説明

場所打ち杭築造方法及びその装置

【課題】場所打ち杭築造において、コンクリート打設後引き抜かれるケーシング背後に生じる厚み分の空間を埋めて侵入する地盤に対抗して、コンクリートを鉄筋籠の網目を通して被り部に圧入させ、設計杭径を確保し得る場所打ち杭築造方法と装置の提供。
【解決手段】掘削した杭孔に所定高さのコンクリート打設後、重錘体とその下方に伸びるバイブレータとでなる装置を用意し、ケーシングの引き上げ開始前にコンクリート表面に装置を載置して重錘体の荷重重量により鉄筋籠を通してコンクリートを被り部に圧入させ、ケーシング引き上げ開始と共にバイブレータを稼動して流動性を高めたコンクリートを、ケーシング背後に生じる空間を埋めて侵入する地盤に対抗させ、コンクリートの設計杭径を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アースドリル杭やリバースサーキュレーションドリル杭(以下、リバース杭と言う)等の場所打ちコンクリート杭の築造における、コンクリート打設後のコンクリート杭の品質を改良する方法と、改良に用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばリバース杭は以下の工程により、図3に示すように築造される。
1)地盤G中にリバースサーキュレーション掘削機(図示しない)により所定深さの杭孔1を掘削する。
2)杭孔1を泥水Wで満たし、杭孔内の水位Lを地盤中の地下水水位より少なくとも2m以上高く維持する。
3)掘削した杭孔1の杭壁2を保持するため、地上隣接部分(杭頭部)に鋼製のケーシング3(スタンドパイプとも言う)を設置する。
4)杭孔1が所定の深さに達したら、鉄筋籠4を杭孔に沈設する。
5)杭孔1に地上から底部まで、コンクリート打設用のトレミー管(図示しない)を設置する。
6)トレミー管に水循環用のポンプ(図示しない)を接続する。
7)杭孔底部に水を補給してからトレミー管を介しポンプで吸い上げ、底部に溜まったスライムを処理する。
8)スライムは地上で処理し、清水を杭孔1内に補給し、循環させる。
9)トレミー管の上端にコンクリート受けホッパー(図示しない)を接続し、コンクリート5を水中打設してリバース杭の場所打ちを行う。
10)所定の高さ5aまでコンクリート5を水中打設した後、コンクリート打設を終了する。
11)トレミー管を撤去する。
12)ケーシング3に吊りワイヤー6を掛け、クレーン等で吊る。
13)ケーシング3の地上に出ている部分に連結した例えばパワージャッキ7を稼動させる。
14)パワージャッキ7でケーシング3の重量を支え、ケーシング3と地盤Gの間の摩擦力を無くす。
15)ケーシング3と地盤Gの間の摩擦力が切れた時点でクレーンを稼動し、ケーシング3を吊り上げ、地盤Gから引き抜く。
【0003】
上記の従来工法では、このとき、つまり、ケーシング3を吊り上げ始めたとき、図4に示すような問題が発生する。
【0004】
図4において、点線Bはケーシング3より下方の杭孔1において地盤Gの土圧Psと泥水Wならびに打設コンクリート5の合成圧力Pcとが本来釣り合う所定の境界線、つまり設計上の杭壁2であり設計上の杭径Dの外周となる線を表すが、ケーシング3が矢印P方向に引き上げられると、ケーシング3の厚さに相当する空間Sが生じ、対応する部分の地盤Gが土圧Psで変形し、空間Sを埋める。この時、対応する杭孔1内のコンクリート5は、打設後の時間経過による変質のため流動性が小さくなり、空間Sを埋めて境界線Bを越えてくる地盤に直ちに対抗することができず、地盤によって境界線Bは越えられてしまう。その結果、鉄筋籠外周面におけるコンクリートの被り部の厚さ不足や、杭径Dの不足などの問題を引き起こす原因となる。特に、耐震性能の強化に伴い、鉄筋籠の主鉄筋と配力筋が密に配置され、主鉄筋の径が大きくされ、ダブルで配筋されるなど、鉄筋籠内側からのコンクリート粗骨材の流動がこれら鉄筋に阻まれ、ケーシング3の引き抜きの際に生じる空間Sを越える土圧に対して、打設コンクリートによる対抗が困難となっている。
【0005】
孔壁に対する打設コンクリートの付着力低下をマッドケーキによるものと特定し、これを改善する場所打ち杭の周辺強化方法の提案がある。解決手段として、泥水工法で掘削して水中コンクリートを打設した掘削孔の孔壁に対して、掘削孔内を昇降可能とし、かつ半径方向に径を拡縮可能とした載荷部材を備えた載荷装置により、打設した水中コンクリートを孔壁側に押圧して、孔壁面上のマッドケーキを破壊し、水中コンクリートを孔壁に直接付着させ、周辺地山を締め固める(特許文献1参照)。この方法に用いる載荷装置は、しかし、鉄筋籠の外周に沿って昇降する環状の内枠板の外周に設けられ、鉄筋籠と孔壁との間の隙間に位置するため、この隙間において拡径した載荷装置により孔壁側に押圧された水中コンクリートは内枠板によって背後を絶たれている、つまり、内枠板により鉄筋籠の内側のコンクリートから隔離された状態にある。従って、載荷装置が上昇した後にその厚さ分の空間が生じるが、その点の対策は明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−259610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決すべき課題は、従って、リバース杭を含むコンクリートの場所打ち杭の築造方法において、コンクリート打設の終了後に引き抜かれるケーシングの背後に生じる空間を埋め、更にコンクリートの被り部に侵入する地盤と確実に対抗して設計上の杭壁を維持することを可能とし、場所打ち杭の直径、鉄筋籠への被り、曲げモーメントへの耐力等の面で改良された場所打ち杭の築造方法と、改良のための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、請求項1の場所打ち杭の築造方法は、地上付近に打設したケーシングを通して、泥水を貯めながら所定深さまで杭孔を造成し、鉄筋籠を沈設し、トレミー管を底部まで設置して水中コンクリートを所定高さまで打設し、トレミー管を撤去し、クレーンによりケーシングを引き上げてなる方法において、棒状のバイブレータでなる振動発生手段を含む重錘体を打設コンクリート表面に載置すると共に荷重重量を掛けたコンクリートに振動発生手段を貫入し、ケーシングを引き上げながら振動発生手段を稼動してその振動により流動性を高めたコンクリートを、引き上げられたケーシング背後の空間に充填することを特徴とする。
本発明によれば、請求項2の場所打ち杭改良のための装置は、鉄筋籠内側空間に挿入される柱状体でなると共に所定高さに打設したコンクリートの表面に載置してコンクリートに荷重を掛ける重錘体と、載置位置の重錘体からコンクリート内に貫入するように重錘体の外周付近においてほぼ等間隔に装着した複数の棒状のバイブレータでなる振動発生手段とよりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、杭孔の造成から、地上隣接部へのケーシング打設、鉄筋籠沈設、トレミー管設置、トレミー管による水中コンクリート打設、トレミー管撤去までは実質的に従来と同じ工程を施工した後、ケーシングの引き上げ開始に先立って、底部から下方に突き出るバイブレータを備えた重錘体を打設コンクリートの表面に載置するとともに、バイブレータをコンクリート中に貫入させた状態でケーシングの引き上げを開始し、バイブレータを駆動するので、コンクリートは重錘体による荷重重量で鉄筋籠の被り部に圧入され、更に、バイブレータによる振動で流動性が高められると同時に荷重重量の作用により、引き上げられるケーシングの背後に生じる空間を埋めた地盤に対抗して所定の境界線Bを維持する。従って場所打ち杭としてのコンクリートの直径不足や、鉄筋籠の被りの不足による曲げモーメントへの耐力低下の恐れのない、改良された場所打ち杭が実現される。
【0010】
また、本発明装置によれば、上記の改良された場所打ち杭の実現のため、打設コンクリートに荷重重力を掛ける要素としての重錘体と、振動を与えるための要素としてのバイブレータとを合体した、きわめて簡素な構成によって場所打ち杭の改良が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明による例としてリバース杭築造方法を、ケーシング引き抜き工程の段階において用いられる本発明の場所打ち杭改良のための装置と共に略図的に示す杭孔の縦断面図。
【図2】図2は図1のH−H線に沿う、本発明による場所打ち杭改良のための装置の位置における杭孔の横断面図。
【図3】図3は従来のリバース杭築造方法を、ケーシング引き抜き工程の段階において略図的に示す杭孔の縦断面図。
【図4】図4は図3の従来の方法においてケーシング引き抜きの際にケーシング背後に生じる空間を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による改良された場所打ち杭築造方法を実施するための形態を、本発明による場所打ち杭改良のための装置の実施形態と共に、図1および図2について説明する。
【実施例】
【0013】
図1および図2について、本発明による場所打ち杭改良のための装置を用いて行う改良された場所打ち杭築造方法の実施例を説明する。ここでは例としてリバース杭の場合について説明される本発明方法においても、杭孔1の掘削から、ケーシング3の設置、鉄筋籠4の沈設、トレミー管の設置、トレミー管によるコンクリート5の水中打設、トレミー管の撤去まで、そしてパワージャッキとクレーンの稼働によるケーシングの引き抜きは、実質的に前記従来の方法における工程1)から12)までならびに13)から15)までと同じ工程が施行される。本発明はこれら従来の工程に二つの工程を加えた下記の工程1)〜17)を含み、工程13)と17)が本発明を特徴付けるものとなる。
【0014】
1)地盤G中にリバースサーキュレーション掘削機(図示しない)により所定深さの杭孔1を掘削する。
2)杭孔1を泥水Wで満たし、杭孔内の水位Lを地盤G中の地下水水位より少なくとも2m以上高く維持する。
3)掘削した杭孔1の杭壁2を保持するため、地上隣接部分(杭頭部)に鋼製のケーシング3(スタンドパイプ)を設置する。
4)杭孔1が所定の深さに達したら、鉄筋籠4を杭孔に沈設する。
5)杭孔1に地上から底部まで、コンクリート打設用のトレミー管(図示しない)を設置する。
6)トレミー管に水循環用のポンプ(図示しない)を接続する。
7)杭孔底部に水を補給してからトレミー管を介しポンプで吸い上げ、底部に溜まったスライムを処理する。
8)スライムは地上で処理し、清水を杭孔1内に補給し、循環させる。
9)トレミー管の上端にコンクリート受けホッパー(図示しない)を接続し、コンクリート5を水中打設してリバース杭の場所打ちを行う。
10)所定の高さ5aまでコンクリート5を水中打設した後、コンクリート打設を終了する。
11)トレミー管を撤去する。
12)ケーシング3に吊りワイヤー6を掛け、クレーンで吊る。
13)棒状のバイブレータ12のような振動発生手段を取付けた重錘体10を吊りワイヤー11を介しクレーンで吊り、所定高さ5aのコンクリート5表面(杭頭コンクリート余盛部)に載置すると共に、バイブレータ12をコンクリート5中に貫入させる。
14)ケーシング3の地上に出ている部分に連結した例えばパワージャッキ7を稼動させる。
15)パワージャッキ7でケーシング3の重量を支え、ケーシング3と地盤Gの間の摩擦力を無くす。
16)ケーシング3と地盤Gの間の摩擦力が切れた時点でクレーンを稼動し、ケーシング3を吊り上げ、地盤Gから引き抜く。
17)ケーシング3の引き抜き中に吊りワイヤー11を介するクレーンの吊り力を制御して、重錘体10の重量による荷重を掛けながらバイブレータ12をコンクリート5中で稼動させ、流動性を高めたコンクリートを強制的に鉄筋籠4の網目を通して被り部に移動させ、杭径Dを確保する。
【0015】
本実施例では杭径Dは例えばΦ1700〜Φ2800mmで、それ以外の径でも適用可能である。この杭径Dのリバース杭築造のための杭孔1において用いる場所打ち杭改良のための装置は、重錘体10と、バイブレータ12のような振動発生手段とでなる。重錘体の寸法と重量は施工径等により変更される。図1及び2に見られるように、円柱状の重錘体の外周に例えば90度間隔で一端側を取り付け、他端側を軸線方向に伸ばした4本の棒状のバイブレータ12は、それぞれΦ40mmであり、電線13を介して外部電源に接続され、遠隔操作されて、鉄筋籠4の内周面に近接した位置でコンクリート5に高周波振動を与える。
【0016】
所定高さ5aにおいて重錘体10を載置するコンクリート表面は杭頭コンクリート余盛部として余盛を行うと共に、荷重を掛けるときに杭頭天端+60cm以下に重錘体10を下げないように、吊りワイヤー11に目印を付ける。これらの条件の下でリバース杭の築造を実施した結果、杭径2800mmの大口径の場合でも良好で密実な杭頭をもつリバース杭が得られた。
【0017】
なお、上記実施例は例としてリバース杭の場合について記載されるが、アースドリル杭の場合、掘削装置は異なっても、コンクリート打設完了時にケーシングを引き上げながら行う重錘荷重と振動の付与によるコンクリート杭品質改良の点では全く同じである。従って本発明はリバース杭築造に限定されず、場所打ち杭全般の築造に適用されるものである。
【0018】
また、ケーシング引き上げの際に地盤との摩擦を無くすために用いるパワージャッキは例として示すのみで、他の同等の手段を用い得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0019】
G 地盤
B 杭壁
D 杭径
L 孔内水位
W 泥水
Pc 合成圧力
Ps 土圧
S 空間
1 杭孔
2 杭壁
3 ケーシング
4 鉄筋籠
5 コンクリート
5a 所定高さ
6 吊りワイヤー
7 パワージャッキ
10 重錘体
11 吊りワイヤー
12 バイブレータ
13 電線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上付近に打設したケーシングを通して、泥水を貯めながら所定深さまで杭孔を造成し、鉄筋籠を沈設し、トレミー管を底部まで設置して水中コンクリートを所定高さまで打設し、トレミー管を撤去し、クレーンによりケーシングを引き上げてなる方法において、
棒状のバイブレータでなる振動発生手段を含む重錘体を打設コンクリート表面に載置すると共に荷重重量を掛けたコンクリートに振動発生手段を貫入し、ケーシングを引き上げながら振動発生手段を稼動してその振動により流動性を高めたコンクリートを、引き上げられたケーシング背後の空間に充填することを特徴とする場所打ち杭築造方法。
【請求項2】
鉄筋籠内側空間に挿入される柱状体でなると共に所定高さに打設したコンクリートの表面に載置してコンクリートに荷重を掛ける重錘体と、載置位置の重錘体からコンクリート内に貫入するように重錘体の外周付近においてほぼ等間隔に装着した複数の棒状のバイブレータでなる振動発生手段とよりなることを特徴とする場所打ち杭改良のための装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−137318(P2011−137318A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297204(P2009−297204)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000207780)大豊建設株式会社 (77)
【Fターム(参考)】