説明

培養装置及び培養方法

【課題】培養液を均一に流動性させる培養装置の提供。
【解決手段】 培養液容器1と、ホローファイバー培養器2と;培養液容器1と培養器2におけるファイバー内領域3の入口3aとをつなぐ第1の流路5と、該第1の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を培養液容器1から培養器2へと制御する第1の流れ方向制御手段7と;培養器2におけるファイバー内領域の出口3bと培養液容器1又は廃棄容器とをつなぐ第2の流路6と、該第2の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を培養器2から培養液容器1又は廃棄容器へと制御する第2の流れ方向制御手段8と;所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段10と;吐出吸引手段10と培養器2におけるファイバー外領域4の出入口4a,4bとをつなぐ第3の流路12とを有するホローファイバー型培養装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞などをホローファイバー型培養器で培養する装置及び方法に関する。詳細には、培養液の均一な流動及び無菌的なサンプリングを容易に行える培養装置及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオプロセスにおける膜の利用は、従来、菌体分離や産生物の回収が主であった。しかしながら、近年、膜の精密な分画性能や材質の特性を積極的に利用した装置として、ホローファイバー培養器(下記、特許文献1及び2を参照)を用いた培養装置(下記、特許文献3を参照)が開発されている。
【0003】
従来のホローファイバー型培養装置は、主にホローファイバー培養器と該培養器にポンプなどで培養液を連続的に供給する流路とを有する。ホローファイバー培養器は、複数のホローファイバー(中空糸)が束ねられた中空糸束を有する。中空糸束を構成する各ファイバーは栄養素や産生物を透過する孔を有し、ホローファイバー培養器の内部空間を、ファイバー内領域とファイバー外領域とに分割する。
【0004】
このホローファイバー培養器において、培養液は例えば培養器の外部からポンプなどでファイバー内領域に供給される。供給された培養液は、ファイバー壁を透過してファイバー外領域に流出し、ファイバー外領域におけるファイバー表面に付着状態で、またはファイバー外領域に浮遊状態で保持されている細胞又は微生物へ栄養素を供給する。
【0005】
このホローファイバー培養器を用いた培養装置は、蛋白産生組換え細胞を高密度に培養することが可能であり、培地中に産生される蛋白質の濃度は静置培養やタンク培養と比較して10〜100倍となるため、効率的な蛋白生産に有用である。また、培養装置の大きさについても、タンク培養と比較すると小規模なため、微生物汚染のリスクも小さいなどの特徴を有する。
【0006】
【特許文献1】特開平3−103170号公報
【特許文献2】特開昭62−163687号公報
【特許文献3】特開平5−276922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
良好な蛋白生産を維持するためには、ホローファイバー培養器に対して、培養液をおよそ100〜1000mL/minの高流速で連続的に供給する必要がある。しかしながら、高流速のポンプシステムは故障のリスクも高く、この流速域においては、脈流がなく一定の流速を可能とするポンプは現在のところ開発されていない。
【0008】
また、ホローファイバー培養器のファイバー外領域は、細胞培養に適した均一な培養液条件であることが望ましい。しかしながら、ファイバーは多孔質であるため、ホローファイバー培養器にファイバー全長に亘り、いわゆるスターリング効果という圧力効果が発生し、ファイバー内領域において上流域では内から外に、下流域では外から内に培養液が移動しようとする現象が起こる。この現象により、ホローファイバー培養器の内部において、酸素濃度、栄養素濃度、老廃物濃度、pH値及びその他の生体特性値等に勾配が生じることになる。このため、ホローファイバー培養器の下流域の微生物又は細胞は死滅しやすく、上流域では微生物又は細胞の代謝が盛んに行われ、pHの低下が著しく、細胞等の増殖に適した環境を保持できなくなる。
【0009】
これを解消するために、ファイバー内外の培養液を強制的にファイバー表面を介して循環し、ファイバー外領域の培養液条件を均一化する培養装置が存在する。この装置は、ファイバー内領域とファイバー外領域とにそれぞれ、培養液がたまる培養液槽を設け、ファイバー外領域に設けた培養液槽に常に圧力がかかるように、ファイバー内領域には高流速のポンプが備えられている。ファイバー外領域の培養液槽には液面を検知するセンサーを備え、この培養液槽内の空気圧力を培養装置内に設けた加圧装置により制御することで、ファイバー外領域の培養条件を均一化している。しかしながら、これらの装置構成は複雑かつ高価で故障のリスクも高く、小スケールのホローファイバー培養器に合わせて小型化することは困難である。
【0010】
さらに、胚性幹細胞や間葉系幹細胞などの幹細胞を分化誘導する実験においては、生体に近い3次元環境が好適と考えられている。また、細胞に物理的圧力をかけると分化誘導や分化維持を促進することも知られている。しかしながら、従来のホローファイバー培養器を用いた培養装置は、細胞に対し生体の血管構造に類似した3次元環境と適度な静水圧を与えることできるものの、培養細胞に与える流水圧力を緻密に制御できる培養装置ではなかった。
【0011】
本発明は、上述状況に鑑みてなされたもので、ホローファイバー型培養装置において、簡便な方法で培養液を均一に流動させ、かつ無菌的なサンプリングが容易に可能な培養装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、逆止弁などの適当な流れ方向制御手段を流路に接続すれば送液方向を制御できること、シリンジポンプなどの吐出吸引手段を用いれば正確かつ脈流のない送液が可能で、かつ無菌的なサンプリングと培地交換が可能となることなどを知見し、本発明を完成させた。
【0013】
[1] 培養液容器(1)と、ホローファイバー培養器(2)と、
前記培養液容器と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域(3)の入口(3a)とをつなぐ第1の流路(5)と、該第1の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記培養液容器から前記ホローファイバー培養器へと制御する第1の流れ方向制御手段(7)と、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出口(3b)と前記培養液容器又は廃棄容器とをつなぐ第2の流路(6)と、該第2の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記ホローファイバー培養器から前記培養液容器又は廃棄容器へと制御する第2の流れ方向制御手段(8)と、
所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段(10)と、
前記吐出吸引手段と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域(4)の出入口(4a,4b)とをつなぐ第3の流路(12)とを有する、
ホローファイバー型培養装置。
【0014】
[2] 培養液容器と、ホローファイバー培養器と、
前記培養液容器と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の入口とをつなぐ第1の流路と、該第1の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記培養液容器から前記ホローファイバー培養器へと制御する第1の流れ方向制御手段と、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の出口と前記培養液容器又は廃棄容器とをつなぐ第2の流路と、該第2の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記ホローファイバー培養器から前記培養液容器又は廃棄容器へと制御する第2の流れ方向制御手段と、
所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段と、
前記吐出吸引手段と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出入口とをつなぐ第3の流路とを有する、
ホローファイバー型培養装置。
【0015】
[3] 前記第1から第3の流路の少なくとも1つに、培養液中のガス成分を調整する培養液中ガス調整手段(9,13)を有する、[1]又は[2]に記載するホローファイバー型培養装置。
【0016】
[4] 前記第3の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を、前記吐出吸引手段から前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の出入口の一方(4a)へと制御する第3の流れ方向制御手段(17)と、前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の出入口の他方(4b)から前記吐出吸引手段へと制御する第4の流れ方向制御手段(17)とを有し、前記第3の流れ方向制御手段と前記第4の流れ方向制御手段とはそれぞれの制御機能を阻害しないように第3の流路に設けられ、
前記第1の流路と前記ファイバー外領域の出入口の他方(4b)とをつなぐ第4の流路(15)と、該第4の流路に設けられた開閉弁(18)とを有する、
[1]に記載するホローファイバー型培養装置。
【0017】
[5] 前記第3の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を、前記吐出吸引手段から前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出入口の一方へと制御する第3の流れ方向制御手段と、前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出入口の他方から前記吐出吸引手段へと制御する第4の流れ方向制御手段とを有し、前記第3の流れ方向制御手段と前記第4の流れ方向制御手段とはそれぞれの制御機能を阻害しないように第3の流路に設けられ、
前記第1の流路と前記ファイバー内領域の出入口の他方とをつなぐ第4の流路と、該第4の流路に設けられた開閉弁とを有する、
[2]に記載するホローファイバー型培養装置。
【0018】
[6] 前記培養液中ガス調整手段は前記流路の一部を構成するガス透過性チューブである、[1]ないし[5]のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【0019】
[7] 前記流れ方向制御手段は逆止弁である、[1]ないし[6]のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【0020】
[8] 前記吐出吸引手段は脱着可能である、[1]ないし[7]のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【0021】
[9] 前記吐出吸引手段はシリンジ(10)である、[1]ないし[8]のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【0022】
[10] 前記吐出吸引手段はさらに前記シリンジに対して吸引吐出の駆動を繰り返し行うシリンジポンプ(11)を有する、[9]に記載するホローファイバー型培養装置。
【0023】
[11] 前記培養液容器及び/又は前記培養液中ガス調整手段はCO2インキュベータ(14)の中に設置される、[1]ないし[10]のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【0024】
[12] 前記ホローファイバー培養器は、浮遊性細胞用のホローファイバー培養器又は付着性細胞用のホローファイバー培養器である、[1]ないし[11]のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【0025】
[13] ホローファイバー培養器(2)におけるファイバー外領域(4)につながる、所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段(10)を用いて、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域(3)につながる、培養液容器(1)の中の培養液を、
前記吐出吸引手段の吸引作用により、前記ファイバー内領域から前記ファイバー外領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー外領域へ新鮮な培養液を供給すると共に、
前記吐出吸引手段の吐出作用により、前記ファイバー外領域から前記ファイバー内領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー内領域へ古い培養液を排出する、
ホローファイバー培養器を用いた培養方法。
【0026】
[14] ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域につながる、所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段を用いて、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域につながる、培養液容器の中の培養液を、
前記吐出吸引手段の吸引作用により、前記ファイバー外領域から前記ファイバー内領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー内領域へ新鮮な培養液を供給すると共に、
前記吐出吸引手段の吐出作用により、前記ファイバー内領域から前記ファイバー外領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー外領域へ古い培養液を排出する、
ホローファイバー培養器を用いた培養方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るホローファイバー型培養装置及び培養方法の好ましい態様によれば、胚性幹細胞や体性幹細胞などの幹細胞の培養に好適な三次元培養環境を与えることができるホローファイバー培養器を用いて、任意の正確な流動性環境下におけるホローファイバー培養が可能となる。また、吐出吸引手段によりファイバー外領域へ均一に正圧又は負圧をかけることにより培養液を流動させるので、従来のスターリング効果を抑制又はなくすことができる。
【0028】
また、吐出吸引手段によりファイバー外領域の培養液を直接操作して流動させるため、ファイバー内領域の還流操作を利用した従来の間接的なファイバー外領域の培養液流動に比べて、培養液の流動速度を抑えつつ効率的に流動させることができる。この結果、高速ポンプなどを用いずに、シリンジなどによる比較的低速の吐出・吸引操作で対応することができる。
【0029】
また、シリンジごと培養液を回収することにより、ファイバー外領域の産生物、有用物質又は培養細胞などの簡便な無菌的サンプリングが可能となる。さらに、例えば新鮮な培養液を詰めたシリンジを装着することにより、増殖因子の補充などが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係るホローファイバー型培養装置及びホローファイバー培養器を用いた培養方法について図面を参照しながら説明する。
【0031】
<第1の実施形態に係るホローファイバー型培養装置>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る培養装置を示す概略構成図である。同図に示すように、第1の実施形態に係るホローファイバー型培養装置は、培養液容器1と、ホローファイバー培養器2と;前記培養液容器1と前記ホローファイバー培養器2におけるファイバー内領域3の入口3aとをつなぐ第1の流路5と、該第1の流路5に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記培養液容器1から前記ホローファイバー培養器2へと制御する第1の流れ方向制御手段7と;前記ホローファイバー培養器2におけるファイバー内領域3の出口3bと前記培養液容器1(又は廃棄容器)とをつなぐ第2の流路6と、該第2の流路6に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記ホローファイバー培養器2から前記培養液容器1(又は廃棄容器)へと制御する第2の流れ方向制御手段8と;所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段10,11と;前記吐出吸引手段10,11と前記ホローファイバー培養器2におけるファイバー外領域4の出入口4a,4bとをつなぐ第3の流路12とを有する、ホローファイバー型培養装置である。
【0032】
さらに本実施形態では、第1の流路5及び第3の流路12に培養液中のガス成分を調整する任意の培養液中ガス調整手段9,13をそれぞれ設置してある。この培養液中ガス調整手段は、設置する場合には、前記第1から第3の流路の少なくとも1つに設置すればよい。以下、本実施形態に係るホローファイバー型培養装置の各構成要素について説明する。
【0033】
培養液容器1は、培養液を貯蔵する容器である。培養液容器1には流路5及び流路6が接続され、培養液容器1は貯蔵された培養液を流路5へ供給すると共に流路6からの培養液を受け入れるようになっている。なお、培養液容器1には、容器内のガス圧やガス成分の調整などのための通気孔を設けてもよい。また、ここで貯蔵される培養液は、培養対象の細胞(浮遊性細胞や付着性細胞など)、微生物などを培養するのに適した培養液であれば特に限定されない。
【0034】
ホローファイバー培養器2は、複数のホローファイバー(中空糸)が束ねられた中空糸束を有する。中空糸束を構成する各ファイバーは栄養素や産生物を透過する孔を有し、ホローファイバー培養器2の内部空間を、ファイバー内領域3とファイバー外領域4とに分割する。ファイバー内領域3は入口3a及び出口3bを有し、それぞれ流路5及び流路6に接続されている。ファイバー外領域4は出入口4a,4bを有し、流路12が分岐して両出入口に接続されている。
【0035】
なお、ホローファイバー培養器2としては、公知のものを適宜使用することができ、例えば、浮遊性細胞用の培養器であっても付着性細胞用の培養器であってもよい。また、ホローファイバー培養器2は無菌処理されていることが好ましい。
【0036】
流路5には、流れ方向制御手段7及び培養液中ガス調整手段9が設けられている。流路6には、流れ方向制御手段8が設けられている。流れ方向制御手段7は、流路5内を流れる流体の流動方向を培養液容器1からホローファイバー培養器2へと制御する。流れ方向制御手段8は、流路6内を流れる流体の流動方向をホローファイバー培養器2から培養液容器1へと制御する。これらの流れ方向制御手段としては、流体の流れ方向を制御できるものであれば特に限定されず、公知のものを適宜使用することができる。例えば逆止弁などがあげられる。
【0037】
培養液中ガス調整手段9は、流路5内を流動する培養液中のガス成分を調整する。培養液中ガス調整手段としては、培養液中のガス成分に関する調整、例えばガス種類の調整や各ガス成分の濃度の調整などができるものであれば特に限定されず、公知のものを適宜使用することができる。例えば、流路の一部を構成するガス透過性チューブや、複雑なタイプとしては、流路内の培養液中のガス種やガス濃度などを検出し、この検出結果に基づいてガス種や濃度などを調整するように外部からガスを追加するシステムなどがあげられる。
【0038】
なお、ガス透過性チューブとしては、シリコーンゴム、天然ゴム、SBR、BR、EPDMなどの高分子材料を用いたチューブがあげられる。一方、これらの材料とガス透過性の低いブチルゴム(IIR)、多硫化ゴム、エピクロロヒドリンゴム、高ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴムなどの材料とを混合してチューブを作製することにより、ガス透過性能(選択的透過、透過量調整など)を向上させたチューブを用いることもできる。
【0039】
また、上述するように培養液中ガス調整手段9は任意の構成であり、流れ方向制御手段7の上流側に設置しても下流側に設置してもよい。さらに、培養液中ガス調整手段を流路6に設けてもよく、この場合には、流れ方向制御手段8の上流側に設置しても下流側に設置してもよい。流路6に設けた場合には、ホローファイバー培養器2から排出された使用済みの培養液を培養液容器1に戻すにあたって、培養液を調整しながら戻すことができる。なお、流路6は、培養液容器1へ接続するのではなく、使用済み溶媒液用の廃棄容器に接続してもよい。
【0040】
吐出吸引手段は、一例としてはシリンジ10とシリンジポンプ11とから構成される。この場合、シリンジ10は流路12によりホローファイバー培養器2におけるファイバー外領域4の出入口4a,4bと接続される。また、流路12には任意の培養液中ガス調整手段13が設けられ、該培養液中ガス調整手段については上述するとおりである。
【0041】
シリンジ10はファイバー外領域4の培養液を交換するのに十分な容量を有し、ディスポーザブルあるいは滅菌処理できるものが好ましい。また、シリンジポンプ11は、シリンジに対して吸引吐出の駆動を繰り返し行う装置であり、市販のディスポーザブルシリンジを装着できることや、吸引吐出を任意の容量及び速度で連続的に設定できることが好ましい。
【0042】
次に、本実施形態に係るホローファイバー型培養装置の培養原理について説明する。本実施形態に係る培養方法は、ホローファイバー培養器2におけるファイバー外領域4につながる、所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段10,11を用いて、前記ホローファイバー培養器2におけるファイバー内領域3につながる、培養液容器1の中の培養液を;前記吐出吸引手段10,11の吸引作用により、前記ファイバー内領域3から前記ファイバー外領域4へ培養液を浸透させて、前記ファイバー外領域4へ新鮮な培養液を供給すると共に;前記吐出吸引手段10,11の吐出作用により、前記ファイバー外領域4から前記ファイバー内領域3へ培養液を浸透させて、前記ファイバー内領域3へ古い培養液を排出する、ホローファイバー培養器を用いた培養方法である。
【0043】
ファイバー外領域4には、培養対象である細胞(浮遊性細胞や付着性細胞など)、微生物などがあり、この培養対象に対して培養液を効率的に供給する必要がある。ここで、まず、シリンジ10を吸引駆動させることにより、ファイバー外領域4を介してファイバー内領域3に負圧を発生させる。この結果、培養液容器1中の培養液が培養液中ガス調整手段9および流れ方向制御手段7を介して、ファイバー内領域の入口3aからファイバー内領域3へ供給される。ファイバー内領域3へ供給された培養液は、ファイバー膜の孔を通してファイバー外領域4へ浸透して、培養対象へ供給される。なお、この際に、流れ方向制御手段9の機能により、流路6中の流体や培養液容器1中のガスがファイバー内領域3へ流れ込むことを阻止することができる。
【0044】
次に、このファイバー外領域4へ供給された新鮮な培養液は、培養対象の栄養となることにより古い培養液となるため、この古い培養液を効率的に排出する必要がある。ここで、次に、シリンジ10を吐出駆動させることにより、ファイバー外領域4に正圧を発生させる。この結果、ファイバー外領域4の古い培養液はファイバー膜の孔を通してファイバー内領域3へ浸透し、流れ方向制御手段8を介して培養液容器1へ排出される。なお、この際に、流れ方向制御手段7の機能により、流路5中の流体が培養液容器1へ押し戻されることを阻止することができる。
【0045】
上述するようにして、シリンジを繰り返して吸引吐出駆動することにより、ファイバー外領域4の培養対象へ効率的に新鮮な培養液を供給すると共に古い培養液を排出することができる。また、上述する培養液の流動方法では、ファイバー内外領域においてファイバーの長さ方向に沿って均一に圧力をかけて培養液をファイバー内外へ流動させているため、培養液をファイバーに沿って流動させることで発生するスターリン効果を抑制又はなくすことができる。
【0046】
なお、ファイバー外領域4で培養を行う例について説明したが、ファイバー内領域3で培養を行う場合には、培養液容器1を含む流路系をファイバー外領域4へ接続し、吐出吸引手段10,11を含む流路系をファイバー内領域3へ接続すればよい。すなわち、ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域につながる、所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段を用いて;前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域につながる、培養液容器の中の培養液を;前記吐出吸引手段の吸引作用により、前記ファイバー外領域から前記ファイバー内領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー内領域へ新鮮な培養液を供給すると共に;前記吐出吸引手段の吐出作用により、前記ファイバー内領域から前記ファイバー外領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー外領域へ古い培養液を排出するようにする。
【0047】
<第2の実施形態に係るホローファイバー型培養装置>
図2は、本発明の第2の実施形態に係る培養装置を示す概略構成図である。同図に示すように、本実施形態に係る培養装置は、第1の実施形態にかかる培養装置の構成に追加して、下記構成を有する。すなわち、前記第3の流路12に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を、前記吐出吸引手段10から前記ホローファイバー培養器2におけるファイバー外領域4の出入口の一方4aへと制御する第3の流れ方向制御手段17と、前記ホローファイバー培養器2におけるファイバー外領域4の出入口の他方4bから前記吐出吸引手段10へと制御する第4の流れ方向制御手段17とを有し、前記第3の流れ方向制御手段17と前記第4の流れ方向制御手段17とはそれぞれの制御機能を阻害しないように第3の流路12に設けられ;前記第1の流路5と前記ファイバー外領域4の出入口の他方4bとをつなぐ第4の流路15と、該第4の流路15に設けられた開閉弁18とを有する。
【0048】
さらに本実施形態では、任意のCO2インキュベータ14を有し、該CO2インキュベータ14の中に吐出吸引手段10,11以外の構成が設置されている。CO2インキュベータ14は任意に設置すればよい装置であり、設置する場合には、少なくとも、前記培養液容器1及び/又は前記培養液中ガス調整手段9,13がCO2インキュベータ14内に含まれるようにすればよい。以下、本実施形態に係るホローファイバー型培養装置の各構成要素について説明する。なお、第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0049】
第3及び第4の流れ方向制御手段17は、例えば、3方逆止弁で構成することができ、この場合について、例示的に説明する。この3方逆止弁は、例えば、流路12がファイバー外領域4の出入口4a,4bに分岐する箇所に設けられ、シリンジ10からのファイバー外領域4の出入口4aへ向かう方向に流通可能とすると共に、ファイバー外領域4の出入口4bからシリンジ10へ向う方向に流通可能とする。
【0050】
また、第3及び第4の流れ方向制御手段17は、2つの逆止弁を組み合わせて3方逆止弁の機能を持たせるようにしてもよい。この場合、第3の流れ方向制御手段と第4の流れ方向制御手段とはそれぞれの制御機能を阻害しないように第3の流路12に設ける必要がある。
【0051】
流路15は、第1の流路5とファイバー外領域4の出入口の他方4bとを接続する流路である。また、該流路15には開閉弁18が設けられている。開閉弁18としては、流路15を開閉する機能を有するものであれば特に限定されず、公知のものを適宜使用することができる。
【0052】
CO2インキュベータ14は、培養液容器1に設けられた、容器内のガス圧やガス成分の調整などのための通気孔や培養液中ガス調整手段9,13などを介して、ホローファイバー培養器2へ供給される培養液の温度、酸素濃度及びpHなどを一定に保つ機能を有する。CO2インキュベータ14としては、これらの機能を有するものであれば特に限定されず、公知のものを適宜使用することができる。
【0053】
本実施形態で追加した構成である、流路15及び第3及び第4の流れ方向制御手段17は、ホローファイバー培養器2を新しいものと交換したときのために設けられている。交換したホローファイバー培養器2は、そのファイバー内が空気で満たされ、またファイバー表面には保護剤などで保護されている。したがって、培養操作に先立ってホローファイバー培養器2を洗浄しておく必要がある。
【0054】
このホローファイバー培養器の洗浄は、例えば次のような工程で行われる。培養液容器1に洗浄用の培養液あるいは適当な洗浄液、例えばPBSを満たす。開閉弁18を開け、シリンジ10を吸引すると、培養液あるいは洗浄液は主に流れ方向制御手段7を介して流路15、第4の流れ方向に流れる。一方、シリンジ10を吐出すると、培養液あるいは洗浄液は第3の流れ方向に流れ、主にファイバー外領域4の出入口4bから流路15、ファイバー内領域3へ流れ、流れ方向制御手段8を介して培養液容器1へ排出される。ファイバー外領域4の出入口4b側が上となるように培養器2を傾斜させて、この吸引吐出を適宜繰り返すと、ホローファイバー培養器2内の空気及びファイバー表面の保護剤を除去することができる。培養前には、培養液容器1を新鮮な培養液と入れ替えて吸引吐出を行い、ホローファイバー培養器2内を新鮮な培養液に置換する。
【0055】
なお、本実施形態に係るホローファイバー型培養装置は、培養操作中は開閉弁18を閉じて使用する。すなわち、培養操作中は、第1の実施形態と同様の流動方法に従って、培養液の流動が行われる。
【実施例】
【0056】
上述する実施形態に係るホローファイバー型培養装置を用い、抗体産生マウスハイブリドーマによる抗体生産を実施した。図3は実施形態に係る培養装置を用いて生産した抗体の生産量を示すグラフである。同図には、抗体回収量及び回収積算量を時間軸に沿ってプロットしてある。抗体生産の結果、回収される培養上清中の抗体濃度は115〜236μg/mLであり、1回に4.9〜9.2mg回収できた。また、40日間の培養において、血清使用量は152mLであり、合計120mgの抗体を回収できた。
【0057】
一方、同ハイブリドーマを用いたフラスコによる静置培養では、培養上清中の抗体濃度は44.6μg/mLであった。したがって、120mgの抗体を回収するためには、血清使用量269mL、150cm2のフラスコ90個、さらにはこれらのフラスコを収納する培養スペースを必要とする。
【0058】
さらに、実施形態に係るホローファイバー型培養装置を用い、マウスES細胞の巨核球への分化誘導実験を行った。図4は、実施形態に係る培養装置を用いた分化誘導の結果を示す図である。同図に示すように、分化誘導前後の細胞をホルマリン固定し、アセチルコリンエステラーゼ染色及びギムザ染色を行った。分化誘導後の細胞の回収は、シリンジ10を手動で吸引することにより、簡便に行うことができた。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態によれば、いわゆるスターリング効果を抑制又はなくしつつ、ホローファイバー培養器内の培養液を効率的に流動させることができる。この結果、血清の消費量を抑えて高濃度の抗体産生を継続することができる。
【0060】
また、マウスES細胞の分化誘導においても、必要最低限の分化誘導因子をシリンジで還流することにより、閉鎖系で簡便に分化誘導をかけることができる。さらに、シリンジをシリンジポンプから取り外すことにより、容易にクリーンベンチに持ち運ぶことができるので、浮遊する細胞を無菌的かつ簡便に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るホローファイバー型培養装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るホローファイバー型培養装置を示す概略構成図である。
【図3】実施形態に係る培養装置を用いて生産した抗体の生産量を示すグラフである。
【図4】実施形態に係る培養装置を用いた分化誘導の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 培養液瓶
2 ホローファイバー培養器
3 ファイバー内領域
3a ファイバー内領域の入口
3b ファイバー内領域の出口
4 ファイバー外領域
4a,4b ファイバー外領域の出入口
5 流路(培養液瓶から培養器へ)
6 流路(培養器から培養液瓶へ)
7 逆止弁(入口側)
8 逆止弁(出口側)
9 ガス調整ループ(ファイバー内流路)
10 シリンジポンプ
11 シリンジ
12 流路(シリンジから培養器へ)
13 ガス調整ループ(ファイバー外流路)
14 CO2インキュベータ
15 流路(ファイバー内領域とファイバー外領域とをつなぐ)
16 流路
17 3方逆止弁
18 開閉弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液容器(1)と、ホローファイバー培養器(2)と、
前記培養液容器と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域(3)の入口(3a)とをつなぐ第1の流路(5)と、該第1の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記培養液容器から前記ホローファイバー培養器へと制御する第1の流れ方向制御手段(7)と、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出口(3b)と前記培養液容器又は廃棄容器とをつなぐ第2の流路(6)と、該第2の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記ホローファイバー培養器から前記培養液容器又は廃棄容器へと制御する第2の流れ方向制御手段(8)と、
所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段(10)と、
前記吐出吸引手段と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域(4)の出入口(4a,4b)とをつなぐ第3の流路(12)とを有する、
ホローファイバー型培養装置。
【請求項2】
培養液容器と、ホローファイバー培養器と、
前記培養液容器と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の入口とをつなぐ第1の流路と、該第1の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記培養液容器から前記ホローファイバー培養器へと制御する第1の流れ方向制御手段と、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の出口と前記培養液容器又は廃棄容器とをつなぐ第2の流路と、該第2の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を前記ホローファイバー培養器から前記培養液容器又は廃棄容器へと制御する第2の流れ方向制御手段と、
所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段と、
前記吐出吸引手段と前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出入口とをつなぐ第3の流路とを有する、
ホローファイバー型培養装置。
【請求項3】
前記第1から第3の流路の少なくとも1つに、培養液中のガス成分を調整する培養液中ガス調整手段(9,13)を有する、請求項1又は2に記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項4】
前記第3の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を、前記吐出吸引手段から前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の出入口の一方(4a)へと制御する第3の流れ方向制御手段(17)と、前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域の出入口の他方(4b)から前記吐出吸引手段へと制御する第4の流れ方向制御手段(17)とを有し、前記第3の流れ方向制御手段と前記第4の流れ方向制御手段とはそれぞれの制御機能を阻害しないように第3の流路に設けられ、
前記第1の流路と前記ファイバー外領域の出入口の他方(4b)とをつなぐ第4の流路(15)と、該第4の流路に設けられた開閉弁(18)とを有する、
請求項1に記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項5】
前記第3の流路に設けられ、該流路内を流れる流体の流動方向を、前記吐出吸引手段から前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出入口の一方へと制御する第3の流れ方向制御手段と、前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域の出入口の他方から前記吐出吸引手段へと制御する第4の流れ方向制御手段とを有し、前記第3の流れ方向制御手段と前記第4の流れ方向制御手段とはそれぞれの制御機能を阻害しないように第3の流路に設けられ、
前記第1の流路と前記ファイバー内領域の出入口の他方とをつなぐ第4の流路と、該第4の流路に設けられた開閉弁とを有する、
請求項2に記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項6】
前記培養液中ガス調整手段は前記流路の一部を構成するガス透過性チューブである、請求項1ないし5のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項7】
前記流れ方向制御手段は逆止弁である、請求項1ないし6のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項8】
前記吐出吸引手段は脱着可能である、請求項1ないし7のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項9】
前記吐出吸引手段はシリンジ(10)である、請求項1ないし8のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項10】
前記吐出吸引手段はさらに前記シリンジに対して吸引吐出の駆動を繰り返し行うシリンジポンプ(11)を有する、請求項9に記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項11】
前記培養液容器及び/又は前記培養液中ガス調整手段はCO2インキュベータ(14)の中に設置される、請求項1ないし10のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項12】
前記ホローファイバー培養器は、浮遊性細胞用のホローファイバー培養器又は付着性細胞用のホローファイバー培養器である、請求項1ないし11のいずれかに記載するホローファイバー型培養装置。
【請求項13】
ホローファイバー培養器(2)におけるファイバー外領域(4)につながる、所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段(10)を用いて、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域(3)につながる、培養液容器(1)の中の培養液を、
前記吐出吸引手段の吸引作用により、前記ファイバー内領域から前記ファイバー外領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー外領域へ新鮮な培養液を供給すると共に、
前記吐出吸引手段の吐出作用により、前記ファイバー外領域から前記ファイバー内領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー内領域へ古い培養液を排出する、
ホローファイバー培養器を用いた培養方法。
【請求項14】
ホローファイバー培養器におけるファイバー内領域につながる、所定容量の流体を吐出又は吸引する吐出吸引手段を用いて、
前記ホローファイバー培養器におけるファイバー外領域につながる、培養液容器の中の培養液を、
前記吐出吸引手段の吸引作用により、前記ファイバー外領域から前記ファイバー内領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー内領域へ新鮮な培養液を供給すると共に、
前記吐出吸引手段の吐出作用により、前記ファイバー内領域から前記ファイバー外領域へ培養液を浸透させて、前記ファイバー外領域へ古い培養液を排出する、
ホローファイバー培養器を用いた培養方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−222063(P2007−222063A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46247(P2006−46247)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(593062407)株式会社サイメディア (5)
【Fターム(参考)】