説明

圧電デバイスおよび超音波探触子

【課題】本発明は、超音波の送受信の性能を向上させることができる超音波探触子および超音波診断装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の超音波探触子5は、薄板状の基板61と、基板61に積層された薄板状の圧電部材62と、前記圧電部材62に形成されたリング状の1対の第1及び第2電極63,64と、前記1対の第1及び第2電極63,64に電圧を印加した場合に生じる電界の方向である径方向に延ばされ複数の溝7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子やインクジェットプリンタ等に使用される圧電デバイスおよび超音波探触子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、非侵襲で内部組織の観察ができ、又、リアルタイムで観察ができるといった特徴を有するため、診断への応用場面が益々増加している。この超音波診断装置の超音波として、例えば基板にPZTなどの圧電部材を形成したユニモルフ構造のダイヤフラムを太鼓状に振動させて超音波の送受信を行なうpMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)が知られている。
【0003】
このようなpMUTの超音波探触子は、バルクPZTをダイシングにより分割したものに比し、周波数帯域を広くすることができ、微細化して高解像度とすることができるとともに、3次元画像を取得するための振動子(セル)の2次元配列化に適しており、また、小型薄型化が可能であるために超音波内視鏡への応用に適している等の利点を有する。このようなpMUTの超音波探触子において、1次元配列の振動子では、取得できる画像が断層画像であるため、操作による偽陰性の危険性があることから、操作者(医師、超音波診断技師)の熟練度が要求される。このような課題を軽減するため、3次元画像を取得できる2次元配列の超音波探触子のニーズは高い。
【0004】
このような超音波探触子においては、以下のようなエネルギ変換の動作を行う。送信では、電気エネルギを機械エネルギ(膜の振動)に、更に機械エネルギを音響エネルギ(超音波)に変換する。一方、受信では、音響エネルギ(超音波)を機械エネルギ(膜の振動)に、更に機械エネルギを電気エネルギに変換する。
【0005】
機械エネルギと音響エネルギの相互の変換は、音響整合が重要であり、pMUTの実効音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに整合させることが設計のポイントである。電気エネルギと機械エネルギの相互の変換は、圧電薄膜を含むダイヤフラム構成のエネルギ変換効率を高めることが重要である。圧電部材は、電界の方向と同じ方向(33方向)の歪みを利用することが最も効率が良い(圧電部材の性能を表す指標ではk値:電気機械結合係数が高くなる)ため、超音波探触子においては、33方向の歪みを用いる構成が有利である。又、PZTの厚み方向に電極を配置した構成に比べ、電極間隔を比較的大きく取れるため超音波受信時の感度(単位圧力に対する出力電圧)を向上できることもメリットとして挙げられる。
【0006】
このような33方向の歪みを利用した方式のものとして、特許文献1に超小型シェル型変換器が開示されている。このものは、支持基板上に、アーチ状の部分と二つのショルダー部分を有するソリッド電気アクティブ媒体を取り付けるとともに、それぞれのショルダー部分に一対の電極を取り付けてアーチ部分と支持基板との間にチャンバーを形成する。そして、電圧を、プラス電極からマイナス電極に沿って印加させ同方向の電界を発生させて、応力を同方向に誘導させ、アーチ部分を厚さ方向の上方又は下方に動かし湾曲させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6222304号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような33歪みを利用した方式の薄板状の圧電部材aの挙動は、例えば図13に示すように、ある任意矩形断面の歪を考えると、例えば33方向(Z−Z方向)に伸びるとき、31方向(W−W方向)には縮む。さらに、圧電部材が図13に示すようにプラス電極bとマイナス電極cとによって電界がリング状或いは円形状に生じる構成では、ある任意断面における周方向(31方向、W−W方向)の歪みは互いに拘束される。このような拘束状態においては、径方向(Z−Z方向)の歪み量が25%程度減少することがシミュレーションにより確認されており、超音波の送受信の特性が低下してしまうという問題点がある。尚、図13に示す圧電部材aは、支持部材eに支持された薄板状の基板dに積層されたものである。支持部材e及び基板dについては更に後述する。
【0009】
本発明は、超音波の送受信の性能の向上等を図ることができる圧電デバイスおよび超音波探触子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る圧電デバイスは、薄板状の圧電部材と、前記圧電部材に形成された1対の第1及び第2電極と、前記1対の第1及び第2電極に電圧を印加した場合に生じる電界の方向に沿って延ばされた部分を含むように形成された溝を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、溝によって、電界の方向の歪みはその電界の方向と直交する方向の歪みによる拘束が緩和され、電界の方向の歪みが当該溝がない場合に比べて増加する。これにより、この圧電部材を有するダイヤフラムの変位が増加し、超音波の送受信特性を向上させることができる。
【0012】
他の一態様では、上記圧電デバイスにおいて、前記圧電部材とでユニモルフ構造を採る薄板状の基板を、更に備え、前記基板は、前記電圧印加による圧電部材の歪に伴って、当該基板の面に略直交する厚さ方向に撓み変形することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、圧電部材の歪みにより基板を効率良く撓み変形させることができ、例えば超音波の送受信を行う超音波探触子に好適なものにできる。
【0014】
他の一態様では、上記圧電デバイスにおいて、前記電極は、略円形状又は略リング形状であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、1次の共振周波数(狙いの振動モード)付近に不要な振動モードが生じないものにできる。不要な振動モードが駆動周波数付近にあると、不要な振動が励起され設計のパルス波形からパルス波形が崩れ、分解能に悪影響を与える可能性があるが、これを防止できる。
【0016】
他の一態様では、上記圧電デバイスにおいて、前記溝は、径方向に延ばされた複数のものから構成されているとともに、互いに隣接する2つの溝の中心線同士が10°〜25°の中心角をなすようにして周方向に並設されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、電界の方向と直交する方向の歪みによる拘束を、より一層、緩和でき、電界の方向の歪みを、より一層、増加させることができる。
【0018】
他の一態様では、上記圧電デバイスにおいて、前記1対の第1及び第2電極は、前記圧電部材の面上に所定の距離だけ離隔して形成された矩形状であることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、複数のダイヤフラムにより1つの素子を構成する場合、1つの素子中におけるダイヤフラムの配置効率を高くでき、ダイヤフラムの有効面積を大きくでき、超音波の送受信の特性を向上できる。又、電極を両側から容易に引き出せることができ、ロスの少ない構造が実現できる。
【0020】
又、本発明の一態様に係る超音波探触子は、上述の何れかの圧電デバイスを備えたものである。
【0021】
この構成によれば、電界の方向の歪みはその電界の方向と直交する方向の歪みによる拘束が緩和されて増加する。これにより、この圧電部材を用いて形成されるダイヤフラムの変位が増加し、超音波の送受信特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、超音波の送受信の性能を向上させることができる圧電デバイスおよび超音波探触子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す断面図である。
【図4】超音波探触子における超音波送受信部の背面図である。
【図5】超音波送受信部の要部を拡大した正面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】実施例1〜3及び比較例の送受信感度を示すグラフである。
【図9】実施例1〜6の送受信特性を示すグラフである。
【図10】(a)は、他の実施形態の超音波送受信部の要部を拡大した正面図、(b)は、図10(a)のIX−IX線断面図である。
【図11】(a)は、更に他の実施形態の超音波送受信部の要部を拡大した正面図、(b)は、図11(a)のX−X線断面図である。
【図12】図11(a)のXI−XI線断面図である。
【図13】電圧印加による圧電部材の歪を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の超音波探触子を有する超音波診断装置の一実施形態の外観構成を示す図である。図2は、本発明の超音波探触子を有する超音波診断装置の一実施形態の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、超音波探触子の一実施形態の構成を示す断面図である。
【0025】
この実施形態における超音波診断装置Sは、図1に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信すると共に、この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して第1超音波信号を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体内から来た第2超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0026】
この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波は、被検体内における音響インピーダンスの不整合によって被検体内で第1超音波信号が反射した反射波(エコー)だけでなく、例えば微小気泡(マイクロバブル)等の超音波造影剤(コントラスト剤)が用いられている場合には、第1超音波信号に基づいて超音波造影剤の微小気泡で生成される超音波もある。超音波造影剤では、超音波の照射を受けると、超音波造影剤の微小気泡は、共振もしくは共鳴し、さらに一定の閾値以上の音圧では崩壊、消失する。超音波造影剤では、微小気泡の共振によって、あるいは微小気泡の崩壊、消失によって、超音波が生じている。
【0027】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像処理部14と、表示部15と、制御部16とを備えて構成されている。
【0028】
操作入力部11は、例えば、診断開始等を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0029】
送信部12は、例えば制御部16からの制御信号を超音波探触子2に送信する。受信部13は、例えば超音波探触子2から送られてくる受信信号を受信して画像処理部14へ出力する。
【0030】
画像処理部14は、制御部16の制御に従って、受信部13で受信された、第1超音波信号に基づく被検体内から来た第2超音波信号における所定の周波数成分に基づいて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。前記所定の周波数成分は、例えば、基本波成分、ならびに、例えば2次高調波成分、3次高調波成分および4次高調波成分等の高調波成分を挙げることができる。画像処理部14は、複数の周波数成分を用いて超音波画像を形成するように構成されてもよい。画像処理部14は、例えば、受信部13の出力に基づいて被検体の超音波画像を生成するDSP(Digital Signal Processor)、および、表示部15に超音波画像を表示すべく、前記DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)等を備えて構成される。前記DSPは、例えば、Bモード処理回路、ドプラ処理回路およびカラーモード処理回路等を備え、いわゆるBモード画像、ドプラ画像およびカラーモード画像の生成が可能とされている。
【0031】
表示部15は、制御部16の制御に従って、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する装置である。表示部15は、例えば、CRTディスプレイ、LCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0032】
制御部16は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備えて構成され、これら超音波探触子2、操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14および表示部15を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0033】
超音波探触子(超音波プローブ、トランスデューサ)2は、図3に示すように探触子本体4と、探触子本体4に設けられ超音波の送受信を行なう本発明の圧電デバイスである超音波送受信部5とを備えている。尚、図3のX方向を前方側、Y方向を後方側として説明する。後述の図6、図7、図10(b)、図11(b)(c)、図12において同じである。
【0034】
探触子本体4は、前端に設けられた被覆層41と、後端側に設けられた信号処理回路部42と、被覆層41と信号処理回路部42との間に配設されたバッキング材層43とを備えている。
【0035】
被覆層41は、診断に際して、例えば被検体としての生体と当接し、その当接に際し不快感を与えることがないものであって、人体との音響整合をとるために音響インピーダンスが人体に近いシリコーンゴム等から形成されている。
【0036】
バッキング材層43は、超音波送受信部4に発生する不要振動を減衰する等の役割を果たす。
【0037】
信号処理回路部42は、ケーブル3を介して超音波診断装置Sと接続されているとともに、超音波送信用のパルス信号の生成、或いは、受信パルス信号の処理などを行なう。
【0038】
詳しくは、制御部16の制御に従って、上記送信部12から送られてくる電気信号の送信信号を供給して超音波送受信部5に第1超音波信号を発生させる。例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。この信号処理回路部42で生成された駆動信号は、後述の複数のダイヤフラム6それぞれに対し適宜に遅延時間を個別に設定した、パルス状の複数の信号であり、ダイヤフラム6のそれぞれに供給される。この複数の駆動信号によっては、各ダイヤフラム6から放射された超音波の位相が特定方向(特定方位)(あるいは、特定の送信フォーカス点)において一致し、その特定方向にメインビームを形成した送信ビームの第1超音波信号を発生する。
【0039】
又、信号処理回路部42は、制御部16の制御に従って、超音波送受信部5から電気信号の受信信号を受信し処理する。そして、送信時の送信ビームの形成と同様に、受信時もいわゆる整相加算することによって受信ビームが形成されてよい。すなわち、ダイヤフラム6それぞれから出力される複数の出力信号に対し適宜に遅延時間を個別に設定し、これら遅延された複数の出力信号を加算することによって、各出力信号の位相が特定方向(特定方位)(あるいは、特定の受信フォーカス点)において一致し、その特定方向にメインビームが形成される。このような場合において、例えば、前記増幅器で増幅された各出力信号が入力される受信ビームフォーマ等も備えてよい。尚、この信号処理回路部42は、超音波診断装置本体1に設けるようにしてもよく、適宜変更できる。
【0040】
超音波送受信部5は、探触子本体4の被覆層41とバッキング材層43との間に2次元アレイ状に配設されている。この実施形態の超音波送受信部5は、図4〜図6に示すように基板(振動板)61と、基板61の前面に積層されて基板61とでユニモルフ構造を採る薄板状の圧電部材62と、圧電部材62の前面側に配設されたプラスマイナス1対の電極63,64と、これらを支持した支持部材8とを備えている。
【0041】
支持部材8は、この実施形態では、シリコン製の板状体から構成されている。この支持部材8には、図4、図6に示すように、左右方向及び上下方向に配列された複数の円形状の貫通孔81が設けられている。各貫通孔81は、支持部材8の前面から後面に貫通するようにして形成されている。
【0042】
基板61は、この実施形態では、後述のPZTに良好な電位分布を得るために絶縁性の物質、例えば二酸化シリコン(SiO2)或いは窒化シリコン(SiN)から構成され、薄板状(この実施形態では、2μm程度の厚さ)に形成されている。そして、この基板61は、支持部材8の前面の全体に積層されて貫通孔81を前方側から覆うように配設されている。
【0043】
マイナス電極64(第2電極)は、金又は白金等から構成され、貫通孔81ごとに、貫通孔81よりもやや径大に形成された複数の略リング状のマイナス電極本体部64aを備えている(図5、図6に図示)。各マイナス電極本体部64aは、図5、図6に示すように、貫通孔81と同心になるようにして、貫通孔81を囲むように配設されている。
【0044】
プラス電極63(第1電極)は、金又は白金等から構成され、マイナス電極本体部64aに対応した複数のプラス電極本体部63aを備えている(図5、図6に図示)。各プラス電極本体部63aは、図5、図6に示すように、マイナス電極本体部64aよりも径小に形成され、マイナス電極本体部64aの径内側に同心になるように配設されており、これにより、電圧印加に伴ってプラス電極本体部63aからマイナス電極本体部64aにかけての径方向に電界が発生してそれらのプラス電極本体部63aとマイナス電極本体部64aとで区画形成されたリング状領域部65が電界領域となるようになっている。
【0045】
圧電部材62は、圧電材料から構成されている。この実施形態では、圧電部材62は、PZTから構成されている。尚、圧電部材62は、PZTから構成されるものに限らず、例えば圧電部材を、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、PZN−PTおよびPMN−PT等から構成することもでき、適宜変更できる。
【0046】
又、この実施形態の圧電部材62の厚さは、2μm程度とされている。又、この圧電部材62は、複数(この実施形態では、16個)の溝7を備えている。各溝7は、電界の方向である径方向に、リング状領域部65におけるプラス電極本体部63aからマイナス電極本体部64aまで延ばされるようにして、前面から後面に貫通するように形成されている。
【0047】
又、この実施形態では、互いに隣接する2つの溝7の中心線71同士が10°〜25°の中心角θをなすようなピッチで周方向に並設されている。尚、この中心線71は、平面視でリング状領域部65の中心Oから、溝7を2分割するように径方向に延ばされた線である。
【0048】
又、この実施形態では、溝7は、径内側から径外側に漸次幅広に形成されており、径内側での幅が1μm程度で、径外側での幅が2μm程度とされている。なお、溝7の幅及び形状は、この形態のものに限らず、例えば径内側から径外側に同幅に形成されたものでもよい、適宜変更できる。
【0049】
そして、この圧電部材62は、基板61の前面に積層され、これにより、各貫通孔81に対応する部分に、上記リング状領域部65の中心Oを中心とした円形状のセルからなり基板61とでユニモルフ構造を採る薄膜状のダイヤフラム(振動子)6が形成されている。
【0050】
又、この実施形態では、図5に示すように、4つのダイヤフラム6を1素子66(図5の二点鎖線で囲んだ4つ)として共通接続されて同調して動作するように構成され、複数の素子66が左右上下に2次元的に配列されている。
【0051】
より詳しくは、マイナス電極本体部64aは、4つのダイヤフラム6ごとに配設されたもの同士が図5(a)に示すセル連結部64bを介して互いに通電可能に接続されている。
【0052】
又、プラス電極本体部63aは、4つのダイヤフラム6ごとに配設されたもの同士が図5(a)に示すセル連結部63bを介して互いに通電可能に接続されているとともに、その4つのダイヤフラム6からなる1素子66夫々から延設された素子延設部(図示せず)によって上記素子66同士を連結している。
【0053】
このように構成される超音波送受信部5は、この実施形態では、次のようにして形成されている。
【0054】
支持部材8の前面に、基板61が、熱酸化やスパッタ、CVDなどの方法で形成される。
【0055】
そして、基板61の前面に、圧電部材62が、スパッタやゾルゲルなどの方法により形成される。尚、圧電部材62を構成したPZTの特性(膜質)を向上するためにPZTの下層に酸化物などのシード層を形成する方法も取り得る。
【0056】
又、電極が、エッチングやリフトオフなどによりフォトリソグラフィを用いてパターニングされる。圧電部材62における内側のプラス電極63の中心側部と溝7を、エッチングにより除去する。支持部材8の貫通孔81もエッチングにより加工、除去し、ダイヤフラム6を形成する。
【0057】
また、圧電部材62の分極方向を電界の方向に揃えるため、電気接続を行った後、内側のプラス電極63〜外側のマイナス電極64間に数V/μm以上の電界を印加して分極処理を行う。
【0058】
以上のように構成された超音波診断装置Sで診断する場合、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部16の制御に従い、信号処理回路部42で超音波送信用のパルス信号が生成される。
【0059】
この生成されたパルス信号は、超音波送受信部5の複数のダイヤフラム6の素子66ごとに所定の遅延時間でパルス電圧を、リング状領域部65に径方向に印加する。
【0060】
これにより、ダイヤフラム6の圧電部材62が径方向に歪み、その径方向の歪みによって、ダイヤフラム6の基板61が厚さ方向(図6のX−Y方向)に撓み変形する。その際、圧電部材62が径方向に延びた複数の溝7を備えているため、径方向に直交する周方向の歪みに拘束され難くなり径方向に効率よく歪ませることができる。
【0061】
そして、この圧電部材62の径方向の歪みに伴う基板61の撓み変形よってダイヤフラム6は太鼓状に振動する。この振動によって、ダイヤフラム6は、第1超音波信号を、ダイヤフラム6の厚さ方向の前後方向に放射する。尚、ダイヤフラム6の素子間に時間差を設けてパルス電圧を発信することで、超音波を所定距離、方向にフォーカスすることができる。
【0062】
ダイヤフラム6から前方側の被覆層25方向へ放射された第1超音波信号は、被覆層25を介して放射される。被覆層25が被検体に例えば当接されていると、これによって超音波探触子2から被検体に対して第1超音波信号が送信される。尚、ダイヤフラム6から後方側へ放射された第1超音波信号は、バッキング材層43で減衰される。
【0063】
なお、超音波探触子2は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
【0064】
被検体に対して送信された超音波は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波となる。あるいは超音波造影剤が被検体内に注入されている場合には、第1超音波信号に起因して超音波造影剤によって超音波が生成される。この超音波には、送信された第1超音波信号の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍等の2次高調波成分、3次高調波成分および4次高調波
成分等も含まれる。この超音波は、超音波探触子2で受信される。
【0065】
より具体的には、この超音波は、被覆層25を介してダイヤフラム6で受信され、機械的な振動が電気信号に変換されて受信信号として受信され、信号処理回路部42で処理され、画像処理部14へ出力される。
【0066】
そして、画像処理部14は、制御部16の制御によって、受信された受信信号に基づいて、送信から受信までの時間により被検体までの距離が、素子間の時間差により被検体の方向が、夫々検出され、被検体の超音波画像を生成する。さらに、画像処理部14では、フィルタ法によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基づいてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。また例えば、画像処理部14では、位相反転法(パルスインバージョン法)によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基づいてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。そして、表示部15は、制御部16の制御によって、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する。
【0067】
次に、圧電部材62における溝7の効果を検証するシミュレーションを行ったので、以下に説明する。このシミュレーションは、上記溝7のピッチとなる中心線71同士の中心角θ(図5参照)が異なるように溝を配置した3種類の実施例1〜3の圧電部材と、比較例として溝7を有しない圧電部材とを製作し評価を行った。又、実施例1は、上記中心角θが15°のものであり、実施例2は、上記中心角θが30°のものである。又、実施例3は、上記中心角θが45°のものである。
【0068】
シミュレーションは、上記圧電部材を有する圧電デバイスとその超音波放射方向に音響媒質(水)を配置したモデルを作成し、送信時の入力電圧Vin[V]に対する発生音圧Pout[Pa]と、受信時の圧電デバイスが受ける音圧Pin[Pa]に対して発生する電圧Vout[V]をそれぞれシミュレーションにより周波数ごとに求め、その結果から、送受信の感度として、出力電圧Vout/Vin(入力電圧に対して、帰還した超音波によって出力される電圧を示す)をデシベル(dB)換算し求めた。
【0069】
その結果を、図8に示す。この図8における感度は、溝を有しない比較例のピーク値で正規化して示している。
【0070】
又、図8の周波数特性より、超音波探触子の総合的な性能指標(感度+周波数帯域)にて評価すると、比較例に対して、実施例1では、2.2dB、実施例2では、1.8dB、実施例3では、1.7dB、夫々、大きかった。ここで、上記性能指標は、例えば図8中の比較例のデータについて示したように、ピーク値から−6dBとなる周波数幅fbwを中心周波数fcで除した周波数帯域幅BWをdB換算し、fcの感度Sfc(dB)との合計で示したもの(送受信特性)である。
【0071】
以上、実施例1〜3は、全て、比較例よりも性能指標(送受信特性)が大きく、溝の効果を確認できた。
【0072】
又、圧電部材62における溝7の上記中心角による効果を検証するシミュレーションを併せて行ったので、以下に説明する。
【0073】
このシミュレーションでは、上記実施例1〜3に加えて、実施例4として上記中心角θが10°のもの、実施例5として上記中心角θが20°のもの、実施例6として上記中心角θが25°のものを、夫々、作成した。そして、それらの実施例1〜6について、上記性能指標とした送受信特性(感度+周波数帯域)を算出した。
【0074】
その結果は、図9に示すように、特に、上記中心角θが10°〜25°の範囲で送受信特性の値が大きく、送受信特性を、より一層、向上させることができる。従って、溝7のピッチとなる中心線71同士の中心角θが10°〜25°になるように複数の溝7を周方向に配設するのが特に好ましい。
【0075】
尚、上記実施形態では、圧電部材62は、貫通孔81よりも大きく形成されているが、この形態のものに限らず、適宜変更できる。
【0076】
例えば図10(a)(b)に示すように、圧電部材162は、貫通孔181よりも小さい円形状のものから構成され、この圧電部材162の中心部にプラス電極163のプラス電極本体部163aが配設され、圧電部材162の外周側にマイナス電極164のマイナス電極本体部164aが配設されている。
【0077】
そして、電圧印加に伴ってプラス電極163のプラス電極本体部163aからマイナス電極164のマイナス電極本体部164a側への径方向に電界が発生してそれらのプラス電極本体部163aとマイナス電極本体部64aとで区画形成された円形状領域部165が電界領域となるように構成されている。
【0078】
又、上記実施形態では、プラス電極のプラス電極本体部とマイナス電極のマイナス電極本体部とで電界領域をリング状領域部或いは円形状領域部に形成したが、この形態のものに限らず、電界領域を矩形状の領域に形成してもよく、適宜変更できる。
【0079】
詳しくは、例えば図11、図12に示すように、プラス電極263は、圧電部材262の左端(一端)に、幅方向に沿って直線的に延ばされた矩形状のプラス電極本体部263aを備えている。又、マイナス電極264は、プラス電極本体部263aと所定の距離だけ離隔した圧電部材262の右端(他端)に、プラス電極本体部263aと平行に延ばされた矩形状のマイナス電極本体部264aを備えている。
【0080】
圧電部材262は、支持部材208の貫通孔281よりもやや小さい矩形状のものから構成されている。又、プラス電極本体部263aとマイナス電極本体部264aとの間に、長手方向に延ばされた複数の溝207を備えている。
【0081】
この実施形態では、溝207は、1μm程度の溝幅で、10μm程度のピッチ間隔で配設されている。尚、溝幅あるいは、ピッチ間隔は、この形態のものに限らず、適宜変更できる。
【0082】
そして、電圧印加に伴ってプラス電極本体部263aとマイナス電極本体部264aとの間に形成された矩形状領域部265に電界が発生して矩形状領域部265が電界領域となり、これにより、圧電部材262がプラス電極本体部263aからマイナス電極本体部264aにかけての長手方向に歪み、その圧電部材262の長手方向の歪みによって、ダイヤフラム206の基板261が厚さ方向(X−Y方向)に撓み変形する。
【0083】
その際、圧電部材262が長手方向に延びた複数の溝207によって、圧電部材262の長手方向の歪を、幅方向の歪みに拘束され難くでき、長手方向に効率よく歪ませることができる。
【0084】
以上のように、電界領域を矩形状領域265に形成すれば、例えば上述のように圧電部材を含むダイヤフラムが4つで1つの素子(図5の二点鎖線で囲んだ部分)を構成する場合、1つの素子中におけるダイヤフラムの配置効率を高くでき、ダイヤフラムの有効面積を大きくでき、超音波の送受信の特性を向上できる。又、プラス電極263とマイナス電極264とを両側から容易に引き出せることができ、ロスの少ない構造にできる。
【0085】
又、上記実施形態では、溝は、圧電部材を前面から後面に貫通するように形成されているが、この形態のものに限らず、適宜変更できる。例えば溝は、圧電部材の前面から所定の深さで形成されたものでもよい。ただし、溝が圧電部材を前面から後面に貫通するように形成されていれば、電界の方向と直交する方向の歪みによる拘束を緩和し易くでき電界の方向の歪みを増加させ易くできる点で好ましい。
【0086】
又、上記実施形態では、本発明の圧電デバイスは、超音波探触子の超音波送受信部として使用されたが、超音波探触子に用いられる形態のものに限らず、例えばインクジェットプリンタのインク吐出ヘッドに使用することもでき、適宜変更できる。
【符号の説明】
【0087】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
5 超音波送受信部(圧電デバイス)
6 ダイヤフラム
7 溝
61 基板
62 圧電部材
63 プラス電極
64 マイナス電極
S 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の圧電部材と、前記圧電部材に形成された1対の第1及び第2電極と、前記1対の第1及び第2電極に電圧を印加した場合に生じる電界の方向に沿って延ばされた部分を含むように形成された溝を備えることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記圧電部材とでユニモルフ構造を採る薄板状の基板を、更に備え、
前記基板は、前記電圧印加による圧電部材の歪に伴って当該基板の面に略直交する厚さ方向に撓み変形することを特徴とする請求項1記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記1対の第1及び第2電極は、略円形状又は略リング形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記溝は、径方向に延ばされた複数のものから構成されているとともに、互いに隣接する2つの溝の中心線が10°〜25°の中心角をなすようにして周方向に並設されていることを特徴とする請求項3の記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記1対の第1及び第2電極は、前記圧電部材の面上に所定の距離だけ離隔して形成された矩形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の圧電デバイス。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電デバイスを備えた超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−55564(P2013−55564A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193467(P2011−193467)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】