説明

型枠構造

【課題】埋め込み部材を精度よく設置するとともに、型枠の着脱作業を容易に行うことを可能とした型枠構造を提案する。
【解決手段】埋め込み部材3に取り付けられる強磁性体材料の固定部材4と、型枠本体2と、を備える型枠構造1であって、型枠本体2には、永久磁石と磁気コイルとを備える電磁着脱部5が配設されており、電磁着脱部5への通電が停止されている状態で固定部材4が電磁着脱部5に対して固定され、電磁着脱部5に通電したときに固定部材4と電磁着脱部5との固定状態が解除される型枠構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インサートや吊り治具などの埋め込み部材が埋設されたコンクリート構造物の構築は、埋め込み部材を予め型枠に固定した状態で、コンクリートを打設することにより行う。
【0003】
埋め込み部材を型枠に固定する場合には、図3(a)に示すように、型枠101に設けられた貫通孔111に固定用ボルトBを挿通し、これを埋め込み部材102にねじ込むことにより行うのが一般的である。
【0004】
ところが、前記固定方法によると、脱型時に全ての固定用ボルトBを取り除く必要があるため、埋め込み部材102の個数が多い場合には固定用ボルトBを取り除く作業に多大な時間を要していた。
【0005】
また、埋め込み部材102が、内型枠に固定されている場合や、底型枠に固定されている場合等には、固定用ボルトBの着脱のための作業空間を型枠101の外側に確保することができない場合があった。
【0006】
そのため、特許文献1には、図3(b)に示すように、ネジ孔231の開口端側にカップ状部分232が形成されたインサート本体230を、カップ状部分232の内部に収容される吸着具202を介して型枠201に固定することにより、コンクリート構造物Cに埋設される埋め込み部材203の配置を行う方法が開示されている。この吸着具202は、螺軸部221と磁石222とを備えて構成されていて、螺軸部221を介してインサート本体230に螺着されるとともに、磁石222の磁力により型枠201に固定される。また、吸着具202の基端面には、係止部223が突設されており、この係止部223を型枠201に形成された係合凹部211に係合させることで、所定の位置にインサート本体230を固定することができる。
【0007】
【特許文献1】特開平6−185125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に記載の固定方法は、磁石222による磁力が作用した状態で、型枠201の脱型作業を行う必要があるため、埋め込み部材203の設置数が多い場合には、脱型のための反力が大きくなり、その作業に手間を要していた。
【0009】
また、インサート本体230に形成されたカップ状部分232により、コンクリート構造物Cの表面に凹部が形成されるため、モルタル等によりこの凹部を充填する必要があった。
また、水平方向の固定力は磁力に磁石222とカップ状部分232との摩擦係数を乗じた抵抗力となり、固定力が小さいという問題があった。
【0010】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、埋め込み部材を精度よく設置するとともに、型枠の脱型作業を容易に行うことを可能とした型枠構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、埋め込み部材に取り付けられる磁性体材料の固定部材と、型枠本体と、を備える型枠構造であって、前記型枠本体には、永久磁石と磁気コイルとを備える電磁着脱部が配設されており、前記電磁着脱部への通電が停止されている状態で前記固定部材が前記電磁着脱部に対して固定され、前記電磁着脱部に通電したときに前記固定部材と前記電磁着脱部との固定状態が解除されることを特徴としている。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、埋め込み部材に取り付けられる磁性体材料の固定部材と、型枠本体と、を備える型枠構造であって、前記型枠本体には、電磁石を備える電磁着脱部が配設されており、前記電磁着脱部に通電したときに前記固定部材が前記電磁着脱部に対して固定され、前記電磁着脱部の通電を停止したときに前記固定部材と前記電磁着脱部との固定状態が解除されることを特徴としている。
【0013】
なお、請求項2に記載の型枠構造において、電磁着脱部が、前記永久磁石を芯として、その外側に前記磁気コイルを配置してなるものであってもよい。
【0014】
かかる型枠構造によれば、電磁着脱部の磁力により固定部材を固定しているため、電磁着脱部への通電を操作することで埋め込み部材の着脱を行うことが可能となる。そのため、埋め込み部材の設置数に関わらず、型枠の脱型作業を容易に行うことができる。
【0015】
前記型枠構造において、前記型枠本体に前記固定部材を収容する収容部が形成されており、前記電磁着脱部が前記収容部内に配設されていれば、固定部材は収容部により固定されるため、コンクリートの流入圧が作用してもズレが生じることがなく、埋め込み部材を高精度に配置することが可能となる。
【0016】
さらに、前記固定部材の周面と前記収容部の内壁面との隙間に潤滑材が充填されていれば、固定筒挿入部にコンクリートが流入することが防止される。また、前記固定部材の周面と前記収容部の内壁面に抜き勾配が形成されていれば、脱型作業がより容易になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の型枠構造によれば、埋め込み部材を精度よく設置するとともに、その型枠の脱型作業を容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態に係る型枠構造1は、図1に示すように、埋め込み部材Aが埋設されたコンクリート部材Cを製作する際に使用するものである。埋め込み部材Aの端面は、コンクリート部材Cの表面に露出した状態で埋設される。
【0019】
なお、コンクリート部材Cの構成は限定されるものではなく、例えば鉄筋コンクリートや無筋コンクリートであってもよい。また、本実施形態では埋め込み部材Aとして、インサートを採用する場合について説明するが、埋め込み部材Aの構成も限定されるものではなく、適宜公知の埋め込み部材が適用可能である。また、埋め込み部材Aの配置も限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0020】
本実施形態に係る型枠構造1は、型枠本体2と、埋め込み部材Aに取り付けられる磁性体材料の固定部材3と、を備えている。
【0021】
型枠本体2は、例えば鋼製部材からなる。型枠本体2には、埋め込み部材Aが配置される箇所に応じて、固定部材3を収容可能な収容部21が形成されている。なお、型枠本体2を構成する材料は限定されるものではなく、適宜公知の材料から選定して使用することが可能である。
【0022】
収容部21は、固定部材3を挿入した状態で固定部材3のがたつきが生じないように保持することが可能な形状を具備している。本実施形態の収容部21は、固定部材3を収容することが可能となるように形成された円筒状の凹部(空間)であって、内径が固定部材3の外径よりも若干大きく形成されている。
なお、収容部21の形状は、固定部材3を収容するとともに保持することが可能であれば限定されるものではなく、固定部材3の形状に応じて適宜形成すればよい。
【0023】
収容部21の底部(図1において下端部)には、電磁石を備える電磁着脱部4が配設されている。
【0024】
電磁着脱部4は、収容部21の底部を貫通して配設されたねじB2を介して収容部21内に固定されている。なお、電磁着脱部4の固定方法は限定されるものではなく、例えば、接着するなど、適宜公知の手段により行えばよい。
【0025】
本実施形態に係る電磁着脱部4は、永久磁石(図示省略)を芯として、その外側に配置された磁気コイル(図示省略)とを備えて構成されている。
磁気コイルは整流器41に接続されており、整流器41から直流電流の通電が可能に構成されている。
【0026】
電磁着脱部4は、磁気コイルへの電流の通電が停止されている状態(磁気コイルが消磁されている状態)では、永久磁石の磁力により固定部材3を固定し、磁気コイルに電流が通電されている状態(磁気コイルが励磁されている状態)では、磁気コイルの磁力により永久磁石の磁力を打ち消すことで、固定部材3の固定状態を解除する。
なお、電磁着脱部4の構成は前記のものに限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0027】
固定部材3は、埋め込み部材AにボルトB1を介して固定される部材であって、円柱状に形成された磁性体材料により構成されている。なお、固定部材3を構成する磁性体材料とは、それ自身は磁石ではないが、磁力に引きつけられる材料であって、例えば鉄や鋼等をいう。
【0028】
固定部材3には、その中心部を貫通するボルト孔31が形成されている。また、固定部材3の埋め込み部材Aと反対側の端面のボルト孔31に対応する箇所には、ボルトB1の頭部を係止するための係止部32が形成されている。係止部32は、固定部材3の端面に形成された凹部である。
【0029】
固定部材3は、ボルト孔31を挿通し、頭部が係止部32に係止されたボルトB1を介して、埋め込み部材Aに螺着される。このとき、ボルトB1の頭部は、係止部32に収容されている。なお、係止部32の形状等は限定されるものではない。
【0030】
固定部材3は、収容部21に収容された状態で、電磁着脱部4の磁力により収容部21内に固定される。
固定部材3の周面と収容部21の内壁面との隙間には、グリースや粘性の高い油等からなる潤滑材5が充填されている。
【0031】
次に、本実施形態に係る型枠構造1による埋め込み部材Aが配設されたコンクリート部材の製作方法について説明する。
【0032】
まず、図2に示すように、固定部材3のボルト孔31を貫通したボルトB1を、埋め込み部材Aのボルト孔A1にねじ込むことで、固定部材3と埋め込み部材Aとの固定を行う。
【0033】
次に、固定部材3の周面に潤滑材5を塗布して、型枠本体2の収容部21に挿入する。これにより、固定部材3(埋め込み部材A)は、永久磁石の磁力により、電磁着脱部4に引き付けられ、収容部21に固定される。
【0034】
固定部材3は、収容部21に入り込んでいるので、埋め込み部材Aの軸心と直交する方向(図1における左右方向や紙面垂直方向)に永久磁石の磁力以上の力が作用した場合であってもずれることはない。また、固定部材3の収容部2からの抜け出しは、永久磁石の磁力により阻止されている。
【0035】
なお、埋め込み部材Aの向きを微調整する場合は、整流器41により通電した状態で行う。微調整が終了したら、整流器41からの通電を停止し、固定部材3を再度固定する。
【0036】
次に、埋め込み部材A(固定部材3)が配設された型枠本体2を、所定の位置に配置し、コンクリートを打設する。
【0037】
コンクリートを養生し、コンクリートに脱型が可能な強度が発現したら、整流器41から直流電流を通電することで、永久磁石の磁力を打ち消して、固定部材3の固定状態を解除し、脱型を行う。
【0038】
型枠本体2を取り外した後、固定部材3を埋め込み部材Aから取り外すことにより、コンクリート部材Cが完成する。なお、固定部材3は、再利用することが可能である。
【0039】
以上、本実施形態の型枠構造1によれば、埋め込み部材Aを効率的に着脱することができるため、型枠の設置、脱型の作業を容易に行うことが可能となる。また、型枠構造1によれば、固定部材3を収容部21および電磁着脱部4により型枠本体2に強固に固定することで、埋め込み部材Aを精度よく配設することが可能となる。故に、埋め込み部材Aが配設されたコンクリート部材Cの製作を高品質かつ容易に行うことを可能としている。また、施工性に優れているため、施工時間を短縮することが可能となり、製作コストの低減化が可能となる。
【0040】
また、固定部材3の固定の解除を、整流器41を操作することにより簡易に行うことができるため、従来の固定ボルトを利用した固定方法のように、固定ボルトの取り外し忘れる等の人為的なミスによる事故のリスクを最小限に抑えることが可能となる。
【0041】
また、埋め込み部材Aが、内型枠に固定されている場合や、底型枠に固定されている場合であっても、整流器41を操作するのみで脱型することが可能である。そのため、ボルトの着脱のための作業空間を確保するための構造材等を省略することが可能となり、型枠費用の低減が可能となる。
【0042】
また、固定部材3と収容部21との隙間に潤滑材5が充填されているため、この隙間にコンクリートが入り込むことが防止されるとともに、脱型時に収容部21から固定部材3を抜き出しやすくなる。
【0043】
また、電磁着脱部4への通電を、脱型時のみに行えばよいため、使用電気量を削減することが可能となり、経済性に優れている。また、コンクリートの養生時は通電しないため、コンクリート養生時に電磁着脱部4が熱を持つことがない。
【0044】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜設計変更が可能であることは言うまでもない。
【0045】
例えば、前記実施形態では、電磁着脱部4として、永久ボルトと電磁コイルとを備えたものを採用したが、電磁着脱部4は、電磁コイル(電磁石)のみからなるものであってもよい。この場合、電磁着脱部4に整流器41から通電することにより、固定部材3が固定され、電磁着脱部4への通電を停止したときに固定部材3の固定状態が解除される。また、電流を変化させることで、固定部材3の固定状態に強弱を付けて、固定部材3の着脱や微調整を行ってもよい。
【0046】
また、前記実施形態では、固定部材3として、円柱状の部材を採用するものとしたが、固定部材3と収容部21は、埋め込み部材A側から離れるに従って、直径が小さくなる円錐台状形状の抜き勾配を有する部材であってもよい。このようにすると、脱型時に固定部材3が収容部21から抜けやすくなる。
また、固定部材3の断面形状は円形に限定されるものではなく、矩形状やその他の多角形状であってもよい。
【0047】
また、前記実施形態では、固定部材3と電磁着脱部4とが当接した状態で、固定部材3を固定する場合について説明したが、電磁着脱部4の磁力により固定部材3がひきつけられていれば、固定部材3と電磁着脱部4との間に隙間が形成されていたり、他の部材が介在していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る型枠構造を示す断面図である。
【図2】図1に示す型枠構造の脱型状況を示す断面図である。
【図3】(a)および(b)は従来の型枠構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 型枠構造
2 型枠本体
3 固定部材
4 電磁着脱部
5 潤滑材
A 埋め込み部材
C コンクリート部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋め込み部材に取り付けられる磁性体材料の固定部材と、型枠本体と、を備える型枠構造であって、
前記型枠本体には、永久磁石と磁気コイルとを備える電磁着脱部が配設されており、
前記電磁着脱部への通電が停止されている状態で前記固定部材が前記電磁着脱部に対して固定され、前記電磁着脱部に通電したときに前記固定部材と前記電磁着脱部との固定状態が解除されることを特徴とする、型枠構造。
【請求項2】
埋め込み部材に取り付けられる磁性体材料の固定部材と、型枠本体と、を備える型枠構造であって、
前記型枠本体には、電磁石を備える電磁着脱部が配設されており、
前記電磁着脱部に通電したときに前記固定部材が前記電磁着脱部に対して固定され、前記電磁着脱部の通電を停止したときに前記固定部材と前記電磁着脱部との固定状態が解除されることを特徴とする、型枠構造。
【請求項3】
前記型枠本体に、前記固定部材を収容する収容部が形成されており、
前記電磁着脱部が前記収容部内に配設されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の型枠構造。
【請求項4】
前記固定部材の周面と前記収容部の内壁面との隙間に潤滑材が充填されていることを特徴とする、請求項4に記載の型枠構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−24637(P2010−24637A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184305(P2008−184305)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】