM440及びFCD600の何れかの材料で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関し、特に、摺動部材に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和装置などの冷凍装置には、蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路が設けられている。この冷媒回路には、圧縮機が設けられ、この圧縮機には、スクロール型圧縮機やロータリ圧縮機などが用いられている。上記圧縮機の摺動部には、特許文献1に開示されているように、一方の摺動部材にビッカース硬度(Hv)1000以上の高速度鋼を使用し、他方の摺動部材にMo−Ni−Co含有鋳鉄などが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−003956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の圧縮機の摺動部の材料選択においては、摺動部にかかる荷重が高くなれば、単に、それぞれの摺動部材の硬度を上げ、確認試験を通して摺動材料の組合せを選択する方法が一般的であった。すなわち、摺動材料選択の方向性は「硬度を上げる」しかなかったため、検討対象の幅が広く、評価試験の工数が掛かりすぎるという課題があった。
【0005】
上記冷媒回路には、HCFC冷媒やHFC冷媒の他にCO2冷媒(二酸化炭素冷媒)が用いられている。このうち、CO2冷媒の場合、冷媒回路は、超臨界冷凍サイクルとなり、高圧がHFC冷媒の場合よりも高くなる。例えば、HFC冷媒では4MPa程度であるのに対し、CO2冷媒では12MPa程度となる。このため、従来の摺動部材をそのまま流用すると異常摩耗が発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、摺動部のおける異常摩耗の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、摺動部における2つの摺動部材について、その硬度差の範囲を定めたものである。
【0008】
つまり、本願の発明者は、摺動部における2つの摺動部材のうち、摺動の相手材である第2摺動部材の硬度に対する第1摺動部材の硬度が低すぎると、この第1摺動部材の摩耗量が大きくなり、逆に、第2摺動部材の硬度に対する第1摺動部材の硬度が高すぎると、第2摺動部材への攻撃性が強くなり、第2摺動部材の摩耗量が大きくなるという傾向がある点を新たに見出したものである。
【0009】
要するに、本願の発明者は、異常摩耗の発生が各摺動部材の硬度そのものに依存しているのではなく、両摺動部材の硬度の関係、つまり、両摺動部材の硬度差に依存している点を新たに見出し、第1摺動部材と第2摺動部材との硬度差を所定の範囲内に設定したものである。
【0010】
具体的に、第1の発明は、二酸化炭素を冷媒として冷凍サイクルを構成する冷凍回路に設けられ、冷凍機油に合成油が用いられる一方、互いに摺動する第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とを有する圧縮機構(20)を備えた圧縮機を対象としている。
【0011】
そして、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とは、該第2摺動部材(62)の硬度V2と第1摺動部材(61)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hv以上+400Hv未満の範囲に含まれる材料から選定されている。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記第1摺動部材(61)は、硬度が750Hvから850Hvである材料で構成され、上記第2摺動部材(62)は、硬度が350Hv以上1250Hv未満の範囲に含まれる材料から選定された材料で構成されていることを特徴としている。
【0013】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記第1摺動部材(61)がSKH51で構成され、上記第2摺動部材(62)が、窒化処理または焼き入れ処理された材料で構成されていることを特徴としている。
【0014】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記第2摺動部材(62)が、SCM415H、SKH51、SCM440及びFCD600の何れかの材料で構成されていることを特徴としている。
【0015】
第5の発明は、上記第1の発明において、上記合成油がPAG油であることを特徴としている。
【0016】
第6の発明は、上記第1〜第5の何れかの発明において、上記圧縮機構(20)は、シリンダ(19)と、該シリンダ(19)の内部において偏心回転するピストン(28)と、該ピストン(28)に一体形成されたブレード(28b)と、該ブレード(28b)を揺動自在に保持するように上記シリンダ(19)に設けられたブッシュ(51,52)とを備え、上記第1摺動部材(61)は、ブッシュ(51,52)であり、上記第2摺動部材(62)は、シリンダ(19)であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とを、該第2摺動部材(62)の硬度V2と第1摺動部材(61)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hv以上+400Hv未満の範囲に含まれる材料から選定するようにしたために、各摺動部材(61,62)の異常摩耗の発生を確実に防止することができる。
【0018】
特に、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)との硬度差が所定範囲にある材料であればよいので、材料探索をより的確に実施することができる。
【0019】
また、第2の発明によれば、上記第1摺動部材(61)を、硬度が750Hvから850Hvである材料で構成し、上記第2摺動部材(62)を、硬度が350Hv以上1250Hv未満の範囲に含まれる材料から選定された材料で構成するようにすると、各摺動部材(61,62)の異常摩耗の発生をより確実に防止することができる。
【0020】
また、第3の発明によれば、上記第1摺動部材(61)を、高速度鋼SKH51で構成し、上記第2摺動部材(62)を、窒化処理または焼き入れ処理された材料で構成するようにすると、各摺動部材(61,62)の摩耗をより確実に防止することができる。
【0021】
また、第4の発明によれば、上記第2摺動部材(62)は、クロムモリブデン鋼SCM415H、高速度鋼SKH51、クロムモリブデン鋼SCM440及びダクタイル鋳鉄FCD600の何れかの材料で構成するようにすると、高速度鋼SKH51の第1摺動部材(61)と硬度差が最適範囲となり、各摺動部材(61,62)の摩耗をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、圧縮機の縦断断面図である。
【図2】図2は、圧縮機構の水平断面図である。
【図3】図3は、摩耗試験装置の概略構成図である。
【図4】図4は、突起とディスクの拡大側面図である。
【図5】図5は、摩耗試験結果を示す表である。
【図6】図6は、硬度差と摩耗量との関係を示す図である。
【図7】図7は、ディスク硬度とディスク摩耗量との関係を示す図である。
【図8】図8は、ディスク硬度と突起摩耗量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態の圧縮機(1)は、揺動ピストン型のロータリ圧縮機であって、空気調和装置や冷凍装置などの冷媒回路に設けられている。
【0025】
上記圧縮機(1)は、ドーム型のケーシング(10)内に、圧縮機構(20)と電動機(30)とが収納され、全密閉型に構成されている。
【0026】
上記ケーシング(10)は、円筒状の胴部(11)と、該胴部(11)の上下にそれぞれ設けられた鏡板(12,13)とによって構成されている。上記胴部(11)の下部には、該胴部(11)を貫通する吸入管(14)が設けられている。一方、上部の鏡板(12)には、ケーシング(10)の内外を連通する吐出管(15)と、電動機(30)に電力を供給するターミナル(16)とが設けられている。
【0027】
上記圧縮機構(20)は、上記ケーシング(10)内の下部に配置され、シリンダ(19)と、該シリンダ(19)に形成されたシリンダ室(25)に収納された揺動ピストン(28)とを備えている。上記シリンダ(19)は、円筒状のシリンダ部(21)と、該シリンダ部(21)の上部開口を閉塞するフロントヘッド(22)と、上記シリンダ部(21)の下部開口を閉塞するリヤヘッド(23)とを備えている。そして、上記シリンダ室(25)が円柱状の圧縮空間となっている。
【0028】
上記電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを備え、上記ステータ(31)は、圧縮機構(20)の上方でケーシング(10)の胴部(11)に固定されている。
【0029】
上記ロータ(32)には、駆動軸(33)が連結され、該駆動軸(33)は、シリンダ室(25)を上下方向に貫通している。上記フロントヘッド(22)とリヤヘッド(23)には、駆動軸(33)を支持するための軸受部(22a,23a)が形成されている。上記駆動軸(33)の下端部には、油ポンプ(36)が設けられ、上記ケーシング(10)内の底部に貯留されている冷凍機油は、上記油ポンプ(36)によって上記駆動軸(33)の給油路内を流通して圧縮機構(20)のシリンダ室(25)内や軸受部(22a,23a)の摺動部などへ供給される。
【0030】
図2に示すように、上記揺動ピストン(28)は、円環状のピストン本体(28a)と、該ピストン本体(28a)の外周面の一箇所から径方向外側に突出するブレード(28b)とが一体的に形成されて構成されている。
【0031】
上記ピストン本体(28a)は、その内周が正円形状に形成され、このピストン本体(28a)の内側に偏心部(34)が嵌め込まれている。該偏心部(34)は、駆動軸(33)の外周に備えられ、駆動軸(33)の軸心より偏心している。そして、ピストン本体(28a)は、偏心部(34)の外周面に沿って摺動自在となっている。
【0032】
上記シリンダ部(21)には、駆動軸(33)の軸方向と平行に延びる断面円形状のブッシュ孔(21b)が貫通して形成されている。該ブッシュ孔(21b)は、シリンダ部(21)の内周面側に形成され、かつ周方向の一部分がシリンダ室(25)と連通するように形成されている。また、上記ブッシュ孔(21b)の内部には、断面が略半円形状の一対のブッシュ(51,52)が挿入されている。そして、上記揺動ピストン(28)のブレード(28b)は、ブッシュ孔(21b)を貫通している。
【0033】
一対のブッシュ(51,52)は、フラットな面同士が対向するように配置されている。そして、この一対のブッシュ(51,52)の対向面の間のスペースがブレード溝(29)として形成されている。該ブレード溝(29)には、揺動ピストン(28)のブレード(28b)が挿入されている。一対のブッシュ(51,52)は、ブレード溝(29)にブレード(28b)を挟んだ状態で、ブレード(28b)がブレード溝(29)に沿って進退自在となるように構成されている。同時に、上記ブッシュ(51,52)は、ブレード(28b)と一体的にブッシュ孔(21b)の中で揺動するように構成されている。また、上記シリンダ部(21)には、ブレード(28b)の先端を収容するためのブッシュ背部室(50)が形成されている。該ブッシュ背部室(50)は、ブッシュ孔(21b)よりも径方向外側に位置し、ブッシュ孔(21b)に連通して形成されている。
【0034】
上記シリンダ室(25)は、上記ピストン本体(28a)とブレード(28b)とによって、吸入側空間(25a)と吐出側空間(25b)とに区画形成されている。上記シリンダ部(21)には、吸入側空間(25a)と連通する吸入口(41)が形成されている。該吸入口(41)は、シリンダ部(21)を径方向に貫通し、一端が吸入側空間(25a)内に臨んでいる。上記吸入口(41)の他端には、上記吸入管(14)の端部が接続されている。
【0035】
一方、上記フロントヘッド(22)には、圧縮されたガス冷媒が排出される吐出ポート(42)が設けられている。該吐出ポート(42)は、シリンダ室(25)の吐出側空間(25b)と圧縮機構(20)の外部空間とを連通させている。上記吐出ポート(42)の上部には、該吐出ポート(42)の開口通路(42a)を開閉する吐出弁(46)が設けられている。
【0036】
また、上記圧縮機(1)において、冷媒は、二酸化炭素(CO2)で構成されている。また、上記圧縮機(1)の冷凍機油は、合成油であり、例えば、PAG油、PVE油、エステル油、鉱物油、PAO油及びアルベン油の何れかで構成されている。
【0037】
上記圧縮機(1)において、上記電動機(30)のロータ(32)が回転すると、ロータ(32)の回転力が駆動軸(33)を介して圧縮機構(20)の揺動ピストン(28)に伝達され、上記ピストン本体(28a)が、シリンダ室(25)の内周面に沿って公転する。この際、シリンダ室(25)の内部空間は、ブレード(28b)によって、吸入側空間(25a)と吐出側空間(25b)とに区画される。そして、上記ガス冷媒は、吸入口(41)より吸入側空間(25a)に吸入される。さらにピストン本体(28a)が公転すると、徐々に吸入側空間(25a)の容積が拡大する一方、吐出側空間(25b)の容積が縮小する。上記吐出側空間(25b)のガス冷媒は次第に圧縮され、高圧状態となる。上記吐出側空間(25b)がさらに縮小し、ガス冷媒が所定の圧力値以上になると、吐出弁(46)が開き、高圧となったガス冷媒が、吐出ポート(42)を流れ、圧縮機構(20)の外部の空間へ排出される。ガス冷媒の排出動作が終了すると、吐出弁(46)が閉じ、ピストン本体(28a)がさらに公転し、再びシリンダ室(25)におけるガス冷媒の圧縮が行われる。上記圧縮機(1)は、この動作を繰り返す。
【0038】
〈摺動部の構成〉
上記圧縮機(1)において、種々の摺動部(60)が構成されている。該摺動部(60)は、第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とが互いに摺動する部分であり、例えば、ブッシュ(51,52)とシリンダ部(21)との構成、ブレード(28b)とブッシュ(51,52)との構成及びシリンダ部(21)と揺動ピストン(28)との構成などがある。
【0039】
本実施形態においては、ブッシュ(51,52)が第1摺動部材(61)を構成し、シリンダ部(21)が第2摺動部材(62)を構成している。そして、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とは、該第2摺動部材(62)の硬度V2と第1摺動部材(61)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hv以上で且つ+400Hv未満の範囲に含まれる材料から選定されている。
【0040】
具体的に、上記第1摺動部材(61)は、硬度が750Hvから850Hvである材料で構成され、上記第2摺動部材(62)は、硬度が350Hv以上で且つ1250Hv未満の範囲に含まれる材料から選定された材料で構成されている。
【0041】
より具体的には、上記第1摺動部材(61)は、焼き入れ処理された材料で構成され、高速度鋼(SKH)で構成されている。上記第1摺動部材(61)は、例えば、SKH51で構成されている。
【0042】
一方、上記第2摺動部材(62)は、窒化処理または焼き入れ処理された材料で構成され、クロムモリブデン鋼(SCM)、高速度鋼(SKH)、窒化鋼(SACM)、ダクタイル鋳鉄(FCD)、ねずみ鋳鉄(FC)及びCV黒鉛鋳鉄(CGI)の何れかで構成されている。上記第2摺動部材(62)は、例えば、SCM415H、SKH51、SCM440、SACM645及びFCD600の何れかの材料で構成されている。
【0043】
そこで、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)との硬度差を設定した技術的理由について説明する。
【0044】
先ず、本願発明者は、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)との摩耗試験を行った。図3及び図4に示すように、摩耗試験装置(70)は、第1摺動部材(61)であるブレード状の3つの突起(71)が形成された回転盤(72)と、第2摺動部材(62)であるディスク(73)とを備えている。上記回転盤(72)の突起(71)にディスク(73)を載置し、ディスク(73)に所定の荷重を付加し、回転盤(72)を回転させる。そして、回転後の突起(71)とディスク(73)との摩耗量を測定した。なお、上記突起(71)は、幅4.6mm、厚さ4.0mmの矩形状で、先端が半径6mmの曲面に形成されている。
【0045】
試験条件は、次の通りである。ディスク(73)を突起(71)に押し付けた際の面圧は473.2MPa、回転の周速は1.4m/s、雰囲気環境は、二酸化炭素(CO2)の雰囲気中においてPAG油を供給した環境、試験温度は100℃である。
【0046】
試験では、第1摺動部材(61)である突起(71)にはSKH51を使用し、第2摺動部材(62)であるディスク(73)には、窒化処理または高周波焼入処理によって硬度を変化させたSCM415H、SKH51、SACM645、SCM440及びFCD600を使用した。突起(71)とディスク(73)の摩耗量は図5に示すようになった。
【0047】
上記ディスク(73)の硬度V2と突起(71)の硬度V1との硬度差(V2−V1)を横軸とし、ディスク(73)及び突起(71)の摩耗量を縦軸として上記試験結果を表すと、図6に示す通りとなる。
【0048】
図7に示す通り、第1摺動部材(61)である突起(71)がSKH51の場合、上記ディスク(73)の硬度V2が約300Hvより低くなると、ディスク(73)の摩耗量が急激に増加する。
【0049】
また、図8に示す通り、第1摺動部材(61)である突起(71)がSKH51の場合、上記ディスク(73)の硬度V2が約1100Hvを超えて高くなると、突起(71)の摩耗量が急激に増加する。
【0050】
本試験は、上記突起(71)の硬度V1が713Hv〜866Hvの範囲にあった。他方、上記ディスク(73)の硬度V2は212Hv〜1192Hvの範囲で変化させた。本試験では、上記突起(71)の材料にSKH51を使用しているが、前記試験条件と同様の試験条件の下では、上記突起(71)にSKH51以外の素材を使用しても上記突起(71)の硬度が同様の数値であれば同様の試験結果が得られる。
【0051】
以上を整理すると、図6に示すように、上記ディスク(73)の硬度V2と突起(71)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hvより低くなると、ディスク(73)の摩耗量が急激に増加する。つまり、図7に示すように、ディスク(73)の硬度が低くなり過ぎると、ディスク(73)自体の摩耗量が大きくなる。
【0052】
一方、上記ディスク(73)の硬度V2と突起(71)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が+400Hvより高くなると、突起(71)の摩耗量が急激に増加する。つまり、図8に示すように、ディスク(73)の硬度が高くなり過ぎると、相手材である突起(71)への攻撃性が高くなり、突起(71)の摩耗量が大きなる。
【0053】
そこで、本実施形態において、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とは、該第2摺動部材(62)の硬度V2と第1摺動部材(61)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hv以上+400Hv未満の範囲に含まれる材料から選定することとしている。
【0054】
具体的に、上記第1摺動部材(61)は、硬度が750Hvから850Hvである材料で構成し、高速度鋼(SKH)のうち、例えば、SKH51で構成することとした。
【0055】
一方、上記第2摺動部材(62)は、硬度が350Hv以上1250Hv未満である材料で且つ窒化処理または焼き入れ処理された材料で構成し、クロムモリブデン鋼(SCM)、高速度鋼(SKH)、窒化鋼(SACM)及びダクタイル鋳鉄(FCD)のうち、例えば、SCM415H、SKH51、SCM440、SACM645及びFCD600の何れかの材料で構成することとした。
【0056】
〈実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態によれば、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とを、該第2摺動部材(62)の硬度V2と第1摺動部材(61)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hv以上+400Hv未満の範囲に含まれる材料から選定するようにしたために、各摺動部材(61,62)の異常摩耗の発生を確実に防止することができる。
【0057】
特に、上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)との硬度差が所定範囲にある材料であればよいので、材料探索をより的確に実施することができる。
【0058】
また、CO2冷媒(二酸化炭素冷媒)を用い高荷重となる条件においても各摺動部材(61,62)の摩耗を確実に防止することができる。
【0059】
また、上記第1摺動部材(61)を、硬度が750Hvから850Hvである材料で構成し、上記第2摺動部材(62)を、硬度が350Hv以上1250Hv未満の範囲に含まれる材料から選定された材料で構成するようにすると、各摺動部材(61,62)の異常摩耗の発生をより確実に防止することができる。
【0060】
また、上記第1摺動部材(61)を、高速度鋼SKH51で構成し、上記第2摺動部材(62)を、窒化処理または焼き入れ処理された材料で構成するようにすると、各摺動部材(61,62)の摩耗をより確実に防止することができる。
【0061】
また、上記第2摺動部材(62)は、クロムモリブデン鋼SCM415H、高速度鋼SKH51、クロムモリブデン鋼SCM440、窒化鋼SACM645及びダクタイル鋳鉄FCD600の何れかの材料で構成するようにすると、高速度鋼SKH51の第1摺動部材(61)と硬度差が最適範囲となり、各摺動部材(61,62)の摩耗をより確実に防止することができる。
【0062】
〈その他の実施形態〉
上記実施形態は、以下のような構成としてもよい。
【0063】
上記実施形態は、摺動部(60)をブッシュ(51,52)とシリンダ部(21)とで構成するものとしたが、上記摺動部(60)は、ブレード(28b)とブッシュ(51,52)とで構成するものであってもよく、シリンダ部(21)と揺動ピストンとで構成するものなどであってもよい。
【0064】
また、上記圧縮機は、揺動ピストン型のロータリ圧縮機の他、レシプロ型圧縮機やスクロール型圧縮機など、各種のものであってもよい。
【0065】
したがって、上記摺動部(60)は、スクロール型圧縮機の可動スクロールとオルダムリングなどで構成するものであってもよく、また、軸受部などであってもよく、要するに、各種の圧縮機における2つの摺動部材が互いに摺動する部分であればよい。
【0066】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明は、圧縮機の摺動部について有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 圧縮機
19 シリンダ
20 圧縮機構
28 揺動ピストン
51,52 ブッシュ
60 摺動部
61 第1摺動部材
62 第2摺動部材
70 摩擦試験装置
71 突起
73 ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を冷媒として冷凍サイクルを構成する冷凍回路に設けられ、冷凍機油に合成油が用いられる一方、互いに摺動する第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とを有する圧縮機構(20)を備えた圧縮機であって、
上記第1摺動部材(61)と第2摺動部材(62)とは、該第2摺動部材(62)の硬度V2と第1摺動部材(61)の硬度V1との硬度差(V2−V1)が−400Hv以上+400Hv未満の範囲に含まれる材料から選定されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記第1摺動部材(61)は、硬度が750Hvから850Hvである材料で構成され、
上記第2摺動部材(62)は、硬度が350Hv以上で且つ1250Hv未満の範囲に含まれる材料から選定された材料で構成されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記第1摺動部材(61)は、SKH51で構成され、
上記第2摺動部材(62)は、窒化処理または焼き入れ処理された材料で構成されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記第2摺動部材(62)は、SCM415H、SKH51、SCM440及びFCD600の何れかの材料で構成されている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項1において、
上記合成油は、PAG油である
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項において、
上記圧縮機構(20)は、シリンダ(19)と、該シリンダ(19)の内部において偏心回転するピストン(28)と、該ピストン(28)に一体形成されたブレード(28b)と、該ブレード(28b)を揺動自在に保持するように上記シリンダ(19)に設けられたブッシュ(51,52)とを備え、
上記第1摺動部材(61)は、ブッシュ(51,52)であり、
上記第2摺動部材(62)は、シリンダ(19)である
ことを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97637(P2012−97637A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245082(P2010−245082)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】