説明

圧電ポンプおよび振動装置

【課題】圧電体層の反りをなくし、振動によって圧電体層に引っ張り応力が作用しても圧電体層が破壊する危険性を低減する。
【解決手段】圧電ポンプ100は、圧電体素子54と中間板53と振動板51とを備える。圧電体素子54は、平板状である。中間板53は、圧電体素子54の主面に接合され、圧電体素子54に圧縮方向の残留応力を付与する。振動板51は、圧電体素子54の主面に対向するように中間板53に接合されて中間板53から圧縮方向の残留応力が付与され、且つ、開口穴31を有する。ポンプ室41は開口穴31を介して外部に連通する。中間板53は引っ張り方向の残留応力を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電体素子などの圧電部を備える振動装置と、振動装置として構成されていて、ポンプ室の壁面を構成する振動板を圧電部により振動させ、流体を搬送する圧電ポンプと、に関する。
【背景技術】
【0002】
引っ張り応力に対して弱く、破損しやすい圧電体薄膜に対して、圧縮方向の残留応力を付与することで引っ張り応力による破壊を防止する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記圧電体薄膜は、圧電体薄膜よりも線膨張係数が大きい基板に、加熱環境下で成膜される。これにより、圧電体薄膜を冷却すると基板が圧電体薄膜より大きく収縮するため、圧電体薄膜に圧縮方向の残留応力が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−146640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、従来の圧電体薄膜や圧電体素子の断面図である。
【0006】
構造体200は、圧電体層201を基板202に熱接合し、熱接合後に冷却されて構成される。同図(A)は、冷却後の静定状態での構造体200の断面図である。この状態の構造体200は、基板202に引っ張り方向の残留応力が生じるとともに、圧電体層201に圧縮方向の残留応力が生じる。この構造体200では、圧電体層側と基板側とで残留応力が相違するため、構造体200は圧電体層側が伸長し基板側が収縮して、構造体200に微小な反りが生じる。圧電体層側の伸長により、圧電体層201内での残留応力の勾配は大きくなり、圧電体層201の表面近傍には、圧縮方向の残留応力がほとんど生じない。
【0007】
このような従来の圧電体素子や圧電体薄膜を、交番電圧の印加により振動させる振動装置や圧電ポンプでは、圧電体層が振動すると、圧電体層に引っ張り応力または圧縮応力が作用することになる。
【0008】
同図(B)は、振動により圧電層側に凸に屈曲した状態での構造体200の断面図である。この構造体200では、圧電体層201に圧縮方向の残留応力を予め付与していたため、振動により作用する引っ張り応力は低減される。しかしながら、圧電体層201はもとより反っていて、圧電体表面近傍には、圧縮方向の残留応力がほとんど付与されていないため、圧電体表面からクラックが生じ、圧電体が破壊する虞がある。
【0009】
また、ポンプ室の壁面を振動板で構成し、振動板を圧電体素子や圧電体薄膜により振動させてポンプ室内の流体を搬送するようにした圧電ポンプでは、圧電体層の破壊により、流体の搬送ができなくなる虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、圧電体層が反ることをなくし、振動によって圧電体層に引っ張り応力が作用して圧電体層が破壊する危険性を低減した振動装置、および、振動装置であって、流体の搬送ができなくなる危険性を低減した圧電ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の振動装置は、圧電部と第一の接合部と第二の接合部とを備える。圧電部は、平板状である。第一の接合部は、圧電部の主面に接合され、圧電部の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する。第二の接合部は、圧電部の主面に対向するように第一の接合部に接合され第一の接合部から圧縮方向の残留応力が付与される。そして、第一の接合部が引っ張り方向の残留応力を有する。または、この発明の振動装置は、圧電部と第一の接合部と第二の接合部とを備える。圧電部は、平板状である。第一の接合部は、圧電部の主面に接合され、圧電部の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する。第二の接合部は、第一の接合部の主面に対向するように圧電部に接合され圧電部の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する。そして、第一の接合部と第二の接合部とのうち、少なくとも第一の接合部は引っ張り方向の残留応力を有する。なお、圧電部に印加される交番電圧の周波数は、前記振動装置の共振周波数であると好適である。
【0012】
したがって、圧電部には圧縮方向の残留応力が付与される。圧電体と第一の接合部と第二の接合部とからなる構造体は、両主面側で残留応力がバランスよく残留し反りが抑制される。これにより、圧電部の表面近傍にも圧縮方向の残留応力が付与され、仮に圧電部に交番電圧を印加して振動させても、その振動によって圧電部に作用する引っ張り応力を、圧電部の圧縮方向の残留応力により相殺できる。
【0013】
圧電ポンプは、上述の振動装置とポンプ本体とを備える。ポンプ本体は開口穴を介して外部に連通するポンプ室を有する。ここで、ポンプ室の壁面の一部を構成する振動板を、第一の接合部または第二の接合部に備えると、圧電部の破壊により流体の搬送ができなくなる危険性を低減でき好適である。
【0014】
この発明の圧電ポンプは、圧電体素子と中間板と振動板とポンプ本体とを備える。圧電体素子は、平板状である。中間板は、圧電体素子の主面に接合され、圧電体素子の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する。振動板は、圧電体素子の主面に対向するように中間板に接合されて中間板から圧縮方向の残留応力が付与され、且つ、開口穴を有する。ポンプ本体は、開口穴を介して外部に連通するポンプ室を有する。そして、この圧電ポンプは、中間板が引っ張り方向の残留応力を有し、圧電体素子に交番電圧が印加されることで振動板がポンプ室側とポンプ室とは逆側とに交互に屈曲して、流体を流動させる。
【0015】
したがって、加熱環境下で圧電体素子と振動板とを中間板に接着すると、冷却後、圧電体素子と振動板とに圧縮応力が付与され、中間板に引っ張り応力が付与される。このため、圧電体素子と振動板とで残留応力がバランスよく残留し、冷却後の反りが抑制される。これにより、圧電体素子の表面近傍にも圧縮方向の残留応力が付与される。したがって、仮に圧電体素子に交番電圧を印加して振動させても、その振動によって圧電体素子に作用する引っ張り応力を、圧電体素子の圧縮方向の残留応力により相殺できる。
【0016】
なお、この圧電ポンプは、中間板から圧電体素子に付与される残留応力の大きさは、交番電圧の印加に伴って振動板がポンプ室とは逆側に屈曲する際に作用する応力の大きさよりも、圧電体素子における主面に垂直な厚み方向の全域に亘って圧縮方向に大きい、と好適である。
【0017】
中間板は、その線膨張係数が、振動板の線膨張係数および圧電体素子の線膨張係数よりも大きいとき、特に圧電体素子の表面近傍にも圧縮方向の残留応力をバランスよく残留させることができ、圧電体素子表面におけるクラックを防ぐことができる。
【0018】
ポンプ本体は、複数の構成部材の線膨張係数が互いに等しいと、温度変化によるポンプ本体の構成部材の変形を抑制して、温度変化による変形の小さな圧電ポンプを構成でき好適である。
【0019】
圧電体素子と中間板と振動板とからなる構造体は、全体としての線膨張係数がポンプ本体の線膨張係数よりも小さいと、振動板に圧縮方向の残留応力が付与される。この場合、温度変化により振動板が変形した場合であっても、振動板に引っ張り応力が加わらないため、温度変化による変形の小さな圧電ポンプを構成することができる。また、振動がポンプ本体に漏れにくくなりポンプ効率が向上する。
【発明の効果】
【0020】
この発明では、残留応力をバランスよく残留させることで構造体の反りを抑制し、圧電体に圧縮方向の大きな残留応力を確実に付与する。したがって、振動によって圧電体層に引っ張り応力が作用しても、圧電体層が破壊する危険性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来構成を説明する図である。
【図2】第1の実施形態の圧電ポンプの断面図である。
【図3】同圧電ポンプの天板の平面図である。
【図4】同圧電ポンプの流路板の平面図である。
【図5】同圧電ポンプのポンプ室天板の平面図である。
【図6】同圧電ポンプのポンプ室形成板の平面図である。
【図7】同圧電ポンプのダイヤフラム構造体の図である。
【図8】同圧電ポンプの底板の平面図である。
【図9】同圧電ポンプの動作を説明する図である。
【図10】同ダイヤフラム構造体の断面図である。
【図11】同圧電ポンプのダイヤフラム構造体の他の構成例を説明する図である。
【図12】ダイヤフラム構造体の構成例を説明する図である。
【符号の説明】
【0022】
10…天板
11…開口穴
20…流路板
21…流路中央室
22…流体通路
30…ポンプ室天板
31…開口穴
32…流入穴
40…ポンプ室形成板
41…ポンプ室
42…流入穴
50,70,90,110…ダイヤフラム構造体
51,71,91,111…振動板
52…流入穴
53,73…中間板
54,74,94,114…圧電体素子
60…底板
61…圧電体素子収容室
62…流入穴
95,115…接合部
100…圧電ポンプ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の振動装置を圧電ポンプに適用した第1の実施形態を説明する。
【0024】
図2(A)は、同実施形態の圧電ポンプ100の断面図である。また、図2(B)は、圧電ポンプ100による流体の流れを説明する図である。ここでは、電子機器の空冷用途の圧電ポンプの構成例を示している。
【0025】
圧電ポンプ100は、天板10と流路板20とポンプ室天板30とポンプ室形成板40と振動板51と中間板53と圧電体素子54と底板60とを備える。振動板51と中間板53と圧電体素子54とは、熱硬化性接着剤を塗布して加熱されることで、予め熱接合され、後述するダイヤフラム構造体50が構成されている。ダイヤフラム構造体50は、請求項1の振動装置に相当する。なお、圧電ポンプ100のダイヤフラム構造体50を除く部材が、ポンプ本体を構成する。
【0026】
天板10は、開口穴11を備え、流路板20に接合されている。この天板10の平面図を図3に示す。天板10は外形が四角形の平板であり、冷間圧延鋼板(SPCC)のような剛性のある材料で構成されている。天板10の中心部には、開口穴11が形成されている。開口穴11は、圧電ポンプ100の外部と流路板20の流路中央室21とに通じている。
【0027】
流路板20は、流路中央室21と流体通路22を備え、天板10とポンプ室天板30とに接合されている。この流路板20の平面図を図4に示す。流路板20は天板10と同一外形を有する平板であり、天板10と同一材料で構成されている。流路板20の中心部には、流路中央室21が形成され、流路中央室21から平板の四隅にかけて4本の流体通路22が形成されている。流路中央室21は、開口穴11よりも大径であり、開口穴11とポンプ室天板30の開口穴31とに通じている。また、流体通路22は、流路中央室21とポンプ室天板30の流入穴32とに通じている。流路中央室21に複数の流体通路22を通じさせているため、流体通路22での抵抗が低減され、気体は流路中央室21へ引き寄せられる。したがって、気体流量の増加を図ることができる。
【0028】
ポンプ室天板30は、開口穴31と流入穴32を備え、流路板20とポンプ室形成板40とに接合されている。このポンプ室天板30の平面図を図5に示す。ポンプ室天板30は流路板20と同一外形を有する平板であり、流路板20と同一材料で構成されている。ポンプ室天板30の中心部には、開口穴31が形成され、平板の四隅には4つの流入穴32が形成されている。開口穴31は開口穴11とほぼ同一径であり、流路中央室21とポンプ室形成板40のポンプ室41とに通じている。また、流入穴32は、流体通路22とポンプ室形成板40の流入穴42とに通じている。なお、開口穴31は開口穴11と径が異なっていても良いが、流路中央室21よりも小さい径が好ましい。また、ポンプ室天板30は、流路板20と異なる材料で構成されていてもよく、例えば、ばね弾性を持つ材料で構成されると好適である。
【0029】
ポンプ室形成板40はポンプ室41と流入穴42を備え、ポンプ室天板30と振動板51とに接合されている。このポンプ室形成板40の平面図を図6に示す。ポンプ室形成板40はポンプ室天板30と同一外形を有する平板であり、ポンプ室天板30と同一材料で構成されている。ポンプ室形成板40の中心部には、円形のポンプ室41が形成され、平板の四隅には4つの流入穴42が形成されている。ポンプ室41は流路中央室21よりも大径であり、開口穴31に連通している。また、流入穴42は、流入穴32と振動板51の流入穴52とに通じている。
【0030】
振動板51は、中間板53と圧電体素子54とが予め接合されている。具体的には、接着剤を塗布し加熱硬化することで接着されている。これらによってダイヤフラム構造体50が構成されている。ダイヤフラム構造体50の断面図を図7(A)に、ダイヤフラム構造体50の平面図を図7(B)に示す。振動板51は、ポンプ室形成板40と同一外形を有する平板であり、平板の四隅に4つの流入穴52を備えている。振動板51は、ポンプ室形成板40と底板60とに接合されている。流入穴52は、流入穴42と底板60の流入穴62とに通じている。中間板53は円形の外形を有する平板であり、振動板51の中央部に熱接合されている。圧電体素子54は、中間板53と同一外形を有する平板であり、中間板53の中央部に熱接合されている。
【0031】
底板60は圧電体素子収容室61と流入穴62を備え、ダイヤフラム構造体50の振動板51に接合されている。この底板60の平面図を図8に示す。底板60は振動板51と同一外形を有する平板である。底板60の中心部には、円形の圧電体素子収容室61が形成され、平板の四隅には4つの流入穴62が形成されている。圧電体素子収容室61は、ダイヤフラム構造体50の中間板53および圧電体素子54を収容する。また、流入穴62は、流入穴52に連通している。底板60は、中間板53の厚みと圧電体素子54の厚みと圧電体素子54の変形量との合計より厚肉に構成されていて、圧電ポンプ100の実装時に、圧電体素子54が実装基板などに接触することを防止している。
【0032】
ここでダイヤフラム構造体50は、振動板51の一面側にのみ圧電体素子54を設けてユニモルフ型の構造としている。圧電体素子54に交番電圧(正弦波または矩形波)を印加することにより、圧電体素子54は拡がり振動モードで振動し、ダイヤフラム構造体50全体が板厚方向に屈曲する。またダイヤフラム構造体50の屈曲に伴ってポンプ室天板30が共振する。その結果、振動板51とポンプ室天板30との距離が変化し、気体が開口穴31からポンプ室41内に流入または流出する。
【0033】
圧電体素子54に印加する交番電圧は、ダイヤフラム構造体50の一次共振周波数または三次共振周波数とする。これにより、一次または三次共振周波数以外の周波数の交番電圧を印加する場合に比べて変位部材の変位体積を格段に大きくでき、流量を大幅に増加させることができる。
【0034】
図9は、圧電ポンプ100の動作を説明する主要部模式断面図である。図中の矢印は気体の流れを示す。
【0035】
同図(A)は、圧電体素子への交番電圧の非印加時の主要部を示している。このとき、振動板51はほぼ平坦である。
【0036】
同図(B)は、交番電圧の1/4周期経過時の主要部を示している。このとき、振動板51は下に凸に屈曲するのでポンプ室41の振動板51と開口穴31との距離が大きくなり、開口穴31を介してポンプ室41内に流体通路22から気体が吸い込まれる。
【0037】
同図(C)は、次の1/4周期経過時の主要部を示している。このとき、振動板51は平坦に戻り、ポンプ室41の振動板51と開口穴31との距離が小さくなる。このため、ポンプ室41内の気体は開口穴31,11を通って押し出される。この開口穴11から流出する気流には、流体通路22の気体が巻き込まれ、また、開口穴11の外側でも、開口穴11周囲の気体が巻き込まれる。
【0038】
同図(D)は、次の1/4周期経過時の主要部を示している。このとき、振動板51は上に凸に屈曲し、ポンプ室41の振動板51と開口穴31との距離がさらに小さくなる。このため、ポンプ室41内の気体は、開口穴31,11を通って押し出される。この開口穴11から流出する気流には、流体通路22の気体が巻き込まれ、また、開口穴11の外側でも、開口穴11周囲の気体が巻き込まれる。
【0039】
同図(E)は、次の1/4周期経過時の主要部を示している。このとき、振動板51は平坦に戻り、ポンプ室41の振動板51と開口穴31との距離が大きくなる。容積が拡大するため、流体通路22を流れる気体の一部は、開口穴31を通じてポンプ室41内に吸い込まれる。しかしながら、流体通路22を流れる気体のほとんどは、慣性により開口穴11から流出し続ける。
【0040】
以上の変形を振動板51は周期的に繰り返す。ポンプ室41の振動板51と開口穴31との距離の増大により、流路中央室21、流体通路22、流入穴32、流入穴42、流入穴52、および、流入穴62を介して、ポンプ室41の内部に気体が流入し、ポンプ室41の振動板51と開口穴31との距離の減少により、ポンプ室41、開口穴31、流路中央室21、および開口穴11を介して、圧電ポンプの外部に気体が流出する。圧電体素子を高い周波数で振動させることにより、流体通路22を流れる気体の慣性が終息することなく、開口穴11から気体を連続して流出させられる。
【0041】
以下、ダイヤフラム構造体50の構成例を図10に基づいて説明する。
【0042】
圧電体素子54は、厚さ約0.2mmで、常温(約20℃〜30℃)での線膨張係数が約1×10−6/Kであり、交番電圧が印加されて振動する。この構成での交番電圧は、約23kHzの周波数で、±5V(10Vpp)〜±10V(20Vpp)程度の振幅が望ましい。
【0043】
振動板51はFe−42Ni合金からなり、厚さが0.08mm、常温での線膨張係数が7×10−6/Kである。
【0044】
中間板53はSPCCからなり、厚さが0.15mm、常温での線膨張係数が、圧電体素子54の線膨張係数および振動板51の線膨張係数よりも大きい11×10−6/Kである。
【0045】
このダイヤフラム構造体50は、圧電体素子54と中間板53と振動板51とを、熱硬化性接着剤で接着され加熱硬化されて接合される。したがって、圧電体素子54と中間板53と振動板51のそれぞれが熱膨張した状態で接合される。
【0046】
中間板53の線膨張係数が圧電体素子54の熱膨張係数および振動板51の熱膨張係数よりも大きいため、中間板53は、冷却後に圧電体素子54や振動板51よりも収縮しようとする。したがって、冷却後の圧電体素子54および振動板51には、圧縮方向の残留応力が付与され、中間板53には引っ張り方向の残留応力が付与される。
【0047】
図10(A)は、静定状態でのダイヤフラム構造体50の部分断面図である。
【0048】
この状態のダイヤフラム構造体50は、中間板53に引っ張り方向の残留応力が生じるとともに、圧電体素子54と振動板51とに圧縮方向の残留応力が生じる。中間板53の両面、即ち圧電体素子54と振動板51とでは、残留応力の方向がともに等しく圧縮であり、残留応力がバランスよく残留する。このため、ダイヤフラム構造体50の反りは抑制される。ダイヤフラム構造体50の反りが抑制されるため、圧電体素子54の表面近傍にも圧縮方向の大きな残留応力が付与される。なお、圧電体素子54と振動板51との線膨張係数が近ければ、ダイヤフラム構造体50の反りを効果的に抑制でき好適である。
【0049】
同図(B)は、交番電圧の印加により圧電体素子側に凸に屈曲した状態でのダイヤフラム構造体50の部分断面図である。
【0050】
ダイヤフラム構造体50の圧電体素子54に交番電圧を印加すると、ダイヤフラム構造体50が振動する。これにより、圧電体素子54には引っ張り応力または圧縮応力が作用する。このダイヤフラム構造体50では、交番電圧の印加前に反りがほとんど無いため、圧電体素子54に圧縮方向の大きな残留応力が付与されている。したがって、屈曲により圧電体素子54に作用する引っ張り応力は、この圧縮方向の残留応力により相殺され、圧電体が破壊する危険性は低減される。
【0051】
なお、加熱温度については、熱硬化性樹脂のガラス転移温度にもよるが、80℃〜150℃程度が好ましい。加熱温度が高すぎると、熱衝撃に耐えられずに、接合部が剥離してしまうことがあるためである。
【0052】
振動板51は常温での線膨張係数が1×10−6/K〜7×10−6/Kの範囲内であれば好適であり、Fe−42Ni合金の他、Fe−36Ni合金などでも構成できる。中間板53は常温での線膨張係数が11×10−6/K〜17×10−6/Kの範囲内であれば好適であり、SPCCの他、SUS430やSUS304などでも構成できる。圧電体素子54は常温での旋膨張係数が1×10−6/K〜7×10−6/Kの範囲内であれば好適であり、PZTの他、ptなどでも構成できる。中間板53の線膨張係数が圧電体素子54や振動板51よりも大きすぎても、熱衝撃などに耐えられずに、接合部が剥離してしまうことがあるためである。
【0053】
振動板51は厚みが圧電体素子54に対して0.4倍以上0.6倍以下であれば好適である。仮に振動板51の厚みが薄過ぎる場合には圧電体素子54の残留応力の勾配が大きくなり、圧電体素子54の表面に十分な圧縮方向の残留応力を付与できず、厚すぎる場合には十分な振動の振幅が得られないためである。
【0054】
中間板53は、厚みが圧電体素子に対して0.5倍以上で1.0倍以下であれば好適である。仮に中間板53の厚みが薄すぎる場合には圧電体素子54に対して十分な圧縮方向の残留応力を付与できず、また、ダイヤフラム構造体50の振動の共振周波数が低下するためであり、仮に中間板53の厚みが厚すぎる場合には、ダイヤフラム構造体50の屈曲振動の共振が高くなりすぎ、十分な振幅が得られないためである。
【0055】
ダイヤフラム構造体50を除く他の部材を同一の材料で構成すると、圧電ポンプ100のダイヤフラム構造体50を除く他の部材の温度変化による変形を抑制でき、圧電ポンプ100に温度特性を小さくすることができるため好適である。
【0056】
また、ダイヤフラム構造体50の全体としての線膨張係数は、ダイヤフラム構造体50を除く他の部材の線膨張係数よりも小さなものにする。そのため、圧電ポンプ100のダイヤフラム構造体50を除く他の部材に中間板53と同一材料を採用して、線膨張係数を中間板53と同程度にしておけば、接着して熱を加えた時に、他部材のほうがダイヤフラム構造体50よりも膨張して、ダイヤフラム構造体50の振動板51に圧縮方向の残留応力を付与することができる。このようにすれば、温度変化により振動板が変形した場合でも、振動板に引っ張り応力が加わらないため、温度特性の小さな圧電ポンプを構成することができる。
【0057】
次に、同圧電ポンプに採用するダイヤフラム構造体の他の実施形態を説明する。図11はそのダイヤフラム構造体の断面図である。
【0058】
同図(A)に示すダイヤフラム構造体70は、振動板71と上圧電体素子74Aと中間板73と下圧電体素子74Bとを備える。上圧電体素子74Aは請求項1の第二の接合部に相当し、中間板73は請求項1の第一の接合部に相当し、下圧電体素子74Bは請求項1の圧電部に相当する。上圧電体素子74Aと中間板73と下圧電体素子74Bとは同一形状であり、上圧電体素子74Aと下圧電体素子74Bとは同一素材でもある。ここで、中間板73を線膨張係数の高い材料で構成し、上圧電体素子74Aと下圧電体素子74Bとを線膨張係数の低い材料で構成する。なお、振動板71については、上圧電体素子74Aと同程度の線膨張係数の材料で構成すると好適である。
【0059】
ここで、振動板71と上圧電体素子74Aと中間板73と下圧電体素子74Bとは、熱硬化性接着剤で接着し加熱硬化により熱接合する。
【0060】
このような構成であっても、ダイヤフラム構造体70は、中間板73に引っ張り方向の残留応力が生じるとともに、上圧電体素子74Aと下圧電体素子74Bとに圧縮方向の残留応力が生じる。中間板73の両面、即ち上圧電体素子74Aと下圧電体素子74Bとでは、残留応力の方向がともに等しく圧縮であり、残留応力がバランスよく残留する。このため、ダイヤフラム構造体70の反りは抑制され、圧電体素子74A,74Bの表面近傍に圧縮方向の大きな残留応力が付与される。
【0061】
同図(B)に示すダイヤフラム構造体90は、振動板91と圧電体素子94と接合部95とを備える。圧電体素子94は請求項1の圧電部に相当し、振動板91は請求項1の第一の接合部に相当し、接合部95は請求項1の第二の接合部に相当する。圧電体素子94と接合部95とは同一形状である。ここでは、接合部95はインバーなどの素材である。ここで、振動板91を線膨張係数の高い材料で構成し、圧電体素子94と接合部95とを線膨張係数の低い材料で構成する。
【0062】
ここで、振動板91と圧電体素子94と接合部95とは、熱硬化性接着剤で接着し加熱硬化により熱接合する。
【0063】
このような構成であっても、ダイヤフラム構造体90は、振動板91に引っ張り方向の残留応力が生じるとともに、圧電体素子94と接合部95とに圧縮方向の残留応力が生じる。振動板91の両面、即ち圧電体素子94と接合部95とでは、残留応力の方向がともに等しく圧縮であり、残留応力がバランスよく残留する。このため、ダイヤフラム構造体90の反りは抑制され、圧電体素子94の表面近傍と接合部95の表面近傍とに圧縮方向の大きな残留応力が付与される。
【0064】
同図(C)に示すダイヤフラム構造体110は、振動板111と圧電体素子114と接合部115とを備える。圧電体素子114は請求項2の圧電部に相当し、振動板111は請求項2の第一の接合部に相当し、接合部115は請求項2の第二の接合部に相当する。圧電体素子114と接合部115とは同一形状である。ここでは、接合部115は振動板111と同一素材である。ここで、振動板111と接合部115とを線膨張係数の高い材料で構成し、圧電体素子114を線膨張係数の低い材料で構成する。
【0065】
ここで、振動板111と圧電体素子114と接合部115とは、熱硬化性接着剤で接着し加熱硬化により熱接合する。
【0066】
振動板111の熱膨張係数および接合部115の熱膨張係数が、圧電体素子114の線膨張係数よりも大きいため、冷却後に振動板111および接合部115は、圧電体素子114よりも収縮しようとする。したがって、冷却後の圧電体素子114には、圧縮方向の残留応力が付与され、振動板111および接合部115には引っ張り方向の残留応力が付与される。なお、圧電体素子114は、圧電素子単板2枚を貼り合わせたバイモルフである。
【0067】
図12(A)は、静定状態でのダイヤフラム構造体110の部分断面図である。
【0068】
この状態のダイヤフラム構造体110は、振動板111および接合部115に引っ張り方向の残留応力が生じるとともに、圧電体素子114に圧縮方向の残留応力が生じる。圧電体素子114の両面、即ち振動板111と接合部115とでは、残留応力の方向がともに等しく引っ張りであり、残留応力がバランスよく残留する。このため、ダイヤフラム構造体110の反りは抑制される。ダイヤフラム構造体110の反りが抑制されるため、圧電体素子114の内部には圧縮方向の大きな残留応力が付与される。なお、接合部115と振動板111との線膨張係数が近ければ、ダイヤフラム構造体110の反りを効果的に抑制でき好適である。
【0069】
同図(B)は、交番電圧の印加により屈曲した状態でのダイヤフラム構造体110の部分断面図である。
【0070】
ダイヤフラム構造体110の圧電体素子114に交番電圧を印加すると、ダイヤフラム構造体110が振動する。これにより、圧電体素子114には引っ張り応力または圧縮応力が作用する。このダイヤフラム構造体110では、交番電圧の印加前に反りがほとんど無いため、圧電体素子114には、厚み方向に勾配の小さな圧縮応力が残留している。したがって、屈曲により圧電体素子114に作用する引っ張り応力は、この圧縮方向の残留応力により相殺され、圧電体が破壊する危険性は低減される。
【0071】
ここでは、電子機器の空冷用の圧電ポンプを説明したが、本発明は、燃料電池への酸素など気体の搬送用ポンプなどとして利用することもでき、また、液体を搬送する冷却水輸送用ポンプや燃料輸送用ポンプとしても利用することもできる。圧電ポンプの構成についても上述の構成に限らず、ポンプ室の壁面をダイヤフラム構造体の振動板で構成するものならば、どのような構成にも採用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の圧電部と、
前記圧電部の主面に接合され、前記圧電部の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する第一の接合部と、
前記圧電部の主面に対向するように前記第一の接合部に接合され、前記第一の接合部から圧縮方向の残留応力が付与される第二の接合部と、を備え、
前記第一の接合部が引っ張り方向の残留応力を有する振動装置。
【請求項2】
平板状の圧電部と、
前記圧電部の主面に接合され、前記圧電部の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する第一の接合部と、
前記第一の接合部の主面に対向するように前記圧電部に接合され、前記圧電部の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する第二の接合部と、を備え、
前記第一の接合部と前記第二の接合部とのうち、少なくとも前記第一の接合部は引っ張り方向の残留応力を有する振動装置。
【請求項3】
前記圧電部に印加される交番電圧の周波数は、前記振動装置の共振周波数である、請求項1または2に記載の振動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうち、いずれか1項に記載の振動装置と、
開口穴を介して外部に連通するポンプ室を有するポンプ本体と、を備える圧電ポンプであって、
前記第二の接合部は、前記ポンプ室の壁面の一部を構成する振動板を備える、圧電ポンプ。
【請求項5】
請求項1〜3のうち、いずれか1項に記載の振動装置と、
開口穴を介して外部に連通するポンプ室を有するポンプ本体と、を備える圧電ポンプであって、
前記第一の接合部は、前記ポンプ室の壁面の一部を構成する振動板を備える、圧電ポンプ。
【請求項6】
平板状の圧電体素子と、
前記圧電体素子の主面に接合され、前記圧電体素子の接合面に圧縮方向の残留応力を付与する中間板と、
前記圧電体素子の主面に対向するように前記中間板に接合されて前記中間板から圧縮方向の残留応力が付与され、且つ、開口穴を有する振動板と、
前記開口穴を介して外部に連通するポンプ室を有するポンプ本体と、を備え、
前記中間板が引っ張り方向の残留応力を有し、前記圧電体素子に交番電圧が印加されることで前記振動板が前記ポンプ室側と前記ポンプ室とは逆側とに交互に屈曲して、流体を流動させる圧電ポンプ。
【請求項7】
前記中間板は、その線膨張係数が、前記振動板の線膨張係数および前記圧電体素子の線膨張係数よりも大きい、請求項6に記載の圧電ポンプ。
【請求項8】
前記ポンプ本体は、複数の構成部材を積層して構成され、前記複数の構成部材は線膨張係数が互いに等しい、請求項6または7に記載の圧電ポンプ。
【請求項9】
前記圧電体素子と中間板と振動板とからなる構造体は、全体としての線膨張係数がポンプ本体の線膨張係数よりも小さい、請求項6〜8のうち、いずれか1項に記載の圧電ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−235687(P2012−235687A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142612(P2012−142612)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【分割の表示】特願2009−519732(P2009−519732)の分割
【原出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】