説明

基礎耐震補強工法とその加力装置

【課題】本発明は、基礎耐震補強工法に関し、従来の増し杭による基礎耐震補強工法では十分な補強を施行すると、コストが嵩むのと設計効率において無駄になることが課題であって、それを解決することである。
【解決手段】構造物の基礎1aと該構造物の周囲に構築され前記構造物を支持する杭の水平力の負担を軽減させる増し杭3の頭部との間に、水平力を前記増し杭に付加する加力装置4を設けてなる基礎耐震補強工法とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎耐震補強工法に係り、更に詳しくは、増し杭を用いた既存基礎耐震補強工法において、従来よりも増し杭を少なくて済むようにした基礎耐震工法とその工法に使用される加力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基礎耐震補強工法に関しては、例えば、特許文献1に記載のように、地盤アンカーと地中連続壁とを用いたものが知られている。これは、図7に示すように、鉄筋コンクリート造の地中連続壁11と、構造物12の下部構造から支持層13にまで延ばされた地盤アンカー14とから構成され、杭15は構造物12の鉛直荷重を地中連続壁11と共に支持している。これらの地盤アンカー14と地中連続壁11とによって構造物12の耐震性を向上させるものである。
【0003】
また、上記耐震補強工法は、構造物12を新規に構築する場合に適用できるのは勿論のこと、地盤アンカー14で補強された既存の構造物12に対して補強する場合にも、構造物12の周囲の地盤を掘削してこの掘削部に鉄筋籠とコンクリートとを打設して地中連続壁11を構築して、基礎耐震補強構造を構築することができる。
【0004】
この基礎耐震構造によって、地震等の際に、水平力が作用すると地下連続壁11の壁頭部に最も大きな水平力が加えられ、該地中連続壁11に囲まれた構造物12に隣接した領域に対して作用する水平力を当該地中連続壁11が負担することで、地下構造物の破壊を防止でき、地盤アンカー14により構造物12が拘束されて転倒モーメントに対向することができて、構造物12の損傷を防止できる。
【0005】
このほか、既存の基礎耐震補強工法として、増し杭による補強工法がある。これは、構造物を支持する既存の杭に対して、増し杭を前記構造物の周囲に適宜必要数を構築するものである。上述の構造物12の周囲に地中連続壁11を構築する場合に比べて、工期短縮されコストも低減される、簡易な基礎耐震補強工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−288758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図8(a)に示すように、前記増し杭16が少ないと既存杭15との剛性のバランス上、前記既存杭15の水平力の負担が大きく、前記増し杭16の水平力の負担が小さくなって、補強効果が小さい。また、図8(b)に示すように、増し杭16aの杭径を大きくしたり、杭の本数を増やしたりすると、補強効果は大きいが増し杭の耐力が過剰設計となって補強の効率が悪く、工期が長期化すると共にコストも嵩むことになる。本発明に係る基礎耐震補強工法とその加力装置は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る基礎耐震補強工法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、 構造物の基礎と該構造物の周囲に構築され前記構造物を支持する杭の水平力の負担を軽減させる増し杭の頭部との間に、水平力を前記増し杭に付加する加力装置を設けたことである。
【0009】
また、本発明に係る基礎耐震補強工法の要旨は、構造物の基礎と該構造物の周囲に構築される地中連続壁の上端部との間に、水平力を前記地中連続壁の上端部に付加する加力装置を設けたことである。
更に、地震力計測器のデータによって前記加力装置を制御することであり、前記構造物を挟んで対向配置に設置された加力装置が、水平方向に同時に水平力を負担するように付加されることを含むものである。
【0010】
本発明に係る基礎耐震補強用の加力装置の要旨は、増し杭の頭部若しくは地中連続壁の上端部と基礎との間に設置される油圧装置と、該油圧装置に油を供給する蓄圧器と、前記油圧装置から油を抜くオイルタンクと、構造物に設けられる地震力計測器と、前記蓄圧器の配管途中に設けられる第1制御弁と前記オイルタンクの配管途中に設けられる第2制御弁と前記地震力計測器とにそれぞれ接続されて前記第1,第2制御弁の開閉を制御するとともに前記地震力計測器からの構造物の応答データを伝達され前記油圧装置の駆動を制御する制御装置とからなることである。
前記蓄圧器とオイルタンクとを構造物の中に配設したことを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の基礎耐震補強工法によれば、基礎耐震補強に本来必要な増し杭の本数若しくは杭径を低減させることができる。よって、従来の増し杭補強工法に比べて、コストが低減されると共に工期も短縮され、狭小地への適用性が向上する。耐震改修工事の施工計画上で有利となる。
更に、増し杭の耐力を効果的に運用することができる。加力装置においては制御装置等も油圧装置の伸縮を制御弁で制御するだけなので簡易で安価なシステムで済み、製作コストも嵩むことがない。また、増し杭の他に地中連続壁や仮設山留等の既存構造物を有効に活用することもできる補強工法になる。
【0012】
本発明の基礎耐震補強用の加力装置によれば、増し杭の変位を容易に増幅させることができる。構造物の慣性力を既存杭から増し杭側に移し替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る基礎耐震補強工法の概要を示す概略縦断面図である。
【図2】同本発明の基礎耐震補強工法における地震力計測器の一例である加速度に対する制御弁1,2の開閉のタイミングを示す左右加力装置4に係る説明図(a),(b)である。
【図3】本発明に係る加力装置4の地震時における使用状態を示す説明図(a),(b)である。
【図4】本発明に係る基礎耐震補強工法によって、既存杭と増し杭との水平力(構造物の慣性力)の負担荷重が、従来補強工法と本発明の補強工法とにおいて相違することを示す説明図(a),(b)である。
【図5】第2実施例に係る基礎耐震補強工法の概要を示す概略縦断面図である。
【図6】第3実施例に係る基礎耐震補強工法の概要を示す概略縦断面図である。
【図7】従来例に係る基礎耐震補強工法の概要を示す概略縦断面図(a),(b)である。
【図8】同従来例に係る基礎耐震補強工法の概要を示す概略縦断面図(a),(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る基礎耐震補強工法は、図1に示すように、構造物1の基礎1aと該構造物1の周囲に構築され前記構造物1を支持する杭2の水平力の負担を軽減させる増し杭3の頭部3aとの間に、水平力を前記増し杭3に付加する加力装置4を設けた基礎耐震補強工法である。
【実施例1】
【0015】
本発明に係る前記加力装置4は、増し杭3の頭部3aと前記基礎1aとの間に設置される油圧装置5と、該油圧装置5に油を供給する蓄圧器6と、前記油圧装置5から油を抜くオイルタンク7と、構造物1に設けられる地震力計測器の一例としての加速度計8と、前記蓄圧器6の配管途中に設けられる第1制御弁9と前記オイルタンク7の配管途中に設けられる第2制御弁10と前記加速度計8とにそれぞれ接続されて前記第1,第2制御弁9,10の開閉を制御するとともに前記加速度計8から加速度のデータを伝達され前記油圧装置5の駆動を制御する制御装置4aとからなる。
【0016】
前記増し杭3の杭径と、設置する本数は、既存の基礎1aに対して本来補強に必要な杭径若しくは本数に比較して、杭径を小さくしたり本数を減らしたりすることができる。前記油圧装置5は、前記増し杭3の変位を増幅するものである。それにより、増し杭3の水平力の負担が増大し、既存の杭2の負担が軽減されるものである。
【0017】
前記蓄圧器(アキュームレータ)6は、前記油圧装置5に高圧油を供給するものである。第1制御弁9が制御装置4aによって「開」となったときに、前記油圧装置5のシリンダロッドを伸長させるものである。
【0018】
前記オイルタンク7は、前記油圧装置5のシリンダロッドが伸長から伸縮したときに、シリンダ室から排出される油を受け入れるタンクである。前記第1制御弁9および第2制御弁10は共に電磁制御弁である。
【0019】
前記加速度計8は、構造物1の最下層に取り付けられるものであり、制御装置4aと電気的に接続されている。この加速度計8で計測された構造物の応答データであるアナログデータ若しくはデジタルデータが制御装置4aに電気信号として伝達されて、その加速度の方向と大きさから当該制御装置4aにより前記第1制御弁9と第2制御弁10との開閉が制御される。
【0020】
このような加力装置4を既存の構造物1に配設したことによる基礎耐震補強工法について説明する。図1乃至図3に示すように、地震時の水平力Fが図中の右方向(図3中の矢印参照)に作用すると、加速度計8で水平力Fの加速度が検出され制御装置4aに伝達される。図3(a)に示すように、構造物1の慣性力が相対的に左方向に作用する。よって、増し杭3の頭部3aに構造物1の慣性力が付加されるが、更にその負荷を増大させ変位を増大させるべく油圧装置5のシリンダロッド5bを伸長させる。そこで、制御装置4aは、第1制御弁9を「閉」から「開」にする。
【0021】
前記第1制御弁9が「開」になったことで、蓄圧器6から高圧油が油圧装置5のシリンダ室5aに供給される。高圧油がオイルタンク7に逃げないようにするため、第2制御弁10は、「閉」のままである。これが、図2(a)に示す左から最初の山部分(a範囲)であり、図3(a)に示す状態である。
【0022】
次に、前記水平力の加速度Fが右方向で同じではあるが、その加速度の大きさが頂部を超えて時間の経過と共に小さくなって、やがて加速度Fがゼロになるまで、制御装置4aによって第1制御弁9を「閉」にして、第2制御弁10を「閉」から「開」にする(図2(a)のb範囲)。これにより、図3(b)に示すように、左方向に大きく変位していた増し杭3の頭部3aによって油圧装置5のシリンダロッド5bが押し戻されて、油圧装置5のシリンダ室5aの油がオイルタンク7に戻される。
【0023】
次に、地震時の水平力Fがゼロになると、制御装置4aによって第1制御弁9と第2制御弁10が共に「閉」にされる。その後、前記加速度が逆方向の左方向になると、前記第1制御弁9と第2制御弁10は共に「閉」なので油圧装置5のシリンダロッド5bは伸縮することがない。よって、構造物1が慣性力で右方向に相対的に移動しようとするので、油圧装置5を引っ張ることになり、結果的に頭部3aを経由して増し杭3が前記構造物1の慣性力を負担して、負荷が増大する。図2(a)に示すc範囲である。
【0024】
このように地震時の水平力に伴う構造物1の慣性力に対して、油圧装置5の伸縮を適宜に繰り返すことで、増し杭3の水平抵抗力が増大されて、通常よりも少ない本数の増し杭3で構造物1の慣性力を積極的に且つ効率的に負担するものである。更に、大地震時には、増し杭側において破壊されることで地震エネルギーを吸収し、それにより、既存杭2の保護を図るものである。
【0025】
なお、図1に示すように、構造物1を挟んで油圧装置5,5を対向配置にすることで、水平方向において左右同時に構造物1の慣性力を負担するようにして、構造物1の慣性力に対向させるものである。前記構造物1の右側に配置される油圧装置5は、上述の左側に配置された油圧装置5の動きと逆の動作をするものであって、図2(b)に示すような半周期遅れた第1制御弁9と第2制御弁10の制御となる。
【0026】
図4に、従来補強工法による既存杭2と増し杭3の水平力の負担荷重と、本発明による場合の既存杭2と増し杭3との水平力の負担荷重を比較して示す。本発明の補強工法により、既存杭2の最大負担が大幅に低減され、増し杭3の水平力(構造物1の慣性力)の負担が増大していることが明確に判るものである。
【実施例2】
【0027】
本発明の第2実施例は、図5に示すように、地中連続壁3bを有効活用するものである。このようにして、水平抵抗を増大させるようにすることができる。油圧装置5を、構造物1の既存の基礎1aと、地中連続壁3bの上端部3cとの間に設けるものである。加力装置4の駆動および作用・効果は、実施例1と同様であり、説明を省略する。この第2実施例によっても、既存杭2が地震時において負担する構造物1の慣性力を軽減させることができる。
【実施例3】
【0028】
本発明の第3実施例は、図6に示すように、加力装置4に関するものであり、構造物1を挟んで対向配置の油圧装置5,5において、油のやり取りを互いに行うようにして、蓄圧器6とオイルタンク7とを一つずつにして兼用するようにしたものである。また、前記蓄圧器6とオイルタンク7とを構造物1の内部に設けるようにするのも好ましいものである。
【0029】
この第3実施例により、加力装置4の構成が簡素になり、製作コストも低減する。また、前記蓄圧器6とオイルタンク7とが構造物1の内部に設けられるので、広い敷地を必要とすることが無い。更に、他の方法として、油圧装置5を複動式油圧ジャッキにして、地震時に構造物1が慣性力で増し杭3の頭部3aに対して離間しようとする際に、当該複動式油圧ジャッキで積極的に引き戻すようにすることで、増し杭3の変位を増大させ、水平力の荷重負担を増し杭3に対して増大させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の基礎耐震補強工法は、既存の杭の負担を軽減して保護し、狭小地の耐震改修の施工をし易くしたものであり、剛性を高める補強強化の工法に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 構造物、 1a 基礎、
2 杭、
3 増し杭、 3a 頭部、
3b 地中連続壁、 3c 上端部、
4 加力装置、 4a 制御装置、
5 油圧装置、 5a シリンダ室、
5b シリンダロッド、
6 蓄圧装置、
7 オイルタンク、
8 地震力計測器(加速度計)、
9 第1制御弁、
10 第2制御弁、
11 地中連続壁、
12 構造物、
13 支持層、
14 地盤アンカー、
15 既存杭、
16 増し杭、 16a 増し杭。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の基礎と該構造物の周囲に構築され前記構造物を支持する杭の水平力の負担を軽減させる増し杭の頭部との間に、
水平力を前記増し杭に付加する加力装置を設けたこと、
を特徴とする基礎耐震補強工法。
【請求項2】
構造物の基礎と該構造物の周囲に構築される地中連続壁の上端部との間に、
水平力を前記地中連続壁の上端部に付加する加力装置を設けたこと、
を特徴とする基礎耐震補強工法。
【請求項3】
地震力計測器のデータによって加力装置を制御すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の基礎耐震補強工法。
【請求項4】
構造物を挟んで対向配置に設置された加力装置が、水平方向に同時に水平力を負担するように付加されること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の基礎耐震補強工法。
【請求項5】
増し杭の頭部若しくは地中連続壁の上端部と基礎との間に設置される油圧装置と、該油圧装置に油を供給する蓄圧器と、前記油圧装置から油を抜くオイルタンクと、構造物に設けられる地震力計測器と、前記油圧装置の配管途中に設けられる第1制御弁と前記オイルタンクの配管途中に設けられる第2制御弁と前記地震力計測器とにそれぞれ接続されて前記第1,第2制御弁の開閉を制御するとともに前記地震力計測器からの構造物の応答データを伝達され前記油圧装置の駆動を制御する制御装置とからなること、
を特徴とする基礎耐震補強用の加力装置。
【請求項6】
蓄圧器とオイルタンクとを構造物の中に配設したこと、
を特徴とする請求項5に記載の基礎耐震補強用の加力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−184882(P2011−184882A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48831(P2010−48831)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(591028108)安藤建設株式会社 (46)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(592198404)千代田工営株式会社 (25)
【Fターム(参考)】