説明

圧電体から成る基板の真空処理方法

【要 約】
【課題】圧電体から成る基板の真空処理方法を提供する。
【解決手段】圧電体から成る処理基板15を本プロセスであるプラズマ処理時に真空処理装置1内で吸着装置30が吸着する前に、前プロセスとして処理プラズマの下で処理基板15の表面の帯電電圧の極性と大きさを測定する。本プロセスの時に、前プロセスで測定した処理基板15表面の電圧が1kV以上の場合、電極111、112にゼロVを印加し、1kV未満の場合、電極111、112に、前プロセスで測定した処理基板15表面の帯電電圧の極性と逆の極性の電圧を印加して処理基板15を吸着する。処理基板15が吸着装置30の表面よりも大きい場合、裏面全体に金属薄膜を成膜し、熱伝導により降温させる。また、処理基板15外側の上方に保護リング18を配置して、プラズマから処理基板15への熱の流入を防ぎ、処理基板15の割れを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を吸着しながら真空処理する技術に係り、特に、圧電体から成る基板をプラズマ下で真空処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図2の符号100は、基板をスパッタリングによって成膜処理する真空装置であり、真空槽110を有している。
【0003】
真空槽110の内部には吸着装置130が配置されている。吸着装置130は、双極式の吸着装置であり、正電極111と負電極112を有しており、正電極111と負電極112の上には、絶縁部113が配置されている。ここでは、絶縁部113の内部に正負電極111、112が配置されている。
【0004】
真空槽110の外部には、正電圧電源121、負電圧電源122が配置されており、正電極111と負電極112は、正電圧電源121と負電圧電源122にそれぞれ接続され、正電極111には正電圧、負電極112には負電圧を印加できるように構成されている。
【0005】
真空槽110には真空排気系123とガス導入系125が接続されており、真空排気系123によって真空槽110の内部を真空排気し、基板114を搬入して絶縁部113の上に乗せ、正負電極111、112に正負電圧を印加すると、基板114が金属や半導体等の導電性物質の場合、正電極111、負電極112と基板114の間にコンデンサが形成され、静電気力によって基板114が正電極111と負電極112に引き付けられる。
【0006】
基板114がガラス基板等の誘電体であり、正負電極111、112と基板114の間にコンデンサが形成されない場合は、基板114の分極率をαとすると、基板114を不均一な電場E中に置いたときに、下記(1)式に従って、基板114にグラディエント力Fの吸着力が印加される。
【0007】
F = 1/2・α・grad(E2) ……(1)
真空槽110の天井側にはターゲット126が配置され、真空槽110の外部にはスパッタ電源127が配置されており、基板114を正負電極111、112に吸着し、次いで、ガス導入系125からスパッタリングガスを導入し、スパッタ電源127によってターゲット126に電圧を印加し、ターゲット126の表面近傍にプラズマを発生させ、ターゲット126をスパッタリングすると、基板114の表面に薄膜が形成される。
【0008】
この様に、基板114が導電体又は誘電体の場合は絶縁部113に密着され、プラズマから流入する熱を吸着装置130側に流出させたり、絶縁部113内に配置されたヒータによって基板114を加熱することができる。
【0009】
しかし、基板114が圧電体である場合、基板114に印加される吸着力による自発分極やプラズマからのチャージアップによる自発分極が、正負電極111、112が形成する電界を乱し、基板114が吸着されずに温度上昇したり、基板114に加わる吸着力が不均一になって基板割れが生じるという問題がある。
【0010】
下記は誘電体を吸着する技術が記載された文献である。
【特許文献1】特開2001−035907号公報
【特許文献2】特開2001−044262号公報
【特許文献3】特開2003−133400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
真空処理工程中で、処理プラズマからのチャージアップにより基板114がマイナス極性に帯電し、絶縁部113表面の負電極112上に位置する部分の吸着力が弱くなる。
【0012】
基板114が圧電体である場合、プラズマからの熱流入により基板114の温度が上昇すると自発分極して、分極の度合いが変わり、また、吸着力により電圧が生じて自発分極して、分極の度合いが変わり、吸着力が弱くなる。吸着力が弱くなるのは、基板114内で電界変化の乱れが生じ、正常に吸着できる電界が基板114に及ばなくなるから、と考えられる。
【0013】
また、絶縁部113と密着する基板114の表面積が基板114と密着する絶縁部113の表面積より大きい場合、プラズマによる真空処理中に、処理プラズマから基板114への熱が流入すると基板114の中心部分は、絶縁部113へ熱伝導により降温するが、外周部分は熱が逃げず昇温し、中心部分と外周部分に温度差が生じる。その結果、基板114の中心部分と外周部分で熱応力の差が生じ、基板114の割れが発生する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
真空処理装置100を用い、下記条件でスパッタリングを行った。
基板114:直径4インチの圧電体(LiTaO3)から成る基板
正電極111への印加電圧:+2000V
負電極112への印加電極:−2000V
ターゲット126:Ni
スパッタ電力:1kW
基板114上に形成した薄膜:膜厚1μmのNi薄膜
【0015】
真空処理装置100は、温度測定装置119と電圧測定装置128とを有しており、基板114の複数箇所の温度と帯電電圧の極性及び大きさを測定できるように構成されている。
上記条件でNi薄膜をスパッタ成膜処理中に、温度測定装置119により基板114の表面温度を測定したところ、面内温度分布が27℃以上となり、基板114の自発分極効果により、基板114の冷却効果が悪くなった。
また、正電極111の真上位置の部分の温度は43℃以下であり、負電極112の真上位置の部分の温度は87℃まで上昇した。
【0016】
このように、正電極111側の温度が負電極112側の温度よりも低いのは、正電極111と基板114との間の吸着力が、負電極112と基板114との間の吸着力よりも強く、プラズマから基板114に流入した熱が絶縁部113に流出する熱量が、負電極側よりも正電極111側の方が多いからであると考えられる。
【0017】
正電極111側の方の吸着力が強い原因は、プラズマからのチャージアップにより、基板114が負電位に帯電しているからであると考えられる。
成膜工程終了後に、この基板114の帯電電圧を電圧測定装置128で測定すると−500Vであり、負電位に帯電していた。
【0018】
従って、基板114と正電極111の電位差は2500V、基板114と負電極112の電位差は1500Vとなり、正電極111と基板114との間の電位差が大きくなり、その結果、吸着力が大きくなっている。
正負電極があった場合は、基板114面内の温度が不均一になる。
【0019】
本発明は、上記のような実験結果から想到された発明であり、一乃至二個以上の電極と、前記電極上に配置された絶縁部とを有し、真空槽内に配置された吸着装置の前記絶縁部上に処理基板を配置し、前記電極と前記処理基板との間に電圧を印加し、真空雰囲気中で前記処理基板を前記絶縁部表面に吸着しながら前記真空槽内にプラズマを発生させ、複数の前記処理基板を真空処理する真空処理方法であって、前記処理基板が圧電体から成る場合には、前記真空処理をおこなう前に、前記絶縁部上に前記処理基板と同材料の測定基板を乗せ、真空雰囲気中でプラズマを発生させた後、前記測定基板の帯電電圧の極性と大きさを測定し、前記帯電電圧が1kV以上の場合は、前記処理基板を前記真空処理する際に、前記電極は接地電位に接続し、前記帯電電圧が1kV未満の場合は、前記電極には、前記帯電電圧とは逆極性の電圧を印加する真空処理方法である。
また、本発明は、前記絶縁部の表面よりも大きく、周囲が前記絶縁部表面からはみ出している前記処理基板を前記真空処理する場合に、前記真空処理を行う前に、前記処理基板の裏面に金属薄膜を形成しておく真空処理方法である。
また、本発明は、前記絶縁部の表面よりも大きく、周囲が前記絶縁部表面からはみ出している前記処理基板を前記真空処理する場合に、前記絶縁部からはみ出た部分上に保護リングを配置し、はみ出た部分と前記プラズマの間に、前記保護リングを位置させる真空処理方法である。
【発明の効果】
【0020】
圧電体から成る基板を均一に吸着できる。また、基板の温度制御が可能となり、基板を割らずに真空処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1の符号1は、本発明の真空処理方法を行うことができる真空処理装置の一例である。この真空処理装置1は、真空槽10を有している。真空槽10内部の底面上には、吸着装置30が配置されている。
【0022】
真空槽10の内部に天井側には、ターゲット26が配置されている。真空槽10の外部には、スパッタ電源27が配置されており、ターゲット26はスパッタ電源27に接続されている。
真空槽10には、真空排気系23とガス導入系25が接続されている。
【0023】
真空排気系23によって真空槽10の内部を真空排気した後、真空槽10内に処理基板15を搬入し、吸着装置30上に圧電体から成る処理基板15を配置し、ガス導入系25によってスパッタガスを真空槽10の内部に導入し、スパッタ電源27を起動してターゲットに電圧を印加し、ターゲット26の表面近傍にプラズマを形成させると、ターゲット26がスパッタリングされ、処理基板15の表面に薄膜を形成する真空処理を行うことができる。
【0024】
吸着装置30は、一乃至二個以上(ここでは二個)の第一、第二の電極111、112と、第一、第二の電極111、112の上方に配置された絶縁部13を有している。ここでは絶縁部13は板状であり、第一、第二の電極111、112が絶縁部13の内部に配置され、処理基板15を吸着装置30上に配置すると、処理基板15は絶縁部13と接触するように構成されている。
【0025】
真空槽10の外部には吸着電源21が配置されており、第一、第二の電極111、112は吸着電源21に接続され、第一、第二の電極111、112には、互いに同電位の電圧又は異なった電圧を印加できるように構成されている。
【0026】
<前プロセス>
上記真空処理を行う際、処理基板15を吸着装置30に吸着していれば処理基板15の熱処理を精密に行うことが可能となる。
【0027】
処理基板15が圧電体の場合は、処理基板15の材質、プラズマからのチャージアップ、又は処理基板15の自発分極によって帯電電圧の極性や大きさが変わり、吸着状態が変化し、第一、第二の電極111、112に誘電体を吸着する場合と同じ電圧を印加していると温度制御が困難になる。
【0028】
従って、複数の処理基板15を真空処理する際には、先ず、第一、第二の電極111、112に印加する電圧の極性、大きさを決定するために、処理基板15と同じ材質の測定基板14を、上記吸着装置30の絶縁部13上に配置しておき、処理基板15に対する真空処理と同じ条件で真空槽10内にプラズマを形成し、処理基板15に用いる真空処理と同じ条件の真空処理を行う。
【0029】
測定基板14に対して処理基板15と同条件で真空処理を行った後、プラズマを消滅させ、電圧測定装置28によって測定基板14の帯電電圧の極性と大きさを測定する。
【0030】
処理基板15は、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、四ホウ酸リチウム(LBO)、水晶(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)、リチウムテトラボレート(Li247)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)、窒化アルミニウム(AlN)、電気石(トルマリン)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電体であり、測定基板14は、処理基板15と同じ材質のものが用いられている。
【0031】
測定した帯電電圧が1kV以上の場合は、第一、第二の電極111、112と処理基板15の間の電位差が帯電電圧でも処理基板15を吸着装置30に吸着できるので、複数の処理基板15を真空処理する際の、第一、第二の電極111、112の接続を、接地電位に接続し、ゼロVの電圧が印加されるように設定する。
【0032】
測定基板14の帯電電圧の大きさが1kV未満の場合、処理基板15と第一、第二の電極111、112との間の電位差を大きくするために、吸着装置30内に設けられた複数の電極(本例では第一、第二の電極111、112)には、帯電電圧とは逆極性の電圧を印加する。
【0033】
また、吸着装置30内の各電極(本例では第一、第二の電極111、112)には、同じ大きさの電圧を印加するように設定し、処理基板15が面内均一の吸着力で絶縁部13上に吸着されるようにする。
【0034】
<本プロセス>
以上のように吸着装置30内の各電極(本例では第一、第二の電極111、112)に吸着電源21から印加する電圧を設定しておき、複数の処理基板15を真空処理する場合、真空槽10内に搬入された処理基板15を吸着するために、第一、第二の電極111、112に設定された電圧を印加し、処理基板15を均一に吸着し、真空処理を行うと、均一に強く吸着され、処理基板15は割れにくくなる。
【0035】
直径4インチのLiTaO3から成る処理基板15を吸着装置30の上に乗せ、第一、第二の電極111、112両方に2000Vの電圧を印加し吸着させ、温度測定装置19により処理基板15の表面温度を測定したところ、面内温度分布は5℃以下であった。また、処理基板15の割れは発生しなかった。
【0036】
処理基板15の表面積が、絶縁部13の表面積よりも大きく、絶縁部13上に処理基板15を配置すると処理基板15の周辺部分が絶縁部13よりも外側にはみ出る場合、プラズマからの熱の流入によって、はみ出た部分の温度が絶縁部13上の部分の温度よりも上昇してしまうから、処理基板15内部に発生する自発分極のため吸着力が不均一となり、割れが発生する虞がある。
【0037】
この場合、処理基板15の裏面に金属等の熱伝導性薄膜を予め成膜した後、上記真空処理を行うことで、処理基板15の面内熱分布が均一となり、割れが発生しなくなる。
【0038】
また、プラズマからの熱の流入を防ぐため、処理基板15の絶縁部13からはみ出た部分の表面を覆うように保護リング18を設け、処理基板15の周辺部分がプラズマに接触せず、プラズマからの熱の流入を防止するようにし、処理基板15の面内熱分布が均一になるようにしてもよい。
【0039】
なお、上記実施例では、本発明の真空処理がスパッタリングによる成膜処理であったが、本発明の真空処理はそれに限定されるものではなく、エッチング、アニール、表面処理等のプラズマを形成する真空処理を含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の吸着装置を使用した真空処理装置の一例を説明する断面図
【図2】従来の吸着装置を使用した真空処理装置の一例を説明する断面図
【符号の説明】
【0041】
1……真空処理装置
10……真空槽
111、112……電極
13……絶縁部
15……処理基板
18……保護リング
28……電圧測定装置
30……吸着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一乃至二個以上の電極と、前記電極上に配置された絶縁部とを有し、真空槽内に配置された吸着装置の前記絶縁部上に処理基板を配置し、
前記電極と前記処理基板との間に電圧を印加し、真空雰囲気中で前記処理基板を前記絶縁部表面に吸着しながら前記真空槽内にプラズマを発生させ、複数の前記処理基板を真空処理する真空処理方法であって、
前記処理基板が圧電体から成る場合には、
前記真空処理をおこなう前に、前記絶縁部上に前記処理基板と同材料の測定基板を乗せ、真空雰囲気中でプラズマを発生させた後、前記測定基板の帯電電圧の極性と大きさを測定し、
前記帯電電圧が1kV以上の場合は、前記処理基板を前記真空処理する際に、前記電極は接地電位に接続し、
前記帯電電圧が1kV未満の場合は、前記電極には、前記帯電電圧とは逆極性の電圧を印加する真空処理方法。
【請求項2】
前記絶縁部の表面よりも大きく、周囲が前記絶縁部表面からはみ出している前記処理基板を前記真空処理する場合に、前記真空処理を行う前に、前記処理基板の裏面に金属薄膜を形成しておく請求項1記載の真空処理方法。
【請求項3】
前記絶縁部の表面よりも大きく、周囲が前記絶縁部表面からはみ出している前記処理基板を前記真空処理する場合に、前記絶縁部からはみ出た部分上に保護リングを配置し、はみ出た部分と前記プラズマの間に、前記保護リングを位置させる請求項1記載の真空処理方法。

【図1】
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【図2】
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