説明

圧電フィルタ及びそれを用いた共用器、通信機器

【課題】通過帯域とは独立して減衰帯域を可変とすることが可能な圧電フィルタを提供する。
【解決手段】1つ以上の直列圧電共振器3と2つ以上の並列圧電共振器4a、4bを具備する圧電フィルタであって、第1の並列圧電共振器4aと接地間に配置された第1のインダクタ5aと、第2の並列圧電共振器4bと接地間に配置された第2のインダクタ5bと、第1の並列圧電共振器と第1のインダクタの接続点および第2の並列圧電共振器と第2のインダクタの接続点の間に配置されたバイパス圧電共振器36とを備え、バイパス圧電共振器の容量値が可変である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話や無線LAN等の移動体通信の無線回路に用いられる、圧電フィルタ、共用器及び通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器等の電子機器に内蔵される部品は、より小型化及び軽量化されることが要求されている。例えば、携帯機器に使われているフィルタや共用器には、小型であり、かつ周波数特性が精密に調整され、挿入損失が小さいことが要求される。これらの要求を満たすフィルタの1つとして、圧電共振器を用いた圧電フィルタが知られている。
【0003】
図17は、従来の圧電共振器を用いた圧電フィルタの等価回路図を示している。この圧電フィルタでは、第1の直列圧電共振器61aと並列に第1の並列可変容量62aが配置され、第1の直列圧電共振器61aと第1の並列可変容量62aそれぞれに対し、直列に第2の直列可変容量63aが配置されて、これら第1の直列圧電共振器61aと第1の並列可変容量62aと第1の直列可変容量63aにより第1の直列圧電共振器群64aが形成される。同様に第2の直列圧電共振器61bと並列に第2の並列可変容量62bが配置され、第2の直列圧電共振器61bと第2の並列可変容量62bそれぞれに対し、直列に第2の直列可変容量63bが配置されて、第2の直列圧電共振器群64bが形成され、第1の直列圧電共振器群64aと直列に接続される。
【0004】
また第1の並列圧電共振器61cと並列に第3の並列可変容量62cが配置され、第1の並列圧電共振器61cと第3の並列可変容量62cそれぞれに対し、直列に第3の直列可変容量63cが配置されて、第1の並列圧電共振器群64cが形成される。同様に第2の並列圧電共振器61dと並列に第4の並列可変容量62dが配置され、第2の並列圧電共振器61dと第4の並列可変容量62dそれぞれに対し、直列に第4の直列可変容量63dが配置されて、第2の並列圧電共振器群64dが形成される。
【0005】
このように形成された第1の並列圧電共振器群64cと第2の並列圧電共振器群64dの一端は、第2の直列圧電共振器群64bの両端にそれぞれ接続され、他端はグランドに接地される。入力端子65aが、第1の直列圧電共振器群64aの第2の直列圧電共振器群64bと接続されていない一端に接続され、出力端子65bが、第2の直列圧電共振器群64bの第1の直列圧電共振器群64aと接続されていない一端に接続される。以上のようにして、従来の圧電共振器を用いた圧電フィルタ66が構成される。
【0006】
以上のように構成された従来の圧電共振器を用いた圧電フィルタについて、その動作を説明する。図18(a)は従来の圧電フィルタを構成する各圧電共振器の単体特性、図18(b)は圧電フィルタの通過特性である。図18(a)に実線で示された特性s1は、第1の並列圧電共振器群64cまたは第2の並列圧電共振器群64dの単体特性、破線で示された特性s2は、第1の直列圧電共振器群64aまたは第2の直列圧電共振器群64bの単体特性である。70は並列圧電共振器群の共振点、71は並列圧電共振器群の反共振点である。72は直列圧電共振器群の共振点、73は直列圧電共振器群の反共振点である。図18(b)にフィルタ通過特性tが示される。74は通過帯域、76は低域側減衰帯域、78は高域側減衰帯域、75は低域側減衰極、77は高域側減衰極である。
【0007】
並列圧電共振器61c、61d、及び直列圧電共振器61a、61bは、理論的にはインピーダンスが0となる共振点70、72と無限大になる反共振点71、73を有した単体特性を持ち、この共振点の共振周波数と反共振点の反共振周波数の差を示すΔfは、通常圧電共振器を構成する圧電体の材料により概ね決定される。並列圧電共振器群64c〜64dの反共振点71と直列圧電共振器群64a〜64bの共振点72をほぼ一致させ、それぞれの圧電共振器を梯子型構成として、フィルタ66が構成される。これにより入力端子65aと出力端子65b間において、図18(b)に示すように、通過帯域74の低域側には並列圧電共振器群64c〜64dの共振点70に対応する周波数に低域側減衰極75が形成され、低域側減衰帯域76が配置される。また、通過帯域74の高域側には直列圧電共振器群64a〜64bの反共振点73に対応する周波数に高域側減衰極77が形成され、高域側減衰帯域78が配置される。
【0008】
図19は、従来の圧電共振器を用いた圧電フィルタの、可変容量を変化させたときのフィルタ通過特性の変化を示す。圧電フィルタ66を構成するそれぞれの圧電共振器群64a〜64dに配置された並列可変容量62a〜62d及び直列可変容量63a〜63dを調整することにより、圧電フィルタ66の通過特性は、79〜82と変化し、通過帯域可変フィルタとして動作する(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2005−217852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の構成では、圧電フィルタの通過帯域を並列可変容量62a〜62d及び直列可変容量63a〜63dにより変化させた場合、通過帯域74と同時に減衰帯域75及び77が変化し、所望の減衰帯域における減衰特性が得られなくなる。
【0010】
それ故に、本発明は、通過帯域とは独立して減衰帯域を可変とすることが可能な圧電フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の圧電フィルタは、基本構成として、1つ以上の直列圧電共振器と2つ以上の並列圧電共振器を具備する。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の構成の圧電フィルタは、第1の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第1のインダクタと、第2の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第2のインダクタと、前記第1の並列圧電共振器と前記第1のインダクタの接続点および前記第2の並列圧電共振器と前記第2のインダクタの接続点の間に配置されたバイパス圧電共振器とを備え、前記バイパス圧電共振器の容量値が可変である。
【0013】
本発明の第2の構成の圧電フィルタは、第1の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第1のインダクタと、第2の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第2のインダクタと、前記第1の並列圧電共振器と前記第1のインダクタの接続点および前記第2の並列圧電共振器と前記第2のインダクタの接続点の間に配置されたバイパス圧電共振器と、前記バイパス圧電共振器に並列に配置された可変容量とを備える。
【0014】
本発明の第3の構成の圧電フィルタは、第1の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第1のインダクタと、第2の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第2のインダクタと、前記第1の並列圧電共振器と前記第1のインダクタの接続点および前記第2の並列圧電共振器と前記第2のインダクタの接続点の間に配置されたリアクタンス素子とを備え、前記リアクタンス素子のリアクタンス値が可変である。
【発明の効果】
【0015】
上記構成によれば、通過帯域を可変させた場合においても、所望の減衰帯域に必要な減衰特性を有する圧電フィルタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る圧電共振器を用いた圧電フィルタ8の等価回路図を示す。入力端子1と出力端子2間に、第1の直列圧電共振器3a、第2の直列圧電共振器3b、第3の直列圧電共振器3cが直列に配置される。第1の直列圧電共振器3aと第2の直列圧電共振器3b間には、第1の並列圧電共振器4aの一端が接続され、その他端は、第1の並列インダクタ5aを介してグランドに接地される。第2の直列圧電共振器3bと第3の直列圧電共振器3c間には、第2の並列圧電共振器4bの一端が接続され、その他端は、第2の並列インダクタ5bを介してグランドに接地される。
【0018】
第1の並列圧電共振器4aと第1の並列インダクタ5aの接続点と、第2の並列圧電共振器4bと第2の並列インダクタ5bの接続点間には、バイパス圧電共振器6が接続され、バイパス圧電共振器6に並列に可変容量7が配置される。以上のようにして、圧電共振器を用いた圧電フィルタ8が構成される。
【0019】
図2は、上記構成の圧電フィルタ8の可変容量7を変化させたときの通過特性の変化を示す。フィルタ波形a1は基準となる通過特性、a2は可変容量7を0.1pF増加させたとき、a3は0.2pF増加させたとき、a4は0.3pF増加させたとき、a5は0.4pF増加させたとき、およびa6は0.5pF増加させたときの通過特性を示す。
【0020】
図2から判るように、通過帯域9及び通過帯域9の低域側最近接極と通過帯域9の高域側最近接極を大きく変化させることなく、通過帯域9から離れた高域側の極を大きく変化させることにより通過帯域9の高域側減衰帯域を変化させている。つまり、可変容量7を変化させることにより、通過帯域9内の通過特性を劣化させることなく、通過帯域9の高域側減衰特性を可変させることが可能となっている。
【0021】
本実施形態の圧電共振器を用いた圧電フィルタは、デジタルテレビの受信チューナーで使用されるフィルタなどで用いることが可能となる。すなわち、従来の圧電フィルタの構成では、所望チャンネルに応じて通過帯域を可変させた際、減衰帯域は変化し、他システムの例えば携帯電話の固定周波数帯での減衰量が劣化する。これに対して、本実施形態の圧電フィルタ構成を用いることにより、減衰帯域を所望のとおり独立して調整することができ、チャンネル毎に応じたフィルタ波形を獲得することが可能となる。また様々な無線システムにおいて妨害波や不要信号に応じて、減衰帯域をチューニングすることも可能である。
【0022】
尚、フィルタ回路8の構成は一例であり、これに限られず、例えば第1の直列圧電共振器3a及び第3の直列圧電共振器3cを省いた4つの圧電共振器による構成でも同様の効果が得られる。
【0023】
図3は、図1と同一の回路構成で回路定数を異ならせた圧電フィルタについて、可変容量7の容量値を変化させたときの通過特性の変化を示す。フィルタ波形b1は基準となる通過特性、b2は可変容量7を0.1pF増加させたとき、b3は0.2pF増加させたとき、b4は0.3pF増加させたとき、およびb5は0.4pF増加させたときの圧電フィルタ8の通過特性を示す。
【0024】
図3から判るように、通過帯域10及び通過帯域10の低域側最近接極と通過帯域10の高域側最近接極を大きく変化させることなく、通過帯域10から離れた低域側の極を大きく変化させることにより通過帯域10の低域側減衰帯域を変化させている。つまり、可変容量7を変化させることにより、通過帯域10内の通過特性を劣化させることなく、通過帯域10の低域側減衰特性を可変させることが可能となっている。
【0025】
以上のとおり、減衰帯域の調整は、通過帯域の低域側でも高域側でも同じように可能である。
【0026】
また圧電共振器として、薄膜弾性波共振器(FBAR;Film Bulk Acoustic Resonator)や表面弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)など、いかなる圧電共振器を用いた場合であっても、上記の圧電フィルタの構成を適用して同様の効果が得られる。
【0027】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る圧電共振器を用いた圧電フィルタ12の等価回路図を示す。図1と同様の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0028】
本実施形態の圧電フィルタ12においては、第1の並列圧電共振器4aと第1の並列インダクタ5aの接続点と、第2の並列圧電共振器4bと第2の並列インダクタ5bの接続点間に、可変容量11のみが配置される。尚、同一の構成要素であっても、図1の圧電フィルタ8とは回路定数が異なる。
【0029】
図5は、上記構成の圧電フィルタ12の可変容量11を変化させたときの通過特性の変化を示す。フィルタ波形c1は可変容量11を1pF増加させたとき、c2は2pF増加させたとき、c3は3pF増加させたとき、c4は4pF増加させたとき、およびc5は5pF増加させたときの通過特性を示す。
【0030】
図5から判るように、通過帯域13及び通過帯域13の高域側最近接極を大きく変化させることなく、通過帯域13から離れた低域側の極を大きく変化させることにより通過帯域13の低域側減衰帯域を変化させている。つまり、可変容量11を変化させることにより、通過帯域13内の通過特性を劣化させることなく、通過帯域13の低域側減衰特性を可変とすることが可能となっている。
【0031】
尚、第1の実施の形態と同様、フィルタを構成する回路定数を異ならせることにより、減衰帯域の調整は、通過帯域13の低域側でも高域側でも可能である。
【0032】
(第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態に係る圧電共振器を用いた圧電フィルタ15の等価回路図を示す。図1と同様の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0033】
図6の圧電フィルタ15においては、第1の並列圧電共振器4aと第1の並列インダクタ5aの接続点と、第2の並列圧電共振器4bと第2の並列インダクタ5bの接続点間には、可変インダクタ14が配置されている。尚、同一の構成要素であっても、図1の圧電フィルタ8とは回路定数は異なる。
【0034】
図7は、上記構成の圧電フィルタ15の通過特性を示す。フィルタ波形d1は可変インダクタ14を2nH増加させたときの通過特性、d2は4nH増加させたとき、d3は6nH増加させたとき、d4は8nH増加させたとき、d5は10nH増加させたときの通過特性を示す。
【0035】
図7から判るように、通過帯域16及び通過帯域16の高域側最近接極を大きく変化させることなく、通過帯域16から離れた低域側の極を大きく変化させることにより通過帯域16の低域側減衰帯域を変化させている。つまり、可変インダクタ14を変化させることにより、通過帯域16内の通過特性を劣化させることなく、通過帯域16の高域側減衰特性を可変させることが可能となっている。
【0036】
尚、第1の実施の形態と同様、フィルタを構成する回路定数を異ならせることにより、減衰帯域の調整は、通過帯域16の低域側でも高域側でも可能である。
【0037】
(第4の実施形態)
図8は、本発明の第4の実施形態に係る圧電共振器を用いた圧電フィルタ17の等価回路図を示す。この圧電フィルタ17においては、入力端子1と出力端子2間に、直列圧電共振器3が直列に配置される。入力端子1と直列圧電共振器3間には、第1の並列圧電共振器4aの一端が接続され、その他端は、第1の並列インダクタ5aを介してグランドに接地される。直列圧電共振器3と出力端子2間には、第2の並列圧電共振器4bの一端が接続され、その他端は、第2の並列インダクタ5bを介してグランドに接地される。第1の並列圧電共振器4aと第1の並列インダクタ5aの接続点と、第2の並列圧電共振器4bと第2の並列インダクタ5bの接続点間には、バイパス圧電共振器6が接続され、バイパス圧電共振器6に並列に可変容量7が配置される。
【0038】
図9Aは、図8の構成における圧電共振器として薄膜弾性波共振器を用いた場合の圧電フィルタの上面図である。図9Bは、図9AのA−A線に沿った断面図である。図9A、9Bにおいて、図8と同様の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0039】
21は基板、22は絶緑体層、23a〜23cは第1〜第3の下電極層、24a、24bは圧電体層、25a〜25cは上電極層、26a、26bは周波数調整層、27a、27bは空洞であるキャビティ、28は強誘電体層である。
【0040】
基板21は、シリコンやガラス基板などからなり、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si34)などからなる絶縁体層22が形成される。絶緑体層22上には、第1のキャビティ27aを覆うように、第1の下電極層23a、第1の圧電体層24a、第1の上電極層25a、第1の周波数調整層26aが順に形成され、直列圧電共振器3が構成される。
【0041】
第1の下電極層23aは、モリブデン(Mo)・アルミニウム(A1)・銀(Ag)・タングステン(W)・白金(Pt)などからなる。第1の圧電体層24aは、窒化アルミニウム(AlN)・窒化亜鉛(ZnO)・ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)・ニオブ酸リチウム(LiNbO3)・タンタル酸リチウム(LiTaO3)・ニオブ酸カリウム(KNbO3)などからなる。第1の上電極層25aは、モリブデン(Mo)・アルミニウム(A1)・銀(Ag)・タングステン(W)・白金(Pt)などからなる。第1の周波数調整層26aは、二酸化珪素(SiO2)・窒化珪素(Si34)・窒化アルミニウム(AIN)・窒化亜鉛(znO)などからなる。
【0042】
上記と同様の材料により、第2のキャビティ27bを覆うように、第2の下電極層23b、第2の圧電体層24b、第2の上電極層25b、第2の周波数調整層26bが順に形成され、バイパス圧電共振器6が構成される。
【0043】
また、基板21のキャビティに対応しない箇所の絶緑体層22上に、第3の下電極層23c、バリウムストロンチウムチタネート(BaxSr1-xTiO3)などからなる強誘電体層28、および第3の上電極層25cが形成され、可変容量7が構成される。
【0044】
入力端子1は、第1の並列圧電共振器4aの下電極層および直列圧電共振器3の下電極層23aと接続される。出力端子2は、直列圧電共振器3の上電極層25aおよび第2の並列圧電共振器4bの上電極層と接続される。スパイラル状に形成された第1の並列インダクタ5aは、第1の並列圧電共振器4aの上電極層、バイパス圧電共振器6の上電極層25b、および可変容量7の上電極層25cと接続される。第2の並列インダクタ5bは、第2の並列圧電共振器4bの下電極層、バイパス圧電共振器6の下電極23b、および可変容量7の下電極23cと接続される。並列インダクタ5a及び5bはGNDに接地される。
【0045】
尚、並列インダクタ5a、5bは、上記構成では基板21上にスパイラル状に形成されているが、これに限られず、形状はメアンダ形状や他の形状でもよく、また別のチップや基板上、もしくはボンディングワイヤーや配線電極により形成されてもよい。
【0046】
各圧電共振器はそれぞれ、上電極層と下電極層間に電界をかけることにより、圧電体層が分極し歪んで機械的な共振を発生し、これを電気的に取り出すことにより共振器として動作する。共振器の共振周波数は主に、下電極層23a、23b、圧電体層24a、24b、上電極層25a、25b、および周波数調整層26a、26bにより構成された振動部の、膜厚とそれらの質量負荷効果により決定される。各圧電共振器間において周波数調整層26a、26bの膜厚を異ならせることにより、各圧電共振器の共振周波数は所望の値に調整される。図示しないが、並列圧電共振器4a、4bも同様である。バイパス圧電共振器6の共振周波数が最も低く、並列圧電共振器4a、4bの共振周波数が次に高く、直列圧電共振器3の共振周波数が最も高い、3つの異なった共振周波数の圧電共振器を同一基板上に形成することができる。
【0047】
また可変容量7も同様に、上電極層25cと下電極層23c間に電界をかけ、その印加電圧を変化させることにより強誘電体層28の比誘電率が変化し、容量が変化する。なお本実施形態の膜構成は一例であり、電極が複数の材料で構成されていたり、誘電体層が追加されていてもよく、これに限るものではない。また可変容量7は強誘電体を用いているが、可変容量ダイオードなどを用いることもできる。
【0048】
図10は、図8の構成における圧電共振器として弾性表面波共振器を用いた場合の圧電フィルタの上面図である。図8と同様の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
弾性表面波共振器は、圧電基板上にインターディジタルトランスデューサ電極と反射器電極とを伝搬方向に対して近接配置することにより構成される。圧電基板29上に、並列圧電共振器4a、4b、直列圧電共撮器3、バイバス圧電共振器6を形成し、圧電基板29上の配線電極により接続する。また対向する2つの並列圧電共振器4aと4b間に、バイパス圧電共振器6と並列に電圧可変容量ダイオードからなる可変容量7を形成する。バイパス圧電共振器6の両端には並列インダクタ5a及び5bが形成され、並列インダクタ5a及び5bは接地される。ここで、弾性表面波共振器の共振周波数に関しては、電極指ピッチやメタライゼーションレシオ、あるいは電極膜厚等を調整することにより、所望のフィルタ特性を得るために最適に設定される。
【0050】
以上のように、圧電共振器を薄膜弾性波共振器で構成した場合と表面弾性波共振器で構成した場合の圧電フィルタを示したが、共振・反共振特性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)共振器も同様に、圧電共振器に置き換えてフィルタを構成することができ、同様の効果を得ることができる。
【0051】
尚、図9Bの強誘電体層28を用いた可変容量7においても、また図10の電圧可変容量ダイオードを用いた可変容量7においても、DC(直流)電圧を端子間に印加しなければならない。ところが、図8の構成では両端ともDC的にはGNDに接続され同電位であり、バイアスを印加することができない。したがって、実際の回路では、図11Aに示す圧電フィルタ30の構成のように、バイパス圧電共振器6と第1の並列インダクタ5aとの接続点間に、低周波数帯域には非接続、高周波数帯域には接続となるように、例えば5nF以上の大きな容量31を配置する。容量の接続箇所は、可変容量7のどちらか一方のGND間であればよい。あるいは、図11Bの圧電フィルタ32の構成のように、可変容量7とバイパス圧電共振器6の接続点間に容量33を配置してもよく、あるいは並列インダクタとGND接地までの間でもよい。
【0052】
以上のように構成された本実施形態における圧電フィルタの通過特性を、図12に示す。フィルタ波形e1は可変容量7を0.1pF増加させたとき、e2は0.2pF増加させたとき、e3は0.3pF増加させたとき、e4は0.4pF増加させたとき、e5は0.5pF増加させたとき、およびe6は0.6pF増加させたときの通過特性を示す。
【0053】
図12から判るように、通過帯域34の高域側減衰帯域を変化させている。つまり、可変容量7を変化させることにより、通過帯域34内の通過特性を劣化させることなく、通過帯域34の高域側減衰特性を可変とすることが可能となっている。
【0054】
以上のとおり、フィルタの段数つまり圧電共振器の個数は、図8の4段や、図1の6段など種々に設定することが可能であり、基本的に必要な構成である図8の4段回路構成が含まれていれば、段数に関わらず所望の効果を得ることができる。
【0055】
なお、図8に示した構成の一部を変更して、図13に示すような圧電フィルタ35を構成することもできる。この構成においては、図8におけるバイパス圧電共振器6に代えて、容量値が可変である容量可変バイパス圧電共振器36を用い、可変容量7を削除する。図14Aおよび図14Bは、図9Aおよび図9Bに対応する構成を示す。容量可変バイパス圧電共振器36は、圧電体層37として、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)やチタン酸ビスマス(BIT)など、圧電効果があり、且つDC(直流)電圧により比誘電率が変化する材料を用いることにより、容量値を可変とすることができる。
【0056】
以上の実施形態では、圧電フィルタ単体について説明したが、各実施形態の構成を有する圧電フィルタは、以下のように、共用器、通信機器等に用いることができる。
【0057】
図15は、圧電フィルタを用いた共用器47のブロック図である。送信端子41、受信端子42、アンテナ端子43を有し、送信端子41と受信端子42間に、送信フィルタ44、移相回路45、および受信フィルタ46がこの順に配置される。送信フィルタ44と移相回路45間にアンテナ端子43が接続される。送信フィルタ44および受信フィルタ46の少なくとも一方に、上記実施形態におけるいずれかの圧電フィルタが具備される。
【0058】
図16は、圧電フィルタを用いた通信機器のブロック図である。送信端子51から入力された信号はベースバンド部52を通り、パワーアンプ53で信号が増幅され、共用器54を通り送信フィルタでフィルタリングされて、アンテナ55から電波が送信される。また、アンテナ55により受信された信号は、共用器54を通り受信フィルタでフィルタリングされ、LNA56により増幅され、ベースバンド部52を通り受信端子57に伝達される。共用器54に含まれる送信フィルタおよび受信フィルタの少なくとも一方に、上記実施形態におけるいずれかの圧電フィルタが具備される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の圧電共振器及び圧電フィルタは、小型・低損失特性かつ低コストで実現可能であり、携帯電話や無線LAN、デジタルテレビ受信チューナー等の移動体通信端末における無線回路内のフィルタ等として有用である。また、仕様に応じて無線基地局用のフィルタ等の用途にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る圧電フィルタの等価回路図
【図2】本発明の第1の実施形態に係る圧電フィルタの通過特性を示す図
【図3】本発明の第1の実施形態に係る圧電フィルタの通過特性を示す図
【図4】本発明の第2の実施形態に係る圧電フィルタの等価回路図
【図5】本発明の第2の実施形態に係る圧電フィルタの通過特性を示す図
【図6】本発明の第3の実施形態に係る圧電フィルタの等価回路図
【図7】本発明の第3の実施形態に係る圧電フィルタの通過特性を示す図
【図8】本発明の実施形態4に係る圧電フィルタの等価回路図
【図9A】図8の構成における圧電共振器として薄膜弾性波共振器を用いた場合の圧電フィルタの上面図
【図9B】図9AのA−A線に沿った断面図
【図10】図8の構成における圧電共振器として弾性表面波共振器を用いた場合の圧電フィルタの上面図
【図11A】図8の圧電フィルタの改良例を示す等価回路図
【図11B】図8の圧電フィルタの他の改良例を示す等価回路図
【図12】本発明の第4の実施の形態に係る圧電フィルタの通過特性を示す図
【図13】図8の圧電フィルタの変形例を示す等価回路図
【図14A】図13の構成における圧電共振器として薄膜弾性波共振器を用いた場合の圧電フィルタの上面図
【図14B】図14AのB−B線に沿った断面図
【図15】本発明の実施形態に係る圧電フィルタを用いた共用器のブロック図
【図16】本発明の実施形態に係る圧電フィルタを用いた通信機器のブロック図
【図17】従来の圧電共振器を用いた圧電フィルタの等価回路図
【図18】(a)は従来の圧電フィルタを構成する各圧電共振器の単体特性を示す図、(b)は従来の圧電フィルタの通過特性を示す図
【図19】従来の圧電共振器を用いた圧電フィルタのフィルタ通過特性を示す図
【符号の説明】
【0061】
1 入力端子
2 出力端子
3、3a、3b、3c 直列圧電共振器
4a、4b 並列圧電共振器
5a、5b 並列インダクタ
6 バイパス圧電共振器
7、11 可変容量
8、12、15、17、30、32、35 圧電フィルタ
9、10、13、16、34 通過帯域
14 可変インダクタ
21 基板
22 絶縁体層
23a、23b、23c 下電極層
24a、24b、37 圧電体層
25a、25b、25c 上電極層
26a、26b 周波数調整層
27a、27b キャビティ
28 強誘電体層
29 圧電基板
31、33 容量
36 容量可変圧電フィルタ
41、51 送信端子
42、57 受信端子
43 アンテナ端子
44 送信フィルタ
45 移相回路
46 受信フィルタ
47、54 共用器
52 ベースバンド部
53 パワーアンプ
55 アンテナ
56 LNA
61a、61b 直列圧電共振器
62a、62b、62c、62d 並列可変容量
63a、63b、63c、63d 直列可変容量
64a、64b 直列圧電共振器群
65a 入力端子
65b 出力端子
66 圧電フィルタ
70 並列圧電共振器群の共振点
71 並列圧電共振器群の反共振点
72 直列圧電共振器群の共振点
73 直列圧電共振器群の反共振点
74 通過帯域
75 低域側減衰極
76 低域側減衰帯域
77 高域側減衰極
78 高域側減衰帯域
79、80、81、82 フィルタ通過特性
a1〜a6、b1〜b5、c1〜c5、d1〜d10、e1〜e6 フィルタ波形
s1 並列圧電共振器群の単体特性
s2 直列圧電共振器群の単体特性
t フィルタ通過特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の直列圧電共振器と2つ以上の並列圧電共振器を具備した圧電フィルタにおいて、
第1の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第1のインダクタと、
第2の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第2のインダクタと、
前記第1の並列圧電共振器と前記第1のインダクタの接続点および前記第2の並列圧電共振器と前記第2のインダクタの接続点の間に配置されたバイパス圧電共振器とを備え、
前記バイパス圧電共振器の容量値が可変であることを特徴とする圧電フィルタ。
【請求項2】
1つ以上の直列圧電共振器と2つ以上の並列圧電共振器を具備した圧電フィルタにおいて、
第1の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第1のインダクタと、
第2の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第2のインダクタと、
前記第1の並列圧電共振器と前記第1のインダクタの接続点および前記第2の並列圧電共振器と前記第2のインダクタの接続点の間に配置されたバイパス圧電共振器と、
前記バイパス圧電共振器に並列に配置された可変容量とを備えたことを特徴とする圧電フィルタ。
【請求項3】
1つ以上の直列圧電共振器と2つ以上の並列圧電共振器を具備した圧電フィルタにおいて、
第1の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第1のインダクタと、
第2の前記並列圧電共振器と接地間に配置された第2のインダクタと、
前記第1の並列圧電共振器と前記第1のインダクタの接続点および前記第2の並列圧電共振器と前記第2のインダクタの接続点の間に配置されたリアクタンス素子とを備え、
前記リアクタンス素子のリアクタンス値が可変であることを特徴とする圧電フィルタ。
【請求項4】
送信端子および受信端子と、
前記送信端子と前記受信端子間に接続されたアンテナ端子と、
前記送信端子と前記アンテナ端子間に配置された送信フィルタと、
前記受信端子と前記アンテナ端子間に配置された受信フィルタとを備え、
前記送信フィルタ及び前記受信フィルタの少なくとも一方に請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電フィルタが用いられた共用器。
【請求項5】
アンテナと、
送信装置と、
受信装置と、
前記アンテナと前記送信装置及び前記受信装置との接続部分に配置された請求項4に記載の共用器とを備えた通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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