説明

均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材及びその製造方法

【課題】スパッタリングターゲットとして用いるに好適な、均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材を提供する。
【解決手段】Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅からなる鋳塊を、550℃以上で熱間鍛造した後急水冷し、次いで、初期温度350℃以上で温間鍛造した後急水冷し、次いで、50%以上の総圧下率で冷間クロス圧延をし、次いで、200℃以上で歪取焼鈍を行うことにより、平均結晶粒径が20μm以下であり、かつ、個々の結晶粒についてその粒径分布を測定した場合に、平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合は、全結晶粒面積の10%未満である均一かつ微細な結晶組織を有する高純度銅加工材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、スパッタリングターゲットとして用いられるのに好適な、均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC,LSI,ULSIなどの半導体装置を製造する際の導電性膜等の形成法としては、例えば、微細な結晶粒を有する高純度銅ターゲットのスパッタリング、電気めっき浴中での高純度銅アノードの電解等が知られており、そして、この高純度銅は純度が99.9999重量%以上であり、かつ、平均結晶粒径が200μm以下である微細な結晶粒を有することが好ましいとされている。
例えば、特許文献1、2に示すように、微細な結晶粒を有する高純度銅は、真空または不活性ガス雰囲気中で溶解・鋳造して得られた99.9999重量%以上の高純度銅インゴットを550〜650℃に加熱し、この加熱された高純度銅インゴットを熱間鍛造したのち冷間加工し、次いで初期温度350〜500℃の温度範囲内で歪取焼鈍し、冷間加工と歪取焼鈍を繰り返し行い、最終的に冷間加工することにより高純度銅加工材として得られている。
しかし、上記従来技術では、純度:99.9999重量%以上の素材を使用することにより99.9999重量%以上の純度を確保することはできるが、工業的に平均粒径:200μm以下の微細結晶粒を安定して得ることは難しいという問題があった。
【0003】
そこで、より微細な結晶組織を安定的に得るべく、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献3では、純度99.9999重量%以上の高純度銅インゴットを300〜500℃で熱間鍛造した後、冷間加工し、次いで歪取焼鈍を行うことにより、平均結晶粒径10〜50μmの微細結晶粒からなるスパッタリングターゲット、電気めっき用アノードとして用いられる高純度銅加工材を得ている。
また、特許文献4では、高純度銅素材を約−50℃以下の温度に冷却し、その後加工して該高純度銅に加工ひずみを導入し、これを約320℃以下の温度で再結晶させることにより、約10μm以下の結晶粒度を有する高純度銅加工材を得ている。
特許文献5では、300℃を超える温度で熱間鍛造後、必要により中間焼鈍し、その後、冷間圧延することにより、1〜約50μmの平均結晶粒度の高純度銅加工材を得ている。
特許文献6では、熱間鍛造後水焼入れし、その後冷間圧延することにより、比較的均一な結晶粒径の、かつ、平均結晶粒度50μm以下の高純度銅加工材を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−195609号公報
【特許文献2】特開平10−330923号公報
【特許文献3】特開2001−240949号公報
【特許文献4】特開2004−52111号公報
【特許文献5】特表2005−533187号公報
【特許文献6】特表2009−535518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、Siウエハの大型化によりスパッタリングターゲットの大型化が図られているが、それに伴い、スパッタリングの時の膜厚均一性の向上や異常放電の発生防止によるウエハ上の欠陥発生防止が求められている。
そこで、この発明では、スパッタリングターゲットの大型化を図った場合にも、スパッタリングの時の膜厚均一性を確保し、異常放電の発生を防止することができる、均一かつ微細な結晶組織を有する高純度銅加工材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、高純度銅加工材からなるスパッタリングターゲットのスパッタ中における異常放電の発生と、高純度銅加工材の結晶組織との関連について鋭意研究したところ、前記スパッタリングターゲットを構成する高純度銅加工材の結晶粒の平均サイズ及び結晶粒径の均一性が、スパッタ膜の特性に大きな影響を及ぼすことを見出した。
例えば、上記特許文献3〜6に示される製造方法によれば、比較的結晶粒径の小さな高純度銅が得られるが、その結晶粒径の分布を測定した場合、結晶粒径の分布幅が広いことがわかる。特に、純度を高くし、純度:99.9999重量%以上の高純度銅加工材を作製した場合には、結晶粒を均一に微細化することが困難であるばかりか、平均結晶粒径が仮に小さな数値であっても、粒径のバラツキ幅が大きいため、平均結晶粒径が小さいと同時に、高純度銅加工材全体にわたり結晶粒径が均一である高純度銅加工材は得られていない。
【0007】
そこで、本発明者等は、平均結晶粒径が小さく、かつ、加工材全体にわたって均一な結晶粒径となる結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法についてさらに検討を進めたところ、純度99.9999重量%以上の高純度銅からなる鋳塊を、初期温度550℃以上で熱間鍛造することにより鋳造組織を破壊した後水冷し、次いで、初期温度350℃以上で温間鍛造した後水冷することにより組織の微細化且つ均一化を図りつつ再結晶の進行を抑制し、次いで、50%以上の総圧下率で冷間クロス圧延をすることにより全体にわたり組織を更に微細化均一化するとともに再結晶化のための加工歪を付与し、次いで、200℃以上で歪取焼鈍を行い同時に再結晶化を進めることにより、平均結晶粒径が20μm以下であり、かつ、個々の結晶粒についてその粒径分布を測定した場合に、平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合は、全結晶粒面積の10%未満である均一かつ微細な結晶組織を有する高純度銅加工材を製造し得ることを見出したのである。
【0008】
そして、上記で製造した本発明の高純度銅加工材によって、例えば、φ300mmSiウエハ用の大径スパッタリングターゲットを作製した場合には、異常放電の発生もなくスパッタリングが均一に行われ、その結果、ウエハ上の欠陥発生を低減することができる。
【0009】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅加工材であって、熱間鍛造、温間鍛造、冷間圧延及び歪取焼鈍により平均結晶粒径が20μm以下とされ、かつ、個々の結晶粒についてその粒径分布を測定した場合に、平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合は、全結晶粒面積の10%未満であることを特徴とする均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材。
(2) 高純度銅加工材がスパッタリングターゲットであることを特徴とする前記(1)に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材。
(3) Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅からなる鋳塊を、初期温度550℃以上で熱間鍛造した後水冷し、次いで、初期温度350℃以上で温間鍛造した後水冷し、次いで、50%以上の総圧下率で冷間クロス圧延をし、次いで、200℃以上で歪取焼鈍を行うことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
(4) Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅からなる鋳塊は、引け巣やボイドといった鋳造欠陥が無い高純度銅鋳塊である前記(3)に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
(5) 熱間鍛造は、初期温度550〜900℃の範囲で少なくとも1回以上行う熱間圧伸鍛造である前記(3)または(4)に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
(6) 熱間圧伸鍛造は、鋳塊をその凝固方向に圧縮後、鋳塊の凝固方向に垂直な方向で、かつ、少なくとも2軸以上の多方向から鍛造しながら伸ばしていく鍛造である前記(5)に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
(7) 温間鍛造は、初期温度350〜500℃の範囲で少なくとも1回以上行う温間圧伸鍛造である前記(3)乃至(6)の何れかに記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
(8) 温間圧伸鍛造は、鋳塊をその凝固方向に圧縮後、鋳塊の凝固方向に垂直な方向で、かつ、少なくとも2軸以上の多方向から鍛造しながら伸ばしていく鍛造である前記(7)に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
(9) 前記歪取焼鈍は、200〜400℃の温度範囲で実施する前記(3)乃至(8)の何れかに記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。」
を特徴とするものである。
【0010】
つぎに、この発明の均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材の製造方法について、図面を用いて具体的かつ詳細に説明する。
【0011】
まず、純度99.9999重量%以上の高純度銅を、例えば、高純度Arガスなどの高純度不活性ガス雰囲気、COガスを2〜3%含む窒素ガスなどの還元ガス雰囲気または真空雰囲気で、温度:1150〜1300℃で溶解して溶湯を作製し、この溶湯を、凝固させることにより、純度99.9999重量%以上の高純度銅の鋳塊を製造する。
この発明では、例えば、一方向凝固により銅鋳塊を作製するが、これは、一方向凝固させることによりガス成分はインゴットの最上面に放出されていき、仮にトラップされたガスが存在していても表面研削などにより簡単に除去することができ、また通常の鋳造により得られたインゴットよりも引け巣やボイドの発生が少なく、歩留まりが向上するからである。
なお、銅鋳塊の製法は一方向凝固に限定されず、例えば半連続鋳造などによっても、引け巣やボイドや割れといった鋳造欠陥が無い高純度銅鋳塊を得ることができる。
【0012】
図1は、この発明の均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材の製造方法における熱間鍛造工程の一例を説明するための概略説明図である。
上記で得た一方向凝固組織を有する純度99.9999重量%以上の高純度銅の鋳塊を、初期温度550〜900℃(図1では800℃)に加熱して熱間鍛造を行う。
熱間鍛造工程では、まず、高純度銅鋳塊の凝固方向に鍛造し、その厚さが1/2以下になったとき、鋳塊を横置きし、鋳塊を回しながらその周方向から叩いて、横置きした当初の2倍以上の長さまで伸ばす多軸圧伸鍛造を行い、角柱状の熱間鍛造材とし、次いで、角柱状の熱間鍛造材を立て直して該角柱状の熱間鍛造材の軸方向から再度鍛造を行い、その厚さが1/2以下になったとき、再度熱間鍛造材を横置きし、熱間鍛造材を回しながらその周方向から叩いて、横置きした当初の2倍以上の長さまで伸ばす多軸圧伸鍛造を再度行い、これを繰り返し行うことにより、鋳塊の鋳造組織を破壊する。そして、熱間鍛造の終了後、該熱間鍛造材を水冷する。図1においては、8角柱状の熱間鍛造材を得る方法を例示したが、これに限らず、例えば4角柱状の熱間鍛造材を得ることとしてもよい。
作製した鋳塊では、その結晶粒径は、約1000〜200000μmという大きな結晶粒径であるが、上記熱間鍛造を行うことにより、鋳塊の鋳造組織は破壊され、その結晶粒径は、約80〜150μm程度にまで微細化する。
このように、本発明における熱間鍛造工程は、初期温度550〜900℃の範囲で少なくとも1回以上行う熱間圧伸鍛造であることが好ましい。
ここで、熱間鍛造の初期温度が550℃未満では、鋳造組織が残存してしまい、一方、900℃を超える初期温度で鍛造した場合には、鍛造時の発熱等により、鋳塊の溶融の危険や無駄なエネルギーを使用してしまうため、熱間鍛造の初期温度は550〜900℃とした。
また、鋳造組織の不均質性(結晶粒径)を解消するためには、多方向から鍛造しながら伸ばしていく多軸圧伸鍛造が望ましい。
さらに、熱間鍛造終了後、熱間鍛造材を水冷するのは、特に、熱間鍛造材内部の残熱によって、破壊した鋳造組織の結晶粒が成長し粗大化するのを防止するためである。
【0013】
図2は、この発明の均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材の製造方法における温間鍛造工程の一例を説明するための概略説明図である。
上記の熱間鍛造で作製した角柱状の熱間鍛造材に対して、鍛造初期温度域350〜500℃で温間鍛造を行う。
例えば、420℃に加熱した角柱状の熱間鍛造材に対し、まず、その軸方向に温間鍛造し、その厚さが1/2以下になったとき、温間鍛造材を横置きし、該温間鍛造材を回しながらその周方向から叩いて、横置きした当初の2倍以上の長さまで伸ばす多軸圧伸鍛造を行い、次いで、角柱状の温間鍛造材を立て直して該角柱状の温間鍛造材の軸方向から再度鍛造を行い、その厚さが1/2以下になったとき、再度温間鍛造材を横置きし、温間鍛造材を回しながらその周方向から叩いて、横置きした当初の2倍以上の長さまで伸ばす多軸圧伸鍛造を再度行い、これを繰り返し行い、角柱状の温間鍛造材の角がある程度落ちてきた時点でタップ鍛造を行うことによって円柱状の温間鍛造材を作製し、この温間鍛造材の温度が300℃を下回らないうちに水冷する。
上記温間鍛造を施すことにより、平均結晶粒径約30〜80μm程度であって、かつ、温間鍛造材全体にわたって、均一粒径の結晶粒の組織が形成される。
温間鍛造温度が350℃未満であると、鍛造時に坐屈する危険性が高く、また、加工組織が残存し、一方、温間鍛造温度が500℃を超えると、加工中の組織粗大化が生じる恐れがあることから、温間鍛造温度範囲は、350〜500℃とする。
また、温間鍛造終了後、温間鍛造材の温度が300℃を下回らないうちに水冷するのは、温間鍛造材の残熱によって、不均一な結晶粒の成長が起こるのを防止し、また、部分的な結晶粒の粗大化を防止するためである。
【0014】
上記温間鍛造にて作製した円柱状の温間鍛造材に対して、少なくとも50%以上の総圧下率となるように、ある角度で回転させながら即ちクロスさせながら冷間圧延を行う。総圧下率が50%未満では歪付与量が少なく、静的再結晶が不足する可能性があり、また、組織の均一性を高めるためにクロスさせながら冷間圧延を行う。
冷間圧延中は、銅材の温度が100℃を超えないように管理することが好ましい。これにより、歪みの開放を防止することができ、再結晶化を抑制することできる。なお、銅材の温度は、85℃を超えないことがより好ましく、70℃を超えないことがさらに好ましい。
【0015】
上記で得られた高純度冷間圧延銅材に対して、200〜400℃の温度範囲で歪取焼鈍を行う。焼鈍温度が200℃未満では、加工組織が残り、一方、焼鈍温度が400℃を超えると結晶粒の粗大化がはじまり、本発明の目的とする微細結晶組織が得られなくなることから、歪取焼鈍温度は200〜400℃とする。
【0016】
上記の製造方法によって、Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅加工材であって、平均結晶粒径が20μm以下、かつ、個々の結晶粒についてその粒径分布を測定した場合に、平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合は、全結晶粒面積の10%未満である高純度銅加工材全体にわたって均一結晶組織であると同時に微細結晶組織を有する高純度銅加工材が得られるが、平均結晶粒径が20μmを超える場合には、スパッタリングターゲットとしての結晶粒微細化の効果を期待できず、また、平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合が、全結晶粒面積の10%以上となった場合にも、結晶粒組織の均一性が不十分となるため、長期にわたるスパッタリングにおいて結晶粒微細化の効果を期待できなくなるため、本発明では、平均結晶粒径は20μm以下、かつ、個々の結晶粒についてその粒径分布を測定した場合に、平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合は、全結晶粒面積の10%未満と定めた。
【発明の効果】
【0017】
この発明の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材及びその製造方法によれば、本発明の高純度銅加工材でスパッタリングターゲットを作製した場合には、異常放電の発生もなくスパッタリングが均一に行われ、その結果、ウエハ上の欠陥発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材の製造方法における熱間鍛造工程の一例を説明するための概略説明図である。
【図2】この発明の均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材の製造方法における温間鍛造工程の一例を説明するための概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、この発明について、実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
Cu純度99.9999重量%以上、かつ、直径:250mm、長さ:600mmの寸法を有する高純度銅鋳塊を製造した。この高純度銅鋳塊は、最後に溶湯表面が凝固することから、鋳塊内部には引け巣やボイド等の鋳造欠陥がなく、健全な鋳造組織を有していた。
鋳塊の結晶粒の大きさを測定したところ、1000〜200000μmであり、結晶粒の大きさのバラツキが多く、かつ、いずれの結晶粒も粗大なものであった。
測定した平均結晶粒径、結晶粒径のバラツキ(=平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合)を表2に示す。
【0021】
(A)上記高純度銅鋳塊を表1に示す温度に保持し、図1に示されるように、高純度銅鋳塊の凝固方向に対してまず熱間鍛造し、その厚さが1/2以下になった時点で横置きし、鋳塊を回しながらその周方向から叩いて、横置きした当初の2倍以上の長さまで伸ばす多軸圧伸鍛造を行い、角柱状の熱間鍛造材とし、
次いで、角柱状の熱間鍛造材を立て直して該角柱状の熱間鍛造材の軸方向から再度鍛造を行い、その厚さが1/2以下になったとき、再度熱間鍛造材を横置きし、熱間鍛造材を回しながらその周方向から叩いて、横置きした当初の2倍以上の長さまで伸ばす多軸圧伸鍛造を再度行なった。
上記多軸圧伸鍛造を2回行った熱間鍛造材を急水冷した。急水冷を行ったときの熱間鍛造材の温度を表1に示す。
上記熱間鍛造材について測定した平均結晶粒径、結晶粒径のバラツキ(=平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合)を表2に示す。
【0022】
(B)次いで、上記熱間鍛造材を表1に示す温度に加熱し、図2に示されるように、多軸圧伸鍛造を3回繰り返し行うことにより温間鍛造を行った。
温間鍛造材の直径が150mmになった時点で温間鍛造を終了し、急水冷した。急水冷を行ったときの温間鍛造材の温度を表1に示す。
上記温間鍛造材について測定した平均結晶粒径、結晶粒径のバラツキ(=平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合)を表2に示す。
【0023】
(C)上記温間鍛造材に対して、表1に示す総圧下率となるように回転させながら表1に示す目標直径にまで冷間圧延を行い、冷間圧延材の温度が表1に示す温度となった時に冷間圧延材を急水冷した。
【0024】
(D)上記冷間圧延材を、表1に示す温度条件で歪取焼鈍を行った後、急水冷した。上記歪取焼鈍を行った焼鈍材を、面削し酸洗した後、平均結晶粒径、結晶粒径のバラツキ(=平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合)を測定した。この測定値を表2に示す。
上記(A)〜(D)の各工程により、表2に示される本発明の均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材(実施例という)1〜10を製造した。
(平均結晶粒径の測定)
電界放出型走査電子顕微鏡を用いたEBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SE,EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界を特定した。測定条件は
測定範囲:680×1020μm / 測定ステップ:2.0μm / 取込時間:20msec./point
とした。
まず、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線解析法による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点を結晶粒界とした。
得られた結晶粒界から、観察エリア内の結晶粒子数を算出し、観察エリア内の結晶粒界の全長を結晶粒子数で割って結晶粒子面積を算出し、それを円換算することにより、平均結晶粒とした。(Number Fraction)
(結晶粒径のバラツキ測定)
上記測定により、粒径分布図を作成しここからばらつきを算出した。
【0025】
比較のため、上記で作製したCu純度99.9999重量%以上、かつ、直径:250mm、長さ:600mmの寸法を有する高純度銅鋳塊に対して、表3に示す条件(少なくとも一つの条件は本発明範囲外の条件である)で、熱間鍛造、温間鍛造、冷間圧延、歪取焼鈍を行い、表4に示す比較例の高純度銅加工材(比較例という)1〜10を製造した。
上記で製造した比較例1〜10についても、本発明と同様にして、平均結晶粒径、結晶粒径のバラツキ(=平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合)を測定した。
この測定値を表4に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
次に、上記の実施例1〜10、比較例1〜10の高純度銅加工材を用いて、任意の箇所から機械加工により、直径152.4mm、厚さ6mmのターゲットを各3枚ずつ作成し、Inはんだにてバッキングプレートに接合した。各ターゲットはスパッタ装置に装着後、到達真空圧力:1×10−5Pa以下まで真空排気した後、超高純度Arガス(純度:5N)をスパッタガスとして、スパッタガス圧:0.3Pa、直流電源によるスパッタ出力:0.5kWにて30分間プレスパッタした後、1.5kWにて5時間連続してスパッタした。この間、電源に付属するアーキングカウンターを用いて、スパッタ中の異常放電回数を計測し、平均値を出し、1時間当たりの平均異常放電回数を求めた。
その結果を表5に示す。
【0031】
【表5】

【0032】
表5に示される結果から、本発明の均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材(実施例1〜10)から作製したスパッタリングターゲットを用いた場合には、ターゲットの大径化を図った場合でも、異常放電が抑制され、安定したスパッタリングを行える。
これに対して、比較例の高純度銅加工材(比較例1〜10)から作製したスパッタリングターゲットでは、異常放電の発生がみられるため、不安定なスパッタリングとなり、ウエハ上のスパッタ膜の欠陥発生の防止を期待することはできないこととなる。
【0033】
本発明の微細結晶組織を有する高純度銅加工材の一用途として、ターゲットを例示して説明したが、これに限定されない。本発明の微細結晶組織を有する高純度銅加工材は、例えば、電気めっき用アノードとして利用することができる。この場合、通常のアノードと比べて溶解が均一になり、またブラックフィルム生成も均一にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のとおり、この発明の、均一かつ微細な結晶粒を有する高純度銅加工材及びその製造方法によれば、該高純度銅加工材により作製したスパッタリングターゲットは優れた効果を有し、工業的な有用性が極めて高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅加工材であって、熱間鍛造、温間鍛造、冷間圧延及び歪取焼鈍により平均結晶粒径が20μm以下とされ、かつ、個々の結晶粒についてその粒径分布を測定した場合に、平均結晶粒径の2.5倍を超える粒径の結晶粒が占める面積割合は、全結晶粒面積の10%未満であることを特徴とする均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材。
【請求項2】
高純度銅加工材がスパッタリングターゲットであることを特徴とする請求項1に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材。
【請求項3】
Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅からなる鋳塊を、初期温度550℃以上で熱間鍛造した後水冷し、次いで、初期温度350℃以上で温間鍛造した後水冷し、次いで、50%以上の総圧下率で冷間クロス圧延をし、次いで、200℃以上で歪取焼鈍を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
【請求項4】
Cu純度99.9999重量%以上の高純度銅からなる鋳塊は、一方向凝固により製造された引け巣やボイドといった鋳造欠陥が無い高純度銅鋳塊である請求項3に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
【請求項5】
熱間鍛造は、初期温度550〜900℃の範囲で少なくとも1回以上行う熱間圧伸鍛造である請求項3または4に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
【請求項6】
熱間圧伸鍛造は、鋳塊をその凝固方向に圧縮後、鋳塊の凝固方向に垂直な方向で、かつ、少なくとも2軸以上の多方向から鍛造しながら伸ばしていく鍛造である請求項5に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
【請求項7】
温間鍛造は、初期温度350〜500℃の温度範囲で少なくとも1回以上行う温間圧伸鍛造である請求項3乃至6の何れか一項に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
【請求項8】
温間圧伸鍛造は、鋳塊をその凝固方向に圧縮後、鋳塊の凝固方向に垂直な方向で、かつ、少なくとも2軸以上の多方向から鍛造しながら伸ばしていく鍛造である請求項7に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。
【請求項9】
前記歪取焼鈍は、200〜400℃の温度範囲で実施する請求項3乃至8の何れか一項に記載の均一かつ微細結晶組織を有する高純度銅加工材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−184711(P2011−184711A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48516(P2010−48516)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】