圧電素子の製造方法及び圧電素子
【課題】圧電特性をより向上する。
【解決手段】圧電素子20は、一般式ABO3で表される酸化物を主成分とした配向結晶32となる、無機粒子と配向した結晶粒子とを、A/Bが1.005以上1.04以下となる配合比で混合する工程と、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下となる組成の第1電極22を基板12上に形成する工程と、混合した原料を所定方向に配向させ所定の成形体に第1電極22上へ成形する工程と、成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成する工程と、によって作製されている。
【解決手段】圧電素子20は、一般式ABO3で表される酸化物を主成分とした配向結晶32となる、無機粒子と配向した結晶粒子とを、A/Bが1.005以上1.04以下となる配合比で混合する工程と、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下となる組成の第1電極22を基板12上に形成する工程と、混合した原料を所定方向に配向させ所定の成形体に第1電極22上へ成形する工程と、成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成する工程と、によって作製されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造方法及び圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子の製造方法としては、第1のペロブスカイト型5価金属酸アルカリ化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する第1異方形状粉末と、第1異方形状粉末と反応して少なくとも第1のペロブスカイト型5価金属酸アルカリ化合物を生成する第1反応原料との混合物を、第1異方形状粉末が配向するように成形し、加熱することにより、結晶が配向したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1の圧電素子では、圧電特性を高めることができる。
【特許文献1】特開2003−12373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この特許文献1に記載された圧電素子の製造方法では、結晶の配向度を高めようとすると例えば焼成温度を1100℃以上などに高くすることがあり、焼成温度によっては、例えば含まれる成分が揮発するなどして変化し、得られる圧電素子の組成が目的とするものからずれてしまい、目的とする圧電特性が得られないことがあった。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、圧電特性をより向上することができる圧電素子の製造方法及び圧電素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、AサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む一般式ABO3で表される酸化物を主成分とする圧電体において、AサイトとBサイトの比であるA/B値を好適なものとすると共に、焼成温度を1000℃以上1075℃以下の範囲とすると、消費エネルギをより低減すると共に、圧電特性をより向上することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の圧電素子の製造方法は、
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含みBサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む結晶体となる無機粒子と配向した結晶粒子とを前記Aサイトと前記Bサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下となる配合とし、該結晶粒子を所定方向に配向させた成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成し特定の結晶面を揃えた状態で配向する圧電体を生成する焼成工程と、
を含むものである。
【0007】
また、本発明の圧電素子は、
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む複数の結晶体を含み、該結晶体が特定の結晶面を揃えた状態で配向している圧電体と、
前記圧電体に隣接しており、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdに対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下である電極と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この圧電素子の製造方法では、圧電特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、一般式ABO3で表される酸化物のAサイトとBサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下の範囲で原料を配合するため、焼成時に生じる組成ずれをより抑制することができる。また、積層圧電素子など電極との同時焼成によって圧電素子を作製する場合、Ag/Pd合金におけるPd30重量%以下の電極が一般的に用いられるが、この場合、耐熱性やPdの使用量の点で、1100℃以下で焼成することが望ましい。ここでは、1075℃以下の温度で焼成するため、耐熱性を高めると共に、希少資源であるPdの使用を抑制する点で優位であるし、この温度を超えて焼成するものに比して圧電体の組成ずれをより抑制することができる。また、1000℃以上で焼成するため、例えば圧電体の密度がより高まり、より高配向なものとすることができる。このため、圧電特性、例えば電界誘起歪や誘電正接tanδなどの特性を高めることができると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の圧電素子20を備えたアクチュエータ10の一例を表す説明図であり、図2は、図1のA−A断面図である。本実施形態のアクチュエータ10は、下方に向かって開口した空間部14が形成された基板12と、空間部14の上方側の基板12の上面に形成された第1電極22と、第1電極22上に形成され電力の入出力に伴い体積変化する圧電体30と、圧電体30の上方に形成された第2電極24と、を備えている。このアクチュエータ10は、電圧を印加して圧電体30を駆動し、基板12の空間部14に収容された流体(例えば液体など)へ圧力を付与するものである。
【0010】
基板12は、特に限定されないが、例えば、安定化された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム及び窒化珪素からなる群より選択される少なくとも一種を含むセラミックスからなることが好ましく、中でも、機械的強度が大きく、靭性に優れる点から安定化された酸化ジルコニウムからなることがより好ましい。なお、本発明にいう「安定化された酸化ジルコニウム」とは、酸化カルシウムや酸化マグネシウムなどの安定化剤の添加により結晶の相転移を抑制した酸化ジルコニウムをいい、安定化酸化ジルコニウムの他、部分安定化酸化ジルコニウムを包含する。
【0011】
第1電極22は、矩形状に形成された部材であり、その一端に外部に接続される矩形状のタブ22aが設けられている。第1電極22の材質としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも一種の金属を挙げることができるが、ここでは、Ag/Pd合金を主成分としている。こうすれば、後述する圧電体30の焼成温度に耐えることができる。この第1電極22は、Ag及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることが、存在量の少ないPdの使用量を抑制可能でありより好ましい。なお、第2電極24についても、タブ22aと対向する側にタブ24aが形成される以外は第1電極22と同様に形成されている。この第1電極22は、サンドイッチ構造、櫛形構造、タイガースキン(虎柄)構造などの形状とすることができる。基板12と平行な面内に分極軸が含まれる様に圧電体30を配向させる場合は、タイガースキン構造や櫛形構造とすることが、電界方向が基板12と平行な面内となり、好ましい。こうすれば、配向していない圧電体と比較して高い圧電特性を得ることができる。一方、基板12に垂直な方向に分極軸を配向させる場合は、図2に示すようなサンドイッチ素子構造とすることで、電界方向と分極軸方向が一致し、より好ましい。ここで、分極軸とは、イオンが変位し自発分極が発生する方向をいい、その方向で高い圧電特性を示す。なお、第2電極24についても、第1電極22と同様の構成である。
【0012】
圧電体30は、外形を矩形状とし、第1電極22及び第2電極24に挟持された状態で第1電極22を介して間接的に基板12上に配設されている。この圧電体30は、特定の方向に結晶体の特定の結晶面が配向した複数の配向結晶32を含んでいる。この圧電体30は、1層により形成されていてもよいし、複数の層状に形成されていてもよい。層状であるかについては、圧電素子20の断面を視認して確認することができる。また、圧電体30は、一般式ABO3で表される酸化物を主成分とし、AサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含むものとしてもよく、このうち(LiXNaYKZ)NbMTaNO3や(BiXNaYKZAgN)TiO3など(X,Y,Z,M,Nは任意の数を表す)が特に好ましい。こうすれば、特定の結晶面が成長した配向結晶32を得られやすい。ここで、「主成分」とは、一般式ABO3で表される三成分固溶系組成物の含有割合が、70重量%以上であることをいい、好ましくは90重量%以上であることをいう。なお、ここに挙げた元素以外を含んでいても構わない。このとき、圧電体30は、焼成前(後述する焼成工程前、例えば原料配合時など)のAサイトとBサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下であり、0.01以上1.03%以下であることがより好ましい。一般式ABO3で表される酸化物のA/Bがこの範囲では、焼成による組成ずれを抑制すると共に、配向度を大きいものとすることができる。
【0013】
圧電体30は、所定方向として、電界方向に沿って、即ち第1電極22及び第2電極24の電極面に対して直交する方向に結晶面が配向していることが好ましい。圧電体30において、特定の結晶面の配向度は、ロットゲーリング法で25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることが一層好ましく、80%以上であることが最も好ましい。配向度が25%以上であると、より高い圧電/電歪特性を得ることができる。この特定の結晶面は、圧電/電歪体の面内にある擬立方(100)面としてもよい。この擬立方(100)とは、等方性ペロブスカイト型の酸化物は正方晶、斜方晶及び三方晶など、立方晶からわずかに歪んだ構造をとるがその歪みがわずかであるため立方晶とみなしてミラー指数により表示することを意味する。ここで、ロットゲーリング法による配向度は、圧電体30の配向した面に対しXRD回折パターンを測定し、次式(1)により求めるものとした。この数式(1)において、ΣI(hkl)が圧電体30で測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)が圧電体30と同一組成であり無配向のものについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、Σ’I(HKL)が圧電体30で測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(例えば(100)面)のX線回折強度の総和であり、Σ’I0(HKL)が圧電体30と同一組成であり無配向のものについて測定された特定の結晶面のX線回折強度の総和である。
【数1】
【0014】
圧電素子20は、上述した一般式ABO3で表される酸化物を主成分とした配向結晶32となる、無機粒子と配向した結晶粒子とを、A/Bが1.005以上1.04以下となる配合比で混合する混合工程と、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下となる組成の第1電極22を基板12上に形成する電極形成工程と、混合工程で得られた原料を所定方向に配向させ所定の成形体に第1電極22上へ成形する成形工程と、成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成し特定の結晶面を揃えた状態で配向する圧電体30を生成する焼成工程と、によって作製されているものである。即ち、この圧電素子20は、焼成後の成形体に含まれるAサイトの成分を所定の過剰量に配合し、焼成温度を高めすぎないように焼成して作製されている。こうすれば、より高い圧電特性を得ることができるし、熱エネルギの消費を低減することができる。また、第1電極22や第2電極24と圧電体30とを並行して焼成するため、熱エネルギの消費を一層低減することができる。なお、第1電極22と圧電体30とは、同時に焼成してもよいし、第1電極22を先に焼成してから圧電体30を形成して焼成する工程を経てもよい。
【0015】
圧電素子20は、誘電正接tanδが0.1%以上4.0%以下であることが好ましく、1.0%以上3.0%以下であることがより好ましい。誘電正接tanδが0.1%以上4.0%以下であると、圧電特性として好ましい。また、圧電素子20は、電界誘起歪が800ppm以上であることが好ましく、1000ppm以上であることがより好ましい。電界誘起歪が800ppm以上であると、圧電特性として好ましい。なお、この電界誘起歪は、1500ppm以下であることが圧電特性の安定性の面で好ましい。また、圧電素子20において、圧電体30は、理論密度に対する相対密度が94%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。相対密度が94%以上では、誘電正接tanδがより低い値を示し、電界誘起歪がより大きな値を示すため、十分な圧電特性を有するものとすることができる。この圧電体30の相対密度は、圧電特性から考慮して、96.5%未満であることが好ましい。
【0016】
次に、圧電素子20の製造方法について説明する。図3は、結晶粒子34を作製する際に製造するセラミックスシート40の説明図であり、図4は、圧電素子20の製造方法の一例を示す説明図である。図4は、上段から順に、第1電極22の形成工程、結晶粒子34を含む成形体36の成形工程、第2電極24の形成工程、第1電極22と第2電極24と成形体36との焼成工程、の説明図である。圧電素子20の製造方法は、図4に示すように、(1)基板12上へ第1電極22を形成する第1電極形成工程と、(2)成形体36の原料を調製する原料調製工程と、(3)第1電極22上に成形体36を形成する成形工程と、(4)成形体36上に第2電極24を形成する第2電極形成工程と、(5)未焼成の第1電極22と第2電極24と成形体36とを同時に焼成する焼成工程と、を含むものである。
【0017】
(1)第1電極形成工程
第1電極22を配設する基板12としては、以下説明する工程での熱処理温度よりも高い温度で焼成され、以下の工程による熱処理で変形及び変質しないセラミックスとすることが好ましい。この基板12としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム及び窒化珪素からなる群より選択される少なくとも一種を含むセラミックスからなることが好ましく、このうち、酸化ジルコニウムを主成分とするものがより好ましく、安定化された酸化ジルコニウムを主成分とするものが一層好ましい。この基板12は、所望の形状に成形して焼成することにより得られる。第1電極22は、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下となる組成で作製するものとする。第1電極22の形成方法としては、例えば、上記金属のペーストを調製し、このペーストを基板12上へドクターブレード法やスクリーン印刷法などにより塗布することにより形成することができる(図4最上段)。第1電極22の厚さは、圧電体30の形成厚さにもよるが、圧電体30の変位の付与・抑制などの観点より、0.1μm以上20μm以下程度に成形することが好ましい。
【0018】
(2)原料調製工程
この工程では、無機粒子を配向して結晶化したテンプレートとしての結晶粒子を作製すると共に、配向していない無機粒子を作製し、得られた結晶粒子及び無機粒子を所定の配合比になるよう混合し成形体36の原料を調製する。配向していない無機粒子は、所定の組成の原料粒子を粉砕・仮焼し、得られたものを更に粉砕することにより得ることができる。無機粒子としては、目的の成分の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酒石酸塩などを用いることができるが、主として酸化物、炭酸塩を用いることが好ましい。また、結晶粒子の原料は、無機粒子の作製と同様の処理により作製することができる。結晶粒子は、例えば、厚さを15μm以下とし、配向していない無機粒子を含む自立したシート形状に成形して焼成し、所定方向へ配向した結晶粒子を含むセラミックスシートを作製し(図3参照)、このセラミックスシートをアスペクト比が2以下、より好ましくは3以下にならない程度に解砕して得ることができる。ここでは、「自立したシート」とは、シート厚さを15μm以下に成形したシート状の成形体を焼成して得たものをいい、他のシートに積層して焼成された状態であるものや、なんらかの基板に貼り付けて焼成された状態であるもの、スパッタ、ゾルゲル、エアロゾルデポジション法、印刷法などによりなんらかの基板に成膜され支持された状態のものを含まない趣旨である。なお、「自立したシート」は、なんらかの基板に貼り付けたり成膜したりして、焼成前、又は焼成後に、この基板から剥離したものをも含む。
【0019】
ここで、図3に示す、セラミックスシート40による結晶配向のメカニズムについて説明する。セラミックスシート40では、厚さが15μm以下のシート状に成形して焼成させ粒成長させるので、シートの厚さ方向への粒成長は限られており、シート面方向に、より粒成長が促進されるから、例えば所定焼成条件において、等方的且つ多面体形状の結晶粒子に成長するもの、例えば立方体に成長するものでも、特定の結晶面をシート表面に揃えた状態(配向した状態)で、平板状のアスペクト比のより大きな結晶粒子42に成長させることができる。ここで、「所定焼成条件における成長形」とは、与えられた熱処理条件下で無機粒子の結晶が平衡に達したときに見られるモルフォロジーと定義され、例えば、バルクを焼成し結晶化を進めた際に表面の粒子の形状を観察することにより得られるものである。また、結晶粒子のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡を用いてシート面を観察し、結晶粒子が20〜40個程度含まれる視野において、粒子の最長の長さと最短の長さとを計測し、長辺を短辺で除算した値を求めるのを、視野に含まれる全粒子について行い、得られた値の平均値とする。
【0020】
無機粒子は、ペロブスカイト構造を有する酸化物となるものが好ましく、更に、焼成後の結晶が一般式ABO3で表される酸化物であり、このAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含むものとなるものを用いるものとする。例えば、圧電体30の原料として、NaNbO3のAサイトの一部をLi,Kなどで置換し、Bサイトの一部をTaなどで置換したもの((LiXNaYKZ)NbMTaNO3:X,Y,Z,M,Nは任意の数を表す)となるようなものとすると、900℃〜1300℃での成長形が立方体形状となるため、好ましい。なお、ここに挙げた元素以外を添加しても構わない。また、(Bi0.5Na0.5-xKx)TiO3を主組成とするものにおいては、X>0.01とすることで成長形が立方体形状となるため、好ましい。
【0021】
セラミックスシートの作製条件について、シートの厚さとしては、15μm以下とすることが好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が一層好ましく、2μm以下とすることが更に一層好ましい。10μm以下ではより高い配向度を得ることができ、5μm以下であればより一層高い配向度を得ることができる。また、シート厚さは、0.1μm以上とするのが好ましい。シート厚さが0.1μm以上であれば、セラミックスシートを作製しやすい。セラミックスシートに用いる無機粒子は、そのメディアン径(D50)をシート厚さの2%以上60%以下とすることが好ましい。メディアン径がシート厚さの2%以上であれば粉砕処理が容易であり、60%以下であればシート厚さを調整しやすい。セラミックスシートの焼成条件について、焼成により平衡形の結晶が得られる焼成温度、例えばバルクを焼成することにより緻密化、粒成長する焼成温度に比べて1割以上高い温度で、このシートを焼成することが好ましい。1割以上高い温度では、極薄のシートに含まれる結晶の粒成長を十分進めることができる。なお、成形体の材料が分解しない程度に高い温度で焼成することが好ましい。特に、シートの厚さがより薄くなると、粒成長がしにくくなるため、焼成温度をより高くする傾向とすることが好ましい。例えば、NaNbO3のAサイトにLi,Kなどを添加し、BサイトにTaを添加したもの((LiXNaYKZ)NbMTaNO3)のセラミックスシートの焼成では、成形したシートの焼成温度を900℃以上1250℃以下とすることが好ましく、1050℃以上とするのが好ましい。焼成温度が900℃以上では、粒子の結晶の成長が促されるため好ましく、1250℃以下では、アルカリ成分などの揮発を少なく抑えることができ、材料が分解してしまうのを抑制することができる。このように焼成することにより、結晶面が配向した結晶粒子42を成長させることができる。こうして得た結晶粒子42と配向していない無機粒子とを、一般式ABO3で表される酸化物のAサイトとBサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下となるよう配合して混合する。A/Bがこの範囲で所定温度範囲で焼成すると、圧電体30の組成ずれを抑制することができるし、誘電正接tanδを好ましい範囲とすることができる。そして、この混合したものを分散媒に分散させ、適宜バインダーや可塑剤などを加え、スラリー状又はペースト状の塗布原料とする。ここで、スラリーは、粘度が1000〜6000cPとなるように調製するのが好ましく、減圧下で脱泡するのが好ましい。
【0022】
(3)成形工程
第1電極22上へ上記塗布原料を用いて成形体36を成形する。このとき、結晶粒子34が一定方向を向くような塗布処理を行い、結晶粒子34や無機粒子を第1電極22上へ形成する(図4の2段目参照)。この塗布処理は、スクリーン印刷法やドクターブレード法などにより行うことができる。また、塗布処理での成形体36の厚さは、特に限定されないが、例えば、1μm以上20μm以下など、圧電体30として必要とする所望の厚さになるよう塗布原料を1回以上繰り返して塗布すればよい。
【0023】
(4)第2電極形成工程
次に、形成した成形体36上に第2電極24を形成する処理を行う。ここでは、第1電極22を形成した面の裏側の他方の面に第2電極24を形成するものとした(図4の3段目参照)。この第2電極24の形成は、上述した第1電極形成工程と同様の条件で行う工程とすることもできるし、第1電極形成工程と異なる条件で行う工程とすることもできる。
【0024】
(5)焼成工程
この工程では、成形体36を1000℃以上1075℃以下の範囲の焼成温度で焼成することにより、結晶粒子34の特定の面が配向している所定方向に他の無機粒子を配向させた配向結晶32を粒成長させ圧電体30を第1電極22上へ固着させると共に、第1電極22及び第2電極24を固化する処理を行う。この特定の面としては、例えば、圧電体の面内にある擬立方(100)面とすることができ、特定の方向としては、例えば、電界方向に沿って、即ち第1電極22及び第2電極24の電極面に対して直交する方向とすることが好ましい。こうして、図4に示すように、含まれる無機粒子が、特定の結晶面の配向した配向結晶32へ粒成長したものを得ることができる。なお、バインダーなどを含む成形体36を焼成する場合は、焼成を行う前に脱脂を主目的とする熱処理を行ってもよい。このとき、脱脂の温度は、少なくともバインダーなどの有機物を熱分解させるに十分な温度(例えば400〜600℃)とする。また、脱脂を行ったあと、焼成を行う前に静水圧処理(CIP)を行うのが好ましい。脱脂後のシートに対して更に静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、シートの体積膨張に起因する焼結体密度の低下などを抑制することができる。また、この焼成工程では、成形体に含まれる特定成分(例えばアルカリなど)の揮発を抑制する揮発抑制状態で成形体を焼成することが好ましい。こうすれば、成形体からの特定の元素が揮発してしまうのを抑制することにより、焼成後の組成がずれてしまうのを抑制することができる。例えば、揮発抑制状態としては、圧電体30とは別の無機粒子を共存させた状態や、蓋付きの鞘などに入れた密閉状態などが挙げられる。このとき、共存させる無機粒子の量や鞘内部の容積など、焼成時の条件を適切な状態に経験的に設定することが重要である。なお、面内の粒成長を促進する観点から、ホットプレスなど加重焼成してもよい。このように、第1電極22と第2電極24とに挟み込まれた圧電体30を備えた圧電素子20が第1電極22側で基板12上に配設されたアクチュエータ10を作製することができる(図4の最下段)。
【0025】
以上詳述した本実施形態の圧電素子20によれば、圧電体30の配向度を高めることにより、圧電特性をより高めることができる。また、1075℃以下で焼成するため、熱エネルギの消費量をより低減することができる。また、AサイトとBサイトの比である焼成前のA/Bが1.005以上1.04以下であるため、焼成後の組成ずれをより低減することができ、圧電特性をより向上することができる。更に、第1電極22と第2電極24と成形体36とを同時に焼成するため、消費エネルギを一層低減することができる。更にまた、1000℃以上で焼成するため、圧電体30の密度をより好適なものとすることができる。更にまた、1075℃以下で焼成するため、高コスト且つ希少資源であるPdが30重量%以下、さらには20重量%以下のAg/Pd電極と圧電体とを同時に焼成することができる。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0027】
例えば、上述した実施形態では、セラミックスシート40を解砕して得た配向した結晶粒子34と、配向していない無機粒子として成形体36を成形して圧電体30を作製するものとしたが、図5に示すように、セラミックスシート40と無機粒子層44とを積層して積層体46を成形して圧電体30を作製するものとしてもよい。即ち、結晶粒子34と無機粒子とを混合せずに圧電体30を作製するものとしてもよい。図5は、セラミックスシートを積層して圧電体30を作製する説明図である。図5に示すように、セラミックスシート40と無機粒子層44とを各1層以上繰り返し積層させ、積層体46を成形し、これを上述した焼成工程と同様に焼成する。なお、セラミックスシート40と無機粒子層44とを積層するものとすれば、セラミックスシート40は、解砕せずに積層するものとしてもよいし解砕して積層するものとしてもよい。こうしても、配向結晶32を含む圧電体30を作製することができる。
【0028】
上述した実施形態では、塗布することにより成形体36を形成するものとしたが、特に塗布するものに限られず、例えば、ゾルゲル法や化学気相成長法、スパッタリング方などを用いて基板12上や第1電極22上や各層上のいずれかへ成形体36を形成するものとしてもよい。こうすれば、粒径が小さく、表面粗さの小さな緻密な圧電体30を形成することができる。また、これらの方法のいずれかを用いれば、均質性の優れたものが作製できるため、薄くても耐電圧が高いものを作製でき、高電界を印加した際に絶縁破壊してしまうのを抑制し、高い変位を得ることができる。
【0029】
上述した実施形態では、第1電極22と第2電極24と成形体36とを同時に焼成するものとしたが、これらのいずれかを別々に焼成するものとしてもよい。こうしても、焼成時の組成ずれを抑制して圧電特性を向上することができる。
【0030】
上述した実施形態では、セラミックスシートを作製することにより結晶粒子を得るものとしたが、これに限定されず、例えば、異方形状(板状など)になりやすい層状ペロブスカイト構造を有する組成において板状結晶を得たあと、溶融塩中などでこの組成の一部を置換させることにより所望の組成で配向した結晶粒子を作製し、これを用いて圧電素子20の製造を行うものとしてもよい。
【0031】
上述した実施形態では、第1電極22を介して圧電体30を基板12上に形成するものとしたが、圧電体30を基板12に直接形成するものとしてもよい。こうしても、焼成時の組成ずれを抑制して圧電特性をより向上することができる。なお、上述した実施形態では、第1電極22を形成したあとこれに隣接するように成形体36を形成するものとしたが、成形体36を形成したあとこれに隣接するように第1電極22を形成するような構成としてもよい。
【0032】
上述した実施形態では、液体を吐出させるアクチュエータ10として説明したが、圧電特性を用いるものであれば特にこれに限られず用いることができる。例えば、この圧電素子20は、誘電体材料、焦電体材料、強誘電体材料、磁性材料、イオン伝導材料、電子伝導性材料、熱伝導材料、熱電材料、超伝導材料、耐摩耗性材料等の機能や特性が結晶方位依存性を有する物質よりなる多結晶材料へ用いることができる。具体的には、加速度センサ、焦電センサ、超音波センサ、電界センサ、温度センサ、ガスセンサ、ノッキングセンサ、ヨーレートセンサ、エアバックセンサ、圧電ジャイロセンサ等の各種センサ、圧電トランス等のエネルギー変換素子、超音波モータ、レゾネータ等の低損失アクチュエータ又は低損失レゾネータ、キャパシタ、バイモルフ圧電素子、振動ピックアップ、圧電マイクロホン、圧電点火素子、ソナー、圧電ブザー、圧電スピーカ、発振子、フィルタ、誘電素子、マイクロ波誘電素子、熱電変換素子、焦電素子、磁気抵抗素子、磁性素子、超伝導素子、抵抗素子、電子伝導素子、イオン伝導素子、PTC素子、NTC素子等に応用すれば、高い性能を有する各種素子を得ることができる。このとき、圧電体30の厚さや配向度は、用途に合わせた値を適宜設定するものとする。
【0033】
上述した実施形態では、基板12に空間部14を1つ備えたものとしたが、空間部14と圧電体30とを複数配列したものとしてもよい。あるいは、空間部14の形成されていない基板を用いてもよい。
【0034】
上述した実施形態では、圧電体30を矩形板状の形状としたが、特にこれに限定されず、任意の形状としてもよい。また、第1電極22や第2電極24、基板12についても同様である。
【0035】
上述した実施形態では、圧電素子20は、基板12上に圧電体30を形成した膜型圧電素子として説明したが、図6、7に示すように、積層型圧電素子120としてもよい。図6は、積層型の圧電素子120の説明図であり、図7は、図6の縦断面図である。この圧電素子120は、圧電体130を複数積層すると共に、積層された圧電体130の間に複数の内部電極(内部電極層123,125)が交互に配設された、いわゆる積層型の圧電素子として構成されている。この圧電素子120では内部電極層123が第1電極122に接続され、内部電極層125が第2電極124に接続されている。この圧電素子120は、図2に示す圧電素子20と異なり、圧電体30や第1電極22,第2電極24を固着する基板12を構成要素として有していないものである。この圧電素子120は、圧電体130に配向結晶を有しており、上述した実施形態と同様に、圧電体30の配向度を高め、焼成後の組成ずれをより低減することなどにより、圧電特性をより高めることができる。また、1075℃以下で焼成するため、熱エネルギの消費量をより低減することができる。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0037】
以下には、圧電素子を具体的に製造した例を、実験例として説明する。ここでは、基板12に固着しない積層型で且つ積層せず1層だけ形成した圧電素子を作製した(図6参照)。
【0038】
[実験例1]
<原料調製工程>
この原料調製工程では、圧電体30の原料として、極薄のセラミックスシートを作成して所定方向に配向した結晶粒子を作製すると共に、配向していない無機粒子を作製する。セラミックスシートの作製は、更に無機粒子の合成工程、セラミックスシートの成形工程、シート上成形体の焼成工程を含んでいる。以下、セラミックスシートの作製工程から説明する。
【0039】
(セラミックスシートに用いる無機粒子の合成工程)
{Li0.06(Na0.55K0.45)0.94}1.01(Nb0.918Ta0.082)O3+0.2mol%MnO2の組成比となるように、各粉末(Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Nb2O5、Ta2O5、MnO2)を秤量した。ポリポットに、秤量物と、ジルコニアボールと、分散媒としてエタノールを入れ、ボールミルで16h湿式混合、粉砕を行った。得られたスラリーをエバポレータ及び乾燥機によって乾燥した後、850℃,5hの条件化で仮焼成した。この仮焼粉末と、ジルコニアボールと、分散媒としてエタノールを入れ、ボールミルで5h湿式粉砕し、エバポレータ及び乾燥機によって乾燥して、{Li0.06(Na0.55K0.45)0.94}1.01(Nb0.918Ta0.082)O3+0.2mol%MnO2の無機粒子粉体を得た。この粉体をHORIBA製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−750を用い、水を分散媒として平均粒径を測定したところ、メディアン径(D50)は、0.4μmであった。なお、一般式ABO3で表される酸化物のA/B値が1.01となるように各原料を配合した。
【0040】
(自立したセラミックスシートの成形工程)
分散媒としてのトルエン、イソプロパノールを等量混合したものに、上記の無機粒子粉体と、バインダーとしてポリビニルブチラール(BM−2、積水化学製)、可塑剤(DOP、黒金化成製)と、分散剤(SP−O30、花王製)とを混合し、スラリー状の成形原料を作製した。各原料の使用量は、無機粒子100重量部に対して、分散媒100重量部、バインダー10重量部、可塑剤4重量部及び分散剤2重量部とした。次に、得られたスラリーを、減圧下で撹拌して脱泡し、粘度500〜700cPとなるように調製した。スラリーの粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。得られたスラリーをドクターブレード法によってPETフィルムの上にシート状に成形した。乾燥後の厚さを2μmとした。
【0041】
(シート状の成形体の焼成工程)
PETフィルムからはがしたシート状の成形体を、カッターで70mm角に切り出し、ジルコニアからなるセッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置した。このセッターに、シート状の成形体と同じ成形原料からなる未焼成のシート成形体(寸法5mm×40mm、厚さ100μm)をシート状の成形体の四辺の外側に載置してこれを囲い、その上に更にジルコニアの角板(寸法70mm角、高さ1mm)を載置した。こうして、シート状の成形体の空間をできるだけ小さくすると共に、同じ成形原料を共存させる焼成条件とした。そして、600℃、2h脱脂後、1100℃で5h焼成を行った。焼成後、セッターに溶着していない部分を取り出した。このセラミックスシートについて、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−6390)を用いてSEM写真を撮影した。図8は、セラミックスシートのSEM写真である。このセラミックスシートでは、結晶が重なるような凝集がほとんど存在せず、シート面に対して平板状(アスペクト比の大きな)の結晶粒子が多数観察され、結晶粒子同士が接する粒界部で比較的簡単に解砕することができることがわかった。また、XRD回折装置(リガク社製RAD−IB)を用い、得られたセラミックスシートの表面に対してX線を照射したときのXRD回折パターンを測定した。図9は、セラミックスシートのXRD回折パターンである。このセラミックスシートは、擬立方(100)面が成長していることがわかった。ロットゲーリング法によって擬立方(100)面の配向度を、擬立方(100),(110),(111)のピークを使用して上述の式(1)を用いて計算したところ、配向度は85%であった。
【0042】
(セラミックスシートのメッシュ粉砕工程)
得られた焼成後のセラミックスシートを開口径20μmのふるい(メッシュ)に載せ、軽く焼成成形体をへらで押し付けながら通過させることで解砕した。その後、解砕した粒子を開口径15μmのふるいに載せ、微細な粒子のみを通過させ、ふるい上に残った粒子を結晶粒子とした。得られた結晶粒子の平均粒径は、約20μmだった。
【0043】
<圧電体の成形工程>
分散媒としてテルピネオールまたは2−エチルヘキサノールと、焼成後の圧電体の組成が{Li0.06(Na0.55K0.45)0.94}1.01(Nb0.918Ta0.082)O3+0.2mol%MnO2となるように仮焼後の配向していない無機粒子と、結晶粒子と、バインダーとしてポリビニルブチラール(BM−2、積水化学製)と、可塑剤(DOP、黒金化成製)と、分散剤(SP−O30、花王製)とを混合し、スラリー状の成形原料を作製した。各原料の使用量は、無機粒子粉体80重量部に対して、結晶粒子20重量部、分散媒30重量部、バインダー3重量部、可塑剤0.1重量部及び分散剤0.1重量部とした。得られたスラリーの粘度は、80000cPだった。スラリーの粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。得られたスラリーをドクターブレード法によって、結晶粒子が一方向に配向し、且つ乾燥後の厚さが100μmとなるように平板状に成形した。この平板を室温で乾燥したのち、厚さ2mmとなるよう約20層、荷重1.0t/cm2、80℃にて積層し成形体を得た。
【0044】
<電極形成工程>
得られた成形体の両面に、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が20重量%となる組成の電極のペースト(寸法:7×8mm、厚さ3μm)をスクリーン印刷法により形成した。
【0045】
<焼成工程>
得られた成形体を600℃にて脱脂後、CIP処理(5t/cm2)を行った後、985℃の温度で5h焼成して無機粒子の粒成長を行い、結晶粒子が配向している方向へ、配向していない無機粒子を特定の結晶面を揃えた状態で配向させ、実験例1の圧電素子を得た。なお、このとき、圧電体とその両面に形成された電極とを同時に焼成した。作製した実験例1の圧電素子のA/B比、焼成温度のほか、後述する相対密度、誘電正接tanδ、電界誘起歪のデータをまとめたものを表1に示す。なお、表1には、後述する実験例2〜10の各データを付記した。
【0046】
【表1】
【0047】
[実験例2〜6]
圧電体の焼成温度を、それぞれ1000℃、1025℃、1050℃、1075℃、1090℃とした以外は実験例1と同様の工程を経て圧電素子を作製したものをそれぞれ実験例2〜6とした。
【0048】
[実験例7〜10]
一般式ABO3で表される酸化物のA/B値をそれぞれ1.00、1.005、1.04、1.05となるように各原料を配合し、1050℃で焼成した以外は実験例1と同様の工程を経て圧電素子を作製したものをそれぞれ実験例7〜10とした。
【0049】
<電界誘起歪測定>
実験例1〜10のそれぞれの、表面に電極の形成された圧電体の部分を、5mm×6mm×1mmの大きさに加工し、これを75℃のシリコーンオイル中で浸漬すると共に、電極間に5kV/mmの直流電界を15分間印加することにより分極させた。分極後の電極の両面上に歪ゲージ(KYOWA製KFGタイプ)を貼付し、4kV/mmの電界を印加したときの、電界と垂直な方向の歪み量を測定し、電極の両面の平均値を電界誘起歪とした。その結果は、表1に示した。
【0050】
<誘電正接tanδ測定 >
実験例1〜10のそれぞれについて、インピーダンスアナライザー(Hewlett Packard製4194A)を使用し、周波数が1kHz、電圧が0.5Vの条件で誘電正接tanδを測定した。その結果は、表1に示した。
【0051】
<相対密度の算出>
実験例1〜10のそれぞれについて、電極の形成されていない圧電体部分を5mm×6mm×1mmの大きさに切り出し、乾燥重量を測定して各サンプルの測定密度を求めた。各サンプルの理論密度を4.71g/cm3とし、(測定密度)/(理論密度)×100(%)の式を用いて、相対密度を算出した。
【0052】
<測定結果>
実験例1〜6における、焼成温度に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果を図10に示し、実験例4,7〜10における、A/B値に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果を図11に示した。なお、測定不能データは便宜的に値0として図示した。相対密度は、焼成温度が高くなるほど、又は、A/B値が大きくなるほど大きくなる傾向を有していることがわかった。図10に示すように、1000℃〜1075℃の範囲で、電界誘起歪が大きく、且つtanδ値が小さくなり圧電特性がより好ましいことがわかった。また、図11に示すように、A/B値が1.005〜1.04の範囲で、電界誘起歪が大きく、且つtanδ値が小さくなり圧電特性がより好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、結晶が配向したセラミックスの製造分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】圧電素子20を備えたアクチュエータ10の一例を表す説明図。
【図2】図1のA−A断面図
【図3】結晶粒子34を作製する際に製造するセラミックスシート40の説明図。
【図4】圧電素子20の製造方法の一例を示す説明図。
【図5】セラミックスシートを積層して圧電体30を作製する説明図。
【図6】積層型の圧電素子120の説明図。
【図7】図6の縦断面図
【図8】セラミックスシートのSEM写真。
【図9】セラミックスシートのXRD回折パターン。
【図10】焼成温度に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果。
【図11】A/B値に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果。
【符号の説明】
【0055】
10 アクチュエータ、12 基板、14 空間部、20,120 圧電素子、22 第1電極、22a,24a タブ、24 第2電極、30,130 圧電体、32 配向結晶、34,42 結晶粒子、36 成形体、40 セラミックスシート、44 無機粒子層、46 積層体、122 第1電極、123,125 内部電極層、124 第2電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造方法及び圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子の製造方法としては、第1のペロブスカイト型5価金属酸アルカリ化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する第1異方形状粉末と、第1異方形状粉末と反応して少なくとも第1のペロブスカイト型5価金属酸アルカリ化合物を生成する第1反応原料との混合物を、第1異方形状粉末が配向するように成形し、加熱することにより、結晶が配向したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1の圧電素子では、圧電特性を高めることができる。
【特許文献1】特開2003−12373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この特許文献1に記載された圧電素子の製造方法では、結晶の配向度を高めようとすると例えば焼成温度を1100℃以上などに高くすることがあり、焼成温度によっては、例えば含まれる成分が揮発するなどして変化し、得られる圧電素子の組成が目的とするものからずれてしまい、目的とする圧電特性が得られないことがあった。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、圧電特性をより向上することができる圧電素子の製造方法及び圧電素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、AサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む一般式ABO3で表される酸化物を主成分とする圧電体において、AサイトとBサイトの比であるA/B値を好適なものとすると共に、焼成温度を1000℃以上1075℃以下の範囲とすると、消費エネルギをより低減すると共に、圧電特性をより向上することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の圧電素子の製造方法は、
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含みBサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む結晶体となる無機粒子と配向した結晶粒子とを前記Aサイトと前記Bサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下となる配合とし、該結晶粒子を所定方向に配向させた成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成し特定の結晶面を揃えた状態で配向する圧電体を生成する焼成工程と、
を含むものである。
【0007】
また、本発明の圧電素子は、
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む複数の結晶体を含み、該結晶体が特定の結晶面を揃えた状態で配向している圧電体と、
前記圧電体に隣接しており、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdに対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下である電極と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この圧電素子の製造方法では、圧電特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、一般式ABO3で表される酸化物のAサイトとBサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下の範囲で原料を配合するため、焼成時に生じる組成ずれをより抑制することができる。また、積層圧電素子など電極との同時焼成によって圧電素子を作製する場合、Ag/Pd合金におけるPd30重量%以下の電極が一般的に用いられるが、この場合、耐熱性やPdの使用量の点で、1100℃以下で焼成することが望ましい。ここでは、1075℃以下の温度で焼成するため、耐熱性を高めると共に、希少資源であるPdの使用を抑制する点で優位であるし、この温度を超えて焼成するものに比して圧電体の組成ずれをより抑制することができる。また、1000℃以上で焼成するため、例えば圧電体の密度がより高まり、より高配向なものとすることができる。このため、圧電特性、例えば電界誘起歪や誘電正接tanδなどの特性を高めることができると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の圧電素子20を備えたアクチュエータ10の一例を表す説明図であり、図2は、図1のA−A断面図である。本実施形態のアクチュエータ10は、下方に向かって開口した空間部14が形成された基板12と、空間部14の上方側の基板12の上面に形成された第1電極22と、第1電極22上に形成され電力の入出力に伴い体積変化する圧電体30と、圧電体30の上方に形成された第2電極24と、を備えている。このアクチュエータ10は、電圧を印加して圧電体30を駆動し、基板12の空間部14に収容された流体(例えば液体など)へ圧力を付与するものである。
【0010】
基板12は、特に限定されないが、例えば、安定化された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム及び窒化珪素からなる群より選択される少なくとも一種を含むセラミックスからなることが好ましく、中でも、機械的強度が大きく、靭性に優れる点から安定化された酸化ジルコニウムからなることがより好ましい。なお、本発明にいう「安定化された酸化ジルコニウム」とは、酸化カルシウムや酸化マグネシウムなどの安定化剤の添加により結晶の相転移を抑制した酸化ジルコニウムをいい、安定化酸化ジルコニウムの他、部分安定化酸化ジルコニウムを包含する。
【0011】
第1電極22は、矩形状に形成された部材であり、その一端に外部に接続される矩形状のタブ22aが設けられている。第1電極22の材質としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも一種の金属を挙げることができるが、ここでは、Ag/Pd合金を主成分としている。こうすれば、後述する圧電体30の焼成温度に耐えることができる。この第1電極22は、Ag及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることが、存在量の少ないPdの使用量を抑制可能でありより好ましい。なお、第2電極24についても、タブ22aと対向する側にタブ24aが形成される以外は第1電極22と同様に形成されている。この第1電極22は、サンドイッチ構造、櫛形構造、タイガースキン(虎柄)構造などの形状とすることができる。基板12と平行な面内に分極軸が含まれる様に圧電体30を配向させる場合は、タイガースキン構造や櫛形構造とすることが、電界方向が基板12と平行な面内となり、好ましい。こうすれば、配向していない圧電体と比較して高い圧電特性を得ることができる。一方、基板12に垂直な方向に分極軸を配向させる場合は、図2に示すようなサンドイッチ素子構造とすることで、電界方向と分極軸方向が一致し、より好ましい。ここで、分極軸とは、イオンが変位し自発分極が発生する方向をいい、その方向で高い圧電特性を示す。なお、第2電極24についても、第1電極22と同様の構成である。
【0012】
圧電体30は、外形を矩形状とし、第1電極22及び第2電極24に挟持された状態で第1電極22を介して間接的に基板12上に配設されている。この圧電体30は、特定の方向に結晶体の特定の結晶面が配向した複数の配向結晶32を含んでいる。この圧電体30は、1層により形成されていてもよいし、複数の層状に形成されていてもよい。層状であるかについては、圧電素子20の断面を視認して確認することができる。また、圧電体30は、一般式ABO3で表される酸化物を主成分とし、AサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含むものとしてもよく、このうち(LiXNaYKZ)NbMTaNO3や(BiXNaYKZAgN)TiO3など(X,Y,Z,M,Nは任意の数を表す)が特に好ましい。こうすれば、特定の結晶面が成長した配向結晶32を得られやすい。ここで、「主成分」とは、一般式ABO3で表される三成分固溶系組成物の含有割合が、70重量%以上であることをいい、好ましくは90重量%以上であることをいう。なお、ここに挙げた元素以外を含んでいても構わない。このとき、圧電体30は、焼成前(後述する焼成工程前、例えば原料配合時など)のAサイトとBサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下であり、0.01以上1.03%以下であることがより好ましい。一般式ABO3で表される酸化物のA/Bがこの範囲では、焼成による組成ずれを抑制すると共に、配向度を大きいものとすることができる。
【0013】
圧電体30は、所定方向として、電界方向に沿って、即ち第1電極22及び第2電極24の電極面に対して直交する方向に結晶面が配向していることが好ましい。圧電体30において、特定の結晶面の配向度は、ロットゲーリング法で25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることが一層好ましく、80%以上であることが最も好ましい。配向度が25%以上であると、より高い圧電/電歪特性を得ることができる。この特定の結晶面は、圧電/電歪体の面内にある擬立方(100)面としてもよい。この擬立方(100)とは、等方性ペロブスカイト型の酸化物は正方晶、斜方晶及び三方晶など、立方晶からわずかに歪んだ構造をとるがその歪みがわずかであるため立方晶とみなしてミラー指数により表示することを意味する。ここで、ロットゲーリング法による配向度は、圧電体30の配向した面に対しXRD回折パターンを測定し、次式(1)により求めるものとした。この数式(1)において、ΣI(hkl)が圧電体30で測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)が圧電体30と同一組成であり無配向のものについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、Σ’I(HKL)が圧電体30で測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(例えば(100)面)のX線回折強度の総和であり、Σ’I0(HKL)が圧電体30と同一組成であり無配向のものについて測定された特定の結晶面のX線回折強度の総和である。
【数1】
【0014】
圧電素子20は、上述した一般式ABO3で表される酸化物を主成分とした配向結晶32となる、無機粒子と配向した結晶粒子とを、A/Bが1.005以上1.04以下となる配合比で混合する混合工程と、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下となる組成の第1電極22を基板12上に形成する電極形成工程と、混合工程で得られた原料を所定方向に配向させ所定の成形体に第1電極22上へ成形する成形工程と、成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成し特定の結晶面を揃えた状態で配向する圧電体30を生成する焼成工程と、によって作製されているものである。即ち、この圧電素子20は、焼成後の成形体に含まれるAサイトの成分を所定の過剰量に配合し、焼成温度を高めすぎないように焼成して作製されている。こうすれば、より高い圧電特性を得ることができるし、熱エネルギの消費を低減することができる。また、第1電極22や第2電極24と圧電体30とを並行して焼成するため、熱エネルギの消費を一層低減することができる。なお、第1電極22と圧電体30とは、同時に焼成してもよいし、第1電極22を先に焼成してから圧電体30を形成して焼成する工程を経てもよい。
【0015】
圧電素子20は、誘電正接tanδが0.1%以上4.0%以下であることが好ましく、1.0%以上3.0%以下であることがより好ましい。誘電正接tanδが0.1%以上4.0%以下であると、圧電特性として好ましい。また、圧電素子20は、電界誘起歪が800ppm以上であることが好ましく、1000ppm以上であることがより好ましい。電界誘起歪が800ppm以上であると、圧電特性として好ましい。なお、この電界誘起歪は、1500ppm以下であることが圧電特性の安定性の面で好ましい。また、圧電素子20において、圧電体30は、理論密度に対する相対密度が94%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。相対密度が94%以上では、誘電正接tanδがより低い値を示し、電界誘起歪がより大きな値を示すため、十分な圧電特性を有するものとすることができる。この圧電体30の相対密度は、圧電特性から考慮して、96.5%未満であることが好ましい。
【0016】
次に、圧電素子20の製造方法について説明する。図3は、結晶粒子34を作製する際に製造するセラミックスシート40の説明図であり、図4は、圧電素子20の製造方法の一例を示す説明図である。図4は、上段から順に、第1電極22の形成工程、結晶粒子34を含む成形体36の成形工程、第2電極24の形成工程、第1電極22と第2電極24と成形体36との焼成工程、の説明図である。圧電素子20の製造方法は、図4に示すように、(1)基板12上へ第1電極22を形成する第1電極形成工程と、(2)成形体36の原料を調製する原料調製工程と、(3)第1電極22上に成形体36を形成する成形工程と、(4)成形体36上に第2電極24を形成する第2電極形成工程と、(5)未焼成の第1電極22と第2電極24と成形体36とを同時に焼成する焼成工程と、を含むものである。
【0017】
(1)第1電極形成工程
第1電極22を配設する基板12としては、以下説明する工程での熱処理温度よりも高い温度で焼成され、以下の工程による熱処理で変形及び変質しないセラミックスとすることが好ましい。この基板12としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム及び窒化珪素からなる群より選択される少なくとも一種を含むセラミックスからなることが好ましく、このうち、酸化ジルコニウムを主成分とするものがより好ましく、安定化された酸化ジルコニウムを主成分とするものが一層好ましい。この基板12は、所望の形状に成形して焼成することにより得られる。第1電極22は、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下となる組成で作製するものとする。第1電極22の形成方法としては、例えば、上記金属のペーストを調製し、このペーストを基板12上へドクターブレード法やスクリーン印刷法などにより塗布することにより形成することができる(図4最上段)。第1電極22の厚さは、圧電体30の形成厚さにもよるが、圧電体30の変位の付与・抑制などの観点より、0.1μm以上20μm以下程度に成形することが好ましい。
【0018】
(2)原料調製工程
この工程では、無機粒子を配向して結晶化したテンプレートとしての結晶粒子を作製すると共に、配向していない無機粒子を作製し、得られた結晶粒子及び無機粒子を所定の配合比になるよう混合し成形体36の原料を調製する。配向していない無機粒子は、所定の組成の原料粒子を粉砕・仮焼し、得られたものを更に粉砕することにより得ることができる。無機粒子としては、目的の成分の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酒石酸塩などを用いることができるが、主として酸化物、炭酸塩を用いることが好ましい。また、結晶粒子の原料は、無機粒子の作製と同様の処理により作製することができる。結晶粒子は、例えば、厚さを15μm以下とし、配向していない無機粒子を含む自立したシート形状に成形して焼成し、所定方向へ配向した結晶粒子を含むセラミックスシートを作製し(図3参照)、このセラミックスシートをアスペクト比が2以下、より好ましくは3以下にならない程度に解砕して得ることができる。ここでは、「自立したシート」とは、シート厚さを15μm以下に成形したシート状の成形体を焼成して得たものをいい、他のシートに積層して焼成された状態であるものや、なんらかの基板に貼り付けて焼成された状態であるもの、スパッタ、ゾルゲル、エアロゾルデポジション法、印刷法などによりなんらかの基板に成膜され支持された状態のものを含まない趣旨である。なお、「自立したシート」は、なんらかの基板に貼り付けたり成膜したりして、焼成前、又は焼成後に、この基板から剥離したものをも含む。
【0019】
ここで、図3に示す、セラミックスシート40による結晶配向のメカニズムについて説明する。セラミックスシート40では、厚さが15μm以下のシート状に成形して焼成させ粒成長させるので、シートの厚さ方向への粒成長は限られており、シート面方向に、より粒成長が促進されるから、例えば所定焼成条件において、等方的且つ多面体形状の結晶粒子に成長するもの、例えば立方体に成長するものでも、特定の結晶面をシート表面に揃えた状態(配向した状態)で、平板状のアスペクト比のより大きな結晶粒子42に成長させることができる。ここで、「所定焼成条件における成長形」とは、与えられた熱処理条件下で無機粒子の結晶が平衡に達したときに見られるモルフォロジーと定義され、例えば、バルクを焼成し結晶化を進めた際に表面の粒子の形状を観察することにより得られるものである。また、結晶粒子のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡を用いてシート面を観察し、結晶粒子が20〜40個程度含まれる視野において、粒子の最長の長さと最短の長さとを計測し、長辺を短辺で除算した値を求めるのを、視野に含まれる全粒子について行い、得られた値の平均値とする。
【0020】
無機粒子は、ペロブスカイト構造を有する酸化物となるものが好ましく、更に、焼成後の結晶が一般式ABO3で表される酸化物であり、このAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含むものとなるものを用いるものとする。例えば、圧電体30の原料として、NaNbO3のAサイトの一部をLi,Kなどで置換し、Bサイトの一部をTaなどで置換したもの((LiXNaYKZ)NbMTaNO3:X,Y,Z,M,Nは任意の数を表す)となるようなものとすると、900℃〜1300℃での成長形が立方体形状となるため、好ましい。なお、ここに挙げた元素以外を添加しても構わない。また、(Bi0.5Na0.5-xKx)TiO3を主組成とするものにおいては、X>0.01とすることで成長形が立方体形状となるため、好ましい。
【0021】
セラミックスシートの作製条件について、シートの厚さとしては、15μm以下とすることが好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が一層好ましく、2μm以下とすることが更に一層好ましい。10μm以下ではより高い配向度を得ることができ、5μm以下であればより一層高い配向度を得ることができる。また、シート厚さは、0.1μm以上とするのが好ましい。シート厚さが0.1μm以上であれば、セラミックスシートを作製しやすい。セラミックスシートに用いる無機粒子は、そのメディアン径(D50)をシート厚さの2%以上60%以下とすることが好ましい。メディアン径がシート厚さの2%以上であれば粉砕処理が容易であり、60%以下であればシート厚さを調整しやすい。セラミックスシートの焼成条件について、焼成により平衡形の結晶が得られる焼成温度、例えばバルクを焼成することにより緻密化、粒成長する焼成温度に比べて1割以上高い温度で、このシートを焼成することが好ましい。1割以上高い温度では、極薄のシートに含まれる結晶の粒成長を十分進めることができる。なお、成形体の材料が分解しない程度に高い温度で焼成することが好ましい。特に、シートの厚さがより薄くなると、粒成長がしにくくなるため、焼成温度をより高くする傾向とすることが好ましい。例えば、NaNbO3のAサイトにLi,Kなどを添加し、BサイトにTaを添加したもの((LiXNaYKZ)NbMTaNO3)のセラミックスシートの焼成では、成形したシートの焼成温度を900℃以上1250℃以下とすることが好ましく、1050℃以上とするのが好ましい。焼成温度が900℃以上では、粒子の結晶の成長が促されるため好ましく、1250℃以下では、アルカリ成分などの揮発を少なく抑えることができ、材料が分解してしまうのを抑制することができる。このように焼成することにより、結晶面が配向した結晶粒子42を成長させることができる。こうして得た結晶粒子42と配向していない無機粒子とを、一般式ABO3で表される酸化物のAサイトとBサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下となるよう配合して混合する。A/Bがこの範囲で所定温度範囲で焼成すると、圧電体30の組成ずれを抑制することができるし、誘電正接tanδを好ましい範囲とすることができる。そして、この混合したものを分散媒に分散させ、適宜バインダーや可塑剤などを加え、スラリー状又はペースト状の塗布原料とする。ここで、スラリーは、粘度が1000〜6000cPとなるように調製するのが好ましく、減圧下で脱泡するのが好ましい。
【0022】
(3)成形工程
第1電極22上へ上記塗布原料を用いて成形体36を成形する。このとき、結晶粒子34が一定方向を向くような塗布処理を行い、結晶粒子34や無機粒子を第1電極22上へ形成する(図4の2段目参照)。この塗布処理は、スクリーン印刷法やドクターブレード法などにより行うことができる。また、塗布処理での成形体36の厚さは、特に限定されないが、例えば、1μm以上20μm以下など、圧電体30として必要とする所望の厚さになるよう塗布原料を1回以上繰り返して塗布すればよい。
【0023】
(4)第2電極形成工程
次に、形成した成形体36上に第2電極24を形成する処理を行う。ここでは、第1電極22を形成した面の裏側の他方の面に第2電極24を形成するものとした(図4の3段目参照)。この第2電極24の形成は、上述した第1電極形成工程と同様の条件で行う工程とすることもできるし、第1電極形成工程と異なる条件で行う工程とすることもできる。
【0024】
(5)焼成工程
この工程では、成形体36を1000℃以上1075℃以下の範囲の焼成温度で焼成することにより、結晶粒子34の特定の面が配向している所定方向に他の無機粒子を配向させた配向結晶32を粒成長させ圧電体30を第1電極22上へ固着させると共に、第1電極22及び第2電極24を固化する処理を行う。この特定の面としては、例えば、圧電体の面内にある擬立方(100)面とすることができ、特定の方向としては、例えば、電界方向に沿って、即ち第1電極22及び第2電極24の電極面に対して直交する方向とすることが好ましい。こうして、図4に示すように、含まれる無機粒子が、特定の結晶面の配向した配向結晶32へ粒成長したものを得ることができる。なお、バインダーなどを含む成形体36を焼成する場合は、焼成を行う前に脱脂を主目的とする熱処理を行ってもよい。このとき、脱脂の温度は、少なくともバインダーなどの有機物を熱分解させるに十分な温度(例えば400〜600℃)とする。また、脱脂を行ったあと、焼成を行う前に静水圧処理(CIP)を行うのが好ましい。脱脂後のシートに対して更に静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、シートの体積膨張に起因する焼結体密度の低下などを抑制することができる。また、この焼成工程では、成形体に含まれる特定成分(例えばアルカリなど)の揮発を抑制する揮発抑制状態で成形体を焼成することが好ましい。こうすれば、成形体からの特定の元素が揮発してしまうのを抑制することにより、焼成後の組成がずれてしまうのを抑制することができる。例えば、揮発抑制状態としては、圧電体30とは別の無機粒子を共存させた状態や、蓋付きの鞘などに入れた密閉状態などが挙げられる。このとき、共存させる無機粒子の量や鞘内部の容積など、焼成時の条件を適切な状態に経験的に設定することが重要である。なお、面内の粒成長を促進する観点から、ホットプレスなど加重焼成してもよい。このように、第1電極22と第2電極24とに挟み込まれた圧電体30を備えた圧電素子20が第1電極22側で基板12上に配設されたアクチュエータ10を作製することができる(図4の最下段)。
【0025】
以上詳述した本実施形態の圧電素子20によれば、圧電体30の配向度を高めることにより、圧電特性をより高めることができる。また、1075℃以下で焼成するため、熱エネルギの消費量をより低減することができる。また、AサイトとBサイトの比である焼成前のA/Bが1.005以上1.04以下であるため、焼成後の組成ずれをより低減することができ、圧電特性をより向上することができる。更に、第1電極22と第2電極24と成形体36とを同時に焼成するため、消費エネルギを一層低減することができる。更にまた、1000℃以上で焼成するため、圧電体30の密度をより好適なものとすることができる。更にまた、1075℃以下で焼成するため、高コスト且つ希少資源であるPdが30重量%以下、さらには20重量%以下のAg/Pd電極と圧電体とを同時に焼成することができる。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0027】
例えば、上述した実施形態では、セラミックスシート40を解砕して得た配向した結晶粒子34と、配向していない無機粒子として成形体36を成形して圧電体30を作製するものとしたが、図5に示すように、セラミックスシート40と無機粒子層44とを積層して積層体46を成形して圧電体30を作製するものとしてもよい。即ち、結晶粒子34と無機粒子とを混合せずに圧電体30を作製するものとしてもよい。図5は、セラミックスシートを積層して圧電体30を作製する説明図である。図5に示すように、セラミックスシート40と無機粒子層44とを各1層以上繰り返し積層させ、積層体46を成形し、これを上述した焼成工程と同様に焼成する。なお、セラミックスシート40と無機粒子層44とを積層するものとすれば、セラミックスシート40は、解砕せずに積層するものとしてもよいし解砕して積層するものとしてもよい。こうしても、配向結晶32を含む圧電体30を作製することができる。
【0028】
上述した実施形態では、塗布することにより成形体36を形成するものとしたが、特に塗布するものに限られず、例えば、ゾルゲル法や化学気相成長法、スパッタリング方などを用いて基板12上や第1電極22上や各層上のいずれかへ成形体36を形成するものとしてもよい。こうすれば、粒径が小さく、表面粗さの小さな緻密な圧電体30を形成することができる。また、これらの方法のいずれかを用いれば、均質性の優れたものが作製できるため、薄くても耐電圧が高いものを作製でき、高電界を印加した際に絶縁破壊してしまうのを抑制し、高い変位を得ることができる。
【0029】
上述した実施形態では、第1電極22と第2電極24と成形体36とを同時に焼成するものとしたが、これらのいずれかを別々に焼成するものとしてもよい。こうしても、焼成時の組成ずれを抑制して圧電特性を向上することができる。
【0030】
上述した実施形態では、セラミックスシートを作製することにより結晶粒子を得るものとしたが、これに限定されず、例えば、異方形状(板状など)になりやすい層状ペロブスカイト構造を有する組成において板状結晶を得たあと、溶融塩中などでこの組成の一部を置換させることにより所望の組成で配向した結晶粒子を作製し、これを用いて圧電素子20の製造を行うものとしてもよい。
【0031】
上述した実施形態では、第1電極22を介して圧電体30を基板12上に形成するものとしたが、圧電体30を基板12に直接形成するものとしてもよい。こうしても、焼成時の組成ずれを抑制して圧電特性をより向上することができる。なお、上述した実施形態では、第1電極22を形成したあとこれに隣接するように成形体36を形成するものとしたが、成形体36を形成したあとこれに隣接するように第1電極22を形成するような構成としてもよい。
【0032】
上述した実施形態では、液体を吐出させるアクチュエータ10として説明したが、圧電特性を用いるものであれば特にこれに限られず用いることができる。例えば、この圧電素子20は、誘電体材料、焦電体材料、強誘電体材料、磁性材料、イオン伝導材料、電子伝導性材料、熱伝導材料、熱電材料、超伝導材料、耐摩耗性材料等の機能や特性が結晶方位依存性を有する物質よりなる多結晶材料へ用いることができる。具体的には、加速度センサ、焦電センサ、超音波センサ、電界センサ、温度センサ、ガスセンサ、ノッキングセンサ、ヨーレートセンサ、エアバックセンサ、圧電ジャイロセンサ等の各種センサ、圧電トランス等のエネルギー変換素子、超音波モータ、レゾネータ等の低損失アクチュエータ又は低損失レゾネータ、キャパシタ、バイモルフ圧電素子、振動ピックアップ、圧電マイクロホン、圧電点火素子、ソナー、圧電ブザー、圧電スピーカ、発振子、フィルタ、誘電素子、マイクロ波誘電素子、熱電変換素子、焦電素子、磁気抵抗素子、磁性素子、超伝導素子、抵抗素子、電子伝導素子、イオン伝導素子、PTC素子、NTC素子等に応用すれば、高い性能を有する各種素子を得ることができる。このとき、圧電体30の厚さや配向度は、用途に合わせた値を適宜設定するものとする。
【0033】
上述した実施形態では、基板12に空間部14を1つ備えたものとしたが、空間部14と圧電体30とを複数配列したものとしてもよい。あるいは、空間部14の形成されていない基板を用いてもよい。
【0034】
上述した実施形態では、圧電体30を矩形板状の形状としたが、特にこれに限定されず、任意の形状としてもよい。また、第1電極22や第2電極24、基板12についても同様である。
【0035】
上述した実施形態では、圧電素子20は、基板12上に圧電体30を形成した膜型圧電素子として説明したが、図6、7に示すように、積層型圧電素子120としてもよい。図6は、積層型の圧電素子120の説明図であり、図7は、図6の縦断面図である。この圧電素子120は、圧電体130を複数積層すると共に、積層された圧電体130の間に複数の内部電極(内部電極層123,125)が交互に配設された、いわゆる積層型の圧電素子として構成されている。この圧電素子120では内部電極層123が第1電極122に接続され、内部電極層125が第2電極124に接続されている。この圧電素子120は、図2に示す圧電素子20と異なり、圧電体30や第1電極22,第2電極24を固着する基板12を構成要素として有していないものである。この圧電素子120は、圧電体130に配向結晶を有しており、上述した実施形態と同様に、圧電体30の配向度を高め、焼成後の組成ずれをより低減することなどにより、圧電特性をより高めることができる。また、1075℃以下で焼成するため、熱エネルギの消費量をより低減することができる。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0037】
以下には、圧電素子を具体的に製造した例を、実験例として説明する。ここでは、基板12に固着しない積層型で且つ積層せず1層だけ形成した圧電素子を作製した(図6参照)。
【0038】
[実験例1]
<原料調製工程>
この原料調製工程では、圧電体30の原料として、極薄のセラミックスシートを作成して所定方向に配向した結晶粒子を作製すると共に、配向していない無機粒子を作製する。セラミックスシートの作製は、更に無機粒子の合成工程、セラミックスシートの成形工程、シート上成形体の焼成工程を含んでいる。以下、セラミックスシートの作製工程から説明する。
【0039】
(セラミックスシートに用いる無機粒子の合成工程)
{Li0.06(Na0.55K0.45)0.94}1.01(Nb0.918Ta0.082)O3+0.2mol%MnO2の組成比となるように、各粉末(Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Nb2O5、Ta2O5、MnO2)を秤量した。ポリポットに、秤量物と、ジルコニアボールと、分散媒としてエタノールを入れ、ボールミルで16h湿式混合、粉砕を行った。得られたスラリーをエバポレータ及び乾燥機によって乾燥した後、850℃,5hの条件化で仮焼成した。この仮焼粉末と、ジルコニアボールと、分散媒としてエタノールを入れ、ボールミルで5h湿式粉砕し、エバポレータ及び乾燥機によって乾燥して、{Li0.06(Na0.55K0.45)0.94}1.01(Nb0.918Ta0.082)O3+0.2mol%MnO2の無機粒子粉体を得た。この粉体をHORIBA製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−750を用い、水を分散媒として平均粒径を測定したところ、メディアン径(D50)は、0.4μmであった。なお、一般式ABO3で表される酸化物のA/B値が1.01となるように各原料を配合した。
【0040】
(自立したセラミックスシートの成形工程)
分散媒としてのトルエン、イソプロパノールを等量混合したものに、上記の無機粒子粉体と、バインダーとしてポリビニルブチラール(BM−2、積水化学製)、可塑剤(DOP、黒金化成製)と、分散剤(SP−O30、花王製)とを混合し、スラリー状の成形原料を作製した。各原料の使用量は、無機粒子100重量部に対して、分散媒100重量部、バインダー10重量部、可塑剤4重量部及び分散剤2重量部とした。次に、得られたスラリーを、減圧下で撹拌して脱泡し、粘度500〜700cPとなるように調製した。スラリーの粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。得られたスラリーをドクターブレード法によってPETフィルムの上にシート状に成形した。乾燥後の厚さを2μmとした。
【0041】
(シート状の成形体の焼成工程)
PETフィルムからはがしたシート状の成形体を、カッターで70mm角に切り出し、ジルコニアからなるセッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置した。このセッターに、シート状の成形体と同じ成形原料からなる未焼成のシート成形体(寸法5mm×40mm、厚さ100μm)をシート状の成形体の四辺の外側に載置してこれを囲い、その上に更にジルコニアの角板(寸法70mm角、高さ1mm)を載置した。こうして、シート状の成形体の空間をできるだけ小さくすると共に、同じ成形原料を共存させる焼成条件とした。そして、600℃、2h脱脂後、1100℃で5h焼成を行った。焼成後、セッターに溶着していない部分を取り出した。このセラミックスシートについて、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−6390)を用いてSEM写真を撮影した。図8は、セラミックスシートのSEM写真である。このセラミックスシートでは、結晶が重なるような凝集がほとんど存在せず、シート面に対して平板状(アスペクト比の大きな)の結晶粒子が多数観察され、結晶粒子同士が接する粒界部で比較的簡単に解砕することができることがわかった。また、XRD回折装置(リガク社製RAD−IB)を用い、得られたセラミックスシートの表面に対してX線を照射したときのXRD回折パターンを測定した。図9は、セラミックスシートのXRD回折パターンである。このセラミックスシートは、擬立方(100)面が成長していることがわかった。ロットゲーリング法によって擬立方(100)面の配向度を、擬立方(100),(110),(111)のピークを使用して上述の式(1)を用いて計算したところ、配向度は85%であった。
【0042】
(セラミックスシートのメッシュ粉砕工程)
得られた焼成後のセラミックスシートを開口径20μmのふるい(メッシュ)に載せ、軽く焼成成形体をへらで押し付けながら通過させることで解砕した。その後、解砕した粒子を開口径15μmのふるいに載せ、微細な粒子のみを通過させ、ふるい上に残った粒子を結晶粒子とした。得られた結晶粒子の平均粒径は、約20μmだった。
【0043】
<圧電体の成形工程>
分散媒としてテルピネオールまたは2−エチルヘキサノールと、焼成後の圧電体の組成が{Li0.06(Na0.55K0.45)0.94}1.01(Nb0.918Ta0.082)O3+0.2mol%MnO2となるように仮焼後の配向していない無機粒子と、結晶粒子と、バインダーとしてポリビニルブチラール(BM−2、積水化学製)と、可塑剤(DOP、黒金化成製)と、分散剤(SP−O30、花王製)とを混合し、スラリー状の成形原料を作製した。各原料の使用量は、無機粒子粉体80重量部に対して、結晶粒子20重量部、分散媒30重量部、バインダー3重量部、可塑剤0.1重量部及び分散剤0.1重量部とした。得られたスラリーの粘度は、80000cPだった。スラリーの粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。得られたスラリーをドクターブレード法によって、結晶粒子が一方向に配向し、且つ乾燥後の厚さが100μmとなるように平板状に成形した。この平板を室温で乾燥したのち、厚さ2mmとなるよう約20層、荷重1.0t/cm2、80℃にて積層し成形体を得た。
【0044】
<電極形成工程>
得られた成形体の両面に、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が20重量%となる組成の電極のペースト(寸法:7×8mm、厚さ3μm)をスクリーン印刷法により形成した。
【0045】
<焼成工程>
得られた成形体を600℃にて脱脂後、CIP処理(5t/cm2)を行った後、985℃の温度で5h焼成して無機粒子の粒成長を行い、結晶粒子が配向している方向へ、配向していない無機粒子を特定の結晶面を揃えた状態で配向させ、実験例1の圧電素子を得た。なお、このとき、圧電体とその両面に形成された電極とを同時に焼成した。作製した実験例1の圧電素子のA/B比、焼成温度のほか、後述する相対密度、誘電正接tanδ、電界誘起歪のデータをまとめたものを表1に示す。なお、表1には、後述する実験例2〜10の各データを付記した。
【0046】
【表1】
【0047】
[実験例2〜6]
圧電体の焼成温度を、それぞれ1000℃、1025℃、1050℃、1075℃、1090℃とした以外は実験例1と同様の工程を経て圧電素子を作製したものをそれぞれ実験例2〜6とした。
【0048】
[実験例7〜10]
一般式ABO3で表される酸化物のA/B値をそれぞれ1.00、1.005、1.04、1.05となるように各原料を配合し、1050℃で焼成した以外は実験例1と同様の工程を経て圧電素子を作製したものをそれぞれ実験例7〜10とした。
【0049】
<電界誘起歪測定>
実験例1〜10のそれぞれの、表面に電極の形成された圧電体の部分を、5mm×6mm×1mmの大きさに加工し、これを75℃のシリコーンオイル中で浸漬すると共に、電極間に5kV/mmの直流電界を15分間印加することにより分極させた。分極後の電極の両面上に歪ゲージ(KYOWA製KFGタイプ)を貼付し、4kV/mmの電界を印加したときの、電界と垂直な方向の歪み量を測定し、電極の両面の平均値を電界誘起歪とした。その結果は、表1に示した。
【0050】
<誘電正接tanδ測定 >
実験例1〜10のそれぞれについて、インピーダンスアナライザー(Hewlett Packard製4194A)を使用し、周波数が1kHz、電圧が0.5Vの条件で誘電正接tanδを測定した。その結果は、表1に示した。
【0051】
<相対密度の算出>
実験例1〜10のそれぞれについて、電極の形成されていない圧電体部分を5mm×6mm×1mmの大きさに切り出し、乾燥重量を測定して各サンプルの測定密度を求めた。各サンプルの理論密度を4.71g/cm3とし、(測定密度)/(理論密度)×100(%)の式を用いて、相対密度を算出した。
【0052】
<測定結果>
実験例1〜6における、焼成温度に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果を図10に示し、実験例4,7〜10における、A/B値に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果を図11に示した。なお、測定不能データは便宜的に値0として図示した。相対密度は、焼成温度が高くなるほど、又は、A/B値が大きくなるほど大きくなる傾向を有していることがわかった。図10に示すように、1000℃〜1075℃の範囲で、電界誘起歪が大きく、且つtanδ値が小さくなり圧電特性がより好ましいことがわかった。また、図11に示すように、A/B値が1.005〜1.04の範囲で、電界誘起歪が大きく、且つtanδ値が小さくなり圧電特性がより好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、結晶が配向したセラミックスの製造分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】圧電素子20を備えたアクチュエータ10の一例を表す説明図。
【図2】図1のA−A断面図
【図3】結晶粒子34を作製する際に製造するセラミックスシート40の説明図。
【図4】圧電素子20の製造方法の一例を示す説明図。
【図5】セラミックスシートを積層して圧電体30を作製する説明図。
【図6】積層型の圧電素子120の説明図。
【図7】図6の縦断面図
【図8】セラミックスシートのSEM写真。
【図9】セラミックスシートのXRD回折パターン。
【図10】焼成温度に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果。
【図11】A/B値に対する電界誘起歪及びtanδの測定結果。
【符号の説明】
【0055】
10 アクチュエータ、12 基板、14 空間部、20,120 圧電素子、22 第1電極、22a,24a タブ、24 第2電極、30,130 圧電体、32 配向結晶、34,42 結晶粒子、36 成形体、40 セラミックスシート、44 無機粒子層、46 積層体、122 第1電極、123,125 内部電極層、124 第2電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含みBサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む結晶体となる無機粒子と配向した結晶粒子とを前記Aサイトと前記Bサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下となる配合とし、該結晶粒子を所定方向に配向させた成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成し特定の結晶面を揃えた状態で配向する圧電体を生成する焼成工程と、
を含む圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程では、前記成形工程で成形された焼成前の成形体と、前記電極形成工程で形成された焼成前の電極とを焼成する、請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む複数の結晶体を含み、該結晶体が特定の結晶面を揃えた状態で配向している圧電体と、
前記圧電体に隣接しており、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下である電極と、を備えた圧電素子。
【請求項4】
誘電正接tanδが0.1%以上4.0%以下である、請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電体は、理論密度に対する相対密度が94%以上である、請求項3又は4に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記圧電体は、1000℃以上1075℃以下の温度で焼成されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記圧電体は、前記AサイトとBサイトの比である焼成前のA/Bが1.005以上1.04以下である、請求項3〜6のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項1】
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含みBサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む結晶体となる無機粒子と配向した結晶粒子とを前記Aサイトと前記Bサイトの比であるA/Bが1.005以上1.04以下となる配合とし、該結晶粒子を所定方向に配向させた成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を1000℃以上1075℃以下の温度で焼成し特定の結晶面を揃えた状態で配向する圧電体を生成する焼成工程と、
を含む圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程では、前記成形工程で成形された焼成前の成形体と、前記電極形成工程で形成された焼成前の電極とを焼成する、請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
一般式ABO3で表される酸化物を主成分としAサイトがLi,Na,K,Bi及びAgから選ばれる1種以上を含み、BサイトがNb,Ta及びTiから選ばれる1種以上を含む複数の結晶体を含み、該結晶体が特定の結晶面を揃えた状態で配向している圧電体と、
前記圧電体に隣接しており、Ag/Pd合金を主成分としAg及びPdの全体に対するPdの割合が5重量%以上30重量%以下である電極と、を備えた圧電素子。
【請求項4】
誘電正接tanδが0.1%以上4.0%以下である、請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電体は、理論密度に対する相対密度が94%以上である、請求項3又は4に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記圧電体は、1000℃以上1075℃以下の温度で焼成されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記圧電体は、前記AサイトとBサイトの比である焼成前のA/Bが1.005以上1.04以下である、請求項3〜6のいずれか1項に記載の圧電素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【公開番号】特開2010−103301(P2010−103301A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273262(P2008−273262)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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