説明

圧縮機

【課題】駆動軸の回転数が低速域となる運転条件下において、圧縮室における隙間からの冷媒漏れを低減する。
【解決手段】圧縮機は、駆動軸(23)を有する駆動機構(20)と、駆動軸(23)に駆動されて冷媒を内部で圧縮する圧縮機構(30)と、圧縮機構(30)の内部へ潤滑油を供給する油供給機構(50)と、駆動軸(23)の回転数を調整する回転数調整部(82)と、駆動軸(23)の回転数が所定の低速域になると、圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を上昇させる油粘度上昇機構(60)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関し、特に圧縮機の性能向上の対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷媒回路に接続されて冷媒を圧縮する圧縮機が知られている。この種の圧縮機として、例えば特許文献1には、スクリューロータ及びゲートロータを有するスクリュー式の圧縮機構を備えたものがある。スクリューロータは、外周面に複数条の螺旋溝が形成された略円柱状に形成されている。ゲートロータは、回転軸と、該回転軸の端部から径方向外方へ放射状に延びる複数の長方形板状のゲートを有し、このゲートがスクリューロータの螺旋溝と噛み合わされる。スクリューロータとゲートロータとは、ケーシングに収容される。これにより、圧縮機構の内部では、スクリューロータの螺旋溝と、ゲートロータと、ケーシングの内壁面との間に、圧縮室が形成される。
【0003】
スクリューロータは、駆動機構(電動機)の駆動軸と連結され、駆動軸によって回転駆動される。スクリューロータが回転すると、螺旋溝と噛み合うゲートが周方向に回転し、ゲートロータが回転する。すると、ゲートは、螺旋溝の始端(低圧の冷媒が吸入される吸入側の端部)から終端(高圧の冷媒が吐出される吐出側の端部)に向かって相対的に移動していく。これに伴い、閉じきり状態となった圧縮室の容積が徐々に縮小していき、圧縮室内の冷媒が圧縮される。
【0004】
同文献に開示された圧縮機では、インバータ回路によって電動機の運転周波数(圧縮機の容量)が可変に構成されている。つまり、この圧縮機では、駆動軸の回転数が調整可能となっており、冷凍サイクルの冷媒の循環量、ひいては冷凍装置(例えばチラー)の冷却能力が調整可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−57875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような圧縮機構では、例えばスクリューロータとゲートロータとの摺動部に僅かな隙間が形成されてしまう。このため、圧縮機の運転時において、この隙間から冷媒が漏れると、圧縮機構の容積効率や圧縮機効率が低下してしまう。ここで、上述したように、圧縮機構の容量が可変な圧縮機において、駆動軸の回転数を比較的低速に制御すると、圧縮室における隙間からの冷媒漏れの影響が顕著となってしまう。このため、駆動軸の回転数が低速域となる運転では、圧縮機構の容積効率や圧縮機効率が大幅に低下してしまうという問題があった。なお、このような問題は、圧縮機構の内部に隙間が生じやすい、スクリュー式の圧縮機構において顕著となる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動軸の回転数が低速域となる運転条件下において、圧縮室における隙間からの冷媒漏れを低減する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、冷凍サイクルが行われる冷媒回路(2)に接続されて冷媒を圧縮する圧縮機を対象とし、駆動軸(23)を有する駆動機構(20)と、前記駆動軸(23)に駆動されて冷媒を内部で圧縮する圧縮機構(30)と、前記圧縮機構(30)の内部へ潤滑油を供給する油供給機構(50)と、前記駆動軸(23)の回転数を調整する回転数調整部(82)と、前記駆動軸(23)の回転数が所定の低速域になると、前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を上昇させる油粘度上昇機構(60,83,95)と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
第1の発明では、駆動機構(20)によって駆動軸(23)が回転駆動されると、圧縮機構(30)が駆動され、圧縮機構(30)の内部で冷媒が圧縮される。駆動軸(23)は回転数調整部(82)によって回転数が調整可能となっている。これにより、圧縮機構(30)で圧縮される単位時間あたりの冷媒の容量が可変となる。
【0010】
本発明では、油供給機構(50)によって圧縮機構(30)の内部に潤滑油が供給される。これにより、圧縮機構(30)の内部の摺動部の潤滑が図られる。ここで、本発明では、駆動軸(23)の回転数が所定の低速域になると、油粘度上昇機構(60,83,95)が圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を上昇させる。これにより、圧縮機構(30)の内部では、各摺動部に形成される隙間が、比較的高粘度の油によってシールされる。その結果、駆動軸(23)の回転数が低速域となる運転条件下において、隙間から冷媒が漏れてしまうことが回避される。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記油粘度上昇機構(60,83,95)は、前記油供給機構(50)から前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油を冷却して該潤滑油の粘度を上昇させる冷却機構(60)を備えていることを特徴とする。
【0012】
第2の発明の油粘度上昇機構(60,83,95)は、冷却機構(60)を有する。つまり、駆動軸(23)の回転数が低速域となると、冷却機構(60)が潤滑油を冷却し、これにより潤滑油の粘度が上昇する。その結果、圧縮機構(30)の内部では、駆動軸(23)の回転数が低速域となる運転条件下において、隙間から冷媒が漏れてしまうことが回避される。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、前記油粘度上昇機構(60,83,95)は、前記駆動軸(23)の回転数を示す指標を検出する回転数検出部(95)と、前記回転数検出部(95)の検出値が所定値以下になると、前記冷却機構(60)の冷却動作を実行させる冷却制御部(83)とを備えていることを特徴とする。
【0014】
第3の発明では、回転数検出部(95)によって駆動軸(23)の回転数が直接的、あるいは間接的に検出される。回転数検出部(95)の検出値が所定値以下になると、冷却制御部(83)は、冷却機構(60)による冷却動作を実行させる。これにより、駆動軸(23)の回転数が低速域となる運転条件下において、潤滑油を冷却して該潤滑油の粘度を確実に上昇させることができる。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、前記冷却制御部(83)は、前記回転数検出部(95)の検出値が小さくなるにつれて、前記冷却機構(60)の冷却能力を増大させるように構成されていることを特徴とする。
【0016】
第4の発明では、回転数検出部(95)の検出値が小さくなるほど、冷却機構(60)の冷却能力が増大していく。つまり、駆動軸(23)の回転数が小さくなればなるほど、冷媒漏れの影響によって容積効率や圧縮機効率が低下し易くなるが、本発明では、このような回転数の低下に対応するように油の粘度が上昇していく。よって、圧縮機構(30)の内部の隙間からの冷媒漏れを効果的に防止できる。
【0017】
第5の発明は、第3又は第4の発明において、前記冷却機構(60)は、冷却媒体が流れる冷却流路(61)と、該冷却流路(61)を流れる冷却媒体と前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油とを熱交換させる熱交換部(62)と、前記冷却流路(61)の冷却媒体の流量を調整する流量調節弁(65)とを備え、前記冷却制御部(83)は、前記回転数検出部(95)の検出値に応じて、前記流量調節弁(65)の開度を調節するように構成されていることを特徴とする。
【0018】
第5の発明では、冷却流路(61)を冷却媒体が流通する。回転数検出部(95)の検出値に応じて、流量調節弁(65)の開度が調整されると、熱交換部(62)を流れる冷却媒体の流量も調整される。これにより、駆動軸(23)の回転数に応じて、冷却機構(60)の冷却能力が調整される。
【0019】
第6の発明は、第5の発明において、前記冷却流路(61)の流入端は、前記冷媒回路(2)の高圧ラインに接続され、該冷却流路(61)の流出端は、前記圧縮機構(30)の内部の圧縮途中箇所に接続されることを特徴とする。
【0020】
第6の発明の冷却流路(61)は、その流入端が冷媒回路(2)の高圧ラインに接続される一方、その流出端は、圧縮機構(30)の内部の圧縮途中箇所に接続される。つまり、冷却流路(61)の流出端は、圧縮機構(30)において低圧冷媒が高圧冷媒まで圧縮されるまでの途中の部位(冷媒がいわゆる中間圧となる部位)に接続される。これにより、冷媒回路(2)の高圧ラインの高圧冷媒の圧力と、圧縮機構(30)の圧縮途中の中間圧冷媒の圧力との差圧を利用して、冷媒を冷却流路(61)へ導入することができる。冷却流路(61)へ送られた冷媒は、熱交換部(62)において、潤滑油と熱交換して、この潤滑油の冷却に利用される。
【0021】
第7の発明は、請求項1乃至6のいずれか1つの発明において、前記駆動軸(23)の回転数が所定の高速域になると、前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を低下させる油粘度低下機構(70)を更に備えていることを特徴とする。
【0022】
第7の発明では、駆動軸(23)の回転数が所定の高速域になると、油粘度低下機構(70)によって潤滑油の粘度を低下させる。ここで、駆動軸(23)の回転数が高速域となる運転条件下では、圧縮機構(30)において、潤滑油の粘性抵抗も増大し、機械損失(冷媒の圧縮に寄与しない動力)も大きくなり易い。そこで、本発明では、このような高速域の運転下において、油の粘度を低下させ、このような機械損失の低減を図っている。
【0023】
第8の発明は、第7の発明において、前記油粘度低下機構(70)は、前記油供給機構(50)から前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油を加熱して該潤滑油の粘度を低下させる加熱機構(70)を備えていることを特徴とする。
【0024】
第8の発明の油粘度低下機構(70)は、加熱機構(70)で構成される。つまり、駆動軸(23)の回転数が高速域となると、加熱機構(70)が潤滑油を加熱し、これにより潤滑油の粘度が低下する。その結果、圧縮機構(30)の内部では、駆動軸(23)の回転数が高速域となる運転条件下において、機械損失を低減できる。
【0025】
第9の発明は、第1乃至第8のいずれか1つの発明において、前記圧縮機構は、スクリュー式の圧縮機構(30)で構成されていることを特徴とする。
【0026】
第9の発明の圧縮機構(30)は、スクリュー式(例えばシングルスクリュー式やツインスクリュー式)に構成される。このスクリュー式の圧縮機構(30)の内部では、比較的隙間が多数形成されるため、特に駆動軸(23)の回転数が低速域となる運転下において、冷媒の漏れに起因して容積効率や圧縮機効率が低下し易い。これに対し、本発明では、駆動軸(23)の回転数が低速域となると、潤滑油の粘度を上昇させて冷媒の隙間漏れを回避できる。従って、スクリュー式の圧縮機構(30)であっても、低速域における容積効率や圧機縮効率の低下を効果的に回避できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、駆動軸(23)の回転数が低速域となる運転条件下において、圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を上昇させているため、圧縮機構(30)の内部の隙間から冷媒が漏れてしまうことを、高粘度の油でシールすることによって防止できる。従って、低速域における、容積効率や圧縮機効率の低下を回避でき、ひいては冷凍装置の性能(例えばCOP(Coefficient Of Performance)やIPLV(Integrated Part Load Value)等)の向上を図ることができる。
【0028】
また、本発明(第7の発明)によれば、駆動軸(23)の回転数が高速域となる運転条件下において、圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を低下させているため、油の粘性抵抗を低減して、機械損失を低減できる。従って、高速域における圧縮機効率も改善できる。よって、本発明によれば、駆動軸(23)の回転数が低速域から高速域に至るまでの広範囲に亘って、効率の良い圧縮機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機を備えた冷凍装置の冷媒回路図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機の概略の構成図である。
【図3】図3は、スクリュー圧縮機の圧縮機構の要部を抜き出して示す斜視図である。
【図4】図4は、スクリュー圧縮機の圧縮機構の要部を抜き出して示す斜視図である。
【図5】図5は、スクリュー圧縮機の圧縮機構の動作を示す平面図であって、図5(A)は吸入行程を、図5(B)は圧縮行程を、図5(C)は吐出行程をそれぞれ示すものである。
【図6】図6は、従来例における、圧縮機構の運転周波数と容積効率との関係を示したグラフである。
【図7】図7は、従来例における、圧縮機構の運転周波数と圧縮機効率との関係を示したグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機の潤滑油の粘度調整の動作を示すフローチャートである。
【図9】図9は、本発明の実施形態に係る圧縮機構の運転周波数と、目標とする潤滑油の粘度との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の実施形態に係る圧縮機構の運転周波数とCOP比との関係を、比較例(1及び2)と対比して示したグラフである。
【図11】図11は、変形例に係るスクリュー圧縮機の概略の構成図である。
【図12】図12は、変形例に係る圧縮機構の運転周波数と、目標とする潤滑油の粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
〈スクリュー圧縮機の基本構成〉
本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機(10)は、例えば空調装置やチラーユニット等の冷凍装置(1)に適用されている。また、本実施形態のスクリュー圧縮機(10)は、いわゆるシングルスクリュー圧縮機で構成されている。図1に示すように、この冷凍装置(1)は、冷媒回路(2)を備えている。冷媒回路(2)は、スクリュー圧縮機(10)、熱源側熱交換器(3)、膨張弁(4)、利用側熱交換器(5)、四路切換弁(6)等を含む閉回路で構成されている。冷媒回路(2)には、冷媒が充填されている。冷媒回路(2)では、冷媒が循環することにより、蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
【0031】
冷媒回路(2)は、スクリュー圧縮機(10)の吐出側に接続される吐出管(7)と、スクリュー圧縮機(10)の吸入側に接続される吸入管(8)とを備えている。熱源側熱交換器(3)及び利用側熱交換器(5)は、それぞれフィンアンドチューブ式の熱交換器で構成されている。膨張弁(4)は、開度が調整可能な電子膨張弁で構成されている。
【0032】
四路切換弁(6)は、第1から第4までのポートを備えている。第1ポートは吐出管(7)と接続し、第2ポートは吸入管(8)と接続している。第3ポートは、熱源側熱交換器(3)の一端と接続し、第4ポートは、利用側熱交換器(5)の一端と接続している。四路切換弁(6)は、第1ポートと第3ポーとが連通して第2ポートと第4ポートとが連通する第1状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポートと第4ポートとが連通して第2ポートと第4ポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態))とに切換可能となっている。
【0033】
図2に示すように、スクリュー圧縮機(10)は、ケーシング(11)と、該ケーシング(11)に収容される電動機(20)と、該電動機(20)によって駆動される圧縮機構(30)とを備えている。
【0034】
ケーシング(11)は、横長の略円筒状の密閉容器で構成されている。ケーシング(11)の軸方向の前方寄り(図2における吐出管(7)寄り)の下部と、ケーシング(11)の軸方向の後方寄り(図2における吸入管(8)寄り)の下部とには、ケーシング(11)を支持する脚部(12,12)がそれぞれ設けられている。
【0035】
吐出管(7)は、ケーシング(11)の上部を貫通しており、吐出管(7)の流入端とケーシング(11)の内部とが連通している。これにより、ケーシング(11)の内部は、圧縮機構(30)に区画される前方側の空間が、吐出管(7)と連通する高圧室(14)を構成している。
【0036】
吸入管(8)は、ケーシング(11)の後側の頂部を貫通しており、吸入管(8)の流出端とケーシング(11)の内部とが連通している。これにより、ケーシング(11)の内部は、圧縮機構(30)に区画される後方側の空間が、吸入管(8)と連通する低圧室(13)を構成している。
【0037】
電動機(20)は、モータから成る駆動機構を構成しており、ケーシング(11)の内部の低圧室(13)に収容されている。電動機(20)は、ケーシング(11)の内周壁面に固定される円筒状のステータ(21)と、該ステータ(21)の内部に嵌挿される円筒状のロータ(22)とを備えている。ロータ(22)の内部には、駆動軸(23)が一体的に固定されている。駆動軸(23)は、圧縮機構(30)と連結するようにケーシング(11)の軸方向に延びている。低圧室(13)には、駆動軸(23)の一端部を回転自在に支持する第1軸受け(24)が設けられている。高圧室(14)には、駆動軸(23)の他端部を回転自在に支持する第2軸受け(25)が設けられている。
【0038】
図2〜図4に示すように、圧縮機構(30)は、シングルスクリュー式の圧縮機構で構成されている。圧縮機構(30)は、ケーシング(11)の内壁に形成される円筒壁部(31)と、該円筒壁部(31)の内部に配設される1つのスクリューロータ(32)と、該スクリューロータ(32)に噛み合う2つのゲートロータ(40)とを備えている。
【0039】
スクリューロータ(32)は、駆動軸(23)に回転駆動されるように該駆動軸(23)と連結している。スクリューロータ(32)は、略円柱状に形成された金属製の部材である。スクリューロータ(32)の外形は、円筒壁部(31)の内径よりも僅かに小さく設定されている。これにより、円筒壁部(31)の内周面とスクリューロータ(32)の外周面とは、微小な隙間を介して実質的に摺接するように構成されている。
【0040】
スクリューロータ(32)の外周部には、スクリューロータ(32)の軸方向一端から他端に向かって螺旋状に延びる複数の螺旋溝(33)が形成されている。なお、本実施形態では、6本の螺旋溝(33)が形成されているが、これに限らず、5本以下7本以上であっても良い。
【0041】
ゲートロータ(40)は、円柱状のゲート軸部(41)と、円板状の基部(42)と、該基部(42)から径方向外方へ放射状に延びるアーム部(43)と、該アーム部(43)の表面(ゲート軸部(41)と反対側の面)に形成される板状のゲート(44)とを備えている。各ゲートロータ(40)は、スクリューロータ(32)の軸心を挟んで、略対称位置、及び対称形状となるように構成されている。
【0042】
ゲート軸部(41)及び基部(42)及びアーム部(43)は、一体的に形成される金属製の支持部材を構成している。ゲート軸部(41)は、駆動軸(23)と直交する方向に延びる姿勢で回転自在となるように軸受け(図示省略)に支持されている。基部(42)は、やや肉厚の円板状に形成されている。複数(本実施形態では、11枚)のアーム部(43)は、各々がスクリューロータ(32)の螺旋溝(33)に係合するような長方形板状に形成されている。各ゲート(44)は、樹脂製の部材で構成されている。複数のゲート(44)は、各々がスクリューロータ(32)の螺旋溝(33)に歯合するような長方形板状に形成されている。つまり、スクリューロータ(32)とゲート(44)とは、僅かな隙間を介して実質的に線接触するように構成されている。
【0043】
圧縮機構(30)の内部では、円筒壁部(31)の内周面と、スクリューロータ(32)の螺旋溝(33)と、ゲートロータ(40)のゲート(44)との間に、圧縮室(34)が形成される。スクリューロータ(32)の螺旋溝(33)は、軸方向後方側(低圧室(13)側)の端部に開放部が形成され、この開放部が圧縮機構(30)の吸入口(35)を構成している。また、円筒壁部(31)には、軸方向前方側(高圧室(14)側)寄りの部位に開口溝(図示省略)が形成され、この開口溝が圧縮機構(30)の吐出口(図示省略)を構成している。
【0044】
高圧室(14)には、高圧冷媒に含まれる冷凍機油(潤滑油)を分離するための油分離器(26)と、油分離器(26)で分離した油が溜まり込む油貯留部(27)が設けられている。油分離器(26)は、圧縮機構(30)の吐出口から吐出管(7)までの間の冷媒流路中に配置されている。油貯留部(27)は、油分離器(26)の下方であって、ケーシング(11)の底部に形成されている(例えば図2を参照)。
【0045】
本実施形態のスクリュー圧縮機(10)は、油供給機構(50)と冷却機構(60)と加熱機構(70)とを備えている。
【0046】
油供給機構(50)は、圧縮機構(30)の内部へ潤滑油を供給するものである。つまり、圧縮機構(30)の内部へ供給された油は、スクリューロータ(32)と円筒壁部(31)との間の各摺接部や、スクリューロータ(32)とゲート(44)との間の各摺接部の潤滑に利用される。油供給機構(50)は、油供給路(51)と油貯留タンク(52)とを備えている。油供給路(51)は、流入端が油貯留部(27)に連通し、流出端が圧縮機構(30)の圧縮途中箇所に接続されている。つまり、油供給路(51)の流出端は、圧縮機構(30)の圧縮室(34)において、冷媒が中間圧(吸入圧と吐出圧との間の圧力)となる箇所に接続されている。これにより、油供給機構(50)では、高圧室(14)の流体の圧力と圧縮室(34)の圧縮途中箇所の流体の圧力との差圧を利用して、油貯留部(27)の潤滑油を圧縮機構(30)の内部へ送ることができる。
【0047】
油貯留タンク(52)は、油供給路(51)の途中に設けられている。油貯留タンク(52)は、例えば円筒形状の密閉容器で構成されている。油貯留タンク(52)には、油供給路(51)を流れる油が一時的に滞留する。
【0048】
本実施形態の冷却機構(60)は、冷却流路(61)と冷却部(62)とを備えている。冷却流路(61)は、油を冷却するための冷却媒体が流れる流路を構成している。冷却部(62)は、この冷却媒体と油とを熱交換させて油を冷却するように構成されている。より具体的に、本実施形態の冷却流路(61)は、冷却水流入管(63)と冷却水流出管(64)とを備えている。冷却水流入管(63)には、所定の水供給源から冷却水が供給される。冷却水流出管(64)を流出した水は、所定の排水ラインへ送られる。
【0049】
冷却部(62)は、冷却水流入管(63)の流出端と冷却水流出管(64)の流入管との間に接続され、油貯留タンク(52)の内部に配設されている。冷却部(62)は、伝熱管で構成された熱交換器で構成されている。つまり、冷却部(62)では、伝熱管の内部を流れる冷却水と、該伝熱管の外部の油とが熱交換する。
【0050】
また、冷却機構(60)は、冷却流路(61)を流れる冷却媒体の流量を調節する流量調節弁(65)が設けられている。具体的に、本実施形態の流量調節弁(65)は、冷却水流入管(63)に設けられている。流量調節弁(65)は、開度が多段階に調節可能な電動弁で構成されている。
【0051】
本実施形態の加熱機構(70)は、ヒータ装置(71)で構成されている。ヒータ装置(71)は、電源部(72)と、該電源部(72)と接続するヒータ部(73)とを有している。ヒータ部(73)は、油貯留タンク(52)の内部に配設されている。
【0052】
本実施形態のスクリュー圧縮機(10)は、コントローラ部(80)とインバータ部(81)と、各種のセンサ部(91〜96)とを備えている。コントローラ部(80)は、スクリュー圧縮機(10)の運転制御を行うためのものである。インバータ部(81)は、電動機(20)の運転周波数を変更するためのインバータ回路を構成している。
【0053】
上述した各種のセンサ部として、スクリュー圧縮機(10)には、高圧圧力センサ(91)、高圧冷媒温度センサ(92)、低圧圧力センサ(93)、低圧冷媒温度センサ(94)、回転数検出センサ(95)、油温度センサ(96)とが設けられている。
【0054】
高圧圧力センサ(91)及び高圧冷媒温度センサ(92)は、高圧室(14)に設けられている。高圧圧力センサ(91)は、圧縮機構(30)で圧縮された後の高圧冷媒の圧力Hpを検出する。高圧冷媒温度センサ(92)は、圧縮機構(30)で圧縮された後の高圧冷媒の温度Tdを検出する。低圧圧力センサ(93)及び低圧冷媒温度センサ(94)は、低圧室(13)に設けられている。低圧圧力センサ(93)は、圧縮機構(30)に吸入される前の低圧冷媒の圧力Lpを検出する。低圧冷媒温度センサ(94)は、圧縮機構(30)に吸入される前の低圧冷媒の温度Tsを検出する。
【0055】
回転数検出センサ(95)は、例えばインバータ部(81)等に設けられている。回転数検出センサ(95)は、電動機(20)の駆動軸(23)の回転数(換言すると、電動機(20)の運転周波数)を検出する回転数検出部を構成している。
【0056】
上述したコントローラ部(80)は、駆動軸(23)の回転数を調整する回転数調整部(82)と、冷却機構(60)の冷却能力を調整する冷却制御部(83)と、加熱機構(70)の加熱能力を調整する加熱制御部(84)とを備えている。
【0057】
回転数調整部(82)は、インバータ部(81)のスイッチング素子の切換タイミングを変更する指令を出力し、電動機(20)の運転周波数を制御するように構成されている。つまり、回転数調整部(82)は、運転条件に応じて、駆動軸(23)ひいてはスクリューロータ(32)の回転数を調整するように構成されている。例えば回転数調整部(82)は、冷凍装置(1)の利用側熱交換器(5)の負荷(例えば冷却負荷)に応じて、回転数を制御する。
【0058】
冷却制御部(83)は、駆動軸(23)の回転数に応じて、冷却機構(60)の冷却能力を調整する。具体的に、冷却制御部(83)は、駆動軸(23)の回転数が低速域になると、冷却機構(60)の冷却能力を増大させる。これにより、本実施形態では、駆動軸(23)の回転数が低速域の運転条件下において、圧縮機構(30)の内部へ供給される油の粘度が上昇する。即ち、本実施形態の冷却機構(60)と回転数検出センサ(95)と冷却制御部(83)とは、駆動軸(23)の回転数が所定の低速域になると、圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を上昇させる、油粘度上昇機構を構成している。
【0059】
加熱制御部(84)は、駆動軸(23)の回転数に応じて、加熱機構(70)の加熱能力を調整する。具体的に、加熱制御部(84)は、駆動軸(23)の回転数が高速域になると、加熱機構(70)の加熱能力を増大させる。これにより、本実施形態では、駆動軸(23)の回転数が高速域の運転条件下において、圧縮機構(30)の内部へ供給される油の粘度が低下する。即ち、本実施形態の加熱機構(70)と回転数検出センサ(95)と加熱制御部(84)とは、駆動軸(23)の回転数が所定の高速域になると、圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を低下させる、油粘度低下機構を構成している。
【0060】
−運転動作−
以下、前記スクリュー圧縮機(10)の運転動作について説明する。スクリュー圧縮機(10)の電動機(20)が起動すると、図5に示すように、駆動軸(23)が回転するのに伴ってスクリューロータ(32)が回転する。スクリューロータ(32)が回転に伴ってゲートロータ(40)も回転し、圧縮機構(30)では、吸入行程、圧縮行程、吐出行程が繰り返し行われる。ここでは、図5において網掛けを付した圧縮室(34)に着目して説明する。
【0061】
図5(A)において、網掛けを付した圧縮室(34)は、吸入口(35)を通じて低圧室(13)と連通している。また、圧縮室(34)が形成されている螺旋溝(33)は、図5(A)の下側に位置するゲートロータ(40)のゲート(44)と噛み合わされている。スクリューロータ(32)が回転すると、ゲート(44)が螺旋溝(33)の終端へ向かって相対的に移動し、それに伴って圧縮室(34)の容積が拡大する。その結果、吸入管(8)より低圧室(13)に流入した低圧ガス冷媒は、吸入口(35)を通じて圧縮室(34)へ吸い込まれる。
【0062】
図5(A)に示すスクリューロータ(32)が更に回転すると、図5(B)に示す状態となる。図5(B)において、網掛けを付した圧縮室(34)は、閉じきり状態となっている。つまり、この圧縮室(34)が形成されている螺旋溝(33)は、図5(B)の上側に位置するゲートロータ(40)のゲート(44)と噛み合わされ、このゲート(44)によって低圧室(13)から仕切られている。スクリューロータ(32)の回転に伴ってゲート(44)が螺旋溝(33)の終端に向かって移動すると、圧縮室(34)の容積が次第に縮小する。その結果、圧縮室(34)内のガス冷媒が圧縮される。
【0063】
図5(B)に示す状態のスクリューロータ(32)が更に回転すると、図5(C)に示す状態となる。図5(C)において、網掛けを付した圧縮室(34)は、吐出口(図示省略)を介して高圧室(14)と連通する。これにより、スクリューロータ(32)の回転に伴ってゲート(44)が螺旋溝(33)の終端へ向かって移動すると、圧縮されたガス冷媒が圧縮室(34)から高圧室(14)へ押し出されてゆく。
【0064】
高圧室(14)へ流出した冷媒は、油分離器(26)を通過する(図2を参照)。油分離器(26)では、冷媒中に含まれる油が油分離器(26)の表面に補足される。油分離器(26)に補足された油は、ケーシング(11)の底部の油貯留部(27)に貯められる。以上のようにして、油が分離された高圧ガス冷媒は、吐出管(7)より冷媒回路(2)へ送られる。この冷媒回路(2)を冷媒が循環すると、例えば熱源側熱交換器(3)が凝縮器となり、利用側熱交換器(5)が蒸発器となる冷凍サイクルが行われる。
【0065】
−油粘度の調整動作−
上述したスクリュー圧縮機(10)の運転時には、例えば利用側熱交換器(5)の冷却負荷に応じて、電動機(20)の駆動軸(23)の回転数が調節される。このような、圧縮機構(30)の容量制御においては、圧縮機構(30)の運転周波数に応じて、圧縮機構(30)の容積効率や圧縮機効率が低下するという問題があった。この点について、図6及び図7を参照しながら説明する。
【0066】
上述したように、圧縮機構(30)では、スクリューロータ(32)と円筒壁部(31)との間や、スクリューロータ(32)とゲート(44)との間に僅かな隙間が形成される。このため、圧縮機構(30)の内部では、圧縮室(34)で圧縮された冷媒が、この隙間を通じて圧縮機構(30)の外部へ漏れ出してしまう虞がある。このような冷媒の漏れに起因する圧縮機構(30)への効率の影響は、駆動軸(23)の回転数が比較的小さく、圧縮機構(30)を通過する冷媒の流量が少ない条件下において、特に顕著となる。
【0067】
図6は、従来例のスクリュー圧縮機において、圧縮機構の運転周波数と、容積効率との関係を示したものである。同図においては、圧縮機構の運転周波数が比較的小さくなる所定の低速域(図6において、2点鎖線で囲む領域L)について、圧縮機構の容積効率が大幅に小さくなっている。また、図7は、従来例のスクリュー圧縮機において、圧縮機構の運転周波数と、圧縮機効率との関係を示したものである。同図においても、圧縮機構の運転周波数が比較的小さくなる所定の低速域(図7において、2点鎖線で囲む領域M)について、圧縮機効率が大幅に小さくなっている。以上のように、スクリュー圧縮機(10)では、特に運転周波数が所定の低速域となる運転条件下において、圧縮機構(30)の効率が低下し、ひいては冷凍装置(1)の性能が低下してしまうという問題があった。
【0068】
また、図7に示すように、従来例のスクリュー圧縮機では、圧縮機構の運転周波数が比較的大きくなる所定の高速域(図7において、2点鎖線で囲む領域N)についても、圧縮機効率が小さくなっている。これは、駆動軸(23)の回転数が大きくなり、スクリューロータ(32)が高速回転すると、これに起因して潤滑油の粘性抵抗が増大し、機械損失が増大してしまうためである。
【0069】
そこで、本実施形態のスクリュー圧縮機(10)では、このような駆動軸(23)の回転数に起因する圧縮機構(30)の効率の低下を防止すべく、駆動軸(23)の回転数に応じて、圧縮機構(30)へ供給する潤滑油の粘度を変化させるようにしている。
【0070】
図8に示すフローチャートに示すように、スクリュー圧縮機(10)の運転時には、ステップS1において、冷凍装置(1)の冷却負荷(必要な冷却能力)が算出される。コントローラ部(80)は、冷媒回路(2)において、この冷却負荷に対応すべく冷媒循環量を確保するように、電動機(20)の運転周波数(駆動軸(23)の回転数)を調整する(ステップS2)。次いで、ステップS3では、回転数検出センサ(95)によって、電動機(20)の周波数が検出される。ここで、コントローラ部(80)には、この周波数が所定の低速域となっているか否かを判断するための判定値(所定値=fmin)が設定されている。ステップS4において、検出された周波数がfmin以下である場合、ステップS5へ移行し、そうでない場合には、ステップS6へ移行する。
【0071】
ステップS5に移行すると、冷却制御部(83)は、冷却機構(60)による冷却動作を実行させる。この冷却動作では、流量調節弁(65)が所定の開度で開放され、冷却媒体としての冷却水が冷却流路(61)を流れる。これにより、油貯留タンク(52)の内部では、冷却部(62)の伝熱管を介して、冷却水と潤滑油とが熱交換し、潤滑油が冷却される。以上のようにして、冷却された油は、油供給路(51)を通じて圧縮機構(30)の圧縮室(例えば図5(B)に示す状態の圧縮途中の圧縮室(34))へ供給される。
【0072】
このようにして、圧縮室(34)へ冷却された潤滑油が供給されると、圧縮室(34)内の潤滑油の粘度が上昇する。これにより、圧縮室(34)に形成される僅かな隙間は、比較的粘度の高い潤滑油によってシールされる。その結果、駆動軸(23)の低速域での運転条件下において、冷媒の隙間漏れを回避できる。その結果、図6及び図7に示したように、圧縮機構(30)の容積効率や圧縮機効率が低下してしまうことを防止できる。
【0073】
このような冷却動作時には、検出された周波数が小さくなるにつれて、目標とする潤滑油の粘度Vsが高く調整される(図9を参照)。また、冷却動作時には、油温度センサ(96)で検出された油の温度Toil、及び高圧圧力センサ(91)で検出された高圧圧力Hpとから、圧縮機構(30)へ供給される油の粘度Vaが推定される。冷却動作時には、推定された油の粘度Vaが、現在の目標となる油の粘度Vsに近づくように、流量調節弁(65)の開度が調整される。これにより、駆動軸(23)の回転数が小さくなるにつれて、潤滑油の温度を低くして潤滑油の粘度を上昇させることができる。従って、圧縮機構(30)を通過する冷媒の流量が少なく、冷媒漏れの影響を受けやすい運転条件下において、冷媒の隙間漏れを確実に防止して、容積効率、圧縮機効率の改善を図ることができる。
【0074】
コントローラ部(80)には、回転数検出センサ(95)によって検出される電動機(20)の周波数が、所定の高速域となっているか否かを判断するための判断値(所定値=fmax)が設定されている。ステップS6において、検出された周波数がfmax以上である場合、ステップS7へ移行し、そうでない場合には、ステップS1に戻る。
【0075】
ステップS7へ移行すると、加熱制御部(84)は、加熱機構(70)による加熱動作を実行させる。この加熱動作では、流量調節弁(65)が全閉状態となると同時に、ヒータ部(73)が電源部(72)と通電する。これにより、油貯留タンク(52)の内部では、潤滑油がヒータ部(73)によって加熱される。以上のようにして加熱された油は、油供給路(51)を通じて圧縮機構(30)の圧縮室(例えば図5(B)に示す状態の圧縮室(34)へ供給される。
【0076】
このようにして、圧縮室(34)へ加熱された潤滑油が供給されると、圧縮室(34)内の潤滑油の粘度が低下する。これにより、駆動軸(23)の回転数が高速域となり、スクリューロータ(32)が高速回転する運転条件下において、圧縮室(34)内の潤滑油を比較的低粘度に維持することができる。これにより、潤滑油の粘性抵抗に起因する、機械損失を低減でき、圧縮機効率の改善を図ることができる。
【0077】
このような加熱動作時には、検出された周波数が大きくなるにつれて、目標とする潤滑油の粘度Vsが低く調整される(図9を参照)。また、加熱動作時には、油温度センサ(96)で検出された油の温度Toil、及び高圧圧力センサ(91)で検出された高圧圧力Hpとから、圧縮機構(30)へ供給される油の粘度Vaが推定される。加熱動作時には、推定された油の粘度Vaが、現在の目標となる油の粘度Vsに近づくように、ヒータ部(73)の加熱能力が調整される。これにより、駆動軸(23)の回転数が大きくなるにつれて、潤滑油の温度を高くして潤滑油の粘度を低下させることができる。従って、機械損失が顕著なりやすい、スクリューロータ(32)の高速回転域において、油の粘度を低減させてこの機械損失を効果的に低減できる。
【0078】
−実施形態の効果−
以上のように、上記実施形態では、圧縮機構(30)の運転周波数(即ち、駆動軸(23)の回転数)が低速域となる運転条件下において、圧縮機構(30)へ供給される潤滑油を冷却し、この潤滑油の粘度を上昇させている。これにより、低速域の運転時において、スクリューロータ(32)と円筒壁部(31)との間の隙間や、スクリューロータ(32)とゲート(44)との間の隙間を、比較的高粘度の油によってシールすることができる。従って、冷媒漏れに起因して容積効率や圧縮機効率が低下しやすい、低速域での運転条件下において、冷媒漏れを確実に防止して効率の改善を図ることができる。
【0079】
また、上記実施形態では、圧縮機構(30)の運転周波数(即ち、駆動軸(23)の回転数)が高速域となる運転条件下において、圧縮機構(30)へ供給される潤滑油を加熱し、この潤滑油の粘度を低下させている。これにより、高速域の運転時において、潤滑油の粘性抵抗に起因してメカロスが増大してしまうのを回避でき、圧縮機効率を改善できる。
【0080】
このような本実施形態の油の粘度の調整動作による圧縮機の性能の改善効果を検証した結果を、図10に示す。なお、図10において、比較例1は、比較的低粘度の潤滑油をそのまま(冷却も加熱もせずに)圧縮機構へ供給したものである。また、比較例2は、比較的高粘度の油の潤滑油をそのまま(冷却も加熱もせずに)圧縮機構へ供給したものである。なお、本実施形態は、比較例1の潤滑油と比較例2の潤滑油とのほぼ中間の粘度の潤滑油)を用い、上述のような冷却動作や加熱動作を行ったものである。なお、図10に示すCOP比とは、本実施形態と同様の中間粘度の潤滑油をそのまま(冷却も加熱もせずに)圧縮機構へ供給した場合のCOPを基準(基準COP)とした場合に、この基準COPに対して各比較例及び本実施形態で得られたCOPの比率を表している。
【0081】
図10に示すように、比較例1に係る低粘度の潤滑油をそのまま用いたものでは、運転周波数が比較的小さくなる低速域の運転条件下において、COP比が低下してしまった。これは、低粘度の潤滑油をそのまま用いた場合、特に低速域において、冷媒漏れの影響に起因して容積効率や圧縮機効率が低下してしまうためである。また、比較例2に係る高粘度の潤滑油をそのまま用いたものでは、低速域においては、比較的高いCOP比を得ることができるが、運転周波数が比較的大きくなる高速域の運転条件下において、COPがやや低くなる傾向にあった。これは、高粘度の潤滑油をそのまま用いた場合、特に高速域において、機械損失に起因して圧縮機効率が低下してしまうためである。
【0082】
これに対し、本実施形態に係る中粘度の潤滑油を回転数に応じて冷却又は加熱するものでは、低速域においては、油の粘度を上昇させて冷媒漏れを防止できる一方、高速域においては、油の粘度を低下させて機械損失を低減できるため、低速域から高速域に亘る広範囲の運転条件下において、高いCOP比を得ることができる。即ち、本実施形態に係る冷凍装置(1)では、冷媒回路(2)の冷媒循環量に依らず、常に高いCOPで運転を行うことができ、省エネ性の向上を図ることができる。
【0083】
《実施形態の変形例》
上記実施形態の冷却機構(60)では、冷却流路(61)に冷却媒体としての冷却水を流し、この冷却水で潤滑油を冷却するようにしている。しかしながら、冷却機構(60)において、冷却流路(61)の冷却媒体として、冷媒回路(2)の冷媒を用いるようにしても良い。
【0084】
具体的に、図11に示す変形例の冷却流路(61)は、高圧冷媒導入管(66)と中間インジェクション管(67)とを備えている。高圧冷媒導入管(66)の流入端は、冷媒回路(2)の高圧液ライン(図示省略)と接続している。つまり、高圧冷媒導入管(66)には、冷媒回路(2)の熱源側熱交換器(3)又は利用側熱交換器(5)で凝縮した後の冷媒が、流入する。また、高圧冷媒導入管(66)には、冷媒の流量を調整するための流量調節弁(65)が設けられている。高圧冷媒導入管(66)の流出端には、上記実施形態と同様の冷却部(62)が接続している。
【0085】
冷却部(62)では、伝熱管の内部の冷媒と伝熱管の外部の潤滑油とが熱交換する。中間インジェクション管(67)の流入端は冷却部(62)と接続している。中間インジェクション管(67)の流出端は、圧縮機構(30)の圧縮室(34)と連通している。具体的に、中間インジェクション管(67)の流出端は、圧縮室(34)において冷媒が中間圧力となる圧縮途中箇所に接続されている。
【0086】
この変形例においても、上記実施形態と同様にして、冷却動作が行われる。具体的には、例えば電動機(20)の運転周波数(駆動軸(23)の回転数)が所定値以下になると、流量調節弁(65)が所定の開度で開放される。これにより、冷媒回路(2)の高圧液冷媒が、高圧冷媒導入管(66)を経由して冷却部(62)を流れる。その結果、油貯留タンク(52)内の潤滑油が冷却され、潤滑油の粘度が上昇する。冷却された潤滑油は、油供給路(51)を通じて圧縮機構(30)の内部へ供給される。これにより、圧縮室(34)の隙間が潤滑油によってシールされ、容積効率、圧縮機効率の改善が図られる。
【0087】
冷却部(62)を流出した冷媒は、潤滑油に加熱されて蒸発した後、中間インジェクション管(67)を流れる。このガス冷媒は、圧縮機構(30)の圧縮室(34)に導入されて圧縮される。
【0088】
〈その他の実施形態〉
上記実施形態では、駆動軸(23)の回転数が低速域になると、冷却機構(60)で潤滑油を冷却するようにし、駆動軸(23)の回転数が高速域になると、加熱機構(70)で潤滑油を加熱するようにしている。しかしながら、加熱機構(70)を省略した構成としつつ、冷却機構(60)で油の粘度を調整するようにしても良い。
【0089】
具体的には、潤滑油の粘度を比較的低粘度に設定しつつ、駆動軸(23)の回転数が高速域となる運転条件下では、冷却機構(60)を停止させる。一方、駆動軸(23)の回転数が所定値以下となると冷却機構(60)の冷却動作を開始させ、回転数が小さくなるにつれて冷却機構(60)の冷却能力を向上させる。これにより、例えば図12に示すようにして、低速域には潤滑油の粘度を上昇させて冷媒の隙間漏れを防止できる一方、高速域には潤滑油の粘度を低下させて機械損失の低減を図ることができる。従って、この例においても、冷凍装置(1)の性能の向上を図ることができる。
【0090】
また、上記実施形態では、電動機(20)の運転周波数(駆動軸(23)の回転数)をインバータ部(81)を介して直接的に検出しているが、これに限らず、利用側熱交換器(5)の冷却負荷や他の検出値から間接的に求めるようにしも良い。
【0091】
また、上記実施形態では、潤滑油の粘度を、潤滑油の温度及び圧力から推定するようにしているが、例えば粘度計を用いて潤滑油の粘度を直接的に検出するようにしも良い。
【0092】
また、上記実施形態では、1つのスクリューロータ(32)と2つのゲートロータ(40)とを噛合させて流体を圧縮する、シングルスクリュー式の圧縮機について、本発明を適用しているが、一対のスクリューロータの間で流体を圧縮する、ツインスクリュー式の圧縮機等の他の形式のスクリュー圧縮機について、本発明を適用しても良い。また、スクリュー圧縮機に限らず、例えばロータリー式、スクロール式、揺動ピストン式等の他の方式の圧縮機に本発明を適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上説明したように、本発明は、圧縮機に関し、特に圧縮機の性能向上の対策について有用である。
【符号の説明】
【0094】
1 冷凍装置
2 冷媒回路
10 スクリュー圧縮機
20 電動機(駆動機構)
23 駆動軸
30 圧縮機構(スクリュー式圧縮機構)
50 油供給機構
51 油供給路
60 冷却機構(油粘度上昇機構)
61 冷却流路(冷却機構)
65 流量調節弁(冷却機構)
70 加熱機構(油粘度低下機構)
82 回転数調整部
83 冷却制御部(油粘度上昇機構)
95 回転数検出センサ(回転数検出部、油粘度上昇機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルが行われる冷媒回路(2)に接続されて冷媒を圧縮する圧縮機であって、
駆動軸(23)を有する駆動機構(20)と、
前記駆動軸(23)に駆動されて冷媒を内部で圧縮する圧縮機構(30)と、
前記圧縮機構(30)の内部へ潤滑油を供給する油供給機構(50)と、
前記駆動軸(23)の回転数を調整する回転数調整部(82)と、
前記駆動軸(23)の回転数が所定の低速域になると、前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を上昇させる油粘度上昇機構(60)と、
を備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記油粘度上昇機構(60)は、前記油供給機構(50)から前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油を冷却して該潤滑油の粘度を上昇させる冷却機構(60)を備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
前記油粘度上昇機構(60)は、
前記駆動軸(23)の回転数を示す指標を検出する回転数検出部(95)と、
前記回転数検出部(95)の検出値が所定値以下になると、前記冷却機構(60)の冷却動作を実行させる冷却制御部(83)とを備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
前記冷却制御部(83)は、前記回転数検出部(95)の検出値が小さくなるにつれて、前記冷却機構(60)の冷却能力を増大させるように構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記冷却機構(60)は、冷却媒体が流れる冷却流路(61)と、該冷却流路(61)を流れる冷却媒体と前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油とを熱交換させる熱交換部(62)と、前記冷却流路(61)の冷却媒体の流量を調整する流量調節弁(65)とを備え、
前記冷却制御部(83)は、前記回転数検出部(95)の検出値に応じて、前記流量調節弁(65)の開度を調節するように構成されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項5において、
前記冷却流路(61)の流入端は、前記冷媒回路(2)の高圧ラインに接続され、該冷却流路(61)の流出端は、前記圧縮機構(30)の内部の圧縮途中箇所に接続されることを特徴とする圧縮機。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、
前記駆動軸(23)の回転数が所定の高速域になると、前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油の粘度を低下させる油粘度低下機構(70)を更に備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項8】
請求項7において、
前記油粘度低下機構(70)は、前記駆動軸(23)の回転数が所定の高速域になると、前記油供給機構(50)から前記圧縮機構(30)へ供給される潤滑油を加熱する加熱機構(70)を備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つにおいて、
前記圧縮機構は、スクリュー式の圧縮機構(30)で構成されていることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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