説明

基体とその製造方法

【課題】特殊な光源や光学系を用いることなく、容易に認識できるパターンが形成された基体とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基体10の表面に凹凸パターン5が形成される。この凹凸パターン5は、一方の側面に深さ方向に溝幅が変調された凹凸形状3を有する。深さ方向に溝幅が変調された凹凸パターン16を有する金型15を用いて、ナノインプリント法により押圧した後、斜め方向に剥離して作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノインプリントにより表面にパターンが形成された基体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやパーソナルコンピュータの記憶媒体としてカード状等の小型で薄型の補助記憶装置が種々使用されている。このような補助記憶装置に代表される電子機器(例えばメモリカード等)は比較的小さくて高価な製品であり、その偽造品が大量に市場に出回ることが問題となっている。これら電子機器の製造元の真贋判定方法として、パッケージにホログラムシールを貼付する等の方法が取られている。
しかしながら、ホログラムシールは比較的簡単に模造することが可能で、そのため模造製品が製造され易い。模造製品が大量に生産されると、消費者は偽造製品を正規品と誤認して購入してしまう。このため正規品の信頼性が保たれず、正規品の市場利益も確保されなくなってしまう。また本来の製造元が多大な損害を受けるという問題がある。
そのため、製品本体に直接記録され、簡単に真贋判定でき、かつ容易に複製されない方法で製品を保護することが要求されている。
【0003】
真贋判定方法としては、例えば偽造防止用のシートとして、紙やプラスチックからなるシート内に、表面に凹凸のパターンを有する光透過性ファイバーを混入する構造が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−309182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1において提案されている偽造防止シートは、光透過性ファイバーに光を入射して偽造防止用のパターンを浮かび上がらせるものである。このため、パターンを認識するためには、光透過性ファイバーに光を導入する特殊な光源や、或いは光結合用の光学系が別途必要となる。したがってこの場合、真贋判定は特定の使用者に限られる。
一般の使用者が特定な装置等を必要としないで真贋を容易に判定でき、かつ容易に複製されない技術が求められている。
【0005】
以上の問題に鑑みて、本発明は、特殊な光源や光学系を用いることなく、容易に認識できるパターンが形成された基体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明による基体は、表面に凹凸パターンが形成され、この凹凸パターンは、一方の側面に深さ方向に溝幅が変調された凹凸形状を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明による基体の製造方法は、深さ方向に溝幅が変調された凹凸パターンを有する金型を用いて、ナノインプリント法により、基体に凹凸パターンを転写することを特徴とする。
【0008】
また、本発明による基体は、基体の第1の面に、深さが変調された凹凸パターンを有する金型を用いてナノインプリント法により凹凸パターンが転写され、基体の第1の面とは反対側の第2の面に、基体の第1の面の凹凸パターンに対応する凹凸パターンが形成されて成ることを特徴とする。
【0009】
本発明による基体の製造方法は、深さが変調された凹凸パターンを有する金型を用いて、基体の第1の面側からナノインプリント法により前記凹凸パターンを転写し、基体の第1の面とは反対側の第2の面に、前記凹凸パターンに対応する凹凸パターンを形成することを特徴とする。
【0010】
本発明による基体は、表面に、結晶状態の変化による相変化パターンが、ナノインプリント法により形成されて成ることを特徴とする。
【0011】
本発明による基体の製造方法は、凹凸パターンを有する金型を、基体の表面に接触させ、基体と金型との接触部位を加熱した後冷却することにより、基体の表面に結晶状態の変化による相変化パターンを形成することを特徴とする。
【0012】
上述したように本発明による基体は、基体の表面に凹凸パターンが形成され、この凹凸パターンは、一方の側面に深さ方向に溝幅が変調された凹凸形状を有する。すなわち、他方の側面には凹凸形状が形成されない構成とする。
このような基体は、深さ方向に溝幅が変調された凹凸パターンを有する金型を用いて、ナノインプリント法により、基体に凹凸パターンを転写する本発明の基体の製造方法により、容易に製造することが可能である。金型を剥離する際に、一方の側面のみに凹凸形状が形成されるように、凹凸形状が崩れない方向、例えば金型を基体の表面に略平行に移動した後、基体表面の垂線方向又は傾斜する方向に移動して金型を基体から剥離することによって製造できる。
【0013】
深さ方向に溝幅が変調されたいわば3次元凹凸パターンとすることで、形状を複製することが難しく、偽造しにくい。またこの凹凸パターンは構造色による彩色が可能であるとともに、太陽光や白熱灯などの一般的な光源を用いて実像を浮かび上がらせることができ、一般の使用者が目視により認識でき、真贋の判定が可能となる。
【0014】
他の本発明による基体及びその製造方法は、基体の第1の面例えば表面に、深さが変調された凹凸パターンを有する金型を用いてナノインプリント法により凹凸パターンを転写して、基体の第1の面とは反対側の第2の面、例えば裏面に、基体の表面の凹凸パターンに対応する凹凸パターンを形成する。
このような構成とする基体は、一般の照明による反射光をスクリーン等に表示することで、容易且つ鮮明にパターンを表示できる。このため、一般の使用者が容易に真贋判定できる。
またこの基体は上述したように深さが変調され、かつ凹凸が逆転したパターンであるので、形状を複製することは困難であり、偽造が難しい。
【0015】
他の本発明による基体は、結晶状態の変化による相変化パターンが、ナノインプリント法により形成されて成る。
この構成の基体は、凹凸パターンを有する金型を基体の表面に接触させ、基体と金型との接触部位を加熱した後冷却することにより製造できる。
このような構成とすることにより、一般の照明による目視が可能であり、一般の使用者が容易に真贋を判定できるパターンを有する基体を提供できる。また、ナノインプリントにより形成された相変化パターンは、反射率が変調された微細なパターンであるため、容易に複製されないので、偽造しにくい。すなわち、真贋判定の信頼性が高いという利点がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特殊な光源や光学系を用いることなく、容易に認識できるパターンが形成された基体とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0018】
(1)第1の実施の形態
先ず、本発明の第1の実施の形態として、表面に、一方の側面に深さ方向に溝幅が変調された凹凸形状を有する凹凸パターンが形成される基体とその製造方法について説明する。図1は、この実施の形態に係る基体10の概略斜視構成図である。この例においては、基体10は例えばSUS(ステンレス鋼)等の金属部1と、その表面に形成されたPET(ポリエチレンテレフタレート)などのプラスチック樹脂や印刷インク等より成る印刷部2とより構成される。そしてこの印刷部2の表面に、深さ方向に溝幅が変調されたいわば3次元凹凸形状を有する凹凸パターン5が形成される。この凹凸パターン5は、後述するように、一方の側の側面のみに凹凸形状が形成され、これとは反対側の他方の側面は垂直面又は傾斜面とされる。
この基体10の凹凸パターン5に、太陽光や白熱灯などの光源20からの光Lを照射すると、観察者の視点Eから見て、凹凸パターン5による実像Rを認識することができる。この凹凸パターン5の実像は、凹凸パターン5を深さ方向に一定の周期をもつ凹凸を有するパターンとすることで、この周期による構造色をもって彩色された像とすることができる。
【0019】
この実施の形態に係る基体10の製造方法の一例を図2A〜Dの製造工程図を参照して説明する。
先ず、図2Aに示すように、深さ方向に溝幅が変調された凹凸パターン16を有する金型15を用意する。この凹凸パターン16はナノスケール程度のパターンとする。このようなナノインプリントの金型は、例えば金型材上にフォトレジストや電子線レジストを塗布した後電子ビーム露光を行い、その後メッキや異方性エッチングを行うことで作製できる。深さ方向に溝幅が変調される凹凸パターンを作製するには、例えば定在波を利用して深さ方向に強弱をもって露光、現像することにより深さ方向の変調が可能である。また例えば有機レジストと無機レジスト等の、露光感受性又はエッチング特性の異なる複数のレジストを層状に成膜し、露光及び現像を行うことでも作製可能である。この場合、局部的に各レジストの膜厚を変えることで、深さ方向の周期が局部的に異なるパターンとして作製することも可能である。
【0020】
一方、金属部1上に印刷部2を有する基体10、もしくはプラスチック樹脂より成る基体10を用意する。
次に、基体10を加熱して印刷部2を半硬化状態とする。基体がプラスチック樹脂より成る場合は、プラスチック樹脂の少なくとも表面を半硬化状態とする。加熱条件は印刷部2又はプラスチック樹脂の材料により適宜選定すればよい。この状態で、図2Bに示すように、金型15を基体10に、ナノインプリント法により押圧して、基体10の印刷部2に凹凸パターンを転写する。
【0021】
この後、図2Cに示すように、金型15を剥離する。このとき、深さ方向に溝幅が変調された凹凸パターンを崩さないように、金型15を例えば矢印Mで示すように斜め方向に移動する。このように金型15を剥離することによって、基体10の表面には、一方の側面に深さ方向に溝幅が変調された凹凸形状3が形成され、これとは対向する側の面では、凹凸のない側面4となる。この側面4は垂直面又は傾斜面となり、図示の例では傾斜面として示す。このとき印刷部2は半硬化状態であるため凹凸形状3は崩れない。
【0022】
なお、金型15を剥離する際に、基体10の表面に対し略水平な方向に移動した後、略垂直な方向、或いは傾斜方向に移動して剥離してもよい。凹凸形状3が例えば図示の例のように三角波状パターンの場合は、そのまま斜めに移動することも可能であるが、凹凸形状の崩れを回避するためには基体10の表面に略水平な方向、すなわち横方向等に僅かに移動することが望ましい。凹凸形状3と傾斜面4との間隔dは、特に限定されるものではないが、剥離の際に凹凸形状3を崩さないように、凹凸形状3の溝深さと、金型15の凹凸パターン16の厚さ等を考慮して適切に選定する。この間隔dが大きすぎるとパターンの面積に影響するので、凹凸形状3を崩さない範囲で小さく選定することが望ましい。また移動方向は、凹凸形状3を崩さない方向であればよいので横方向に限られるものではない。
【0023】
また、このように基体10の一方の側の側面4には凹凸を転写しないので、金型15においても対応する側の凹凸パターン16の側面が垂直面や傾斜面であってもよい。
【0024】
そして、図2Dに示すように、凹凸形状3及び側面4とより成る凹凸パターン5の上に、このパターンを埋め込まないように反射膜6をスパッタ等により形成し、更にその上に光透過性の樹脂等の材料より成る保護層7を塗布等により形成する。このようにして、本発明の第1の実施の形態に係る基体10を得ることができる。
【0025】
このようにして形成された本発明の第1の実施の形態に係る基体は、深さ方向にパターンの幅を変化させ、かつ深さ方向に周期的な構造とすることにより、照明の種類によらず特定の色で彩色された実像を表示することができる。
また、深さ方向にパターンの溝幅を変化させる凹凸パターンとするので、その凹凸形状を複製することは困難となり、真贋判定の信頼性が高い。万が一複製されても、微細形状が歪むため、周期構造等が崩れてしまう。このため、構造色の色が変化するとか、或いは色が出ない等の問題が発生し、正規品と同様の像が表れない。したがって、真贋判定が容易である。
【0026】
また、図2Dに示すように、凹凸パターン5を損なわないように反射膜6を形成することで、実像の視認性が良くなる。また、凹凸パターン5を埋め込んで保護膜7を形成することで、微細な凹凸パターン5の形状が保護されると同時に複製が困難になるという利点を有する。
【0027】
(2)第2の実施の形態
次に、本発明の第2の実施の形態として、基体の第1の面、例えば表面に、深さが変調された凹凸パターンを有する金型を用いてナノインプリント法により凹凸パターンが転写され、基体の第2の面、例えば裏面に、基体の表面の凹凸パターンに対応する凹凸パターンが形成されて成る基体について説明する。
【0028】
図3は本発明の第2の実施の形態に係る基体10の概略斜視構成図である。この例においても、基体30は例えばSUS(ステンレス鋼)等の金属部31と、その表面に形成されたPET(ポリエチレンテレフタレート)などのプラスチック樹脂や印刷インク等より成る印刷部32とより構成される。そしてこの印刷部32の第1の面に、深さが変調された凹凸パターン33がナノインプリントにより形成される。そして、基体30の第2の面31Rには、凹凸パターン33に対応するパターンの、表面から盛り上がった凹凸パターン35が形成される。
【0029】
この基体30の凹凸パターン35に、太陽光や白熱灯などの光源50からの光Lを照射して、その反射光をスクリーン51に照射すると、観察者の視点Eから見て、凹凸パターン35による実像Rを認識することができる。なお、スクリーン51は特定の部材は必要ではなく、紙や幕、壁等でもよく、像を表示できる面であればよい。
【0030】
この実施の形態に係る基体30の製造方法の一例を図4A〜Dの製造工程図を参照して説明する。
先ず、図4Aに示すように、深さが変調された凹凸パターン41を有する金型40を用意する。金型40の作製方法は特に限定されず、通常のフォトレジストや電子線レジストによる露光、現像、メッキ又は異方性エッチング等により形成された金型、またはその複製金型でもよい。
一方、金属部31上に印刷部32を有する基体30、もしくはプラスチック樹脂より成る基体を用意する。
【0031】
次に、基体30を加熱して印刷部32を半硬化状態とする。基体がプラスチック樹脂より成る場合は、プラスチック樹脂の少なくとも表面を半硬化状態とする。加熱条件は印刷部32又はプラスチック樹脂の材料により適宜選定すればよい。この状態で、図4Bに示すように、基体30の第1の面すなわちこの場合印刷部32表面上に、ナノインプリント法により金型40を押圧して、基体30の印刷部32に凹凸パターンを転写する。このとき、印刷部32及び金属部31の厚さや硬さを選定することで、金型40の凹凸パターン41の形状を踏襲して金属部31と印刷部32との界面31Sに凹凸パターン34が転写され、更にその形状を踏襲して金属部31の第2の面31Rに凹凸パターン35が形成される。基体30をプラスチック樹脂より構成する場合においても、その厚さ及び硬さを適切に選定することで、同様に第2の面に凹凸パターンを転写形成することができる。
【0032】
この後、図4Cに示すように、金型40を剥離する。基体30の第1の面である印刷部32の表面には、金型40の凹凸パターン41が転写された凹凸パターン33が形成される。そして基体30の第2の面31Rには、この凹凸パターン33の形状を踏襲した凹凸パターン35が表面から盛り上がって形成される。
【0033】
そして、図4Dに示すように、基体30の金属部31側の凹凸パターン35の上に、このパターンを埋め込まないように反射膜36をスパッタ等により形成する。更にこの上に、凹凸パターン35を埋め込むように、光透過性の樹脂等の材料より成る保護層37を形成してもよい。また、印刷部32側の凹凸パターン33を埋め込むように、光透過性の樹脂等の材料より成る保護層38を塗布等により形成する。このようにして、本発明の第2の実施の形態に係る基体30を得ることができる。
【0034】
このようにして形成された本発明の第1の実施の形態に係る基体は、第2の面に転写形成された微細な凹凸パターン35が容易に複製されず、真贋判定の信頼性が高い。万が一複製しようとしても微細形状が歪み、正確に第2の面31Rからの反射により形成される像のコピーがなされない。
そして、図4Dに示すように、反射膜36を凹凸パターン35の上に形成する場合は、反射像の視認性が良くなる。また、印刷部32上に保護膜38が形成されることで、この面の微細形状が保護されると同時に複製が困難になる。
【0035】
(3)第3の実施の形態
次に、本発明の第3の実施の形態として、表面に、結晶状態の変化による相変化パターンが、ナノインプリント法により形成されて成る基体について説明する。
【0036】
図5は本発明の第3の実施の形態に係る基体60の概略斜視構成図である。この例においても、基体60はSUS(ステンレス鋼)等の金属やPC(ポリカーボネート)等の樹脂などから成る基材部61と、その表面に形成された相変化材料部62とより構成される。そしてこの相変化材料部62の表面に、結晶状態の変化による相変化パターン65がナノインプリント法により形成される。相変化材料部62の材料は、例えばGeSbTeやAgInSbTe等の相変化材料、またPETやPLA(polylactic acid又はpolylactide、ポリ乳酸)等の加熱冷却により相変化する材料であればよい。
【0037】
この基体60の相変化パターン65に、太陽光や白熱灯などの光源80からの光Lを照射すると、観察者の視点Eから見て、相変化パターン65による実像Rを認識することができる。
【0038】
この実施の形態に係る基体60の製造方法の一例を図6A〜Dの製造工程図を参照して説明する。
先ず、図6Aに示すように、高さが均一で、凸部が略平坦面とされた凹凸パターン71を有する金型70を用意する。金型70の作製方法は特に限定されず、通常のフォトレジストや電子線レジストによる露光、現像、メッキ又は異方性エッチング等により形成された金型、またはその複製金型でもよい。
一方、基材部61上に相変化材料部62を有する基体60、もしくはプラスチック樹脂より成る基体を用意する。
【0039】
次に、金型70を加熱して、図6Bに示すように、基体60の相変化材料部62の表面に接触させる。相変化材料部62の材料によって、金型70の加熱温度及び加熱時間を適宜選定する。温度及び時間を適切に選定して接触させると共に、その後の冷却時間も適宜選定することで、相変化材料部62の表面の接触領域のみを所望の結晶状態に相変化させることができる。
例えば相変化材料部62がGeSbTeより成るときは、400℃で加熱した後徐冷することで、結晶化することができる。また600℃で加熱した後急冷する場合は非晶質となる。
また、相変化材料部62をPETより構成する場合は、170℃で20秒程度加熱することで、反射率5%程度の透明な非晶質状態から白い不透明な多結晶状態に相変化させることができる。
一旦多結晶状態になると、リサイクルのように溶融温度以上の熱を加えて溶かして成形しなおさない限り非晶質状態にはできないため、改ざん防止の効果もある。
【0040】
この後、図6Cに示すように、金型70を剥離する。基体60の表面である相変化材料部62の表面には、金型70の凹凸パターン71が転写された相変化パターン65が形成される。
【0041】
そして、図6Dに示すように、基体60の相変化材料部62の相変化パターン65の上に、反射増強膜66及び光透過性の樹脂等の材料より成る保護膜67を形成してもよい。このようにして、本発明の第3の実施の形態に係る基体60を得ることができる。
【0042】
図7は、相変化材料部62として、GeSbTeを用いた場合の結晶状態及び非晶質状態における波長に対する反射率の変化を示す図である。実線aは結晶状態、実線bは非晶質状態を示す。広い波長帯域において十分な反射率差が得られることがわかる。したがって、特殊な光源を用いることなく、微細な反射率変調による相変化パターンを認識することができる。GeSbTe以外の例えばAgInSbTeにおいても同様である。
【0043】
また合金以外の相変化材料として、例えばPETの非晶質状態における反射率の波長依存性を図8に示す。図8に示すようにPETは非晶質の状態では反射率が5%程度で光透過性が高い。これに対し、加熱すると多結晶状態となり、白い不透明な状態となる。この白濁により視認性が得られる。したがって、PETを用いる場合においても、十分微細な相変化パターンを認識することが可能である。下層に彩色層を配置して非晶質状態を有色領域としてもよい。
【0044】
更に、相変化材料部を例えばPLA(ポリ乳酸)より構成する場合においても、非晶質状態では全光線透過率93%及びヘーズ(曇価)0.3%、結晶状態では全光線透過率76%、ヘーズ86%が得られる。したがって、微細な相変化パターンを認識することが可能である。
【0045】
以上述べたように、本発明の第3の実施の形態に係る基体によれば、微細な反射率変調による相変化パターンを認識することができる。この微細な相変化パターンは容易に複製することができないので、真贋判定の信頼性を高めることができる。更に、相変化パターン上に反射増強膜が形成されることで実像パターンの視認性を向上することができる。保護膜を形成する場合は、微細な相変化パターンが保護されるので、耐久性を向上させることができる。
【0046】
上述の第1〜第3の実施の形態に係る基体は、メモリースティック等の補助記憶装置に代表される種々の電子機器に適用することができる。図9〜図11に第1〜第3の実施の形態に係る基体を適用した電子機器の例の概略断面構成図を示す。
【0047】
図9においては、第1の実施の形態に係る基体を用いたメモリースティック型の電子機器100を示す。この電子機器100は、図9に示すように、外形がスティック状で内部に中空部104を有する基体101と、その中に配置される記憶素子105、外部に導出される端子部106とを有する。中空部104には保護材料等が充填されていてもよい。また記憶素子105の少なくとも一部が基体101の内面と接触する構成でもよい。図示の例においては基体101をプラスチック樹脂等より構成する場合を示すが、金属部と印刷部とより構成されていてもよい。そして基体101の一部の表面に、上述の第1の実施の形態と同様の凹凸パターン110が形成されて成る。
【0048】
このような構成とすることにより、太陽光や白熱灯などの一般的な照明光を照射することで、真贋判別用の凹凸パターン110による実像を認識することができる。
また図9においては反射膜や保護膜等を設けていないが、もちろんこれらの光機能膜が凹凸パターン110上に形成されていてもよい。反射膜を設けることにより実像の視認性を向上させることができ、また反射膜を設けることにより他の物体との接触や押圧等による凹凸パターン110の損傷を抑制ないしは回避することができる。
【0049】
図10においては、第2の実施の形態に係る基体をメモリースティック型の電子機器200を示す。この電子機器200も、図10に示すように、外形がスティック状で内部に中空部204を有する基体201と、その中に配置される記憶素子205、外部に導出される端子部206とを有する。中空部204には図9に示す例と同様に保護材料等が充填されていてもよい。またこの場合においても、記憶素子205の少なくとも一部が基体201の内面と接触する構成でもよい。図示の例においては基体201を金属部202及びプラスチック樹脂等より成る印刷部203とより構成する場合を示すが、プラスチック樹脂等により一体に構成されていてもよい。そして基体201の一部の表面に、上述の第2の実施の形態と同様の凹凸パターン210が形成されて成る。なお、この例では基体201の内側の面から金型を押圧して凹凸パターン210を形成するので、基体201はこの凹凸パターン210を形成した後成形することが難しい場合は、複数の部材を組み合わせて図示のような容器状の形状としてもよい。その場合は、平面又は曲面状の基体に凹凸パターン210を本発明製法により作製した後、各部材を組み合わせればよい。
【0050】
このような構成とすることにより、太陽光や白熱灯などの一般的な照明光を照射して、スクリーン等の外部の表示面に反射させることで、真贋判別用の凹凸パターン210による実像を認識することができる。
また図10においても反射膜や保護膜等を設けない例を示すが、もちろん同様の光機能膜が凹凸パターン210上に形成されていてもよい。反射膜を設けることによって、実像の視認性を向上させることができ、保護膜を設けることによって、凹凸パターン210の損傷を抑制ないしは回避することができる。更に、基体201の内面の凹凸パターン211、すなわち製造時に金型に押圧される側の凹凸パターン211上に、この凹凸パターン211を埋め込む保護膜が形成されていてもよい。このように内側の凹凸パターン211を埋め込む保護膜を設けることで、例えば外部からの衝撃によって記憶素子205がこの凹凸パターン211に接触、押圧することによる外側の凹凸パターン210の損傷を抑制ないしは回避することができる。
【0051】
図11においては、第3の実施の形態に係る基体をメモリースティック型の電子機器300を示す。この電子機器300も、図11に示すように、外形がスティック状で内部に中空部304を有する基体301と、その中に配置される記憶素子305、外部に導出される端子部306とを有する。中空部304には図9及び図10に示す例と同様に保護材料等が充填されていてもよい。またこの場合においても、記憶素子305の少なくとも一部が基体301の内面と接触する構成でもよい。図示の例においては基体301を金属部302及びプラスチック樹脂等より成る印刷部303とより構成する場合を示すが、プラスチック樹脂等により一体に構成されていてもよい。そして基体301の一部の表面に、上述の第3の実施の形態と同様の相変化パターン310が形成されて成る。
【0052】
このような構成とすることにより、太陽光や白熱灯などの一般的な照明光を照射して、スクリーン等の外部の表示面に反射させることで、真贋判別用の相変化パターン310による実像を認識することができる。
また図11においても反射増強膜や保護膜等を設けない例を示すが、もちろん同様の光機能膜が相変化パターン310上に形成されていてもよい。反射増強膜を設けることによって、実像の視認性を向上させることができ、保護膜を設けることによって、凹凸パターン310の損傷を抑制ないしは回避することができる。
【0053】
以上説明したように、本発明の基体によれば、従来のシール貼付等の方法による場合と比べて複製が難しく、真贋判定の信頼性を向上することができる。またその判定に際し、特殊な光源等を必要としないので、一般の使用者が容易に判定することができる。
反射膜又は反射増強膜を設けることで、パターンによる実像の視認性を向上することができる。
更に、保護膜を設ける場合は、真贋判定用のパターンの損傷を抑制ないしは回避することができ、耐久性の向上を図ることができる。
【0054】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、例えば基体の構成を上述した各実施の形態において説明した例に加えて他の層を配置するなど、本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
また、基体を適用する装置としては、上述した電子機器に限定されるものではなく、その他各種形状の補助記憶装置、更には補助記憶装置を組み込むデジタルカメラやコンピュータ等の各種の電子機器に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る基体の概略斜視構成図である。
【図2】A〜Dは本発明の第1の実施の形態に係る基体の製造方法の工程図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る基体の概略斜視構成図である。
【図4】A〜Dは本発明の第1の実施の形態に係る基体の製造方法の工程図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る基体の概略斜視構成図である。
【図6】A〜Dは本発明の第1の実施の形態に係る基体の製造方法の工程図である。
【図7】GeSbTeの結晶状態及び非結晶状態における反射率の波長依存性を示す図である。
【図8】PET(ポリエチレンテレフタレート)の非結晶状態における反射率の波長依存性を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る基体を筐体とする電子機器の概略断面構成図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る基体を筐体とする電子機器の概略断面構成図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る基体を筐体とする電子機器の概略断面構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1.金属部、2.印刷部、3.凹凸形状、4.側面、5.凹凸パターン、6.反射膜、7.保護膜、10.基体、15.金型、16.凹凸パターン、20.光源、30.基体、31.金属部、31R.第2の面、32.印刷部、33.凹凸パターン、34.凹凸パターン、35.凹凸パターン、36.反射膜、37.保護膜、38.保護膜、40.金型、41.凹凸パターン、50.光源、60.基体、61.基材部、62.相変化材料部、65.相変化パターン、66.反射増強膜、67.保護膜、70.金型、71.凹凸パターン、80.光源、100,200,300.電子機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸パターンが形成され、
前記凹凸パターンは、一方の側の側面に深さ方向に溝幅が変調された凹凸形状を有する
ことを特徴とする基体。
【請求項2】
前記凹凸パターンの前記凹凸形状を有する側とは反対側の側面が、前記基体の表面に対する傾斜面又は垂直面であることを特徴とする請求項1記載の基体。
【請求項3】
前記基体の表面に、反射膜、保護膜のうち少なくとも一方が形成されて成ることを特徴とする請求項1記載の基体。
【請求項4】
前記基体がプラスチック樹脂から成ることを特徴とする請求項1記載の基体。
【請求項5】
前記基体が、表面に印刷部を有する金属部から成り、
前記凹凸パターンが前記印刷部に形成されることを特徴とする請求項1記載の基体。
【請求項6】
前記基体の表面に形成された凹凸パターンに照明光を照射することにより前記凹凸パターンに対応するパターンが認識されることを特徴とする請求項1記載の基体。
【請求項7】
前記凹凸パターンは、深さ方向に周期的な構造とされ、構造色で彩色された実像が浮かび上がることを特徴とする請求項6記載の基体。
【請求項8】
前記凹凸パターンは、前記照明光として太陽光又は白熱灯が利用可能なパターンであることを特徴とする請求項6記載の基体。
【請求項9】
深さ方向に溝幅が変調された凹凸パターンを有する金型を用いて、ナノインプリント法により、基体に前記凹凸パターンを転写する
ことを特徴とする基体の製造方法。
【請求項10】
前記金型を前記基体に押圧した後、
前記金型を押圧して転写された凹凸パターンが崩れない方向に移動してから、前記金型を前記基体から剥離することを特徴とする請求項9記載の基体の製造方法。
【請求項11】
前記基体から前記金型を剥離する際に、前記基体の垂線に対して傾斜した方向に前記金型を移動することを特徴とする請求項10記載の基体の製造方法。
【請求項12】
基体の第1の面に、深さが変調された凹凸パターンを有する金型を用いてナノインプリント法により前記凹凸パターンが転写され、
前記基体の第1の面とは反対側の第2の面に、前記基体の表面の凹凸パターンに対応する凹凸パターンが形成されて成る
ことを特徴とする基体。
【請求項13】
前記基体の第2の面に形成される凹凸パターンは、反射像としてスクリーン上に実像を浮かび上がらせるパターンであることを特徴とする請求項12記載の基体。
【請求項14】
前記反射像は、太陽光或いは白熱灯による反射像であることを特徴とする請求項13記載の基体。
【請求項15】
前記基体の凹凸パターンが転写された前記第1の面に、保護膜が形成されて成ることを特徴とする請求項12記載の基体。
【請求項16】
前記基体の前記凹凸パターンが形成された前記第2の面に、反射膜が形成されて成ることを特徴とする請求項12記載の基体。
【請求項17】
深さが変調された凹凸パターンを有する金型を用いて、基体の第1の面側からナノインプリント法により前記凹凸パターンを転写し、
前記基体の第1の面とは反対側の第2の面に、前記凹凸パターンに対応する凹凸パターンを形成することを特徴とする基体の製造方法。
【請求項18】
表面に、結晶状態の変化による相変化パターンが、ナノインプリント法により形成されて成る
ことを特徴とする基体。
【請求項19】
前記基体がプラスチック樹脂から成ることを特徴とする請求項18記載の基体。
【請求項20】
前記基体が、表面に印刷部を有する金属から成り、
前記相変化パターンが、前記印刷部に形成されることを特徴とする請求項18記載の基体。
【請求項21】
前記基体の前記相変化パターン上に、反射増強膜、保護膜のうち少なくとも一方が形成されて成ることを特徴とする請求項18記載の基体。
【請求項22】
前記相変化パターンは、太陽光又は白熱灯により認識が可能なパターンであることを特徴とする請求項18記載の基体。
【請求項23】
凹凸パターンを有する金型を基体の表面に接触させ、
前記基体と前記金型との接触部位を加熱した後冷却することにより、前記基体の表面に結晶状態の変化による相変化パターンを形成する
ことを特徴とする基体の製造方法。
【請求項24】
前記基体をプラスチック樹脂より構成し、
前記接触部位を加熱後に急冷することにより、非結晶状態から多結晶状態に変化させて前記相変化パターンを形成することを特徴とする請求項23記載の基体の製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−101671(P2009−101671A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278216(P2007−278216)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】