圧電素子の製造方法
【課題】長期間に亘って圧電特性の低下を抑制することができる圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】第1電極60上にランタンニッケル酸化物を主成分とする金属酸化膜200を形成する工程と、金属酸化膜200上に圧電体層70となる圧電体前駆体膜71を形成する工程と、圧電体前駆体膜71を700℃以上、900℃以下で加熱し結晶化させて圧電体膜からなる圧電体層70を形成する工程と、圧電体層70上に、第2電極80を形成する工程と、を備える。
【解決手段】第1電極60上にランタンニッケル酸化物を主成分とする金属酸化膜200を形成する工程と、金属酸化膜200上に圧電体層70となる圧電体前駆体膜71を形成する工程と、圧電体前駆体膜71を700℃以上、900℃以下で加熱し結晶化させて圧電体膜からなる圧電体層70を形成する工程と、圧電体層70上に、第2電極80を形成する工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体層の両側に電極が設けられた圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料からなる圧電体層を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
【0003】
このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードのアクチュエーターを使用したものと、たわみ振動モードのアクチュエーターを使用したものの2種類が実用化されている。このようなアクチュエーターでは、高密度に配置するために、小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができる圧電素子、すなわち変位の大きな圧電素子が求められている。
【0004】
圧電体層としては、鉛、ジルコニウム及びチタンを含んだ、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−114417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の圧電素子を繰り返し駆動すると、圧電素子の圧電特性が低下してしまい、長期間にわたって所望の圧電特性を得ることができないという問題がある。
【0007】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、長期間にわたって圧電特性の低下を抑制することができる圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、第1電極上にランタンニッケル酸化物を形成する工程と、前記ランタンニッケル酸化物上に圧電体前駆体膜を形成する工程と、前記圧電体前駆体膜を加熱し結晶化させて圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に第2電極を形成する工程と、を備え、前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が、700℃以上、900℃以下であることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、圧電素子に繰り返し電圧を印加した際の圧電特性の劣化を抑制することができる。
ここで、圧電特性とは、印加電圧と変位量との関係をいい、圧電特性の低下とは、同じ印加電圧に対し、変位量が低下することをいう。
【0010】
ここで、前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が750℃以上、900℃以下であることが好ましい。これによれば、圧電体の結晶構造が安定し、圧電特性が向上する。
【0011】
また、前記圧電体層が、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることが好ましい。これによれば、圧電特性に優れた圧電素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの要部拡大断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示すフローチャート図。
【図5】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図6】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す拡大断面図。
【図7】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図8】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図9】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図10】各圧電素子の測定結果を示す図。
【図11】各圧電素子の測定結果を示す図。
【図12】インクジェット式記録装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドIの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A線断面図であり、図3は、図2の要部を拡大した要部拡大断面図である。
【0014】
図1及び図2において、実施形態では、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が、隔壁11によって分離され、その幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。
【0015】
連通部13は、後述する保護基板30のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
なお、実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。このように、実施形態では、流路形成基板10に、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられている。
【0016】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0017】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、金属酸化膜200と、圧電体層70と、第2電極80とが、後述する製造工程で積層形成されて、圧電素子300を構成している。図1では、金属酸化膜200は省略している。
ここで、圧電素子300は、第1電極60、金属酸化膜200、圧電体層70、及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を圧力発生室12毎にパターニングして構成する。実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、後述する駆動回路120や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0018】
また、ここでは、変位可能に設けられた圧電素子300を有するものをアクチュエーター装置と称する。実施形態では、圧電素子300が変位可能に設けられたアクチュエーター装置が、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として設けられている。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0019】
圧電体層70は、金属酸化膜200上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式がABO3で表現されるペロブスカイト型結晶構造(Aサイトは任意の金属元素、Bサイトは任意の金属元素)を有し、金属としてPb、Zr、及びTiを含む強誘電体材料からなる。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。
【0020】
また、圧電体層70は、(100)面、(110)面又は(111)面の何れに優先配向していてもよく、また、その結晶構造は、菱面体晶系(Rhombohedral)、正方晶系(Tetragonal)、単斜晶系(Monoclinic)の何れであってもよい。
なお、実施形態の圧電体層70は、(100)面に優先配向しているものである。このように(100)面に優先配向した圧電体層70は、低い駆動電圧で大きな変位量を得ることができる、所謂、変位特性に優れたものであり、インクジェット式記録ヘッドIに好適に用いることができるものである。ちなみに、圧電体層70を(100)面又は(110)面に優先配向させるには、金属酸化膜200で用いられる材料の一般式がABO3で表現されるペロブスカイト型結晶構造(Aサイトは任意の金属元素、Bサイトは任意の金属元素)を有し、(100)面に優先配向させることで形成できる。
ここで、金属としてLa、及びNi等を含むもの等が好適である。また、金属酸化膜200は、導電性を有するものであるため、実質的には圧電体層70に電圧を印加する一方の電極(第2電極)として機能する。
なお、本発明で「結晶が(100)面に優先配向している」とは、全ての結晶が(100)面に配向している場合と、ほとんどの結晶(例えば、90%以上)が(100)面に配向している場合と、を含むものである。
【0021】
圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、実施形態では、圧電体層70を0.5〜5μm前後の厚さで形成した。
【0022】
また、圧電体層70には、第1電極60上に設けられた金属酸化膜200の成分であるランタン(La)及びニッケル(Ni)が拡散している。ここで、ランタン及びニッケルが拡散しているとは、圧電体層70の金属酸化膜200側から第2電極80側に向かって、ランタンとニッケルとが異なる分布で拡散していることを言う。
【0023】
また、圧電体層70上(第1電極60とは反対側)には、例えば、イリジウム(Ir)等の導電性に優れた第2電極80が設けられている。
【0024】
また、各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0025】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、図1及び図2に示すように、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。
このリザーバー部31は、実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。
また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0026】
保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0027】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0028】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0029】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0030】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0031】
このような実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たす。その後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60、金属酸化膜200及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0032】
以下、このような圧電素子300及びインクジェット式記録ヘッドIの製造方法について、図4〜図9を参照して説明する。なお、図4は、圧電素子300の製造方法を示すフローチャート図であり、図5〜図9は、圧電素子300及びインクジェット式記録ヘッドIの製造方法を示す圧力発生室12の長手方向の断面図である。また、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛を用いて説明をするが、もちろん、この材料に限定されず、チタン酸ジルコン酸鉛以外の圧電材料を含むことを付言する。
【0033】
図4において、圧電素子300の製造方法は、ランタンニッケル酸化物形成工程としてのステップ1(S1)と、圧電体前駆体膜形成工程としてのステップ2(S2)と、圧電体層形成工程としてのステップ3(S3)と、第2電極形成工程としてのステップ4(S4)とを含む。
【0034】
まず、図5(a)に示すように、シリコンウェハーであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。
【0035】
そして、図5(b)に示すように、弾性膜50(酸化膜51)上に、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55を形成する。
【0036】
次いで、図5(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、耐酸化性を有する材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0037】
そして、図5(d)に示すように、ランタンニッケル酸化物形成工程(S1)において、第1電極60上に、ランタンニッケル酸化物からなる金属酸化膜200を形成する。ここで、実施形態では、スパッタリング法を用いて金属酸化膜200を形成している。なお、金属酸化膜200の製造方法は、スパッタリング法に限定されず、ゾル−ゲル法やMOD(Metal−Organic Decomposition)法を用いてもよい。
【0038】
次に、図1〜図3に示したチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層70を形成する。ここで、実施形態では、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、MOD法を用いてもよい。
【0039】
圧電体層70の具体的な形成手順を説明する。図6には、拡大断面図を示した。
まず、図6(e)に示すように、圧電体前駆体膜形成工程(S2)において、金属酸化膜200上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、金属酸化膜200が形成された流路形成基板用ウェハー110上に金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。
【0040】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、実施形態の乾燥工程では、流路形成基板用ウェハー110上に塗布されたゾルを150〜170℃で3〜30分保持することで乾燥した。
【0041】
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。実施形態では、乾燥された圧電体前駆体膜71を300〜400℃に加熱して約3〜30分保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることであり、圧電体前駆体膜71が結晶化しない程度に、すなわち、非晶質の圧電体前駆体膜71を形成することを言う。
【0042】
圧電体層形成工程(S3)では、圧電体前駆体膜71を加熱し結晶化させて圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する。以下に、詳しく説明する。
図6(f)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することにより結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。実施形態では、脱脂した圧電体前駆体膜71を700℃〜900℃に加熱して焼成するのが好ましい。この場合、圧電体膜72中にランタンニッケル酸化物からなる金属酸化膜200の成分であるランタン(La)及びニッケル(Ni)を拡散することができる。
【0043】
次に、図6(g)に示すように、金属酸化膜200上に1層目の圧電体膜72を形成した段階で、第1電極60、金属酸化膜200、及び1層目の圧電体膜72をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。なお、第1電極60、金属酸化膜200、及び1層目の圧電体膜72のパターニングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。ここで、例えば、金属酸化膜200をパターニングしてから1層目の圧電体膜72を形成してもよい。
【0044】
このように、パターニングされた1層目の圧電体膜72、あるいは、金属酸化膜200はその後に形成する圧電体膜72を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても、変質層は、その後の圧電体膜72の結晶成長に大きな影響を与えない。
【0045】
そして、上述した圧電体前駆体膜形成工程(S2)(塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程)と、焼成工程とを有する圧電体膜形成を2回以上繰り返すことで、図6(h)に示すように、2層以上の積層された圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する。
【0046】
図6(i)に示すように、第2電極形成工程(S4)では、圧電体層70上に、イリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成する。そして、図7(j)に示すように、圧電体層70、及び第2電極80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電体層70、及び第2電極80のパターニング方法としては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0047】
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図7(k)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0048】
次に、図8(l)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接合する。そして、図8(m)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0049】
次いで、図9(n)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9(o)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を、マスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0050】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0051】
以下に、実施形態で得られる圧電素子300について、実施例を例に詳しく説明する。
(実施例1)
上述した製造方法と同じ方法で圧電素子300を製造した。具体的には、Ptからなる厚さが80nmの第1電極60上に、ランタンニッケル酸化物からなる厚さが40nmの金属酸化膜200をスパッタリング法により300℃で、ArとO2の混合ガス(ガス流量比が、O2/(ArとO2)=50%)を用いて1.2Paのガス圧で形成した。そして、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程を酸素雰囲気にて700℃で行った。また、第2電極80として、厚さが50nmのイリジウムをスパッタリング法により形成した。
【0052】
(実施例2)
実施例1における焼成工程以外は、上述した実施例1と同じ材料、同じ製造方法で実施例2の圧電素子300を形成した。具体的には、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程を酸素雰囲気にて750℃で行った。
【0053】
(比較例1)
第1電極上に金属酸化膜を設けないのと、実施例における焼成工程以外は、上述した実施例1と同じ材料、同じ製造方法で比較例1の圧電素子を形成した。具体的には、Ptからなり厚さが80nmの第1電極上に、圧電体膜のシード層である厚さが5nnのTiを設けた。また、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程を酸素雰囲気にて700℃で行った。
【0054】
(試験例)
各インクジェット式記録ヘッドの圧電素子を繰り返し駆動した際の変位量を測定すると共に、初期の変位量に対する繰り返し駆動後の変位低下率を算出した。この結果を図10に示す。なお、図10(a)は、各圧電素子の変位低下率、図10(b)は、各圧電素子の変位量を示すグラフである。
【0055】
図10(a)に示すように、各圧電素子を190億パルス駆動した際の変位低下率は、実施例1の圧電素子300で−5.5%、実施例2の圧電素子300で−5.0%、比較例1で−10.2%、となった。このように、実施例1及び実施例2の圧電素子300は、比較例1に比べて、繰り返し駆動した際の変位量の低下率が低く抑えられる。
【0056】
また、図10(b)に示すように、各圧電素子を190億パルス駆動した後の変位量は実施例2が最も大きく、比較例1に比べて圧電特性が向上していることがわかる。
【0057】
次に、実施例1及び実施例2と比較例1の各圧電体層(PZT)について、X線回折法(X−Ray Diffraction)によって測定したX線の回折ピークから、PZT(100)面のピークの半値幅を求めた。この結果を図11に示す。
図11に示すように、実施例1及び実施例2は、比較例1に比べて圧電体層70(PZT)の(100)ピーク半値幅が小さく、良好な結晶性を有していることがわかる。
【0058】
ここで、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程で、第1電極60上のランタンニッケル酸化物から圧電体膜72へランタン及びニッケルが拡散する。圧電体膜72中にニッケルが拡散すると、ニッケルは、2価(Ni2+)または3価(Ni3+)の状態で、Bサイト(Zr4+またはTi4+)に添加される。これにより、圧電体膜72の酸素空孔が形成され、ドメインウォール(自発分極領域の障壁)がピン留めされることで、ドメインウォールの移動が制限される。また、圧電体膜72にランタンが拡散すると、ランタンが圧電体膜72(PZT)のAサイトに置換されることで、鉛の欠損を補填できる。
【0059】
ここで、比較例1に比べて実施例1および2の変位低下率が低く抑えられるのは、ランタンが圧電体膜72のAサイトに、ニッケルが圧電体膜72のBサイトにそれぞれ置換されることで、結晶欠陥が補填され、結晶性が向上したためだと考えられる。
【0060】
また、実施例1に比べて実施例2の変位量が大きいのは、圧電体膜72の結晶化温度が高温になることで、ランタンの拡散量が多くなり、鉛欠損の補填が促進され、圧電特性が向上したことによるものだと考えられる。
【0061】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0062】
また、これら実施形態で製造されたインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。
図12は、そのインクジェット式記録装置IIの一例を示す概略図である。
【0063】
図12に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0064】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0065】
なお、図12に示す例では、記録ヘッドユニット1A、1Bは、それぞれ1つのインクジェット式記録ヘッドIを有するものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、1つの記録ヘッドユニット1A又は1Bが2以上のインクジェット式記録ヘッドIを有するようにしてもよい。もちろん、記録ヘッドユニット1A、1Bという形式を取らずに、インクジェット式記録ヘッドIを直接インクジェット式記録装置IIに搭載してもよい。
【0066】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A、1Bがキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0067】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0068】
1A,1B…記録ヘッドユニット、2A,2B…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…プラテン、10…流路形成基板、11…隔壁、12…圧力発生室、13…連通部、14…インク供給路、15…連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、30…保護基板、31…リザーバー部、32…圧電素子保持部、33…貫通孔、35…接着剤、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定板、43…開口部、50…弾性膜、51…酸化膜、52…マスク膜、55…絶縁体膜、60…第1電極、70…圧電体層、71…圧電体前駆体膜、72…圧電体膜、80…第2電極、90…リード電極、100…リザーバー、110…流路形成基板用ウェハー、120…駆動回路、121…接続配線、130…保護基板用ウェハー、200…金属酸化膜、300…圧電素子、I…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、II…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体層の両側に電極が設けられた圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料からなる圧電体層を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
【0003】
このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードのアクチュエーターを使用したものと、たわみ振動モードのアクチュエーターを使用したものの2種類が実用化されている。このようなアクチュエーターでは、高密度に配置するために、小さな駆動電圧で大きな歪みを得ることができる圧電素子、すなわち変位の大きな圧電素子が求められている。
【0004】
圧電体層としては、鉛、ジルコニウム及びチタンを含んだ、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−114417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の圧電素子を繰り返し駆動すると、圧電素子の圧電特性が低下してしまい、長期間にわたって所望の圧電特性を得ることができないという問題がある。
【0007】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、長期間にわたって圧電特性の低下を抑制することができる圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、第1電極上にランタンニッケル酸化物を形成する工程と、前記ランタンニッケル酸化物上に圧電体前駆体膜を形成する工程と、前記圧電体前駆体膜を加熱し結晶化させて圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に第2電極を形成する工程と、を備え、前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が、700℃以上、900℃以下であることを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、圧電素子に繰り返し電圧を印加した際の圧電特性の劣化を抑制することができる。
ここで、圧電特性とは、印加電圧と変位量との関係をいい、圧電特性の低下とは、同じ印加電圧に対し、変位量が低下することをいう。
【0010】
ここで、前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が750℃以上、900℃以下であることが好ましい。これによれば、圧電体の結晶構造が安定し、圧電特性が向上する。
【0011】
また、前記圧電体層が、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることが好ましい。これによれば、圧電特性に優れた圧電素子を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの要部拡大断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示すフローチャート図。
【図5】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図6】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す拡大断面図。
【図7】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図8】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図9】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図10】各圧電素子の測定結果を示す図。
【図11】各圧電素子の測定結果を示す図。
【図12】インクジェット式記録装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドIの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A線断面図であり、図3は、図2の要部を拡大した要部拡大断面図である。
【0014】
図1及び図2において、実施形態では、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が、隔壁11によって分離され、その幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。
【0015】
連通部13は、後述する保護基板30のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
なお、実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。このように、実施形態では、流路形成基板10に、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられている。
【0016】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0017】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、金属酸化膜200と、圧電体層70と、第2電極80とが、後述する製造工程で積層形成されて、圧電素子300を構成している。図1では、金属酸化膜200は省略している。
ここで、圧電素子300は、第1電極60、金属酸化膜200、圧電体層70、及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を圧力発生室12毎にパターニングして構成する。実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、後述する駆動回路120や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0018】
また、ここでは、変位可能に設けられた圧電素子300を有するものをアクチュエーター装置と称する。実施形態では、圧電素子300が変位可能に設けられたアクチュエーター装置が、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として設けられている。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0019】
圧電体層70は、金属酸化膜200上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式がABO3で表現されるペロブスカイト型結晶構造(Aサイトは任意の金属元素、Bサイトは任意の金属元素)を有し、金属としてPb、Zr、及びTiを含む強誘電体材料からなる。圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。
【0020】
また、圧電体層70は、(100)面、(110)面又は(111)面の何れに優先配向していてもよく、また、その結晶構造は、菱面体晶系(Rhombohedral)、正方晶系(Tetragonal)、単斜晶系(Monoclinic)の何れであってもよい。
なお、実施形態の圧電体層70は、(100)面に優先配向しているものである。このように(100)面に優先配向した圧電体層70は、低い駆動電圧で大きな変位量を得ることができる、所謂、変位特性に優れたものであり、インクジェット式記録ヘッドIに好適に用いることができるものである。ちなみに、圧電体層70を(100)面又は(110)面に優先配向させるには、金属酸化膜200で用いられる材料の一般式がABO3で表現されるペロブスカイト型結晶構造(Aサイトは任意の金属元素、Bサイトは任意の金属元素)を有し、(100)面に優先配向させることで形成できる。
ここで、金属としてLa、及びNi等を含むもの等が好適である。また、金属酸化膜200は、導電性を有するものであるため、実質的には圧電体層70に電圧を印加する一方の電極(第2電極)として機能する。
なお、本発明で「結晶が(100)面に優先配向している」とは、全ての結晶が(100)面に配向している場合と、ほとんどの結晶(例えば、90%以上)が(100)面に配向している場合と、を含むものである。
【0021】
圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、実施形態では、圧電体層70を0.5〜5μm前後の厚さで形成した。
【0022】
また、圧電体層70には、第1電極60上に設けられた金属酸化膜200の成分であるランタン(La)及びニッケル(Ni)が拡散している。ここで、ランタン及びニッケルが拡散しているとは、圧電体層70の金属酸化膜200側から第2電極80側に向かって、ランタンとニッケルとが異なる分布で拡散していることを言う。
【0023】
また、圧電体層70上(第1電極60とは反対側)には、例えば、イリジウム(Ir)等の導電性に優れた第2電極80が設けられている。
【0024】
また、各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0025】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、図1及び図2に示すように、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。
このリザーバー部31は、実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。
また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0026】
保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0027】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0028】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0029】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0030】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0031】
このような実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たす。その後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60、金属酸化膜200及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0032】
以下、このような圧電素子300及びインクジェット式記録ヘッドIの製造方法について、図4〜図9を参照して説明する。なお、図4は、圧電素子300の製造方法を示すフローチャート図であり、図5〜図9は、圧電素子300及びインクジェット式記録ヘッドIの製造方法を示す圧力発生室12の長手方向の断面図である。また、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛を用いて説明をするが、もちろん、この材料に限定されず、チタン酸ジルコン酸鉛以外の圧電材料を含むことを付言する。
【0033】
図4において、圧電素子300の製造方法は、ランタンニッケル酸化物形成工程としてのステップ1(S1)と、圧電体前駆体膜形成工程としてのステップ2(S2)と、圧電体層形成工程としてのステップ3(S3)と、第2電極形成工程としてのステップ4(S4)とを含む。
【0034】
まず、図5(a)に示すように、シリコンウェハーであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。
【0035】
そして、図5(b)に示すように、弾性膜50(酸化膜51)上に、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55を形成する。
【0036】
次いで、図5(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、耐酸化性を有する材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより形成することができる。
【0037】
そして、図5(d)に示すように、ランタンニッケル酸化物形成工程(S1)において、第1電極60上に、ランタンニッケル酸化物からなる金属酸化膜200を形成する。ここで、実施形態では、スパッタリング法を用いて金属酸化膜200を形成している。なお、金属酸化膜200の製造方法は、スパッタリング法に限定されず、ゾル−ゲル法やMOD(Metal−Organic Decomposition)法を用いてもよい。
【0038】
次に、図1〜図3に示したチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層70を形成する。ここで、実施形態では、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、MOD法を用いてもよい。
【0039】
圧電体層70の具体的な形成手順を説明する。図6には、拡大断面図を示した。
まず、図6(e)に示すように、圧電体前駆体膜形成工程(S2)において、金属酸化膜200上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、金属酸化膜200が形成された流路形成基板用ウェハー110上に金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。
【0040】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば、実施形態の乾燥工程では、流路形成基板用ウェハー110上に塗布されたゾルを150〜170℃で3〜30分保持することで乾燥した。
【0041】
次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。実施形態では、乾燥された圧電体前駆体膜71を300〜400℃に加熱して約3〜30分保持することで脱脂した。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることであり、圧電体前駆体膜71が結晶化しない程度に、すなわち、非晶質の圧電体前駆体膜71を形成することを言う。
【0042】
圧電体層形成工程(S3)では、圧電体前駆体膜71を加熱し結晶化させて圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する。以下に、詳しく説明する。
図6(f)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することにより結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。実施形態では、脱脂した圧電体前駆体膜71を700℃〜900℃に加熱して焼成するのが好ましい。この場合、圧電体膜72中にランタンニッケル酸化物からなる金属酸化膜200の成分であるランタン(La)及びニッケル(Ni)を拡散することができる。
【0043】
次に、図6(g)に示すように、金属酸化膜200上に1層目の圧電体膜72を形成した段階で、第1電極60、金属酸化膜200、及び1層目の圧電体膜72をそれらの側面が傾斜するように同時にパターニングする。なお、第1電極60、金属酸化膜200、及び1層目の圧電体膜72のパターニングは、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。ここで、例えば、金属酸化膜200をパターニングしてから1層目の圧電体膜72を形成してもよい。
【0044】
このように、パターニングされた1層目の圧電体膜72、あるいは、金属酸化膜200はその後に形成する圧電体膜72を良好に結晶成長させる種(シード)としても性質が強く、たとえパターニングで表層に極薄い変質層が形成されていても、変質層は、その後の圧電体膜72の結晶成長に大きな影響を与えない。
【0045】
そして、上述した圧電体前駆体膜形成工程(S2)(塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程)と、焼成工程とを有する圧電体膜形成を2回以上繰り返すことで、図6(h)に示すように、2層以上の積層された圧電体膜72からなる圧電体層70を形成する。
【0046】
図6(i)に示すように、第2電極形成工程(S4)では、圧電体層70上に、イリジウム(Ir)からなる第2電極80を形成する。そして、図7(j)に示すように、圧電体層70、及び第2電極80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電体層70、及び第2電極80のパターニング方法としては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0047】
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図7(k)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0048】
次に、図8(l)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接合する。そして、図8(m)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0049】
次いで、図9(n)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9(o)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を、マスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0050】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0051】
以下に、実施形態で得られる圧電素子300について、実施例を例に詳しく説明する。
(実施例1)
上述した製造方法と同じ方法で圧電素子300を製造した。具体的には、Ptからなる厚さが80nmの第1電極60上に、ランタンニッケル酸化物からなる厚さが40nmの金属酸化膜200をスパッタリング法により300℃で、ArとO2の混合ガス(ガス流量比が、O2/(ArとO2)=50%)を用いて1.2Paのガス圧で形成した。そして、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程を酸素雰囲気にて700℃で行った。また、第2電極80として、厚さが50nmのイリジウムをスパッタリング法により形成した。
【0052】
(実施例2)
実施例1における焼成工程以外は、上述した実施例1と同じ材料、同じ製造方法で実施例2の圧電素子300を形成した。具体的には、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程を酸素雰囲気にて750℃で行った。
【0053】
(比較例1)
第1電極上に金属酸化膜を設けないのと、実施例における焼成工程以外は、上述した実施例1と同じ材料、同じ製造方法で比較例1の圧電素子を形成した。具体的には、Ptからなり厚さが80nmの第1電極上に、圧電体膜のシード層である厚さが5nnのTiを設けた。また、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程を酸素雰囲気にて700℃で行った。
【0054】
(試験例)
各インクジェット式記録ヘッドの圧電素子を繰り返し駆動した際の変位量を測定すると共に、初期の変位量に対する繰り返し駆動後の変位低下率を算出した。この結果を図10に示す。なお、図10(a)は、各圧電素子の変位低下率、図10(b)は、各圧電素子の変位量を示すグラフである。
【0055】
図10(a)に示すように、各圧電素子を190億パルス駆動した際の変位低下率は、実施例1の圧電素子300で−5.5%、実施例2の圧電素子300で−5.0%、比較例1で−10.2%、となった。このように、実施例1及び実施例2の圧電素子300は、比較例1に比べて、繰り返し駆動した際の変位量の低下率が低く抑えられる。
【0056】
また、図10(b)に示すように、各圧電素子を190億パルス駆動した後の変位量は実施例2が最も大きく、比較例1に比べて圧電特性が向上していることがわかる。
【0057】
次に、実施例1及び実施例2と比較例1の各圧電体層(PZT)について、X線回折法(X−Ray Diffraction)によって測定したX線の回折ピークから、PZT(100)面のピークの半値幅を求めた。この結果を図11に示す。
図11に示すように、実施例1及び実施例2は、比較例1に比べて圧電体層70(PZT)の(100)ピーク半値幅が小さく、良好な結晶性を有していることがわかる。
【0058】
ここで、圧電体前駆体膜71を焼成してチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体膜72を得る焼成工程で、第1電極60上のランタンニッケル酸化物から圧電体膜72へランタン及びニッケルが拡散する。圧電体膜72中にニッケルが拡散すると、ニッケルは、2価(Ni2+)または3価(Ni3+)の状態で、Bサイト(Zr4+またはTi4+)に添加される。これにより、圧電体膜72の酸素空孔が形成され、ドメインウォール(自発分極領域の障壁)がピン留めされることで、ドメインウォールの移動が制限される。また、圧電体膜72にランタンが拡散すると、ランタンが圧電体膜72(PZT)のAサイトに置換されることで、鉛の欠損を補填できる。
【0059】
ここで、比較例1に比べて実施例1および2の変位低下率が低く抑えられるのは、ランタンが圧電体膜72のAサイトに、ニッケルが圧電体膜72のBサイトにそれぞれ置換されることで、結晶欠陥が補填され、結晶性が向上したためだと考えられる。
【0060】
また、実施例1に比べて実施例2の変位量が大きいのは、圧電体膜72の結晶化温度が高温になることで、ランタンの拡散量が多くなり、鉛欠損の補填が促進され、圧電特性が向上したことによるものだと考えられる。
【0061】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0062】
また、これら実施形態で製造されたインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。
図12は、そのインクジェット式記録装置IIの一例を示す概略図である。
【0063】
図12に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0064】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0065】
なお、図12に示す例では、記録ヘッドユニット1A、1Bは、それぞれ1つのインクジェット式記録ヘッドIを有するものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、1つの記録ヘッドユニット1A又は1Bが2以上のインクジェット式記録ヘッドIを有するようにしてもよい。もちろん、記録ヘッドユニット1A、1Bという形式を取らずに、インクジェット式記録ヘッドIを直接インクジェット式記録装置IIに搭載してもよい。
【0066】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A、1Bがキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0067】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0068】
1A,1B…記録ヘッドユニット、2A,2B…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…プラテン、10…流路形成基板、11…隔壁、12…圧力発生室、13…連通部、14…インク供給路、15…連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、30…保護基板、31…リザーバー部、32…圧電素子保持部、33…貫通孔、35…接着剤、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定板、43…開口部、50…弾性膜、51…酸化膜、52…マスク膜、55…絶縁体膜、60…第1電極、70…圧電体層、71…圧電体前駆体膜、72…圧電体膜、80…第2電極、90…リード電極、100…リザーバー、110…流路形成基板用ウェハー、120…駆動回路、121…接続配線、130…保護基板用ウェハー、200…金属酸化膜、300…圧電素子、I…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、II…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極上にランタンニッケル酸化物を形成する工程と、
前記ランタンニッケル酸化物上に圧電体前駆体膜を形成する工程と、
前記圧電体前駆体膜を加熱し結晶化させて圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に第2電極を形成する工程と、を備え、
前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が、700℃以上、900℃以下であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が750℃以上、900℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記圧電体層が、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項1】
第1電極上にランタンニッケル酸化物を形成する工程と、
前記ランタンニッケル酸化物上に圧電体前駆体膜を形成する工程と、
前記圧電体前駆体膜を加熱し結晶化させて圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に第2電極を形成する工程と、を備え、
前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が、700℃以上、900℃以下であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記圧電体前駆体膜を結晶化させる温度が750℃以上、900℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記圧電体層が、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−178506(P2012−178506A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41510(P2011−41510)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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