説明

基板処理装置及び半導体装置の製造方法

【課題】イオンビーム照射を安定的且つ継続的に稼働させることで、装置の稼働率を上昇させ、生産性の向上を図る基板処理装置を提供する。
【解決手段】イオンビームをターゲットに照射するイオン源と、該イオン源を駆動させる電源と、該電源に設けられる過電流保護部59とを有する基板処理装置であって、該過電流保護部は過電流設定値を設定可能な過電流設定値設定部62と、該過電流設定値設定部に設定された過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断する過電流値判断部63と、過電流状態が継続する許容時間を設定可能な過電流許容時間設定部64と、該過電流許容時間設定部に設定された過電流許容時間の経過を判断する過電流許容時間経過判断部65とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程の1工程である基板上へイオンビームスパッタにより成膜処理を行い、薄膜を形成する基板処理装置及び半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオンビームスパッタにより基板に薄膜を形成する基板処理装置(以下、イオンビームスパッタ装置)は、基板と電極との間にプラズマが介在する基板処理装置と比較して、高真空中での成膜が可能であり、薄膜中への不純物の捲込みが少なく、高品質の薄膜を形成できるという利点を有している。
【0003】
図5は、従来のコントローラ75と電源装置76とイオン発生源77の接続構成を示すブロック図である。
【0004】
前記電源装置76は、該電源装置76から前記イオン発生源77へ電流を出力するイオン発生用電源81と、該イオン発生用電源81から出力される電流を制御する電源制御部78と、前記イオン発生用電源81を流れる電流を検出するセンサ79と、該センサ79が過電流を検出した際に前記イオン発生用電源81を停止させる過電流保護回路80とを有している。前記イオン発生源77はフィラメント(図示せず)と電極(図示せず)を有しており、前記イオン発生用電源81は、前記イオン発生源77のフィラメントと電極との間に電位差を発生させ、アルゴンイオンのみをイオンビームとして図示しない処理室に引出すと共に、処理室の電子が図示しないイオン源室に入込むのを防止するものである。
【0005】
イオンビームを図示しないターゲットに照射することで生じるスパッタ粒子は、通常処理室内でイオンビームと直交する方向へ放出されるが、スパッタ粒子の一部はイオン源室内に逆行し、或は処理室の内壁に反射する。逆行するスパッタ粒子は、イオン源室内に飛込むと共に、前記イオン発生源77の電極へも飛込み、膜として堆積されていく。
【0006】
該膜が導電膜の場合、フィラメントと電極間でのショートの発生、及び前記イオン発生源77に堆積した膜の膜剥がれによるパーティクルを発生させる要因となるが、膜の堆積を防止することは困難である為、定期的に洗浄を行う等のメンテナンスを行い、清浄度を保っている。
【0007】
逆行したスパッタ粒子がイオン源室内に飛込み、前記イオン発生源77の電極周辺に堆積していく過程に於いて、該電極に飛込んだスパッタ粒子が高いエネルギを持っていた場合、又スパッタ粒子が電極に付着した場合、フィラメントと電極間の電位が一時的に上下し、電位差が大きくなることで過剰な電流である過電流が流れることとなる。又、電極に堆積した膜の剥がれにより発生したパーティクル粒子が飛込み、電極とアースとの間がショートした場合も同様の現象が発生する。
【0008】
上記した一時的に前記イオン発生源77に流れる過電流は、該イオン発生源77に接続された前記イオン発生用電源81に大きな負荷及びダメージを与える為、前記センサ79によって検出された電流が、予め設定された電流値以上であった場合、前記過電流保護回路80が自動的に出力電流を遮断して前記イオン発生用電源81を停止させると共に、前記電源制御部78が前記コントローラ75へ電流異常の報告を行う様になっている。
【0009】
然し乍ら、上記したスパッタ粒子及びパーティクル粒子の前記イオン発生源77の電極への飛込み現象、特にスパッタ粒子の場合には、ターゲットの種類やイオンビームの量によってスパッタ粒子の量は変化するものの、飛込み現象は常時発生している為、過電流の発生は避けられない。又、前記イオン発生源77に一時的に過電流が流れることで、前記電源装置76の前記過電流保護回路80が働いて前記イオン発生用電源81を停止させる。従って、ターゲットに対するイオンビーム照射が中断させられる頻度が高くなる為、イオンビームスパッタ装置の稼働効率を下げ、生産性を低下させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−174777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は斯かる実情に鑑み、イオンビーム照射を安定的且つ継続的に稼働させることで、装置の稼働率を上昇させ、生産性の向上を図る基板処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、イオンビームをターゲットに照射するイオン源と、該イオン源を駆動させる電源と、該電源に設けられる過電流保護部とを有する基板処理装置であって、該過電流保護部は過電流設定値を設定可能な過電流設定値設定部と、該過電流設定値設定部に設定された過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断する過電流値判断部と、過電流状態が継続する許容時間を設定可能な過電流許容時間設定部と、該過電流許容時間設定部に設定された過電流許容時間の経過を判断する過電流許容時間経過判断部とを具備する基板処理装置に係るものである。
【0013】
又本発明は、基板を処理室へ搬送する工程と、電源からイオン源へ所定の電流値で電流を供給し、該イオン源からイオンビームをターゲットに照射し、該ターゲットからスパッタされた粒子が基板へ付着する工程とを有し、前記付着工程では前記電源に設けられる過電流保護部が、前記所定の電流値が過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断し、予め設定された過電流許容時間経過後の電流値が過電流設定値以上であれば過電流維持状態であると判断し、過電流設定値未満の時間であれば過電流維持状態でないと判断し、前記電流の供給状態を維持する半導体装置の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオンビームをターゲットに照射するイオン源と、該イオン源を駆動させる電源と、該電源に設けられる過電流保護部とを有する基板処理装置であって、該過電流保護部は過電流設定値を設定可能な過電流設定値設定部と、該過電流設定値設定部に設定された過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断する過電流値判断部と、過電流状態が継続する許容時間を設定可能な過電流許容時間設定部と、該過電流許容時間設定部に設定された過電流許容時間の経過を判断する過電流許容時間経過判断部とを具備するので、前記過電流値判断部により過電流状態と判断された後に、過電流許容時間分だけ猶予時間を設けることができ、一時的な過電流状態により電源を停止させることなく安定的且つ継続的にイオンビームを前記ターゲットに照射することができる。
【0015】
又本発明によれば、基板を処理室へ搬送する工程と、電源からイオン源へ所定の電流値で電流を供給し、該イオン源からイオンビームをターゲットに照射し、該ターゲットからスパッタされた粒子が基板へ付着する工程とを有し、前記付着工程では前記電源に設けられる過電流保護部が、前記所定の電流値が過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断し、予め設定された過電流許容時間経過後の電流値が過電流設定値以上であれば過電流維持状態であると判断し、過電流設定値未満の時間であれば過電流維持状態でないと判断し、前記電流の供給状態を維持するので、過電流状態であると判断された場合に即座に電源が停止されるのを防止することができ、イオンビームを前記ターゲットに安定的且つ継続的に照射することができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に於ける基板処理装置の断面図である。
【図2】本発明に於けるコントローラと電源装置とイオン発生源との関係を示すブロック図である。
【図3】本発明に於ける過電流保護部を示すブロック図である。
【図4】本発明に於ける遅延処理を説明するフローチャートである。
【図5】従来のコントローラと電源装置とイオン発生源との関係を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0018】
先ず、図1に於いて、本発明が実施される基板処理装置の一例を説明する。
【0019】
基板処理装置の1つであるイオンビームスパッタ装置1は、処理室(スパッタリング室)2と、スパッタ用イオン供給部3、ミリング部13及び排気装置50とを具備している。
【0020】
イオンビームスパッタ装置1は、直方体の筐体形状に形成された真空容器4を備えており、該真空容器4は処理室としてのスパッタリング室5を構成している。
【0021】
前記真空容器4の1側壁(以下、正面壁とする。)には、前記スパッタリング室5に基板としてのウェーハ6を出入れする為の搬入搬出口7が開設されている。該搬入搬出口7はゲートバルブ(図示せず)によって開閉される様に構成されている。
【0022】
前記スパッタリング室5の上部には、回転軸8を介して回転可能なターゲット9が設けられ、該ターゲット9の表面、裏面は材質がそれぞれ、基板に形成される薄膜と同材質となっており、基板処理の種類に応じて、前記ターゲット9が回転され、表面、裏面が選択される様になっている。
【0023】
スパッタリング室5の下部にはウェーハチャック11が設けられ、該ウェーハチャック11はサーボモータ等によって構成された回転機構12によって回転される様に構成されている。該回転機構12の回転中心線上に、ウェーハチャック11中心、前記ターゲット9の中心が位置する様に前記ターゲット9が配置されている。
【0024】
前記スパッタリング室5の右側壁の下部には、対向したウェーハにイオンを照射することによってウェーハの表面の自然酸化膜及び/又は汚染物質を除去するイオン供給部(以下、ミリング部とする)13が水平に設置されている。
【0025】
該ミリング部13は筐体14を備えており、該筐体14は一端が閉塞した円筒形状に形成されている。又、該筐体14はイオン源室15を形成している。
【0026】
前記真空容器4の右側壁に於ける前記ミリング部13が設置された部分にはイオン照射口16が大きく開設され、前記筐体14の閉塞壁14aにはイオン種のガスとしてのアルゴンガスを前記イオン源室15内に導入する為のガス導入管17が接続されている。前記筐体14の外周にはプラズマを閉じ込める為にカスプ磁場を生成する磁石18が設置されている。
【0027】
前記閉塞壁14aにはフィラメント19が設置されており、該フィラメント19にはフィラメント加熱用のフィラメント電源20が電気的に接続されている。該フィラメント電源20には前記イオン源室15内にプラズマを形成する為のアーク電源22が接続されている。
【0028】
前記筐体14の前記イオン照射口16側の端部には、アースに接続された接地電極23と、減速電源24が接続された減速電極25と、抵抗26を介して加速電源27が接続された加速電極28とが、前記イオン照射口16側から順に並べられて縦断する様に垂直に立設されている。
【0029】
尚、前記フィラメント電源20、前記アーク電源22、前記減速電源24及び前記加速電源27は、コントローラ29によって制御される様になっている。
【0030】
前記接地電極23、前記減速電極25及び前記加速電極28は円形の平板形状に形成されており、イオンビームを透過させる透過孔31が円形の小孔形状で多数穿設されている。ここで、各電極23,25,28に於ける前記透過孔31群の開口率(開口面積/全体面積)は、全体的に均一になる様に設定されている。
【0031】
前記スパッタリング室5に於ける前記ミリング部13の前記イオン照射口16の手前には、該イオン照射口16を開閉するシャッタ機構32が設置されており、該シャッタ機構32も前記コントローラ29によって制御される様になっている。
【0032】
前記真空容器4の前記ミリング部13に対向する左側壁の上部には、前記ターゲット9にイオンを照射する前記スパッタ用イオン供給部3が水平に設置されている。
【0033】
該スパッタ用イオン供給部3はターゲット9にイオンを照射することにより、前記ターゲット9からスパッタ粒子を叩き出してウェーハ6の表面にスパッタリングする様に構成されている。
【0034】
前記スパッタ用イオン供給部3は筐体33を備えており、該筐体33は一端が閉塞した円筒形状に形成され、イオン源室34を形成している。
【0035】
前記真空容器4の左側壁には前記スパッタ用イオン供給部3と同心にイオン照射口35が大きく開設されている。筐体33の閉塞壁にはイオン種のガスとしてのアルゴンガスをイオン源室34内に導入する為のガス導入管36が接続されている。
【0036】
前記スパッタ用イオン供給部3の筐体33の外周にはプラズマを閉じ込める為にカスプ磁場を生成する磁石37が設置されている。
【0037】
前記筐体33のイオン照射口35と反対側の端部にはフィラメント38が設置されており、該フィラメント38にはフィラメント加熱用のフィラメント電源39が電気的に接続されている。該フィラメント電源39には前記イオン源室34内にプラズマを形成する為のアーク電源40が接続されている。
【0038】
前記筐体33の前記イオン照射口35側の端部には、アースに接続された接地電極42と、減速電源43が接続された減速電極44と、抵抗45を介して加速電源46が接続された加速電極47が、イオン照射口35側から順に並べられて縦断する様に垂直に立設されている。
【0039】
尚、前記フィラメント電源39、前記アーク電源40、前記減速電源43及び前記加速電源46は、前記コントローラ29によって制御される様になっている。
【0040】
該コントローラ29は主に各電源39,40,43,46の稼働状況を表示する機能と、前記フィラメント電源39、前記アーク電源40、前記減速電源43、前記加速電源46等の操作量を指令する機能と、薄膜形成に於ける一連のシーケンスを行う機能等を有している。
【0041】
前記接地電極42、前記減速電極44及び前記加速電極47は、前記接地電極23、前記減速電極25及び前記加速電極28と同様に、円形の平板形状に形成されており、イオンビームを透過させる透過孔31が円形の小孔形状で多数穿設されている。又、各電極42,44,47に於ける前記透過孔31群の開口率(開口面積/全体面積)は、全体的に均一になる様に設定されている。
【0042】
前記真空容器4の前記スパッタ用イオン供給部3が設置された左側壁の下部には排気口49が開口されている。該排気口49には排気装置50が接続され、該排気装置50は直管の配管51、該配管51に接続された排気ポンプ52を具備している。
【0043】
前記排気口49は前記ミリング部13から供給されたイオンが直接照射されない位置に配置されている。即ち、前記排気口49は、前記ミリング部13で生成されたイオンが前記イオン照射口16から前記スパッタリング室5に供給された後、左側壁若しくはウェーハ6に到達する(照射する)が、該イオンが直接照射しない様に、前記イオン照射口16と対向しない様に下部にずらされて設けられている。
【0044】
この様に前記排気ポンプ52を前記スパッタ用イオン供給部3の下方に設置することにより、該スパッタ用イオン供給部3の下方に形成されるデッドスペースを有効に活用することができる。
【0045】
以下、前記スパッタ用イオン供給部3の作用について説明する。
【0046】
スパッタリングすべきウェーハ6は予め所定の圧力に減圧されたスパッタリング室5に搬入搬出口7から搬入されて、水平姿勢の前記ウェーハチャック11上に受渡される。
【0047】
続いて、搬入搬出口7がゲートバルブ(図示せず)によって閉じられた後に、スパッタリング室5が排気ポンプ52によって真空引きされ、スパッタリング室5の圧力が1/100〜1/1000Paに減圧される。
【0048】
その後に、アルゴンガスがガス導入管17から前記イオン源室15に所定の流量(例えば、10sccm)だけ供給される。
【0049】
続いて、ウェーハチャック11が回転機構12によって回転されつつ、イオン照射口16がシャッタ機構32によって開かれて、ミリング部13からイオンビームがウェーハ6に照射され、ウェーハ6はイオンミリング加工される。
【0050】
イオンミリング加工とは、イオンビームを対象物(ウェーハ)に照射することにより、対象物を削る加工方法を言う。このイオンミリング加工により、ウェーハ6の表面の酸化膜や汚染物質が除去される。
【0051】
この際、前記ウェーハ6は回転されているので、イオンビームのウェーハ6に対する照射量は、ウェーハ6の照射面の中心と周辺部とで略同一となる。従って、ミリング部13のイオンビームによるウェーハ6に対するイオンミリング加工量は、ウェーハ6の全面に亘って均一な分布となる。
【0052】
ここで、ミリング部13の作動を説明する。
【0053】
前記フィラメント電源20がONすると、前記フィラメント19から熱電子が放出する。
【0054】
前記減速電源24及び前記加速電源27がONした後に、前記アーク電源22がONすると、前記イオン源室15内で電子が加速されて移動し、アルゴン原子に衝突して電離する。
【0055】
この現象により、該イオン源室15内でアルゴンプラズマが発生する。
【0056】
プラズマが発生すると、アルゴンイオンとアルゴン原子及び電子等の間で衝突が繰返し起こり、電離や励起や再結合等の他の現象も同時に発生する。
【0057】
前記加速電極28はプラスの電位、前記減速電極25はマイナスの電位、前記接地電極23は0Vであり、これらの電位差から生じる電界により、イオンビームが発生される。
【0058】
前記加速電極28と前記減速電極25との間の電位差により、アルゴンイオンだけが前記透過孔31群から前記スパッタリング室5に、イオンビームとして引出される。
【0059】
前記減速電極25と前記接地電極23との間の電位差は、前記スパッタリング室5内にある前記電子がイオン源室15内に入込むのを阻止する役目を果たす。
【0060】
尚、アルゴンイオンが照射されることによるチャージアップを防止する等、アルゴンイオンを電気的に中和する為に、前記接地電極23の前記スパッタリング室5側には、図示しない中和用のフィラメント(ニュートラライザ)が設置される。
【0061】
ところで、イオンの運動エネルギが大きな領域(10kV〜数MeV)では、主として入射イオンが固体内に注入する現象(イオン注入)が起こり、中程度の運動エネルギ領域では(数百eV〜数千eV)では、固体原子を飛出させるスパッタリング現象が起こり、非常に低い運動エネルギ領域(数eV〜数百eV)では、入射原子は固体内部に深く入込むことができずに、固体表面に付着・結合する現象が起こる。
【0062】
そこで、前記ミリング部13に於いては、スパッタリング現象が起こる中程度の運動エネルギ領域(数百eV〜数千eV)を使用して、アルゴンイオンのイオンビームをウェーハ6に照射することにより、ウェーハ6の表面の自然酸化膜及び汚染物質を飛出させて除去する。
【0063】
以上の前記ミリング部13によるウェーハ6の表面に対するイオンミリング加工が終了した後に、スパッタリング工程が実行される。
【0064】
前記ウェーハチャック11が前記回転機構12によって回転されつつ、前記スパッタ用イオン供給部3からアルゴンイオンのイオンビームが前記ターゲット9に照射される。
【0065】
前記イオンビームが前記ターゲット9に照射されると、該ターゲット9からスパッタ粒子(例えば、チタン分子)が飛出す。飛出したスパッタ粒子がウェーハ6の表面に蒸着し、ウェーハ6の表面には該ターゲット9の金属のスパッタリング膜が形成される。
【0066】
尚、前記スパッタ用イオン供給部3の作動は、前述した前記ミリング部13の作用と同様であるので説明を省略する。
【0067】
以上の前記スパッタ用イオン供給部3によるウェーハ6に対するスパッタリング膜の形成処理が終了すると、スパッタリング作動が停止される。その後に、前記搬入搬出口7が開放されて、前記ウェーハチャック11に保持されたウェーハ6が前記搬入搬出口7から搬出される。
【0068】
図2は、前記コントローラ29と、前記フィラメント電源39、前記アーク電源40、前記減速電源43、前記加速電源46を有する電源装置60、及びイオン発生源である前記フィラメント38、前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47及び前記ガス導入管36、前記磁石37の接続構成を示すブロック図である。尚、以下では、前記フィラメント電源39、前記アーク電源40、前記減速電源43、前記加速電源46をイオン発生用電源53と定義し、前記フィラメント38、前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47及び前記ガス導入管36、前記磁石37をイオン源であるイオン発生源54と定義して説明している。
【0069】
前記コントローラ29は、図示しないキーボード等の操作部及びモニタ等の表示部を具備し、前記操作部によって前記イオン発生用電源53のON/OFFを行うと共に、前記電源装置60から受取った前記イオン発生源54の状態を前記表示部に表示する様になっている。
【0070】
前記イオン発生用電源53、センサ55、電源制御部56、出力制御部である電流ブロック部57、過電流保護回路58は電源装置60を構成している。
【0071】
前記イオン発生用電源53は前記イオン発生源54へ電流を出力する機能を有し、前記センサ55は、前記イオン発生用電源53を流れる電流を電流モニタ値として検出する機能を有し、前記電源制御部56は基板回路や小型マイコンからなり、前記センサ55が検出した電流モニタ値を元に、予め前記コントローラ29から入力された各種設定に従って前記電流ブロック部57及び前記過電流保護回路58を制御する機能を有している。
【0072】
又、前記電流ブロック部57は、前記電源制御部56からの指示により前記イオン発生用電源53から前記イオン発生源54への電流の出力停止及び出力再開を行う機能を有し、前記過電流保護回路58は、前記センサ55により過電流が検出されると前記イオン発生用電源53を強制的に停止させる機能を有しており、前記センサ55と、前記電源制御部56と、前記電流ブロック部57と、前記過電流保護回路58とで過電流保護部59(後述)を構成している。
【0073】
次に、該過電流保護部59について、図3を参照して説明する。
【0074】
前記電源制御部56は、CPU等の主制御部61を中心として構成されており、該主制御部61には過電流設定値設定部62、過電流値判断部63、過電流許容時間設定部64、過電流許容時間経過判断部65、過電流許容回数設定部66、過電流許容回数カウント部67、過電流許容回数判断部68、リセット処理部69、記憶部71が接続され、前記過電流設定値設定部62、前記過電流許容時間設定部64、前記過電流許容回数設定部66にはオペレータによって前記コントローラ29から種々の設定がなされ、設定値は前記主制御部61に入力され、前記記憶部71に格納される。
【0075】
前記過電流設定値設定部62では、前記イオン発生用電源53を流れる電流が過剰であるか否かを決める基準である過電流設定値が設定され、前記センサ55によって検出された電流モニタ値が、前記過電流値判断部63によって過電流設定値以上であるかどうか判断される。電流モニタ値が過電流設定値以上であった場合には、前記過電流値判断部63より前記電流ブロック部57に過電流状態であることを示す信号が出力され、該電流ブロック部57は入力された信号に従って前記イオン発生用電源53からの電流を遮断し、該イオン発生用電源53からの出力が停止される様になっている。
【0076】
又、前記過電流許容時間設定部64では、前記イオン発生用電源53を流れる電流が過電流状態である場合に、前記イオン発生用電源53からの電流が前記電流ブロック部57による出力停止状態を維持する時間である過電流許容時間が設定され、遅延タイマを具備する前記過電流許容時間経過判断部65は、遅延タイマにより前記電流ブロック部57が前記イオン発生用電源53からの電流出力の停止状態が、前記過電流許容時間設定部64によって設定された過電流許容時間を経過したかどうかを判断する様になっている。
【0077】
又、前記過電流許容回数設定部66では、前記電流ブロック部57が前記イオン発生用電源53からの電流の出力を停止した状態で過電流許容時間が経過した回数を1回とカウントし、それを何回繰返すのかを示す許容カウンタ設定値が設定される。
【0078】
前記過電流許容回数カウント部67は、前記記憶部71に格納された過電流許容時間を経過した回数である積算カウンタに加算すると共に、加算した積算カウンタを前記記憶部71に格納する機能を有している。前記過電流許容回数判断部68は、前記記憶部71に格納された積算カウンタ数が0かどうかを判断すると共に、前記過電流許容回数カウント部67によって加算された積算カウンタ数が、前記過電流許容回数設定部66で設定された許容カウンタ設定値を超えたかどうかを判断する様になっている。
【0079】
又、前記リセット処理部69は、前記電流ブロック部57によって前記イオン発生用電源53からの電流が遮断された状態を解除し、該イオン発生用電源53から前記イオン発生源54への電流の出力を正常状態に復帰させるリセット処理を行い、又前記過電流許容回数カウント部67によりカウントされた積算カウンタ数をクリアする機能を有している。
【0080】
又、前記記憶部71には、前記過電流設定値設定部62、前記過電流許容時間設定部64、前記過電流許容回数設定部66で設定された各種設定が格納され、保存される様になっている。
【0081】
尚、前記過電流設定値設定部62で設定される過電流設定値、前記過電流許容時間設定部64により設定される過電流許容時間及び前記過電流許容回数設定部66により設定される許容カウンタ設定値は、前記イオン発生用電源53の許容使用を超えない範囲で設定される様になっている。
【0082】
又、前記主制御部61と、前記過電流設定値設定部62と、前記過電流値判断部63と、前記過電流許容時間設定部64と、前記過電流許容時間経過判断部65と、前記リセット処理部69と、前記記憶部71とで第1の遅延処理部を構成し、前記主制御部61と、前記過電流許容回数設定部66と、前記過電流許容回数カウント部67と、前記過電流許容回数判断部68と、前記リセット処理部69と、前記記憶部71とで第2の遅延処理部を構成している。
【0083】
ウェーハ6に対するスパッタリング膜の形成処理に於いて、前記イオン発生源54を流れる電流は、前記電源装置60内に設けられた前記センサ55により常時検出されており、検出結果が前記電源制御部56に出力されている。該電源制御部56の前記過電流値判断部63は、前記コントローラ29により予め設定された設定値に従って、前記センサ55が検出した電流モニタ値が過電流設定値よりも大きいかどうかを判断している。
【0084】
上記処理中、イオンビームを照射された前記ターゲット9から飛出したスパッタ粒子の一部が逆行し、前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47に飛込み、又スパッタ粒子が前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47に付着することで、前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47の電位が一時的に上下した場合、或は前記イオン発生源54に堆積した膜の剥がれにより発生したパーティクル粒子が前記イオン発生源54に飛込み、前記減速電極44とアースの間や前記加速電極47とアースの間がショートした場合には、前記フィラメント38と前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47の間の電位差が大きくなり、前記イオン発生源54に過剰な電流が流れる。
【0085】
膜剥がれによる過電流の発生は、前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47を洗浄することで防止できるが、スパッタ粒子の付着による過電流の発生は防止することができない。そこで本実施例では、前記センサ55による過電流の検出後、前記電源制御部56が第1の遅延処理部及び第2の遅延処理部によって遅延処理を施すことで、前記過電流保護回路58により前記イオン発生用電源53が停止される迄の間に時間の猶予を設けている。
【0086】
以下、図4のフローチャートを用い、前記電源制御部56で行われる遅延処理について説明する。
【0087】
先ず、前記コントローラ29により前記イオン発生用電源53をON状態とすることで、該イオン発生用電源53から前記電流ブロック部57を介して前記イオン発生源54へと電流が出力される。
【0088】
STEP:01 前記イオン発生用電源53から前記イオン発生源54へと出力される電流は、前記センサ55により常時検出され、検出された電流モニタ値は、前記過電流値判断部63により予め設定された過電流設定値と比較される。
【0089】
STEP:02 電流モニタ値が過電流設定値未満であった場合には、前記過電流許容回数判断部68によって積算カウンタ数が0であるかどうかが判断され、積算カウンタ数が0であれば再びSTEP:01で電流が前記センサ55により検出され、検出された電流モニタ値と過電流設定値が比較される。
【0090】
STEP:03 STEP:01で、電流モニタ値が過電流設定値よりも大きかった場合には、前記過電流値判断部63より前記主制御部61を介して前記電流ブロック部57に信号が出力され、該電流ブロック部57は信号に従って前記イオン発生用電源53から前記イオン発生源54に出力されている電流を遮断し、前記電源装置60からの出力を停止する。
【0091】
STEP:04 前記電流ブロック部57による電流の遮断後、前記過電流許容時間経過判断部65が具備する遅延タイマが作動し、前記過電流許容時間設定部64により設定された過電流許容時間を経過させる。
【0092】
STEP:05 前記電流ブロック部57により電流が遮断された状態で過電流許容時間が経過すると、前記過電流許容回数カウント部67により前記記憶部71に格納された積算カウンタに加算する。
【0093】
STEP:06 積算カウンタ加算後、前記過電流許容回数判断部68が、前記過電流許容回数カウント部67により加算された積算カウンタ数と、前記過電流許容回数設定部66により設定された許容カウンタ設定値が比較される。
【0094】
STEP:07 積算カウンタ数が許容カウンタ数未満であった場合には、前記リセット処理部69によりリセット処理が行われ、前記電流ブロック部57による前記イオン発生用電源53から前記イオン発生源54への電流の遮断状態を解消し、前記電源装置60からの電流の出力を正常状態に復帰させるリセット処理が行われる。
【0095】
STEP:08 STEP:07に於いてリセット処理が行われた後、再び電流モニタ値と過電流設定値が比較され、電流モニタ値の方が大きければ積算カウンタが加算された状態でSTEP:03〜STEP:06の処理が行われ、電流モニタ値の方が小さければ前記リセット処理部69により積算カウンタがクリア、即ち初期状態にリセットされた状態でSTEP:01〜STEP:08の処理が繰返される。
【0096】
又、STEP:06に於いて、積算カウンタ数が許容カウンタ設定値よりも大きかった場合には、前記過電流許容回数判断部68より前記主制御部61を介して前記過電流保護回路58に信号が出力され、該過電流保護回路58は信号に従って前記イオン発生用電源53をOFF状態とする。例えば、許容カウンタ設定値が2であれば、3度目の処理で前記イオン発生用電源53がOFF状態となる。
【0097】
上述の様に、第1の遅延処理部と第2の遅延処理部により、前記電源制御部56が前記イオン発生用電源53への過電流を検出してから、前記過電流保護回路58が作動して前記イオン発生用電源53を強制的に停止させる迄の間に遅延処理を行い時間の猶予を設けたことで、前記接地電極42、前記減速電極44、前記加速電極47にスパッタ粒子やパーティクル粒子が飛込んだことにより発生する一時的な過電流により、即座に前記過電流保護回路58が作動し、前記イオン発生用電源53が停止するのを防止することができると共に、前記過電流保護回路58を作動させることなく維持することができる。
【0098】
従って、前記ターゲット9へのイオンビーム照射を継続的且つ安全に稼働させることができ、前記イオンビームスパッタ装置1の生産性が低下するのを防止することができる。
【0099】
又、過電流設定値、過電流許容時間、許容カウンタ設定値は前記イオン発生用電源53の許容使用を超えない範囲で設定されるので、本実施例の遅延処理による前記イオン発生用電源53への負担の増大を防止することができる。
【0100】
更に、第1の遅延処理部と第2の遅延処理部の2つの遅延処理部を用いて遅延処理を行ったことで、細かい周期で過電流の検出が可能となり、前記電流ブロック部57による電流の出力停止状態から正常状態に復帰させる迄の時間の短縮を図ることができる。
【0101】
尚、本実施例では、第1の遅延処理部と第2の遅延処理部の両方を用いて遅延処理を行ったが、第1の遅延処理部のみを用いて遅延処理を行ってもよい。この場合、前記電源制御部56が過電流を検出し、前記電流ブロック部57が前記イオン発生用電源53から前記イオン発生源54への出力を停止した状態で過電流許容時間が経過した後、前記リセット処理部69にてリセット処理が行われ、再度電流モニタ値と過電流値設定部を比較し、電流モニタ値の方が大きかった場合に前記過電流保護回路58を作動させる様にすることで、過電流の検出から前記イオン発生用電源53の停止迄の間に時間の猶予を設けることができる。
【0102】
又、本実施例では、前記過電流保護部59を前記電源装置60の内部に設けたが、該電源装置60と前記イオン発生源54の間等、前記電源装置60とは別に設けてもよい。
【0103】
又、本実施例では、前記電源制御部56を前記電源装置60の内部に設けたが、該電源装置60の内部とは別の箇所、例えば前記コントローラ29に電源制御部56を設けてもよい。
【0104】
(付記)
又、本発明は以下の実施の態様を含む。
【0105】
(付記1)イオンビームをターゲットに照射するイオン源と、該イオン源を駆動させる電源と、該電源に設けられる過電流保護部とを有する基板処理装置であって、該過電流保護部は過電流設定値を設定可能な過電流設定値設定部と、該過電流設定値設定部に設定された過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断する過電流値判断部と、過電流状態が継続する許容時間を設定可能な過電流許容時間設定部と、該過電流許容時間設定部に設定された過電流許容時間の経過を判断する過電流許容時間経過判断部とを具備することを特徴とする基板処理装置。
【0106】
(付記2)前記過電流保護部は、前記過電流許容時間経過判断部が判断する過電流許容時間経過の許容回数を設定可能な過電流許容回数設定部と、前記過電流許容時間経過判断部が判断する過電流許容時間経過の回数をカウントする過電流許容回数カウント部と、該過電流許容回数カウント部がカウントした回数が前記過電流許容回数設定部に設定された過電流維持許容回数以上であれば前記電源を停止する過電流許容回数判断部とを更に具備する付記1の基板処理装置。
【0107】
(付記3)前記過電流値判断部は、前記過電流設定値設定部に設定された過電流設定値未満の電流値であれば前記過電流許容回数カウント部のカウント数を初期状態にリセットする付記2の基板処理装置。
【0108】
(付記4)前記過電流保護部は、前記過電流値判断部が過電流状態であると判断した際に、前記イオン源への出力を停止させる様に制御する出力制御部を更に具備し、前記過電流許容時間経過判断部が過電流許容時間が経過したと判断した後、前記過電流値判断部により過電流状態ではないと判断した場合には、前記出力制御部が前記イオン源への出力を再開する付記1の基板処理装置。
【0109】
(付記5)前記過電流保護部は、前記過電流値判断部が過電流状態であると判断した際に、前記イオン源への出力を停止させる様に制御する出力制御部を更に具備し、前記過電流許容回数カウント部によりカウントされたカウント数が、前記過電流維持許容回数で設定された過電流許容回数未満であると前記過電流許容回数判断部が判断した場合には、前記出力制御部が前記イオン源への出力を再開する付記2又は付記3の基板処理装置。
【符号の説明】
【0110】
1 イオンビームスパッタ装置
5 スパッタリング室
6 ウェーハ
9 ターゲット
13 ミリング部
53 イオン発生用電源
54 イオン発生源
56 電源制御部
57 電流ブロック部
58 過電流保護回路
59 過電流保護部
61 主制御部
62 過電流設定値設定部
63 過電流値判断部
64 過電流許容時間設定部
65 過電流許容時間経過判断部
66 過電流許容回数設定部
67 過電流許容回数カウント部
68 過電流許容回数判断部
69 リセット処理部
71 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームをターゲットに照射するイオン源と、該イオン源を駆動させる電源と、該電源に設けられる過電流保護部とを有する基板処理装置であって、該過電流保護部は過電流設定値を設定可能な過電流設定値設定部と、該過電流設定値設定部に設定された過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断する過電流値判断部と、過電流状態が継続する許容時間を設定可能な過電流許容時間設定部と、該過電流許容時間設定部に設定された過電流許容時間の経過を判断する過電流許容時間経過判断部とを具備することを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
基板を処理室へ搬送する工程と、電源からイオン源へ所定の電流値で電流を供給し、該イオン源からイオンビームをターゲットに照射し、該ターゲットからスパッタされた粒子が基板へ付着する工程とを有し、前記付着工程では前記電源に設けられる過電流保護部が、前記所定の電流値が過電流設定値以上の電流値であれば過電流状態であると判断し、予め設定された過電流許容時間経過後の電流値が過電流設定値以上であれば過電流維持状態であると判断し、過電流設定値未満の時間であれば過電流維持状態でないと判断し、前記電流の供給状態を維持することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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