説明

基板、基板の製造方法、NDフィルタおよび光特性測定装置

【課題】使用時の熱応力に起因する割れが発生しにくい材質からなるNDフィルタ用の基板を提供することである。
【解決手段】本発明の基板10は、スピネル焼結体からなる、NDフィルタ16用の基板10である。基板10は、ヤング率が150GPa以上350GPa以下であり、基板10を構成するスピネルの焼結体の組成がMgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が20ppm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板、基板の製造方法、NDフィルタおよび光特性測定装置に関するものであり、より特定的には、NDフィルタ用の基板およびその製造方法、当該基板を用いたNDフィルタ、さらに当該NDフィルタを用いた光特性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえばブルーレイディスクを再生するための専用機器(光情報記録装置)など、青紫色半導体レーザを使用する装置には、ND(Neutral Density)フィルタと呼ばれるフィルタが用いられることがある。NDフィルタとは、レンズや反射鏡などに入力する光の量を減少する役割を有するフィルタである。NDフィルタは光情報記録装置において、たとえば半導体レーザ供給装置から出力されるレーザ光を、受光素子が受光可能な光量に減衰するために用いられる。NDフィルタは、たとえば特開平10−90114号公報(特許文献1)に開示されている。当該文献においては、レンズ評価装置中にNDフィルタが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−90114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1などの評価装置や、NDフィルタが透過する光の特性を測定する装置を構成するシステム中にNDフィルタが配置される場合、光がNDフィルタを透過する際に、NDフィルタが発熱する。特許文献1におけるNDフィルタを構成する基板はたとえばガラスなどの透明部材からなる。このためNDフィルタは、使用時に加わる熱応力により割れやすいという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものである。その目的は、ガラスからなるNDフィルタよりも、使用時の熱応力に起因する割れが発生しにくい材質からなるNDフィルタ用の基板を提供することである。また当該基板の製造方法、当該基板を用いたNDフィルタ、さらに当該NDフィルタを用いた光特性測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る基板は、スピネル焼結体からなる、NDフィルタ用の基板である。本発明の発明者は鋭意研究の結果、たとえば上述したNDフィルタに用いられる基板として、ガラスの代わりに、光学素子の分野で主に用いられるスピネルを用いることができる可能性があることを見出した。スピネルの強度などの物性値は、ガラスの強度などの物性値よりも高い。スピネルを用いて形成するNDフィルタ用の基板も、ガラスからなるNDフィルタ用の基板と同様に実用に耐えうるという可能性を見出した。たとえば、スピネル製のNDフィルタ用基板は、ガラス製のNDフィルタ用基板より高い強度(ヤング率)を示す。
【0007】
ガラスの代わりにスピネルを用いてNDフィルタ用基板を形成すれば、当該NDフィルタの使用時における、基板の熱応力に起因する割れの発生を抑制することができ、当該NDフィルタをより長寿命にすることができる。
【0008】
なお上記NDフィルタの剛性を示すヤング率が150GPa以上350GPa以下であることが好ましい。上記の範囲のヤング率を有するスピネルを用いれば、割れを抑制することが可能な強度を有する基板を、容易に加工することができる。
【0009】
上記のスピネル製の基板は、組成がMgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が20ppm以下であるスピネル焼結体であることが好ましい。上記焼結体は、厚さ1mmでの波長350nm以上450nm以下の光線による直線透過率が80%以上であることが好ましい。このようにすれば、スピネルからなる基板における光の透過率を、ガラス基板と同等にすることができる。したがって、ガラス基板よりも強度が高く、かつガラス基板と同等の光を減衰する機能を有するNDフィルタを提供することができる。
【0010】
本発明に係る基板の製造方法は、組成が、MgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が20ppm以下である、スピネル焼結体からなるNDフィルタ用の基板の製造方法である。上記基板の製造方法は、Si元素の含有量が50ppm以下であり、純度が99.5質量%以上であるスピネル粉末から成形体を形成する工程と、成形体を真空中において1500℃以上1700℃以下で焼結することにより、密度95%以上の焼結体を形成する第1の焼結工程と、焼結体を1600℃以上1800℃以下で加圧焼結する第2の焼結工程とを備える。
【0011】
上記の方法により、組成がMgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が20ppmであるスピネルの焼結体としての基板を形成することができる。当該基板は、NDフィルタ用の基板として必要な強度や光透過性を備えるものとなる。このためガラス製の基板の代わりに当該スピネル製の基板を形成することにより、ガラス基板よりも強度が高く、かつガラス基板と同等の光を減衰する機能を有するNDフィルタを提供することができる。
【0012】
上記第1の焼結工程は、圧力が50Pa以下で行ない、焼結体の中心部から焼結体の外側までの最短の厚さをD(mm)とし、1000℃から最高温度に到達するまでの昇温時間をt分とするとき、
D=a×t1/2
1≦a≦3
の関係を有することが好ましい。
【0013】
上記の条件にて第1の焼結工程の昇温をすれば、当該焼結工程の終了後に、Si元素の含有量を20ppm以下に低減することができ、その結果、ガラス基板と同等の光透過率を有するスピネル焼結体を得ることができる。したがってスピネル製の基板を用いたNDフィルタにおいて、ガラス基板製のNDフィルタと同等の光減衰機能を得ることができる。
【0014】
本発明に係るNDフィルタは、上記のスピネル製の基板と、当該基板の一方の主表面上に形成された薄膜とを備える。上記のように、スピネル製の基板を用いれば、ガラス製の基板よりも強度が高く、かつ特定波長域の光に対する透過率がガラス製の基板を用いたNDフィルタと同等であるNDフィルタを提供することができる。さらに当該NDフィルタを備える光特性測定装置を提供することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス製の基板を用いたNDフィルタよりも割れにくく、かつ同等の透過率を有するNDフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係るNDフィルタを含む、光特性測定装置の一例の態様を示す概観図である。
【図2】図1中におけるNDフィルタの態様を示す概略図である。
【図3】図2の基板の主表面上に薄膜が形成された、NDフィルタの態様を示す概略図である。
【図4】本実施の形態に係る基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4中の工程(S30)に含まれる工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1に示す、本発明に係るNDフィルタが備えられた、光情報記録装置に含まれるNDフィルタの光特性を検査する光特性測定装置は、半導体レーザ11と、反射鏡12と、ハーフミラー13と、レンズ14と、レンズ15と、NDフィルタ16と、受光素子17とを備えている。半導体レーザ11は、レーザ光を供給する装置である。反射鏡12は入射した光を反射する装置である。受光素子17は、ハーフミラー13にて反射された光を受光する装置である。
【0018】
ここで上記光特性測定装置の動作原理について説明する。半導体レーザ11から出射されたレーザ光はレンズ14でコリメートされ、ハーフミラー13で透過光と反射光との2ビームに分岐される。透過光とはハーフミラー13を透過してNDフィルタ16の方へ向かう光であり、反射光とはハーフミラー13を反射して受光素子17の方へ向かう光である。
【0019】
透過光はNDフィルタ16、レンズ15を経て、反射鏡12に集光される。反射鏡12は光ディスク等と等価であり、NDフィルタ16を調整することにより、反射鏡12において反射する光量を所望の値とすることができる。すなわちNDフィルタ16における光の透過量を減衰させることにより、反射鏡12に到達する光量を所望の値に調整することにより、反射鏡12において反射する光量を所望の値とすることができる。
【0020】
反射鏡12における反射光は上記光路を帰還し、ハーフミラー13において当該反射光の一部が透過される。透過された光は半導体レーザ11の方へ進み、半導体レーザ11に集光される。なお光出力はハーフミラー13を反射した受光素子17で観測している。
【0021】
図2を参照して、NDフィルタ16は、本実施の形態の基板10と、縁部材19とを有している。縁部材19は、基板10の主表面10aに沿った方向に関する外周部(外周の円弧)に嵌合する部材である。
【0022】
なお図2においてはNDフィルタ16(基板10)の主表面が円形となっているが、これに限らず、当該主表面はたとえば楕円形状や矩形状など、任意の形状をとりうるものである。
【0023】
本実施の形態の基板10は、スピネル焼結体からなるウェハである。基板10を構成するスピネルの組成としてはたとえばMgO・nAlが挙げられる。
【0024】
ここで本実施の形態のNDフィルタ16の作用効果について説明する。
本実施の形態のNDフィルタ16のように、スピネル焼結体からなる基板10を用いれば、ガラスからなる基板を用いたNDフィルタよりも、NDフィルタ16の使用時に基板10が発熱して熱応力が発生することに起因する基板10の割れを抑制することができる。これはスピネルの方がガラスよりも強度や剛性が高いためである。
【0025】
光特性測定装置の半導体レーザ11が放出する光は、基板10を透過することができる。これは基板10を構成するスピネル焼結体は、上記半導体レーザ11が発する光を透過することが可能であるためである。
【0026】
基板10に光が透過することにより、基板10を含むNDフィルタ16は発熱する。このため基板10には相当の応力が加わる。すなわち光特性測定装置が作動するとNDフィルタ16の基板10は発熱し、基板10には熱応力が発生する。このため基板10の割れを抑制するためには、基板10が相応の強度を有することが好ましい。
【0027】
構造体は一般に、ヤング率が高いと強度が高くなり、ヤング率が低いと強度が低くなる。したがって基板10は、上述した条件での使用に耐えうる強度を備えるために、ヤング率が150GPa以上350GPa以下であることが好ましい。基板10のヤング率が150GPa以上であれば、上記条件での使用に耐えうる強度を有するものとなる。また構造体は一般に、ヤング率が高いと硬度が高くなり、ヤング率が低いと硬度が低くなる。このためたとえば基板10のヤング率が350GPaを超えると、基板10の硬度が過剰に高くなるためにチッピングを起こす可能性が高くなる。また、基板10の硬度が過剰に高くなるために加工が困難となる。このため適切な強度を有し、かつチッピングなどの不具合を抑制する観点から基板10のヤング率は上記範囲内であることが好ましく、そのなかでも180GPa以上300GPa以下であることが最も好ましい範囲であるといえる。
【0028】
次に、基板10を構成するスピネルの焼結体については、その組成が、MgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が20ppm以下である。このスピネル焼結体は、厚さ1mmでの波長350nm以上450nm以下の可視光線による直線透過率が、好ましくは80%以上であり、より好ましくは82%以上であり、特に好ましくは84%以上であり、直線透過率が十分に高い。また、安定して高い光透過率が得られ、バラツキが小さい。さらに、厚みのある素材でも、可視光線に対して安定した高い透過率が得られる。
【0029】
スピネル焼結体には、組成が、MgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、MgO(マグネシア)とAl(アルミナ)とからなる酸化物が含まれる。多結晶体であるスピネル焼結体は、結晶型が立方晶であるため、結晶粒界での光の散乱が起こりにくく、高密度に焼結すると、良好な光透過性が得られる。1.05≦n≦1.30とすることにより、MgOの固溶量を少なくして、微視的な結晶格子のバラツキと歪みを小さくし、透光性を改善することができる。かかる観点から、1.06≦n≦1.125が好ましい。
【0030】
一般に、スピネル焼結体の光透過性を低下させる要因として、金属不純物の混入があり、金属不純物としては、Si、Ti、Na、K、Ca、Fe、Cなどが挙げられる。これらの金属不純物は、原料粉末に由来して焼結体中に混入する。これらの金属不純物のうち、Si元素の含有量を20ppm以下とすることにより、高い光透過性を安定して得ることができるようになる。かかる観点から、Si元素の含有量は、10ppm以下がより好ましく、5ppm以下が特に好ましい。Si元素の含有量をこのように制御することにより、厚さ10mm以上のスピネル焼結体においても、均一な光透過性を得ることができる。Si元素は、焼結時にスピネル粉末と反応して液相を生成する。この液相は、スピネル粉末の焼結性を早める効果があるが、この液相が粒界に残存すると、異相となり、光透過率を低下させる。
【0031】
Si元素以外の金属不純物、たとえば、Na、K、CaまたはFeなどを含め、不純物の混入により、スピネル焼結体の光透過性、そのバラツキおよび製造上の安定性が悪影響を受ける。このため、スピネル粉末におけるMgO・nAlの純度は、99.5質量%以上とし、99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上がより好ましい。
【0032】
以上に述べたスピネルの焼結体の高い透過率は、NDフィルタ16を構成する基板がガラス製である場合の透過率と同等である。このため、上記のスピネルの組成式MgO・nAlにおけるnの値を1.05≦n≦1.30とすることにより、光特性測定装置の半導体レーザ11が放出する波長の光に対して、ガラス製の基板を用いたNDフィルタと同等の光透過率を有することになる。つまり当該スピネル製の基板は、ガラス製の基板と同等の光を減衰する機能を有することができる。
【0033】
以上より、本実施の形態に係るスピネルからなる基板10を用いたNDフィルタ16は、ガラス製の基板を用いたNDフィルタよりも高い強度を有するため割れが起こりにくく、かつガラス製の基板を用いたNDフィルタと同等の光減衰機能を有することができる。したがって、スピネルからなる基板10を用いることにより、長寿命で高品質のNDフィルタを提供することができる。
【0034】
なお図2に示すNDフィルタ16の変形例として、図3に示すNDフィルタ26のように、基板10の一方の主表面10a上の少なくとも一部を覆うように薄膜18を備えていてもよい。薄膜18は基板10の一方の主表面10a上の少なくとも一部を覆うように形成された薄膜である。
【0035】
なお図3において薄膜18は、主表面10aの中央部分のみを覆うように形成されている。しかしこれは薄膜18が形成されていることをわかりやすくするためのものであり、主表面10aの全面を覆うように薄膜18が形成されていてもよい。
【0036】
基板10の主表面10aが薄膜18に覆われることにより、たとえスピネル製の基板10の、光特性測定装置中にて用いる光の波長に対する透過率が、ガラス製の基板の当該透過率と大きく異なるものであったとしても、当該透過率を調整してガラス製の基板の透過率に近づけることができる。したがって薄膜18を用いたNDフィルタ26は、NDフィルタ16よりも高精度に所望の光透過率とすることができる。
【0037】
次に本発明の基板10の製造方法について説明する。
図4を参照して、本発明のスピネル焼結体である基板10の製造方法は、高純度スピネル粉末準備工程(S10)と成形工程(S20)と、焼結工程(S30)と加工工程(S40)とを備える。
【0038】
高純度スピネル粉末工程(S10)においては、たとえばSi元素の含有量が50ppm以下、平均粒径が0.1μm以上0.3μm以下、純度が99.5質量%以上であり、組成がMgO・nAl(1.05≦n≦1.30)であるスピネル粉末を準備する。
【0039】
なお、ここで粉末粒子の粒径とは、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法を用いて測定した場合における、小粒径側から大粒径側に向けて当該粉末の体積を積算した累積体積が50%となる箇所における粉末断面の直径の値を意味する。上述した粒子径分布測定方法とは具体的には、粉末粒子に照射したレーザ光の散乱光の散乱強度分布を解析することにより、粉末粒子の直径を測定する方法である。準備したスピネル粉末中に含まれる複数の粉末粒子の粒径の平均値が、上述した平均粒径である。
【0040】
成形工程(S20)においては、工程(S10)にて準備したスピネル粉末から成形体を形成する。これは具体的には、プレス成形またはCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間等方圧加工法)により成形する。より具体的には、たとえば工程(S10)で準備したMgO・nAlの粉末を、まずプレス成形により予備成形した後、CIPを行ない、成形体を得ることが好ましい。ただしここではプレス成形とCIPとのいずれか一方のみを行なってもよいし、たとえばプレス成形を行なった後にCIPを行なうなど、両方を行なってもよい。
【0041】
ここでプレス成形においてはたとえば10MPa以上300MPa以下、特に20MPaの圧力を用いることが好ましく、CIPにおいてはたとえば160MPa以上250MPa以下、特に180MPa以上230MPa以下の圧力を用いることが好ましい。
【0042】
次に図4に示す焼結工程(S30)を実施する。焼結工程(S30)は具体的には、図5を参照して第1の焼結工程(S31)と第2の焼結工程(S32)との2段階の工程を有することが好ましい。
【0043】
第1の焼結工程(S31)においては、真空中において1500℃以上1700℃以下で成形体を焼結し、密度95%以上の焼結体を形成する。真空雰囲気で焼結することにより、不純物であるSi元素から生成した液相を真空中で蒸発させ、除去することが可能となる。かかる観点から、真空度は、50Pa以下が好ましく、20Pa以下がより好ましい。
【0044】
第1の焼結工程の条件は、Si元素の量や焼結体の厚さにより異なるが、焼結体の中心部から焼結体の外側までの最短の厚さをD(mm)とし、1000℃から最高温度に到達するまでの昇温時間をt分とするとき、
D=a×t1/2
1≦a≦3
の関係を有することが好ましい。
【0045】
このような範囲内で昇温することにより、スピネル粉末におけるSi元素の含有量が50ppm以下であるときは、第1の焼結工程の終了後に、Si元素の含有量を20ppm以下に低減することが可能であり、高い光透過率のスピネル焼結体が得られる。焼結体中のSi元素含有量を一層低減し、スピネル焼結体の光透過率を高める点で、スピネル粉末中のSi元素含有量は、30ppm以下が好ましい。スピネル粉末中のSi元素の含有量が50ppm以上の場合には、第1の焼結工程における真空雰囲気中での昇温時間をさらに長くすることにより、焼結体中のSi元素含有量を低減することは可能である。
【0046】
また、第1の焼結工程における温度は、密度95%以上の高密度焼結体を得る点で、1500℃以上が好ましい。焼結体の密度は、焼結体の光透過率を高める点で、95%以上がより好ましい。本明細書において、密度は、アルキメデス法により計算される相対密度を指す。一方、焼結温度は、真空中でのMgOの蒸発を抑え、冷却時にAlが第2相として析出するのを防止し、光透過性を高く維持する点で、1700℃以下が好ましく、1650℃以下がより好ましい。
【0047】
第1の焼結工程の終了後、第2の焼結工程(S32)において、HIP(Hot Isostatic Pressing;熱間等方加圧)などにより焼結体を1600℃以上1800℃以下で加圧焼結する。温度1600℃以上1800℃以下、圧力100MPa程度でHIPすると、組成変形と拡散機構により空孔の除去が促進されるため、さらに高密度化することができ、光透過率が一層向上する。HIPに用いるガスは、Arガス、Nガスなどの不活性ガス、Oガスまたはこれらの混合ガスが好ましく、Oガスを混合すれば、脱酸素による透光性の低下を防止することができる。
【0048】
以上により焼結がなされた焼結体に対して、図4に示すように加工工程(S40)を行なう。これは具体的には、まず上記焼結体を所望の(基板10の)厚みとなるようにダイシング加工により切断(切削加工)する。これにより、所望の厚みを有する基板10の下地が完成する。なおここで所望の厚みとは、最終的に形成したい基板10の厚みと、後工程における基板10の主表面10aの研磨しろ等を考慮した上で決定することが好ましい。
【0049】
次に、上記基板10の下地の主表面を研磨する。具体的には、上述したように最終的に形成される基板10の主表面10aを、平均粗さRaが所望の値となるように研磨する工程である。特に上述したように、NDフィルタ用の基板としての基板10は、主表面10aのRaがたとえば0.01nm以上3.0nm以下となるように研磨することが好ましい。
【0050】
基板10の主表面10aを、優れた平坦度を達成するために研磨する場合は、粗研磨と通常研磨と、ダイヤ砥粒を用いた研磨との3段階の研磨を順に行なうことが好ましい。具体的には、第1段階である粗研磨および第2段階である通常研磨において、研磨機(たとえばナノファクター社製NF−300)を用いて主表面10aを鏡面加工する。ここで粗研磨と通常研磨とでは、研磨に用いる砥粒の番手が異なる。具体的には、粗研磨においては砥粒の番手が#800〜#2000であるGC砥石を、通常研磨においては砥粒の粒径が3〜5μmであるダイヤモンド砥石を用いることが好ましい。
【0051】
次に第3段階である仕上げ加工としての研磨は、上述したようにダイヤ砥粒を用いて行なうことが好ましい。ダイヤ砥粒は硬度が非常に高く、かつ砥粒の平均粒径が0.5μm〜1.0μm程度と非常に小さいことから、高精度な鏡面加工用の砥粒として用いることに適している。当該砥粒を用いてたとえば10分間研磨加工を行なう。このようにすれば、上述した主表面10aの平均粗さRaが0.01nm以上3.0nm以下である平坦性の高い主表面10aを実現することができる。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ガラス製の基板からなるNDフィルタよりも強度が高く、かつガラス製の基板と同等の光減衰機能を有する基板からなるNDフィルタを製造する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0054】
10 基板、10a 主表面、11 半導体レーザ、12 反射鏡、13 ハーフミラー、14,15 レンズ、16,26 NDフィルタ、17 受光素子、18 薄膜、19 縁部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル焼結体からなる、NDフィルタ用の基板。
【請求項2】
ヤング率が150GPa以上350GPa以下である、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記スピネル焼結体の組成がMgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が20ppm以下である、請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
前記スピネル焼結体は、厚さ1mmでの波長350nm以上450nm以下の光線による直線透過率が80%以上である、請求項3に記載の基板。
【請求項5】
組成が、MgO・nAl (1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が20ppm以下である、スピネル焼結体からなるNDフィルタ用の基板の製造方法であって、
Si元素の含有量が50ppm以下であり、純度が99.5質量%以上であるスピネル粉末から成形体を形成する工程と、
前記成形体を真空中において1500℃以上1700℃以下で焼結することにより、密度95%以上の焼結体を形成する第1の焼結工程と、
前記焼結体を1600℃以上1800℃以下で加圧焼結する第2の焼結工程とを備える、基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1の焼結工程により形成する前記焼結体は、Si元素の含有量が20ppm以下である、請求項5に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1の焼結工程は、
圧力が50Pa以下で行ない、
前記焼結体の中心部から前記焼結体の外側までの最短の厚さをD(mm)とし、1000℃から最高温度に到達するまでの昇温時間をt分とするとき、
D=a×t1/2
1≦a≦3
の関係を有する、請求項5または6に記載の基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の基板と、
前記基板の一方の主表面上に形成された薄膜とを備える、NDフィルタ。
【請求項9】
請求項8に記載のNDフィルタを備える、光特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−17218(P2012−17218A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154941(P2010−154941)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】