説明

塗工装置及びそれを用いる塗工方法

【課題】連続走行している帯状の基材に粘度の高い塗液をグラビアロールコーターで塗工する場合でも、塗布量分布ムラの発生を招くことなく、塗液を安定的に送液させるための塗布装置およびそれを用いる塗工方法を提供する。
【解決手段】塗液の液受けパン21と、液受けパン21のグラビアロール12の回転方向の上流側へ塗液を供給するファウンテン型のノズル23形状をした液受けパン21のグラビアロール12の回転方向の上流側の側壁に設ける注液口24と、液受けパン21のグラビアロール12の回転方向の下流側に設ける攪拌機構25とを備え、前記グラビアロール12の版面と、グラビアロール12の回転方向の上流側の液受けパン21の底部との間隔より、下流側の液受けパン21の底部との間隔を大きく設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度の高い塗液をグラビアコーターで塗工する場合に、塗液を安定的に送液させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア塗工方法は、現在様々な塗液の塗工方法として利用されている。グラビア塗工方法は、塗液をグラビアロールにのせることが出来れば、ドクター刃で余分な塗液を掻き落とし基材に塗工することを容易に実現できるので、塗液物性の適用可能範囲は他の塗工方式より広い。しかし、グラビアロールに塗液をのせるのは、液受けパンという入れ物の中に塗液を満たした状態でロールを浸漬させながらのせていくので、液受けパンの中の塗液の管理が成り行きになり難しい。例えば、塗液中の溶媒が、空気開放される液受けパン内で蒸発するため、液受けパンの中で粘度上昇が起き、塗工物の品質管理上問題となる。
【0003】
一般的に、上記の問題は、液受けパンの中の塗液を廃液口から一定量抜き取りながら再度注液側に循環させることで、液受けパンの中の塗液状態を一定化して回避している。しかし、循環させるためにはある程度粘度が低いことが必須条件になり、高粘液の場合は難しくなる。特に、液受けパンの中にある状態ではせん断がかからないため、せん断速度の低い領域で粘度が高い液は液受けパン内において塗液の滞留部ができるなど扱いが難しくなる。
【0004】
塗液の品質管理の観点では、なるべく開放部を少なくして塗液の流れを一方向にすることが効果的である。塗工方法としてはグラビア法とは異なるが、ダイ塗工などはその良い例である。しかしながら、ダイ塗工については、開放部がなく塗液の流れを一方向にすることはできるが、特に粘度が高い塗液を塗布する場合、基材の幅方向に塗布量分布が生じ好ましくない。
【0005】
一方、特許文献1のように、その良いところを取り入れるためにファウンテン型のノズルを直接グラビアロールに塗液を吐出させるために使用する方法が提案されている。
【0006】
特許文献1で提案されている方法は、グラビアロールに塗液を直接にのせるものであり、この方法は、グラビアロールに塗液をのせるところまでは開放部がなく一方向であり好ましいが、ファウンテン型ノズルから吐出させて液をのせるために適切なロールとノズルの間隙が存在しないため、塗布量に分布ムラを生じせしめる問題がある。
【0007】
特許文特許文献1で挙げたものは、ドクター刃とノズルが一体化した形状であるが、ドクター刃で別途掻き落とし塗布量分布ムラをある程度は抑えることも可能である。しかし、完全には塗布量分布ムラを解消することができず、また、粘度が高い塗液になればなるほど困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−128512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、特に塗液のせん断速度が低い領域で粘度が高い塗液でも、塗布量分布ムラの発生を抑え、塗工液の物性を管理しながら
、グラビアコーターで塗工できる塗布装置およびそれを用いた塗工方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、連続走行する基材に高い粘性の塗液を塗工する、版ロール面に凹部を有するグラビアロールを用いる塗工装置であって、前記塗液の液受けパンと、前記液受けパンのグラビアロールの回転方向の上流側へ塗液を供給するファウンテン型のノズル形状をした前記液受けパンのグラビアロールの回転方向の上流側の側壁に設ける注液口と、前記液受けパンのグラビアロールの回転方向の下流側に設ける攪拌機構と、を備え、
前記グラビアロールの版面と、グラビアロールの回転方向の上流側の前記液受けパンの底部との間隔より、前記グラビアロールの版面と、グラビアロールの回転方向の下流側の前記液受けパンの底部との間隔を大きく設けることを特徴とする塗工装置である。
【0011】
請求項2の発明は、前記塗工装置に使用する前記高い粘性の塗液の粘度の範囲が、せん断速度1[1/s]の時のせん断粘度が1000mPas以上20000mPas以下であることを特徴とする請求項1の発明に記載の塗工装置である。
【0012】
請求項3の発明は、前記塗工装置のグラビアロールの回転方向の上流側の前記液受けパンの底部と、前記グラビアロールの版面との間隔が、10mm未満であり、且つ、グラビアロールの回転方向の下流側の前記液受けパンの底部と、前記グラビアロールの版面との間隔が、50mm以上150mm以下であることを特徴とする、請求項1、請求項2の発明のいずれかに記載の塗工装置である。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1、請求項2、請求項3の発明のいずれかに記載の塗工装置を用いて、前記範囲の粘度を有する塗液を、連続走行する基材に塗工することを特徴とする塗工方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のような構成であるので、特に塗液のせん断速度が低い領域で粘度が高い塗液でも、塗布量分布ムラを生じることなく、塗工液の物性を管理しながらグラビアコーターで塗工することができるという効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的なグラビアコーターの説明図である。
【図2】本発明によるグラビア塗工部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。図1に一般的なグラビアコーターの概観図を示す。液受けパン13に塗液が供給されるとグラビアロール12によって掻き揚げられてドクター刃20で計量された後基材10に転写されていく。このとき、グラビアロール12が基材走行方向に対して同じ方向に進むものをダイレクト方式といい、逆方向に進むものをリバース方式という。また、バックアップロール11がグラビアロール12に対して押し付ける位置に設置されるものやバックアップロールがないキス方式などあるが、本発明はどの方法であっても有効である。
【0017】
以下、本発明は、液受けパンへの塗液の供給方法を規定するものであり、ドクター刃の形状や材質、設置位置や角度には効果を限定されない。また、グラビアロールについても同様で、彫刻されるパターンやロール径、材質等には限定されない。
【0018】
塗液の液受けパンへの供給は、一般的にはポンプにより送液されるチューブなどをパン
内へ設置することで成り立たせるが、本発明に用いられるようなせん断速度が低い領域での粘度が高い塗液では、塗液の供給口近傍及び回転するグラビアロールの近傍でしか液の流動性がなく、液の滞留部が発生する。
【0019】
そこで本発明では、図2のようにグラビアロール12回転方向の上流側に塗液のせん断速度が低い領域で粘度が高い液でも塗布量分布を抑えることができるファウンテンノズル23を液受けパン21に設置し、注液口24を設ける。
【0020】
ここで、グラビアロール12の回転方向の上流側とは、基材10へ塗液を塗工したグラビアロール12が再度液受けパン21内の塗液と接触する側のことをいい、また、下流側とは、液受けパン21内の塗液と接触したグラビアロール12が基材10へ向かう側のことをいう。
【0021】
グラビアロール12の回転によって生じる液の流れに逆らわないように、ファウンテンノズル23による注液をグラビアロール12回転方向の上流側の注液口24から行うことにより、液受けパン21内で幅方向に均一な流動性を持たせることができる。
【0022】
ファウンテンノズル23のスリットは、ポンプの耐圧に影響を与えない範囲で設定されるべきで、一般的には100ミクロンmから1mmの間の値を取る。ノズルの開口幅は、グラビア版の塗工幅(版の模様が彫刻されている幅)とほぼ同等が好ましいが、完全に等しい必要はなく、塗工幅よりも狭いのは端部の不均一などの問題を起こすが、広いのは100mmほどの範囲であれば問題ない。
【0023】
また、本発明における液受けパン21の形状は、グラビアロール12の回転方向の上流側の底部とロールまでの距離が、10mm未満であり、且つ、グラビアロール12の回転方向の下流側の底部とロールまでの距離が、10mm以上100mm以下であることが好ましい。液受けパン21の底部とグラビアロール12までの距離が10mm未満ではグラビアロール12の回転によるせん断力で液の流動性が得られ、滞留部分をほぼゼロにすることができる。
【0024】
しかしながら、液受けパン21全体を10mm未満に設定した場合には液受けパン21を設置したことによる緩衝の効果が出ない。そこでグラビアロール12の回転方向の下流側の底部とロールまでの距離を50mm以上150mm以下に広げ、さらに、グラビアロール12の回転方向の下流側の液受けパン21内に攪拌機構25を設ける。この攪拌機構25により、液の流動性を維持することで緩衝の効果を残しつつ、液の滞留部を減らすことができる。グラビアロール12の回転方向の下流側の底部とロールまでの距離が50mm以下の場合にはスペース的に攪拌機構25の設置が難しく、150mm以上広げた場合には滞留部が増える恐れがあり、好ましくない。
【0025】
撹拌機構25は液受けパンの長手方向の全長に亘り延在するように配置し、この撹拌機構25を回転させることにより液の流動性を維持できるようになっている。攪拌機構25としてはスクリュー型が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0026】
液受けパン21への液の供給量については、塗工量が少ない場合、液受けパン21から溢れ出すことは十分考えられる。なるべく塗工量と等しくすることが望まれるが、あふれ出た塗液を受けて適切に排出するための廃液回収パン22を設置して、二重パンにすることも可能である。ただし、このときに塗液物性管理の観点から、元の供給系にこの塗液を戻さず廃棄する工程を設けてもよい。そのためにも供給量は管理されるべきである。
【0027】
液受けパン21の端部は、グラビアロール12のロール面長より50mm以内の幅にお
さめる。それより長くなると端部に滞留部が出来やすく、本発明に用いられるようなせん断速度が低い領域での粘度が高いものになればなるほど、その滞留による問題は大きくなる。但し、ロールと液受けパンの端部が接触すると異物故障を発生させたりするため、ロール面長より10mm以上長くなる必要がある。
【0028】
ファウンテンノズル23を出た塗液は、液受けパン21内を液面が上昇していくように供給されるが、あまり上昇高さがあるとそれだけ滞留部が増える恐れがある。よって、液受けパン底部とロールまでの最短距離は、10mm以上100mm以下であることが望ましい。短すぎると液受けパンを設置したことによる緩和の効果が出ない。
【0029】
液受けパンは、グラビアロール12径の5%以上50%以下が液内に浸漬されるよう設計されるべきである。5%以下だと液を掻き揚げることが困難になり、50%以上だとドクター刃20の設置位置が好ましい位置に取れなくなる。
【0030】
液受けパン21を構成する材質は、ステンレスやアルミなど金属であることが一般的で、形状の精度がそこまで要求されないため、軽い材質で製作することが望ましい。洗浄性を考えて内面をフッ素樹脂コーティングしておくことも可能である。
【0031】
ファウンテン型ノズル23と液受けパン21の接続は溶接で行って連続的な接液面を形成することが好ましい。また、作業性を考えた時にファウンテン型ノズル23と液受けパン21を分離することも可能であるが、その場合ファウンテン型ノズル23の先端に樹脂で作成したパッキンを設けて、その接続部から塗液が漏れ出すことを防ぐ必要がある。
【0032】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0033】
以下、本図1に示すような一般的なグラビアコーターを使って塗液を塗工した場合と、本発明の図2に示すようなグラビアコーターで塗工した。塗液は、アクリル樹脂を主成分としてメチルエチルケトンを溶媒とした塗液で、中に架橋剤を加えることでせん断速度1[1/s]時のせん断粘度が、ハーケ社製のレオメーターRS75で測定したとき7000[mPas]を示した。一般的なコーターの場合は、経時で溶媒の蒸発が進み、端部が滞留部になるために次第にグラビアロールにより液が掻き揚げられなくなり、塗工幅方向に膜面の抜けが観察されるようになった。一方で本発明の方法であれば、特に問題なく塗工が可能であった。以上より本発明の効果が確認できた。
【符号の説明】
【0034】
10・・・基材
11・・・バックアップロール
12・・・グラビアロール
13・・・液受けパン
14・・・循環系
15・・・送液タンク
16・・・送液ポンプ
17・・・乾燥ゾーン
20・・・ドクター刃
21・・・液受けパン
22・・・廃液回収パン
23・・・ファウンテンノズル
24・・・注液口
25・・・攪拌機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する基材に高い粘性の塗液を塗工する、版ロール面に凹部を有するグラビアロールを用いる塗工装置であって、
前記塗液の液受けパンと、
前記液受けパンのグラビアロールの回転方向の上流側へ塗液を供給するファウンテン型のノズル形状をした前記液受けパンのグラビアロールの回転方向の上流側の側壁に設けられた注液口と、
前記液受けパンのグラビアロールの回転方向の下流側に設ける攪拌機構と、
を備え、
前記グラビアロールの版面と、グラビアロールの回転方向の上流側の前記液受けパンの底部との間隔より、
前記グラビアロールの版面と、グラビアロールの回転方向の下流側の前記液受けパンの底部との間隔を大きく設けることを特徴とする塗工装置。
【請求項2】
前記塗工装置に使用する前記高い粘性の塗液の粘度の範囲が、せん断速度1[1/s]の時のせん断粘度が1000mPas以上20000mPas以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗工装置。
【請求項3】
前記塗工装置のグラビアロールの回転方向の上流側の前記液受けパンの底部と、前記グラビアロールの版面との間隔が、10mm未満であり、
且つ、グラビアロールの回転方向の下流側の前記液受けパンの底部と、前記グラビアロールの版面との間隔が、50mm以上150mm以下であることを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載の塗工装置。
【請求項4】
請求項1、請求項2、請求項3のいずれかに記載の塗工装置を用いて、前記範囲の粘度を有する塗液を、連続走行する基材に塗工することを特徴とする塗工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176380(P2012−176380A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41611(P2011−41611)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】