説明

基材表面処理装置

【課題】各チャンバーの処理速度が異なる場合であっても、基材の片面に接触することなく処理中基材を一時的に保持することにより品質の安定した処理済基材を得ることができる基板表面処理装置を提供する。
【解決手段】基材送出リールから送出された基材の処理面に各処理を行って処理後の基材を下流側の基材巻取リールに巻き取る基材表面処理装置であって、基材の処理面に処理を行う処理チャンバーと、処理後の基材を一時的に滞留させるバッファチャンバーと、を備えており、バッファチャンバーは、固定ローラと、この固定ローラに対して接離可能に移動する余長調整ローラとを有しており、固定ローラ及び余長調整ローラは、基材の進行方向に対して傾斜して配置されており、固定ローラのローラ面と余長調整ローラのローラ面とに基材の処理面の裏面を接触させつつ、余長調整ローラを移動させることにより基材の長さに応じて基材を滞留させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送出しリールから巻取りリールに巻き取られる基材上に処理を行って基材の表面を処理する基材表面処理装置に関するものであり、特に基材表面に処理を行って太陽電池セルの製膜積層体を形成する基材表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールとして、複数枚の細長い太陽電池セルを並べて接合したスラット構造型のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。スラット型太陽電池モジュールは、製膜工程、切断工程、接合工程を経て形成されている。すなわち、製膜工程では、基材表面処理装置により、ロールに巻かれている帯状の金属材料を送り出し、この金属材料の上に太陽電池セルを構成するために必要な各種膜が積層され、ロール状の積層体(製膜体ともいう)を得る。そして、切断工程により前記ロール状に巻かれた積層体を所定長さに切断し、細長い太陽電池セルを得る。そして、接合工程により、太陽電池セルを複数枚並べて、隣り合う太陽電池セルの縁部同士を重ね合わせて電気的に接合し、1枚の太陽電池モジュールを得る。このようにして製造された太陽電池モジュールは、複数枚の太陽電池セルが電気的に直列接続された状態となり、実用的な電圧を得ることができる。
【0003】
このような太陽電池セルは、金属材料からなる基材上に、下部導電層(Ag、ZnO等)、光電変換層(アモルファスシリコン層等)及び上部導電層(ITO等)を形成する処理を行ってこれらが積層されて形成されている。この下部電極層、光電変換層、上部導電層は、基材表面処理装置の各チャンバー内でスパッタやCVD法により形成されている。具体的には、図6に示すように、基材送出リール100に巻回された基材101が複数のチャンバー102を経ることにより下部導電層、光電変換層、及び上部導電層が形成されて基材巻取リール103に巻き取られる。すなわち、チャンバー102Aでは基材101上に下部導電層が形成され、チャンバー102Bでは下部導電層上に光電変換層が形成され、チャンバー102Cでは光電変換層上に上部導電層が形成され、各層が順次積層された後、基材巻取リール103により巻き取られることにより、巻回された製膜積層体が連続的に形成される。そして、得られた製膜積層体は、上述の通り切断工程、接合工程を経ることにより、太陽電池モジュールが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−010355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の基材表面処理装置では、基材送出リール100から基材巻取リール103に巻き取られることにより製膜積層体が連続的に形成されるが、各チャンバー102における製膜時間(処理時間)が異なっているため、下流側の処理が未完了であれば基材101(処理中基材101)を下流側のチャンバー102に進めることができない。そこで、処理の遅いチャンバー102の直前に上流側処理の完了した基材101を溜め置くようにすると、処理中基材101上に形成された積層体に接触したり、一定以上の応力が作用した場合には、形成された積層体が損傷を受け製品の安定性に影響する。そのため、下流側処理が完了するまで上流側の処理が完了した基材101をチャンバー102内に待機させる必要がある。
【0006】
しかし、あるチャンバー102で製膜処理が完了した処理中基材101をそのチャンバー102内にそのまま保持させると、チャンバー102内に残留している製膜生成ガスにより、積層体の組成や厚みに影響する虞があり、品質が安定した製品の供給が困難になるという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題を鑑みてなされたものであり、各チャンバーの処理速度が異なる場合であっても、基材処理面に接触することなく処理中基材を一時的に保持することにより品質の安定した処理済基材を得ることができる基材表面処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の基材表面処理装置は、基材送出リールから送出された基材の処理面に各処理を行って処理後の基材を下流側の基材巻取リールに巻き取る基材表面処理装置であって、基材の処理面に処理を行う処理チャンバーと、処理後の基材を一時的に滞留させるバッファチャンバーと、を備えており、前記バッファチャンバーは、固定ローラと、この固定ローラに対して接離可能に移動する余長調整ローラとを有しており、前記固定ローラ及び前記余長調整ローラは、基材の進行方向に対して傾斜して配置されており、前記固定ローラのローラ面と前記余長調整ローラのローラ面とに基材の処理面の裏面を接触させつつ、前記余長調整ローラを移動させることにより基材の長さに応じて基材を滞留させることを特徴としている。
【0009】
上記基材表面処理装置によれば、各チャンバー処理後の処理中基材がバッファチャンバーにおける固定ローラと余長調整ローラとに架け渡され、余長調整ローラが固定ローラに対して移動可能に構成されているため、処理中基材の長さに応じて固定ローラと余長調整ローラとの距離を調節することによりバッファチャンバー内に処理中基材を一時的に保持する(滞留させる)ことができる。また、固定ローラ及び余長調整ローラは、基材の進行方向に対して傾斜して配置されていることにより、基材に捻れを生じさせることなく基材の処理面の裏面のみを接触させて基材を架け渡すことができる。すなわち、図7(a)に示すように、固定ローラ104及び余長調整ローラ105が基材101の進行方向に対して垂直になるように配置された場合には、基材101の方向転換の際、基材101の処理面101aにローラ面105aを接触せざるを得ない。これを回避するためには、図7(b)に示すように、固定ローラ104と余長調整ローラ105との間の基材101を180°捻って架け渡せばよいが、固定ローラ104と余長調整ローラ105との距離が短くなると基材101が捻れることにより基材101にかかる応力が一定以上になり基材101の処理面に損傷を与える虞がある。その点、本発明の固定ローラ及び余長調整ローラは、基材の進行方向に対して傾斜して配置されていることにより、処理中基材の方向転換が基材を捻ることなく行われ、固定ローラ及び余長調整ローラが接近しても一定以上の応力が処理中基材にかかることを抑えることができる。したがって、各チャンバーの処理速度が異なる場合であっても、基材処理面に接触することなく、かつ、一定以上の応力負荷をかけることなく、処理中基材を一時的に保持することができ、品質の安定した処理済基材を得ることができる。
【0010】
また、前記バッファチャンバーと前記処理チャンバーとは隣接されて配置されており、それぞれのチャンバーは真空環境に維持されている構成にしてもよい。
【0011】
この構成によれば、処理中基材を大気に触れさせることなく製品基材を得ることができる。
【0012】
また、前記バッファチャンバーは、基材巻取リールの直前に設けられている構成としてもよい。
【0013】
この構成によれば、処理中基材をバッファチャンバーに溜め置くことができるため、基材巻取リールを交換する際に、基材処理を中断させることなく行うことができる。
【0014】
また、前記バッファチャンバーの固定ローラと余長調整ローラには、複数の基材が架け渡されている構成にしてもよい。
【0015】
この構成によれば、各チャンバーにおいて複数の基材を一度に処理することができる。
【0016】
また、前記基材表面処理装置は、前記基材の処理面に太陽電池セルの製膜積層体を形成する場合に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の基材表面処理装置によれば、各チャンバーの処理速度が異なる場合であっても、基材処理面に接触することなく処理中基材を一時的に保持することにより品質の安定した処理済基材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態における基材表面処理装置を示す概略図である。
【図2】上記基材表面処理装置のバッファチャンバーの主要構成を示す図である。
【図3】固定ローラ又は余長調整ローラを示す図であり、(a)は、複数の基材が倣わされた状態を示す図であり、(b)は、ローラ面に形成された溝を示す図であり、(c)は、ローラ面に形成された溝にテーパーが形成された状態を示す図である。
【図4】送出ロール部又は巻取ロール部を示す図である。
【図5】基材上に下部電極層、光電変換層、上部電極層を積層させた処理中基材を示す図である。
【図6】従来の基材表面処理装置を示す図である。
【図7】固定ローラ及び余長調整ローラが基材の進行方向に対して垂直になるように配置された状態を示す図であり、(a)は、固定ローラと余長調整ローラとの間に基材を架け渡した状態を示す図であり、(b)は、固定ローラと余長調整ローラとの間の基材を180°捻って架け渡した状態を示す図である。
【図8】他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の基材表面処理装置1の実施の形態について説明する。ここで、図1は、本実施形態における基材表面処理装置1の構成を示す概略図であり、図2はバッファチャンバー40の主要構成を示す図である。なお、本実施形態では、太陽電池モジュールの製膜形成装置に適用した例として説明することとする。
【0020】
図1及び図2に示すように、基材表面処理装置1は、基材送出リール10と、基材巻取リール20と、処理チャンバー30と、バッファチャンバー40とを有しており、基材送出リール10に巻回された基材2が処理チャンバー30及びバッファチャンバー40を通過することにより基材2上に太陽電池セルを形成する表面処理が行われ(製膜処理が行われ)、基材巻取リール20に巻き取られることにより、ロール状の太陽電池セル母材が形成される。この太陽電池セル母材は、後工程である切断工程により太陽電池セルが形成され、さらに接合工程を経て太陽電池モジュールが形成される。
【0021】
なお、本実施形態では、基材送出リール10側を上流側とし、基材2が処理される後工程側、すなわち、基材巻取リール20側を下流側として説明を進めることにする。また、太陽電池セルが完全に形成される前に積層体が形成された状態の基材2を処理中基材2と呼ぶことにする。
【0022】
基材送出リール10は、基材2を下流側に供給するためのものである。基材送出リール10は、芯材である送出ロール部11を有しており、この送出ロール部11を駆動制御させることにより基材2を送り出すことができるようになっている。すなわち、図示しない制御装置により送出ロール部11の回転が制御されることにより、基材2の送出量を増加及び減少させることができる。具体的には、基材2が下流側から引張力を受けた状態で送出ロール部11を回転させることにより基材2が下流側に送り出され、適宜、送出ロール部11にブレーキをかけることにより基材2が撓むことなく送り出されるようになっている。
【0023】
送出ロール部11は、基材2が巻き付けられる胴部11aとその両端に胴部11aより大径の鍔部11bとを有しており、本実施形態では、胴部11aに複数条の基材2が所定間隔をおいて巻き付けられている(図4参照)。そして、送出ロール部11を回転させることにより、これら複数の基材2が所定間隔を保ったまま同時に下流側に供給され、下流側の処理チャンバー30によって複数の基材2が一度に処理されるようになっている。そして、送出ロール部11は、交換可能になっており、送出ロール部11を新たな送出ロール部11と交換することにより、基材2が補充されるようになっている。
【0024】
基材巻取リール20は、供給された基材2を巻き取るものである。基材巻取リール20は、基材送出リール10と同様に、芯材である巻取ロール部21を有しており、この巻取ロール部21を駆動制御させることにより基材2を巻き取ることができるようになっている。すなわち、図示しない制御装置により巻取ロール部21の回転が制御されることにより、基材2の巻取量を増加及び減少させることができる。具体的には、巻取ロール部21の回転が調節されることにより、送り出された基材2が撓むのを抑えつつ、逆に基材2が必要以上の張力がかからないように巻き取られるようになっている。
【0025】
巻取ロール部21は、送出ロール部11と同様に、基材2が巻き付けられる胴部21aとその両端に胴部21aより大径の鍔部21bとを有している。そして、胴部21aには、複数条の基材2すべてに太陽電池セルを形成する積層体が形成された状態で、送出ロール部11の配列順に巻き取られている。そして、巻取ロール部21は、交換可能になっており、胴部21aに処理中基材2が所定量巻き取られると巻取ロール部21が取り外され、新たな巻取ロール部21が基材巻取リール20に装着される。
【0026】
なお、基材送出リール10と基材巻取リール20とは、それぞれブース50内に配置されている。このブース50は、図示しない真空ポンプと接続されており、ブース50内が真空状態に保つことができる。これにより、後述の処理チャンバー30、バッファチャンバー40とともに基材送出リール10から基材巻取リール20までの製膜形成過程において基材2を真空環境下に置くことができる。
【0027】
処理チャンバー30は、基材2上に積層体(製膜体)を構成する層(膜)を形成するためのものであり、本実施形態では、3つの処理チャンバー30を備えている。太陽電池モジュールは、基材2側から下部電極層3a、光電変換層3b、上部電極層3cがこの順に積層(製膜)されている(図5参照)。そのため、処理チャンバー30は、下部電極層3aを積層させる処理チャンバー30A、光電変換層3bを積層させる処理チャンバー30B、上部電極層3cを形成させる処理チャンバー30Cを有しており、これらが上流側からこの順に配置されている。ここで、処理チャンバー30A〜30Cをそれぞれ区別なく呼ぶ場合には、単に処理チャンバー30と呼ぶこととする。
【0028】
本実施形態では、これら処理チャンバー30はCVD装置であり、真空環境に保たれたチャンバー内に特定の原料ガスが供給されることにより所定の膜が形成される。本実施形態では、下部電極層3aとしてAgとZnOが製膜され、光電変換層3bとしてアモルファスシリコンが製膜され、上部電極層3cとしてITOが製膜される。すなわち、基材送出リール10から基材2が処理チャンバー30Aに搬入されると、その基材2上にAgとZnOが製膜されることにより下部電極層3aが形成される。下部電極層3aが形成されると、処理中基材2が巻き取られることにより処理チャンバー30Bに入り、処理チャンバー30Bにおいて下部電極層3a上にアモルファスシリコンが製膜されることにより光電変換層3bが形成される。光電変換層3bが形成されると、処理中基材2が処理中基材2が巻き取られることにより処理チャンバー30Cに入り、処理チャンバー30Cにおいて光電変換層3b上にITOが製膜されることにより上部電極層3cが形成される。このように、基材送出リール10から供給された基材2が基材巻取リール20に巻き取れる過程において、基材2が各処理チャンバー30を通過することにより、基材2の一方面側に太陽電池セル(積層体)が形成される。
【0029】
バッファチャンバー40は、処理中基材2を一時的に保持する(滞留させる)ものである。本実施形態では、このバッファチャンバー40が3つ設けられており、それぞれ処理チャンバー30Aと処理チャンバー30Bとの間、処理チャンバー30Bと処理チャンバー30Cとの間、処理チャンバー30Cと基材巻取リール20との間に設けられている。ここで、バッファチャンバー40は、上流側から順にバッファチャンバー40a、バッファチャンバー40b、バッファチャンバー40cと呼び、特にバッファチャンバー40a〜40cを区別なく呼ぶ場合には、単にバッファチャンバー40と呼ぶこととする。これらのバッファチャンバー40は、各処理チャンバー30に隣接して設けられている。すなわち、バッファチャンバー40は、チャンバー本体41と処理中基材2を保持する基材保持機構42とを有しており、チャンバー本体41が真空状態に保たれていることにより、処理チャンバー30を出た処理中基材2がすぐにバッファチャンバー40のチャンバー本体41に入ることにより搬送中の処理中基材2を真空環境に保持することができる。このバッファチャンバー40は箱状のブース50であり、搬送される基材2を入れる入口43と基材2を下流側に排出する出口44とを有している。そして、チャンバー本体41は、図示しない真空ポンプに配管を通じて接続されている。したがって、真空ポンプを作動させることによりチャンバー本体41が真空状態に調節されるようになっている。本実施形態では、処理チャンバー30の真空状態とほぼ同じ真空状態に調節されている。
【0030】
また、基材保持機構42は、処理中基材2を保持しチャンバー本体41内に処理中基材2を滞留させるものである。基材保持機構42は、固定ローラ60と余長調整ローラ70とを有しており、処理中基材2がこれらに架け渡されることにより、処理中基材2をチャンバー本体41内に滞留させることができる。
【0031】
固定ローラ60は、チャンバー本体41内に固定して設けられるローラであり、処理中基材2の搬送方向を所定の方向に方向転換させるローラである。本実施形態では、チャンバー本体41の入口43付近と出口44付近とに設けられており、入口43付近の固定ローラ60によりチャンバー本体41に搬入された処理中基材2が余長調整ローラ70に方向転換され、出口44付近の固定ローラ60により余長調整ローラ70から搬送された処理中基材2が出口44方向に方向転換される。この固定ローラ60は、図2に示すように、処理中基材2の搬送方向に対して傾斜させて設けられている。具体的には、搬送方向に対して45°傾斜させて設けられており、この固定ローラ60に処理中基材2を倣わせることにより、処理中基材2は入口43から余長調整ローラ70の方向に90°方向転換され、余長調整ローラ70から出口44方向に90°方向転換される。すなわち、入口43から搬入された処理中基材2は、90°反転されつつ、固定ローラ60のローラ面に処理中基材2の裏面2a(製膜される側と反対側の面)が倣わされる。一方、余長調整ローラ70から搬送される処理中基材2は、そのまま固定ローラ60のローラ面に裏面2aが倣わされ、出口44側に方向転換される。その後、処理中基材2は90°反転されつつ、出口44に搬送させる。このように、処理中基材2の処理面に触れることなく処理中基材2をチャンバー本体41内で方向転換させることができる。そして、処理中基材2の搬送経路、すなわち、固定ローラ60と余長調整ローラ70間、及び、余長調整ローラ70間では、処理中基材2が捻れることがなく、各ローラから出た姿勢を保って搬送される。したがって、搬送中に処理中基材2が捻られて必要以上の応力を受けることにより製膜が損傷するのを防止できる。
【0032】
また、固定ローラ60のローラ面には、図3に示すように、処理中基材2を倣わせるための溝が複数形成されている。この溝は、基材2の幅寸法に応じて形成され、固定ローラ60の軸方向に等間隔で配置されている(図3(b))。本実施形態では、それぞれの溝の幅方向端部には、テーパーが設けられており、処理中基材2が溝から外れるのを抑えることができるようになっている(図3(c))。したがって、複数条の処理中基材2は、固定ローラ60のローラ面から外れることなく、所定間隔を保って搬送されるようになっている(図3(a))。
【0033】
また、ローラ径は、処理中基材2に形成された製膜に曲げ応力が作用しても性能上問題のない寸法に形成されている。したがって、固定ローラ60のローラ面に処理中基材2の裏面2aを倣わせた場合であっても、基材2上に形成済みの製膜に影響を与えることなく処理中基材2を方向転換させることができる。
【0034】
余長調整ローラ70は、チャンバー本体41内に収容される処理中基材2の量を調節するものである。本実施形態では、図1、図2に示すように、2つの余長調整ローラ70が入口43側の固定ローラ60及び出口44側の固定ローラ60それぞれに対して対になるように設けられている。ここで便宜上、入口43側の余長調整ローラ70を第1の余長調整ローラ70、出口44側の余長調整ローラ70を第2の余長調整ローラ70という。そして、これら余長調整ローラ70の高さ位置は共通になるように設けられている。これらの余長調整ローラ70は、処理中基材2の搬送方向に対して傾斜させて設けられており、本実施形態では、固定ローラ60と同様に搬送方向に対して45°傾斜させて設けられている。これにより、入口43側の固定ローラ60から搬送された処理中基材2をその処理面に触れることなく出口44側の固定ローラ60に搬送することができる。すなわち、入口43側固定ローラ60から搬送された処理中基材2は、その裏面2aが第1の余長調整ローラ70のローラ面に倣わされ、その後、処理中基材2の裏面2aが第2の余長調整ローラ70のローラ面に倣わされる。そして、第2の余長調整ローラ70から搬送された処理中基材2は、その裏面2aが出口44側の固定ローラ60に倣わされる。このようにチャンバー本体41内で固定ローラ60及び余長調整ローラ70に架け渡される間、固定ローラ60及び余長調整ローラ70のローラ面には常に処理中基材2の裏面2aが倣わされるため、バッファチャンバー40では、入口43から出口44まで処理中基材2の処理面に触れることなく処理中基材2を滞留させることができる。
【0035】
また、余長調整ローラ70は、固定ローラ60に対して接離可能に移動できるようになっている。具体的には、余長調整ローラ70は、昇降機構80に取付けられており、この昇降機構80により固定ローラ60に対して接近及び離間できるようになっている。昇降機構80は、固定ローラ60から離れる方向に延びるレール81と、このレール81に連結されるガイド82とを有しており、ガイド82にはボールネジ等の駆動装置が接続されている。したがって、駆動装置を駆動制御することにより、ガイド82がレール81に沿って移動し、任意の位置で停止できるようになっている。そして、ガイド82にはブラケット83が取付けられており、余長調整ローラ70はこのブラケット83に搬送方向に対して傾斜する姿勢で取付けられている。したがって、駆動装置を駆動制御することにより、余長調整ローラ70が固定ローラ60に対して接離自在に移動することができ、任意の位置で停止できるようになっている。
【0036】
この昇降機構80により、バッファチャンバー40内に滞留できる処理中基材2の量(長さ)を調節することができる。すなわち、余長調整ローラ70を固定ローラ60に近接する位置から離間させるように移動させると、余長調整ローラ70と固定ローラ60間が広がることにより、余長調整ローラ70と固定ローラ60間に保持できる処理中基材2の量を増加させることができる。すなわち、下流側の処理チャンバー30の処理中に上流側の処理チャンバー30の処理が終了すれば、余長調整ローラ70を固定ローラ60から離間する方向に移動させることにより、上流側の処理チャンバー30内の処理中基材2をバッファチャンバー40内に取り込んで下流側の処理チャンバー30の処理が終了するまで一時的に滞留させることができる。
【0037】
また、上流側の処理チャンバー30の処理中に下流側の処理チャンバー30の処理が終了した場合には、基材巻取リール20又は下流側のバッファチャンバー40の余長調整ローラ70を移動させることにより処理基材2を下流側に移動させつつ、上流側のバッファチャンバー40の余長調整ローラ70を固定ローラ60に接近させることにより、上流側の処理チャンバー30内の処理中基材2を搬送させることなく、下流側の処理チャンバー30に新たな処理中基材2を搬入させることができる。
【0038】
なお、余長調整ローラ70は、ローラ面、ローラ径について固定ローラ60と同様に形成されている。詳細な説明については、固定ローラ60と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0039】
次に、この基材表面処理装置1の動作について説明する。本実施形態では、処理チャンバー30Bの処理完了時間と比較して、処理チャンバー30Aの処理完了時間は短く、処理チャンバー30Cの処理完了時間は長い場合について説明する。
【0040】
まず、基材表面処理装置1に基材2がセットされる。具体的には、複数の基材2を巻回した送出ロール部11が基材送出リール10に装着され、空の巻取ロール部21が基材巻取リール20に装着される。そして、基材送出リール10の基材2を処理チャンバー30及びバッファチャンバー40に架け渡され、基材2の先端が基材巻取リール20に固定される。すなわち、バッファチャンバー40では、固定ローラ60及び余長調整ローラ70に基材2の裏面2aが当接するようにして架け渡される。
【0041】
ここで、初期状態において、下流側の処理チャンバー30の処理時間が長い場合(処理が遅い場合)には、その上流側のバッファチャンバー40の固定ローラ60と余長調整ローラ70とは接近した位置に設定される。逆に、下流側の処理チャンバー30の処理時間が短い場合(処理時間が早い場合)には、その上流側のバッファチャンバー40の固定ローラ60と余長調整ローラ70とは離間した位置に設定される。
【0042】
次に、基材2上に製膜(積層体形成)が行われる。具体的には、各処理チャンバー30、バッファチャンバー40及びブース50が真空状態に設定され、基材巻取リール20が駆動されることにより基材2が一定の速度で巻き取られる。そして、処理チャンバー30A〜30Cにおいて特定ガスが噴出されることにより、基材2上に所定の膜が形成される。すなわち、基材2が搬入された処理チャンバー30Aでは下部電極層3aが形成され、次に処理チャンバー30Bに搬入されて下部電極層3a上に光電変換層3bが形成され、次処理チャンバー30Cに搬入されて光電変換層3b上に上部電極層3cが形成され、基材2上に太陽電池セルを構成する積層体が形成される。なお、本実施形態では初期状態から各処理チャンバー30において特定ガスが噴出するが、初期状態では、処理チャンバー30B,Cは処理を停止しておき、下部電極が形成された処理中基板が搬送されたときに処理を開始するように設定されていてもよい。
【0043】
このようにして、太陽電池セルの生産が定常状態になった場合に、処理チャンバー30Aに着目すると、処理チャンバー30Aの処理時間は、処理チャンバー30Bよりも短いため、処理チャンバー30Bにおける光電変換層3bよりも処理チャンバー30Aにおける下部電極層3aが早く形成される。そのため、処理チャンバー30Aから処理チャンバー30Bに搬送する際に余長が発生するが、バッファチャンバー40aの余長調整ローラ70が固定ローラ60から離れるように移動させることによりその余長が収容され、処理チャンバー30Aによる処理が完了した処理中基材2をバッファチャンバー40a内に保持し溜め置くことができる。その際、処理中基材2の裏面2aのみに当接させて保持できるため、形成された下部電極層3aを損傷させる虞はなく、またバッファチャンバー40aは真空状態に保たれているため、下部電極が酸化等することはない。
【0044】
また、処理チャンバー30Cに着目すると、処理チャンバー30Bに比べて早く処理が終了する。そのため、基材巻取リール20により処理中基材2が巻き取られるが、処理チャンバー30Bの処理が終了していない状態で巻き取ると処理中基材2に不要な張力が負荷されるが、バッファチャンバー40bの余長調整ローラ70が固定ローラ60に接近するように移動させることにより、バッファチャンバー40bに滞留されている光電変換層3bが積層済みの処理中基材2が処理チャンバー30Cに搬入される。
【0045】
また、基材巻取リール20の巻取ロール部21に処理済基材が満量になると、巻取ロール部21が新たな巻取ロール部21に交換される。具体的には、巻取ロール部21の交換時期になると、バッファチャンバー40cの余長調整ローラ70が固定ローラ60から離間することにより、処理チャンバー30Cで処理された処理中基材2がバッファチャンバー40c内に保持される。その間、巻取ロール部21を新たな巻取ロール部21に交換されることにより、処理中基材2を真空環境下のままで交換することができる。
【0046】
このようにして、バッファチャンバー40に処理中基材2を一時的に溜め置くことができるため、処理時間の異なる処理チャンバー30に連続的に基材2が搬送される場合であっても、処理チャンバー30に基材2を溜め置くことなく基材2上に積層体(処理済基材)を形成することができる。すなわち、処理時間の異なる処理チャンバー30間にバッファチャンバー40を配置されることにより、下流側の処理チャンバー30の処理時間が長い場合には、一時的に処理中基材2を溜め置くことにより上流側処理チャンバー30の処理を継続させることができ、下流側処理チャンバー30の処理時間が短い場合には、溜め置かれた処理基材2を搬送することで下流側処理チャンバー30の処理を継続させることができる。したがって、基材2が各リール間に架け渡されて連続的に処理が行われる場合であっても、各処理チャンバー30の処理を停止させることなく処理を行うことができる。そして、バッファチャンバー40では、処理中基材2の裏面2aのみに当接させて保持できるため、形成された積層体を損傷させる虞はなく、また、基材送出リール10から基材巻取リール20まで基材2が捻れることなく処理が行われるため、処理中基材2に不要な応力を負荷することなく処理を完了させることができる。またバッファチャンバー40は真空状態に保たれているため、積層体が酸化等の化学変化を起こすのを防止することができる。すなわち、品質の安定した膜(又は処理済基材)を形成することができる。
【0047】
また、上記実施形態では、基材2が一定速度で搬送される場合について説明したが、各処理チャンバー30の処理中は停止しておき、処理チャンバー30の処理が全て終了した後、基材巻取リール20を作動させて処理中基材2を搬送されるものであってもよい。このような場合であっても品質の安定した積層体を形成することができる。すなわち、バッファチャンバー40を処理時間の異なる処理チャンバー30間に配置することにより、ある処理チャンバー30の処理が終了すれば、余長調整ローラ70を移動させることにより、基材巻取リール20を作動させることなくバッファチャンバー40に溜め置くことができる。これにより、処理が完了した処理中基材2を処理チャンバー30内に滞留させておくことにより、チャンバー内に残留している製膜生成ガスが積層体に作用し、積層体の組成や厚みに影響する虞を回避することができる。
【0048】
また、上記実施形態では、基材保持機構42の余長調整ローラ70が固定ローラ60に対して上下方向に接離可能な例について説明したが、余長調整ローラ70が固定ローラ60に対して水平方向に接離するものであってもよい。具体的には、図8に示すように、送出ロール部11および巻取ロール部21は、その回転軸が水平方向になる状態で設置され、基材2の裏面が上方を向く姿勢で搬送される。そして、バッファチャンバ40では、余長調整ローラ70が固定ローラ60に対して水平方向(紙面を貫通する方向)に接近、離間することにより処理中基材2の余長が収容され、各処理チャンバー30の処理に応じて処理中基材2の余長が調節される。この実施形態によっても、処理中基材2の裏面2aのみに当接させて保持できるため、形成された下部電極層3aを損傷させる虞はなく、また、基材送出リール10から基材巻取リール20まで基材2が捻れることなく処理が行われるため、処理中基材2に不要な応力を負荷することなく処理を完了させることができる。
【0049】
また、上記実施形態では、本発明を太陽電池モジュールの製膜形成装置に適用した例について説明したが、基材をプラズマ処理する装置に適用するものでもよい。すなわち、ロールに巻回された基材を順次処理する際に、その処理前後で基材の余長を調整する必要があるものであれば用途は特に限定しない。
【符号の説明】
【0050】
1 基材表面処理装置
2 基材
2a 裏面
10 基材送出リール
20 基材巻取リール
30 処理チャンバー
40 バッファチャンバー
60 固定ローラ
70 余長調整ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材送出リールから送出された基材の処理面に各処理を行って処理後の基材を下流側の基材巻取リールに巻き取る基材表面処理装置であって、
基材の処理面に処理を行う処理チャンバーと、
処理後の基材を一時的に滞留させるバッファチャンバーと、
を備えており、
前記バッファチャンバーは、固定ローラと、この固定ローラに対して接離可能に移動する余長調整ローラとを有しており、
前記固定ローラ及び前記余長調整ローラは、基材の進行方向に対して傾斜して配置されており、
前記固定ローラのローラ面と前記余長調整ローラのローラ面とに基材の処理面の裏面を接触させつつ、前記余長調整ローラを移動させることにより基材の長さに応じて基材を滞留させることを特徴とする基材表面処理装置。
【請求項2】
前記バッファチャンバーと前記処理チャンバーとは隣接されて配置されており、それぞれのチャンバーは真空環境に維持されていることを特徴とする請求項1に記載の基材表面処理装置。
【請求項3】
前記バッファチャンバーは、基材巻取リールの直前に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の基材表面処理装置。
【請求項4】
前記バッファチャンバーの固定ローラと余長調整ローラには、複数の基材が架け渡されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の基材表面処理装置。
【請求項5】
前記積層体は、太陽電池セルの製膜積層体あることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の基材表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−21039(P2013−21039A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151421(P2011−151421)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】