説明

圧電アクチュエータ駆動装置

【課題】 圧電アクチュエータを振動させる圧電アクチュエータ駆動装置において、触覚フィードバック機能、音声を出力するレシーバ機能、音楽等を発生するスピーカ機能の3機能に対応させるとともに、電力、駆動アンプ特性を最適化できる圧電アクチュエータ駆動装置を提供する。
【解決手段】 圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0と圧電アクチュエータ駆動装置電源部100から構成される圧電アクチュエータ駆動装置6であって、圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0の電源電圧VPPとアンプバイアス電圧を制御する信号(制御信号1)と圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0の駆動力を制御する信号(制御信号2)とにおいて、制御信号1と制御信号2のHigh/Low信号レベルの組合せをハプティク機能、レシーバ機能、スピーカ機能の各機能に対応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触覚フィードバック機能と音声を出力するレシーバ機能と音楽を再生するスピーカ機能を有する圧電アクチュエータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、タッチパネル式入力装置において、操作するユーザの指先に圧電アクチュエータにより、振動を与えて操作の感覚を触覚フィードバックすると共に、圧電アクチュエータまたは圧電アクチュエータが取り付けられたタッチパネルから音響を発生させる用途がある。
【0003】
また、特許文献2に開示されているように、携帯電話装置を含む携帯端末機器において、音響を発生させる用途、機能として、音声を出力するレシーバ機能と音楽等を発生するスピーカ機能がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−169612号公報
【特許文献2】特開2006−54693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のとおり、圧電アクチュエータを振動させる用途、機能として、振動を与えて操作の感覚を触覚としてフィードバックする触覚フィードバック機能(以下、ハプティク機能と称す。)、音声を出力するレシーバ機能、音楽等を発生するスピーカ機能の3機能がある。これら3機能それぞれにおいて、圧電アクチュエータ駆動装置の駆動アンプに求められる周波数帯域、出力電圧振幅、駆動力、歪特性は異なるため、これら3機能に対応する圧電アクチュエータを振動させる圧電アクチュエータ駆動装置を設けなければならない。
【0006】
しかしながら、特許文献1において、これら3機能に対応した駆動アンプ特性切替は考慮されていない。
【0007】
また、特許文献2において、圧電アクチュエータを振動させる用途、機能として、ハプティク機能は考慮されておらず、音声を出力するレシーバ機能、音楽等を発生するスピーカ機能に関しても駆動アンプの駆動力切替は考慮されていない。
【0008】
このような事情に鑑み、本発明の目的はハプティク機能、音声を出力するレシーバ機能、音楽等を発生するスピーカ機能の3機能に対応して圧電アクチュエータ駆動装置の電力、駆動アンプ特性を最適化できる圧電アクチュエータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
【0010】
圧電アクチュエータを振動させる圧電アクチュエータ駆動装置であって、入力される第1の制御信号に応じてアンプバイアス電圧を制御するアンプバイアス電圧生成部を有し、シングル入力信号を差動出力に変換して差動出力信号を出力するシングル差動変換部と、差動出力信号を増幅する高圧アンプ部と、入力される第1の制御信号に応じて高圧アンプ部の電源電圧を制御する電源部と、入力される第2の制御信号に応じて高圧アンプ部のアンプバイアス電流量を制御する電流源部とを有する。圧電アクチュエータを振動させる機能として、触覚フィードバック機能、音声を出力するレシーバ機能、音楽を発生するスピーカ機能を有し、触覚フィードバック機能、レシーバ機能、及びスピーカ機能それぞれに対して、第1の制御信号及び第2の制御信号それぞれの第1の信号レベル及び第2の信号レベルの組合せを対応させて、アンプバイアス電圧、高圧アンプ部の電源電圧、及び高圧アンプ部のアンプバイアス電流量それぞれを制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハプティク機能、レシーバ機能、スピーカ機能に対応して、圧電アクチュエータ駆動装置の電力及び駆動アンプ特性の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるシステム構成を概略的に示すブロック図の例である。
【図2】実施例1における圧電アクチュエータ駆動装置の構成を示すブロック図の例である。
【図3】実施例1におけるシングル差動変換部の構成を示すブロック図の例である。
【図4】実施例1における高圧アンプ部の構成を示すブロック図の例である。
【図5】実施例1における圧電アクチュエータ駆動装置電源部の構成を示すブロック図の例である。
【図6】実施例1における圧電アクチュエータ駆動装置電源部の動作波形を概略的に示す図の例である。
【図7】実施例1における圧電アクチュエータ駆動装置電源部の動作波形を概略的に示す図の例である。
【図8】実施例2におけるゲート制御部の構成を示すブロック図の例である。
【図9】実施例2における圧電アクチュエータ駆動装置電源部の動作波形を概略的に示す図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1の実施の形態を添付図面にもとづいて説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施の形態1において、1つの圧電アクチュエータを1つの圧電アクチュエータ駆動装置により駆動する場合について、以下説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態1におけるシステム構成を概略的に示すブロック図である。また、図2は図1に対応した本発明の実施の形態1における圧電アクチュエータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、タッチパネル1、振動パネル2、液晶パネル3により構成されたパネルに圧電アクチュエータ4が取り付けられており、圧電アクチュエータ駆動装置6を圧電アクチュエータ4 1つにつき、1つ配置する。タッチパネルに配置されたタッチパネルセンサ部5は、タッチパネルからタッチパネル入力信号を生成して制御装置7へ送信する。制御装置7のタッチパネル回路部701にてこのタッチパネル入力信号を処理することによって、タッチパネルのパネル面でユーザの指先が接触する位置を検知し、その位置を表す信号を発生して制御回路部702へ送信する。
【0017】
MCU(Micro Controller Unit)等から成る制御回路部702は、接触位置に応じて所定の触覚振動または音声、音響信号を発生させるため、波形生成回路部703へ波形生成制御信号または音響信号を出力する。この音響信号としては、例えば上位制御装置から通信インターフェイス704を介して制御回路部702に入力されたものとする。波形生成回路部703は、波形生成制御信号と音響信号をもとにデータ格納装置8の波形データも参照して、圧電アクチュエータ駆動装置6へ触覚/音響信号を出力する。
【0018】
タッチパネルの接触位置に応じて、ハプティク機能、レシーバ機能、又はスピーカ機能に対応させるため、圧電アクチュエータ駆動装置6へ所定の制御信号を発生させるように制御回路部702が動作する。もしくは、制御装置7がタッチパネル入力信号を上位制御装置へ送信し、通信インターフェイス704、制御回路部702を介して上位制御装置から圧電アクチュエータ駆動装置6への制御信号を受け取るように構成することもできる。
【0019】
このようなシステム構成において、以下、圧電アクチュエータ駆動装置6の構成について図2を用いて説明する。図2は圧電アクチュエータ駆動装置6の一部分を圧電アクチュエータ駆動用IC15として構成した場合を示している。圧電アクチュエータ駆動装置6の全てを圧電アクチュエータ駆動用ICまたはSIP(System In Package)等のモジュールとして構成することも可能である。
【0020】
圧電アクチュエータ駆動装置6は主に圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0と圧電アクチュエータ駆動装置電源部100から構成される。
【0021】
圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0は主にシングル差動変換部A1と高圧アンプ部A2(A2a、A2b)から構成される。圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0は、アンプ入力信号である触覚/音響信号を増幅し、圧電アクチュエータ4の両端子に逆位相の信号を印加することにより約2倍の振幅が得られるBTL出力で、圧電アクチュエータ4を駆動することができる。この圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0の構成と動作を図3、図4を用いて以下説明する。
【0022】
シングル差動変換部A1は、図3に示すアンプA101、A102と抵抗素子R4−R7で構成された回路により、シングル入力信号である触覚/音響信号を差動出力に変換して、シングル差動変換回路出力VOT、VOBとして差動出力する。このとき、VOTは入力信号と同相信号、VOBは反転信号となる。なお、入力信号は抵抗素子R4、容量素子C2で構成されたハイパスフィルタを介して、シングル差動変換部に入力される。このハイパスフィルタは、入力信号の直流成分をカットし、また低周波ノイズを除去する役割を果たす。
【0023】
アンプバイアス電圧生成部A11により、制御信号1のHigh/Low信号レベルに対応して、High/Lowレベルの一方とき、VOT、VOB出力信号はアンプバイアス電圧BIASを大きく、制御信号1がもう片方のレベルのとき、小さく設定する。
【0024】
図3において、アンプバイアス電圧BIASは低圧電源VDDから抵抗R8、R9、R10を用いて分圧して生成しており、制御信号1のHi/Lowレベルに対応して、NMOS14bをON/OFFすることにより、分圧比を変化させ、アンプバイアス電圧BIASの出力電圧レベルを変える。また、容量C3はアンプバイアス電圧BIASのバイパスコンデンサとして設けている。
【0025】
制御信号1がインバータ16を介して、NMOS14bに入力される場合、制御信号1がHiレベルのとき、アンプバイアス電圧BIASはVDD×(R9+R10)/(R8+R9+R10)となる。一方、制御信号1がLowレベルのとき、アンプバイアス電圧BIASはVDD×R9/(R8+R9)となる。
【0026】
例えば、VDD=5V、R8=200kΩ、R9=8kΩ、R10=125kΩとすると、制御信号1がHiレベルのとき、BIAS=約2.0V、Lowレベルのとき、BIAS=約0.2Vとなる。
【0027】
高圧アンプ部A2は図4に示すゲインアンプA21と電圧フォロアA22で構成された回路により、シングル差動変換部A1の出力VOT、VOBをそれぞれ入力信号とし、増幅する。なお、図2で示すA2a、A2bともに、図4で示すA2と同構成とする。ゲインアンプA21はアンプA103と抵抗素子R11、R12により、(R11+R12)/R12倍に電圧振幅を増幅する。高圧電源VPPを制御信号1のHigh/Low信号レベルに対応して、本実施形態の場合では、後述するとおり、HighレベルのときVPP電圧を大きく、LowレベルのときVPP電圧を小さくする。さらに、図3で示したアンプバイアス生成部A11で生成するアンプバイアス電圧を適切に設定することにより、圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0の最大出力電圧振幅を、制御信号1がHighレベルのとき大きく、Lowレベルのとき小さく制御することができる。
【0028】
例えば、ゲインアンプA21のゲイン設定が50倍とする。前述のアンプバイアス電圧BIASの制御信号1がHighレベルのとき、高圧アンプ部A2のアンプ出力は約100Vを中心に電圧振幅をとることができる。よって、高圧電源VPPを200V以上に設定することにより、高圧アンプA2出力は100V中心、±100Vの振幅を得ることができる。図2におけるBTL出力としては、最大400V peak to peakの電圧振幅を得ることができる。
【0029】
一方、制御信号1がLowレベルのとき、ゲインアンプA21のゲイン設定が50倍とすると、高圧アンプ部A2のアンプ出力では約10Vを中心に電圧振幅をとることができる。よって、高圧電源VPPを20V以上に設定することにより、高圧アンプA2出力は10V中心、±10Vの振幅を得ることができる。BTL出力としては、最大20V peak to peakの電圧振幅を得ることができる。
【0030】
このように、制御信号1のHighレベルに対応してVPP電圧を大きくかつアンプバイアス電圧を大きくするとともに、Lowレベルに対応してVPP電圧を小さくかつアンプバイアス電圧を小さくする。つまり、制御信号1のHighレベルに対応して駆動アンプ部の最大出力電圧振幅を大きくし、Lowレベルに対応して駆動アンプ部の最大出力電圧振幅を小さくする。これにより、ハプティク機能、レシーバ機能、スピーカ機能それぞれに対応して、圧電アクチュエータ駆動装置の電力及び駆動アンプ特性の最適化を図ることが可能になる。
【0031】
具体的には、ハプティク機能では、パネル上に触れる指先に十分な振動を感知するため、圧電アクチュエータの振幅を大きくする必要がある。そこで、本実施例では、制御信号1のHigh信号レベルをハプティク機能に対応させ、VPP電源電圧を上昇させ、同時にアンプバイアス電圧を変えることで、圧電アクチュエータ駆動アンプの最大出力電圧振幅を大きくする制御に対応させる。
【0032】
また、スピーカ機能においてもパネルからの十分な音圧が必要なため、圧電アクチュエータの振幅を大きくする必要がある。そこで、本実施例では、制御信号1のHigh信号レベルをスピーカ機能に対応させ、VPP電源電圧を上昇させ、同時にアンプバイアス電圧を変えることで、圧電アクチュエータ駆動アンプの最大出力電圧振幅を大きくする制御に対応させる。
【0033】
一方、レシーバ機能では耳をパネルに近づけて音を聞く用途であるため、スピーカ機能に比べ、音圧は不要であり、圧電アクチュエータの振幅は他機能に比べ小さくてよい。そこで、本実施例では、制御信号1のLow信号レベルをレシーバ機能に対応させ、VPP電源電圧を小さくし、同時にアンプバイアス電圧を変えることで、圧電アクチュエータ駆動アンプの最大出力電圧振幅を小さくする制御に対応させる。駆動アンプの出力電圧振幅を低減することで電力削減でき、圧電アクチュエータ駆動装置の電力最適化が可能になる
なお、本実施例では、制御信号1のHighレベルに対応して最大出力電圧振幅を大きくし、Lowレベルに対応して小さくする例について説明したが、High/Lowレベルを逆にして、最大出力電圧振幅を対応させることもできることは言うまでもない。
【0034】
電圧フォロアA22に入力されるアンプバイアス電流は電流源部A3で生成され、その電流量は制御信号2のHigh/Low信号レベルに対応して制御される。図4に示すとおり、電流源部A3は2つの電流量bが異なる電流源I1、I2で構成され、制御信号2のHi/Lowレベルに対応してセレクタ108により、電流量を変える。
【0035】
例えば、アンプA104をAB級アンプとした場合、アンプバイアス電流量が大だと高圧アンプ部A2の駆動力は増加し、カットオフ周波数を高くでき、アンプ歪特性も良くすることが可能となる。一方で消費電流、消費電力が増加する。
【0036】
ハプティク機能の触覚信号を駆動する場合、アンプ周波数帯域は指先の触覚感覚との兼合いから数百Hz程度までで十分である。一方、レシーバ機能、スピーカ機能の音響信号を駆動する場合、可聴域が20Hz〜20kHzであるため、アンプ周波数帯域は少なくとも数kHz以上必要である。
【0037】
このことから、例えば、制御信号2のLow信号レベルをレシーバ機能、スピーカ機能に対応させて、アンプバイアス電流量を大きくし、高圧アンプ部A2の駆動力を増大し、高周波側のカットオフ周波数を拡大することでアンプの歪特性を向上させて音質を向上させる。
【0038】
一方、制御信号2のHigh信号レベルをハプティク機能に対応させて、アンプバイアス電流量を小さくし、高圧アンプ部A2の駆動力を低減し、高周波側のカットオフ周波数を低減して、電力を削減する。
【0039】
これにより、3機能に対応した圧電アクチュエータ駆動装置の電力最適化、駆動アンプの帯域、歪特性の最適化が可能になる。
【0040】
なお、本実施例では、制御信号2のLowレベルに対応してアンプバイアス電流量を大きくし、Highレベルに対応して小さくする例について説明したが、High/Lowレベルを逆にして、アンプバイアス電流量を対応させることもできることは言うまでもない。
【0041】
圧電アクチュエータ駆動装置電源部100は、図2に示すように、バッテリー9をもとに、インダクタ素子10、MOSFET素子11、ダイオード素子12、容量素子C1から構成される昇圧DC−DCコンバータにより、VPP電圧を生成する。そのVPP電圧は、抵抗素子R1、R2、R3を用いて抵抗分圧した電圧をゲート制御部101にフィードバックされる。スイッチング用発振回路部200、ゲート制御部101とドライバ13aにより、MOSFET素子11のゲートをスイッチングする。
【0042】
この圧電アクチュエータ駆動装置電源部100の構成と動作を図5、図6を用いて以下説明する。まず、制御信号1のHigh/Low信号レベルに対応して、VPP電圧を変化させることができることを以下説明する。
【0043】
昇圧DC−DCコンバータ制御方式を図5に示す。ここでは後述する昇圧比が大きくても、コンパレータ103のみで制御系を構成できるため制御系の安定性に優れる非線形制御方式を用いる。制御信号1がHighレベルのとき、ドライバ13bを介して、NMOS14aのゲートはONされる。ゲート制御部101aのコンパレータ103に入力される電圧フィードバック信号は、VPP×R2/(R1+R2)となる。コンパレータ103のもう一方の入力に基準電圧104としてVrefを設定した場合、VPP×R2/(R1+R2)=Vrefから、制御信号1がHighのときのVPP電圧をVPPHと称すと、VPPH=(R1+R2)/R2×Vrefとなる。
【0044】
同様に制御信号1がLowレベルのとき、NMOS14aのゲートはOFFとなるので、このときのVPP電圧をVPPLと称すと、VPPL=(R1+R2+R3)/(R2+R3)×Vrefとなる。
【0045】
例えば、R1=500kΩ、R2=5kΩ、R3=50kΩ、Vref=2Vとしたとき、制御信号1がHighレベルのときVPPH=202Vとなり、LowレベルのときVPPL=約20.2Vとすることができる。
【0046】
このように、制御信号1のHigh/Low信号レベルに対応して、VPP電圧を制御しうる。本実施例では、HighレベルのときVPP電圧を大きくし、LowレベルのときVPP電圧を小さくなるように制御する。
【0047】
次に、制御信号1をHighレベルからLowレベルに切り替えたときに、歪特性を改善する手法について説明する。
【0048】
アンプの出力電圧振幅に対する出力電圧変動の割合は、歪特性に影響する。つまり、アンプの出力電圧振幅に対する出力電圧変動の割合が大きいほど、歪特性は劣化する。前述したように、圧電アクチュエータ駆動装置を、ハプティク機能又はスピーカ機能からレシーバ機能に対応させる場合、制御信号1をHighレベルからLowレベルに切り替える。このとき、制御信号1がHighレベルでもLowレベルでも出力電圧変動は同じであるため、Lowレベルのときには出力電圧振幅が小さい分、歪特性が悪化することが問題となる。
【0049】
そこで、本実施例では、制御信号1の信号レベルに応じてスイッチング周波数を制御する。具体的には、制御信号1がHighレベルからLowレベルに切り替わるのに対応して、周波数を速くすることを特徴とする。これにより、出力電圧変動が小さくなり、歪特性を改善しうる。以下、図5乃至図7を用いて詳述する。
【0050】
スイッチング用発振回路部200において、発振回路部201で生成した信号を分周器202bで分周し、周波数fswのスイッチング用信号を生成する。
【0051】
VPP電圧レベルが上記のVPPH電圧レベル、もしくはVPPL電圧レベルを下回ったとき、コンパレータ103出力信号はHighレベルとなり、AND回路105aを介して、ゲートオン時間生成回路部102の出力信号がゲート制御部101aから出力される。このとき、ドライバ13aを介して、ゲートスイッチング信号はHighレベルとなり、MOSFET素子11のゲートをONする。
【0052】
制御信号1がHighレベルのとき、図6に示すとおり、ゲートスイッチング信号がHighレベルとなる時間Tonは、ゲートオン時間生成回路部102にて周波数fswのスイッチング用信号をもとに生成され、定数Duを用いてTon=Du/fswとなる。以下、Duをスイッチング用信号のデューティ比と称す。
【0053】
このとき、昇圧DC−DCコンバータを構成するバッテリー9の電圧をVDD、インダクタ素子10のインダクタンスをLとすると、インダクタ素子を流れる最大電流(以下、Ipと称す)は、Ip=VDD/L×Ton=(VDD×Du)/(L×fsw)となる。
【0054】
本実施形態では、前述のとおり、制御信号1がHighレベルのとき、VPP電圧はVPPHである。また、携帯電話装置を含む携帯端末機器において、バッテリー電圧VDDとしてはLiイオン電池が用いられることが一般的であることを考慮すると、VDD=3.5V程度である。そのため、例えば、VPPH=202Vとしたとき、昇圧比は202V/3.5V=58と大きく、昇圧するためにはIpを大きな値とする必要がある。
【0055】
一方、制御信号1をLowレベルとしたとき、VPP電圧は約VPPLである。例えば、VPPL=20.2Vとしたとき、昇圧比は20.2V/3.5V=5.8である。VPP電圧のリップルΔVPPは昇圧DC−DCコンバータの出力平滑容量として用いている図1、C1の等価直列抵抗ESR(Equivalent Series Resistance)をαとすると、ΔVPP=Ip×αと表すことができる。つまり、制御信号1がHighからLowレベルに切り替えてもIp値はかわらず、VPP電圧のリップルも同じとなる。
【0056】
また、アンプの高圧電源VPPに対する電源電圧変動除去比PSRR(Power Supply. Rejection Ratio)をβとしたとき、ΔVPP×βのアンプ出力電圧変動を伴う。制御信号1をLowレベルとするとHighレベルよりもアンプ出力電圧振幅を小さくした分、出力電圧振幅に対する出力電圧変動の割合が大きくなり、圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0のアンプ出力の歪特性に影響、悪化する。
【0057】
以上を回避するため、図5に示すとおり、制御信号1がHighレベルのときは分周器202bを介したスイッチング用信号をセレクタ203で選択することとし、このとき周波数をfswとする。
【0058】
一方、制御信号1のLowレベルに対応して、分周器202bを介さないスイッチング用信号をセレクタ203により選択することで、例えば、図5の例ではスイッチング用信号は2fswとなる。上記のIpの関係式のとおり、Ipは制御信号1がHighレベルのときに比べて半減し、図7に示すように、VPP電圧のリップルも半減し、出力電圧変動も半減するため、アンプ出力の歪特性を改善させることができる。このように、制御信号1のHighレベルからLowレベルへの切り替えに対応して、昇圧DC−DCコンバータのスイッチング用信号の周波数fswを速くすることにより、VPP電圧のリップルを低減し、アンプ出力の歪特性を改善させることができる。
【実施例2】
【0059】
本発明の実施の形態2においては、VPP電圧のリップルを低減し、アンプ出力の歪特性を改善させる別の方法について、図8及び図9を用いて説明する。
【0060】
本実施例では、図8に示すように、遅延回路105b、AND回路106、セレクタ107を備え、制御信号1の信号レベルに応じてデューティ比を制御する。具体的には、制御信号1がHighレベルからLowレベルに切り替わるのに対応して、デューティ比を小さくすることを特徴とする。これにより、ゲートスイッチング信号のオン時間を短くし、VPP電圧のリップルを低減することで、アンプ出力の歪特性を改善することができる。
【0061】
図8に示すように、ゲート制御部101bにおいて、ゲートオン時間生成回路部102の出力を、セレクタ107を用いて、制御信号1のHighレベルからLowレベルへの切り替えに対応し、遅延回路106とAND回路105bを介した信号がAND回路105aに入力されるように制御する。
【0062】
このとき、図9に示すように、ゲートスイッチング信号のオン時間Ton’はゲートオン時間生成回路部102で生成したTon=Du/fswとなる信号とこれを遅延させた信号とのAND信号となるので、ゲートオン時間を短くすることができる。本実施例におけるデューティ比をDu’とすると、Ton’=Du’/fsw<Ton=Du/fswとなる。つまり、実施例1では周波数fswを制御するのに対して、本実施例2ではスイッチング用信号のデューティ比Duを小さくする制御を行うことに相当する。これにより、VPP電圧のリップルを低減し、アンプ出力の歪特性を改善させることができる。
【0063】
以上のように、圧電アクチュエータ駆動アンプ部A0と圧電アクチュエータ駆動装置電源部100から構成される圧電アクチュエータ駆動装置6では、圧電アクチュエータ駆動アンプA0の電源電圧VPPとアンプバイアス電圧を制御する信号(制御信号1)と圧電アクチュエータ駆動アンプA0の駆動力を制御する信号(制御信号2)において、制御信号1と制御信号2のHigh/Low信号レベルの組合せをハプティク機能、レシーバ機能、スピーカ機能の各機能に対応させることにより、これら3機能に対応して電力、駆動アンプ特性を最適化できる圧電アクチュエータ駆動装置を実現することが可能となる。
【0064】
また、上述した実施例では、低圧電源VDDの供給源をバッテリー9として説明しているが、VDDをバッテリー9からレギュレータ等を介して、供給することも可能である。
【0065】
また、図1では、圧電アクチュエータ駆動装置6、制御装置7、データ格納装置8はそれぞれ別装置としているが、圧電アクチュエータ駆動装置6、制御装置7を1つの装置とすること、または、圧電アクチュエータ駆動装置6、制御装置7、データ格納装置8、全てを1つの装置とすることもシステム構成として可能である。このとき、圧電アクチュエータ駆動装置6の入力信号として、制御信号1、制御信号2それぞれを設ける必要はなく、制御装置7からシリアル通信等を用いて、制御信号1、制御信号2に相当する制御信号を受けることができればよい。これにより、実装スペース削減が可能となる。
【0066】
また、発明の実施の形態1において、1つの圧電アクチュエータを1つの圧電アクチュエータ駆動装置により駆動する場合について説明したが、複数の圧電アクチュエータを1つの圧電アクチュエータ駆動装置により駆動する場合、または、1つの圧電アクチュエータを複数の圧電アクチュエータ駆動装置により駆動する場合もシステム構成として可能である。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形実施可能であり、上述した各実施形態を適宜組み合わせることが可能であることは当業者に理解されよう。
【符号の説明】
【0068】
1…タッチパネル
2…振動パネル
3…液晶パネル
4…圧電アクチュエータ
5…タッチパネルセンサ部
6…圧電アクチュエータ駆動装置
7…制御装置
701…タッチパネル回路部
702…制御回路部
703…波形生成回路部
704…通信インターフェイス
8…データ格納装置
9…バッテリー
10…インダクタ素子
11…MOSFET素子
12…ダイオード素子
13…ドライバ
14a…NMOS
15…圧電アクチュエータ駆動用IC
16…インバータ
100…圧電アクチュエータ駆動装置電源部
101a、101b…ゲート制御部
102…ゲートオン時間生成回路部
103…コンパレータ
104…基準電源
105a、105b…AND回路
106…遅延回路
200…スイッチング用発振回路部
201…発振回路部
202…分周器
107、108、203…セレクタ
R1−R10…抵抗素子
C1−C3…容量素子
A0…圧電アクチュエータ駆動アンプ部
A1…シングル差動変換部
A11…アンプバイアス電圧生成部
A2a、A2b…高圧アンプ部
A21…ゲインアンプ
A22…電圧フォロア
A3…電流源部
A101−A104…アンプ
VPP…高圧電源端子
VDD…低圧電源端子
VOT、VOB…シングル差動変換回路出力
BIAS…アンプバイアス電圧
I1、I2…電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータを振動させる圧電アクチュエータ駆動装置であって、
入力される第1の制御信号に応じてアンプバイアス電圧を制御するアンプバイアス電圧生成部を有し、シングル入力信号を差動出力に変換して差動出力信号を出力するシングル差動変換部と、
上記差動出力信号を増幅する高圧アンプ部と、
入力される上記第1の制御信号に応じて上記高圧アンプ部の電源電圧を制御する電源部と、
入力される第2の制御信号に応じて上記高圧アンプ部のアンプバイアス電流量を制御する電流源部と、を有し、
上記圧電アクチュエータを振動させる機能として、触覚フィードバック機能、音声を出力するレシーバ機能、音楽を発生するスピーカ機能を有し、
上記触覚フィードバック機能、上記レシーバ機能、及び上記スピーカ機能それぞれに対して、上記第1の制御信号及び上記第2の制御信号それぞれの第1の信号レベル及び第2の信号レベルの組合せを対応させて、上記アンプバイアス電圧、上記高圧アンプ部の電源電圧、及び上記高圧アンプ部のアンプバイアス電流量それぞれを制御する圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記第2の制御信号は、上記高圧アンプ部の駆動力を制御する信号である圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記触覚フィードバック機能においては、上記第1の信号レベルの上記第1の制御信号により、上記アンプバイアス電圧及び上記高圧アンプ部の電源電圧が大きくなるように制御し、上記第1の信号レベルの上記第2の制御信号により、上記高圧アンプ部のアンプバイアス電流量が小さくなるように制御する圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記レシーバ機能においては、上記第2の信号レベルの上記第1の制御信号により、上記アンプバイアス電圧及び上記高圧アンプ部の電源電圧が小さくなるように制御し、上記第2の信号レベルの上記第2の制御信号により、上記高圧アンプ部のアンプバイアス電流量が大きくなるように制御する圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項5】
請求項1に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記スピーカ機能においては、上記第1の信号レベルの上記第1の制御信号により、上記アンプバイアス電圧及び上記高圧アンプ部の電源電圧が大きくなるように制御し、上記第2の信号レベルの上記第2の制御信号により、上記高圧アンプ部のアンプバイアス電流量が大きくなるように制御する圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項6】
請求項1に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記電源部は、昇圧DC−DCコンバータで構成され、
上記第1の制御信号の信号レベルに応じて、上記昇圧DC−DCコンバータのスイッチング用信号の周波数を制御する発振回路部を有する圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記発振回路部は、上記第1の制御信号が第1の信号レベルから上記第2の信号レベルに切り替わるのに対応して、上記周波数を速くする圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項8】
請求項1に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記電源部は、昇圧DC−DCコンバータで構成され、
上記第1の制御信号の信号レベルに応じて、上記昇圧DC−DCコンバータのスイッチング用信号のデューティ比を制御するゲート制御部を有する圧電アクチュエータ駆動装置。
【請求項9】
請求項8に記載の圧電アクチュエータ駆動装置において、
上記ゲート制御部は、上記第1の制御信号が第1の信号レベルから上記第2の信号レベルに切り替わるのに対応して、上記デューティ比を小さくする圧電アクチュエータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−22537(P2012−22537A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160206(P2010−160206)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】