説明

基板上に材料を塗布する方法および基板

【課題】熱的な溶射法により基板上に材料を塗布した導体経路を形成する方法及びその基板を提供する。
【解決手段】溶射を実施する前に、基板2の表面8が特にレーザ加工され、瘤状突起を有する表面構造を備えた非付着領域が形成される。瘤状突起を有する表面構造は、個別の瘤状の点状の突起を複数備えた構造である。これらの瘤状突起はここでは特に半球状に形成されているので、球状に湾曲した表面を形成している。この形状の表面は極度に小さい付着性と溶射された材料に対する極度に小さい濡れ性を示す。この結果、溶射工程によって明確に分離された縁部を有するパターン、特に導体経路パターンを形成することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板上に材料を塗布する方法に関するものであり、この基板は最初に材料を付着する領域と付着しない領域が形成されるように加工され、次に、この材料が溶射法によって付着領域に塗布される。さらに本発明は該材料がその表面の付着領域に溶射された基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
欧州特許EP1363811 B1 に同様な方法および同様な基板が記載されている。この基板はここでは自動車の構造部品として使用される。この溶射された基板は自動車の構造部品の必要要素である導体経路を構成する。材料、特に銅の粒子はここでは熱的な溶射法で、特にいわゆるフレーム溶射法によって塗布される。定義された導体経路パターンを実現するために、ここでは構造基板は、先ず、予定された導体経路のパターンに対応して、表面が異なった付着領域を有するように、選択的に加工される。次いで、2段階で、最初に基層が、次に基層上の付着領域に導体経路が塗布される。
【0003】
ここで、隣接する導体経路を明確に分離するためには、導体経路が鋭い輪郭で形成されており、且つ、溶射された材料がこの輪郭を超えて異常成長しないことが重要である。ここで決定的に重要なことは、材料の溶射に際して材料が表面の非付着領域に確実に付着しないこと、もしくは、付着しても容易に除去できることである。というのは、熱的な溶射で基板表面に到達する微小粒子の放射は普通の場合形成すべき導体経路パターン幅より広いからである。
【0004】
しかし、粒子の一部が予定された付着領域の外にも表面に堆積し、付着したままになり、本来予定された導体経路パターン以外に余分な塊あるいは不良箇所を形成することがあることが分かった。この不良箇所によって望ましくない電気的な接触が2つの隣接した導体経路間に形成される危険がある。
【0005】
これを避けるために部分的にマスクあるいはマスク剤が使用されるが、この手段は当然ながら高度な技術的努力を必要とし、コスト高となる。
【特許文献1】欧州特許EP1363811 B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、基板上に材料を特に熱的な溶射法で塗布することを可能とし、その際、溶射された材料の鋭い輪郭のパターンを、高い信頼性をもって形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は本発明の請求項1による基板上に材料を塗布するための方法によって解決される。これにしたがえば、材料を基板表面に塗布する前に、表面は制御された表面加工によって付着領域と非付着領域に区分され、非付着領域には瘤状の表面構造が形成される。
【発明の効果】
【0008】
調査の結果、瘤状突起表面構造によって材料は非付着領域には確実に付着しないことが分かった。ここで瘤状突起表面構造とは、個別の瘤状の点状の突起を複数備えた構造のことである。これらの瘤状突起はここでは特に半球状に形成されているので、球状に湾曲した表面を形成している。この形状の表面は極度に小さい付着性と溶射された材料に対する極度に小さい濡れ性を示す。この効果はいわゆる蓮の葉効果と同様である。すなわち、この狙いを持った表面形状により、極度に小さい濡れ性が得られるか、もしくは、衝突した個々の粒子は表面上で非常に大きな接触角を有する。この小さい付着性に基づいて表面への望ましくない材料沈着、すなわち、不良箇所や塊を避けることが出来る。この結果、次の溶射工程によって明確に分離された縁部を有するパターン、特に導体経路パターンを形成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この瘤状突起の表面構造はレーザ加工によって形成されるのが好ましい。レーザ利用によって、付着領域と非付着領域間の明確な分離が問題なく可能である。
【0010】
瘤状突起の表面構造を形成するにはパルスレーザの使用が更に好ましい。高いエネルギを有する一つのレーザパルスが表面に当たると、その度に一つの瘤が発生する。レーザパルスの高いエネルギ密度によって局部的に非常に高い熱が発生し、この熱によって、特にプラスティック基板を使用する場合には、小気泡状の瘤状突起が形成される。
【0011】
更に改良された方法によれば、瘤状突起に非加工の表面領域が接するように表面構造を形成することが出来る。調査の結果、この対策は小さい付着性という有効性にとって有利に作用することが確認された。瘤状突起は少なくとも表面の広がり方向において個別に配置される。すなわち、瘤状突起は相互に特別に定義された間隔を有する。
【0012】
非加工の表面領域の割合は約20%から60%で、特に非付着領域の全体面積の約40%とするのが目的にかなっている。
【0013】
好ましくは、瘤状突起は均一に配列される、すなわち、無秩序あるいは手当たり次第には分布されない。むしろ、瘤状突起は繰り返し性のあるパターンで対称性を持って配置される。これらはたとえば相互に定義された間隔で配置されるが、この間隔は方向によって異なるようにすることが出来る。好ましい一つの実施例では、瘤状突起は第1の方向でそれぞれが相互に接触して一つの線を形成するように接近し、このいぼ列が相互に、たとえば、瘤状突起の直径あるいは50μmまで離れている。好ましい第2の実施例では、瘤状突起は格子状に配置される。すなわち、すべての一つ一つの瘤状突起がそれぞれ四周を非処理の表面領域に取り囲まれており、一つ一つの瘤状突起が格子の格子目を形成している。この場合、瘤状突起は隣の瘤状突起と約10μm−90μmの特に均一な間隔を有する。
【0014】
さらに、瘤状突起の直径は約90μmまでであることが望ましい。同時に合目的的には瘤状突起の高さは約30μmまでであり、約5μmの領域に入っている。
【0015】
付着領域で特に良好な付着を実現するために、付着領域も表面加工されることが望ましい。非付着領域の表面とは相違して、付着領域では表面全域が加工される。表面全域の加工が付着にとって有利に作用することが確認された。特にこの付着領域の表面加工によって当初の状態に対して表面粗さが高められ、それによって溶射された粒子の表面への付着性の向上が保証された。
【0016】
これを達成するために、付着領域に複数の溝を形成するという有利な加工方法が採られる。これらの溝は長く伸びた直線状の窪みであり、これらの溝の間に高い段差が形成される。この窪みの深さは瘤状突起の高さの範囲にあることが望ましい。これらの溝は、−瘤状突起構造の形成と比較すると−、レーザが連続的に表面を照射し、瘤状突起構造の形成時よりも高いエネルギが用いられるという方法で形成される。
【0017】
有利な加工方法では、表面加工は一度の加工工程だけで付着領域も非付着領域も形成されるように制御し実行される。すなわち、レーザを使用して逐次、基板を、たとえば、直線的に加工する。この場合、レーザは付着領域と非付着領域の切換に際して異なった制御を行う。この方法によって、レーザの制御だけで複雑な導体経路あるいは導体経路パターンを形成することが可能である。
【0018】
表面加工と同時に表面の汚染物質も除去されるのが好適である。この対策によって、引き続いて行われる溶射粒子の付着にとって不利になりかねない、たとえば、油を含んだ表面付着物あるいは他の汚染物質を除去するという次の加工工程が不要となる。
【0019】
基板の表面材料としては特に熱可塑性樹脂、好ましくはポリイミドあるいはポリプロピレンが使用される。熱可塑性樹脂、特にポリイミドあるいはポリプロピレンでは、レーザ加工による瘤状突起構造の形成が問題なく可能である。さらに、これらの表面材料は特に選択された溶射金属材料、好適には銅、との関連において非常に優れた協調を示し、溶射された材料が非付着領域で表面に付着残留しない。
【0020】
本発明の課題は更に請求項16の特徴を備えた基板により解決される。方法に関して掲げた利点及び有利な加工方法は、基板に関しても当てはまる。
【0021】
本発明の実施例を図面により詳細に説明する。これらの図はいずれも模式的で、部分的に大幅に簡略化されたものである。
【実施例1】
【0022】
請求項1に関する大幅に簡略化され、模式的な図によれば、基板(2)の上に特に銅あるいは銅合金である材料(4)が熱的な溶射法で溶射される。ここでは溶射法とはドイツ工業規格DIN EN 657規格に記載され、そこで定義されている熱的な溶射法を意味する。材料(4)の溶射には特にいわゆるフレーム溶射法が使用される。ここで、単独粒子として準備された材料(4)が搬送ガスと共にフレーム溶射ノズル(6)によって基板(2)の表面(8)に向かって放射される。粒子は搬送ガス(これは普通は不活性ガスであるが)と共に放射円錐(10)を形作る。その直径すなわち幅は一般に表面(8)上に形成されるパターンより大きい。
【0023】
ここで個別のしかも鋭く分離されたパターン、特に導体経路パターンを確実に形成するためには、表面(8)は適切な前加工を行い、それによって表面の各領域が選択的に、塗布すべき所望の経路に応じて異なった付着性を有するようにしなければならない。
【0024】
ここに記載した方法によれば、表面(8)の全領域がレーザで加工される。ここで、異なった付着性を有する個々の領域が異なったレーザ加工により形成される。この異なったレーザ加工は異なった運転パラメータの選択によって実行される。たとえば、レーザの走査速度、レーザのエネルギ密度、レーザの焦点距離などである。
【実施例2】
【0025】
このように制御されたレーザ加工によって、問題なく、しかも唯1回の工程で表面(8)上に付着領域(12)と非付着領域(14)を形成することができ、相互に鋭く分離できる。これは図2で模式的に示されているが、ここでは個別の付着領域(12)が線路状に形成されている。引き続き行われる溶射によって、この付着領域(12)の上に粒子が析出し導電性の層を形成する。この導電層は隣りの導電層とは分離されている。こうして基板(2)に直接塗布され、その一部であるところの導電性の導体経路が形成される。
【0026】
基板(2)はたとえば自動車の構造部品、たとえば、ドア構成要素、ダッシュボード、天井材などである。しかし、ここに記載された方法の応用は原理的に自動車分野の構造部品用のみに、または、導体経路パターンの形成のみに適しているのではない。この方法は全く一般的に個別の、鋭く分離された溶射成形による構造体の形成に役立つものである。溶射材料としてはここでは特に金属材料、特に銅あるいは銅合金が用いられる。基板(2)は特に熱可塑性樹脂材料、好ましくはポリイミドあるいはポリプロピレンから成る。少なくとも基板(2)の表面(8)はこの材料から成る。
【0027】
特に非付着領域(14)を形成することによって、マスクあるいは他のマスク剤の使用は不要となる。
【0028】
非付着領域(14)を形成するために、表面(8)の該領域をパルスレーザで加工し、これによって、瘤状突起の表面構造が生じる。この瘤状突起の表面構造は図3あるいは図4の左半分から理解されるが、この2つの顕微鏡写真は異なった倍率で撮影されている。このパルスレーザ加工によって一つづつ個別の瘤状突起(16)、すなわち、半球状の突起が表面(8)上に生じる。高エネルギのパルスレーザ加工によって表面材料は点状に短時間強く加熱され、小気泡状の個別の瘤状突起が局所に形成される。レーザ加工のパラメータは、瘤状突起の直径が約10μmから90μmとなるように調整される。瘤状突起の高さは約5μmから30μmの間に在る。
【実施例3】
【0029】
図3の実施例では、個別の瘤状突起(16)が長手方向に直接並んでいる、すなわち、相互に接触している。
【実施例4】
【0030】
これに対して図4に示す実施例では、瘤状突起が格子状に形成されており、個々の瘤状突起はそれぞれ単独に配置されている。図3の場合の相互に接している瘤状突起(16)は、したがって瘤列を構成している。この瘤列は必ずしもまっすぐに延びている必要はなく、蛇状にあるいは曲がって延びても良い。2つの表面構造では個々の瘤状突起(16)は均一な対称的な分布をしている。図3の場合では、たとえば、隣り合う2つの瘤列の間隔はそれぞれ同じである。したがって、個々の瘤列の間は同じ間隔である。反対に図4の実施例の場合には、長手方向にも横方向にも一定の格子間隔が形成される。
【0031】
2つの場合に特に重要なことは、個別の瘤状突起(16)の間に非加工の表面領域(18)、すなわち、レーザ加工による影響を及ぼされていない領域が存在することである。この非加工の表面領域(18)は個別の瘤状突起(16)の間の領域である。図3の実施例の場合には、非加工の表面領域(18)の割合は非付着領域(14)の全面積の約40%である。すなわち、瘤状突起(16)は非加工の表面領域(18)の約60%をカバーする。格子状の瘤状突起配置を有する図4の実施例の場合には、この比率が逆転し、瘤状突起(16)は表面領域(18)の約40%をカバーする。
【0032】
図4から分かるように、付着領域(12)は非付着領域(14)にくっきりと接している。この領域(12)もレーザ加工されることが望ましい。非付着領域(14)とは異なって付着領域は全面が加工され、全面がレーザ加工による変化を受ける。この実施例では、付着領域(12)は堀あるいは溝状の連続的に引かれた直線状のパターンを有しており、その溝の間に波状の段差(22)が在る。この対策によって付着領域(12)には所定の表面粗さが形成され、材料(4)の付着領域(12)への付着を助ける。個別の溝(20)は、個別の瘤列と同様に、μm領域で相互に離間しており、相互の間隔は最大で約50μmである。溝(20)の最低点と段差(22)の最高点との高度差は同様に約10μmから約50μmの範囲に在る。溝の幅は最大で約20μmの範囲にある。
【0033】
全体として非付着領域(14)でも付着領域(12)でも微細構造を有する表面(8)を備えている。すなわち、たとえば、相互の間隔などの特徴的な寸法が<100μmであり、特に<50μmであるような微細構造を有している。この微細構造化、特に非付着領域(14)における瘤状突起の微細構造化によって、溶射された材料(4)の隣接表面領域への明確かつ鋭い分離が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】熱的な溶射法により基板上に材料を塗布するための方法を示す図である。
【図2】線路状のパターンを有する基板の平面図である。
【図3】瘤状突起表面構造を有する非付着領域の顕微鏡拡大写真である。
【図4】瘤状突起表面構造を有する非付着領域およびこの領域に接する付着 領域を含んだ表面の顕微鏡拡大写真に基づく図である。
【符号の説明】
【0035】
2:基板
4:材料
6:フレーム溶射ノズル
8:表面
10:放射円錐
12:付着領域
14:非付着領域
16:瘤状突起
18:加工しない表面領域
20:溝
22:段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(2)上に材料(4)を塗布する方法であって、最初に付着領域(12)と非付着領域(14)とが形成されるように基板(2)が加工され、次いで材料(4)が溶射法によって付着領域(12)に塗布されるようにした方法において、制御された表面加工によって基板(2)の表面(8)がその非付着領域(14)に瘤状突起の表面構造を有することを特徴とする。
【請求項2】
瘤状突起の表面構造がレーザ加工によって形成されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
レーザパルスの照射によって表面構造の個別の瘤状突起(16)が形成されるようにパルスレーザが使用されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
瘤状突起(16)に非加工表面領域(18)が接していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
非加工表面領域(18)の割合が約20%から60%であり、特に非付着領域(14)の全表面の約40%であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
瘤状突起(16)が均一な配列を形成することを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
瘤状突起(16)の直径が約10μm−90μmであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
瘤状突起(16)の高さが約30μmまでであり、特に約5μmの領域にあることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
付着領域(12)において表面(8)の全面が加工されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
付着領域(12)に溝(20)が形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
付着領域(12)と非付着領域(14)が唯1回の加工工程で形成されるように表面加工が制御、実行されることを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
表面加工時に表面(8)の汚染物質も同時に除去されることを特徴とする請求項1から11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
付着領域(12)によって区画され且つ分離された経路パターンが形成されることを特徴とする請求項1から12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
溶射された材料(4)が電気的な導体経路を形成することを特徴とする請求項1から13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
基板(2)の表面材料として熱可塑性樹脂、特にポリイミドあるいはポリプロピレンが使用されることを特徴とする請求項1から14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
その表面(8)上で付着領域(12)に溶射された材料(4)を有する基板(2)において、非付着領域(14)で表面(8)が瘤状突起の表面構造を有することを特徴とする基板。
【請求項17】
溶射された材料(4)が導体経路パターンを形成することを特徴とする請求項16記載の基板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−169791(P2007−169791A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346503(P2006−346503)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(503296984)レオニ アクチエンゲゼルシャフト (3)
【Fターム(参考)】