説明

場所打ち鋼管コンクリート杭およびその施工方法

【課題】杭施工時における鋼管外側への突出量が小さく周辺地盤を緩める恐れがなく、最終的な鋼管相互の接合部は全強接合と同等な接合部とした場所打ち鋼管コンクリート杭およびその施工方法の提供。
【解決手段】下部が鉄筋コンクリート構造であり、上部が直列に配置された複数の鋼管にて被覆された鋼管コンクリート構造の場所打ち杭における鋼管同士の接合部において、上下の鋼管2内側に渡って周方向に複数に分割された接合用の添接板11が配置され、各添接板11と鋼管2に予め設けられたボルト孔を貫通した高力ボルト14により締結されていることにより接合されていると共に、鋼管下部の内部には長尺鉄筋籠4の上部が配置され、上下の鋼管2の接合部の内側には上下方向に所定長さに渡って短尺補強鉄筋籠5を埋め込み配置することで、所定の耐力を有するように鋼管接合部を補強している場所打ち鋼管コンクリート杭1とその施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部を鋼管コンクリート構造として耐震強度を高めた場所打ち杭に関し、特に、下部が鉄筋コンクリート構造で上部が鋼管にて被覆された鋼管コンクリート構造で、上部鋼管相互の接合部を有する場所打ちの鋼管コンクリート杭およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、杭上部の鋼管相互を接合する構造として下記(1)から(4)の方法が知られている。
(1)図11に示すように、上下の鋼管2相互の接合を溶接Wによる溶接接合構造した現場打ち鋼管コンクリート杭26とする場合(例えば、特許文献1参照)、(2)上下の鋼管相互の接合を鋼管の内外に添接板を配置し通常のボルト・ナット接合による全強継手構造とする場合(例えば、特許文献2参照)、(3)鋳鋼製の継手とロックピンを用いた接合や、その他機械継手とする場合(例えば、特許文献3、4参照)、(4)コンクリート充填の鋼管の接合構造として、上下の鋼管同士を接合せずに、鋼管内部のコンクリートに補強鉄筋を配置して接合する構造とする場合等が知られている(例えば、特許文献5参照)。なお、軸回転形トルシア形高力ボルトも知られている(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】特開平10−24393号公報
【特許文献2】特開2006−152796号公報
【特許文献3】特開2005−48583号公報
【特許文献4】特開2004−36329号公報
【特許文献5】特開平9−291598号公報
【特許文献6】特開2002−181018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記(1)の上下の鋼管相互の接合を溶接とした場合、外径が1000mmから3000mmの大径の鋼管を溶接すると、接合時間が大幅にかかると共に、その間、高価な重機などが待ち状態となり重機の使用効率が低下し、工事費が増大するという問題がある。
また、前記(2)の上下の鋼管相互の接合を通常のボルト接合の場合で、図10に示すような全強継手とするには、鋼管24の内外に添接板11を配置し、内外の添接板をボルト・ナット25により摩擦接合し、内外2枚の添接板による2面せん断の摩擦接合となるため、添接板とボルト・ナットによる鋼管外部への突出量Tが大きくなり、鋼管24を地盤中に押し込む際の抵抗が大きくなり、大型の機械が必要になり、また周辺地盤を緩めるなどの問題があり、好ましくない。
さらに前記(3)の鋳鋼製の継手とロックピンを用いた接合や、その他機械継手の場合は、特に大口径の鋼管相互の接合では、接合部品が高価であるため、鋼管をケーシング機能のみとして繰り返し使用する場合には使用されるが、埋め込む構造の杭では、コスト高になり使用できないという問題がある。
前記(4)のコンクリート充填の鋼管の接合構造として、上下の鋼管同士を接合せずに、鋼管内部のコンクリートに補強鉄筋を配置して接合する構造は、鋼管を接合しないので、施工時に鋼管を地盤に押し込んだり、引抜いたり出来ないという問題がある。
本発明は、これらの課題を有利に解決することができ、鋼管相互の接合時間が短縮でき、安価で、鋼管を地盤に押し込む際に大きな抵抗とならないように、鋼管外側への突出量が小さな鋼管相互の安価な接合構造にでき、また、鋼管相互の接合部は鋼管外部への突出量が少なく周辺地盤を緩める恐れもなく、施工時における鋼管の押し込みおよび引き抜きを容易にでき、最終的な鋼管相互の接合部は全強継手構造と同等な接合部とした場所打ち鋼管コンクリート杭およびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明の場所打ち鋼管コンクリート杭では、下部が鉄筋コンクリート構造であり、上部が直列に配置された複数の鋼管にて被覆された鋼管コンクリート構造の場所打ち杭における鋼管同士の接合部において、上下の鋼管内側に渡って周方向に複数に分割された接合用の添接板が配置され、各添接板と鋼管に予め設けられたボルト孔を貫通した高力ボルトにより締結されていることにより接合されていると共に、鋼管下部の内部には長尺鉄筋籠の上部が配置され、上下の鋼管の接合部の内側には上下方向に所定長さに渡って短尺補強鉄筋籠を埋め込み配置することで、所定の耐力を有するように鋼管接合部を補強したことを特徴とする。
第2発明では、第1発明の場所打ち鋼管コンクリート杭において、前記高力ボルトが軸回転トルシア形高力ボルトであることを特徴とする。
第3発明では、第1発明または第2発明の場所打ち鋼管コンクリート杭において、上下の鋼管の接合部の内側に上下方向に所定長さに渡って配置された短尺補強鉄筋籠と、杭下部の鉄筋コンクリート構造部の長尺鉄筋籠とは、吊り下げ兼組み立て用の鉄筋により一体として籠状に形成されていることを特徴とする。
第4発明では、第3発明の場所打ち鋼管コンクリート杭において、上下方向に直列に3つ以上鋼管が配置されて、上下方向の接合部が複数箇所ある場合に、各接合部に配置された短尺補強鉄筋籠同士は、吊り下げ兼組み立て用鉄筋により一体とされていることを特徴とする。
第5発明の場所打ち鋼管コンクリート杭の施工方法においては、複数の鋼管を鋼管の内側に配置された添接板および高力ボルトにより締結すると共に鋼管内部を掘削しながら鋼管を地中に設置し、下端部に位置する長尺鉄筋籠と、その長尺鉄筋籠よりも上位に位置し、かつ上下の鋼管の接合部の内側に上下方向に所定長さに渡って位置するように配置された短尺補強鉄筋籠とを、吊り下げ兼組み立て用鉄筋により一体として籠状とした短尺補強鉄筋籠付き籠状体を前記鋼管内に配置し、次いで、前記鋼管内にコンクリートを打設すると共に、鋼管継手部が短尺補強鉄筋籠の位置に位置するように、鋼管を所定高さ引き上げ、上部側に位置する所定長さに渡る鋼管を撤去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
第1発明によると、鋼管の接合時間を、溶接接合などに比べて、大幅に短縮できるとともに、上下の鋼管同士の接合を鋼管内側にのみ配置した添接板により接合強度を施工時に必要とする強度に限定することで、コストの削減が図れる。しかも、接合構造の鋼管の外側への突出量はボルト頭のみであるため、鋼管を地盤に押し込む際の抵抗を最小限に留めることができ、さらに、継ぎ手部に配置されコンクリートに埋め込まれる短尺補強鉄筋籠により鋼管杭継ぎ手部を補強した設計上合理的で経済的に安価な場所打ち鋼管コンクリート杭とすることができる。
また本発明の場所打ち鋼管コンクリート杭は、鋼管相互の接合部は鋼管外部への突出量が少なく周辺地盤を緩める恐れもなく、品質のよい場所打ち鋼管コンクリート杭とすることができる。また、鋼管相互は圧縮および引張に抵抗できる連結構造とされているため、施工時における鋼管の押し込みおよび引き抜きを容易にでき、さらに最終的な鋼管相互の接合部は全強継手構造と同等な接合部とすることができる。
第2発明によると、前記高力ボルトが軸回転トルシア形高力ボルトであるので、所定のトルクでボルト頭部の軸部を捻り切断して締め付けトルクを管理された摩擦接合とすることができ、添接板による上下の鋼管を確実に接合した場所打ち鋼管コンクリート杭とすることができる。
第3発明によると、上下の鋼管の接合部の内側に上下方向に所定長さに渡って配置された短尺補強鉄筋籠と、杭下部の鉄筋コンクリート構造部の長尺鉄筋籠とは、吊り下げ兼組み立て用の鉄筋により一体として籠状に形成されているので、短尺補強鉄筋籠と下部の長尺鉄筋籠を確実に所定の位置に埋め込み配置することができる。
第4発明によると、上下方向の接合部が複数箇所ある場合にも、吊り下げ兼組み立て用の鉄筋により各短尺補強鉄筋籠が一体とされているので、短尺補強鉄筋籠を確実に継ぎ手部の所定の位置に埋め込み配置することができる。
第5発明によると、上下の鋼管同士の接合を鋼管内側にのみ配置した添接板により接合強度を施工時に必要とする強度とした複数の鋼管をその鋼管内の土砂を排土し、上位に位置する短尺補強鉄筋籠の挿入は下部の長尺鉄筋籠の挿入と同時に行うことが出来るため、工程及びコストに対する影響が最小限であり、結果としてコスト及び工程を削減しつつ、強固な接合構造が構築できる。また、上位に位置する短尺補強鉄筋籠と下部の長尺鉄筋籠とを吊り下げ兼組み立て用鉄筋により一体として籠状とした短尺補強鉄筋籠付き籠状体を挿入する施工方法であるので、施工も簡単である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<鉄筋籠の形態>
まず、本発明の場所打ち鋼管コンクリート杭1(図1から3参照)の一実施形態において使用され、鋼管2内に配置される短尺補強鉄筋籠付き籠状体3の一実施形態について、図7および図8を参照して説明する。
短尺補強鉄筋籠付き籠状体3は、最下部の鋼管2の下部に位置する長尺鉄筋籠4と、上下の各鋼管2の接合部に渡って各鋼管2の内側に配置される短尺補強鉄筋籠5を備えていると共に、これらを接続し一体化している複数の吊り下げ兼組み立て用鉄筋6とからなっている。
鋼管2の下部より下方に配置される長尺鉄筋籠4は、周方向にほぼ等角度間隔をおいて設置された長尺縦鉄筋7とこれらの外側に設置された多数の環状鉄筋8を上下方向に間隔をおいて一体に備えた籠状体とされ、また、短尺補強鉄筋籠5は、周方向にほぼ等角度間隔をおいて設置された短尺縦鉄筋9とこれらの外側に配置されて固定された多数の環状鉄筋8とを上下方向に間隔をおいて備えた短尺籠状体とされ、長尺鉄筋籠4と、一つまたは複数の短尺補強鉄筋籠5とを、これらの環状鉄筋8の内側に配置されて一体化された複数の吊り下げ兼組み立て用鉄筋6を備えた短尺補強鉄筋籠付き籠状体3とされている。
【0007】
前記の吊り下げ兼組み立て用鉄筋6は、長尺鉄筋籠4と短尺補強鉄筋籠5との上下方向および前後左右方向の位置を保持し、短尺補強鉄筋籠付き籠状体3全体の形状を保持するために使用され、また、短尺補強鉄筋籠付き籠状体3を組み立てる場合に、長尺鉄筋籠4側と短尺補強鉄筋籠5側とが順次組み立てる場合に、鉄筋籠の中心軸から半径方向の所定の位置になるように(位置ずれしないように)使用されていると共に吊り下げ部材として、短尺補強鉄筋籠付き籠状体3の組み立て時に組み込まれている。吊り下げ兼組み立て用鉄筋6の下端側は、長尺鉄筋籠4側の軸方向全長に渡って配置してもよく、長尺鉄筋籠4の軸方向中央部あたりから設置するようにすることも可能である。鉄筋相互の交差部は結束線や溶接等の固定手段により固定される。
【0008】
前記の長尺鉄筋籠4および短尺補強鉄筋籠5は、上下の鋼管2相互の接合部の内側に挿通可能な外径寸法にされ、前記の短尺補強鉄筋籠5は、本発明においては、上下の鋼管2相互の接合部の内側に配置され、コンクリート10に埋め込まれて、鋼管2の接合部を補強するために使用される。短尺補強鉄筋籠付き籠状体3は、予め地上の作業場にて、鉄筋を籠状に組み立てて製作される。前記の短尺補強鉄筋籠付き籠状体3はクレーンにて吊り上げて、掘削した杭孔に挿入されるため、短尺補強鉄筋籠付き籠状体3の外径寸法は、場所打ち鋼管コンクリート杭1における半径方向の添接板11の内側に配置されるナット12あるいはボルト軸先端部より内側になるように外径寸法は設定される。
【0009】
本発明では、場所打ち鋼管コンクリート杭1において、設計上必要となる鉄筋は、存置させる鋼管2の下部の位置する鉄筋コンクリート構造部分の鉄筋(長尺鉄筋籠4)と、上下の鋼管2の接合部の上下所定長さにわたり設置される鉄筋(短尺補強鉄筋籠5)としている。
【0010】
本発明では、上下の鋼管2の接合部において、その接合強度は、鋼管2または連結された上下方向の複数の鋼管2を施工するのに、施工上必要な強度以上であり、場所打ち鋼管コンクリート杭1としての完成系の設計上必要な強度以下として経済的に設定されているので、場所打ち鋼管コンクリート杭1の完成系の接合部の強度が設計上必要な耐力を有するように、耐力の不足分を補うように、上下の鋼管2の接合部の上下方向に渡り所定長さ設置される短尺補強鉄筋籠5の必要鉄筋量が設定される。
【0011】
前記の長尺鉄筋籠4は、鉄筋コンクリート構造部の下部杭体13の長尺縦鉄筋7と、接合部の短尺補強鉄筋籠5とを吊り下げ兼組み立て用鉄筋6により一体として籠状に形成する。そして、一体として形成された長尺鉄筋籠4を杭孔上方より、吊り下げ杭孔に設置するが、上下の鋼管の接合部の短尺補強鉄筋籠5による鉄筋が、鋼管接合部の上下所定長さに渡って設置されるように予め短尺補強鉄筋籠5および長尺鉄筋籠4を含めた鉄筋籠全体を形成する必要がある。短尺補強鉄筋籠付き籠状体3の設置施工誤差などを考慮して、短尺補強鉄筋籠5における短尺縦鉄筋9の長さを多少長めに設定するなどにより、十分な耐力の確保を図ることができる。このように短尺補強鉄筋籠5は、下部の長尺鉄筋籠4を杭頭から吊りおろして挿入するときに、吊り下げ兼組み立て用鉄筋6の途中の所定の位置(最終的に上下の鋼管2の接合部が配置される場所)に、予め地上の作業場で装着しておくことで、短尺補強鉄筋籠5の設置のために、場所打ち鋼管コンクリート杭1全体の工程が延長されることはない。
【0012】
<上下の鋼管の接合>
次に、本発明においては、場所打ち鋼管コンクリート杭1における上下の鋼管2の接合部の構造にも特徴があるので、この部分の構造について説明する。
【0013】
上下の鋼管2相互の接合部は、図5および図6に示すように、上下の鋼管2同士を添接板11を介した接合部において、上下の鋼管2の内側に接合用の複数の添接板11が、接続される上下の鋼管2に渡って、周方向に複数に分割されて配置され、前記添接板11と各鋼管本体に予め設けられたボルト孔を貫通し、高力ボルト14により締結されている。
【0014】
上下の鋼管2のボルト接合では、高力ボルト14を鋼管外側(片側)から挿入・本締めするため、事前に各鋼管2内部の添接板11にナットを設置しておく必要があるが、接合用の添接板11の内側には、ナット12が予め溶接により固着されているか、もしくは図示を省略するが、添接板11にナットホルダーを固定して、そのナットホルダーによりナット12が保持されることにより、ナット12は先行設置されている。
【0015】
前記の添接板11は、予め上部の鋼管2の下端部に添接板11の下半分が上部鋼管の下から突出した形態にてボルトで仮締め固定し、下位に位置する鋼管の上に、該添接板11の下半分を下位鋼管2内に挿入するように建て込んだ後、下位の鋼管の上端部に予め設けられたボルト孔からボルトを挿入し、該添接板11の下部と下位鋼管の上端部をボルトにて本締めして接合するとともに、上部鋼管の下端部に仮締め固定したボルトを本締めすることでよい。
締め付け用の高力ボルト14としては、図9に示すように、ボルト頭部15とピンテ−ル16との間の軸部に断面V字状の環状溝による破断用小断面軸部16aを有する軸回転トルシア形超高力ボルト14を用いることができる。軸回転トルシア形超高力ボルト14は、専用回動工具にてボルト頭部先端のピンテ−ル16を掴み、ボルト自身を回転させて行う。この際、六角座金17は軸回転トルシア形超高力ボルト14を締め付けるための反力を採るために利用している。反力は六角座金17と被接合材としての鋼管2との接触面での摩擦力で被接合材側へ伝達し処理している。最終的に小断面軸部16aで破断させてピンテ−ル16を除去して、締付作業を完了する。
【0016】
前記の場合、一般的な、摩擦接合用の高力六角ボルトや構造用トルシア形高力ボルトでは、ナットを回転させて締め付けるシステムであるため、鋼管2の外側からの締付作業を行うためには、鋼管2にハンドホール等を設け、鋼管2の内側からボルトを差し込み外側からナットを締め付ける作業を行う必要があるが、鋼管外側にはナットと、ナットからボルト軸部先端部が所定長さ飛び出るため、鋼管2からの突出長が大きくなるという欠点もある。また人が鋼管2の内側に入って締付け作業等を行う方法も考えられるが、安全面で大きな課題となる。
【0017】
次に、図1〜図3を参照して、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1〜図3は本発明の一実施形態の場所打ち鋼管コンクリート杭1を示すものであって、地盤18に削孔された縦孔19に、下部に鉄筋コンクリート構造の下部杭体13が設けられ、その鉄筋コンクリート構造の下部杭体13に接続するように、上部が直列に配置された複数の鋼管2にて被覆された鋼管コンクリート構造の場所打ち鋼管コンクリート杭1とされ、さらに、上部の複数の鋼管2同士の接合部は、上下の各鋼管2の内側に渡って周方向に複数に分割された接合用の鋼製の添接板11が配置され、各添接板11と上下の各鋼管2に予め設けられたボルト孔を貫通した高力ボルト14を、杭半径方向で添接板11の内側に溶接等により固定したナット12に締結されていることにより接合されている。
【0019】
前記の高力ボルト14は、軸回転トルシア形高力ボルト14とされ、上下の各鋼管2の外側に軸回転トルシア形高力ボルト14の頭部が位置するように設置されて、鋼管2の外側から軸回転トルシア形高力ボルト14のピンテール16を電動式回動工具(図示を省略)に係合可能にされ、上下の各鋼管2の内側に渡って配置された添接板11に配置されたナット12に、鋼管2および添接板11のボルト孔に渡って挿通した高力ボルト14の軸部をねじ込みピンテール16を捻り破断させることにより、締め付けトルクを管理した状態で上下の鋼管2相互が連結されて一体化されている。
【0020】
なお、図示を省略するが、前記の添接板11にナットホルダーを溶接等により固定しておき、そのナットホルダーに各ナット12を回転不能に保持させておくと、ナットの回転を防止して、高力ボルト14のねじ込み接合作業を容易にでき、個々のナット12を溶接により固定する場合よりも正確に添接板11の所定の位置に設置することができる。
【0021】
下部杭体13と鋼管2下部の内部には、長尺鉄筋籠4の上部が配置され、上下の鋼管の接合部の内側には上下方向に所定長さに渡って短尺補強鉄筋籠5を埋め込み配置することで、所定の耐力を有するように鋼管接合部を補強している場所打ち鋼管コンクリート杭1とされている。
【0022】
上下の鋼管2の接合部の内側に上下方向に所定長さに渡って配置された短尺補強鉄筋籠5と、杭下部の鉄筋コンクリート構造部の長尺鉄筋籠4とは、吊り下げ兼組み立て用鉄筋6により一体として籠状に形成されている。この実施形態では、上下の鋼管2相互の接合部が2箇所あるため、上下方向に間隔をおいて複数の短尺補強鉄筋籠5が設けられている。上下の鋼管2相互の接合部が3つ以上ある場合には、複数の吊り下げ兼組み立て用鉄筋6を短尺補強鉄筋籠5における環状鉄筋8に溶接により固定し、短尺補強鉄筋5を吊り下げ兼組み立て用鉄筋6に保持させた状態で吊り下げ配置される。
【0023】
前記の長尺鉄筋籠4および短尺補強鉄筋籠5を有する短尺補強鉄筋籠付き籠状体3を所定の位置に配置可能にしているのは、前記の吊り下げ兼組み立て用鉄筋6であり、これを地盤18上に設置された支持部に支持させることにより、短尺補強鉄筋籠付き籠状体3の各部を所定の位置に配置可能にしている。
【0024】
上下の鋼管2を添接板11を介して一体化している高力ボルト14は、例えば、ボルト強度が1400N/mmの軸回転トルシア形超高力ボルト14が使用され、その軸回転形高力ボルト14におけるピンテ−ル16が鋼管2の外側に位置するように配置され、前記ピンテ−ル16が所定の回動工具によりねじり切断された接合部とされている。
【0025】
本発明では、鋼管2は、場所打ち鋼管コンクリート杭1として必要な長さ寸法のみ残され、縦孔19内における泥水あるいは安定液と置き換えるようにトレミー管20(図4参照)によりコンクリート10を打設する場合に、徐々に連結されている各鋼管2は引き上げられ、所定の長さ寸法のみ残されて、場所打ち鋼管コンクリート杭1として上部の必要な耐震性能を確保するようにしている。また、上下の鋼管2の接合部は、鋼管相互の内側に渡って配置された添接板11により一面せん断構造部とその内側の鉄筋コンクリート構造部が共同して耐震性能を確保するようにしている。図示の場所打ち鋼管コンクリート杭1では、最終的に残される上下の鋼管2の接合部が、杭軸方向に2箇所であるために、短尺補強鉄筋籠5を2箇所設ける形態としているが、上下方向に最終的に残される上下の鋼管2の接合部が3箇所以上である場合には、これに対応して、適宜、短尺補強鉄筋籠5を3箇所以上に設けるようにすればよい。
【0026】
図示の実施形態で、複数の短尺補強鉄筋籠5と、長尺鉄筋籠4とは、前記のように、吊り下げ兼組み立て鉄筋6により一体的に組み立てられ、クレーンにより搬送して、杭孔内に挿入設置される。
【0027】
上下方向に直列に3つ以上鋼管が配置されて、上下方向の接合部が複数箇所ある場合は、各接合部に配置された短尺補強鉄筋籠同士は、吊り下げ兼組み立て用鉄筋6により一体とされている場所打ち鋼管コンクリート杭1とされる。
【0028】
したがって、本発明の場所打ち鋼管コンクリート杭1では、上部は、鋼管コンクリート構造であり、鋼管相互の接合部は、鋼管2とその内側に配置された添接板11との一面せん断の鋼管相互の接合部で、その内側が短尺補強鉄筋籠5とコンクリートによる複合構造で、杭下部は鉄筋コンクリート構造とされている。
【0029】
本発明による場所打ち鋼管コンクリート杭1の施工要領を、図4の施工順序に基づき説明する。
(1)図4(a)(b)に示すように、掘削機21を水平に据付け、鋼管中心と杭芯を合わせるように設置する。
(2)図4(b)に示すように、所定長さの鋼管2を地盤18に揺動(回転)・押し込みながらハンマーグラブ22で鋼管2内の土砂を掘削する。
(3)図4(c)に示すように、鋼管2を所定長さ押し込んだら、該鋼管2の上端にさらに所定長さの鋼管2を、鋼管内側に配置される添接板11および鋼管2外側からねじ込まれる高力ボルトにより鋼管相互を縦方向に接合して、さらに掘削と鋼管2の揺動(回転)・押し込みを繰り返し、掘削全長にわたって鋼管2を押し込む。
(4)図4(d)に示すように、鋼管2下端部が支持層23に到達確認後、根入れ掘削を行う。
(5)図4(e)に示すように、底ざらい掘削後、沈殿バケット27を縦孔19の孔底へ投入し、沈殿待ちの後スライムと共に引き上げる。
(6)図4(f)に示すように、地上で、かご状に加工した短尺補強鉄筋籠付き籠状体3を、杭孔内中央に鉛直に建て込む。
(7)図4(g)に示すようにトレミー管20を挿入する。
(8)図4(h)に示すようにトレミー管20でコンクリートを打込む。
(9)図4(i)に示すように、コンクリート打込みに伴い鋼管2およびトレミー管20を引抜き回収するが、鋼管2については、設計上必要な長さを地中に存置させ、それ以降はトレミー管20のみを引き上げつつコンクリート10を打込む。
(10)図4(j)に示すように、空堀部分の埋め戻し28を行う。
【0030】
<前記の本発明の鋼管2相互の接合形態と他の接合形態との相違について>
上下の鋼管2を従来のように、溶接により接合した場合と、半径方向で鋼管2の内外両側に2枚の添接板11を配置して、鋼管2の内外2枚の添接板による2面せん断構造とした場合と、本発明のように、鋼管2の内側に1枚の添接板11を配置して、鋼管2の外側から高力ボルト14により接合する形態とした場合で、鋼管2の直径(D)が1600mmで厚さ22mm、下記人数の作業者にて作業した場合の差異は以下のようになる。
(1)溶接接合の場合は、作業者2人で、接合時間が2.5時間、鋼管2の外面への突出長はほとんど0mm。
(2)2面せん断高力ボルト摩擦接合(全強接合の場合)、 M30の高力ボルトが150本(上下の各鋼管にそれぞれ75本を使用して接合するとした場合、75×2上下)。
この場合の接合時間は、60分程度(作業者2人)、鋼管外面への突出長は54mm+α(添板16mm+ナット頭ワッシャー38mm)となる。
前記の高力ボルトは、摩擦接合用高力六角ボルト(例えばJIS B1186使用)、また、αはボルトのナットからの飛び出し長さである。
3)本発明の1面せん断高力ボルト接合(施工時荷重のみ=全強強度の約半分)
M30の高力ボルトが150本(上下の各鋼管にそれぞれ75本を使用して接合するとした場合、75本×2上下)
この場合の接合時間は60分程度(作業者2人)で、鋼管外面への突出長は25mm(ボルト頭19mm+ワッシャー6mmのみ)となる。ただし、軸回転トルシア形超高力ボルト使用。
4)本発明の1面せん断高力ボルト接合(施工時荷重のみ=全強強度の約1/4の場合)
M30の高力ボルトが76本(上下の各鋼管にそれぞれ38本を使用して接合するとした場合、38本×2上下)で2人作業で作業した場合。
この場合の接合時間は30分程度で、鋼管外面への突出長は25mm(ボルト頭19mm+ワッシャー6mmのみ)となる。ただし、軸回転トルシア形超高力ボルト使用。
前記(3)および(4)に示すように、本発明の場合は、高力ボルト本数と鋼管2の内側に配置する添接板の強度との各種の組合せ設計ができ、設計の自由度が高い。
【0031】
(本発明のポイント)
前記のように、本発明では、場所打ち鋼管コンクリート杭1を構築すべく施工する場合、上下方向の鋼管2相互の継手構造は、施工時には、地盤掘削時の孔壁保護のために地中に押し込み、コンクリート打設時に引抜くときに必要となる必要最低限の強度のみあればよく、一方で、場所打ち鋼管コンクリート杭1の完成時には、鋼管2内部に充填されたコンクリート10と鋼管2とが合成構造としての部材の耐力を発揮するように、強固に接合されていなければならない。
そこで、施工時には、上下の鋼管2相互の接合構造として、鋼管2の内側に添接板11を添接した一面せん断のボルト接合構造とし、鋼管2の地盤18中への施工時に必要最小限の強度を確保するようにしている。このとき、鋼管2の外側への突出部はボルトの頭のみであるので、鋼管2を地盤18に押し込む際に大きな抵抗とならない。
【0032】
しかし、このままでは、上下の鋼管2相互の接合構造は、一面せん断のボルト摩擦接合構造であるので、鋼管肉厚程度の添接板11によっても全強接合とならない(少なくとも鋼管に設けるボルト孔の孔欠損分の耐力が不足する。)ので、鋼管2内部にコンクリート10を充填した完成系では、鋼管相互の接合部に所定長さにわたり、短尺補強鉄筋籠5を内蔵することにより不足する強度を補強する。短尺補強鉄筋籠5は、下部の長尺鉄筋籠4を杭頭から吊りおろして挿入するときに、吊り下げ兼組み立て鉄筋6の途中の所定の位置(最終的に鋼管の接合部が配置される内側の場所)に溶接等により固定して装着しておくことで、設置できるので、短尺補強鉄筋籠5の設置のために工程が延長されることなく、低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態の鋼管コンクリート杭を示す縦断正面図である。
【図2】図1における上下の鋼管接合部を拡大して示す縦断正面図である。
【図3】図1の横断平面図である。
【図4】鋼管コンクリート杭の施工手順を示す説明図である。
【図5】上下の鋼管の接合部を拡大して示す縦断正面図である。
【図6】図5の横断平面図である。
【図7】短尺補強鉄筋籠付き鉄筋籠を示す一部縦断正面図である。
【図8】短尺補強鉄筋籠付き鉄筋籠の横断平面図である。
【図9】軸回転形トルシア形超高力ボルトを示すものであって、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図10】従来の上下の鋼管相互の接合構造を説明するための説明図である。
【図11】従来の鋼管コンクリート杭の一形態を示す縦断正面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 鋼管コンクリート杭
2 鋼管
3 短尺補強鉄筋籠付き籠状体
4 長尺鉄筋籠
5 短尺補強鉄筋籠
6 吊り下げ兼組み立て用鉄筋
7 長尺縦鉄筋
8 環状鉄筋
9 短尺縦鉄筋
10 コンクリート
11 添接板
12 ナット
13 下部杭体
14 高力ボルト
15 ボルト頭部
16 ピンテ−ル
16a 破断用小断面軸部
17 六角座金
18 地盤
19 縦孔
20 トレミー管
21 掘削機
22 ハンマーグラブ
23 支持層
24 鋼管
25 ボルト・ナット
26 鋼管コンクリート杭
27 沈殿バケット
28 埋め戻し

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部が鉄筋コンクリート構造であり、上部が直列に配置された複数の鋼管にて被覆された鋼管コンクリート構造の場所打ち杭における鋼管同士の接合部において、上下の鋼管内側に渡って周方向に複数に分割された接合用の添接板が配置され、各添接板と鋼管に予め設けられたボルト孔を貫通した高力ボルトにより締結されていることにより接合されていると共に、鋼管下部の内部には長尺鉄筋籠の上部が配置され、上下の鋼管の接合部の内側には上下方向に所定長さに渡って短尺補強鉄筋籠を埋め込み配置することで、所定の耐力を有するように鋼管接合部を補強したことを特徴とする場所打ち鋼管コンクリート杭。
【請求項2】
前記高力ボルトが軸回転トルシア形高力ボルトであることを特徴とする請求項1に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭。
【請求項3】
上下の鋼管の接合部の内側に上下方向に所定長さに渡って配置された短尺補強鉄筋籠と、杭下部の鉄筋コンクリート構造部の鉄筋籠とは、吊り下げ兼組み立て用の鉄筋により一体として籠状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭。
【請求項4】
上下方向に直列に3つ以上鋼管が配置されて、上下方向の接合部が複数箇所ある場合は、各接合部に配置された短尺補強鉄筋籠同士は、吊り下げ兼組み立て用鉄筋により一体とされていることを特徴とする請求項3に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭。
【請求項5】
複数の鋼管を鋼管の内側に配置された添接板および高力ボルトにより締結すると共に鋼管内部を掘削しながら鋼管を地中に設置し、下端部に位置する長尺鉄筋籠と、その長尺鉄筋籠よりも上位に位置し、かつ上下の鋼管の接合部の内側に上下方向に所定長さに渡って位置するように配置された短尺補強鉄筋籠とを、吊り下げ兼組み立て用鉄筋により一体として籠状とした短尺補強鉄筋籠付き籠状体を前記鋼管内に配置し、次いで、前記鋼管内にコンクリートを打設すると共に、鋼管継手部が短尺補強鉄筋籠の位置に位置するように、鋼管を所定高さ引き上げ、上部側に位置する所定長さに渡る鋼管を撤去することを特徴とする場所打ち鋼管コンクリート杭の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−202218(P2008−202218A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36027(P2007−36027)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】