説明

圧電素子およびその製造方法、圧電アクチュエータ、並びに、液体噴射ヘッド

【課題】信頼性の高い圧電素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る圧電素子100は、基板10と、基板10の上方に形成された下部電極20と、下部電極20の上方に形成され、短辺と長辺を有する圧電体層30と、圧電体層30の上方に形成された上部電極40と、を含み、圧電体層30の対向する短辺が、平面視において、下部電極20より外側に位置し、下部電極20の側面と圧電体層30とが接する領域に空洞部50を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子およびその製造方法、圧電アクチュエータ、並びに、液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を利用したものとしては、例えば、インクジェット記録装置に搭載される液体噴射ヘッドが知られている。液体噴射ヘッドは、圧電素子により振動板を駆動させ、圧力室に圧力を加えることにより、インク滴をノズル孔から吐出する。圧電素子は、下部電極および上部電極によって電界が印加されることで圧電体層が変形し駆動する(特開2005−119199号公報参照)。
【0003】
圧電素子は、圧電体層が下部電極と上部電極に挟まれた圧電素子の実質的な駆動領域と、圧電体層が振動板上に形成された駆動しない領域との境界に、駆動による応力が集中するため、クラック等の破壊が発生しやすい。
【特許文献1】特開2005−119199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、信頼性の高い圧電素子およびその製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、上記圧電素子を有する圧電アクチュエータおよび液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る圧電素子は、
基板と、
前記基板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、短辺と長辺を有する圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と、を含み、
前記圧電体層の対向する前記短辺が、平面視において、前記下部電極より外側に位置し、
前記下部電極の側面と前記圧電体層とが接する領域に空洞部を有することができる。
【0006】
本発明に係る圧電素子は、下部電極の側面と圧電体層とが接する領域に空洞部を有するため、圧電素子の駆動による応力が緩和され、高い信頼性を有することができる。
【0007】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。同様に、「下方」という文言は、A下に直接Bを形成するような場合と、A下に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとする。
【0008】
本発明に係る圧電素子において、
前記下部電極は、複数の層からなり、
前記空洞部は、前記下部電極の少なくとも1層の側面と前記圧電体層とが接する領域に形成されることができる。
【0009】
本発明に係る圧電素子において、
前記下部電極は、前記基板の上方に形成された第1下部電極と、
前記第1下部電極の上方に形成された第2下部電極と、を有し、
前記第1下部電極は、白金族金属からなり、
前記第2下部電極は、導電性酸化物からなることができる。
【0010】
本発明に係る圧電素子において、
前記空洞部は、前記第1下部電極の側面と前記圧電体層とが接する領域に形成されることができる。
【0011】
本発明に係る圧電素子において、
前記空洞部は、前記第2下部電極の側面と前記圧電体層とが接する領域に形成されることができる。
【0012】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極をパターニングする工程と、
前記下部電極の側面の少なくとも一部を後退させ空洞部を形成する工程と、
前記下部電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に上部電極を形成する工程と、
前記圧電体層と前記上部電極をパターニングする工程と、を含み、
前記圧電体層を形成する工程は、前記空洞部が残るように前記圧電体層が形成され、
前記圧電体層をパターニングする工程は、前記圧電体層が短辺と長辺を有し、かつ、前記短辺は、平面視において、前記下部電極より外側に位置するように形成される。
【0013】
本発明に係る圧電素子の製造方法によれば、下部電極の側面と圧電体層とが接する領域に空洞部を形成することができるため、圧電素子の駆動による応力が緩和され、信頼性の高い圧電素子を提供することができる。
【0014】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
前記下部電極を後退させる工程は、アニールまたはエッチングにより行われることができる。
【0015】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、
前記下部電極を形成する工程の後に、前記下部電極の上方に第1圧電体層を形成し、前記下部電極と前記第1圧電体層とを同一工程でパターニングする工程を有し、
前記第1圧電体層の上方に第2圧電体層が形成されることで、前記圧電体層が形成されることができる。
【0016】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
前記下部電極を形成する工程は、前記基板の上方に第1下部電極を形成する工程と、
前記第1下部電極の上方に第2下部電極を形成する工程と、を含み、
前記第1下部電極は、白金属金属からなるように形成され、
前記第2下部電極は、導電性酸化物からなるように形成されることができる。
【0017】
本発明に係る圧電アクチュエータは、
本発明に係る圧電素子を含み、
前記基板の上方に形成され、前記圧電素子によって変形する振動板を有することができる。
【0018】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、
本発明に係る圧電アクチュエータを含み、
前記基板に形成された圧力室と、
前記基板の下方に形成され、前記圧力室と連通するノズル孔を有するノズル板と、を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
1.圧電素子
図1は、本実施形態に係る圧電素子100を模式的に示した断面図である。図2は、本実施形態に係る圧電素子100を模式的に示した平面図である。なお、図1は、図2で示したA−A線における断面図である。図3および図4は、本実施形態に係る圧電素子の変形例を模式的に示した断面図である。
【0021】
圧電素子100は、図1に示すように、基板10と、下部電極20と、圧電体層30と、上部電極40と、空洞部50と、を含む。
【0022】
基板10の材質は、例えば、導電体、半導体または絶縁体などを用いることができ、特に限定されない。基板10は、例えば、(110)単結晶シリコン基板を用いることができる。基板10は、後述するインクジェット式記録ヘッドのキャビティ(圧力室)となる開口部が形成されることができる。基板10は、例えば、振動板や酸化チタン等の密着層を有してもよい。
【0023】
下部電極20は、基板10の上に形成される。下部電極20は、単層もしくは複数の層からなり、少なくとも一層の側面が後退していることができる。図1に示す例では、下部電極20は、第1下部電極22と第2下部電極24とを有することができる。下部電極20は、第1下部電極22の側面が第2下部電極24の側面より、後退していることができる。下部電極20は、圧電体層30に電圧を印加するための一方の電極である。
【0024】
第1下部電極22は、基板10の上に形成される。第1下部電極22の厚さは、例えば、80nm程度とすることができる。第1下部電極22としては、例えば、白金属金属を用いることができる。第1下部電極22としては、例えば、イリジウムまたは白金などを用いることができる。
【0025】
第2下部電極24は、第1下部電極22の上に形成される。第2下部電極24は、圧電体層30の結晶の配向を制御するバッファ層としての機能も有する。第2下部電極24の厚さは、例えば、40nm程度とすることができる。第2下部電極24としては、例えば、導電性酸化物を用いることができる。第2下部電極24としては、例えば、ランタンニッケルオキサイド(LaNiO:LNO)(以下LNOという)またはストロンチウムとルテニウムの複合酸化物(SrRuO:SRO)などを用いることができる。
【0026】
下部電極20は、図2に示すように、複数の圧電素子100の共通電極であることができる。なお、図示はしないが、下部電極20は、例えば、圧電素子100のそれぞれに設けられた独立した電極であることもできる。
【0027】
圧電体層30は、下部電極20の上に形成される。圧電体層30には、圧電性を有する材料を用いることができる。圧電体層30は、例えば、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物からなることができ、Aは、鉛を含み、Bは、ジルコニウムおよびチタンのうちの少なくとも一方を含むことができる。前記Bは、例えば、さらに、ニオブを含むことができる。具体的には、圧電体層30としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O:PZTN)などを用いることができる。圧電体層30は、第1圧電体層32と、第2圧電体層34とを有することができる。
【0028】
第1圧電体層32は、下部電極20の上に形成される。第1圧電体層32の厚さは、100nm程度とすることができる。
【0029】
第2圧電体層34は、第1圧電体層32の上と、基板10の上に形成される。第2圧電体層34の厚さは、圧電素子100の用途によるが、例えば、300nm〜3000nmとすることができる。第2圧電体層34は、図2に示すように、平面視において、短辺と長辺を有するように形成される。第2圧電体層34は、対向する短辺が下部電極20より外側に位置するように形成される。
【0030】
空洞部50は、下部電極20の少なくとも1層の側面と第2圧電体層34とが接する領域に形成されることができる。空洞部50は、第1下部電極22の側面と第2圧電体層34とが接する領域に形成されることができる。空洞部50は、例えば、第1下部電極22の側面と第2圧電体層34との間隔、すなわち空間部50の幅が、300nm程度であることができる。空洞部50は、図2に示すように、下部電極20の第2圧電体層34の短辺側の辺に形成される。空洞部50は、例えば、下部電極20が共通電極の場合、連続して形成されることができる。
【0031】
空洞部50が形成される領域は、圧電体層30が上部電極40と下部電極20とで挟まれた圧電素子100の実質的な駆動領域と、圧電体層30が基板10の上に形成された駆動しない領域との境界にあたり、圧電素子100の駆動による応力が集中する。圧電素子100は、空洞部50を有することで、駆動による応力を緩和することができる。
【0032】
上部電極40は、圧電体層30の上に形成される。上部電極40は、下部電極20と対になり他方の電極として機能する。上部電極40の厚みは、例えば、20nm〜200nmとすることができる。上部電極40としては、例えば、白金、イリジウム、それらの導電性酸化物などを用いることができる。また、上部電極40は、例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
【0033】
変形例として、図3に示すように、下部電極20は、第2下部電極24の側面が後退していることができる。空洞部50は、第2下部電極24の側面と第2圧電体層34の接する領域に形成されることができる。
【0034】
図4に示すように、例えば、第1下部電極22の側面を後退させ空洞部50が形成される場合には、第2下部電極24が空洞部50の上面を規定するため、第1圧電体層32は、形成されないこともできる。
【0035】
圧電素子100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0036】
圧電素子100は、下部電極20の側面と圧電体層30とが接する領域に空洞部50が形成されることができる。すなわち、空洞部50は、圧電素子100の実質的な駆動領域と、駆動しない領域との境界に形成されることができる。これにより、圧電素子100は、駆動による応力を緩和することができるため、クラック等の発生を防止し、高い信頼性を有することができる。
【0037】
2.圧電素子の製造方法
次に、本実施形態に係る圧電素子100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図5〜図8は、本実施形態に係る圧電素子100の製造工程を模式的に示す断面図である。図9は、本実施形態に係る圧電素子100の変形例の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0038】
図5に示すように、基板10の上に第1下部電極22と、第2下部電極24と、第1圧電体層32とをこの順に成膜する。
【0039】
第1下部電極22および第2下部電極24は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法により成膜される。
【0040】
第1圧電体層32は、例えば、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOD(Metal Organic Deposition)法、スパッタ法、レーザーアブレーション法により成膜される。ここで例えば、第1圧電体層32の材質がPZTからなる場合、酸素雰囲気で700℃程度のアニールを行うことで、第1圧電体層32が結晶化される。
【0041】
図6に示すように、第1下部電極22と、第2下部電極24と、第1圧電体層32とをパターニングして、所望の形状に形成する。各層のパターニングには、例えば、公知のリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いることができる。具体的には、図示はしないが、レジストパターンを公知の方法で形成し、各層をドライエッチング法により、パターニングする。ドライエッチング法は、ICP(Inductively Coupled Plasma)などの高密度プラズマを用いたエッチング装置で1.0Pa以下の圧力で行うと良好なパターニングができる。
【0042】
第1圧電体層32のエッチングガスとしては、例えば、塩素系のガスとフロン系のガスとの混合ガスを用いることができる。塩素系のガスとしては、例えば、BCl、Clなどが挙げられる。フロン系のガスとしては、例えば、CF、Cなどが挙げられる。第2下部電極24および第1下部電極22のエッチングガスとしては、例えば、塩素とアルゴンの混合ガスを用いることができる。第2下部電極24がLNOからなる場合、50nm/minのエッチングレートを得ることができる。第1下部電極22がイリジウムからなる場合、100nm/minのエッチングレートを得ることができる。その後、例えば、酸素プラズマを用いた公知の方法でレジストマスクを除去することができる。
【0043】
図7に示すように、第1下部電極22の側面と第2圧電体層34の接する領域に、空洞部50を形成する。空洞部50は、第1下部電極22をアニールにより収縮させることで、第1下部電極22の側面が後退し、形成されることができる。第1下部電極22がイリジウムからなる場合には、600℃〜750℃の酸素アニールを行うことで、約0.1%収縮させることができる。なお、導電性酸化物からなる第2下部電極24および第1圧電体層32は、酸素アニールによりほとんど収縮しない。また、この酸素アニールにより、第1圧電体層32は、ドライエッチングにより受けたダメージを回復することができる。例えば、ドライエッチングにより形成された第1圧電体層32の側壁部の結晶性を回復できる。
【0044】
図8に示すように、第1圧電体層32の上と、下部電極20の側面と、基板10の上とを覆う第2圧電体層34を成膜する。第2圧電体層34の成膜は、空洞部50が残るように行われる。具体的には、第2圧電体層34は、例えば、ゾルゲル法や、MOD(Metal Organic Deposition)法等の溶液塗布法、スパッタ法により成膜されることができる。成膜が比較的埋め込み特性の良くない溶液塗布法、スパッタ法により行われるため、空洞部50は、第2圧電体層34が入り込むことがなく、残ることができる。溶液塗布法においては、原料液塗布、予備加熱、結晶化アニールの一連の作業を複数回繰り返して、所望の膜厚にしてもよい。
【0045】
図1に示すように、上部電極40を成膜した後、上部電極40と圧電体層30をパターニングして、所望の形状に形成する。
【0046】
上部電極40は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法により形成される。
【0047】
パターニングは、例えば、公知のリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いることができる。第2圧電体層34は、図2に示すように、短辺と長辺を有し、かつ、短辺が、平面視において、下部電極20より外側に位置するようにパターニングされることができる。
【0048】
以上の工程により、圧電素子100を製造することができる。
【0049】
変形例として、図3に示す圧電素子100は、上述の空洞部50を形成する工程を以下の工程に置き換えることで形成される。
【0050】
図9に示すように、第2下部電極24の側面を後退させて、空洞部50を形成することができる。第2下部電極24は、例えば、ウエットエッチングにより選択的にエッチングされることで、側面を後退させることができる。第2下部電極24がLNOからなる場合、例えば、フッ化水素(HF)またはヘキサフルオロ珪酸(HSiF)を用いてエッチングすることができる。
【0051】
以上の工程に置き換えることで、図3に示す圧電素子100を製造することができる。
【0052】
また、下部電極20が複数の層からなる場合は、少なくとも1層を上述のいずれかの方法により後退させることで、空洞部50を設けることができる。また、例えば、上述の方法を組み合わせることにより、複数の空洞部50を設けることもできる。
【0053】
圧電素子100の製造方法は、例えば、以下のような特徴を有する。
【0054】
圧電素子100の製造方法によれば、下部電極20の側面と圧電体層30とが接する領域に空洞部50が形成されることができる。すなわち、空洞部50は、圧電素子100の実質的な駆動領域と、駆動しない領域との境界に形成されることができる。これにより、圧電素子100は、駆動による応力を緩和することができるため、クラック等の発生を防止し、高い信頼性を有することができる。
【0055】
3.液体噴射ヘッド
次に、上述した圧電素子がアクチュエータとして機能している液体噴射ヘッドについて説明する。
【0056】
図10は、本実施に係る液体噴射ヘッド200の要部を模式的に示す断面図である。図11は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド200の分解斜視図である。なお、図11は、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0057】
液体噴射ヘッド200は、図10に示すように、ノズル板70と、圧力室12と、圧電アクチュエータ150と、を含む。圧電アクチュエータ150は、振動板60と、圧電素子100と、を含む。液体噴射ヘッド200は、図11に示すように、さらに、筐体17を有する。なお、図11では、便宜上、積層体90を簡略化している。
【0058】
ノズル板70は、圧力室(キャビティ)12に通じるノズル孔72を有する。ノズル孔72からは、インクが吐出される。ノズル板70は、例えばステンレス鋼(SUS)製の圧延プレートである。ノズル板70は、通常使用される状態では基板10の下(図11では上)に固定される。筐体17は、ノズル板70および圧電素子100を収納することができる。筐体17は、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料等を用いて形成される。
【0059】
基板10がノズル板70と振動板60との間の空間を区画することにより、リザーバ(液体貯留部)14、供給口15および複数のキャビティ12が設けられている。振動板60には、厚さ方向に貫通した貫通孔16が設けられている。リザーバ14は、外部(例えばインクカートリッジ)から貫通孔16を通じて供給されるインクを一時的に貯留する。供給口15によって、リザーバ14から各キャビティ12へインクが供給される。
【0060】
キャビティ12は、基板10に形成されている。キャビティ12は、各ノズル孔72に対して1つずつ配設されている。キャビティ12は、振動板60の変形により容積可変になっている。この容積変化により、ノズル孔72からインクが吐出される。
【0061】
振動板60は、基板10の上に形成されている。振動板60は、圧電素子100の動作により、屈曲することができる。振動板60は、例えば、酸化シリコンと酸化ジルコニウムの2層からなることができる。
【0062】
積層体90は、下部電極20と、圧電体層30と、上部電極40と、空洞部50と、を含む。積層体90は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)することができる。振動板60は、積層体90の変形によって変形し、キャビティ12の内部圧力を瞬間的に高めることができる。
【0063】
本実施形態に係る圧電アクチュエータ150と液体噴射ヘッド200は、例えば、以下の特徴を有する。
【0064】
本実施形態に係る圧電素子100は、上述のように、高い信頼性を有する。これにより、高い信頼性を有する圧電アクチュエータ150と液体噴射ヘッド200を得ることができる。
【0065】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッド200がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本発明の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0066】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【0067】
例えば、上述した本発明の実施形態に係る圧電素子は、発振器や周波数フィルタなどに用いられる圧電振動子、デジタルカメラやカーナビゲーションシステムなどに用いられる角速度センサなどに適用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図2】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す平面図。
【図3】本実施形態に係る圧電素子の変形例を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る圧電素子の変形例を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図6】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る圧電素子の変形例の製造工程を模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図11】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0069】
10 基板、12 圧力室(キャビティ)、14 リザーバ、15 供給口、16 貫通孔、17 筐体、20 下部電極、22 第1下部電極、24 第2下部電極、30 圧電体層、32 第1圧電体層、34 第2圧電体層、40 上部電極、50 空洞部、60 振動板、70 ノズル板、72 ノズル孔、90 積層体、100 圧電素子、150 圧電アクチュエータ、200 液体噴射ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、短辺と長辺を有する圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と、を含み、
前記圧電体層の対向する前記短辺が、平面視において、前記下部電極より外側に位置し、
前記下部電極の側面と前記圧電体層とが接する領域に空洞部を有する、圧電素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記下部電極は、複数の層からなり、
前記空洞部は、前記下部電極の少なくとも1層の側面と前記圧電体層とが接する領域に形成される、圧電素子。
【請求項3】
請求項2において、
前記下部電極は、前記基板の上方に形成された第1下部電極と、
前記第1下部電極の上方に形成された第2下部電極と、を有し、
前記第1下部電極は、白金族金属からなり、
前記第2下部電極は、導電性酸化物からなる、圧電素子。
【請求項4】
請求項3において、
前記空洞部は、前記第1下部電極の側面と前記圧電体層とが接する領域に形成される、圧電素子。
【請求項5】
請求項3において、
前記空洞部は、前記第2下部電極の側面と前記圧電体層とが接する領域に形成される、圧電素子。
【請求項6】
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極をパターニングする工程と、
前記下部電極の側面の少なくとも一部を後退させ空洞部を形成する工程と、
前記下部電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に上部電極を形成する工程と、
前記圧電体層と前記上部電極をパターニングする工程と、を含み、
前記圧電体層を形成する工程は、前記空洞部が残るように前記圧電体層が形成され、
前記圧電体層をパターニングする工程は、前記圧電体層が短辺と長辺を有し、かつ、前記短辺は、平面視において、前記下部電極より外側に位置するように形成される、圧電素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記下部電極を後退させる工程は、アニールまたはエッチングにより行われる、圧電素子の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記下部電極を形成する工程の後に、前記下部電極の上方に第1圧電体層を形成し、前記下部電極と前記第1圧電体層とを同一工程でパターニングする工程を有し、
前記第1圧電体層の上方に第2圧電体層が形成されることで、前記圧電体層が形成される、圧電素子の製造方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかにおいて、
前記下部電極を形成する工程は、前記基板の上方に第1下部電極を形成する工程と、
前記第1下部電極の上方に第2下部電極を形成する工程と、を含み、
前記第1下部電極は、白金属金属からなるように形成され、
前記第2下部電極は、導電性酸化物からなるように形成される、圧電素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれかに記載の圧電素子を含み、
前記基板の上方に形成され、前記圧電素子によって変形する振動板を有する、圧電アクチュエータ。
【請求項11】
請求項10に記載の圧電アクチュエータを含み、
前記基板に形成された圧力室と、
前記基板の下方に形成され、前記圧力室と連通するノズル孔を有するノズル板と、を有する、液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−206329(P2009−206329A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47867(P2008−47867)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】