説明

基準値作成装置及び基準値作成方法

【課題】外乱ノイズのある環境で、少数のデータの採取回数で基準値を作成することのできる基準値作成装置を得る。
【解決手段】更新処理部51は、採取された時系列データの同一時刻の値またはその時刻近傍の値同士を比較し、予め定められた異常と判定される側を削除し、異常と判定されない側を採用して、その時刻の基準値とする。終了判定部53によって学習の終了判定がなされると、出力部54より基準値が出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音や振動の信号をこれらの正常時の信号と比較して異常を判定する際の基準として用いる基準値の作成装置及び方法に関する。特に、外乱ノイズが存在する環境で従来より少ない学習回数で基準値を作成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の技術として、標準偏差が許容限度を超えた場合には外乱が入ったとしてそのデータを破棄するもの(例えば、特許文献1参照)、2つの集音器を設けて、一方の集音器から採取した音が周囲ノイズと判定されたとき、もう一方の集音器から採取した駆動音の音データを削除するもの(例えば、特許文献2参照)、複数回採取した音を比較し、複数回のすべてで信号音が存在する区間を信号区間とするもの(例えば、特許文献3参照)、集音信号を所定期間に渡って平均化し標準偏差値を求めるもの(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−217576号公報
【特許文献2】特開2004−333199号公報
【特許文献3】特開2006−17582号公報
【特許文献4】特開2008−76246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の基準値作成方法は、例えば、学習用データを多数回採取して採取されたデータを平均化した値を基準値とすることにより、外乱の影響を軽減していた。また、採取データに外乱ノイズが含まれると判定されたときその採取データを破棄し追加のデータを採取しなおして外乱のないデータを必要数だけ確保した上で基準値を作成していた。このため、外乱ノイズのある環境では、平均回数を増やしたり、追加のデータ採取を増やしたりして、学習データの採取回数が増加するという問題点があった。特に、1回分のデータ採取に比較的長い時間を要する場合、採取データに外乱が入る都度データを破棄したのでは、データ採取に当たる作業員の労務コストが増大するという問題があった。
【0005】
本発明は上記のような問題点を解決するためなされたもので、外乱ノイズのある環境で、少数のデータの採取回数で基準値を作成する装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る基準値作成装置は、同一条件で繰り返して採取される診断対象の時系列データを用いて、時系列データの異常の有無を判定するための基準値を作成する基準値作成装置において、採取された時系列データの同一時刻の値またはその時刻近傍の値同士を比較する比較手段と、予め定められた異常と判定される側を削除し、異常と判定されない側を採用して、その時刻の基準値とする基準値判定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の基準値作成装置は、採取された時系列データの同一時刻の値またはその時刻近傍の値同士を比較し、異常と判定される側を削除し、異常と判定されない側を採用してその時刻の基準値とするようにしたので、外乱ノイズのある環境で、少数のデータの採取回数で基準値を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1による基準値作成装置を適用した診断装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による基準値作成装置を適用した診断装置の表示画面レイアウトの説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1による基準値作成装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1による基準値作成装置の基準値学習動作を従来と比較して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による基準値作成装置を用いた診断装置を示す構成図である。
図1に示す診断装置は、検査対象の発する異常な音圧を診断する装置であり、パーソナルコンピュータ上のソフトウェアとして実装されている。診断装置は、基準値を作成する学習モードと異常の有無を判定する診断モードとを有する。測定者はマイクロホンまたは振動センサ等を検査対象に近接して設置し、パソコンに接続されたUSBインタフェースの入力端子に接続し、PCの画面の表示に従い学習と診断を操作する。図2に本実施の形態の表示画面のレイアウトを示す。図中、学習状態表示部6は、その時点の学習回数や学習が完了したか否かを示す表示エリアである。また、測定用ボタン表示部10には学習モードや診断モードの開始/停止を行うためのボタンを表示するエリアである。診断結果表示部11は、診断結果を示す表示エリアである。設定表示部12は、ユーザが学習回数等を設定するための入力エリアである。これらのエリアに表示されたボタン(図中、二重線で示す)は、PCに接続されたマウス等によりそのボタン操作が可能となっている。
【0010】
図1において、診断装置は、AD変換部2、スペクトル分析部3、基準値作成装置5、学習状態表示部6、基準値記憶部7、異常検出部8を備えている。AD変換部2は、増幅器と低域フィルタ回路とAD変換器(これらの詳細は図示省略している)とを備え、図示しないマイクロホンや振動センサから出力される測定信号1を入力し、この測定信号1を一定の時間間隔でサンプリングしてデジタル信号に変換する処理部である。スペクトル分析部3は、AD変換部2が出力するデジタル信号に時間窓を掛け、時間窓を時間方向にずらしながら高速フーリエ変換(FFT)により周波数分析し、所定の周波数帯域内の振幅スペクトル値を帯域出力時系列4として出力する処理部である。基準値作成装置5は、帯域出力時系列4を複数回入力し複数回の帯域出力時系列から基準値を作成する装置である。学習状態表示部6は、基準値学習装置5の学習状態を測定者に表示する表示部であり、例えば、図2に示すように表示される。基準値記憶部7は、基準値作成装置5の出力である基準値を記憶する記憶部である。異常検出部8は、帯域出力時系列4と基準値記憶部7に記憶された基準値とを比較して異常のあるタイミングを検出する処理部であり、判定結果9は、異常検出部8の出力の判定結果であり、例えば、図2に示す診断結果表示部11に示されるように表示される。
【0011】
次に、基準値作成装置5について説明する。
基準値作成装置5は、更新処理部51、一時記憶部52、終了判定部53、出力部54を備えている。更新処理部51は、帯域出力時系列4を複数回入力した結果に基づいて前回との比較を行い、基準値を更新する処理部である。一時記憶部52は、基準値を一時的に記憶する記憶部である。終了判定部53は、所定回数の学習が終了したか否かを判定する判定部である。出力部54は、終了判定部53で終了判定がなされた場合に、一時記憶部52に記憶されている基準値を基準値作成装置5の出力として送出する処理部である。ここで、更新処理部51、終了判定部53及び出力部54で、採取された時系列データの同一時刻の値または当該時刻近傍の値同士を比較する比較手段と、予め定められた異常と判定される側を削除して、異常と判定されない側を採用して、当該時刻の基準値とする基準値判定手段とが構成されている。また、一時記憶部52によって、作成途上の基準値を中間結果として保持する一時記憶手段が構成されている。
【0012】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
学習モードまたは診断モードにおいて、図2に示した測定用ボタン表示部10の学習開始または診断開始ボタンが押下され、停止ボタンが押下されるまでの間、時系列データが生成される。時系列データの生成は以下のようになされる。
まず、検査対象物が発した音声または振動を捉えるため設置されたマイクや振動センサから出力される測定信号1はAD変換部2でサンプリングされてサンプリング周波数32kHzの16ビットリニアPCM信号としてデジタル信号としての波形信号に変換される。AD変換部2が出力する波形信号に対してスペクトル分析部3は、1024点のハミングの時間窓を16msの間隔で時間方向にずらしながらフレームを切出し、各フレームに対してFFT演算と絶対値演算により振幅スペクトルを求め、異常音の成分が顕著に存在する周波数帯域(1〜4kHz)の平均振幅スペクトルを帯域出力として算出し、以上の演算を各フレームに対して行い、帯域出力時系列4を得る。
【0013】
本装置の学習モードにおいて、基準値作成装置5は、詳細を後述するように、2回以上反復して採取された音響信号から得られる帯域出力時系列4を入力して、作成された基準値を基準値記憶部7に記憶する。
一方、本装置の診断モードにおいて、異常検出部8は、帯域出力時系列4と基準値記憶部7に記憶される基準値としての時系列とを同じ時刻同士で比較して、両者の相違が所定の閾値幅をこえるとき、その時刻に異常があると判定し、時刻と強度、基準値などからなる判定結果9を出力する。すなわち、時刻としてのフレーム番号をt(tは1〜Tの整数)、時刻tにおける帯域出力時系列の値をy(t)、基準値の値をx(t)、判定閾値の幅をθと記すとき、式(1)を満たすフレーム番号tを異常の時刻、y(t)を強度、x(t)を基準値として出力する。
y(t)−x(t)≧θ (1)
判定結果9はPC上の別のアプリケーションにおいて、異常箇所の波形の表示などで用いる。
【0014】
次に、学習モードにおける基準値作成装置5の動作を詳細に説明する。
学習回数はn回(nは2以上の整数)に設定され、学習のためにn回の測定を行い、基準値を作成する場合について説明する。診断装置の一例としては、例えばエレベータの異常音診断がある。エレベータの異常音診断では診断運転モードにおいて、乗車かごを例えば最上階と最低階との間で一定の運転パターンで運転させて、異常な音が発生していないかを診断する。異常判定のための基準値は、診断運転モードと同じ運転パターンで乗車かごを運転させ、そのときに測定されるかご走行音をもとに作成する。かご走行音の測定信号としては、例えば後述する図4のデータ1およびデータ2であり、この場合は2回同じ運転パターンで運転させたものである。
【0015】
図3は基準値作成装置5の処理の流れ図である。以下、n回目の測定信号から得られる帯域出力時系列をy(n,t)、n回目の帯域出力時系列y(n,t)から得られる中間結果をx(n,t)と記す。
まず、更新処理部51は、ステップST501において、ユーザにより設定された学習回数を変数nに読み込む。ステップST502において、更新処理部51は測定回数mを1とする。ステップST503においては、1回目の測定を実行し、帯域出力時系列y(1,t)を得る。ステップST504においては、1回目の帯域出力時系列y(1,t)を中間結果として一時記憶部52に記憶する。すなわち、式(2)に示す演算により一時記憶部52の記憶内容は、x(1,t)=y(1,t)となる。ここでx(1、t)は1回目測定信号による一時記憶部52中の中間結果である。
x(1,t)←y(1,t) (2)
【0016】
更新処理部51は、ステップST505において、測定回数mを1増加し、測定回数mを2とする。ステップST506において、2回目の測定で得られる帯域出力時系列y(2,t)と一時記憶部52に記憶された中間結果x(1,t)との値を時刻tごとに比較し値の大きい方を削除し、値の小さい方を採用し、時刻tにおける更新後の中間結果を得る。すなわち、時刻tにおける更新後の中間結果の値をx(2,t)とすると式(3)に示す演算を行う。ここで、min{・・・}は引数の最小値を返す関数である。また、x(2、t)は2回目測定信号による更新後の一時記憶部52中の中間結果である。
x(2,t)←min{x(1,t),y(2,t)} (3)
【0017】
ステップST508において、更新処理部51は、現在の測定回数mを終了判定部53に送る。終了判定部53は、学習回数nと測定回数mを比較して測定回数mが学習回数nに達しているか判定する。もし、学習回数nが2であるときは、処理を終了し、ステップST509において、出力部54は一時記憶部52中の中間結果を学習結果の基準値として基準値記憶部7に出力する。
【0018】
一方、学習回数nが3以上に設定されているときはステップST505に戻り、ステップST505において、次に測定回数を1増加し、mを3として、ステップST506において、3回目の測定を実行する。このステップST506において、帯域出力時系列y(3,t)を得て、ステップST507において、2回目の中間結果x(2,t)と3回目の帯域出力y(3,t)とを時刻tごとに値を比較し値の大きいほうを削除し、値の小さいほうを採用し、時刻tにおける更新後の中間結果を得る。すなわち、式(4)に示す演算を実行する。ここでx(3、t)は3回目測定信号による更新後の一時記憶部52中の中間結果である。
x(3,t)←min{x(2,t),y(3,t)} (4)
【0019】
以後、一般に、ステップST508において、更新処理部51は現在の測定回数mを終了判定部53に送る。終了判定部53は学習回数nと測定回数mを比較して、もし、m=nであるときは、ステップST509に進み、出力部54は一時記憶部52にある中間結果を取り出して基準値記憶部7に出力する。
一方、m<nであるときはステップST505に戻り、ステップST506で次の測定を行い、ステップST507で(5)式の演算により中間結果を更新する。
x(m,t)←min{x(m−1,t),y(m,t)} (5)
【0020】
図4は、学習回数を2回として、2回の測定による帯域出力を処理する例を示す。1回目の測定信号の帯域出力を示すデータ1、および、2回目の測定信号の帯域出力を示すデータ2には、それぞれ、円で囲んだ位置に外乱が重畳したため、帯域出力が上昇しているが、本実施の形態により作成される基準値は図の下部に示す太い実線のように、外乱が削除された基準値が得られる。一方、従来の平均による場合は一番下の太い実線のように、外乱の影響が残った基準値となる。従来の平均による基準値の作成方法で外乱の影響を削減するためにはより多くの学習回数が必要である。このように、本実施の形態によれば、少数の学習回数で外乱の影響が軽減された基準値を得ることができる。
【0021】
尚、例えば、上述したようなエレベータの運転制御処理系とかご走行音の集音処理系は、相互に独立した処理系を構成し、両者は通信により同期しているため、両者の処理間には若干のタイミングずれが存在する。そのため、帯域出力の比較においても同一時刻だけでなく、許容範囲としてその時刻近傍の値を含んでいてもよい。その許容範囲としては、このような運転制御処理系と集音処理系のタイミングずれの最大値といった値に基づいて決定する。
【0022】
以上のように、実施の形態1の基準値作成装置によれば、同一条件で繰り返して採取される診断対象の時系列データを用いて、時系列データの異常の有無を判定するための基準値を作成する基準値作成装置において、採取された時系列データの同一時刻の値またはその時刻近傍の値同士を比較する比較手段と、予め定められた異常と判定される側を削除し、異常と判定されない側を採用して、その時刻の基準値とする基準値判定手段とを備えたので、外乱ノイズのある環境で、少数のデータの採取回数で基準値を作成することができる。
【0023】
また、実施の形態1の基準値作成装置によれば、作成途上の基準値を中間結果として保持する一時記憶手段を備え、比較手段は、学習の1回目に採取されるデータを中間結果の初期値とした後、2回目以降に採取される時系列データとそれまでの中間結果の時系列データとの間で同一時刻または時刻近傍の値同士を比較し、基準値判定手段は、予め定められた異常と判定される側を削除し、異常と判定されない側を採用して、その時刻の基準値とするように中間結果を更新し、学習終了と判定した時の中間結果を最終の基準値とするようにしたので、少数の学習回数で外乱の影響が軽減された基準値を得ることができる。
【0024】
また、実施の形態1の基準値作成装置によれば、異常と判定される側は、時系列データの値が大きい側としたので、外乱が重畳した場合に値が大きくなるような実装に対して適用することができる。
【0025】
また、実施の形態1の基準値作成方法によれば、採取された時系列データの同一時刻の値またはその時刻近傍の値同士を比較する比較ステップと、予め定められた異常と判定される側を削除して、異常と判定されない側を採用して、その時刻の基準値とする基準値判定ステップとを備えたので、外乱ノイズのある環境で、少数のデータの採取回数で基準値を作成することができる。
【0026】
実施の形態2.
実施の形態2では、基準値の算出を重み付け平均で行うようにしたものである。基準値作成装置5における図面上の構成は図1と同様であるため、図1の構成を用いて説明する。実施の形態2の比較手段は、学習の1回目に採取されるデータを中間結果の初期値とした後、2回目以降に採取される採取データと前回までの中間結果との間で同一時刻またはその付近にある値同士を比較するよう構成されている。また、基準値判定手段は、予め定められた異常と判定される側の重みを小さく、異常と判定されない側の重みを大きくして前回までの中間結果と採取データとの平均を求めて新たな中間結果とし、学習が終了した時点の中間結果を判定基準値とするよう構成されている。その他の構成については実施の形態1と同様である。
【0027】
次に、実施の形態2の動作について説明する。
実施の形態1における図3のステップST507における中間結果の更新を式(5)の代わりに、重みつき平均による式(6)〜式(10)の演算で行う。すなわち、式(6)で両者の小さい方の値(v(t))を求め、式(7)で両者の大きい方の値(u(t))を求め、式(8)で大きい方の値と小さい方の値の比(r(t))を求め、式(9)で加重平均において大きい方の値に掛ける重み係数(w(t))を求め、式(10)で実際に加重平均を実行し、更新後の中間結果(x(m,t))を求めている。
v(t)=min{x(m−1,t),y(m,t)} (6)
u(t)=max{x(m−1,t),y(m,t)} (7)
r(t)=u(t)/v(t) (8)
w(t)=1/(2*r(t)*r(t)) (9)
x(m,t)←u(t)*w(t)+v(t)*(1−w(t)) (10)
【0028】
式(9)で重みを2乗に反比例するようにしているため、一方に大きな外乱が入ったときこの比は2乗で大きくなり、w(t)は2乗で0に近づくため、v(t)の重みが1に近づき、x(m,t)は外乱が削除され、式(5)と似た結果が得られる。一方、外乱がなく測定ごとの変動だけしかない場合は両者の比r(t)は1に近づくため、重み(w(t))は1/2となり、x(m,t)には大きい方の値(u(t))と小さい方の値の平均的な値が得られる。
【0029】
このように、本実施の形態によれば、大きな外乱に対しては外乱を削除できるとともに、外乱が無く測定ごとの変動だけしかない場合には、平均値に近い値を基準値として得ることが出来る。また、中程度の外乱は測定による変動と区別がつきにくいため、一概に外乱として削除することは出来ないが、本実施の形態によれば、削除と平均の中間的な基準値を作成することが出来る。
尚、式(9)では両者の比の2乗の逆数を重み係数としたが、両差の差異が大きいほど重みが小さくなるような関数であれば同様な効果を奏することが出来ることはいうまでもない。
【0030】
以上のように、実施の形態2の基準値作成装置によれば、同一条件で繰り返して採取される診断対象の時系列データを用いて、時系列データの異常の有無を判定するための基準値を作成する基準値作成装置において、採取された時系列データの同一時刻の値またはその時刻近傍の値同士を比較する比較手段と、予め定められた異常と判定される側の重みを小さく、異常と判定されない側の重みを大きくしてこれらの平均を求め、その時刻の基準値とする基準値判定手段とを備えたので、外乱ノイズのある環境で、少数のデータの採取回数で基準値を作成することができる。
【0031】
また、実施の形態2の基準値作成装置によれば、作成途上の基準値を中間結果として保持する一時記憶手段を備え、比較手段は、学習の1回目に採取される時系列データを中間結果の初期値とした後、2回目以降に採取される時系列データと前回までの中間結果との間で同一時刻またはその時刻近傍の値同士を比較し、基準値判定手段は、予め定められた異常と判定される側の重みを小さく、異常と判定されない側の重みを大きくして前回までの中間結果と採取された時系列データとの平均を求めて新たな中間結果とし、学習が終了した時点の中間結果を最終の基準値とするようにしたので、少数の学習回数で外乱の影響が軽減された基準値を得ることができる。
【0032】
また、実施の形態2の基準値作成方法によれば、採取された時系列データの同一時刻の値またはその時刻近傍の値同士を比較する比較ステップと、予め定められた異常と判定される側の重みを小さく、異常と判定されない側の重みを大きくしてこれらの平均を求め、その時刻の基準値とする基準値判定ステップとを備えたので、外乱ノイズのある環境で、少数のデータの採取回数で基準値を作成することができる。
【0033】
実施の形態3.
上述した実施の形態1,2は、学習回数nを指定したが、測定結果によって外乱が少ない場合は、学習回数nに到達する前に、反復を打切るようにしてもよく、この例を実施の形態3として次に説明する。すなわち、実施の形態3の基準値判定手段は、異常と判定される側の時間占有率が所定の値以下であった場合は、その時点で学習を終了するよう構成されている。また、実施の形態3においても基準値作成装置5としての図面上の構成は図1と同様であるため、図1の構成を用いて説明する。
【0034】
実施の形態3では、更新処理部51において、測定された帯域出力時系列中に外乱が時間的に占める率を推定し、終了判定部53に送る。終了判定部53は、図3のステップST508の処理を行う前に、この外乱の時間占有率が許容される閾値より小さいとき、学習を終了するようにしている。外乱の時間占有率は、例えば、式(11)により求める。ここで、式(11)〜(14)において、θは大きい方の値と小さい方の値の比(r(t))に対する閾値(θ≧1)、Rは外乱占有率、Θは学習の判定閾値、Tは帯域出力時系列のフレーム数で系列の長さを表す数である。また、count{・・・}は{}内の条件を満足するフレーム数を計算する関数である。
P=count{r(t)>θ,1≦t≦T} (11)
Q=count{1≦t≦T} (12)
R=P/Q (13)
R<Θ またはm=nならば学習終了 (14)
学習の終了は式(14)のように、測定回数がmに到達するか、外乱占有率Rが閾値Θを下回るときに行われる。尚、外乱占有率Rが閾値Θを下回るときに出力される基準値はそれまでの中間結果の値である。
【0035】
本実施の形態によれば、設定しておく学習回数nを3回以上と大きく設定したときも、学習回数に到達するより前に、測定の結果、外乱の発生がほとんどない場合、設定した学習回数よりも少ない測定回数で学習を完了することができるという効果がある。
【0036】
以上のように、実施の形態3の基準値作成装置によれば、基準値判定手段は、異常と判定される側の時間占有率が所定の値以下であった場合は、その時点で学習を終了するようにしたので、外乱の発生がほとんどない場合では、設定した学習回数よりも少ない測定回数で学習を完了することができる。
【0037】
また、実施の形態3の基準値作成方法によれば、基準値判定ステップにおいて、異常と判定される側の時間占有率が所定の値以下であった場合は、その時点で学習を終了するようにしたので、外乱の発生がほとんどない場合では、設定した学習回数よりも少ない測定回数で学習を完了することができる。
【0038】
尚、上記各実施の形態では、異常と判定される側を帯域出力時系列4の大きい側、異常と判定されない側を帯域出力時系列4の小さい側としたが、処理の実装によっては負の帯域出力時系列4が小さいとき異常と判定するように構成してもよく、実装状態等に応じて異常と判定される側や異常と判定されない側の値を適宜決定してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 測定信号、2 AD変換部、3 スペクトル分析部、4 帯域出力時系列、5 基準値作成装置、6 学習状態表示部、7 基準値記憶部、8 異常検出部、9 判定結果、51 更新処理部、52 一時記憶部、53 終了判定部、54 出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一条件で繰り返して採取される診断対象の時系列データを用いて、時系列データの異常の有無を判定するための基準値を作成する基準値作成装置において、
採取された時系列データの同一時刻の値または当該時刻近傍の値同士を比較する比較手段と、
予め定められた異常と判定される側を削除し、異常と判定されない側を採用して、前記時刻の基準値とする基準値判定手段とを備えたことを特徴とする基準値作成装置。
【請求項2】
作成途上の基準値を中間結果として保持する一時記憶手段を備え、
比較手段は、学習の1回目に採取されるデータを前記中間結果の初期値とした後、2回目以降に採取される時系列データとそれまでの中間結果の時系列データとの間で同一時刻または当該時刻近傍の値同士を比較し、
基準値判定手段は、予め定められた異常と判定される側を削除し、異常と判定されない側を採用して、当該時刻の基準値とするように前記中間結果を更新し、学習終了と判定した時の前記中間結果を最終の基準値とすることを特徴とする請求項1記載の基準値作成装置。
【請求項3】
同一条件で繰り返して採取される診断対象の時系列データを用いて、時系列データの異常の有無を判定するための基準値を作成する基準値作成装置において、
採取された時系列データの同一時刻の値または当該時刻近傍の値同士を比較する比較手段と、
予め定められた異常と判定される側の重みを小さく、異常と判定されない側の重みを大きくしてこれらの平均を求め、前記時刻の基準値とする基準値判定手段とを備えたことを特徴とする基準値作成装置。
【請求項4】
作成途上の基準値を中間結果として保持する一時記憶手段を備え、
比較手段は、学習の1回目に採取される時系列データを前記中間結果の初期値とした後、2回目以降に採取される時系列データと前回までの中間結果との間で同一時刻または当該時刻近傍の値同士を比較し、
基準値判定手段は、予め定められた異常と判定される側の重みを小さく、異常と判定されない側の重みを大きくして前回までの中間結果と前記採取された時系列データとの平均を求めて新たな中間結果とし、学習が終了した時点の中間結果を最終の基準値とすることを特徴とする請求項3記載の基準値作成装置。
【請求項5】
基準値判定手段は、異常と判定される側の時間占有率が所定の値以下であった場合は、その時点で学習を終了することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の基準値作成装置。
【請求項6】
異常と判定される側は、時系列データの値が大きい側であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の基準値作成装置。
【請求項7】
請求項1記載の基準値作成装置を用いて基準値を作成する基準値作成方法であって、
採取された時系列データの同一時刻の値または当該時刻近傍の値同士を比較する比較ステップと、
予め定められた異常と判定される側を削除して、異常と判定されない側を採用して、当該時刻の基準値とする基準値判定ステップとを備えたことを特徴とする基準値作成方法。
【請求項8】
請求項3記載の基準値作成装置を用いて基準値を作成する基準値作成方法であって、
採取された時系列データの同一時刻の値または当該時刻近傍の値同士を比較する比較ステップと、
予め定められた異常と判定される側の重みを小さく、異常と判定されない側の重みを大きくしてこれらの平均を求め、当該時刻の基準値とする基準値判定ステップとを備えたことを特徴とする基準値作成方法。
【請求項9】
基準値判定ステップにおいて、異常と判定される側の時間占有率が所定の値以下であった場合は、その時点で学習を終了することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の基準値作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−185846(P2011−185846A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53257(P2010−53257)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】