説明

基質特異性に優れたピロロキノリンキノン(PQQ)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ改変体

【課題】
基質特異性が改善されたピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)を提供する。
【解決手段】
本発明は、野生型のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)よりも二糖類に対する作用性が低下した改変型PQQGDHである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基質特異性が改良された改変型グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、グルコースデヒドロゲナーゼをGDHとも記載する。)に関し、詳しくはピロロキノリンキノン(以下、ピロロキノリンキノンをPQQとも記載する。)を補酵素とする改変型PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼをPQQGDHとも記載する。)、その製造法及びグルコースセンサーに関する。本発明の改変型PQQGDHは、臨床検査や食品分析などにおけるグルコースの定量に有用である。
【背景技術】
【0002】
PQQGDHは、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼである。グルコースを酸化してグルコノラクトンを生成する反応を触媒することから、血糖の測定に用いることが可能である。血中グルコース濃度は、糖尿病の重要なマーカーとして臨床診断上きわめて重要な指標である。現在、血中グルコース濃度の測定は、グルコースオキシダーゼを使用したバイオセンサーを用いる方法が主流となっているが、反応が溶存酸素濃度に影響されることから、測定値に誤差が生じる可能性があった。このグルコースオキシダーゼにかわる新たな酵素としてPQQ依存性グルコース脱水素酵素が注目されている。
【0003】
我々のグループは、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)NCIMB11517株が、PQQ依存性グルコース脱水素酵素を産生することを見出し,遺伝子のクローニングならびに高発現系を構築した(たとえば、特許文献1を参照)。しかしながら、PQQ依存性グルコース脱水素酵素はグルコースオキシダーゼに比べてその基質特異性に問題があった。
【特許文献1】特開平11−243949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、PQQGDHの基質特異性の向上を課題としてその改良に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、PQQGDHの特定の領域においてアミノ酸を置換すること、および/または、アミノ酸を挿入することによる変異により基質特異性を向上させることを可能にし、本発明を完成するに到った。
特に、これまで実質的にほとんど具体的検討がなされてこなかった「アミノ酸の挿入」に着目し詳細に検討することで、本発明を完成するに到った。
即ち本発明は、
[項1]
アミノ酸置換が、Acinetobacter属由来PQQGDHのアミノ酸配列における、(T224A+A236T)、(Q168A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171S+T224A+A236T+M342I)、(M342I+430P)、(E245D+M342I+430P)、(Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430P)、のうちいずれか、または、他の種における上記と同等の位置におけるアミノ酸変異のうちいずれかを有する、野生型のPQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下した改変型PQQGDH。
[項2]
あるアミノ酸をPへ置換、あるいは、ある部位にPを挿入することにより安定性が低下した改変型PQQGDHにおいて、そのPの前後に荷電アミノ酸を位置させることにより安定性を向上させた改変型PQQGDH。
[項3]
Pの置換または挿入が430位周辺である請求項2に記載の改変型PQQGDH。
[項4]
荷電アミノ酸がD,Eである請求項2、3に記載の改変型PQQGDH。
[項5]
二糖類がマルトースである、請求項1に記載の改変型PQQGDH。
[項6]
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHをコードする遺伝子。
[項7]
請求項6に記載の遺伝子を含むベクター。
[項8]
請求項7に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
[項9]
請求項8に記載の形質転換体を培養することを特徴とする改変型PQQGDHの製造法。
[項10]
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコース測定用組成物。
[項11]
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコースアッセイキット。
[項12]
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコースセンサー。
[項13]
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコース測定方法。
[項14]
PQQGDHに請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸変異を行うことを特徴とする、PQQGDHの二糖類に対する作用性を低下させる方法。
[項15]
PQQGDHを用いるグルコース測定系において、請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸変異を行ったPQQGLDを含有することを特徴とする、グルコース測定系における、測定の正確性を向上させる方法。
[項16]
PQQGDHを用いるグルコース測定系において、請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸変異を行ったPQQGLDを含有させることを特徴とする、測定の正確性が向上したグルコース測定用組成物を、製造する方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明による改変型PQQGDHは野生型PQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下した酵素である。本発明による改変型PQQGDHをグルコースアッセイキット及びグルコースセンサに使用することにより、野生型PQQGDHを使用したものよりもより高精度な分析が可能となったり、より安定性の高いグルコースアッセイキット及びグルコースセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の改変型PQQGDHは、野生型PQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下したものである。
【0009】
二糖類に対する作用性とは、二糖類を脱水素する作用を意味する。二糖類としては、マルトース、シュクロース、ラクトース、セロビオースなどが例示され、特にマルトースが例示される。本願発明では、二糖類に対する作用性が低下したことを、基質特異性の向上とも表現する。
【0010】
二糖類に対する作用性が低下しているかどうかの判断は、次のように行う。
後述の試験例1に記載の活性測定法において、野生型PQQGDHを用いて、D−グルコースを基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(a)と、D−グルコースのかわりに当該二糖類を基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(b)を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求める。次いで、改変型PQQGDHを用いて同様の操作を行い、その値を比較して判断する。
【0011】
本発明の改変型PQQGDHは、二糖類に対する作用性が野生型PQQGDHより低下していれば、グルコースに対する作用性は上昇、不変、低下のいずれであっても本発明の改変型PQQGDHに包含される。
【0012】
本発明の改変型PQQGDHは、グルコース濃度の測定において二糖類に対する作用性が野生型PQQGDHを用いた場合と比較して低下したものを含む。好ましくは、マルトースに対する作用性が低下したものである。マルトースに対する作用性は、好ましくは野生型PQQGDHの90%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは40%以下、特に20%以下である。
【0013】
本発明の改変型PQQGDHは、マルトースに対する作用性がグルコースに対する作用性の90%以下であるものが好ましい。より好ましくは70%以下、さらに好ましくは40%以下、特に20%以下である。
【0014】
野生型PQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下した本発明の改変型PQQGDHとしては、例えばAcinetobacter属由来PQQGDHのアミノ酸配列において、(T224A+A236T)、(Q168A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171S+T224A+A236T+M342I)、(M342I+430P)、(E245D+M342I+430P)、(Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430P)、のうちいずれか、または、他の種における上記と同等の位置におけるアミノ酸変異のうちいずれかを有する、野生型のPQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下した改変型PQQGDHが例示される。
【0015】
ここで、例えば、「T224A」は、224位のT(Thr)をA(Ala)に置換することを意味する。また、「171A」は、171位の後の位置にA(Ala)を挿入することを意味する。171位のアミノ酸の後にAを挿入したことを意味する。多重変異体については、同様の原則によって表記したものをハイフンでつなげて表記している。
【0016】
また、例えば、PQQGDHの多重変異体「Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P」は、168位のQをAに、169位のLをPに、170位のAをLに、245位のEをDに、342位のMをIに、429位のNをD置換し、Aに置換された168位の後にFを、Dに置換された429位の後にPを挿入することを意味する。ここで取り扱っている数字は便宜上、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)NCIMB11517株の野生型PQQGDHのアミノ酸配列上の位置に相当しており、前方のアミノ酸が挿入されたことによりアミノ酸の位置が後方へ1つずれたとしても、位置を表す数字の修正は行なっていない。
【0017】
ニ糖類に対する作用性を低下させるために変異導入されたPは、酵素の安定性を低下させる要因になることがあり、その前後に荷電アミノ酸を配置させることにより安定性が向上した改変型PQQGDHが例示される。
【0018】
ニ糖類に対する作用性を低下させるために変異導入されるPの例として、本実施例では430Pが例示されているが、N429P変異導入により安定性が低下した改変型PQQGDHに対しても有効である。
【0019】
前記荷電アミノ酸の好ましい形態は、酸性アミノ酸D、Eであり、P測鎖を安定化するための配置をとっており、Pの前後いずれでも可能である。
【0020】
次の段落に示すいずれかの置換または挿入の組合わせによる多重変異体は、PQQGDHの基質特異性の向上に寄与している。
【0021】
(T224A+A236T)、(Q168A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171S+T224A+A236T+M342I)、(M342I+430P)、(E245D+M342I+430P)、(Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430P)
【0022】
本願発明はまた、PQQGDHに上記のアミノ酸挿入を行うことを特徴とする、PQQGDHの二糖類に対する作用性を低下させる方法である。
【0023】
本願発明は、また、PQQGDHを用いるグルコース測定系において、請求項1〜6のいずれかに記載のアミノ酸挿入を行ったPQQGLDを含有することを特徴とする、グルコース測定系における、測定の正確性を向上させる方法である。
【0024】
本願発明はまた、PQQGDHを用いるグルコース測定系において、請求項1〜6のいずれかに記載のアミノ酸挿入を行ったPQQGLDを含有させることを特徴とする、測定の正確性が向上したグルコース測定用組成物を、製造する方法である。
【0025】
上記のAcinetobacter属由来PQQGDHのアミノ酸配列は、好ましくはAcinetobacter calcoaceticusまたはAcinetobacter baumannii由来PQQGDHのアミノ酸配列である。中でも好ましくは配列番号1である。配列番号1で示される野生型PQQGDHタンパク質及び配列番号2で示されるその塩基配列は、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)NCIMB11517株を起源とするものであり、特開平11−243949号公報に開示されている。なお、上記および配列番号1において、アミノ酸の表記は、シグナル配列が除かれたアスパラギン酸を1として番号付けされている。
【0026】
アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)NCIMB11517株は、以前、Acinetobacter calcoaceticusに分類されていた。
【0027】
なお、本発明の改変型PQQGDHは、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、好ましくは二糖類に対する作用性に対して実質的な悪影響を及ぼさない限り、さらに他のアミノ酸残基の一部が欠失または置換されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加または置換されていてもよい。
【0028】
ところで、本願出願時において、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus) LMD79.41株由来の酵素のX線結晶構造解析の結果が報告され、活性中心をはじめとした該酵素の高次構造が明らかとなっている(非特許文献1,2,3,4を参照。)。
【非特許文献1】J.Mol.Biol.,289,319−333(1999)
【非特許文献2】PNAS,96(21),11787−11791(1999)
【非特許文献3】The EMBO Journal,18(19),5187−5194(1999)
【非特許文献4】Protein Science,9,1265−1273(2000)
【0029】
その高次構造に関する知見を基に、該酵素の構造と機能の相関に関する研究が進められているが、まだ完全に明らかになったとは言えない。例えば、水溶性グルコース脱水素酵素の第6番目のW−モチーフ、のBストランドとCストランドを結ぶループ領域(W6BC)中のアミノ酸残基の構造遺伝子の特定の部位に変異を導入することによりグルコースに対する選択性を改良しうることが考察されている(例えば、特許文献2を参照。)しかしながら、効果が実証されているのは実施例に開示されているものだけである。
【特許文献2】特開2001−197888
【0030】
ここで、本願発明の成果をもとにこれらの高次構造に関する知見を見直すと、二糖類に対する作用性の改変には、PQQの結合に関与するアミノ酸及び/またはその周辺のアミノ酸、グルコースの結合に関与するアミノ酸及び/またはその周辺のアミノ酸、カルシウムイオンの結合に関与するアミノ酸及び/またはその周辺のアミノ酸 の少なくとも1つ以上が関わっている可能性が考えられる。
【0031】
本発明の改変型PQQGDHは、配列番号1に記載されるPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼにおいて、PQQの結合に関与するアミノ酸及び/またはその周辺のアミノ酸、および/または、グルコースの結合に関与するアミノ酸及び/またはその周辺のアミノ酸が置換されているものを含む。
一方、非特許文献3および4には、PQQに結合するアミノ酸として、Y344、W346、R228、N229、K377、R406、R408、D424、グルコースに結合するアミノ酸としては、Q76、D143、H144、D163、Q168、L169、などの記載がある。
【0032】
また、本発明の改変型PQQGDHは、配列番号1に記載されるPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼにおいて、カルシウムイオンの結合に関与するアミノ酸及び/またはその周辺のアミノ酸が置換されているものを含む。
一方、非特許文献1には、活性中心のカルシウムイオンに結合するアミノ酸としては、P248、G247、Q246、D252、T348などの記載がある。
【0033】
また、本発明の改変型PQQGDHは、野生型酵素の活性型立体構造における活性中心から半径15Å以内、好ましくは半径10Å以内の範囲に位置するアミノ酸を変異することにより得られるものを含む。
【0034】
また、本発明の改変型PQQGDHは、野生型酵素の活性型立体構造において基質から半径10Å以内の範囲に位置するアミノ酸を変異することにより得られるものを含む。特に、基質がグルコースであるとき、野生型酵素の活性型立体構造において基質から半径10Å以内の範囲に位置するアミノ酸を変異することにより得られるものが好ましい。
【0035】
また、本発明の改変型PQQGDHは、野生型酵素の活性型立体構造において基質の1位の炭素に結合するOH基から半径10Å以内の範囲に位置するアミノ酸を変異することにより得られるものを含む。特に、基質がグルコースであるとき、野生型酵素の活性型立体構造において基質から半径10Å以内の範囲に位置するアミノ酸を変異することにより得られるものが好ましい。
【0036】
また、本発明の改変型PQQGDHは、野生型酵素の活性型立体構造において基質の2位の炭素に結合するOH基から半径10Å以内の範囲に位置するアミノ酸を変異することにより得られるものを含む。特に、基質がグルコースであるとき、野生型酵素の活性型立体構造において基質から半径10Å以内の範囲に位置するアミノ酸を変異することにより得られるものが好ましい。
【0037】
以上の教示にしたがって、当業者は、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)NCIMB11517株を起源とする配列番号1で示される野生型PQQGDHタンパク質および配列番号2で示されるその塩基配列を参照し、これらとの相同性が高い(好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有する)他の起源(天然のもの、改変されたもの、人工的に合成されたものを問わない)に由来する改変型PQQGDHについても、配列番号1に対応する位置(同等の位置)を探し出し、当該領域でアミノ酸残基を置換することにより、過度に試行錯誤を行うことなく、野生型のPQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下した改変型PQQGDHを得ることができる。
【0038】
例えば、配列番号1のアミノ酸配列と、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)LMD79.41株由来酵素のアミノ酸配列を比較すると、相違箇所はわずかで、相同性は92.3%(シグナル配列含む)となり、非常に類似しているので、配列番号1におけるある残基が、他起源の酵素のどのアミノ酸残基に該当するかを容易に認識することができる。そして、本発明にしたがって、そのような1またはそれ以上の箇所においてアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換および/または他のアミノ酸を挿入することにより、野生型のPQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下した改変型PQQGDHを得ることができる。これらの改変型PQQGDHグルコース脱水素酵素も本発明の範囲内に含まれる。
【0039】
本発明の改変型PQQGDHをコードする遺伝子は、微生物など種々の起源より得られる野生型PQQGDHをコードする遺伝子を含むDNA断片を改変することにより得られる可能性がある。具体的には、例えばアシネトバクター・カルコアセティカス、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonasaeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、グルコノバクター・オキシダンス等の酸化細菌やアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacteriumradiobacter)、エシェリヒア・コリ、クレブシーラ・エーロジーンズ(Klebsiella aerogenes)等の腸内細菌を挙げることができる。ただし、エシェリヒア・コリなどに存在する膜型酵素を改変して可溶型にすることは困難であり、起源としてはアシネトバクター属、さらに好ましくは相同性の高いアシネトバクター・カルコアセティカスもしくはアシネトバクター・バウマンニのいずれかの可溶性PQQGDHを選択することが好ましい。
【0040】
野生型PQQGDHをコードする遺伝子を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0041】
作製された改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物中に移入され、改変タンパク質を生産する形質転換体となる。
ベクターとしてプラスミドを用いる場合、例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とする場合にはpBluescript,pUC18などが使用できる。宿主微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどが利用できる。宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイJM109;東洋紡績製)を用いても良い。
【0042】
このような遺伝子はこれらの菌株より抽出してもよく、また化学的に合成することもできる。さらに、PCR法の利用により、PQQGDH遺伝子を含むDNA断片を得ることも可能である。
【0043】
本発明において、PQQGDHをコードする遺伝子を得る方法としては、次のような方法が挙げられる。例えばアシネトバクター・カルコアセティカスNCIB11517 の染色体を分離、精製した後、超音波処理、制限酵素処理等を用いてDNAを切断したものと、リニアーな発現ベクターと両DNAの平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーと酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、PQQを補欠分子族とするGDHをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する微生物を得る。
なお、アシネトバクター・カルコアセティカスNCIB11517は、NCIMBまたはUKNCCから入手することができる。
【0044】
次いで、上記組換えベクターを保持する微生物を培養して、該培養微生物の菌体から該組換えベクターを分離、精製し、該発現ベクターからGDHをコードする遺伝子を採取することができる。例えば、遺伝子供与体であるアシネトバクター・カルコアセティカスNCIB11517 の染色体DNAは、具体的には以下のようにして採取される。
【0045】
該遺伝子供与微生物を例えば1〜3日間攪拌培養して得られた培養液を遠心分離により集菌し、次いで、これを溶菌させることによりPQQを補欠分子族とするGDH遺伝子の含有溶菌物を調製することができる。溶菌の方法としては、例えばリゾチーム等の溶菌酵素により処理が施され、必要に応じてプロテアーゼや他の酵素やラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤が併用される。さらに、凍結融解やフレンチプレス処理のような物理的破砕方法と組み合わせてもよい。
【0046】
上記のようにして得られた溶菌物からDNAを分離精製するには、常法に従って、例えばフェノール処理やプロテアーゼ処理による除蛋白処理や、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈殿処理などの方法を適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0047】
微生物から分離、精製されたDNAを切断する方法は、例えば超音波処理、制限酵素処理などにより行うことができる。好ましくは特定のヌクレオチド配列に作用するII型制限酵素が適している。
【0048】
クローニングする際のベクターとしては、宿主微生物内で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。ファージとしては、例えばエシェリヒア・コリを宿主微生物とする場合にはLambda gt10 、Lambda gt11 などが例示される。また、プラスミドとしては、例えば、エシェリヒア・コリを宿主微生物とする場合には、pBR322、pUC19 、pBluescript などが例示される。
【0049】
クローニングの際、上記のようなベクターを、上述したGDHをコードする遺伝子供与体である微生物DNAの切断に使用した制限酵素で切断してベクター断片を得ることができるが、必ずしも該微生物DNAの切断に使用した制限酵素と同一の制限酵素を用いる必要はない。微生物DNA断片とベクターDNA断片とを結合させる方法は、公知のDNAリガーゼを用いる方法であればよく、例えば微生物DNA断片の付着末端とベクター断片の付着末端とのアニーリングの後、適当なDNAリガーゼの使用により微生物DNA断片とベクターDNA断片との組換えベクターを作成する。必要に応じて、アニーリングの後、宿主微生物に移入して生体内のDNAリガーゼを利用し組換えベクターを作製することもできる。
【0050】
クローニングに使用する宿主微生物としては、組換えベクターが安定であり、かつ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質発現できるものであれば特に制限されない。一般的には、エシェリヒア・コリW3110 、エシェリヒア・コリC600、エシェリヒア・コリHB101 、エシェリヒア・コリJM109 、エシェリヒア・コリDH5 αなどを用いることができる。
【0051】
宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリの場合には、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0052】
上記のように得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量のGDHを安定に生産し得る。宿主微生物への目的組換えベクターの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの薬剤耐性マーカーとPQQの添加によりGDH活性を同時に発現する微生物を検索すればよい。例えば、薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で生育し、かつGDHを生成する微生物を選択すればよい。
【0053】
上記の方法により得られたPQQを補欠分子族とするGDH遺伝子の塩基配列は、Science ,第214巻,1205(1981)に記載されたジデオキシ法により解読した。また、GDHのアミノ酸配列は上記のように決定された塩基配列より推定した。
【0054】
上記のようにして、一度選択されたPQQを補欠分子族とするGDH遺伝子を保有する組換えベクターより、PQQ生産能を有する微生物にて複製できる組換えベクターへの移入は、GDH遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりGDH遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。また、これらのベクターによるPQQ生産能を有する微生物の形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0055】
PQQ生産能を有する微生物としては、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属等のメタノール資化性細菌、アセトバクター(Acetobacter )属やグルコノバクター(Gluconobacter )属の酢酸菌、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、シュードモナス属、アシネトバクター属等の細菌を挙げることができる。なかでも、シュードモナス属細菌とアシネトバクター属細菌が利用できる宿主−ベクター系が確立されており利用しやすいので好ましい。
【0056】
シュードモナス属細菌では、シュードモナス・アエルギノサ、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・プチダなどを用いることができる。また、アシネトバクター属細菌ではアシネトバクター・カルコアセティカス、アシネトバクター・バウマンニ等を用いることができる。
【0057】
上記微生物にて複製できる組換えベクターとしては、RSF1010 由来のベクターもしくはその類似のレプリコンを有するベクターがシュードモナス属細菌に利用可能である。例えば、pKT240、pMMB24等(M.M.Bagdasarian ら,Gene,26,273(1983))、pCN40 、pCN60 等(C.C.Nieto ら,Gene,87,145(1990))やpTS1137 等を挙げることができる。また、pME290等(Y.Itohら、Gene,36,27(1985))、pNI111、pNI20C(N.Itohら,J.Biochem.,110,614(1991))も利用できる。
【0058】
アシネトバクター属細菌では、pWM43 等(W.Minas ら,Appl.Environ.Microbiol. ,59,2807(1993))、pKT230、pWH1266 等(M.Hungerら,Gene,87,45(1990))がベクターとして利用可能である。
【0059】
こうして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量の改変タンパク質を安定して生産し得る。形質転換体である宿主微生物の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、多くの場合は液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0060】
培地の栄養源としては,微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0061】
培養温度は菌が成育し、改変型PQQGDHを生産する範囲で適宜変更し得るが、上記のようなPQQ生産能を有する微生物の場合、好ましくは20〜42℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、改変型PQQGDHが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を完了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地のpHは菌が発育し、改変型PQQGDHを生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくはpH6.0〜9.0程度の範囲である。
【0062】
培養物中の改変型PQQGDHを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取し、利用することもできるが、一般には、常法に従って、改変型PQQGDHが培養液中に存在する場合はろ過、遠心分離などにより、改変型PQQGDH含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。改変型PQQGDHが菌体内に存在する場合には、得られた培養物からろ過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いで、この菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じて、EDTA等のキレート剤及び界面活性剤を添加してGDHを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0063】
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。その後、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたGDHを得ることができる。
【0064】
例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(ファルマシアバイオテク)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B (ファルマシアバイオテク)、オクチルセファロースCL−6B (ファルマシアバイオテク)等のカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0065】
上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化して流通させることが可能である。その際、精製酵素はリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解しているものを用いることができる。好適なものはGOODの緩衝液であり、なかでも、PIPES、MESもしくはMOPS緩衝液が特に好ましい。また、カルシウムイオンまたはその塩、およびグルタミン酸、グルタミン、リジン等のアミノ酸類、さらに血清アルブミン等を添加することによりGDHをより安定化することができる。
【0066】
本発明の改変タンパク質の製造方法は、特に限定されないが、以下に示すような手順で製造することが可能である。タンパク質を構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0067】
本発明では、配列番号1に示されるPQQGDHの74位、75位、76位、142位、168位、169位、170位、171位、224位、230位、236位、244位、245位、258位、342位、344位、345位、416位、429位及び430位に着目し、これらのアミノ酸部位へ上記変異導入キットを用いてランダムに変異を導入したライブラリーを作製し、基質特異性の変化を指標にスクリーニングしたところ、基質特異性が改善されたPQQGDH改変体を得ることができた。基質特異性に関しては、(T224A+A236T)、(Q168A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171S+T224A+A236T+M342I)、(M342I+430P)、(E245D+M342I+430P)、(Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430P)の多重変異体が特に好ましい。
【0068】
本発明の改変型PQQGDHタンパク質は、液状(水溶液、懸濁液等)、粉末、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。凍結乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、凍結乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
本発明の改変型PQQGDHタンパク質は、グルコース測定用組成物として用いることが出来る。本発明の改変型PQQGDHタンパク質またはグルコース測定用組成物は、グルコース測定を行なう際には、グルコースアッセイキット、グルコースセンサーとして用いることができる。本発明のグルコース測定用組成物は、その形態や使用方法に応じて、精製された状態であっても良いし、種々の添加物が加えられていても良い。
例えば、精製された改変タンパク質は、以下のような方法により安定化することができる。
【0069】
精製された改変タンパク質に(1)アスパラギン酸、グルタミン酸、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、α−ケトグルコン酸、α−サイクロデキストリンおよびそれらの塩からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物および(2)アルブミンを共存せしめることにより、改変タンパク質をさらに安定化することができる。
【0070】
凍結乾燥組成物中においては、PQQGDH含有量は、酵素の起源によっても異なるが、通常は約5〜50%(重量比)の範囲で好適に用いられる。酵素活性に換算すると、100〜2000U/mgの範囲で好適に用いられる。
【0071】
アスパラギン酸、グルタミン酸、αーケトグルタル酸、リンゴ酸、及びαーケトグルコン酸の塩としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、及びマグネシウム等の塩が挙げられるが特に限定されるものではない。上記化合物とその塩及びα−シクロデキストリンの添加量は、1〜90%(重量比)の範囲で添加することが好ましい。これらの物質は単独で用いてもよいし、複数組み合わせてもよい。
【0072】
含有される緩衝液としては特に限定されるものではないが、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、GOOD緩衝液などが挙げられる。該緩衝液のpHは5.0〜9.0程度の範囲で使用目的に応じて調整される。凍結乾燥物中においては緩衝剤の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1%(重量比)以上、特に好ましくは0.1〜30%(重量比)の範囲で使用される。
【0073】
使用できるアルブミンとしては、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)などが挙げられる。特にBSAが好ましい。該アルブミンの含有量は、好ましくは1〜80%(重量比)、より好ましくは5〜70%(重量比)の範囲で使用される。
【0074】
組成物には、さらに他の安定化剤などをPQQGDHの反応に特に悪い影響を及ぼさないような範囲で添加してもよい。本発明の安定化剤の配合法は特に制限されるものではない。例えばPQQGDHを含む緩衝液に安定化剤を配合する方法、安定化剤を含む緩衝液にPQQGDHを配合する方法、あるいはPQQGDHと安定化剤を緩衝液に同時に配合する方法などが挙げられる。
【0075】
また、カルシウムイオンを添加しても安定化効果が得られる。すなわち、カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることにより、改変タンパク質を安定化させることができる。カルシウム塩としては、塩化カルシウムまたは酢酸カルシウムもしくはクエン酸カルシウム等の無機酸または有機酸のカルシウム塩などが例示される。また、水性組成物において、カルシウムイオンの含有量は、1×10−4〜1×10−2Mであることが好ましい。
【0076】
カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることによる安定化効果は、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されたアミノ酸を含有させることにより、さらに向上する。
【0077】
グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。前記の水性組成物において、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されたアミノ酸の含有量は、0.01〜0.2重量%であることが好ましい。
【0078】
さらに血清アルブミンを含有させてもよい。前記の水性組成物に血清アルブミンを添加する場合、その含有量は0.05〜0.5重量%であることが好ましい。
【0079】
緩衝剤としては、通常のものが使用され、通常、組成物のpHを5〜10とするものが好ましい。具体的にはトリス塩酸、ホウ酸、グッド緩衝液が用いられるが、カルシウムと不溶性の塩を形成しない緩衝液はすべて使用できる。
【0080】
前記の水性組成物には、必要により他の成分、例えば界面活性剤、安定化剤、賦形剤などを添加しても良い。
【0081】
本願発明のグルコース測定用組成物は、宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分(例えばBSA等の生体由来物質)を含有しない構成とすることもできる。
【0082】
この場合、組成物は、改変型PQQGDHとカルシウムまたはカルシウム塩、及び緩衝剤から基本的に成る。また、これらを含有した上で、アミノ酸、あるいは有機酸をさらに加えてもかまわない。また、これらを含有するものであれば、水性組成物、凍結乾燥物を問わない。
【0083】
カルシウムの供給形態としては、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の無機酸または有機酸のカルシウム塩を挙げることができる。また、粉末組成物において、カルシウムの含有量(W/W)は、0.05%〜5%であることが望ましい。
【0084】
緩衝剤としては、一般的に使用されるものであれば良く、通常、組成物のpHを5〜10とするものが好ましい。但し、リン酸バッファーのようにカルシウムと不溶性の塩を形成するものは好ましくない。またトリスアミノメタンのようにアミノ基末端を有するものは、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼのPQQ結合を不安定とするために好ましくない。このため、緩衝剤としてさらに好ましくは、ホウ酸や酢酸といった緩衝剤や、BES、Bicine、Bis−Tris、CHES、EPPS、HEPES、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSO、TES、Tricineといったグッド緩衝剤が挙げられる。
また、粉末組成物において、緩衝剤の含有量(W/W)は、1.0%〜50%であることが望ましい。
【0085】
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
グルコースアッセイキット
本発明はまた、本発明に従う改変型PQQGDHを含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従う改変型PQQGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明の改変型PQQGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従う改変型PQQGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明の改変型PQQGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
【0086】
グルコースセンサー
本発明はまた、本発明に従う改変型PQQGDHを用いるグルコースセンサーを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明の改変型PQQGDHはホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、PQQを別の層としてまたは溶液中で提供することもできる。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明の改変型PQQGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
【0087】
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、PQQおよびCaCl、およびメディエーターを加えて一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明の改変型PQQGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1 :PQQ依存性グルコース脱水素酵素遺伝子の発現プラスミドの構築
野生型PQQ依存性グルコース脱水素酵素の発現プラスミドpNPG5は、ベクターpBluescript SK(−)のマルチクローニング部位にアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii) NCIMB11517株由来のPQQ依存性グルコース脱水素酵素をコードする構造遺伝子を挿入したものである。その塩基配列を配列表の配列番号2に、また該塩基配列から推定されるPQQ依存性グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。
【0089】
実施例2:変異型PQQ依存性グルコース脱水素酵素の作製
野生型PQQ依存性グルコース脱水素酵素遺伝子を含む組換えプラスミドpNPG5と変異導入部位のアミノ酸をコードするトリプレットを中央に含む40mer程度の合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って変異処理操作を行い、74位、75位、76位、142位、168位、169位、170位、171位、224位、230位、236位、244位、245位、258位、342位、344位、345位、416位、429位及び430位にランダムに変異導入した多重変異ライブラリーを作製した。そして、基質特異性の変化を指標にスクリーニングして得られた候補株の塩基配列を決定して、配列番号1記載のアミノ酸配列の224番目のトレオニンがアラニンに、236番目のアラニンがトレオニンに置換された変異型PQQ依存性グルコース脱水素酵素をコードする組換えプラスミド(pNPG5−T224A+A236T)を取得した。
次ぎに、pNPG5−T224A+A236Tを基に、その他の変異導入されていない部位の合成オリゴヌクレオチドを利用して、上記方法と同様にしてライブラリー作製、基質特異性を指標にしたスクリーニングを実施して、基質特異性が改善された変異型PQQ依存性グルコース脱水素酵素をコードする組換えプラスミド(pNPG5−Q168A+T224A+A236T+M342I、pNPG5−Q168A+171A+T224A+A236T+M342I、pNPG5−Q168A+171S+T224A+A236T+M342I)を取得した。
その他上記と同様に、ライブラリー作製、スクリーニングを実施し、記質特異性が改善された多重変異型PQQ依存性グルコース脱水素酵素をコードする組換えプラスミド(pNPG5−M342I+430P、pNPG5−E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P、pNPG5−Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430P)を取得し、各組換えプラスミドで大腸菌コンピテントセル(エシェリヒア・コリーJM109;東洋紡績製)を形質転換して、該形質転換体をそれぞれ取得した。
【0090】
実施例3:シュードモナス属細菌で複製できる発現ベクターの構築
実施例2で得た組換えプラスミドpNPG5−T224A+A236TのDNA5μgを制限酵素BamHIおよびXhoI(東洋紡績製)で切断して、変異型PQQ依存性グルコース脱水素酵素の構造遺伝子部分を単離した。単離したDNAとBamHIおよびXhoIで切断したpTM33(1μg)とT4DNAリガーゼ1単位で16℃、16時間反応させ、DNAを連結した。連結したDNAはエシェリヒア・コリDH5αのコンピテントセルを用いて形質転換を行った。得られた発現プラスミドをpNPG6−T224A+A236Tと命名した。
pNPG5−Q168A+T224A+A236T+M342I、pNPG5−Q168A+171A+T224A+A236T+M342I、pNPG5−Q168A+171S+T224A+A236T+M342I、pNPG5−M342I+430P、pNPG5−E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG5−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P、pNPG5−Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430Pの各組換えプラスミドについても上記方法と同様にして発現プラスミドを取得した。得られた発現プラスミドそれぞれpNPG6−Q168A+T224A+A236T+M342I、pNPG6−Q168A+171A+T224A+A236T+M342I、pNPG6−Q168A+171S+T224A+A236T+M342I、pNPG6−M342I+430P、pNPG6−E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430Pと命名した。
【0091】
実施例4:シュードモナス属細菌の形質転換体の作製
シュードモナス・プチダTE3493(微工研寄12298号)をLBG培地(LB培地+0.3%グリセロール)で30℃、16時間培養し、遠心分離(12,000rpm、10分間)により菌体を回収し、この菌体に氷冷した300mMシュークロースを含む5mMK−リン酸緩衝液(pH7.0)8mlを加え、菌体を懸濁した。再度遠心分離(12,000rpm、10分間)により菌体を回収し、この菌体に氷冷した300mMシュークロースを含む5mMK−リン酸緩衝液(pH7.0)0.4mlを加え、菌体を懸濁した。
該懸濁液に実施例3で得た発現プラスミドpNPG6−T224A+A236Tを0.5μg加え、エレクトロポレーション法により形質転換した。100μg/mlのストレプトマイシンを含むLB寒天培地に生育したコロニーより、目的とする形質転換体を得た。
pNPG6−Q168A+T224A+A236T+M342I、pNPG6−Q168A+171A+T224A+A236T+M342I、pNPG6−Q168A+171S+T224A+A236T+M342I、pNPG6−M342I+430P、pNPG6−E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430Pの各発現プラスミドについても上記方法と同様にして、該形質転換体をそれぞれ取得した。
【0092】
試験例1
GDH活性の測定方法
測定原理
D−グルコース+PMS+PQQGDH → D−グルコノ−1,5−ラクトン + PMS(red)
2PMS(red) + NTB → 2PMS + ジホルマザン
フェナジンメトサルフェート(PMS)(red)によるニトロテトラゾリウムブルー(NTB)の還元により形成されたジホルマザンの存在は、570nmで分光光度法により測定した。
単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりジホルマザンを0.5ミリモル形成させるPQQGDHの酵素量をいう。
(3)方法
試薬
A.D−グルコース溶液:0.5M(0.9g D−グルコース(分子量180.16)/10ml HO)
B.PIPES−NaOH緩衝液, pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHに溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.PMS溶液:3.0mM(9.19mgのフェナジンメトサルフェート(分子量817.65)/10mlHO)
D.NTB溶液:6.6mM(53.96mgのニトロテトラゾリウムブルー(分子量817.65)/10mlHO)
E.酵素希釈液:1mM CaCl, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)
手順
遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
1.8ml D−グルコース溶液 (A)
24.6ml PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5) (B)
2.0ml PMS溶液 (C)
1.0ml NTB溶液 (D)
【0093】
上記アッセイ混合物中の濃度は次のとおり。
PIPES緩衝液 42mM
D−グルコース 30mM
PMS 0.20mM
NTB 0.22mM
【0094】
3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
0.1mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
570nmでの水に対する吸光度の増加を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト)。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(E)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(E)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.1−0.8U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(20.1×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.1ml)
Vs:サンプル体積(1.0ml)
20.1:ジホルマザンの1/2ミリモル分子吸光係数
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
【0095】
実施例5:ホロ型発現精製酵素の調製
500mlのTerrific brothを2L容坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後別途無菌濾過したストレプトマイシンを100μg/mlになるように添加した。この培地に100μg/mlのストレプトマイシンを含むPY培地で予め30℃、24時間培養したシュードモナス・プチダTE3493(pNPG6−T224A+A236T)の培養液を5ml接種し、30℃で40時間通気攪拌培養した。培養終了時のPQQ依存性グルコース脱水素酵素活性は、前記活性測定において、培養液1ml当たり約30U/mlであった。
上記菌体を遠心分離により集菌し、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した後、超音波処理により破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。得られた粗酵素液をHiTrap−SP(アマシャム−ファルマシア)イオン交換カラムクロマトグラフィーにより分離・精製した。次いで10mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)で透析した後に終濃度が1mMになるように塩化カルシウムを添加した。最後にHiTrap−DEAE(アマシャム−ファルマシア)イオン交換カラムクロマトグラフィーにより分離・精製し、精製酵素標品を得た。本方法により得られた標品は、SDS−PAGE的にほぼ単一なバンドを示した。
pNPG6−Q168A+T224A+A236T+M342I、pNPG6−Q168A+171A+T224A+A236T+M342I、pNPG6−Q168A+171S+T224A+A236T+M342I、pNPG6−M342I+430P、pNPG6−E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P、pNPG6−Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430Pによるシュードモナス・プチダTE3493形質転換体についても上記方法と同様にして精製酵素標品を取得した。
このようにして取得した精製酵素を用いて性能を評価した。
【0096】
基質特異性
上記の活性測定方法に従い、PQQGDHの活性を測定した。グルコースを基質溶液とした場合の脱水素酵素活性値とマルトースを基質溶液とした場合の脱水素酵素活性値を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合の相対値を求めた。マルトースを基質溶液とした場合の脱水素酵素活性に際しては、0.5Mのマルトース溶液を調製して活性測定に用いた。結果を表1に示す。
なお、表1において、左欄「T224A」は224位のTをAに置換したことを表す。また、左欄の「171A」は171位の後ろにAを挿入したことを表す。「M342I+430P」は、上記と同様の原則によって表記したものを+記号でつなげて多重変異体を表記している。
マルトース作用性は、これら多重変異体PQQGDHのグルコースを基質とした活性値を100%として、マルトースを基質とした場合の活性値と比較して、その割合(%)が低い程、マルトースに対する作用性が低下しているものと評価した。
また、これら多重変異体PQQGDHの熱安定性は、菌体破砕液を45℃、1時間処理後の残存活性(%)を測定して、野生型PQQGDHと比較することにより熱安定性の優劣を評価した。
【0097】
【表1】

【0098】
野生型PQQGDHでは、グルコースとマルトースの反応性がほぼ等しくなっているのに対し、本願発明の改変型PQQGDHではマルトースの反応性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、基質特異性が改善されたPQQGDHを得ることができる。この改変型PQQGDHは、グルコースアッセイキット、グルコースセンサーに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸置換が、Acinetobacter属由来PQQGDHのアミノ酸配列における、(T224A+A236T)、(Q168A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171A+T224A+A236T+M342I)、(Q168A+171S+T224A+A236T+M342I)、(M342I+430P)、(E245D+M342I+430P)、(Q168A+L169P+A170M+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169F+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170L+E245D+M342I+N429D+430P)、(Q168A+169Y+L169P+A170M+E245D+M342I+N429E+430P)、のうちいずれか、または、他の種における上記と同等の位置におけるアミノ酸変異のうちいずれかを有する、野生型のPQQGDHよりも二糖類に対する作用性が低下した改変型PQQGDH。
【請求項2】
あるアミノ酸をPへ置換、あるいは、ある部位にPを挿入することにより安定性が低下した改変型PQQGDHにおいて、そのPの前後に荷電アミノ酸を位置させることにより安定性を向上させた改変型PQQGDH。
【請求項3】
Pの置換または挿入が430位周辺である請求項2に記載の改変型PQQGDH。
【請求項4】
荷電アミノ酸がD,Eである請求項2、3に記載の改変型PQQGDH。
【請求項5】
二糖類がマルトースである、請求項1に記載の改変型PQQGDH。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHをコードする遺伝子。
【請求項7】
請求項6に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体を培養することを特徴とする改変型PQQGDHの製造法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコース測定用組成物。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコースアッセイキット。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコースセンサー。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載の改変型PQQGDHを含むグルコース測定方法。
【請求項14】
PQQGDHに請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸変異を行うことを特徴とする、PQQGDHの二糖類に対する作用性を低下させる方法。
【請求項15】
PQQGDHを用いるグルコース測定系において、請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸変異を行ったPQQGLDを含有することを特徴とする、グルコース測定系における、測定の正確性を向上させる方法。
【請求項16】
PQQGDHを用いるグルコース測定系において、請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸変異を行ったPQQGLDを含有させることを特徴とする、測定の正確性が向上したグルコース測定用組成物を、製造する方法。

【公開番号】特開2006−217811(P2006−217811A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31498(P2005−31498)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】