説明

圧電振動デバイスの発振周波数調整方法、及び圧電振動デバイス

【課題】圧電振動片の調整対象領域の状態や圧電振動片のベースへの搭載状態等にかかわらず安定した圧電振動デバイスの周波数調整を行ない、圧電振動デバイスを量産する際に周波数バラツキを抑制する。
【解決手段】粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階では、それぞれ異なる周波数の調整レートを設定し、それぞれの段階において圧電振動デバイスの周波数を合わせこむ目標周波数を設定する。粗調整段階において設定レートに対する実レートを算出し、この実レートから変動レートを算出する。この変動レートに基づいて中間調整段階,微調整段階の周波数の調整レートを設定変更する。設定変更した設定レートに基づいて中間段階,微調整段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出し、中間段階,微調整段階において周波数調整時間の間、設定変更した設定レートに基づく周波数調整を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動デバイスの発振周波数(以下、周波数とする)の調整方法、及び圧電振動デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、圧電振動デバイスとして、例えば、音叉型水晶振動子などが挙げられる。この種の圧電振動デバイスでは、その筐体が直方体のパッケージで構成される。このパッケージはセラミックのベースと金属のキャップとから構成され、パッケージ内部は気密封止されている。また、このパッケージ内部では、圧電振動片(音叉型水晶振動片)が、ベース上の電極パッドに導電性接着剤を介して接合されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この音叉型水晶振動片をベースに配する際、音叉型水晶振動片が予め設定したベース上の位置に正確に搭載されずに搭載位置のずれが発生する場合がある。この音叉型水晶振動片の搭載位置のずれは、音叉型水晶振動子が小型化するにつれて多くなる。また、音叉型水晶振動子が小型化することで、それに伴って音叉型水晶振動片の搭載位置のずれ量が大きくなる。
【特許文献1】特開2004−201105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した音叉型水晶振動子の製造工程の1つに、周波数の調整工程がある。この周波数の調整工程では、パッケージ内部の音叉型圧電振動片の振動部である脚部の先端部の主面に、周波数調整用の重み付けとして金属膜が形成されている。そして、この金属膜の一部をミーリングすることで金属膜の一部を除去し、周波数の調整を図っている。
【0005】
このとき、同じ周波数の調整レートが設定されているにもかかわらず、実際の周波数の調整レート(以下、実レートとする)が各音叉型水晶振動片で異なる現象がおこる。
【0006】
この原因として次に示すことが挙げられる。すなわち、周波数の調整工程では、パッケージのベース上の予め設定した調整領域において周波数調整を行なう。具体的に、上記した音叉型水晶振動子の場合、調整領域に配された音叉型水晶振動片の脚部の金属膜をミーリング法による除去し、周波数調整が行なわれる。そのため、音叉型水晶振動片の脚部の金属膜が調整領域からずれた位置に配された場合、調整領域内の音叉型水晶振動片の脚部の金属膜のみがミーリング法により除去され、調整領域から外れた金属膜は周波数調整の対象外となる。この音叉型水晶振動片のベースへの搭載位置により、ミーリング法による金属膜の除去量(飛散量)が異なり、この除去量の差異が、実レートが異なる原因として挙げられる。
【0007】
また、ベース自体の形状ばらつきや音叉型水晶振動片に形成された金属膜の膜厚のばらつき、金属膜材料の違い、金属膜表面状態等により設定レートに対する実レートの相違が生じる。
【0008】
また、通常、音叉型水晶振動片がベースの予め設定した位置に搭載された音叉型水晶振動子の周波数調整の実レートに、周波数の調整レートが設定されている(以下、設定レートとする)ので、音叉型水晶振動片がベースの予め設定した位置から外れた位置に搭載された音叉型水晶振動子の周波数調整を行なう場合、この音叉型水晶振動子の実レートと設定レートとが異なることになる。そのため、音叉型水晶振動子を量産する際に周波数バラツキが生じる。
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、圧電振動片の調整対象領域の状態や圧電振動片のベースへの搭載状態等にかかわらず安定した圧電振動デバイスの周波数調整を行ない、圧電振動デバイスを量産する際に周波数バラツキを抑制する圧電振動デバイスの周波数調整方法及びこの周波数調整方法により周波数調整が行なわれた圧電振動デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる圧電振動デバイスの周波数調整方法は、圧電振動デバイスの周波数調整を、複数段階に分けて行なう圧電振動デバイスの周波数調整方法において、前記複数段階では、それぞれ周波数の調整レートを設定し、かつ、前記複数段階それぞれにおいて前記圧電振動デバイスの周波数を合わせこむ目標周波数を設定し、前記複数段階のうち少なくとも1つの段階において、前記設定した周波数の調整レートに対する実際の周波数の調整レートを算出し、この算出した前記実際の周波数の調整レートから周波数設定変動レートを算出し、前記周波数設定変動レートに基づいて周波数調整を行なっていない他の段階の周波数の調整レートを設定変更することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、前記複数段階では、それぞれ周波数の調整レートを設定し、かつ、前記複数段階それぞれにおいて前記圧電振動デバイスの周波数を合わせこむ目標周波数を設定し、前記複数段階のうち少なくとも1つの段階において、前記設定した周波数の調整レートに対する実際の周波数の調整レートを算出し、この算出した前記実際の周波数の調整レートから周波数設定変動レートを算出し、前記周波数設定変動レートに基づいて周波数調整を行なっていない他の段階の周波数の調整レートを設定変更するので、前記複数段階それぞれにおいて正確に周波数調整を行なうことが可能となり、圧電振動片の調整対象領域の状態や前記圧電振動片の前記ベースへの搭載状態等にかかわらず任意の圧電振動デバイスの周波数調整を安定して行なうことが可能となる。そのため、前記圧電振動デバイスを量産する際に周波数バラツキを抑制することが可能となる。また、本発明は、前記圧電振動デバイスが小型化するにつれて上記した効果が顕著にあらわれる。
【0012】
前記方法において、前記複数段階のうち少なくとも1つの段階では、前記設定した周波数の調整レートから当該段階における前記目標周波数までの周波数調整時間を算出し、当該段階において前記周波数調整時間のうち予め設定した時間の間、周波数調整を行ない、前記予め設定した時間後に前記設定した周波数の調整レートに対する実際の周波数の調整レートを算出し、この算出した前記実際の周波数の調整レートから周波数設定変動レートを算出し、当該段階における前記目標周波数までの周波数調整時間を算出して、当該段階において残りの前記周波数調整時間の間、周波数調整を行ない、前記周波数調整を行なっていない他の段階では、前記周波数設定変動レートに基づいて前記設定した周波数の調整レートを設定変更し、当該段階における前記目標周波数までの周波数調整時間を算出して、当該段階において前記周波数調整時間の間、周波数調整を行なってもよい。
【0013】
この場合、前記複数段階のうち少なくとも1つの段階では、前記設定した周波数の調整レートから当該段階における前記目標周波数までの周波数調整時間を算出し、当該段階において前記周波数調整時間のうち予め設定した時間の間、周波数調整を行ない、前記予め設定した時間後に前記設定した周波数の調整レートに対する実際の周波数の調整レートを算出し、この算出した前記実際の周波数の調整レートから周波数設定変動レートを算出し、当該段階における前記目標周波数までの周波数調整時間を算出して、当該段階において残りの前記周波数調整時間の間、周波数調整を行ない、前記周波数調整を行なっていない他の段階では、前記周波数設定変動レートに基づいて前記設定した周波数の調整レートを設定変更し、当該段階における前記目標周波数までの周波数調整時間を算出して、当該段階において前記周波数調整時間の間、周波数調整を行なうので、周波数の調整時間を前記周波数設定変動レートの算出により短縮させることが可能となる。具体的に、前記周波数調整を行なっていない他の段階では、前記周波数設定変動レートに基づいて前記調整レートを設定し、当該段階における前記目標周波数までの周波数調整時間を算出するので、前記各段階における周波数調整時間を短縮することが可能となる。
【0014】
前記方法において、前記周波数設定変動レートを算出する前記複数段階のうち少なくとも1つの段階は、周波数調整を行なう最初の段階であってもよい。
【0015】
この場合、前記周波数設定変動レートを算出する前記複数段階のうち少なくとも1つの段階は、周波数調整を行なう最初の段階であるので、後の他の段階において前記周波数設定変動レートを算出する時間を省くことが可能となり、製造時間を短縮させるのに好ましい。
【0016】
前記方法において、前記複数段階の周波数調整のうち少なくとも2つ以上の段階では、ミーリング法を用いた周波数調整をそれぞれ個別に行なってもよい。
【0017】
この場合、前記複数段階の周波数調整のうち少なくとも2つ以上の段階では、ミーリング法を用いた周波数調整をそれぞれ個別に行なうので、圧電振動デバイスの周波数のずれを抑えることが可能となる。すなわち、少なくとも2つ以上の段階にまたがってミーリング法による周波数調整を行なうことで圧電振動デバイスの温度特性効果により周波数のずれが生じるが、本発明によればこの課題を解決することが可能となる。
【0018】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる圧電振動デバイスは、上記した圧電振動デバイスの周波数調整方法により周波数調整が行なわれたことを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる圧電振動デバイスによれば、上記した圧電振動デバイスの周波数調整方法により周波数調整が行なわれたので、上記したように、前記圧電振動片の調整対象領域の状態や前記圧電振動片の前記ベースへの搭載状態等にかかわらず安定した圧電振動デバイスの周波数調整を行ない、圧電振動デバイスを量産する際に周波数バラツキを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、圧電振動片の調整対象領域の状態や圧電振動片のベースへの搭載状態等にかかわらず安定した圧電振動デバイスの周波数調整を行ない、圧電振動デバイスを量産する際に周波数バラツキを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施の形態では、圧電振動デバイスとして音叉型水晶振動子に本発明を適用した場合を示す。
【0022】
本実施の形態にかかる音叉型水晶振動子1(以下、水晶振動子とする)は、図示しない音叉型水晶振動片2(本発明でいう圧電振動片であり、以下、水晶振動片とする)と、この水晶振動片2を保持するベース11と、ベース11に保持した水晶振動片2を気密封止するためのキャップ12とからなる。
【0023】
この水晶振動子1では、図1に示すように、ベース11とキャップ12とが接合されて筐体であるパッケージ13が構成され、このパッケージ13内に内部空間14が形成される。この内部空間14のベース11上に、水晶振動片2が保持されるとともに、パッケージ13の内部空間14が気密封止されている。この際、ベース11と水晶振動片2とは、導電性接合材3を用いて接合されている。
【0024】
ベース11は、図1に示すように、底部と、この底部から上方に延出した壁部とから構成される箱状体に形成されている。このベース11は、セラミック材料からなる平面視矩形状の一枚板上に、セラミック材料の直方体が積層して凹状に一体的に焼成されている。また、壁部は、底部の表面外周に沿って成形されている。この壁部の上面は、キャップ12との接合領域であり、この接合領域には、キャップ12と接合するためのメタライズ層(図示省略)が設けられている。
【0025】
また、セラミック材料が積層して凹状に一体的に焼成されたベース11の内部空間14における側壁には、図1に示すように、段部15が形成され、この段部15上に下記する電極パッド161,162が形成され、これら電極パッド161,162上に水晶振動片2が片保持して設けられる。
【0026】
キャップ12は、金属材料からなり、図1に示すように、平面視矩形状の一枚板に成形されている。このキャップ12は、下面にろう材(図示省略)が形成されており、シーム溶接やビーム溶接等の手法によりベース11に接合されて、キャップ12とベース11とによる水晶振動子1のパッケージ13が構成される。なお、本実施の形態でいう内部空間14とは、キャップ12とベース11により気密封止された領域のことをいう。また、キャップ12をセラミック材料とし、ガラス材料を介して気密封止してもよい。なお、本実施の形態における気密封止時の雰囲気は真空雰囲気であるが、水晶振動片の種類によっては窒素等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0027】
導電性接合材3の材料には、複数の銀フィラを含有したシリコーン製の導電性接着剤が用いられ、導電性接着剤を硬化させることで、複数の銀フィラが結合して導電性物質となる。
【0028】
内部空間14に配された水晶振動片2は、図1に示すように、音叉型水晶振動片であり、異方性材料の水晶ウエハ(図示省略)からエッチング形成される。水晶ウエハから音叉型形状に形成された基板は、2本の脚部211,212(第1脚部,第2脚部)と、基部22とから構成され、第1,2脚部211,212が基部22から突出して形成されている。また、第1,2脚部211,212の両主面(表側主面231と裏側主面232)には、水晶振動子1の小型化により劣化する直列共振抵抗値を改善させるために、溝24が形成されている。なお、図1における第1,2脚部211,212のそれぞれ先端領域27は、周波数調整を行なう領域である(下記の周波数調整工程参照)。
【0029】
この水晶振動片2の表側主面231には、異電位で構成された2つの励振電極251,261(第1励振電極,第2励振電極)と、これら第1,2励振電極251,261を電極パッド161,162に電気的に接続させるための引出電極252,262が形成され、引出電極252,262は励振電極251,261から引き出されている。そして、引出電極252,262と電極パッド161,162が導電性接合材3を介して接合されて、引出電極252,262と電極パッド161,162とが電気的に接続される。
【0030】
第1励振電極251は、第1脚部211の両主面231,232と、第2脚部212の両側面(対向側面等)とに形成され、それぞれが接続されている。同様にして、第2励振電極261は、第2脚部212の両主面231,232と、第1脚部211の両側面(対向側面等)とに形成され、それぞれが接続されている。
【0031】
そして、上記した水晶振動片2の引出電極252,262とベース11の電極パッド161,162とが、導電性接合材3により接合され、図1に示すように、水晶振動片2は、基部22においてベース11の段部15に片保持されている。
【0032】
次に、上記した構成からなる水晶振動子1の周波数の調整方法及び製造方法を以下に示す。
【0033】
まず、フォトリソグラフィ法を用いて水晶ウエハ上に複数の水晶振動片(本実施の形態の音叉型水晶振動片2)の外形と、当該各水晶振動片に対応した第1,2励振電極251,261を形成して、複数個の電極形成された水晶振動片2を形成する(振動片形成工程)。その後、周波数の調整装置(図示省略)に水晶ウエハを配し、各水晶振動片2の周波数を測定する。
【0034】
振動片形成工程において測定した周波数が、予め設定した周波数より高い場合、その後に、第1,2脚部211,212のそれぞれ先端領域27に、CrやAu、あるいはAg等からなる金属膜を真空蒸着法、スパッタ法、メッキ法等を用いて形成し(第1の膜形成工程)、周波数を下げる。ここで、振動片形成工程において測定した周波数が、予め設定した周波数より低い場合、第1の膜形成工程を行なわないが、通常の生産においては各種調整が必要となるので、当該第1の膜形成を行なうことが多い。
【0035】
第1の膜形成工程において測定した周波数が、予め設定した周波数より低い場合、その後に、第1,2脚部211,212のそれぞれ先端領域27をレーザで照射する(レーザ照射工程)。そして、レーザを照射することで、先端領域27に形成した金属膜を除去して、周波数を上げる。
【0036】
レーザ照射工程において除去した金属膜の欠片または先端領域27の一部が、水晶ウエハ上に再付着するのを防止するために、レーザ照射工程の後に水晶ウエハを洗浄する(再付着防止工程)。
【0037】
再付着防止工程において洗浄した水晶振動片2の先端領域27に、CrやAu、あるいはAg等からなる金属膜を真空蒸着法、スパッタ法、メッキ法等を用いて形成して(第2の膜形成工程)、周波数を下げる。そして、第2の膜形成工程後の周波数を測定する。
【0038】
第2の膜形成工程の後に、水晶ウエハ上の複数個の水晶振動片2を個々の水晶振動片2に分割するよう切断する。そして、切断した各水晶振動片2をベース11に保持する(保持工程)。なお、上記した第1,2の膜形成、レーザ照射による調整は一例であり、要求される周波数精度等によって、この例より工程の数が少ない場合や多い場合がある。
【0039】
保持工程の後に、予め設定した周波数にするように、イオンミーリング法を用いて周波数の最終調整を行なう(エッチング工程)。
【0040】
なお、このエッチング工程では、水晶振動子1(具体的には水晶振動片2)の周波数調整を、3段階(本実施の形態では、粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階)に分け、粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階の順に行なう。このように、本実施の形態では、周波数の粗調整段階から周波数の微調整段階まで周波数の調整幅が段階的に設定されている。なお、これら粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階では、イオンミーリング法を用いた周波数調整が、それぞれ非連続に行なわれる。
【0041】
このエッチング工程における粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階では、それぞれ異なる周波数の調整レートを設定する(図2に示すステップS1)。また、この時に、それぞれの段階において水晶振動片2の周波数を合わせこむ目標周波数を設定する(図2に示すステップS2)。
【0042】
次に、粗調整段階において周波数粗調整を実行し、設定した周波数の調整レート(以下、設定レートとする)に対する実際の周波数の調整レート(以下、実レートとする)を算出する(図2に示すステップS3)。なお、実レートの算出は実測した周波数と調整時間から算出する。そして、算出した実レートから周波数設定変動レート(以下、変動レートとする)を算出する(図2に示すステップS4)。ここで算出した変動レートに基づいて他の中間調整段階及び微調整段階の周波数の調整レートを設定変更する。
【0043】
本実施の形態においては中間ターゲットを設定している。すなわち、粗調整段階では、設定レートから粗調整段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出するが、粗調整段階において、周波数調整時間の半時間の間、周波数調整を行ない、半時間後に設定レートに対する実レートを算出している。この算出した実レートから変動レートを算出し、変動レートに基づいて粗調整段階における設定レートを実レートに変更する(設定レートの設定変更)。そして、当該粗調整段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出し、残りの周波数調整時間の半時間の間、周波数調整を行なって粗調整段階の周波数調整を終える。
【0044】
次に、中間段階および微調整段階において、粗調整段階で算出した変動レートに基づいてそれぞれの設定レートを設定変更する(図2に示すステップS5)。そして、設定変更した設定レートに基づいて中間段階および微調整段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出し、中間段階および微調整段階それぞれにおいて周波数調整時間の間、設定変更した設定レートに基づく周波数調整を行なう。
【0045】
そして、上記したエッチング工程において水晶振動片2の周波数の最終調整を行い、水晶振動片2の周波数を予め設定した周波数に合わせ込む。
【0046】
水晶振動片2の周波数の最終調整を終えると、ベース11上にキャップ12を配し、これら水晶振動片2を保持したベース11とキャップ12とをアニールする。これらベース11とキャップ12とをアニールした後に、ベース11とキャップ12との接合を行ない、パッケージ13内部の内部空間14に配された水晶振動片2を気密封止して水晶振動子1を製造する。
【0047】
上記したように、本実施の形態にかかる水晶振動子1の周波数調整方法によれば、粗調整段階、中間調整段階、および微調整段階では、それぞれ周波数の調整レートを設定し、かつ、3段階それぞれにおいて水晶振動子1の周波数を合わせこむ目標周波数を設定し、粗調整段階において、設定レートに対する実レートを算出し、この算出した実レートから変動レートを算出し、変動レートに基づいて周波数調整を行なっていない他の段階の周波数の調整レートを設定変更するので、粗調整段階、中間調整段階、および微調整段階それぞれにおいて正確に周波数調整を行なうことができ、水晶振動片2の調整対象領域(先端領域27)の状態や水晶振動片2のベース11への搭載状態等にかかわらず任意の水晶振動子1の周波数調整を安定して行なうことができる。そのため、水晶振動子1を量産する際に周波数バラツキを抑制することができる。また、本実施の形態は、水晶振動子1が小型化するにつれて上記した効果が顕著にあらわれる。
【0048】
また、粗調整段階では、設定レートから当該段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出し、当該段階において周波数調整時間の半時間の間、周波数調整を行ない、半時間後に設定レートに対する実レートを算出し、この算出した実レートから変動レートを算出し、当該段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出して、当該段階において残りの周波数調整時間の半時間の間、周波数調整を行ない、周波数調整を行なっていない他の段階では、粗調整段階の変動レートに基づいて設定レートを設定変更し、当該段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出して、当該段階において周波数調整時間の間、周波数調整を行なうので、周波数の調整時間を変動レートの算出により短縮させることができる。具体的に、中間調整段階および微調整段階では、粗調整段階の変動レートに基づいて調整レートを設定し、当該段階における目標周波数までの周波数調整時間を算出するので、各段階における周波数調整時間を短縮することができる。
【0049】
また、粗調整段階は、エッチング工程における周波数調整を行なう最初の段階であるので、後の他の段階において変動レートを算出する時間を省くことができ、製造時間を短縮させるのに好ましい。
【0050】
また、粗調整段階、中間調整段階、及び微調整段階では、イオンミーリング法を用いた周波数調整をそれぞれ個別に行なうので、水晶振動子1の周波数のずれを抑えることができる。すなわち、粗調整段階、中間調整段階、及び微調整段階にまたがってイオンミーリング法による周波数調整を行なうことで水晶振動子1の温度特性効果により周波数のずれが生じるが、本実施の形態によればこの課題を解決することができる。
【0051】
また、上記したように、本実施の形態にかかる水晶振動子1によれば、上記した水晶振動子1の周波数調整方法により周波数調整が行なわれたので、上記したように、水晶振動片2の調整対象領域(先端領域27)の状態や水晶振動片2のベース11への搭載状態等にかかわらず安定した水晶振動子1の周波数調整を行ない、水晶振動子1を量産する際に周波数バラツキを抑制することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では、導電性接合材3として、導電性接着剤を用いているが、これに限定されるものではなく、他の材料であってもよく、例えば、金属バンプであってもよい。
【0053】
また、本実施の形態では、CrやAuから構成される金属膜を形成したが、これに限定されるものではなく、例えば、CrとAg、CrとAgとAuから構成される金属膜であってもよい。
【0054】
また、本実施例では、実装工程の後にエッチング工程を行なったが、これに限定されるものではなく、水晶振動片2の先端領域27に、第1,2の膜形成工程において形成した金属膜のエッチング(質量除去)または金属膜の再形成(質量付加)を行ない、周波数の微調整を行なう工程であればよい。例えば、実装工程の後の周波数が、予め設定した周波数より高い場合、この微調整工程に、実装工程の後に、イオンミーリング法ではなくパーシャル蒸着法を用いて水晶振動片2の先端領域27に金属膜を再形成する工程を行なってもよい。この場合、加熱をせずに膜形成を行なうことができ、パッケージ実装の後の水晶振動片2に金属膜を形成するのに好ましい。
【0055】
また、本実施の形態では、エッチング工程を、粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階の3段階に分けているが、これに限定されるものではなく、複数段階に分けてエッチング工程を行なってもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、エッチング工程を、粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階の3段階に分け、それぞれ異なる周波数の調整レートを設定しているが、これに限定されるものではなく、例えば、粗調整段階,中間調整段階の周波数の調整レートを同じレートで設定してもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、本発明をエッチング工程において適用しているが、これに限定されるものではなく、第1,2の膜形成工程及びエッチング工程においても適用可能である。すなわち、周波数調整を行なう工程において、予め設定した領域に対して対象物(本実施の形態では水晶振動片2)の位置ずれなどが生じ、その結果、周波数にずれが生じる周波数調整工程に適用可能である。しかしながら、本発明は、本実施の形態のように周波数の微調整を必要とする最終調整工程に用いることが好適である。
【0058】
また、本実施の形態では、粗調整段階において変動レートを算出しているが、これは製造時間を短縮するための好適な例であり、これに限定されるものではない。そのため、例えば、中間調整段階において変動レートを算出してもよく、また、粗調整段階及び中間調整段階において変動レートを算出してもよい。さらには粗調整段階で得た変動レートを中間調整段階に適用するとともに、当該中間調整段階で得た変動レートを微調整段階に適用してもよい。また各段階に前述の中間ターゲットを設定し、中間ターゲット(最初の半時間)までは前段階の変動レートを適用し、後半の半時間においては最初の半時間で得た新たな変動レートを適用することにより、高精度の周波数調整を行なうことができる。
【0059】
また、本実施の形態では、粗調整段階において周波数調整時間のうち半時間の間、周波数調整を行ない、半時間後に設定レートに対する実レートを算出しているが、これは好適な例である。そのため、これに限定されるものではなく、周波数調整時間のうち任意の時間の間、周波数調整を行い、任意の時間後に設定レートに対する実レートを算出してもよい。
【0060】
次に、上記した水晶振動子1のエッチング工程方法により、実際に水晶振動子1の周波数の調整を行なった。そこで、微調整段階を終えた周波数偏差(周波数バラツキ)の結果を図3(a)に示す。
【0061】
この実施例では、240個の水晶振動子1に対して、中間調整段階を行なわずに、粗調整段階及び微調整段階の2段階のエッチング工程を行なった。
【0062】
また、比較例として、240個の水晶振動子1に対して、本発明のような変動レートを用いない従来のエッチング工程(粗調整段階,中間調整段階,及び微調整段階の3段階を行なったエッチング工程)により水晶振動子1の周波数の調整を行ない、その結果を図3(b)に示す。
【0063】
なお、本発明の実施例と比較例で用いる240個の水晶振動子1には、図1に示すようなベース11の予め設定された搭載位置に水晶振動片2が搭載された水晶振動子1だけでなく、図4に示すような水晶振動片2がベース11の予め設定された搭載位置に搭載されていない、すなわち、製造ばらつきにより発生する水晶振動片2のベース11への搭載位置がずれた水晶振動子1も含まれている。この図4(a)に示す水晶振動子1では、ベース11に対して平面方向に傾いた状態で水晶振動片2が片保持搭載されている。また、図4(b)に示す水晶振動子1では、ベース11に対して鉛直方向に傾いた状態で水晶振動片2が片保持搭載されている。なお、図4における先端領域27は、図1に示す先端領域27と同一の周波数調整を行なうエッチング領域を示す。
【0064】
図3からわかるように、図3(b)に示す従来技術である比較例のエッチング工程に比べて、図3(a)に示す本実施例のエッチング工程のほうが、周波数偏差を抑制することができる。
【0065】
また、図3(b)に示す従来技術である比較例では3段階のエッチング工程を行なっているのに対して、図3(a)に示す本実施例のエッチング工程では2段階のエッチング工程を行なっている。これから、本実施例によれば、周波数偏差を抑制するだけでなく、エッチング工程における調整段階の数を最小限に抑えて水晶振動子1の製造時間の短縮を図ることができる。
【0066】
また、上記した実施例では、上記した変動レートを算出するために、粗調整段階において約0.7secの測定時間を必要とした。そのため、240個の水晶振動子1のエッチング工程では、タクトが約0.7sec/個の増加となる。これに対して、全ての段階において変動レートを算出した場合、各段階において約0.7secの測定時間が必要となる。そのため、240個の水晶振動子1のエッチング工程では、タクトが約1.4sec/個かかる。このように、調整段階の数が増えるにつれて、本実施例に示す変動レートの優位性が顕著となり、本実施例が製造時間の短縮を図るのに好ましい形態であることが分かる。
【0067】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、水晶振動子などの圧電振動デバイスに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1(a)は、本実施の形態にかかる水晶振動子の概略平面図である。図1(b)は、本実施例にかかる水晶振動子の概略内部公開側面図である。
【図2】図2は、本実施の形態にかかる水晶振動子の周波数調整方法を示した簡易的なフローチャート図である。
【図3】図3(a)は、本実施例にかかる水晶振動子の周波数調整工程における周波数偏差を示したグラフ図である。図3(b)は、従来の水晶振動子の周波数調整工程における周波数偏差を示したグラフ図である。
【図4】図4(a)は、本実施例にかかる、ベースへの水晶振動片の搭載位置ずれが生じた水晶振動子の概略平面図である。図4(b)は、本実施例にかかる、ベースへの水晶振動片の搭載位置ずれが生じた水晶振動子の概略内部公開側面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 音叉型水晶振動子
11 ベース
12 キャップ
13 パッケージ
14 内部空間
2 水晶振動片
211,212 第1,2脚部
22 基部
27 先端領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動デバイスの発振周波数調整を、複数段階に分けて行なう圧電振動デバイスの発振周波数調整方法において、
前記複数段階では、それぞれ発振周波数の調整レートを設定し、かつ、前記複数段階それぞれにおいて前記圧電振動デバイスの発振周波数を合わせこむ目標周波数を設定し、
前記複数段階のうち少なくとも1つの段階において、前記設定した発振周波数の調整レートに対する実際の発振周波数の調整レートを算出し、この算出した前記実際の発振周波数の調整レートから発振周波数設定変動レートを算出し、
前記発振周波数設定変動レートに基づいて発振周波数調整を行なっていない他の段階の発振周波数の調整レートを設定変更することを特徴とする圧電振動デバイスの発振周波数調整方法。
【請求項2】
前記複数段階のうち少なくとも1つの段階では、前記設定した発振周波数の調整レートから当該段階における前記目標周波数までの発振周波数調整時間を算出し、当該段階において前記発振周波数調整時間のうち予め設定した時間の間、発振周波数調整を行ない、前記予め設定した時間後に前記設定した発振周波数の調整レートに対する実際の発振周波数の調整レートを算出し、この算出した前記実際の発振周波数の調整レートから発振周波数設定変動レートを算出し、当該段階における前記目標周波数までの発振周波数調整時間を算出して、当該段階において残りの前記発振周波数調整時間の間、発振周波数調整を行ない、
前記発振周波数調整を行なっていない他の段階では、前記発振周波数設定変動レートに基づいて前記設定した発振周波数の調整レートを設定変更し、当該段階における前記目標周波数までの発振周波数調整時間を算出して、当該段階において前記発振周波数調整時間の間、発振周波数調整を行なうことを特徴とする請求項1に記載の圧電振動デバイスの発振周波数調整方法。
【請求項3】
前記発振周波数設定変動レートを算出する前記複数段階のうち少なくとも1つの段階は、発振周波数調整を行なう最初の段階であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電振動デバイスの発振周波数調整方法。
【請求項4】
前記複数段階の発振周波数調整のうち少なくとも2つ以上の段階では、ミーリング法を用いた発振周波数調整をそれぞれ個別に行なうことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1つに記載の圧電振動デバイスの発振周波数調整方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか1つに記載の圧電振動デバイスの発振周波数調整方法により発振周波数調整が行なわれたことを特徴とする圧電振動デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−96921(P2007−96921A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285219(P2005−285219)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】