説明

坏土の混練方法及び混練装置

【課題】坏土の流動性を評価するにあたり、混練の能率が低下するのを防止することができる坏土の混練技術を提供する。
【解決手段】本発明の混練方法は、(a)ミキサー6で回転する攪拌羽根3によって坏土Cを混練しながら、攪拌羽根3の回転運動に関する状態量を測定する工程と、(b)その測定値に基づいて、攪拌羽根3の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータを同定する工程と、(c)その同定値に基づいて、混練中の坏土Cの流動性を評価する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不定形耐火物や生コンクリート等の坏土の混練方法及び混練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不定形耐火物や生コンクリート等の坏土の品質や施工性は、坏土が有する流動性に大きく左右される。このため、フローテーブルとフローコーンを用いたフロー試験を行い、フロー値により坏土の流動性を評価している。しかし、フロー試験は、人手により行わなければならないため面倒である。
【0003】
特許文献1には、攪拌羽根を回転させるモータに回転停止信号を発した時点から、攪拌羽根が坏土から受ける負荷がゼロとなるまでの緩和時間を測定し、予め求めた緩和時間と坏土のフロー値との相関関係から坏土の流動性を評価する方法が開示されている。この方法によれば、緩和時間とフロー値とがよく相関するため、フロー値を精度よく推定することができる。人手によるフロー試験が不要となるので、作業者の負担が軽減される。
【0004】
【特許文献1】特開2005−69717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、緩和時間の測定にあたって、モータ回転の停止と起動を繰り返さなければならないため、坏土の混練の能率が低下する。
【0006】
本発明の目的は、坏土の流動性を評価するにあたり、混練の能率が低下するのを防止することができる坏土の混練技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、(a)回転する攪拌羽根によって坏土を混練しながら、該攪拌羽根の回転運動に関する状態量を測定する工程と、(b)その測定した状態量に基づいて、前記攪拌羽根の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータを同定する工程と、(c)その同定したパラメータ値に基づいて、前記攪拌羽根によって混練中の前記坏土の流動性を評価する工程とを有する坏土の混練方法が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によれば、坏土を収容するバケットと、前記バケット内の坏土を混練する攪拌羽根と、前記攪拌羽根を回転駆動するモータと、前記攪拌羽根の回転運動に関する状態量を測定する測定手段と、前記測定手段の結果に基づいて、前記攪拌羽根の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータを同定する同定手段とを備えた混練装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
攪拌羽根の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータが、坏土のフロー値と相関するため、パラメータ値に基づいて坏土の流動性を評価することができる。攪拌羽根を回転させたままの状態で、パラメータ値を求め、かつ坏土の流動性を評価することができるため、混練の能率が低下するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に、実施例による混練装置の概略図を示す。角速度指令装置1、モータ2、攪拌羽根3、回転軸4、及びバケット5によりミキサー6が構成される。角速度指令装置1は、モータ2に角速度指令値ωを与える。角速度指令値ωは、攪拌羽根3の回転軸4まわりの角速度の目標値である。モータ2は、角速度指令値ωに従って攪拌羽根3の回転軸4を回転させる。回転する攪拌羽根3によって、バケット5内の坏土Cが混練される。
【0011】
角速度検出器(測定手段の一例)7が、攪拌羽根3の回転軸4まわりの角速度ωを測定する。トルク検出器8(測定手段の一例)が、回転軸4まわりのトルクτを検出する。コンピュータ9が、検出された角速度ω及びトルクτ(回転運動に関する状態量)に基づいて、攪拌羽根3の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータを同定する。
【0012】
図2は、図1の混練装置の動作を示すフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って動作を説明する。
【0013】
まず、角速度指令値ωに従って回転する攪拌羽根3によって坏土Cを混練しながら、攪拌羽根3の回転軸4まわりの角速度ωを角速度検出器7にて測定し、回転軸4まわりに作用するトルクτをトルク検出器8にて測定する(ステップS1)。
【0014】
角速度検出器7及びトルク検出器8は、同期をとって同じサンプリング周波数1/T[Hz]でそれぞれω、τを測定する。コンピュータ9には、T秒毎にω及びτの測定値が送られる。以下、T秒毎に測定されて得られるω及びτの時系列データを、ω[0]、ω[1]、…ω[k]、及びτ[0]、τ[1]、…τ[k]と表記する。
【0015】
次に、測定したω及びτに基づいて、攪拌羽根3の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータを同定する。以下、具体的に説明する。
【0016】
攪拌羽根3の回転運動を表す運動方程式は、角速度をω、トルクをτ、時間をtとしたとき、下記式(1)で表される。
【0017】
【数1】

【0018】
この運動方程式(1)を構成するパラメータ、即ち、慣性モーメントJ、粘性摩擦係数d、及び摩擦抗力係数αをコンピュータ9にて求める。以下、そのための手法について説明する。
【0019】
運動方程式(1)を、Tをサンプリング周期としたときに、ωの時間微分が(ω[k+1]−ω[k])/Tで近似されるように離散化して整理すると下記(2)式となる。
【0020】
【数2】

【0021】
但し、(2)式で、f=1−Td/J、g=T/J、h=Tα/J、Tはサンプリング周期、kはステップ数である。
【0022】
(2)式より、次の(3)式で表される同定モデルが得られる。
【0023】
【数3】

【0024】
但し、f´、g´、h´、ω´は、それぞれf、g、h、ωの同定値である。なお、コンピュータ9には、予め初期値として、f´[1]、g´[1]、h´[1]の値が格納されているものとする。
【0025】
なお、(3)式で、τの値に、ωよりも1ステップ前の値を採用しているのは、τを入力、ωを出力とみなしていることによる。
【0026】
まず、ステップ数k=1とする。コンピュータ9は、角速度検出器7の測定結果ω[k]と、トルク検出器8の測定結果τ[k−1]とを、(3)式に代入し、角速度の同定値ω´[k+1]を算出する(ステップS2)。
【0027】
次に、コンピュータ9は、上記同定値ω´[k+1]と、角速度検出器7の測定結果ω[k+1]との差e[k+1]を下記(4)式より算出する(ステップS3)。
【0028】
【数4】

【0029】
次に、コンピュータ9は、下記(5)〜(7)に示す漸化式を用いてf´[k+1]、g´[k+1]、h´[k+1]を算出する(ステップS4)。
【0030】
【数5】

【0031】
次に、コンピュータ9は、f=f´[k+1]、g=g´[k+1]、h=h´[k+1]とし、f=1−Td/J、g=T/J、及びh=Tα/Jなる関係式より、J、d、及びαを算出する(ステップS5)。
【0032】
なお、算出結果は、配列J[k+1]、d[k+1]、α[k+1]に格納され、時系列データとしてコンピュータ9に記憶される。コンピュータ9は、かかるJ、d、及びαの時系列データを波形表示することも可能である。
【0033】
次に、コンピュータ9は、k=k+1とし(ステップS6)、kの値が予め与えられた最大値kmaxより小さければ(ステップS7;yes)、再びステップS1に戻り、kの値がkmax以上であれば(ステップS7;no)、本計算を終了する。
【0034】
以下、図1の混練装置を用いた実験結果について説明する。
【0035】
表1は、流動性の評価対象とした三種類の坏土の構成と、それらのタップフロー値及びフリーフロー値とを示す。表1に示すように三種類の坏土は、粉体部分の構成は同じで、施工水の添加量のみが異なる。高流動坏土が最も多く施工水を含むため流動性が高い。
【0036】
表1で、タップフロー値(以下、TF値という。)とは、JISR2521に規定するフロー値をいう。フリーフロー値(以下、FF値という。)とは、JISR2521に規定するフローコーンに坏土を流し込んで満たし、フローコーンを上方に抜き取って60秒静置したときの坏土の広がり直径をいう。TF値及びFF値は、坏土の流動性を表す指標である。低流動坏土、中流動坏土、高流動坏土の順に、TF値及びFF値が大きくなることが分かる。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の各坏土を、図1の装置で混練し、図2のアルゴリズムに従って各坏土についてパラメータJ、d、及びαの同定を行った。
【0039】
図3は、本実験で図1の角速度指令装置1がモータ2に与えた角速度指令値ωの波形を示す。図3に示すように、階段関数状の角速度指令値ωを与えた。これにより、攪拌羽根と坏土とからなる動的システムに衝撃が加えられ、同定精度の向上を図ることができる。なお、図3に示すように、攪拌時間は25秒間とした。また、図1の角速度検出器7及びトルク検出器8による角速度ω及びトルクτの検出のサンプリング周期は250μ秒とした。
【0040】
図4(a)〜(c)に、パラメータJ、d、及びαの同定結果のグラフを示す。横軸は攪拌時間を示す。便宜上、攪拌時間15秒〜25秒までの10秒間にわたる波形のみを示している。
【0041】
表2は、図4に示したパラメータJ、d、及びαの、攪拌時間15秒〜25秒までの10秒間にわたる平均値を示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2から、表1のTF値及びFF値が大きい程、J、d、及びαの各値が小さくなることが分かる。即ち、これらのパラメータ値と坏土のTF値及びFF値とには相関がある。従って、パラメータ値によって坏土の流動性を評価することできる。また、TF値及び/又はFF値と、パタメータ値との関係を予め求めておけば、パラメータ値から、TF値及び/又はFF値を推定することが可能となる。
【0044】
図5は、表1に記載のTF値と、パラメータJ、d、及びαとの相関図である。横軸がTF値を示す。但し、Jは、d及びαと同じ縦軸に納めるため値を100倍して図示している。J及びdは、TF値に対してほぼ直線的に変化している。このため、例えばJ又はdの、TF値に対する比例定数を予め求めておけば、J又はdからTF値を推定することができる。
【0045】
一方、αのプロットは、途中で折れている。即ち、TF値が157mmから168mmへ変位するときのαの低下の仕方が大きい。TF値が168mmの高流動坏土は、やや水分が多すぎ、バケット5内で坏土Cに分離が生じていた。このことから、例えば、施工水を少しずつ添加しながら坏土を混練する場合には、αのプロットが折れた時点で、施工水の添加を停止するとよい。
【0046】
なお、αのプロットが折れるか否かの判定は、例えば、次のようにして行うことができる。図5では、横軸にTF値をとったが、実際にはTF値を逐一測定するのは煩雑であるから、TF値と直線的に相関するJ又はdと、αとの相関図をみて、αのプロットが折れるかどうかを監視し、即ち、αのJ又はdによる微分(差分)が所定の閾値を下回るか否かを監視すればよい。
【0047】
以上の実験結果を踏まえ、図1に戻って混練装置の説明を続ける。
【0048】
図1に示すように、施工水供給装置10が、バケット5内に施工水を供給する。施工水供給装置10から施工水を少しずつ添加しながら坏土を混練する場合を考える。コンピュータ9は、図2の手順で同定したJ又はdとαとを用い、αのJ又はdによる微分(差分)が所与の閾値を下回るか否かを判定する。αのJ又はdによる微分(差分)が所与の閾値を下回った場合、コンピュータ9は、施工水供給装置10に制御信号を出力し、施工水の供給を停止させる。これにより、坏土に施工水を添加しすぎることを防止することができ、坏土の品質を安定させることができる。
【0049】
また、コンピュータ9は、図2の手順で同定するJ、d、及びαの各々を、所与の目標値J0、0、αと比較し、各パラメータ値が目標値以下となった場合に、角速度指令装置1に制御信号を出力し、攪拌羽根3の回転を停止させ、坏土の混練を終了する。上述したように、J、d、及びαは坏土のフロー値と相関するので、J、d、及びαの値を監視することにより、坏土の流動性が所望の状態となった時点で、混練を自動的に終了することができる。
【0050】
また、コンピュータ9は、表示装置11の制御も行う。例えば、図2の手順で同定したJ、d、及びαの波形をグラフ表示することにより、作業者は坏土の流動状態を視覚的に捉えることができる。
【0051】
また、表示装置11に、作業者が行うべき作業が表示されるようにしてもよい。具体的には、上述したαのJ又はdによる微分(差分)が所与の閾値を下回った場合には、施工水の供給を止めるべき旨を表示装置11に表示し、作業者が施工水の供給を止めるようにしてもよい。また、コンピュータ9が混練を終了すべきと判定した場合は、その旨が表示装置11に表示されるようにし、作業者の手動操作によりミキサー6が停止されるようにしてもよい。
【0052】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれに限られない。
【0053】
例えば、上記実施例では、攪拌羽根の回転運動を表す運動方程式として(1)式を用いたが、これに限られない。例えば、下記(8)式や(9)式を用いてもよい。
【0054】
【数6】

【0055】
【数7】

【0056】
(8)式を用いる場合は、これを構成するパラメータA及びBの少なくともいずれか一方を同定すればよい。(9)式を用いる場合は、これを構成するパラメータC、D、及びEの少なくともいずれか一つを同定すればよい。
【0057】
また、上記実施例では、パラメータJ、d、及びαを求めたが、これらに代えて、f、g、hを用いてもよい。f、g、hは、J、d、αとリンクしており、これらも坏土Cの流動性を表す指標と見做すことができる。即ち、(1)式に代えて、パラメータf、g、hによって構成される運動方程式を用いてもよい。
【0058】
また、上記実施例では、攪拌羽根の回転に関する状態量として、角速度ωを求めたが、角速度ωの代わりに、回転軸4まわりの回転角θを測定してもよい。この場合、角速度ωに相当する物理量は、回転角θを時間微粉(差分)すれば得られる。
【0059】
また、図3には、図1の角速度指令値ωとして、ステップ関数状の波形を例示したが、これに代えて、ランプ関数状の波形等を用いてもよい。角速度指令値ωの波形は特に限定されない。この他、種々の組み合わせ及び改良が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例による混練装置の概略図である。
【図2】図1の混練装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】角速度指令ωの波形を例示したグラフである。
【図4】(a)は慣性モーメントJの同定結果を示すグラフであり、(b)は粘性摩擦係数dの同定結果を示すグラフであり、(c)は摩擦抗力係数αの同定結果を示すグラフである。
【図5】TF値と、パラメータJ、d、及びαとの相関関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1:角速度指令装置、2:モータ、3:攪拌羽根、4:回転軸、5:バケット、6:ミキサー、7:角速度検出器、8:トルク検出器、9:コンピュータ、10:施工水供給装置、11:表示装置、C:坏土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)回転する攪拌羽根によって坏土を混練しながら、該攪拌羽根の回転運動に関する状態量を測定する工程と、
(b)その測定した状態量に基づいて、前記攪拌羽根の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータを同定する工程と、
(c)その同定したパラメータ値に基づいて、前記攪拌羽根によって混練中の前記坏土の流動性を評価する工程と
を有する坏土の混練方法。
【請求項2】
前記工程(a)では、前記攪拌羽根の回転軸まわりのトルクτ及び角速度ωを測定し、
前記工程(b)では、その測定したトルクτ及び角速度ωに基づいて、下記(1)式で表される運動方程式を構成するパラメータJ、d、及びαの少なくともいずれか一つを同定する請求項1に記載の坏土の混練方法。
【数1】

【請求項3】
前記工程(c)では、前記坏土の流動性の評価結果に基づいて、前記攪拌羽根の回転運動の制御、前記坏土への施工水の添加量の制御、及び前記坏土の混練終了の判定の少なくともいずれかを行う請求項1又は2に記載の坏土の混練方法。
【請求項4】
坏土を収容するバケットと、
前記バケット内の坏土を混練する攪拌羽根と、
前記攪拌羽根を回転させるモータと、
前記攪拌羽根の回転運動に関する状態量を測定する測定手段と、
前記測定手段の結果に基づいて、前記攪拌羽根の回転運動を表す運動方程式を構成するパラメータを同定する同定手段と
を備えた混練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−226708(P2009−226708A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74095(P2008−74095)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】