説明

地下道の構築方法

【課題】パイプルーフを構成する箱形パイプ部材に取り付けられたフリクションカット部材の外側の地盤に、注入固化材を容易且つ速やかに注入可能にする。
【解決手段】地中に形成した箱形パイプ部材52によるパイプルーフ55を、フリクションカット部材51を地中に残置したまま地下道外郭構造体56と置換して地下道60を形成する構築方法において、フリクションカット部材51と箱形パイプ部材52との固定及び固定の解除が、箱形パイプ部材の内側ボルト孔12と、フリクションカット部材51の外側ボルト孔11とを合致させて螺合締着される固定ボルト10を着脱することにより行われる。箱形パイプ部材52を地中に圧入したら、固定ボルト10を内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11から取り外して注入用治具13を付け替え、注入用治具13を介して箱形パイプ部材の内側からフリクションカット部材の外側の地盤の所定の箇所に注入固化材を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下道の構築方法に関し、特に、地中に形成したパイプルーフを、フリクションカット部材を地中に残置したまま地下道外郭構造体と置換することにより地下道を形成する地下道の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、既存の鉄道線路や道路の下方地盤にこれらを横断する状態で地下道を構築する方法として、例えば地下道の構築予定箇所である計画地下道部の上方の地盤に、既設の鉄道線路や道路を下方から支えて防護するめたのパイプルーフを、例えば円形の鋼管パイプを複数横方向に並べて設置することにより形成し、パイプルーフに支保工を施しながらこれの下方地盤を掘削して地下道を構築するための作業空間を確保した後に、形枠を設置したりコンクリートを打設して地下道を構築する工法が一般的に採用されてきたが、このような工法は、パイプルーフの下方に、地下道の断面より相当程度大きな断面の作業空間を形成する必要があることから、効率の良い施工方法ではなく、また上方の既存の鉄道線路や道路等に影響を及ぼしやすい。
【0003】
このようなことから、パイプルーフの下方に作業空間を設けて地下道を構築する従来の工法に替わる工法として、地中に形成したパイプルーフを、フリクションカット部材を地中に残置したまま例えばプレキャスト製の地下道外郭構造体と置換することにより地下道を形成する地下道の構築方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の地下道の構築方法では、例えば図9(a)〜(j)に示すように、矩形断面の計画地下道部50の外周に沿って配置される面にフリクションカット部材51を固定した複数本の箱形パイプ部材52を、例えば発進立坑53から到達立坑54に向けて、計画地下道部50の少なくとも上床位置50aに並列状態で圧入して(図9(a),(b)参照)、計画地下道部50を貫通するパイプルーフ55を地中に形成する(図9(c),(d)参照)。しかる後に、このパイプルーフ55の端面に、例えばプレキャスト製の矩形断面を有する地下道外郭構造体56の少なくと上床部分56aの端面を、例えば中押しジャッキ57を介在させつつ当接させ、さらに地下道外郭構造体56の後端部に当該地下道外郭構造体56を推進させる元押しジャッキ58を設置する(図9(e),(f)参照)。そして、地下道外郭構造体56の内側先端の切羽面の土砂を刃口部材59等を用いて掘削排除しながら地下道外郭構造体56を推進させて、箱形パイプ部材52との固定を解除したフリクションカット部材51を地中に残置したまま、少なくとも上床位置50aのパイプルーフ55を押し出して地下道外郭構造体56と置換することにより(図9(g),(h)参照)、計画地下道部50に地下道外郭構造体56による地下道60を形成する。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の地下道の構築方法では、パイプルーフ55と置換しつつ地下道外郭構造体56を推進させることにより地下道60を形成するので、掘削断面が地下道60の断面よりも大きくなるのを抑制して、効率の良い地下道の構築を行うことが可能になる。またフリクションカット部材51を地中に残置したまま地下道外郭構造体56を推進させるので、上方の既存の鉄道線路や道路等に影響を及ぼし難く、さらにフリクションカット部材51をガイドとして機能させて、当該フリクションカット部材51に沿って地下道外郭構造体56を、上方の地盤と直接接触させることなくスムーズに推進させることも可能になる。さらにまた、地下道外郭構造体56と置き換えられたパイプルーフ55を構成する箱形パイプ部材52は、回収して再利用することも可能になる。
【特許文献1】特開平1−29597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、特許文献1に記載の地下道の構築方法では、パイプルーフ55を形成する工程において、各箱形パイプ部材52を地中に圧入して行く作業は、箱形パイプ部材52の先端の土砂を、例えば箱形パイプ部材52の内部に配置したオーガーや、箱形パイプ部材52の内部に入り込んだ作業員によって、当該箱形パイプ部材52に取り込みながら掘削すると共に、推進装置61(図9(a)参照)によって箱形パイプ部材52を押し出しながら行われることになるが、箱形パイプ部材52が計画地下道部50の地中に圧入されてから、当該箱形パイプ部材52によるパイプルーフ55と置換されて地下道外郭構造体56が設置されるまでの間、周囲の地盤をさらに安定した状態で保持しておくことが望ましい。
【0007】
例えば予期しない玉石や硬い地山の存在等により、箱形パイプ部材52の断面よりも外側の地山が削られて、フリクションカット部材51の外側に空隙の存在や地盤の緩みが予想されるようになった場合に、このような空隙や地盤の緩みを速やかに解消できるようにする手段があれば、さらに安定した状態で作業を行ってゆくことが可能になる。
【0008】
特許文献1に記載の地下道の構築方法では、パイプルーフ55を構成する箱形パイプ部材52の外側の面を覆ってフリクションカット部材51が取り付けられていることから、フリクションカット部材51を横断させて箱形パイプ部材52の内部から外側の地盤に注入固化材を注入することにより空隙や地盤の緩みを解消することは困難であることから、発進立坑53或いは到達立坑54からボーリング削孔を行い、形成したボーリング孔を介してフリクションカット部材51の外側の地盤に注入固化材を注入することが考えられている。
【0009】
しかしながら、このようなボーリング孔を介して注入固化材を注入する方法では、ボーリング削孔の準備と削孔に多くの手間と時間を要するため、特に構築すべき地下道が長く、注入対象箇所が発進立坑53或いは到達立坑54から離れている場合には、地山の変形をより効果的に抑制するという観点から、さらに速やかにフリクションカット部材51の外側の地盤に注入固化材を注入することを可能にする手段の開発が望まれている。また、パイプルーフ55と置き換えて地下道外郭構造体56が設置された後に、これの内部からの作業によって、当該地下道外郭構造体56に形成した注入孔を介して、フリクションカット部材51の外側の地盤に注入固化材を注入することも考えられるが、長時間が経過した後の施工になってしまうと共に、残置されたフリクションカット部材51が邪魔になって、これの外側に注入固化材をうまく注入することができないことが考えられる。
【0010】
本発明は、上述のような、地中に形成したパイプルーフを、フリクションカット部材を地中に残置したまま地下道外郭構造体と置換することにより地下道を形成する地下道の構築方法に特有の技術的課題に着目してなされたものであり、パイプルーフを構成する箱形パイプ部材に取り付けられたフリクションカット部材の外側の地盤に、注入固化材を容易且つ速やかに注入することを可能にして、さらに安定した状態で地下道を構築してゆくことのできる地下道の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、矩形断面の計画地下道部の外周に沿って配置される面にフリクションカット部材を固定した複数本の箱形パイプ部材を、前記計画地下道部の少なくとも上床位置の地中に並列状態で圧入して、前記計画地下道部を貫通するパイプルーフを地中に形成した後に、該パイプルーフの端面に矩形断面の地下道外郭構造体の少なくと上床部分の端面を当接させ、前記地下道外郭構造体の内側先端の切羽面の土砂を掘削排除しながら前記地下道外郭構造体を推進させて、前記箱形パイプ部材との固定を解除した前記フリクションカット部材を地中に残置したまま、少なくとも前記上床位置のパイプルーフを押し出して前記地下道外郭構造体と置換することにより、前記計画地下道部に前記地下道外郭構造体による地下道を形成する地下道の構築方法において、前記フリクションカット部材と前記箱形パイプ部材との固定及び固定の解除が、前記箱形パイプ部材に形成した複数の内側ボルト孔と、前記フリクションカット部材に形成した複数の外側ボルト孔とを各々合致させて螺合締着される固定ボルトを着脱することにより行われ、前記箱形パイプ部材を地中に圧入したら、注入固化材を注入する箇所における前記固定ボルトを前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔から取り外して注入用治具を付け替え、該注入用治具を介して前記箱形パイプ部材の内側から前記フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入することにより、フリクションカット部材の外側の地盤を安定化させることを特徴とする地下道の構築方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0012】
そして、本発明の地下道の構築方法は、前記固定ボルトが、その先端の位置を前記フリクションカット部材に形成された外側ボルト孔の外側開口面に略合致させた状態で、前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔に螺合締着されることが好ましい。
【0013】
また、本発明の地下道の構築方法は、前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔に取り付けた注入用治具を介して前記箱形パイプ部材の内側から前記フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入する作業を、圧入した一本一本の前記箱形パイプ部材毎に行うようにすることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の地下道の構築方法は、前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔に取り付けた注入用治具を介して前記箱形パイプ部材の内側から前記フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入する作業を、複数本の前記箱形パイプ部材を圧入してから、該複数本の箱形パイプ部材に対してまとめて行うようにすることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地中に形成したパイプルーフを、フリクションカット部材を地中に残置したまま地下道外郭構造体と置換することにより地下道を形成する地下道の構築方法において、パイプルーフを構成する箱形パイプ部材に取り付けられたフリクションカット部材の外側の地盤に、注入固化材を容易且つ速やかに注入することを可能にして、さらに安定した状態で地下道を構築してゆくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい一実施形態に係る地下道の構築方法は、図9(a)〜(j)に示す、地中に形成したパイプルーフ55を、フリクションカット部材51を地中に残置したまま例えばプレキャスト製の地下道外郭構造体56と置換することにより地下道60を形成する地下道の構築方法において、パイプルーフ55を構成する箱形パイプ部材52に取り付けられたフリクションカット部材51の外側の地盤に、注入固化材を容易且つ速やかに注入することを可能にして、さらに安定した状態で地下道60を構築できるようにするために採用されたものである。
【0017】
すなわち、本実施形態の地下道の構築方法は、矩形断面の計画地下道部50の外周に沿って配置される面にフリクションカット部材51を固定した複数本の箱形パイプ部材52を、計画地下道部50の少なくとも上床位置50aの地中に並列状態で圧入して、計画地下道部50を貫通するパイプルーフ55を地中に形成した後に、パイプルーフ55の端面に矩形断面の地下道外郭構造体56の少なくと上床部分56aの端面を中押しジャッキ57を介在させた状態で当接させ、地下道外郭構造体56の内側先端の切羽面の土砂を掘削排除しながら地下道外郭構造体56を推進させて、箱形パイプ部材52との固定を解除したフリクションカット部材51を地中に残置したまま、少なくとも上床位置50aのパイプルーフ55を押し出して地下道外郭構造体56と置換することにより、計画地下道部50に地下道外郭構造体56による地下道60を形成する構築方法において、図1〜図3に示すように、フリクションカット部材51と箱形パイプ部材52との固定及び固定の解除が、箱形パイプ部材52に形成した複数の内側ボルト孔12と、フリクションカット部材51に形成した複数の外側ボルト孔11とを各々合致させて螺合締着される固定ボルト10を着脱することにより行われるようになっている。そして、箱形パイプ部材52を地中に圧入したら、注入固化材を注入する箇所(図4の符号19参照)における固定ボルト10を内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11から取り外して注入用治具13を付け替え、この注入用治具13を介して箱形パイプ部材52の内側からフリクションカット部材51の外側の地盤に注入固化材を注入することにより、フリクションカット部材51の外側の地盤を安定化させるようになっている。
【0018】
本実施形態によれば、箱形パイプ部材52は、図1に示すように、4方の角部が湾曲する略矩形断面(本実施形態では略正方形断面)の中空箱形のパイプ部材であって、例えば19mm程度の厚さの鋼製プレートからなり、例えば縦横が800mm程度の大きさの断面を備えると共に、例えば6000mm程度の長さを有している。箱形パイプ部材52は、両端の開口端面部分に、4方の角部から内側に張り出す略三角形状の連結プレート23が設けられており、この連結プレート23に形成された連結孔23aに連結ボルト(図示せず。)を締着することにより、地中への圧入に伴って、長さ方向に順次連結しながら箱形パイプ部材52を継ぎ足してゆくことができるようになっている。
【0019】
また、箱形パイプ部材52の並列方向の両側に配置される側面板14a,14bには、一方の側面板14aの外側に上下一対の外側案内リブ15aが、他方の側面板14bの外側に上下一対の内側案内リブ15bが、長さ方向全長に亘って帯板状に突出して各々設けられている。先行して地中に設置された箱形パイプ部材52に隣接して、次の箱形パイプ部材52を地中に圧入して行く際に、一方の箱形パイプ部材52の側面板14aに設けられた一対の外側案内リブ15aの間に、他方の箱形パイプ部材52の側面板14bに設けられた一対の内側案内リブ15bを嵌め込むようにしながら、これらの案内リブ15a,15bにガイドさせて、複数の箱形パイプ部材52を、先行設置された箱形パイプ部材52に沿った所定の設置位置に、精度良く圧入して行くことが可能になる。
【0020】
さらに、本実施形態では、計画地下道部50の上床位置50a(図9参照)の地中に並列状態で圧入される箱形パイプ部材52には、計画地下道部50の外周に沿って配置される面となる上面板16の上面を覆うようにして、フリクションカット部材51が当該上面板16に着脱可能に固定されて取り付けられている。フリクションカット部材51は、例えば12mm程度の厚さの鋼製プレート部材であり、箱形パイプ部材52の幅と略同じ幅を有すると共に、箱形パイプ部材52の全長に亘って取り付けられている。またフリクションカット部材51には、幅方向の一方の側縁部に沿って、ラッププレート17が、例えばフリクションカット部材51の上面に溶着接合されることにより、フリクションカット部材51の全長に亘って側方に張り出して取り付けられている。先行して地中に設置された箱形パイプ部材52に隣接して、次の箱形パイプ部材52を地中に圧入して行く際に、例えば一方の箱形パイプ部材52に固定されたフリクションカット部材51のラッププレート17の下面に沿って、他方の箱形パイプ部材52に固定されたフリクションカット部材51の側縁部を差し込んでゆくことにより、両側のフリクションカット部材51の継ぎ目部分をラッププレート17によって隙間なく強固に覆うことができるようになっている。
【0021】
本実施形態では、フリクションカット部材51と箱形パイプ部材52とは、箱形パイプ部材52に形成した複数の内側ボルト孔12と、フリクションカット部材51に形成した複数の外側ボルト孔11とを各々合致させて、固定ボルト10を螺合締着することより、固定の解除が可能な状態で一体固定されている。すなわち、本実施形態によれば、箱形パイプ部材52の上面板16には、長さ方向に例えば3m程度のピッチで、内側ボルト孔12が2列に穿孔形成されていると共に、フリクションカット部材51には、これらの内側ボルト孔12と対応する位置に、外側ボルト孔11が穿孔形成されている。箱形パイプ部材52の上面板16を覆ってフリクションカット部材51を取り付けた際に、各内側ボルト孔12と各外側ボルト孔11とを合致させて、図2にも示すように、これらが連通する複数の貫通ボルト孔を各々容易に形成できるようになっている。
【0022】
また、フリクションカット部材51は、内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11を合致させた貫通ボルト孔に固定ボルト10を螺合締着することより、箱形パイプ部材52に固定され、箱形パイプ部材52と共に計画地下道部50の上床位置50aに圧入されて、矩形断面の計画地下道部50の上部外周面に沿って配置される。さらに、フリクションカット部材51は、複数本の箱形パイプ部材52を地中に並列状態で圧入してパイプルーフ55が形成された後に、地下道外郭構造体56と置換させるべく地下道外郭構造体56によってパイプルーフ55を押し出す際に、固定ボルト10を箱形パイプ部材52の内側から取り外して、箱形パイプ部材52との固定状態が解除されることにより、地中に残置されることになる。これによって、パイプルーフ55が地下道外郭構造体56によって置き換えられる際の上方の地盤を、乱すことなくフリクションカット部材51によって効果的に保持することが可能になり、上方の既存の鉄道線路や道路等に影響を与えないようにすることが可能になる。
【0023】
ここで、本実施形態では、固定ボルト10は、箱形パイプ部材52の上面板16との間にワッシャー18を介在させて内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11に螺合締着された際に、その先端の位置がフリクションカット部材51に形成された外側ボルト孔11の外側開口面に略合致するように、固定ボルト10の頭部10aを除いた首下から先端までの長さL(図2参照)であるボルトの呼び長さが、ワッシャー18の厚さと、上面板16の厚さと、フリクションカット部材51の厚さとを加えた厚さに略等しい長さとなっている。これによって、固定ボルト10を締着した状態では、固定ボルト10の上端面がフリクションカット部材51の上面と略同一な面となるので、箱形パイプ部材52の圧入時に障害になることがなく、また内側ボルト孔12や外側ボルト孔11に土砂が詰まった状態となるのを回避することが可能になる。なお、図2では、固定ボルト10を螺合させるための雌ネジは、外側ボルト孔11にのみ設けられているが、内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11の双方に雌ネジを設けても良い。
【0024】
そして、本実施形態では、箱形パイプ部材52を地中に圧入したら、図3(a),(b)に示すように、注入固化材を注入する箇所における固定ボルト10を内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11から取り外して、注入用治具13を付け替え、さらに接続ジョイント21を介して注入ホース24接続して、箱形パイプ部材52の内側からフリクションカット部材51の外側の地盤に注入固化材を圧送注入することにより、フリクションカット部材51の外側の地盤を安定化させることが可能である。
【0025】
例えば、予期しない玉石や硬い地山の存在等により、箱形パイプ部材52の断面よりも外側の地山が削られて、図4に示すように、フリクションカット部材51の外側の地盤に空隙や緩みの生じた部分19の存在が予想される場合に、これらの空隙や緩みの生じた部分19を注入固化材の注入箇所として、当該注入箇所に配置された固定ボルト10のみを取り外して注入用治具13を付け替え、箱形パイプ部材52の内側から注入固化材を短い距離で注入箇所に注入することにより、空隙や緩みの生じた部分19に注入固化材を充填して固化させる作業を速やかに行って、フリクションカット部材51の外側の地盤を効果的に補強して安定化させることが可能になる。
【0026】
ここで、注入固化材としては、トンネル工法や地盤改良工法等に用いられる公知の種々の注入固化材を用いることができ、より具体的には、超微粒子セメントを使用した懸濁液系のグラウト材を用いることが好ましい。懸濁液系のグラウト材は、ゲルタイムを数秒から調整することが可能であり、初期強度も大きいことから、ゲルタイムを短く設定する空隙充填から、ゲルタイムを長く設定する地盤内の浸透注入まで、幅広く対応することが可能になる。
【0027】
また、注入用治具13としては、注入した注入固化材が箱形パイプ部材52に逆流しないように、ボールバルブ20等のバルブや逆止弁を備えるものを用いることが好ましい。なお、図5(a),(b)に、注入用治具13のより具体的な形態を例示する。図5(a)の注入用治具は、バルブタイプの注入用治具13aであり、中央に注入孔用の芯抜き加工を施した加工ボルト部30を先端部分に備えていて、この加工ボルト部30を介して内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11に着脱されると共に、加工ボルト部30に溶着されたソケット31や、ボールバルブ32、カプラージョイント33等によって構成されている。図5(b)の注入用治具は、ソケットタイプの注入用治具13bであり、中央に注入孔用の芯抜き加工を施した加工ボルト部30を先端部分に備えていて、この加工ボルト部30を介して内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11に着脱されると共に、加工ボルト部に溶着されたソケット31や、カプラージョイント33等によって構成されている。
【0028】
そして、本実施形態によれば、内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11に取り付けた注入用治具13を介して箱形パイプ部材52の内側からフリクションカット部材51の外側の地盤に注入固化材を圧送注入する作業は、例えば図6に示すように、圧入した一本一本の箱形パイプ部材52毎に行うことができる。注入固化材を注入する作業を一本一本の箱形パイプ部材52毎に行うことにより、早期にフリクションカット部材51の外側の地盤を安定させることが可能になる。一本の箱形パイプ部材52の幅は800mm程度と狭いため、空隙や地盤の緩み等が生じても上方の地盤への影響が少ないため、一本一本の箱形パイプ部材52毎に注入作業を行うことにより、上方の既存の鉄道線路や道路等への影響をほとんどなくすことが可能になる。
【0029】
なお、箱形パイプ部材52に注入固化材を注入する箇所が複数ある場合には、注入対象箇所の全ての固定ボルト10を取り外して注入用治具13と置き換えた後に、各注入用治具13に注入ホース18を接続して注入固化材を圧送することが好ましい。これによって、固定ボルト10を取り外して注入用治具13と置き換える際に、他の注入箇所で注入された注入固化材が内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11を介して漏出するのを回避することが可能になる。
【0030】
また、発進立坑53或いは到達立坑54の坑口部分においては、図7に示すように、土留壁21とフリクションカット部材51との間の隙間を、例えば閉塞用の間詰モルタル22を詰め込むことにより、閉塞しておくことが好ましい。土留壁21とフリクションカット部材51との間の隙間を閉塞しておくことにより、フリクションカット部材51の外側の地盤に圧送注入された注入固化材が、立坑53,54内に噴出するのを回避することが可能になる。
【0031】
さらに、本実施形態によれば、例えばフリクションカット部材51の外側の地盤が硬い地盤である場合には、内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11に取り付けた注入用治具13を介して箱形パイプ部材52の内側からフリクションカット部材51の外側の地盤に注入固化材を圧送注入する作業は、例えば図8に示すように、複数本の箱形パイプ部材52を圧入してから、これらの複数本の箱形パイプ部材52に対してまとめて行うようにすることもできる。これによって、相当量の注入固化材を一回の作業で注入することを可能にして、作業工程及び使用する注入固化材の効率化を図ることが可能になる。
【0032】
そして、上述のような本実施形態の地下道の構築方法によれば、パイプルーフ55を構成する箱形パイプ部材52に取り付けられたフリクションカット部材51の外側の地盤に、注入固化材を容易且つ速やかに注入して、さらに安定した状態で地下道を構築してゆくことが可能になる。すなわち、本実施形態によれば、フリクションカット部材51と箱形パイプ部材52との固定及び固定の解除が、箱形パイプ部材52に形成した複数の内側ボルト孔12と、フリクションカット部材51に形成した複数の外側ボルト孔11とを各々合致させて螺合締着される固定ボルト10を着脱することにより行われるようになっており、これらの合致した内側ボルト孔12及び外側ボルト孔11を注入孔として利用して、これに付け替えた注入用治具13を介して箱形パイプ部材52の内側からフリクションカット部材51の外側の地盤に短い距離で注入固化材を容易に注入することが可能になる。したがって、発進立坑53或いは到達立坑54からボーリング削孔を行って形成したボーリング孔を介して注入固化材を注入する場合と比較して、所定の注入箇所に極めて簡易に注入固化材の注入を行うことが可能になり、これによって空隙や地盤の緩み等に速やかに対応できるようになるので、フリクションカット部材51の外側の地盤をさらに強固に安定化させながら地下道を構築してゆくことが可能になる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、パイプルーフの端面に中押しジャッキを介在させて地下道外郭構造体の端面を当接させる必要は必ずしもなく、地下道外郭構造体の端面をパイプルーフの端面に直接当接させることもできる。また、地下道外郭構造体は、発進立坑から押し出して推進させるものの他、到達立坑から牽引して推進させるものであっても良い。さらに、フリクションカット部材を固定した箱形パイプ部材を計画地下道部の側壁部分にも配設する際に、当該側壁部分のフリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入するべく本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る地下道の構築方法において、並列状態で圧入される箱形パイプ部材の構成を説明する断面図である。
【図2】箱形パイプ部材とフリクションカット部材との固定状態を説明する、図1のA部拡大断面図である。
【図3】(a),(b)は、内側ボルト孔及び外側ボルト孔に注入用治具を付け替えて注入固化材を注入する状態を説明する、図1のA部拡大断面図である。
【図4】フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入する箇所を説明する縦断面図である。
【図5】(a),(b)は、注入用治具のより具体的な形状を例示する説明図である。
【図6】フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を供給する作業を箱形パイプ部材毎に行なう状況の説明図である。
【図7】立坑の土留壁とフリクションカット部材との間の隙間を間詰モルタルによって閉塞した状態の説明図である。
【図8】フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を供給する作業を複数の箱形パイプ部材に対してまとめて行なう状況の説明図である。
【図9】(a)〜(j)は、地中に形成したパイプルーフを、フリクションカット部材を地中に残置したまま地下道外郭構造体と置換することにより地下道を形成する地下道の構築方法の工程を説明する縦断面図及び横断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10 固定ボルト
11 外側ボルト孔
12 内側ボルト孔
13 注入用治具
14a,14b 側面板
15a 外側案内リブ
15b 内側案内リブ
16 上面板
17 ラッププレート
18 ワッシャー
19 空隙や緩みの生じた部分(注入固化材を注入する箇所)
20 ボールバルブ
21 接続ジョイント
22 間詰モルタル
23 連結プレート
24 注入ホース
50 計画地下道部
50a 計画地下道部の上床位置
51 フリクションカット部材
52 箱形パイプ部材
53 発進立坑
54 到達立坑
55 パイプルーフ
56 地下道外郭構造体
56a 地下道外郭構造体の上床部分
57 中押しジャッキ
58 元押しジャッキ
59 刃口部材
60 地下道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形断面の計画地下道部の外周に沿って配置される面にフリクションカット部材を固定した複数本の箱形パイプ部材を、前記計画地下道部の少なくとも上床位置の地中に並列状態で圧入して、前記計画地下道部を貫通するパイプルーフを地中に形成した後に、該パイプルーフの端面に矩形断面の地下道外郭構造体の少なくと上床部分の端面を当接させ、前記地下道外郭構造体の内側先端の切羽面の土砂を掘削排除しながら前記地下道外郭構造体を推進させて、前記箱形パイプ部材との固定を解除した前記フリクションカット部材を地中に残置したまま、少なくとも前記上床位置のパイプルーフを押し出して前記地下道外郭構造体と置換することにより、前記計画地下道部に前記地下道外郭構造体による地下道を形成する地下道の構築方法において、
前記フリクションカット部材と前記箱形パイプ部材との固定及び固定の解除が、前記箱形パイプ部材に形成した複数の内側ボルト孔と、前記フリクションカット部材に形成した複数の外側ボルト孔とを各々合致させて螺合締着される固定ボルトを着脱することにより行われ、
前記箱形パイプ部材を地中に圧入したら、注入固化材を注入する箇所における前記固定ボルトを前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔から取り外して注入用治具を付け替え、該注入用治具を介して前記箱形パイプ部材の内側から前記フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入することにより、フリクションカット部材の外側の地盤を安定化させることを特徴とする地下道の構築方法。
【請求項2】
前記固定ボルトは、その先端の位置を前記フリクションカット部材に形成された外側ボルト孔の外側開口面に略合致させた状態で、前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔に螺合締着されることを特徴とする請求項1に記載の地下道の構築方法。
【請求項3】
前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔に取り付けた注入用治具を介して前記箱形パイプ部材の内側から前記フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入する作業は、圧入した一本一本の前記箱形パイプ部材毎に行われる請求項1又は2に記載の地下道の構築方法。
【請求項4】
前記内側ボルト孔及び外側ボルト孔に取り付けた注入用治具を介して前記箱形パイプ部材の内側から前記フリクションカット部材の外側の地盤に注入固化材を注入する作業は、複数本の前記箱形パイプ部材を圧入してから、該複数本の箱形パイプ部材に対してまとめて行われる請求項1又は2に記載の地下道の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−177553(P2007−177553A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378737(P2005−378737)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】