説明

圧電振動装置

【課題】 小型化に対応でき、薄型化を図った場合でも、大きな振幅を得ることができ、かつ使用時及び取り扱いに際しての変形が生じ難く、音圧ばらつきや音質の劣化が生じ難い、圧電振動装置を提供することができる。
【解決手段】 金属板2の第1の面2aに圧電振動板3が接着剤7を介して貼り合わされており、金属板2の第1の面2aに、少なくとも1つの凹部2c〜2eが形成されており、凹部2c〜2e内に金属板2よりもヤング率が低い材料が充填されている、圧電振動装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電ブザーや圧電スピーカーなどに用いられる圧電振動装置に関し、より詳細には、圧電振動板が金属板に貼り合わされている構造を有する圧電振動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカーやブザーなどに、圧電振動板を金属板に貼り付けてなる圧電振動装置が広く用いられている。また、OA機器や携帯電話機器等に用いるために、この種の圧電振動装置の小型化が強く求められている。そのため、小型でありながら、大きな音圧を得ることができる圧電振動装置が求められている。
【0003】
下記の特許文献1には、図13に略図的正面断面図で示す圧電振動装置が開示されている。圧電振動装置101では、金属板102に、圧電セラミック板の両面に電極が形成されている圧電振動板103が貼り合わされている。金属板102は、その外周縁部分が固定板104,105に挟持され、支持されている。
【0004】
金属板102の圧電振動板103と貼り合わされている部分の外側においては、金属板102の表面に凹部102aが、裏面に凹部102bが設けられている。凹部102a,102bを設けることにより、振動し易くなり、低周波化が果たされている。
【0005】
加えて、圧電振動装置101では、金属板102が圧電振動板103に貼り合わされている部分にも、溝102cが設けられている。この溝102cが設けられている部分では、金属板102は圧電振動板103に接着されていない。すなわち、溝102cよりも内側の中心部102dと、溝102cの外側の外周部102eとにおいて、接着剤により、金属板102が圧電振動板103に接着されている。このような部分接着を利用することにより、圧電振動板103及び金属板102の厚みを薄くし、低周波化を果たした場合であっても、音圧レベルの低下を防止することができるとされている。
【0006】
他方、下記の特許文献2には、図14に略図的分解平面図で示す圧電振動装置111が開示されている。圧電振動装置111では、金属板112に、圧電振動板113が貼り合わされる。金属板112には、打ち抜きにより、金属板112の中心を中心とする複数の同心円を構成するように複数の円弧状の空溝112aが形成されている。空溝112aを形成することにより、低周波における音圧を高くすることができるとされている。
【0007】
また、下記の特許文献3には、金属板に圧電振動板を貼り合わせてなる圧電振動装置において、金属板に周方向への伸縮を可能とする溝や長孔を設けた構成が開示されている。ここでも、特許文献1の場合と同様に、溝以外の部分で圧電振動板を接着し、すなわち部分接着を利用することにより、金属板の振動に際しての変位が容易とされている。
【特許文献1】特開平2−84900号公報
【特許文献2】特開昭63−316999号公報
【特許文献3】特開平2−266799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来、圧電振動板に金属板を貼り合わせてなる圧電振動装置においては、小型化を図った場合であっても、音圧レベルを低下させることなく、低周波化を図るために、金属板に溝、打ち抜きにより形成された貫通孔からなる空溝または長孔などを形成した構造が知られていた。
【0009】
しかしながら、上記のような圧電振動装置を駆動させた際の変位に基づく応力は、上記金属板の溝等に集中する。そして、溝等に集中した応力が圧電振動板を構成している圧電セラミック板に作用し、圧電セラミック板においてクラックが生じることがあった。特に、小型化及び低周波化を図るために、圧電振動板の厚みを薄くした場合、上記クラックがより一層生じがちであった。
【0010】
加えて、小型化を図るために、圧電振動板及び金属板の大きさを小さくしかつ厚みを薄くした場合、金属板に微細な溝を形成し、しかもこの微細な溝を設計通りの形状に保つことは、非常に困難であった。すなわち、薄い金属板に微細な溝を高精度に加工し、かつ組み立ての間及び組み立て後に設計通りの形状を保つことは非常に困難であった。そのため、得られた圧電振動装置において、音圧のばらつきが生じたり、音質が劣化したりするおそれがあった。
【0011】
また、金属板や圧電板が薄くなると、ハンドリング及び加工に際して変形や割れが生じやすくなる。従って、製造工程において、多大の注意をはらわねばならず、生産性が低下しがちであった。
【0012】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、小型化を進め、圧電振動板や金属板の厚みを薄くした場合であっても、十分な振幅すなわち音圧を得ることができ、しかも取り扱いに際しての金属板や圧電振動板の変形が生じ難く、駆動時に圧電振動板にクラックが生じ難い、圧電振動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る圧電振動装置は、対向し合う第1,第2の面を有する金属板と、前記金属板の第1の面に接着剤により貼り合わされており、圧電セラミック板を用いて構成されている圧電振動板とを備え、前記金属板の第1の面において前記圧電振動板が貼り合わされている領域に少なくとも1つの凹部が形成されており、該凹部に金属板よりも低いヤング率の材料が充填されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る圧電振動装置のある特定の局面においては、前記金属板及び圧電振動板からなる積層体を支持するために前記金属板に固定されているケース材がさらに備えられている。
【0015】
本発明に係る圧電振動装置の他の特定の局面では、前記凹部が、前記圧電振動装置の圧電振動板を振動させた際に変位量等高線に平行な位置に設けられている。
【0016】
本発明に係る圧電振動装置のさらに特定の局面では、前記凹部に充填されている材料が接着剤である。
【0017】
本発明に係る圧電振動装置のさらに他の特定の局面では、前記接着剤が、前記圧電振動板を前記金属板に貼り合わせるのに用いられている接着剤と同じ材料である。
【0018】
本発明に係る圧電振動装置のさらに別の特定の局面では、前記凹部が、前記金属板の第2の面にも形成されている。
【0019】
本発明に係る圧電振動装置においては、上記凹部の形態は種々変形することができるが、本発明のある特定の局面では、上記凹部は溝により構成されている。
【0020】
本発明に係る圧電振動装置の特定の局面では、上記凹部は溝により構成されている。
【0021】
本発明に係る圧電振動装置の他の特定の局面では、前記凹部として、複数のドット状凹部が設けられている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る圧電振動装置では、金属板の第1の面に圧電セラミック板を用いて構成されている圧電振動板が接着剤を用いて貼り合わされており、金属板の第1の面において、圧電振動板が貼り合わされている領域に少なくとも1つの凹部が形成されており、該凹部に金属板よりも低いヤング率の材料が充填されている。従って、金属板に凹部が設けられており、該凹部に金属板よりも低ヤング率の材料が充填されているので、金属板に凹部が設けられていない相当の金属板を用いた場合に比べて、金属板が撓みやすくなっている。よって、十分大きな振幅すなわち音圧を得ることができる。
【0023】
しかも、小型化及び低周波化を図るために、圧電振動板や金属板の厚みを薄くした場合であっても、金属板の凹部には、上記低ヤング率の材料が充填されているので、凹部に応力が集中したとしても、応力が緩和される。従って、圧電振動板を構成している圧電セラミック板に応力が加わり難く、従って圧電セラミック板のクラックが生じ難い。また、製造工程においても、凹部に低ヤング率の材料が充填されているので、金属板の変形が生じ難く、また低ヤング率の材料を凹部に充填した後においては、金属板の取り扱いにさほど気を払うことなく金属板を取り扱うことができる。従って、生産性を高めることが可能となる。
【0024】
また、凹部に低ヤング率の材料が充填されていることにより、凹部の変形も生じ難い。従って、音圧のばらつきや音質のばらつきも抑制することができる。
【0025】
金属板及び圧電振動板からなる積層体を支持するために金属板に固定されているケース材がさらに備えられている場合には、ケース材を用いてOA機器や携帯電話機器などに本発明の圧電振動装置を容易に取り付けることができる。
【0026】
また、圧電振動装置の圧電振動板を振動させた場合に変位量等高線に平行な位置に、上記凹部が設けられている場合には、振幅をより一層大きくすることが可能となる。
【0027】
凹部に充填されている材料は、金属板よりも低いヤング率の材料であれば、凹部が設けられている部分における変形を容易とすることができるが、好ましくは、接着剤が充填される。この場合には、接着剤が硬化することにより、凹部においても、圧電振動板に金属板を確実に貼り合わせることができ、接合強度を高めることができる。また、変形に際し、凹部から凹部に充填されている接着剤硬化物が分離し難いため、音圧や音質のばらつきも抑制することができる。
【0028】
凹部に充填されている接着剤が、圧電振動板を金属板に貼り合わせるのに用いられている接着剤を同じ材料である場合には、単一の接着剤を用い、金属板を圧電振動板に貼り合わせるとともに、金属板の凹部へ充填される材料を構成することができ、作業工程及び製造コストを低減することができる。
【0029】
また、凹部に充填されている接着剤による接合強度と、凹部外の金属板と圧電振動板とを接着している部分の接着剤による接合強度とがほぼ等しくなるため、圧電振動板の全領域に渡り、金属板に対し同じ程度の接合強度で均一に接着することができる。
【0030】
凹部が金属板の第2の面にも形成されている場合には、それによって金属板がより一層変位しやすくなり、より大きな振幅を得ることができる。
【0031】
凹部は溝であってもよく、ドット状の凹部であってもよく、その形状は特に限定されない。もっとも、凹部が溝である場合には、円弧状または直線状の溝とすることにより、円弧状、円形もしくは直線状の凹部を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0033】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る圧電振動装置の要部を示す斜視図であり、(b)はその正面断面図であり、(c)はその主要部分を拡大して示す部分切欠正面断面図である。
【0034】
圧電振動装置1は、金属板2と圧電振動板3とを有する。圧電振動板3は、図1(a)及び(b)では、1枚の板状部材として図示されているが、図1(c)に拡大して示すように、実際には圧電セラミック板4の両主面に電極5,6を積層した構造を有する。圧電セラミック板4は、本実施形態では、厚み方向に分極処理されている。従って、電極5,6間に交流電圧が印加されると、図2に略図的に示すように、一点鎖線Aで示す振動姿態と、Bで示す振動姿態との間で変位するように振動する。この振動に基づく音圧が取り出され、例えば圧電ブザーや圧電スピーカーとして用いられる。
【0035】
上記圧電セラミック板4を構成するセラミック材料は特に限定されず、チタン酸鉛系セラミックス、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスなどを挙げることができる。また、金属板2は、圧電振動板3に接着剤7を用いて貼り合わされているが、該金属板2を構成する材料については、Ni、Ni−Fe合金または銅、銅合金などの適宜の金属を用いることができる。
【0036】
接着剤7は、圧電振動板3を金属板2に接着し得る限り、適宜の接着剤を用いて構成され得る。これらの接着剤として、本実施形態では、エポキシ樹脂系接着剤が用いられているが、シリコン系などの絶縁性接着剤を用いてもよい。
【0037】
本実施形態では、金属板2がNi合金からなり、圧電セラミック板4は、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなる。また、圧電振動板3においては、下面の電極6は設けられずともよく、その場合には接着剤6を導電性接着剤とすることにより、金属板2を下面の電極6の代わりに用いてもよい。
【0038】
金属板2の第1の面としての上面2aと、金属板2の第1の面2aとは反対側の第2の面である下面2bには、それぞれ、複数本の溝2c〜2e,2g,2hが形成されている。また、下面2bの中心には、円形のドット状凹部2fが形成されている。
【0039】
図3は、金属板2の平面図であり、溝2c〜2eが図示されている。溝2c〜2eは、それぞれ、円板状の金属板2において、金属板2と同心となるように配置された円形の溝である。溝2g,2hもまた、金属板2と同心に配置された同心円状の円形の溝である。
【0040】
もっとも、溝2c〜2eと、溝2g,2hとは、金属板2を介して重なり合わないように、すなわちずらされて配置されている。
【0041】
本実施形態では、溝2c〜2e内に、金属板2よりも低ヤング率の材料として、接着剤7と同じエポキシ系接着剤で構成された接着剤8が充填されている。ドット状凹部2f及び溝2g,2h内にも、同じエポキシ系接着剤により構成された接着剤9が充填されている。
【0042】
また、圧電振動装置1は、図4(a)に示すケース材10を有する。ケース材10は、略円筒状の形状を有し、円筒部10aと、円筒部10aの一端に設けられた天板部10bとを有する。天板部10bの中央には、貫通孔10cが設けられている。また、円筒部10aの天板部10bとは反対側には、開口10dが設けられている。円筒部10aの中間高さ位置においては、内周面に段差部10eが設けられている。段差部10eに、接着剤(図示せず)により、圧電振動装置1の金属板2が第2の面2b側から接着剤により固定され、支持されている。ケース材10に支持されている場合、金属板2と圧電振動板3とからなる積層体を積層した場合、振動の変位量等高線は、金属板2及び圧電振動板3の中心と同じ中心を有する同心円状に現れる。
【0043】
なお、変位量等高線とは、金属板2及び圧電振動板3が振動した際に、振動時の変位量が同じ位置を結んだ際に描かれる線を示す。また、本発明において、変位量等高線に平行とは、変位量等高線が直線状の場合に限定されるものではない。すなわち、変位量等高線が直線である場合には、変位量等高線に平行とは、該変位量等高線上及び該変位量等高線に平行な直線上を広く含むものとする。また、本実施形態のように、変位量等高線は円のように曲線であってもよく、その場合には、変位量等高線に平行とは、変位量等高線と一定の幅を保ちつつ変位量等高線と並進する曲線及び該変位量等高線上の双方を広く含むものとする。すなわち、本発明において、変位量等高線に平行とは、変位量等高線上を含み、さらに変位量等高線と一定の幅を保つ直線または曲線上を広く含むものとする。
【0044】
図4(b)に、ケース材10に支持されている金属板2を略図的平面図で示し、該金属板2に現れる振動の変位量等高線の位置を矢印C〜Eで模式的に示す。図4(b)から明らかなように、金属板2には、異なる径の同心円領域に変位量等高線C〜Eが現れることになる。
【0045】
そして、上記円形の溝2c〜2eは、変位量等高線C〜Eが現れる位置に設けられている。
【0046】
本実施形態の圧電振動装置1では、上記のように、金属板2に溝2c〜2eが設けられており、該溝2c〜2eに、金属板2よりも低ヤング率の材料であるエポキシ系接着剤8が充填されているため、駆動に際し、金属板2が設けられていない構造に比べて撓みやすくなっている。そのため、大きな変位を得ることができ、振幅ひいては音圧を高めることができる。
【0047】
加えて、上記接着剤8が充填されていることにより、振動に際し、応力が溝2c〜2eが設けられている部分に集中したとしても、該応力が緩和される。従って、圧電振動板3を構成している圧電セラミック板4への応力が伝達され難く、それによって圧電セラミック板4のクラックが生じ難い。
【0048】
また、製造時の取り扱いに際しても、予め、接着剤8が溝2c〜2eに充填され、硬化されている場合、溝2c〜2eに何も充填されない場合に比べ金属板2の変形が生じ難い。また、金属板2に接着剤8を介して圧電振動板3を接着し硬化させた場合であっても、硬化後には、溝2c〜2eの形状が接着剤8の硬化物により維持されることになるため、溝2c〜2eの変形が生じ難い。従って、音圧ばらつきや音質のばらつきが生じ難い。
【0049】
また、本実施形態では後述の実験例からも明らかなように、変位量等高線C〜Eとなる位置に、溝2c〜2eが位置しているため、言い換えれば、変位量等高線に平行な部分が拘束され難いため、振幅の低下すなわち音圧の低下をより一層抑制することができ、より一層音圧を高くすることが可能となる。
【0050】
さらに、本実施形態では、ドット状凹部2f及び溝2g,2hが、金属板2の下面2bに設けられているため、それによっても金属板2が変形しやすくなり、大きな音圧を得ることができる。加えて、ドット状凹部2f及び溝2g,2hにも、接着剤9が充填されていることにより、金属板2の変形が抑制されている。
【0051】
また、溝2c〜2eと、ドット状凹部2f及び溝2g,2hとがずらされて配置されているので、溝2c〜2eと、ドット状凹部2f及び溝2g,2hとが重なり合って配置されている構造に比べて、金属板2の所望でない変形を抑制することが可能とされている。
【0052】
もっとも、本発明においては、第2の面である下面2bにドット状凹部2f及び溝2g,2hを必ずしも設ける必要はない。また、ドット状凹部2f及び溝2g,2hに接着剤9を充填する必要も必ずしもない。
【0053】
次に、本実施形態では、溝2c〜2eに、接着剤7と同じエポキシ系の接着剤8を充填したが、溝2c〜2eに他の接着剤を用いてもよく、金属板2よりも低ヤング率の接着剤以外の材料を溝2c〜2eに充填してもよい。
【0054】
もっとも、好ましくは、上記のように、接着剤を溝2c〜2eに充填することにより、接着剤の硬化により、溝2c〜2eの変形を抑制することができる。また、接着剤7と同じ接着剤により接着剤8を構成することにより、接着剤の種類を低減することができ、同じ接着剤を用いることにより、圧電振動板3の全領域に渡り、金属板2に均一な接合強度で圧電振動板3を接合することができる。
【0055】
図5(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る圧電振動装置の斜視図及び第2の実施形態に用いられている金属板を示す斜視図である。圧電振動装置21は、矩形の金属板22と、圧電振動板23とを有する。金属板22及び圧電振動板23は、それぞれ、平面形状が矩形とされていることを除いては、第1の実施形態の金属板2及び圧電振動板3と同様に構成されている。従って、異なる部分のみを説明することとする。
【0056】
図5(b)に示すように、矩形の金属板22の第1の面としての上面22a上には、複数本の溝22c〜22hが形成されている。また、第2の面としての下面22bには、複数本の溝22i〜22mが形成されている。これらの溝22c〜22h,22i〜22mに、それぞれ、接着剤8,9が充填されている。
【0057】
接着剤8,9は、圧電振動板23を金属板22に接合している接着剤7と同じエポキシ系接着剤により構成されている。
【0058】
図6(a)に示すように、圧電振動装置21は、ケース材30を備えている。このケース材30内に、上記金属板22に圧電振動板23を接合してなる積層体が収納されている。ケース材30は、角筒状の形状を有することを除いては、図4(a)に示したケース材10と同様に構成されている。すなわち、筒状部30aの一端に天板部30bが設けられており、天板部30bの中央に貫通孔30cが設けられている。筒状部30aの天板部30bとは反対側の端部には開口30dが設けられている。また、筒状部30aの内側面には、段差部30eが設けられており、段差部30eにおいて、金属板22が、第2の面22bから接着剤(図示せず)を用いて接合され、支持されている。
【0059】
圧電振動装置21において、圧電振動板23の両面に交流電圧を印加すると、ベンディングモードの振動が生じ、その振動の変位量等高線は、支持部分と平行な複数の直線状の領域に現れる。すなわち、図6(b)に底面図で示すように、金属板22は、一対の対向し合っている辺と他の一対の対向し合っている辺とを有する矩形板状の形状を有するが、一対の辺22n,22o側において、ケース材30に固定され、支持されている。そして、駆動時には、この辺22n,22oと平行な複数の領域に振動の変位量等高線が現れることになる。本実施形態では、上記金属板22の第1の面の上面22aに設けられた複数本の溝22c〜22hが、振動の変位量等高線に平行な位置になるように設けられている。
【0060】
また、本実施形態においても、上面に設けられた溝22c〜22hと、下面に設けられた溝22i〜22mとは、金属板22を介して重なり合わない位置に設けられている。従って、金属板22の所望でない変形や歪みを防止することが可能とされている。
【0061】
本実施形態においても、上記溝22c〜22h内に、接着剤9が充填されているため、また、溝22c〜22hが振動の変位量等高線に平行な位置になるように設けられているので、振動が抑制されず、従って、大きな音圧を得ることができる。従って、接着剤8が充填されていることにより、溝に応力が加わったとしても、圧電セラミック板側への応力集中が緩和され、圧電セラミック板のクラックを抑制することができる。これを、具体的な実験例により明らかにする。
【0062】
金属板22として、9.9mm×10mm×厚さ0.05mmの42Ni−Fe合金からなる金属板を用意し、長さ方向10mmとなる一方の辺22n側において、図7に示すように、クランプ装置31,31により挟持した。なお、この金属板22の片面には、圧電振動板23を貼り合わせておいた。この圧電振動板23としては、10mm×8mm×厚さ0.055mmの圧電セラミック板の両主面に電極が形成されているものを用意した。両主面の電極はNi−Cu合金からなり、その厚みは0.2μmである。また、両主面の電極は、圧電セラミック板の全面に形成されている。上記圧電振動板23の10mmの寸法の辺を金属板22の10mmの寸法の辺と対応させるようにして、圧電セラミック板23の中心と金属板22の中心を一致させるようにしてエポキシ系接着剤により貼り合わせた。また、金属板22には、複数本の溝を、それぞれ、幅0.04mm×深さ0.02mmの断面が半円形の溝として形成した。そして、溝内に、ヤング率が1×108Paのエポキシ系接着剤を充填し硬化させておいた。なお、上記42Ni−Fe合金からなる金属板22のヤング率は1×1011Paである。
【0063】
他方、金属板22の下面側にも、複数本の溝を同様にして形成し、エポキシ系接着剤を充填し、硬化させておいた。
【0064】
なお、図8に示すように、上面及び下面の複数本の溝のピッチP1,P2はいずれも0.2mmとし、金属板22の上面には32本の溝、下面には38本の溝を設け、表裏の溝は溝と直交する方向においてD=0.1mmずらして配置した。
【0065】
このようにして用意した圧電振動装置の金属板22及び圧電振動板23からなる積層体を図7に示すようにクランプ31,31で一端側において、1.0mmの長さ部分Sに渡って挟み込み、交流電圧を印加し、振動させた。そして、支持されている側とは反対側の端部が図7に実線及び二点鎖線で示すように、振動した際の振幅Tを測定した。振幅Tとは、実線で示す振動姿態と、二点鎖線で示す振動姿態でかつ最大変位状態における各先端の位置の間の金属板22の第1の面と直交する方向に沿う寸法をいうものとする。駆動電圧は3Vとした。その結果、振幅は1.56mmであり、周波数は630Hzであった。
【0066】
他方、金属板22の下面に溝を設けなかったことを除いては、上記実験例と同様にして、振幅を測定したところ、1.5mmであり、周波数は670Hzであった。
【0067】
さらに、比較のために、金属板の両面の双方に溝を設けなかったことを除いては上記と同様にして、振幅を測定したところ、振幅は0.65mmに留まり、周波数は630Hzであった。
【0068】
従って、上記実験例から明らかなように、第2の実施形態に相当する圧電振動装置では、溝がない比較例に比べ、振幅を0.65mmから1.65mmに大幅に大きくすることができ、よって、音圧を大幅に高め得ることがわかる。
【0069】
また、溝が片面に設けられている実験例に比べ、両面に溝を設けることにより、周波数を高めることができ、しかも音圧をより一層高め得ることがわかる。
【0070】
次に、上記実験例において、溝のピッチを0.2mmから0.4mmとし、金属板22の上面及び下面にそれぞれ19本の溝を形成したことを除いては、上記実験例と同様にして変形例の圧電振動装置を作製した。この変形例の圧電振動装置で、同様にして振幅を測定したところ、1.27mmであった。従って、上記金属板の圧電振動板の貼り合わせる面に設けられる溝の位置を変更することにより、振幅を変化させることができ、上記実験例のように、溝のピッチを狭くし、多くの溝を形成した場合に、金属板の断面積が減少するため、より大きな振幅が得られることがわかる。
【0071】
もっとも、溝の本数が増加しすぎると、金属板の強度が低下するおそれがある。従って、金属板の強度や、所望でない変形が生じ難い範囲で、上記溝の数を増加させることが望ましい。
【0072】
上記第2の実施形態の変形例の実験例から明らかなように、本発明では金属板に設けられる溝の本数及びピッチを変更することにより、振幅を変化させ得ることがわかる。
【0073】
また、上記金属板の厚みをT1、圧電振動板の厚みをT2としたとき、積層構造の全体の厚みT=T1+T2は、金属板の厚みT1を変化させることにより変化することとなる。これに対して、本発明では、上記圧電振動板の貼り合わされる金属板の第1の面に複数本の溝を設けることにより、金属板の実質的な厚みを薄くすることができ、それによって振幅を大きくし得ることがわかる。
【0074】
この種の圧電振動装置では、圧電セラミック層の数を増加することにより、音圧を高め得ることが知られている。例えば、第1の実施形態や第2の実施形態において、1枚の圧電セラミック板が用いられているが、さらに1枚の圧電セラミック板を積層した場合には、圧電セラミック板1枚を増加させることにより、音圧を6dB程度高めることができる。本発明では、このような圧電セラミック層を増加させた場合ほどは音圧を高めることはできないが、その1/2程度の3dB程度、圧電セラミック層を増加させることなく高めることができる。
【0075】
また、本発明における金属板に設けられる溝部の形状は、第1,第2の実施形態に示した形状に限定されるものではない。例えば、図9に示す矩形の金属板41では、金属板4の周囲四辺が支持固定される場合であって、第1の面41aに、複数の同心円上に配置された径の異なる円形の溝41b〜41dが形成されている。このように、矩形の金属板41に、円形の溝41b〜41dを形成してもよい。
【0076】
すなわち、溝や後述のドット状凹部などの本発明における凹部の形状は、圧電振動装置を駆動した際の振動のノード位置や形状等に応じて適宜変更することができる。また、振動のノード位置は圧電振動板及び金属板からなる積層体を支持した際の支持構造によっても変化し、変位量等高線の位置も変化する。従って、金属板の特定の位置に現れる変位量等高線に平行に凹部を設けることが望ましい。この場合、複数の凹部の内少なくとも一部の凹部が変位量等高線に平行に設けられていてもよく、その場合には、本発明に従って、より一層効果的に振幅を高めることができる。もっとも好ましくは、全ての凹部が変位量等高線に平行に配置されていることが望ましい。
【0077】
また、図10(a)及び(b)に示す変形例では、矩形の金属板42の第1の面42a上に、互いに平行に複数本の溝42c〜42kが形成されている。他方、下面42bにも、複数本の直線状の溝42l〜42tが形成されている。もっとも、42c〜42kと、下面の溝42l〜42tとは、互いに直交する方向に延ばされている。すなわち、第1の面に形成された溝42c〜42kと、第2の面に形成された溝42l〜42tは、交差するように配置されていてもよい。
【0078】
図10(a)及び(b)では、上記溝42c〜42kに接着剤8が充填されており、溝42l〜42tには接着剤9が充填されている状態が示されている。
【0079】
図11(a)及び(b)に示す金属板43では、上面43aに、格子状の溝43cが設けられており、下面43bには溝は設けられていない。このように、第1の面43aに設けられている溝は、格子状の溝43cであってもよい。
【0080】
図12(a)及び(b)に示す金属板44では、第1の面44a上に、複数のドット状凹部44c、複数の第2のドット状凹部44d及び複数の第3のドット状凹部44eが形成されている。複数の第1のドット状凹部44cは、円を構成するように円周方向に沿って配置されている。また、複数の第2のドット状凹部44dもまた、円を形作るように円周方向に配置されている。複数の第3のドット状凹部44eもまた、同様に、1つの円を形作るように円周方向に配置されている。そして、これらで構成される複数の円は、径の異なる同心円とされている。このように、本発明では、凹部は、溝である必要はなく、複数のドット状凹部であってもよい。なお、金属板44では、下面44bにも、複数のドット状凹部44fが設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る圧電振動装置の主要部分示す斜視図、(b)はその正面断面図、(c)は第1の実施形態の圧電振動装置の主要部分を拡大して示す部分切欠正面断面図。
【図2】図1に示した圧電振動装置の振動姿態を説明するための模式的正面図。
【図3】第1の実施形態で用いられている金属板の平面図。
【図4】(a)はケース材が備えられている第1の実施形態の圧電振動装置の正面断面図、(b)は金属板における変位量等高線を示す模式的平面図。
【図5】(a)は第2の圧電振動装置の主要部分を示す斜視図であり、(b)は第2の実施形態で用いられている金属板を示す斜視図。
【図6】(a)は第2の実施形態の圧電振動装置の正面断面図であり、(b)は底面図。
【図7】第2の実施形態の圧電振動装置において、振幅を測定する方法を説明するための模式的正面図。
【図8】第2の実施形態の圧電振動装置における溝のピッチ配置を説明するための部分切欠正面断面図。
【図9】本発明の変形例に係る圧電振動装置の金属板の模式的平面図。
【図10】(a)及び(b)は、本発明の他の変形例に係る圧電振動装置に用いられる金属板を示す平面図及び(a)におけるX−X線に沿う断面図。
【図11】(a)及び(b)は、本発明のさらに他の変形例に係る圧電振動装置で用いられている金属板の平面図、及び(a)におけるY−Y線に沿う断面図。
【図12】(a)及び(b)は、本発明のさらに別の変形例に係る圧電振動装置に用いられる金属板の平面図及び正面断面図。
【図13】従来の圧電振動装置の一例を説明するための模式的正面断面図。
【図14】従来の圧電振動装置の他の例を説明するための分解平面図。
【符号の説明】
【0082】
1…圧電振動装置
2…金属板
2a…上面(第1の面)
2b…下面(第2の面)
2c〜2e…溝
2f〜2h…溝
3…圧電振動板
4…圧電セラミック板
5,6…電極
7…接着剤
8…接着剤
9…接着剤
10…ケース材
10a…円筒部
10b…天板部
10c…貫通孔
10d…開口
10e…段差部
21…圧電振動装置
22…金属板
22a…上面(第1の面)
22b…下面(第2の面)
22c〜22h…溝
22i〜22m…溝
23…圧電振動板
30…ケース材
30a…筒状部
30b…天板部
30c…貫通孔
30d…開口
30e…段差部
31…クランプ装置
41…金属板
41a…第1の面
41b〜41d…溝
42…金属板
42a…第1の面
42b…第2の面
42c〜42k…溝
42l〜42t…溝
43…金属板
43a…第1の面
43b…第2の面
43c…溝
44…金属板
44a…第1の面
44b…第2の面
44c〜44e…ドット状凹部
44f…ドット状凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向し合う第1,第2の面を有する金属板と、
前記金属板の第1の面に接着剤により貼り合わされており、圧電セラミック板を用いて構成されている圧電振動板とを備え、
前記金属板の第1の面において前記圧電振動板が貼り合わされている領域に少なくとも1つの凹部が形成されており、該凹部に金属板よりも低いヤング率の材料が充填されていることを特徴とする、圧電振動装置。
【請求項2】
前記金属板及び圧電振動板からなる積層体を支持するために前記金属板に固定されているケース材をさらに備える、請求項1に記載の圧電振動装置。
【請求項3】
前記凹部が、前記圧電振動装置の圧電振動板を振動させた際に変位量等高線に平行な位置に設けられている、請求項1または2に記載の圧電振動装置。
【請求項4】
前記凹部に充填されている材料が接着剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項5】
前記接着剤が、前記圧電振動板を前記金属板に貼り合わせるのに用いられている接着剤と同じ材料である、請求項4に記載の圧電振動装置。
【請求項6】
前記凹部が、前記金属板の第2の面にも形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項7】
前記凹部が溝である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧電振動装置。
【請求項8】
前記凹部として、複数のドット状凹部が設けられている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧電振動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−49473(P2007−49473A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232216(P2005−232216)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】