説明

埋設金属管の被覆損傷位置検出方法および埋設金属管の被覆損傷位置検出装置

【課題】調査対象である金属管に発生した被覆損傷部位の位置を正確に知ることが可能な,埋設金属管の被覆損傷位置検出方法および埋設金属管の被覆損傷位置検出装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば,外面に防食被覆が施されて地中に埋設された金属管に交流信号電流を流し,金属管の直上の地表面における電位差を検出電極により検出し,電位差から前記交流信号電流と同一の周波数成分の信号を抽出して,金属管の被覆損傷部が作り出す地表面電位を検出することで,被覆損傷部の位置を検出する埋設金属管の被覆損傷位置検出方法および被覆損傷位置検出装置であって,金属管に誘導起電力発生手段を設け,前記交流信号電流に対応する周波数の電流を前記誘導起電力発生手段に流すことにより前記誘導起電力を前記金属管に発生させることを特徴とする被覆損傷位置検出方法および被覆損傷位置検出装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,地中に埋設された金属管の外面に施された防食被覆の損傷位置を地表面から検出する埋設金属管の被覆損傷位置検出方法および埋設金属管の被覆損傷位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,地中に埋設されている鋼管等の金属管は,外面にアスファルト等の瀝青質あるいはポリエチレン等の熱可塑性樹脂の塗覆装が施されて,金属管の腐食を防止している。
【0003】
上記の防食被覆が何らかの原因により損傷を受け,金属管の金属面が土壌等の電解質に直接接触すると,電解質に接触した部分が腐食する。特に,損傷部が酸素濃淡差などのある環境や,電鉄の迷走電流の影響を受ける環境に存在すると,金属管は,異常に速い速度で腐食し,腐食孔を生じる恐れがある。
【0004】
このような地中埋設管の防食被覆を完全な状態で維持することは,腐食事故を防止する上で極めて重要であり,しばしば,防食被覆に損傷が生じていないかを地表面から検出し,損傷が生じていた場合には,金属管の埋設部を掘削して補修する等の処置が施される。
【0005】
埋設金属管の防食被覆損傷位置を検出する方法として,例えば特許文献1に開示されている「埋設金属管類の防食被覆損傷位置検出方法」がある。
【0006】
上記の特許文献1に記載された従来技術は,図8および図9に示すように,外面に防食被覆10を施して地中に埋設された金属管12の被覆損傷部14と,地盤16に埋設した対極50との間に,測定信号発振器52から信号電流を流し,上記の金属管12の直上の地表面を移動する受信装置60における2個の車輪電極62により地表面の電位差を検出し,信号電流成分と同一の周波数成分の信号を抽出して,その電位差の振幅および位相の極性の変化を測定して,埋設金属管12の被覆損傷部14が作り出す特有の波形を検知することで損傷を検出する,埋設金属管の防食被覆損傷位置検出方法である。
【0007】
上記の特許文献1に記載された方法では,上記の受信装置60において,車輪電極62で検出した信号が入力される信号処理装置64によって,検出した信号からノイズを除去しつつ信号の増幅を行い,表示装置66に検出した波形の表示を行っている。
【0008】
ここで,被覆損傷部を点電流源であると考えると,深さzの場所に位置する被覆損傷部14により地表面に生じる電位V(V)は,無限遠方を基準とすると,以下の式1のように表される。
【0009】
【数1】

【0010】
ここで,ρは土壌比抵抗(Ω・m)であり,Iは電流源から流出入する電流(A)であり,xは被覆損傷部の直上からの水平方向の距離(m)である。
【0011】
2個の車輪電極62を有する受信装置60が検出する地表面の車輪電極62間の電位差eは,以下の式2で表され,図8(b)に示したように,被覆損傷部14の直上Pで0となり,前後に極性の異なる2つのピークを有する分布を示す。ここで,以下の式2におけるaは,車輪間隔を表している。
【0012】
【数2】

【0013】
【特許文献1】特公平7−52166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら,上記の特許文献1に記載の方法において,金属管12の被覆損傷部14が,埋設物18と近接している場合に,受信装置60による金属管12の被覆損傷部14の検出が極めて困難になるという問題があった。
【0015】
すなわち,図10に示すように,金属管12の被覆損傷部14と近接して,金属管12と電気的に接続された接地抵抗の小さい導電性の埋設物18(例えば建屋の基礎や橋梁等)が存在すると,受信装置60で検出される信号が極めて小さくなるという現象が起こるという問題があった。
【0016】
また,図13(a)に示すように,調査対象となる金属管12の他に,埋設物18と電気的に接続されている防食被覆を有する他の金属管20が存在し,P地点において他の金属管20における被覆損傷部22が存在する場合に,受信装置60を用いて波形の検出を行うと,他の金属管20における被覆損傷部22を,調査対象である金属管12の被覆損傷部14であると誤って判断してしまうという問題があった。
【0017】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,調査対象である金属管に発生した被覆損傷部位の位置を正確に知ることが可能な,新規かつ改良された埋設金属管の被覆損傷位置検出方法および埋設金属管の被覆損傷位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,外面に防食被覆が施されて地中に埋設された金属管に交流信号電流を流し,金属管の直上の地表面における電位差を検出電極により検出し,上記電位差から交流信号電流と同一の周波数成分の信号を抽出して,金属管の被覆損傷部が作り出す地表面電位を検出することで,被覆損傷部の位置を検出する埋設金属管の被覆損傷位置検出方法であって,前記交流信号電流に対応する周波数の電流を前記誘導起電力発生手段に流すことにより前記誘導起電力を前記金属管に発生させることを特徴とする埋設金属管の被覆損傷位置検出方法が提供される。
【0019】
かかる構成によれば,金属管に設けられた誘導起電力発生手段は,金属管に誘導起電力を発生させ,取り付けられた金属管に,交流信号電流を流す。防食被覆が損傷した部位がある場合には,被覆損傷部が作り出す地表面電位を観測することで,被覆損傷部の位置を明らかにすることができる。
【0020】
金属管に電気的に接続された埋設物が存在する場合に,上記の誘導起電力発生手段を,埋設物と被覆損傷部との間に配設することが望ましい。かかる構成により,金属管に流れる交流信号電流の向きと,埋設物に流れる交流信号電流の向きとが常に逆方向となる。その結果,被覆損傷部の位置を正確に知ることができる。
【0021】
上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,外面に防食被覆が施されて地中に埋設された金属管に生じた被覆損傷部の位置を検出する,埋設金属管の被覆損傷位置検出装置であって,誘導起電力を発生することで,金属管に交流信号電流を流す誘導起電力発生手段と,金属管の直上の地表面における電位差を検出する検出電極と,上記の電位差から交流信号電流と同一の周波数成分の信号を抽出して,金属管の被覆損傷部が作り出す地表面電位を検出することで,被覆損傷部の位置を検出する地表面電位解析手段と,を備える埋設金属管の被覆損傷位置検出装置が提供される。
【0022】
かかる構成によれば,金属管に取り付けられた誘導起電力発生手段は,誘導起電力を発生することで金属管に誘導起電力に起因する交流信号電流を流し,検出電極は,金属管の直上の地表面における電位差を検出し,地表面電位解析手段は,検出電極が検出した電位差から交流信号電流と同一の周波数成分の信号を抽出して,金属管の被覆損傷部が作り出す地表面電位を検出し,被覆損傷部の位置を明らかにする。かかる被覆損傷部位検出装置を用いることで,埋設金属管に生じた被覆損傷部の位置を,正確に知ることができる。
【0023】
上記の誘導起電力発生手段は,変流器であり,変流器は,金属管が挿通される貫通孔が形成された電磁鋼板と,鋼板に巻き付けられている巻線と,巻線に交流信号電流に対応する周波数の電流を流す電源部とを備えてもよい。かかる構成によれば,貫通孔が形成された電磁鋼板に巻き付けられている巻線は,交流信号電流が流れることで鋼板に磁界を発生させ,貫通孔を貫通するように設けられる金属管に交流信号電流を流す。この変流器を使用することで,金属管に誘導起電力に起因する交流信号電流を流すことができる。
【0024】
上記の電磁鋼板は,複数の電磁鋼板からなる層構造を有していても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば,調査対象である金属管に発生した被覆損傷部位の位置を正確に知ることが可能な,埋設金属管の被覆損傷位置検出方法および埋設金属管の被覆損傷位置検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
本願発明者は,従来からの問題点1および問題点2を解決するにあたり,まず,それぞれの問題点について,詳細に検討を行った。その結果,以下に示すような知見を得ることができた。以下に,得られた知見について詳細に説明する。
【0028】
(従来の問題点に対する検討)
図10は,従来の埋設金属管の被覆損傷位置検出方法について説明するための模式図であり,図11は,図10に示した模式図における状況の等価回路である。
【0029】
まず,図11(a)について着目する。ここで,Eは発振器52の印加電圧,Rは被覆損傷部14の直上となるP地点における被覆損傷部の接地抵抗,Rは埋設物18の中心にあたるP地点における埋設物18の接地抵抗,Rは対極50の接地抵抗,Rは発振器52から被覆損傷部14までの金属管の抵抗,Lは発振器52から被覆損傷部14までの金属管のインダクタンス,Iは被覆損傷部14を流出入する信号電流,Iは埋設物18を流出入する信号電流である。
【0030】
ここで,R,Lは無視できるほど小さいとすると,被覆損傷部14および埋設物18を流れる電流I,Iは,それぞれ以下に示した式3,式4で表される。
【0031】
【数3】

【数4】

【0032】
また,被覆損傷部14の接地抵抗Rは,損傷の大きさSと土壌抵抗率ρとで与えられ,その大きさは,近似的に以下に示す式5で与えられる。
【0033】
【数5】

【0034】
例として,10cmの面積を持つ被覆損傷部14の接地抵抗Rは,土壌抵抗率ρを日本の平均的な土壌抵抗率の範囲である10〜50Ω・mとすると,式5より,400〜2000Ωの値となる。
【0035】
被覆損傷部14の接地抵抗Rの値に比べて埋設物18の接地抵抗Rの値が極めて小さい場合,すなわち,R>>Rの場合には,I<<Iとなり,金属管12内を流れる信号電流のほとんどが,埋設物18から流出入することとなる。
【0036】
埋設物18から信号電流が大量に流出入すると,埋設物18の周囲の大地の電位は,埋設物18の電位近くまで上昇することとなる。埋設物18を,半径r,長さlの棒状電極と考えた場合に,土壌抵抗率ρ(Ω・m)を用いて,埋設物18の接地抵抗Rは,以下の式6を用いて表される。
【0037】
【数6】

ここで,
【数7】

である。
【0038】
埋設物18から信号電流が流出することによる大地電位Vの分布は,埋設物18の中心からの距離をx(m),電流をI(A)とすると,以下の式8に示すように埋設物18にてピークとなり,距離とともに減少する分布を示す。
【0039】
【数8】

ここで,
【数9】

であり,電流I(A)は,金属管12の対地電位Vより,
【数10】

となる。
【0040】
金属管12の被覆損傷部14埋設物18と近接していると,埋設物18からの信号電流の流出入によって発生する大地電位Vにより,被覆損傷部14を流れる信号電流I’は抑制される。このような被覆損傷部14と埋設物18が近接している場合の等価回路を,図11(b)に示す。
【0041】
図12に示すように,被覆損傷部14周辺に大地電位Vが存在すると,被覆損傷部14における金属管12と周囲の大地間の電位差ΔVは,無限遠方の大地を基準としたときの被覆損傷部14における金属管12の対地電位Vよりも小さい値となる。
【0042】
【数11】

【0043】
そのため,金属管12の被覆損傷部14にて大地間に流出入する信号電流I’は,以下の式12のように,Iより更に減少することとなる。
【0044】
【数12】

【0045】
例として,被覆損傷部14の面積S=10cm,土壌抵抗率ρ=10Ω・m,埋設物18を棒状電極とし半径r=1m,長さl=5m,金属管12の対地電位V=10Vとすると,R=400Ω,R=0.75Ω,I=0.025A,I=13.427Aとなり,x=3mにおける大地電位V=5.52Vとなるため,被覆損傷部14における金属管12と周囲の大地間の電位差ΔV=4.48V,金属管12の被覆損傷部14にて大地間に流出入する信号電流I’=0.011Aとなる。従って,I’はIの半分以下に減少することとなる。
【0046】
以上の検討から,本願発明者は,調査対象の金属管12の近傍に埋設物18が存在する場合には,被覆損傷部14の接地抵抗が埋設物18の接地抵抗に比べて著しく大きくなるため,被覆損傷部14に流出入する信号電流が著しく抑制され,地表面で検出される信号が極めて小さくなるということを明らかにすることが出来た。
【0047】
図13(c)は,図13(a)の等価回路である。ここで,Rは他の金属管20における被覆損傷部22の接地抵抗,Iは他の金属管20の被覆損傷部22を流れる信号電流である。このとき,図13(b)に示すように,他の金属管20における被覆損傷部22の直上となるP地点においても,調査対象となる金属管12の被覆損傷部14の直上となるP地点と同様の電位分布が検出される。
【0048】
この問題について検討したところ,図13(c)の等価回路から明らかなように,印加電圧Eである発振器52と,金属管12の被覆損傷部14からなる回路ができる他に,印加電圧Eである発振器52と,他の金属管20の被覆損傷部22からなる回路ができ,かつ,金属管12の被覆損傷部14を流出入する信号電流の向きと,他の金属管20の被覆損傷部22を流出入する信号電流の向きが一致するためであることが,明らかとなった。
【0049】
上記で検討した問題点は,以下で詳細に説明する本実施形態に係る埋設金属管の被覆損傷位置検出装置を用いることで,全て解決することが可能である。
【0050】
(被覆損傷位置検出装置について)
以下に,図1〜図4を参照しながら,本発明の第1の実施形態に係る埋設金属管の被覆損傷位置検出方法,および埋設金属管の被覆損傷位置検出装置について,詳細に説明を行う。図1〜図4は,本実施形態に係る埋設金属管の被覆損傷位置検出装置を説明するための模式図である。
【0051】
本実施形態に係る埋設金属管の被覆損傷位置検出装置は,誘導起電力発生手段である変流器110と,地表面における電位差を検出して解析を行う受信装置160とを備える。
【0052】
まず,変流器110について,詳細に説明する。変流器110は,誘導起電力を発生することで,防食被覆100が施された鋼管からなる金属管102に,交流信号電流を流す役割を果たす。図2に,変流器110の一例である励磁コイルを示す。変流器110は,貫通孔111が形成された複数枚の略円形状の電磁鋼板が重ね合わされた層構造を有し,この電磁鋼板が鉄心112として機能する。層構造を有することにより,鉄心112の中に生じる渦状の電流と鉄心112の電気抵抗とに起因する,発熱によるエネルギーの損失(渦電流損)を小さくすることが可能である。変流器110を構成する電磁鋼板としては,例えばケイ素鋼板を用いることができる。鉄心112には,巻線114が何重にも巻き付けられており,巻線114の両端には,交流電圧を巻線114に印加することが可能な発信器116を取り付けることができる。巻線114は,例えば,エナメル線,ホルマール線または銅線などを使用することが可能である。
【0053】
また,変流器110は,鉄心112を例えば円弧状に2つ以上に分割できる構造を有してもよい。鉄心112を円弧状に分割できる構造を有することにより,この円弧を組み合わせて金属管102を囲むように変流器110を設置することが可能となる。
【0054】
変流器110の略中央に設けられた貫通孔111に,調査対象とする金属管102を通すことで,金属管102に交流信号電流を流すことができる。金属管102に交流信号電流が流れる理由については,以下で述べる。変流器110設けられる貫通孔の径の大きさは,調査対象とする金属管102の径の大きさに応じて,適宜設計することが可能である。
【0055】
なお,図2においては,変流器110の形状は,略円形状であるが,鉄心112を構成する鋼板の形状は,円形状に限定されるわけではなく,例えば略四角形状であってもよい。また,変流器110に形成される貫通孔111の形状についても,略円形状に限定されるわけではなく,例えば略四角形状であってもよい。
【0056】
巻線114の両端に発信器116が取り付けられ,巻線114に交流電圧が印加されると,巻線114に励磁電流が流れ,鉄心112の中に,円周方向に沿って磁束φが生じる。この磁束φが時間的に変化することにより,貫通孔111を貫いている金属管102に誘導起電力が発生する。誘導起電力が発生した金属管102が,その両端で被覆損傷や電気的に接続された接地物等で接地されていると,大地を帰路とする電流が流れることとなる。なお,巻線114に印加する交流電圧の大きさを調整することで,金属管に流れる交流信号電流の大きさや,交流信号電流の流れる金属管の長さ等を変化させることができる。
【0057】
変流器110を用いて実際に金属管102の調査を行う場合には,図1に示したように,巻線114に測定信号発信器150を接続する。この測定信号発信器150は,例えば数十〜750Hzの周波数の範囲から選択した周波数を,巻線114に印加することができる。ただし,商用周波数である50Hzおよび60Hzの逓倍の周波数を使用した場合には,ノイズが重畳するため,この2種類の周波数の使用は避ける必要がある。実際の測定にあたっては,例えば220Hz〜320Hz程度の周波数を印加すると,好ましい結果を得ることができる。
【0058】
従来の埋設金属管の被覆損傷位置検出方法では,調査対象である金属管に直接電圧を印加して電流を流していたが,本実施形態に係る被覆損傷位置検出装置では,直接金属管に電圧を印加して電流を流すことはせず,変流器110により誘導起電力を発生させることで,金属管に間接的に電流を流すことが特徴である。
【0059】
続いて,受信装置160について,詳細に説明する。受信装置160は,図1に示したように,少なくとも2以上の車輪162を備え,地表面106を自在に移動できるように設計されている。この車輪162が,地表面106において電位差を測定する検出電極として機能する。図1,図3および図4では,車輪の個数は2個の場合を示しているが,2個以上の車輪を有していても良く,例えば4個の車輪を備えていても良い。この場合には,任意の2つの車輪を選択して,当該2つの車輪間の電位差を検出することができる。この車輪電極162は,例えば導電性ゴム等を用いて製造することが可能である。
【0060】
また,受信装置160には,図3に示したように,車輪電極162が検出した地表面電位差を解析する地表面電位解析手段として,例えば信号処理装置164と,表示装置166と,距離計測回路168とが設けられている。
【0061】
信号処理装置164は,2個の車輪電極162に接続されており,車輪電極162が検出した地表面電位差を解析して,埋設金属管102に生じた被覆損傷部104の位置を明らかにする処理を行い,解析結果を表示装置166に出力する装置である。表示装置166は,例えば受信装置160に設けられた平衡記録計等の機器であって,信号処理装置164が行った解析結果を表示する装置である。また,距離計測回路168は,車輪電極162に取り付けられたエンコーダ等の回転信号発生器により検出した車輪の回転量を,受信装置160の移動距離に換算して表示装置166に出力する回路である。
【0062】
図4には,信号処理装置164として,例えばロックインアンプ170を用いた例を示す。ロックインアンプ170には,変流器110に接続される測定信号発信器150の出力周波数との相対的位相変化の程度が少なくとも170度/時間より小さく,測定信号発信器150と同一の周波数の信号を出力できる参照信号発信器172が,測定信号発信器150と独立して接続される。
【0063】
ロックインアンプは,ロックインアンプに入力される信号の振幅と位相に関する情報を得ることができるものであり,入力信号から,ロックインアンプに別途入力される参照信号に同期するもののみを抽出・増幅することができる。本実施例においては,車輪電極162により地表面106における電位差を検出した検出信号と,変流器110に接続される測定信号発信器150と同一の周波数の信号を出力する参照信号発信器172からの信号とを,ロックインアンプ170に入力することで,検出信号に含まれる参照信号と同期しない信号の雑音信号を除去し,同期した信号のみを増幅して表示装置166へと出力することができる。この同期した信号の波形の変化から,金属管102に生じた被覆損傷部104の位置を,高い精度で検出することが可能となる。
【0064】
なお,参照信号発信器172の代わりに,測定信号発信器150の出力信号をケーブルや無線等を用いてロックインアンプ170に入力することも可能である。
【0065】
(被覆損傷位置検出方法について)
続いて,本実施形態に係る埋設金属管の被覆損傷位置検出方法について,詳細に説明する。本実施形態に係る被覆損傷位置検出方法は,上記で説明した,誘導起電力発生手段である変流器110と,検出電極兼地表面電位解析手段である受信装置160とを用いるものである。
【0066】
まず,金属管102と,金属管102と埋設物108との電気的な接続点の間に,変流器110を取り付ける。変流器110に巻き付けられている巻線114に,測定信号発信器150を接続し,所定範囲の周波数を有する交流信号電流を流す。その結果,上記で説明したような原理から,発信器110の鉄心112に磁束が発生し,金属管102の管軸方向に,誘導起電力が発生する。
【0067】
図1に図示した状況の等価回路を,図5(a)に示す。発生した誘導起電力の電圧をEとすると,金属管102,被覆損傷部104および埋設物108は,図5(a)のような閉ループを作り,この閉ループには,同じ大きさの電流I=I=Iが流れることとなり,被覆損傷部104(P地点)を流れる電流の向きと,埋設物108(P地点)を流れる電流の向きは,常に逆向きとなる。ここで,被覆損傷部104の接地抵抗をR,埋設物108の接地抵抗をRとすると,流れる電流Iは,以下の式13のようになる。ただし,金属管102の抵抗RとインダクタンスLは,無視できるほど小さいものとする。
【0068】
【数13】

【0069】
ここで,RはRに比べて,抵抗値が極めて大きい,すなわち,R>>Rであるとする。このような場合は,埋設物108が,接地抵抗の小さな導電性の埋設物(例えば,被覆処理されていない金属)である場合に該当し,このときの電流値Iは,以下の式14のようになる。
【0070】
【数14】

【0071】
式14から明らかなように,信号電流Iの大きさは,被覆損傷部104の接地抵抗の大きさRにのみ依存し,埋設物108から大量の電流が流出入するのを防止することができる。
【0072】
被覆損傷部104と埋設物108とが近接している場合の等価回路を,図5(b)に示す。被覆損傷部104と埋設物108とが近接している場合は,図6に示すように,埋設物108に流出入する信号電流は,被覆損傷部104に流出入する電流と極性が逆となるため,被覆損傷部104の直上(P地点)における埋設物108に流出入する信号電流により発生する大地電位Vの存在により,以下の式15に示すようにΔVはVよりも大きな値を持つ。すなわち,式16に示すように,被覆損傷部104に流出入する信号電流は,増加することになる。
【0073】
【数15】

【数16】

【0074】
例えば,被覆損傷部104の面積S=10cm,土壌抵抗率ρ=10Ω・mとし,埋設物108を棒状電極とし半径r=1m,長さl=5m,金属管102の対地電位V=10Vとすると,R=400Ω,R=0.75Ω,I=I=0.0249Aとなり,x=3mにおける大地電位V=−0.010Vとなる。その結果,被覆損傷部104における金属管102と周辺の大地間の電位差ΔV=10.01V,金属管102の被覆損傷部104において大地間に流出入する信号電流I’=0.0250Aとなり,Iより増加することとなる。
【0075】
従って,被覆損傷部104を流出入する信号は,従来とは異なり,埋設物108によって増加することとなり,埋設物108に影響されることなく検出できるようになる。
【0076】
また,図7(a)に示すように,調査対象となる金属管102の他に,埋設物108と電気的に接続されている防食被覆を有する他の金属管200が存在する場合には,他の金属管200の被覆損傷部202を流出入する信号電流は,埋設物108の存在のために極めて小さくなり,加えて,他の金属管200の被覆損傷部202を流出入する信号電流の極性は,調査対象である金属管102の被覆損傷部104を流出入する信号電流と逆となる。このようになる理由を,図7(b)に示す等価回路を用いて説明する。
【0077】
他の金属管200における被覆損傷部202の接地抵抗をRとし,流出入する電流をIとする。図7(b)の等価回路から明らかなように,調査対象となる金属管102の被覆損傷部104を流出入する電流Iと,他の金属管200における被覆損傷部202を流出入する電流Iや埋設物108を流出入する電流Iとは,常に逆向きとなる。また,I=I+Iの関係が成立するが,R<<Rの関係も成立するため,I<<Iとなる。
【0078】
従って,図7(c)に示すように,他の金属管200における被覆損傷部202の直上となるP地点での電位分布は,極めて小さいものとなり,かつ,調査対象である金属管102の被覆損傷部104の直上となるP地点において検出される電位差分布と逆の極性を持つ分布が検出される。
【0079】
このため,調査対象である金属管102の被覆損傷部104に起因するピークと,他の金属管200の被覆損傷部202に起因するピークとを容易に判別することができ,調査対象である金属管102の被覆損傷部104から発生する信号のみを,精度良く検出することができる。
【0080】
このように,本実施形態に係る埋設金属管の被覆損傷位置検出方法は,被覆損傷部に近接して金属管と電気的に接続された埋設物が存在する場合や,埋設物に他の金属管が電気的に接続されている場合であっても,調査対象とする金属管に生じた被覆損傷部の位置のみを,精度良く高能率で検出することが可能である。
【0081】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0082】
例えば,上述した実施形態においては,地中埋設管の場合について説明したが,地中埋設ケーブルや,ケーブル保護管など,導電性を有する材質を用いて製造された管の周囲に絶縁性の被覆を施したものに生じた被覆損傷部の位置を,高精度かつ高能率で検出することが可能である。
【0083】
また,上述した実施形態においては,受信装置に設けられた2つの車輪電極間の電位差を検出する場合について説明したが,地表面に挿入接地された1つの検出電極を受信装置に接続し,受信装置に設けられた1つの検出電極と,上記の地表面に挿入接地された検出電極との間の電位差を,測定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る被覆損傷位置検出装置および被覆損傷位置検出方法を説明するための模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る変流器を説明するための斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る受信装置を説明するための模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る受信装置を説明するための模式図である。
【図5】図1に示した状況の等価回路である。
【図6】本発明の第1の実施形態において,被覆損傷部と接地抵抗の小さい埋設物が近接している場合を説明するための模式図である。
【図7】本発明の第1の実施形態において,電気的に接続された他の金属管が存在する場合を説明するための模式図である。
【図8】従来の被覆損傷位置検出方法を説明するための模式図である。
【図9】従来の被覆損傷位置検出方法を説明するための模式図である。
【図10】従来の被覆損傷位置検出方法において,被覆損傷部と接地抵抗の小さい埋設物が近接している場合を説明するための模式図である。
【図11】図10に示した状況の等価回路である。
【図12】従来の被覆損傷位置検出方法において,被覆損傷部と接地抵抗の小さい埋設物が近接している場合を説明するための模式図である。
【図13】従来の被覆損傷位置検出方法において,電気的に接続された他の金属管が存在する場合を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0085】
100 防食被覆
102 金属管
104 被覆損傷部
106 地表面
108 埋設物
110 変流器
111 貫通孔
112 鉄心
114 巻線
116 発信器
150 測定信号発信器
160 受信装置
162 車輪電極
164 信号処理装置
166 表示装置
168 距離測定回路
170 ロックインアンプ
172 参照信号発信器
200 金属管
202 被覆損傷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に防食被覆が施されて地中に埋設された金属管に交流信号電流を流し,前記金属管の直上の地表面における電位差を検出電極により検出し,前記電位差から前記交流信号電流と同一の周波数成分の信号を抽出して,前記金属管の被覆損傷部が作り出す地表面電位を検出することで,前記被覆損傷部の位置を検出する埋設金属管の被覆損傷位置検出方法であって:
前記金属管に誘導起電力発生手段を設け,前記交流信号電流に対応する周波数の電流を前記誘導起電力発生手段に流すことにより前記誘導起電力を前記金属管に発生させることを特徴とする,埋設金属管の被覆損傷位置検出方法。
【請求項2】
前記金属管に電気的に接続された埋設物が存在する場合に,前記誘導起電力発生手段を,前記埋設物と前記被覆損傷部との間に配設することを特徴とする,請求項1に記載の埋設金属管の被覆損傷位置検出方法。
【請求項3】
外面に防食被覆が施されて地中に埋設された金属管に生じた被覆損傷部の位置を検出する,埋設金属管の被覆損傷位置検出装置であって:
誘導起電力を発生することで,前記金属管に交流信号電流を流す誘導起電力発生手段と,
前記金属管の直上の地表面における電位差を検出する検出電極と,
前記電位差から前記交流信号電流と同一の周波数成分の信号を抽出して,前記金属管の被覆損傷部が作り出す地表面電位を検出することで,前記被覆損傷部の位置を検出する地表面電位解析手段と,
を備えることを特徴とする,埋設金属管の被覆損傷位置検出装置。
【請求項4】
前記誘導起電力発生手段は,変流器であり,
前記変流器は,前記金属管を挿通するための貫通孔が形成された電磁鋼板と,前記鋼板に巻き付けられている巻線と,前記巻線に前記交流信号電流に対応する周波数の電流を流す電源部と,を備えることを特徴とする,請求項3に記載の埋設金属管の被覆損傷位置検出装置。
【請求項5】
前記電磁鋼板は,複数の電磁鋼板からなる層構造を有することを特徴とする,請求項4に記載の埋設金属管の被覆損傷位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−278946(P2007−278946A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107877(P2006−107877)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】