説明

埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法

【課題】埋設管1の内周面3をライニングした樹脂の硬化状態を簡単に検査することができる検査方法を提供する。
【解決手段】内周面3をライニングした繊維強化プラスチック材4が硬化した埋設管11および検査対象とする埋設管11のそれぞれについて、埋設管11の打撃位置に衝撃を与え、この打撃位置から所定距離離間した測定位置で周波数スペクトルを測定し、所定の高周波範囲の周波数スペクトルについての面積と所定の低周波範囲を含む範囲の周波数スペクトルについての面積との比率を硬化値として算出し、両埋設管1の硬化値を比較することにより、検査対象とする埋設管1の繊維強化プラスチック材4の硬化状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水管などの埋設管を補修する方法として、代表的なものに繊維強化プラスチック材を埋設管の内周面に貼り付けることにより補修する施工方法がある。この方法は、埋設管路内にチューブ状の繊維強化プラスチック材を引き込み、現場にて、加熱することにより膨張させて埋設管の内周面に貼りつかせ、さらに、熱や温水などにより熱硬化させ、あるいは、光を照射することにより光硬化させて、埋設管の内周面に繊維強化プラスチック材の内層を形成するものである(以下、繊維強化プラスチック材などのプラスチック材により埋設管の内周面に内層を形成することをライニングするともいう。)。
【0003】
この方法は、未硬化である繊維強化プラスチック材を現場にて熱や光などにより化学反応させて硬化させる方法であるため、熱不足若しくは光の照射不足または管に侵入した水によって硬化反応が抑制されることなどにより、繊維強化プラスチック材の硬化が不十分となってしまう問題があった。
【0004】
このような硬化不足が生じた場合、埋設管の強度が不足して外圧に対する抵抗力が低減したり、繊維強化プラスチック材自体の変形によって埋設管が閉塞したりするなど、埋設管の使用上の弊害が発生する虞があった。
【0005】
そこで、埋設管を繊維強化プラスチックにより補修した後、繊維強化プラスチックが完全に硬化しているか否かを検査するために、テレビカメラなどを埋設管路内に挿入して、ライニングされた埋設管の内部を撮像し、繊維強化プラスチック材の硬化状態を確認していた。
【0006】
しかしながら、このような従来の方法では、繊維強化プラスチック材の表面の状態を検査することができるものの、内部の硬化状態まで確認することはできなかった。そのため、確実に繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査できる手法が望まれていた。
【0007】
そこで、このような繊維強化プラスチック材の硬化度を検査する方法として、例えば、特許文献1に記載の技術を適用することが考えられる。
【0008】
特許文献1による技術は、硬化樹脂の表面上の色調と硬度との相関性グラフに基づき、その色調を検査することにより硬化度を検査するものである。本技術によれば、繊維強化プラスチック材の色調を測定することで、硬化度を検査することができると考えられる。
【特許文献1】特開平06−041312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を、埋設管の内周面の全体をラインニングする繊維強化プラスチック材のように大きな硬化物に対して適用する場合、全体において繊維強化プラスチック材が十分に硬化しているかを確認するためには、多数の箇所において色調を検査する必要があり、手間がかかってしまうものであった。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、埋設管の内周面をライニングした樹脂の硬化状態を簡単に検査することができる検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法は、埋設管の内面をライニングする繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する方法であって、検査基準とする基準埋設管と検査対象とする検査対象埋設管の各管について、衝撃を与える打撃位置をそれぞれ定めてこれら打撃位置に衝撃を与え、該各打撃位置から所定距離離間した測定位置で衝撃による振動を測定し、この振動から得た該周波数スペクトルについて所定の高周波範囲の面積と所定の低周波範囲を含む範囲の面積との比率を硬化値として算出し、これら硬化値同士を対比することにより前記検査対象埋設管の硬化状態を判定することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、埋設管全体に伝播する弾性波に基づく振動を測定することから、埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材全体の状態を把握することができるので、短時間で繊維強化プラスチック材全体の硬化状態を評価することができる。
【0013】
また、周波数スペクトルにおいて所定の高周波範囲の面積と所定の低周波範囲を含む範囲の面積との比率を算出してこれを硬化値としたことから、数値として硬化状態を把握することができ、埋設管の内周面をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を定量的に把握することができる。

【0014】
また、衝撃による弾性波(振動)に基づいて算出される硬化値は、埋設管をライニングする繊維強化プラスチック材の内部状態を反映した値であることから、埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の外観状態だけでなく、繊維強化プラスチック材の内部の未硬化状態まで把握することができる。
【0015】
また、本発明に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法では、前記基準埋設管および前記検査対象埋設管へ与える衝撃は、鉄、ステンレス又はプラスチックにより形成された打撃部を備えた打撃器具により発生させることを特徴としてもよい。
【0016】
この場合、鉄、ステンレス又はプラスチックなどの材料により形成された打撃部を備えた打撃器具を用いることにより、プラスチック材の硬化状態の差異を顕著に捉えることができる周波数範囲において有意な周波数スペクトルを発生させることができるので、より確実にプラスチック材の硬化状態を把握することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法によれば、埋設管全体に伝播する弾性波に基づく振動を測定することから、埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材全体の状態を把握することができるので、短時間で繊維強化プラスチック材全体の硬化状態を評価することができる。
【0018】
また、周波数スペクトルにおいて所定の高周波範囲の面積と所定の低周波範囲を含む範囲の面積との比率を算出してこれを硬化値としたことから、数値として硬化状態を把握することができ、埋設管の内周面をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を定量的に把握することができる。
【0019】
また、衝撃による弾性波(振動)に基づいて算出される硬化値は、埋設管をライニングする繊維強化プラスチック材の内部状態を反映した値であることから、埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の外観状態だけでなく、繊維強化プラスチック材の内部の未硬化状態までも把握することができる。
【0020】
また、本発明に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法によれば、鉄、ステンレス又はプラスチックにより形成された打撃部を備えた打撃器具を用いることにより、プラスチック材の硬化状態の差異を顕著に捉えることができる周波数範囲において有意な周波数スペクトルを発生させることができるので、より確実にプラスチック材の硬化状態を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
本発明に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法は、例えば、下水管路や農水管路に用いられる鉄筋コンクリート製の埋設管などに対して適用される。この検査方法により埋設管を検査するにあたっては、まず、検査の基準とする基準埋設管と、検査対象とする検査対象埋設管を用意する。
【0023】
次に、検査基準とする基準埋設管について、以下に示す硬化値測定方法により、埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を示す硬化値を測定する。基準埋設管の硬化値は、検査対象とする検査対象埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を判定するための基準値となる。ここで、基準埋設管としては、検査対象とする検査対象埋設管とは同種、同形状、同サイズの埋設管であって、繊維強化プラスチック材が完全に硬化した正常なものが選ばれる。
【0024】
次に、検査対象とする検査対象埋設管について、硬化値測定方法により、硬化値を測定する。
【0025】
次に、両者の硬化値を比較することにより、検査対象埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を判定する。検査対象埋設管の硬化値が基準埋設管の硬化値と同程度の値である場合には、硬化が十分であると判断され、硬化値に差異がある場合には、未硬化であると判断される。
【0026】
上記した硬化値測定方法は、埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を示す硬化値を得る方法であって、まず、埋設管に衝撃を与える打撃位置を定め、この打撃位置に打撃器具などで衝撃を与え、打撃位置から所定距離離間した測定位置で衝撃による振動を測定し、この振動から周波数スペクトルを取得して、この周波数スペクトルついて所定の高周波範囲の面積と所定の低周波範囲を含む範囲の面積との比率を硬化値として算出することにより、硬化値を得る方法である。
【0027】
次に、硬化値測定方法により埋設管を測定し硬化値を算出した実施例について、具体的に説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施の形態に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法を適用して、埋設管を測定するときの状態を説明した説明図である。
【0029】
まず、硬化値の測定に係る埋設管1を、地面15の上に平らに敷いた土砂14の上に横倒しに配置する。土砂14は埋設管1を安定して保持するものであって且つ埋設管1に与える衝撃を地面15へ伝播させないで埋設管1自体に封じ込める役割を果たす。これによって、埋設管1に衝撃を与えたときに地面15からの反射波などの影響を排除して、埋設管1自体に基づく周波数スペクトルを得ることができる。
【0030】
次に、埋設管1に衝撃を与える打撃位置から所定距離離間した測定位置に、弾性波を受振する受振器を配置する。例えば、埋設管1の管口2から所定距離にある位置を打撃位置としたとき、その打撃位置から埋設管1の伸張方向に所定距離離間した測定位置に受振器を配置する。図2に、打撃位置および受振器の配置位置について具体的に例示する。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法における打撃位置と受振器の配置位置を説明した説明図である。
【0032】
本実施例では、埋設管1の内周面3であって管口2から所定の距離に衝撃を与え、衝撃を与える打撃位置から所定の距離に受振器22を配置して弾性波を受振することとしている。埋設管1の内周面3において、衝撃およびこの衝撃による弾性波を受振する受振器22の配置のために、リモートコントロール可能な台車20を用意した。この台車20は、埋設管1を通ることができる車幅とされ、台車20の背部には、埋設管1に衝撃を与えることができる打撃器具21と、その衝撃による弾性波を受振することができる受振器22とが備えられている。
【0033】
打撃器具21は、本体部とこの本体部から出射可能とされた打撃部から構成される。そして、打撃器具21は、台車20の背部で上下に移動可能なアームにより支持され、埋設管1の内周面3から所定の距離離れた位置に固定できるようになっており、外部からの指示信号により、打撃部を内周面3へ衝突させることにより埋設管1に衝撃を与えるものである。
【0034】
打撃部としては、鉄、ステンレス又はプラスチックなどの材料により形成したものを用いることが好ましい。
【0035】
この場合、鉄、ステンレス又はプラスチックにより形成された打撃部を備えた打撃器具21を用いることにより、プラスチック材の硬化状態の差異を顕著に捉えることができる周波数範囲において有意な周波数スペクトルを発生させることができるので、より確実にプラスチック材の硬化状態を把握することができる。例えば、鉄、ステンレス又はプラスチックにより形成された打撃部を用いることにより周波数範囲が0〜5kHzにおいて周波数スペクトルを得ることができる。
【0036】
受振器22としては、例えば、加速度センサやAEセンサ(Acoustic Emission Sensor)などの振動センサが用いられる。
【0037】
また、受振器22は、台車20の背部で上下に移動可能なアームにより支持され、打撃を与える打撃位置から所定の距離離間した測定位置に配置可能となっている。図2では、台車20を用いることによって、管口2から200mmずつ離れた5箇所(図中a、b、c、d、e)の打撃位置に対してそれぞれの打撃位置から750mm離れた位置に受振器22を配置する状態を示している。

【0038】
本実施例では、リモートコントロール可能な台車20によって埋設管1に衝撃を与え、この衝撃による振動を受振器22に受振する構成を示しているが、打撃を与える方法および振動を受振する方法がこれに限定されるものではない。
【0039】
例えば、衝撃を与える方法としては、図2のように、リモートコントロールされた打撃器具21によって打撃を与える方法に限らず、鋼球の落下やハンマによる打撃によって埋
設管1に与えてもよい。また、打撃位置は、埋設管1の外周面であってもよく、埋設管1の外側から衝撃を与えるようにしてもよい。
【0040】
例えば、衝撃を与える方法として、鋼球の落下により衝撃を与える場合は、所定の高さから鋼球を落下させることにより、衝撃の力を一定値とする。また、ハンマにより衝撃を与える場合は、ハンマをバネなどの弾性体で支持し、弾性体を一定の長さ伸張あるいは伸縮させて蓄えられた弾性力を解放することにより、衝撃の力を一定値として衝撃を与える。また、市販のインパルスハンマを用いることにより、実際に埋設管1に与えた衝撃力を数値データとして取得してもよい。インパルスハンマによれば、衝撃力を数値データとして計測でき、その値を解析時に反映させることができる。
【0041】
振動を受振する方法としては、受振器22をテープや接着剤等で埋設管1に固定してもよい。また、テープや接着剤で固定できず、押え治具などを使用できない箇所に固定する場合は、手で押えるだけでもよい。また、受振器22は、埋設管1の内周面3に固定する場合に限定されず、埋設管1の外周面に固定してもよい。
【0042】
なお、実際に使用している埋設管1について硬化状態を検査する場合には、水、酸性水、塩基性水などに接触することがあるため、打撃器具21としては、ステンレスなどの耐食性に優れた材料で形成されているものを用いることが望ましく、受振器22としては、ステンレスなどの耐食性に優れた材料で筐体などが形成され、内部回路などが保護されているものを用いることが望ましい。
【0043】
次に、衝撃による弾性波を受振器22により計測する。弾性波の計測は、衝撃が与えられた瞬間から所定時間経過するまで受振器22により振動振号として取得することにより行なわれる。振動振号が微弱な場合は増幅器などにより増幅してもよい。
【0044】
次に、受振器22により得られた振動振号から測定対象とした埋設管1の周波数スペクトルを算出する。具体的には、受振器22により得られた振動振号をFFT(Fast Fourier Transform)処理し、周波数スペクトルを求める。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法により取得された周波数スペクトルを示すスペクトル図である。
【0046】
得られた周波数スペクトルは、解析のために、所定の高周波範囲の周波数スペクトルと、所定の低周波範囲を含む範囲の周波数スペクトルとに区分される。具体的には、図3のように、周波数範囲0〜5kHzにおいて周波数スペクトルが得られた場合、低周波範囲を含む範囲の周波数スペクトルとして0.02〜3kHzの領域R1と、高周波範囲の周波数スペクトルとして1〜3kHzの領域R2とに区分する。なお、ここで、0〜0.02Hzの領域および3〜5kHzの領域を除外しているのは、0〜0.02Hzの領域においては弾性波の計測でのノイズが生じる部分であってこの範囲を解析に含めた場合には正確な解析ができなくなる虞があるためであり、また、3〜5kHzの領域においては強度がほとんどないため考慮しないでも解析に影響を与えないためである。
【0047】
次に、受振器22により得られた周波数スペクトルから測定に係る埋設管1の硬化値を算出する。
【0048】
本実施の形態では、硬化値は、所定の高周波範囲R2の周波数スペクトルについての面積と、所定の低周波範囲を含む範囲R1の周波数スペクトルについての面積との比率として求める。以下に、算出方法を式(1)として示す。
【0049】
硬化値=(高周波範囲R2の周波数スペクトルについての面積)
/(低周波範囲を含む範囲R1の周波数スペクトルについての面積)・・(1)
周波数スペクトルは埋設管1を伝播する弾性波に基づくものであるから、弾性波が埋設管1をライニングする繊維強化プラスチック材4の硬化状態によって影響を受けた場合には、周波数スペクトルは弾性波が埋設管1をライニングする繊維強化プラスチック材4の硬化状態によって影響を受けるものと考えられる。つまり、繊維強化プラスチック材の硬化状態によって繊維強化プラスチック材4を構成する分子の振動状態が異なるので吸収し易い周波数領域が異なるものと考えられることから、繊維強化プラスチック材4の硬化状態によって周波数スペクトルの強度分布が異なると考えられる。
【0050】
下記に示す実験例によれば、十分に硬化している繊維強化プラスチック材4を有する基準埋設管の周波数スペクトルは、低周波範囲よりも高周波範囲におけるスペクトル強度は小さく表れている。これに対して、硬化が不十分である繊維強化プラスチック材4を有する検査対象埋設管のスペクトル周波数は、低周波範囲よりも高周波範囲におけるスペクトル強度は非常に小さく表れている(図6および図7参照)。すなわち、低周波範囲のスペクトル強度と高周波範囲の周波数スペクトル強度との比は、硬化状態によって異なるものとなる。
【0051】
上記した式(1)は、所定の高周波範囲R2の周波数スペクトルについての面積と、所定の低周波範囲R1を含む範囲の周波数スペクトルについての面積との比率を求めるものであるから、式(1)によって算出される値(高周波成分比)は、測定によって得られる周波数スペクトルの波形を評価する指標となる。
【0052】
したがって、検査対象埋設管について算出した高周波成分比と基準埋設管について算出した高周波成分比とを比較ことにより、検査対象埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材4の硬化状態を評価することができる。また、硬化状態を数値(硬化値)として硬化状態を把握することができるので、埋設管の内周面をライニングした繊維強化プラスチック材4の硬化状態を定量的に把握することができる。
【0053】
なお、硬化値を算出する方法は、上記のように所定の高周波範囲R2の周波数スペクトルについての面積と、所定の低周波範囲R1を含む範囲の周波数スペクトルについての面積との比率として求めることに限定されない。すなわち、硬化値を算出する方法として、所定の高周波範囲の周波数スペクトルと所定の低周波範囲を含む範囲の周波数スペクトルとの強度の差異を評価できる関数を用いてもよく、その関数の値を硬化値としてもよい。

【0054】
以上により、本発明に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法によれば、埋設管1全体に伝播する弾性波に基づく振動を測定することから、埋設管1をライニングした繊維強化プラスチック材4全体の状態を把握することができるので、短時間で繊維強化プラスチック材4全体の硬化状態を評価することができる。
【0055】
また、衝撃による弾性波(振動)に基づいて算出される硬化値は、埋設管1をライニングする繊維強化プラスチック材4の内部状態を反映した値であることから、埋設管1をライニングした繊維強化プラスチック材4の外観状態だけでなく、繊維強化プラスチック材4の内部の未硬化状態までも把握することができる。
【0056】
<実験例>
以下に、具体的な実験例について説明する。
【0057】
[測定対象]
図4は、本実験例において測定の対象とする埋設管を、その伸張方向の軸を含む面で切断した断面図である。
【0058】
測定の対象とする埋設管1として、JISA5373のB型1種の規格に基づいた呼び径(内径)300mm、長さ2mの鉄筋コンクリート製ヒューム埋設管の内周面3に、繊維強化プラスチック材4を厚さ6mmでライニングしたものを用いた。
【0059】
図5は、図4に示した部分Aにおいて管壁断面を拡大した部分拡大図であり、図5(A)は、内周面をライニングした繊維強化プラスチック材を完全に硬化させて基準埋設管としたものの部分拡大図であり、図5(B)は、内周面をライニングした繊維強化プラスチック材を未硬化にして検査対象埋設管としたものの部分拡大図である。
高周波成分比とライニングした繊維強化プラスチック材の硬化度の相関図を得るため、硬化の度合いを4段階用意した。すなわち、完全に硬化しているケース(硬化度100%)、全体の厚みに対して20%未硬化が存在するケース(硬化度80%)、全体の厚みに対して40%未硬化が存在するケース(硬化度60%)、全体の厚みに対して60%未硬化が存在するケース(硬化度60%)である。
【0060】
基準埋設管として、埋設管1の内周面3に外面フィルム(例えば、ポリアミド系合成繊維フィルムとポリエチレンフィルムの積層フィルム)6を貼り付け、厚さ7.5mmの繊維強化プラスチック材をライニングしこれを完全に硬化させたものを用意した。
【0061】
検査対象埋設管として、埋設管1の内周面3に外面フィルム6を貼り付け、未硬化厚みに応じた厚さの繊維強化プラスチック材をライニングしこれを未硬化とした状態でその内周面に境界フィルム7を貼り付け、さらにその内周面に未硬化厚みに応じた厚さの繊維強化プラスチック材をライニングして完全に硬化させたものを用意した。
図5(C)は硬化部と未硬化部の厚みを示したものである。
【0062】
[埋設管への衝撃付与]
基準埋設管または検査対象埋設管への衝撃の付与は、上記で説明したように、リモートコントロール可能な台車20を埋設管1の内部へ移動させて所定の位置に配置し、打撃器具21としてのインパルスハンマにより埋設管1の内周面3へ衝撃を与えることにより行なった。
【0063】
また、本実験例では、管口2より200mmずつ離間した5箇所(図2中、a、b、c、d、e)で打撃を行い、それぞれの位置に対して測定を行なった。
【0064】
[弾性波の受振方法]
弾性波を受振する受振器22としては加速度センサを用いた。加速度センサで取得したデータは、台車20に搭載した制御ユニットによりデータ加工して、通信ケーブルにより外部に配置したパーソナルコンピュータに送振した。
【0065】
また、図2に示すように、それぞれの打撃位置について、750mm離れた位置に受振器を配置し、5箇所でそれぞれ振動の計測を行なった。
【0066】
[計測結果]
図6は、本発明に係る硬化値測定方法を基準埋設管について適用して得た周波数スペクトルであり、(A)〜(E)はそれぞれ図2における打撃位置a〜eについて得た周波数スペクトルである。図7は、本発明に係る硬化値測定方法を検査対象埋設管について適用して得た周波数スペクトルであり、(A)〜(E)はそれぞれ図2におけるa〜eの打撃位置について得た周波数スペクトルである。
【0067】
図6には、基準埋設管について硬化値測定方法を適用して取得した周波数スペクトルが示されており、図7には、検査対象埋設管について硬化値測定方法を適用して取得した周波数スペクトルが示されている。図6および7に示した周波数スペクトルは、受振器22により計測した振動信号からFFT処理して得られたものである。

【0068】
各図の(A)〜(E)は、図2に示した打撃位置a〜eについて受振器により得られた周波数スペクトルのそれぞれを示しており、各打撃位置a〜eについて3回ずつ測定を行った結果得られた3つの硬化値のうち中央値を示す周波数スペクトルを示している。
【0069】
[解析結果]
図8は、図2で示した打撃位置a〜eに対する計測のそれぞれについて得た基準埋設管および検査対象埋設管の高周波成分比を示した表である。図9は、図2で示した打撃位置a〜eに対する計測のそれぞれについて得た基準埋設管および検査対象埋設管の高周波成分比を示したグラフである。
【0070】
図8の表には、基準埋設管および検査対象埋設管について、各打撃位置a〜eにおいて3回ずつ計測を行った結果得られた中央値を示している。図9のグラフは、各打撃位置a〜eについて3回ずつ測定を行った結果得られた高周波成分比の中央値を基にして作成したグラフである。
【0071】
図9によれば、内周面をライニングした繊維強化プラスチック材4が未硬化である検査対象埋設管の高周波成分比は、完全に硬化した基準埋設管と比較して大きな値となっている。また、高周波成分比の値を図10のように定義すれば、硬化の程度まで検査できる。すなわち、検査対象埋設管について測定した硬化値を基準埋設管の硬化値とを比較することにより、内周面をライニングした繊維強化プラスチック材4の硬化状態を把握することができる。
【0072】
したがって、実際に埋設されている埋設管1を検査する場合においては、あらかじめ基準となる基準埋設管の硬化値を求めておくことで、検査の対象とする検査対象埋設管の内周面をライニングした繊維強化プラスチック材4の硬化状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法を適用して、埋設管を測定するときの状態を説明した説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法における打撃位置と受振器の配置位置を説明した説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法により取得された周波数スペクトルを示すスペクトル図である。
【図4】本実験例において測定の対象とする埋設管を、その伸張方向の軸を含む面で切断した断面図である。
【図5】図4に示した部分Aにおいて管壁断面を拡大した部分拡大図であり、図5(A)は、内周面をライニングした繊維強化プラスチック材を完全に硬化させて基準埋設管としたものの部分拡大図であり、図5(B)は、内周面をライニングした繊維強化プラスチック材を未硬化にして検査対象埋設管としたものの部分拡大図である。図5(C)は、硬化と未硬化の厚みを記載したものである。
【図6】本発明に係る硬化値測定方法を基準埋設管について適用して得た周波数スペクトルであり、(A)〜(E)はそれぞれ図2における打撃位置a〜eについて得た周波数スペクトルである。
【図7】本発明に係る硬化値測定方法を検査対象埋設管について適用して得た周波数スペクトルであり、(A)〜(E)はそれぞれ図2におけるa〜eの打撃位置について得た周波数スペクトルである。
【図8】図2で示した打撃位置a〜eに対する計測のそれぞれについて得た基準埋設管および検査対象埋設管の硬化値を示した表である。
【図9】図2で示した打撃位置a〜eに対する計測のそれぞれについて得た基準埋設管および検査対象埋設管の硬化値を示したグラフである。
【図10】硬化度を判定するための基準値を示した表である。
【符号の説明】
【0074】
1 埋設管
2 管口
3 内周面
4 繊維強化プラスチック材
14 土砂
15 地面
21 打撃器具
22 受振器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設管の内面をライニングする繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する方法であって、
検査基準とする基準埋設管と検査対象とする検査対象埋設管の各管について、衝撃を与える打撃位置をそれぞれ定めてこれら打撃位置に衝撃を与え、該各打撃位置から所定距離離間した測定位置で衝撃による振動を測定し、この振動から得た該周波数スペクトルについて所定の高周波範囲の面積と所定の低周波範囲を含む範囲の面積との比率を硬化値として算出し、これら硬化値同士を対比することにより前記検査対象埋設管の硬化状態を判定することを特徴とする埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法。
【請求項2】
前記基準埋設管および前記検査対象埋設管へ与える衝撃は、鉄、ステンレス又はプラスチックにより形成された打撃部を備えた打撃器具により発生させることを特徴とする請求項1に記載の埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法。
【請求項3】
前記硬化状態の検査に関して、高周波範囲の面積と所定の低周波範囲を含む範囲の面積との比率を算出し、硬化度合いとの相関関係をもとめることにより、得られる周波数の面積比から硬化度を推定することを特徴とする請求項1に記載の埋設管をライニングした繊維強化プラスチック材の硬化状態を検査する検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−46113(P2008−46113A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162381(P2007−162381)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】