説明

坦持装置

【課題】繊維材料又は布帛に所望物質が溶解されている所望物質溶液に浸漬して、所望物質を坦持させる工程を自動化し得る坦持装置を提供する。
【解決手段】繊維材料又は布帛に所望物質を坦持する坦持装置において、該所望物質溶液16が貯留されている槽12aと、前記繊維材料又は布帛が挿入される籠体18と、籠体18が一端側に設けられた軸体20と、軸体20の他端側に設けられ、籠体18を回転駆動するモータ28と、籠体18が槽12aの下位位置、液面の中位位置、及び上位位置となるように、モータ28を載置する載置台30昇降するシリンダ装置38,38とを具備し、槽12aの上位位置の籠体18を前記下位位置として、槽12aの所望物質溶液16に浸漬した後、籠体18を前記中位位置に位置させて回転駆動して脱水処理を施し、次いで籠体18を前記上位位置に位置するよう制御手段が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は坦持装置に関し、更に詳細には繊維材料又は布帛を所望物質が溶解されている所望物質溶液に浸漬して、前記繊維材料又は布帛に前記所望物質を坦持する坦持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
消臭効果を呈する金属フタロシアニン錯体を繊維材料又は布帛に坦持させることは、例えば下記特許文献1によって知られている。
金属フタロシアニン錯体を繊維材料又は布帛に坦持させる際には、通常、繊維材料又は布帛を、金属フタロシアニン錯体のアルカリ性溶液に所定時間浸漬した後、酸溶液に浸漬して中和処理を施し、次いで水洗する水洗処理を施す。
【特許文献1】特開平11−56990号公報(特許請求の範囲、[0016])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この様に、金属フタロシアニン錯体が坦持された繊維材料又は布帛は、簡単な工程で得ることができる。
しかし、金属フタロシアニン錯体が坦持された繊維材料又は布帛を工業的に製造するには、その工程を自動化することが必要である。
特に、繊維材料又は布帛を、金属フタロシアニン錯体等の所望物質が溶解されている所望物質溶液に浸漬した後、この所望物質溶液から取り出して脱水処理し、次の工程に移送する動作を自動化することが必要である。
そこで、本発明の課題は、繊維材料又は布帛を所望物質が溶解されている所望物質溶液に浸漬して、前記繊維材料又は布帛に所望物質を坦持させる工程を自動化し得る坦持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題を解決するには、繊維材料又は布帛を挿入した籠体を、所望物質溶液が貯留された槽内に挿入して、槽内の所望物質溶液に浸漬した後、この槽から取り出した籠体を回転して脱水処理し、次いで籠体を槽外に取り出すことが有効であると考え検討したところ、脱水処理を施す脱水処理専用槽を設けることを要することが判明した。この様に、脱水処理専用槽を設けることは、坦持装置を複雑化、大型化する。
このため、本発明者は、脱水処理専用槽を設けることを要しない坦持装置について更に検討を重ねた結果、槽内で且つ所望物質溶液の液面よりも上方に位置する籠体を回転して脱水処理することによって、脱水処理専用槽を設けることを要しないことを知り、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、繊維材料又は布帛を所望物質が溶解されている所望物質溶液に浸漬して、前記繊維材料又は布帛に前記所望物質を坦持する坦持装置において、該所望物質溶液が貯留されている槽と、前記繊維材料又は布帛が挿入される籠体と、前記籠体が一端側に設けられた軸体と、前記軸体の他端側に設けられ、前記籠体を回転駆動する籠体回転手段と、前記籠体が槽内の所望物質溶液に浸漬される下位位置、前記槽内で且つ所望物質溶液の液面上の中位位置、及び前記槽の上方の上位位置となるように、前記回転駆動手段を載置する載置台又は前記槽を昇降する昇降手段とを具備し、前記槽の上位位置の籠体を前記下位位置として、前記槽内の所望物質溶液に浸漬した後、前記籠体を前記中位位置に位置させて回転駆動して脱水処理を施し、次いで前記籠体を前記上位位置に位置するように、前記昇降手段及び籠体回転手段を制御する制御手段が設けられていることを特徴とする坦持装置にある。
【0005】
また、本発明は、繊維材料又は布帛を、所望の物質が溶解されている所望物質溶液、後処理溶液、及び水洗水に浸漬して、前記繊維材料又は布帛に前記所望の物質を坦持する坦持装置において、該所望物質溶液が貯留されている所望物質溶液槽、後処理溶液が貯留された後処理槽、及び洗浄水が貯留された洗浄槽の各々が環状に配設されており、
前記繊維材料又は布帛が挿入される籠体が一端側に設けられた軸体の他端側に設けられ、前記籠体を回転駆動する籠体回転手段と、前記籠体が各槽内の溶液に浸漬される下位位置、前記籠体が各槽内で且つ溶液の液面上の中位位置、及び前記槽の上方の上位位置となるように、前記回転駆動手段を載置する載置台又は前記籠の各々を昇降する昇降手段と、前記槽の上方に位置する籠体を、次に浸漬する溶液が貯留された槽の上位位置に位置するように、前記載置台を回転駆動する載置台回転手段とを具備し、前記槽の各上位位置の籠体を前記下位位置として、前記槽に貯留した溶液に浸漬した後、前記籠体を前記中位位置に位置させて回転駆動して脱水処理を施し、次いで前記籠体を前記上位位置に位置させて、次に浸漬する溶液が貯留された槽の上位位置までに移動するように、前記昇降手段、籠体回転手段及び載置台回転手段を制御する制御手段が設けられていることを特徴とする坦持装置にある。
かかる本発明において、所望物質溶液として、金属フタロシアニン錯体溶液を用い、後処理溶液として、酸溶液を好適に用いることができる。
また、繊維材料又は布帛として、絹素材を焼成して炭化した絹焼成体から成る繊維材料又は布帛を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、繊維材料又は布帛が挿入された籠体を、所望物質溶液が貯留された槽内に挿入して、所望物質溶液槽内の所望物質溶液に浸漬した後、この槽内であって、所望物質溶液の液面よりも上方に位置した籠体を回転して脱水処理することによって、籠体の繊維材料又は布帛に対し浸漬処理を施す槽内で脱水処理も施すことができる。
この様に、本発明に係る坦持装置によれば、脱水処理専用槽を設けることを要しないため、繊維材料又は布帛に所望物質を坦持させる工程を容易に自動化でき、且つ坦持装置の簡単化、小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る坦持装置の一例を図1に示す。図1に示す坦持装置は、絹素材を焼成して炭化した絹焼成体から成る繊維材料又は布帛に、鉄フタロシアニン錯体やコバルトフタロシアニン錯体等の金属フタロシアニン錯体を坦持する坦持装置である。
かかる坦持装置では、所望物質溶液としてのアルカリ性の金属フタロシアニン錯体溶液が貯留されているフタロシアニン槽10、後処理溶液として、アルカリ性の金属フタロシアニン錯体溶液に浸漬された繊維材料又は布帛を中和する酸溶液が貯留された酸溶液槽12a,12b、及び酸溶液等を洗浄する洗浄水としての水が貯留された洗浄槽14a,14b,14cの各々が環状に配設されている。
尚、繊維材料又は布帛を金属フタロシアニン錯体溶液に浸漬する浸漬時間が、繊維材料又は布帛を酸溶液及び洗浄水に浸漬する時間よりも著しく長いため、フタロシアニン槽10の左右に、フタロシアニン槽10に供給する繊維材料又は布帛を、予め金属フタロシアニン錯体溶液に浸漬して準備しておく準備槽10a,10aが配設されている。
【0008】
このフタロシアニン槽10、酸溶液槽12a,12b、及び洗浄槽14a,14b,14cの各槽上には、図2に示す様に、繊維材料又は布帛が挿入された籠体18が軸体20の一端側に設けられている。この軸体20の他端側には、籠体18を回転駆動する籠体回転駆動手段22が設けられている。
かかる籠体回転駆動手段22は、軸体20の他端部を支承する支承部材24a,24bと、軸体20に装着されたプーリ26をベルト駆動するモータ28とから構成される。
この籠体回転駆動手段22は、図1に示す様に、各槽ごとに対応する籠体回転駆動手段22が載置台30上に載置されている。
【0009】
載置台30は、図2に示す様に、載置台回転手段としてのモータ34に一端部が接続されている回転軸32の他端部に接続されており、モータ34によって載置台30は、矢印A(図1)の方向に回転し、籠体18を次の槽上に移動できる。
モータ34を固定する固定台36は、昇降手段としてのシリンダ装置38,38のロッド38a,38aによって支承されており、シリンダ装置38,38を駆動することによって、固定台36、モータ34及び載置台30を昇降できる。
このため、図2に示す様に、例えば酸溶液槽12aの上方の上位位置に位置する籠体18を、シリンダ装置38,38を駆動することによって、図3(a)に示す様に、酸溶液槽12aに貯留されている酸溶液16に浸漬される下位位置に降下せしめ、籠体18内の繊維材料又は布帛に後処理としての第1中和処理を施すことができる。
次に、図3(a)に示す下位位置に位置する籠体18を、図3(b)に示す様に、酸溶液槽12a内であって、酸溶液16の液面上に上昇するように、シリンダ装置38,38を駆動する。この図3(b)に示す状態で、モータ28を駆動して籠体18を回転することによって、籠体18内の繊維材料又は布帛に脱水処理を施すことができる。
脱水処理が終了した後、シリンダ装置38,38を駆動して、図1に示す様に、酸溶液槽12aの上方の上位位置に籠体18を上昇し、更にモータ34を駆動することによって、槽12aの上方の籠体18を、酸溶液槽12bの上位位置に移送すると共に、フタロシアニン槽10の上方の籠体18を、酸溶液槽12aの上位位置に移送できる。
【0010】
昇降手段としてのシリンダ装置38,38、籠体回転手段としてのモータ28,28・・及び載置台回転手段としてのモータ34は、図2に示す様に、制御手段によって制御されている。
このため、制御部から各槽の上位位置の籠体18を下位位置となるようにシリンダ装置38,38に信号を発信し、籠体18,18・・の各々を対応する槽に貯留した溶液に浸漬した後、制御部から各槽の籠体18を、浸漬されていた溶液から引き上げて槽内で且つ溶液の液面上となる中位位置まで上昇するように、シリンダ装置38,38に信号を発信する。
更に、かかる中位位置に上昇した籠体18,18・・の各々を回転して脱水処理を施すように、制御部からモータ28,28・・の各々に信号を発信する。
次いで、脱水処理が終了した籠体18,18・・の各々を、各槽上の上方の上位位置に引き上げるように、制御部からにシリンダ装置38,38に信号を発信し、その後、各籠体18を次の槽上に位置するように、モータ34に信号を発信する。
【0011】
図1及び図2に示す坦持装置においては、フタロシアニン槽10の上方の上位位置に位置する籠体18から金属フタロシアニン錯体が坦持された繊維材料又は布帛を取り出した後、この籠体18に準備槽10a,10aにおいて予め金属フタロシアニン錯体溶液に浸漬処理を施した繊維材料又は布帛を挿入してから処理を開始する。
この様に、図1及び図2に示す坦持装置によれば、繊維材料又は布帛に金属フタロシアニン錯体を坦持させる工程を自動化できる。
また、各溶液に浸漬処理した繊維材料又は布帛を脱水処理する専用脱水処理槽を不要にでき、坦持装置の小型化を図ることができる。
尚、図2では、載置台30をシリンダ装置38,38によって昇降したが、フタロシアニン槽10、酸溶液槽12a,12b、及び洗浄槽14a,14b,14cの各槽をシリンダ装置等の昇降手段によって昇降してもよい。
【0012】
図1及び図2に示す坦持装置は、絹素材を焼成して炭化した絹焼成体から成る繊維材料又は布帛に金属フタロシアニン錯体を坦持させる坦持装置であったが、他の機能を呈する物質を絹焼成体から成る繊維材料又は布帛に坦持させる坦持装置としても用いることは勿論のこと、一般の繊維材料又は布帛に所定の機能を呈する物質を坦持させる坦持装置としても用いることができる。
【0013】
また、図1及び図2に示す坦持装置は、所望の物質が溶解されている所望物質溶液、後処理溶液、及び水洗水に浸漬して、繊維材料又は布帛に所望の物質を坦持する装置であったが、後処理及び水洗処理が不要な場合、図2に示す装置のうち、載置台回転手段としてのモータ34を不要にできる。
すなわち、この場合、所望物質溶液が貯留されている槽12aと、繊維材料又は布帛が挿入されて槽12a内の所望物質溶液16に浸漬される籠体18と、籠体18が一端側に設けられた軸体20と、軸体20の他端側に設けられ、籠体18を回転駆動する籠体回転手段としてのモータ28と、籠体18が槽12aに貯留された所望物質溶液16に浸漬される下位位置、槽12a内で且つ所望物質溶液16の液面上の中位位置、及び槽12aの上方の上位位置となるように、モータ28を載置する載置台30を昇降するシリンダ装置38,38とを具備し、槽12aの上位位置の籠体18を下位位置として、槽12aに貯留した所望物質溶液16に浸漬した後、籠体18を槽12a内で且つ所望物質溶液16の液面上の中位位置に位置させて回転駆動して脱水処理を施し、次いで籠体18を槽12aの上方の上位位置に位置するように、シリンダ装置38,38及びモータ28を制御する制御手段が設けられていればよい。
この場合にも、載置台30をシリンダ装置38,38によって昇降したが、槽12aシリンダ装置等の昇降手段によって昇降してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る坦持装置の一例を説明するための概略図である。
【図2】図1に示す坦持装置の概要を説明する概要図である。
【図3】図2に示す籠体18の位置を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0015】
10 フタロシアニン槽
10a,10a 準備槽
12a,12b 酸溶液槽
14a,14b,14c 洗浄槽
16 所望物質溶液
22 籠体回転駆動手段
28,34 モータ
30 載置台
32 回転軸
36 固定台
38,38 シリンダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料又は布帛を所望物質が溶解されている所望物質溶液に浸漬して、前記繊維材料又は布帛に前記所望物質を坦持する坦持装置において、
該所望物質溶液が貯留されている槽と、前記繊維材料又は布帛が挿入される籠体と、前記籠体が一端側に設けられた軸体と、前記軸体の他端側に設けられ、前記籠体を回転駆動する籠体回転手段と、前記籠体が槽内の所望物質溶液に浸漬される下位位置、前記槽内で且つ所望物質溶液の液面上の中位位置、及び前記槽の上方の上位位置となるように、前記回転駆動手段を載置する載置台又は前記槽を昇降する昇降手段とを具備し、
前記槽の上位位置の籠体を前記下位位置として、前記槽内の所望物質溶液に浸漬した後、前記籠体を前記中位位置に位置させて回転駆動して脱水処理を施し、次いで前記籠体を前記上位位置に位置するように、前記昇降手段及び籠体回転手段を制御する制御手段が設けられていることを特徴とする坦持装置。
【請求項2】
繊維材料又は布帛を、所望の物質が溶解されている所望物質溶液、後処理溶液、及び水洗水に浸漬して、前記繊維材料又は布帛に前記所望の物質を坦持する坦持装置において、
該所望物質溶液が貯留されている所望物質溶液槽、後処理溶液が貯留された後処理槽、及び洗浄水が貯留された洗浄槽の各々が環状に配設されており、
前記繊維材料又は布帛が挿入される籠体が一端側に設けられた軸体の他端側に設けられ、前記籠体を回転駆動する籠体回転手段と、
前記籠体が各槽内の溶液に浸漬される下位位置、前記籠体が各槽内で且つ溶液の液面上の中位位置、及び前記槽の上方の上位位置となるように、前記回転駆動手段を載置する載置台又は前記籠の各々を昇降する昇降手段と、
前記槽の上方に位置する籠体を、次に浸漬する溶液が貯留された槽の上位位置に位置するように、前記載置台を回転駆動する載置台回転手段とを具備し、
前記槽の各上位位置の籠体を前記下位位置として、前記槽に貯留した溶液に浸漬した後、前記籠体を前記中位位置に位置させて回転駆動して脱水処理を施し、次いで前記籠体を前記上位位置に位置させて、次に浸漬する溶液が貯留された槽の上位位置までに移動するように、前記昇降手段、籠体回転手段及び載置台回転手段を制御する制御手段が設けられていることを特徴とする坦持装置。
【請求項3】
所望物質溶液が金属フタロシアニン錯体溶液であり、後処理溶液が酸溶液である請求項2記載の坦持装置。
【請求項4】
繊維材料又は布帛が、絹素材を焼成して炭化した絹焼成体から成る繊維材料又は布帛である請求項2又は請求項3記載の坦持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−233382(P2006−233382A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51421(P2005−51421)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】