説明

塗布ヘッド清掃装置および清掃方法

【課題】塗布ヘッドの吐出口及び吐出面に付着したペーストを清掃する塗布ヘッド清掃装置で、拭き取り部材として粘着テープを用いて効率よく、確実に塗布ヘッドを清掃する塗布ヘッド清掃装置を提供する。
【解決手段】塗布ヘッド1の略一列の複数の吐出口5近傍に付着した塗液を粘着テープ8に押し当てて除去する塗布ヘッド清掃において、弾性体14を介して粘着テープ8に接圧して所定時間保持し、塗布ヘッド1を弾性体14に押し込んだ方向と逆方向に移動させ、粘着テープ8を塗布ヘッド1から剥離する工程で、弾性体14と粘着テープ8の隙間を調整する隙間調整バー16を用いて弾性体14と粘着テープ8が接触する接触領域の幅Wを制御して吐出口5の開口幅の30〜150倍として、粘着テープ8が負圧で弾性体14への吸着を防止し、粘着テープ8を塗布ヘッド1から高速で引き剥がす塗布ヘッド清掃装置、及び清掃方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布ヘッドの吐出口および吐出面に付着したペーストの清掃方法及び塗布ヘッド清掃装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイなど、薄型ディスプレイの普及が拡大しているが、これらの多くは、小さな画素を多数形成し、画素ごとの色、明るさを電気的に制御して画像を構成する、いわゆる画素型ディスプレイである。そのようなディスプレイの例としてAC型プラズマディスプレイをあげることが出来る。
【0003】
プラズマディスプレイには画素の仕切り等の諸機能を持った構造体が形成されている。その構造体は、放電の広がりを一定領域に抑え、表示を規定のセル内で行わせると同時に、均一な放電空間を確保するために設けられ、隔壁(障壁、リブともいう)と呼ばれている。その隔壁の形状は、一般にはおよそ幅20〜120μm、高さ50〜250μmのストライプ状や格子状のものなどがある。
【0004】
そして、蛍光体層は蛍光体粉末、有機バインダーおよび有機溶媒を主成分とする蛍光体ペーストとして、所定の隔壁間に塗布、乾燥させて形成される。この蛍光体ペーストは蛍光体粉末を高濃度で含むため、10000mPa・s以上の高粘度であることが多い。
蛍光体ペーストを所定の隔壁間に塗布する方法としては、スクリーン印刷法、ディスペンサー法等があり、材料ロスの少ないディスペンサー法が注目されている。
ディスペンサー法とは、塗布ヘッドと呼ばれるペーストが吐出される吐出口を有する装置を使用し、吐出口を基板と対向させて相対移動させながら、ペーストを隔壁間に塗布するものである。
【0005】
プラズマディスプレイの場合は蛍光体ペーストを隔壁間に塗布する。この場合、1枚の基板ごとに塗布を行う枚葉方式であることが多く、基板1枚毎に塗布開始、終了がある。1枚の基板を塗布した後は、ペーストが塗布ヘッドの吐出口や吐出面に付着しており、この状態で次の基板に塗布を行うと、吐出口から吐出されるペーストの吐出流が乱れ、所定の隔壁間に正確な塗布ができない。そのため、安定な吐出精度を維持するためには、塗布終了後に塗布ヘッドの吐出口及び吐出面を毎回清浄する必要がある。
【0006】
そのような塗布ヘッド清掃方法として、従来は図7の概略図に示すように、吐出口および吐出面に付着した余分なペーストなどをゴム等の弾性体で作成したスクレーパーで掻き取って清浄する方法(特許文献1参照)や図8の概略図に示すように、押当手段に支持された柔らかい布等の拭き取り材と塗布ヘッドを相対移動させて、摺動拭きする方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、これらの方法では例えば、プラズマディスプレイ用の蛍光体ペーストの場合は、蛍光体ペースト中に含まれる硬い無機微粒子の蛍光体粉末が研磨材の様な働きをして、塗布ヘッドの吐出面が削られる。その結果、図10の吐出面の模式図に示すように、吐出口5周辺に拭き取り傷21が発生する。また、拭き取り回数が増すと拭き取り傷がより深くなる。拭き取り傷の深さがある限界を超えると、塗布欠点が発生し高品質な塗布ができなくなる。この拭き取り傷により塗布ヘッドが使用できなくなると、新規に塗布ヘッドの製作が必要となり、コストが増大する問題や、塗布ヘッドの交換に時間が掛かるため生産効率が悪くなる問題がある。
【0008】
一方、他の清掃方法として、図9の概略図に示すような溶剤吸収能力のある粘着テープを塗布ヘッドの吐出面に弾性体で押し当てて当接し、ペーストを剥離転写する技術が知られている。(特許文献3、特許文献4参照)
しかし、特許文献3、4に記載の清掃方法では粘着テープのシワ伸ばしバー18があるので、張力で発生する粘着テープのシワを防止することが出来るが、弾性体上の長い区間(幅)に粘着テープを巻き付けるため、当接した後塗布ヘッドを引き剥がすときに粘着テープと弾性体の間に負圧が発生し、粘着テープと弾性体が剥離できなくなることがある。そのため、粘着テープを塗布ヘッドから素早く引き剥がすことができず、清掃効果が低減する問題がある。このため、塗布ヘッドの吐出口近傍にペーストが残ることが起因し、塗布欠点が発生してしまった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−14393号公報
【特許文献2】特開2002−126599号公報
【特許文献3】特開2010−29836号公報
【特許文献4】国際公開W02008/149758号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は塗布ヘッドの吐出口および吐出面に付着したペーストを、粘着テープを用いて効率的かつ低コストに清掃する塗布ヘッド清掃装置および清掃方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、略一列に配置された複数の吐出口を有する塗布ヘッドの吐出口近傍に付着した塗液を粘着テープに押し当てて除去する塗布ヘッド清掃装置であって、前記吐出口の配列方向をY方向とし、前記塗布ヘッドを前記粘着テープに押し当てる方向をZ方向とし、それらのどちらにも垂直な方向をX方向とすると、前記塗布ヘッドを粘着テープに押し付けるに際して、前記粘着テープの粘着面の反対面側からテープを支持する弾性体と、前記弾性体のX方向両側に配置され、前記粘着テープと前記弾性体の接触状態を調整する調整手段を有し、前記塗布ヘッドを前記粘着テープに押し当てる前の状態で、前記弾性体と前記粘着テープが接触する接触領域SのX方向の幅Wが、前記吐出口の開口幅Dの30倍〜150倍であり、前記接触領域SのX方向両側に、前記弾性体と前記粘着テープが接触しない隙間領域を有することを特徴とする塗布ヘッド清掃装置を提供する。
【0012】
前記粘着テープのシワを防止する、シワ伸ばし手段を有することが好ましい。
【0013】
記載の塗布ヘッド清掃装置を用いて塗布ヘッドを清掃する塗布ヘッド清掃方法であって、前記塗布ヘッドを、前記弾性体で支持された前記粘着テープに押し当てて接触させ、前記塗布ヘッドを前記弾性体に押し当てた向きと逆向きに移動させて、前記粘着テープを前記塗布ヘッドから引き剥がして、前記吐出口近傍に付着した塗液を前記粘着テープに転写させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗布ヘッドの吐出口及び吐出面に残留した塗液を確実に除去できるので、塗布欠点が少なく、生産性が向上する好ましい効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の塗布ヘッド清掃装置の好ましい例における塗布ヘッド清掃装置の断面を示す概略図である。
【図2】本発明の塗布ヘッド清掃方法の一連の動作を示す概略図である。
【図3】Wが30Dより小さいため本発明の範囲外となる塗布ヘッド清掃装置の押し当て部の断面を示す概略図である。
【図4】Wが150Dより大きいため本発明の範囲外となる塗布ヘッド清掃装置の押し当て部の断面を示す概略図である。
【図5】本発明の塗布ヘッド清掃装置の好ましい例における押し当て部の断面を示す概略図である。
【図6】本発明の塗布ヘッド清掃装置の好ましい他の例における押し当て部の断面を示す概略図である。
【図7】従来の塗布ヘッド清掃装置および塗布ヘッド清掃方法の一例を示した概略図である。
【図8】従来の塗布ヘッド清掃装置および塗布ヘッド清掃方法の他の例を示した概略図である。
【図9】従来の塗布ヘッド清掃装置および塗布ヘッド清掃方法の他の例を示した概略図である。
【図10】従来の塗布ヘッド清掃装置を用いた場合に発生する塗布ヘッドの吐出口近傍の擦り傷の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の最良の実施形態について図面を参照して説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の装置構成を図1に示す清掃装置断面の概略図を用いて説明する。塗布ヘッド1の内部には蛍光体ペースト3が充填されており、加圧配管2から圧縮空気などの気体圧力を流入させて、蛍光体ペースト3を吐出口5から吐出し塗布を行う。本図では、塗布工程、塗布装置は図示されていない。塗布後には吐出口5周辺の吐出面に、蛍光体ペースト3が付着する。
【0017】
塗布ヘッド1には吐出口5が複数設けられ、Y方向(図1で示す断面に垂直な方向)に略一列に配置されている。吐出口5の形状はスリット状、円形、楕円形、または多角形等、のどのような形状であってもよいが、塗布ヘッド1がプラズマディスプレイ用蛍光体塗布ヘッドである場合は、およそ円形であるのが好ましい。また、吐出口5が円形の場合は、その直径は50〜200μm程度のものが好ましい。ここで、吐出口のX方向の開口幅を吐出口の開口幅Dとする。
【0018】
吐出口5は上述の通り複数設けられるが、プラズマディスプレイにおいては、1画面に必要な蛍光体層をR、G、Bの各色につき1回の吐出で塗布できるように、走査方向の画素数に応じた数(約1000〜4000個程度)を、Y方向に略一列に配置されたものが好ましい。本発明において略一列に配置とは、全ての吐出口が1つの直線にかかるように配置されている状態をいう。
【0019】
図1に示す清掃装置は、清掃機能を上部構造である上フレーム6に構成し、駆動機能を下部構造である下フレーム7に構成している。
【0020】
上フレーム6には、粘着テープ8、巻き出しロール9、巻き取りロール10、押し当て部13が設置されている。上フレーム6は下フレーム7から脱着・移載できる構成とすると、ロール状にまかれた粘着テープ8を外段取りで準備することができ好ましい。また、粘着テープ8は巻き出しロール9から巻き出され、押し当て部13を通って、巻き取りロール10で巻き取られる。
【0021】
巻き出しロール9および巻き取りロール10は、下フレーム7に設置された巻き出しモーター11および巻き取りモーター12で駆動されており、巻き出しモーター11及び、巻き取りモーター12のモータートルクと回転速度を制御することによって、粘着テープ8に張力を付加しながら粘着テープ8を巻き取ることができる。
【0022】
ここで、塗布ヘッド1の吐出口5の配列方向をY方向とし、塗布ヘッド1を粘着テープ8に押し当てる方向をZ方向とし、それらのどちらにも垂直な方向をX方向とする。
押し当て部13は、弾性体14、支柱15、粘着テープ8と弾性体14の接触状態を調整する調整手段である隙間調整バー16から構成されている。隙間調整バー16の取り付け位置を調整することで、弾性体14と粘着テープ8との間にできる隙間17および、粘着テープ8と弾性体14が接触する、接触領域SのX方向の幅Wを調整する。
【0023】
図2は本発明の実施形態の一連の動作を示した清掃装置断面の概略図である。
【0024】
図2a)は、吐出面4に余分なペーストが付着した塗布ヘッド1を粘着テープ8に押し付ける前の状態を示す。
【0025】
図2b)は塗布ヘッド1を粘着テープ8に押し付けている状態を示す。図2b)では、図2a)の状態から、蛍光体ペースト3が付着した塗布ヘッド1を、弾性体14に裏側から支持された粘着テープ8に垂直に押し込み、その状態で数秒間保持することによりペースト中の溶剤成分が粘着層に吸収され、蛍光体ペーストが固化される。
【0026】
弾性体14としては、適当な弾性があれば公知の材料が適宜使用できるが、安価で加工性や耐久性に優れるゴム材質が好ましい。ゴム硬度としてはA20〜A60度(JIS K 6253(2006))が好ましい。A20度より小さいと、蛍光体ペーストを固着させる接圧が不足気味になる。また、A60度より大きいと弾性が損なわれ、均一な接圧が得られないと共に、塗布ヘッド1にダメージが発生しやすくなり好ましくない。より好ましくはA30〜50度である。
【0027】
ゴム材質としては、各種ゴム材質が適宜使用できるが、ペーストが付着しても劣化しにくい材質が好ましい。防汚コーティングやカバーフィルムを設けても良い。
弾性体はゴムの硬度のバラツキが大きいと、均一な接圧が得られないため硬度のバラツキは小さい方が良く、10度以下が好ましい。5度以下であればさらに好ましい。
次に弾性体の形状精度については、弾性体と塗布ヘッドとの当接面の真直度は0.5mm以下であると、均一な接圧が得られやすいので好ましい。0.2mm以下であればなお好ましい。
【0028】
また、弾性体のゴム厚みとしては、1〜30mmが好ましく、5〜15mmがさらに好ましい。1mmよりも小さい場合は、弾性が損なわれ適度な接圧が得られない。30mmよりも大きい場合は、不要な材料が多くなる上、装置が大きくなり不経済である。
弾性体の形状は塗布ヘッドとの当接面が凸型であると、吐出口周辺を確実に接圧できるので好ましい。この場合、一列に並んだ吐出口近傍で接圧が開始され、続いて吐出口周辺部へ拡大し、ペーストの広がりが均一化されるので好ましい。
【0029】
また、当接面の形状が円筒面の一部であると当接面の加工が容易になり、結果として真直度が向上するので好ましい。
【0030】
円筒面の直径は10〜1000mmであることが好ましい。10mmより小さいと、吐出口位置が円筒の頂点からずれやすく、吐出口に適切な接圧が得られないので好ましくない。1000mmよりも大きいと凸型の効果が薄れ、接圧が不足する部分が発生しやすくなるので好ましくない。円筒面の直径は20〜100mmであるとさらに好ましい。円筒面の頂点を吐出口の位置に合わせると、接圧が均一になりなお好ましい。
【0031】
塗布ヘッドを弾性体に押し込み、保持する保持時間は、0.1〜10秒が好ましく、0.1秒より短いと蛍光体ペーストが十分固化できない。10秒より長いと、ペーストが固化され過ぎ、吐出面から剥離できなくなるので好ましくない。好ましくは0.5秒〜5秒である。
【0032】
次に図2c)は、図2b)から塗布ヘッド1を垂直に持ち上げた状態であり、粘着テープ8も塗布ヘッド1の吐出面4に張り付いた状態で持ち上がる。
次いで、図2d)は塗布ヘッド1から粘着テープ8が剥離して、清掃が完了した状態を示す。巻き出しモーター11のトルクモーターにより付与されている、粘着テープ8の高い張力により粘着テープが塗布ヘッドから高速で引き剥がされ、塗布ヘッド1の吐出口5近傍に付着した蛍光体ペースト3を粘着テープ8に転写させる。
【0033】
粘着テープに付与される張力としては、特に限定しないが、10〜1000N/mが好ましい。10N/mより小さいと粘着テープの走行が不安定になり、たるみやシワが発生しやすく、塗布ヘッドの押し込みが不均一になりやすい。1000N/mより大きいと、高張力をかけるため装置負荷の増大や、粘着テープが裂けるので好ましくない。
【0034】
隙間17を調整する隙間調整バー16は上下左右方向の調整により隙間を簡易的に調整することが好ましい。隙間調整バー16は出来る限り弾性体14に接近させることが好ましいが、図2に示すように、弾性体14に密着させるのが好ましい。
【0035】
この隙間17は、図2b)から図2c)に進むときに、粘着テープが負圧により弾性体に吸着するのを防ぐ、すなわち負圧破壊の機能を有する。発明者らは、塗布ヘッドを持ち上げた時に粘着テープ8が塗布ヘッドの吐出面に張り付いたまま持ち上がり、粘着テープの張力により粘着テープが1000mm/s以上の高速で塗布ヘッドから剥離することが良好な転写を行うために重要であることを見出した。隙間調整バー16による隙間がない場合は負圧を破壊する機能がないために、粘着テープが支持された弾性体に張り付いた状態で塗布ヘッドから剥離される。そのため、粘着テープの張力により高速で剥離することがでず、粘着テープに固化した蛍光体ペーストを転写することができない。
【0036】
また、隙間調整バー16の調整により、塗布ヘッドを押し付ける前の状態で、弾性体と粘着テープの裏側が接触する接触領域SのX方向の幅Wは、吐出口の開口幅Dの30〜150倍である必要があり、さらには50〜100倍が好ましい。
【0037】
WがDの30倍よりも小さい場合(図3)は、塗布ヘッドを弾性体に押し付けてペーストが広がるときに弾性体と粘着テープ間の隙間部分で瞬間的に接圧が得られず、転写残しが発生する。WがDの150倍よりも大きい場合(図4)は、塗布ヘッドを弾性体に押し付けた時に、粘着テープと弾性体の間に負圧が発生し、粘着テープと弾性体が吸盤状態で吸着しやすくなり、高速で剥離できなくなる。
【0038】
また、図5に示すように、粘着テープのシワを伸ばす手段としてシワ伸ばしバー18を有することが好ましい。シワ伸ばしバー18は、押し当て部の上流下流両側に設けることが好ましい。また、シワ伸ばしバー18は、粘着テープの幅方向に弓形の曲率をもつことがさらに好ましい。曲率がない場合は、粘着テープの両端が張力により伸ばされるので、粘着テープの中央にシワがよるので好ましくない。
【0039】
また、図6示すように、上記した隙間調整機能とシワ伸ばし機能の両方を有する1つの部材として、隙間調整バー16aを設置すると、調整がより簡便にかつ確実になり好ましい。
【0040】
本発明に適用できる粘着テープは、幅広い塗液の種類や付着量に対応するように、適宜選択して使用することができる。粘着テープは基材と粘着層から構成されることが好ましく、粘着層が溶剤吸収性の粘着剤から構成される粘着テープであるとさらに好ましい。これは、粘着剤がペーストあるいはペーストに含まれる溶剤を吸収できるとペーストの流動性が低下し、著しく剥離転写しやすくなるためである。このためには、粘着剤の溶解度パラメーターがペースト、あるいはペースト溶剤のそれと近い値であるのか好ましい。前記粘着テープの溶媒吸収能力は、面積1mあたり10mL以上であることが好ましく、20mL以上であることがより好ましい。溶媒吸収能力が1mあたり10mL未満であると、溶媒の吸収残りが生じやすくなる傾向がある。なお、ここで言う粘着テープの溶媒吸収能力は、塗液を構成する溶媒中に1分間浸漬し、吸収により増加した重量を測定した値である。
【0041】
粘着テープの溶媒吸収速度は、面積1mあたり1mL/秒以上であることが好ましく、3mL/秒以上であることがより好ましい。溶媒吸収速度が面積1mあたり1mL/秒未満であると、ペースト溶媒吸収に時間がかかりすぎ、清掃時間が長くなるので好ましくない。なお、粘着テープの溶媒吸収速度は塗液を構成する溶媒中にテープを5秒間浸漬し、溶媒分を吸収して増加した重量を単位面積あたり、単位時間あたりで割り返すことにより測定した値である。
【0042】
さらに前記粘着テープの粘着力は、ペースト中の溶剤吸収後でも粘着力を有することが重要であり、20mm幅あたり0.5〜4.0Nであることが好ましく、2.0〜3.0Nであることがより好ましい。20mm幅あたりの粘着力が0.5N未満であると、吐出面に残ったペースト中の溶媒を吸収した後に残る固化物を除去しきれなくなる傾向があり好ましくない。また、4.0Nを超えるとテープ剥離に時間がかかり、粘着剤層が粘着テープの基材から剥離する傾向があり好ましくない。なお、該粘着テープの粘着力は、JIS Z 0237(2000)に準拠した方法で、厚さ25μmのPETフィルムと貼り合わせ、23℃、引っ張り速度300mm/minで180°方向に引き剥がして測定した値である。
【0043】
また、前記粘着テープの粘着層の厚みは0.005〜0.3mmであることが好ましく、0.01〜0.15mmであることがより好ましい。粘着層の厚みが0.005mm未満であるとペースト中の溶媒を吸収しきれない傾向があり、0.3mmを超えると粘着テープの厚みが厚く、巻き長さが短くなり、交換が頻繁になる傾向があるので好ましくない。
【実施例】
【0044】
次に本発明の実施形態を適用して、プラズマディスプレイ用蛍光体ペーストの塗布ヘッドを清掃した実施例を示す。使用した蛍光体ペーストは以下方法で作成した。無機蛍光体粉末の重量比率を19として、重量比率20のエチルセルロースの16重量%テルピネオール/ベンジンアルコール(重量比:3/1)溶液中に分散・混合して蛍光体ペーストを作成した。
用いた蛍光体粉末として、赤色発光には(Y、Gd)BO:Eu、緑色発光にはZnSiO:Mn、青色発光にはBaMgA11017:Euである。各色の蛍光体粉末の累積平均粒子径、および最大粒子径は、赤色蛍光体:2.7μm、27μm、青色蛍光体:3.7μm、27μm、緑色蛍光体:3.6μm、25μmである。
【0045】
また、粘度は赤色蛍光体ペースト:52000mPa・s、青色蛍光体ペースト:39000mPa・s、緑色蛍光体ペースト:40000mPa・sである。
【0046】
前記蛍光体ペーストを塗布する塗布ヘッドは、孔径100μmの吐出口を長手方向に1920個配置した塗布ヘッドであり、内部に0.2〜1MPaの気体圧力をかけて、吐出口からペーストを吐出させて、所定の隔壁間に3色の蛍光体ペーストを色ごとに塗布するものである。
【0047】
塗布ヘッドを用いて塗布する塗布装置として、XYZθの4軸を有するステージと、XYZθの4軸を制御駆動させる制御部、塗布装置と清掃装置の動作をあらかじめ定めたプログラムにて制御動作させる記憶制御部などから構成される装置を用いた。該塗布ヘッドの吐出口および吐出面に付着した蛍光体ペーストを清掃するのに用いた粘着テープは以下の通りである。
粘着テープ:日東電工株式会社 エレップ(登録商標)
実施例1
前述の通り作成した3色の蛍光体ペーストを前記塗布ヘッドに充填して、該塗布装置に塗布ヘッドを搭載し、3色の蛍光体ペーストを所定の隔壁間に各々塗布した。その後、粘着テープをロール状にしたものを使用して、吐出口および吐出面に蛍光体ペーストが付着した該塗布ヘッドを、図1の清掃装置を用いて清掃を行った。塗布ヘッドを押し付ける弾性体として、直径60mm、ゴム硬度A30、ゴム厚み10mmのゴムロールを用いた。
弾性体と粘着テープ間の隙間17の調整を行うために、隙間調整バー16の設置高さを調整し、粘着テープが弾性体と接触する接触領域Sの幅をW=50D=50×100μm=5mmとなるように調整した。
【0048】
上記のように調整した、弾性体を介した粘着テープの粘着層に、塗布ヘッドの吐出口および吐出面を当接させ、塗布ヘッドに0.2MPaの圧力で押圧しながら4秒保持した。その後、塗布ヘッドを垂直方向に100mm/sで移動させながら、粘着テープに50N/mの張力をかけて、粘着テープを塗布ヘッドから引き剥がした。粘着テープのシワのため清掃後の吐出面には薄い波型の付着物は残ったが、吐出口周辺の蛍光体ペーストは概略除去されたので、この清掃装置による清掃を行いながら、500枚の塗布を行ったが、塗布欠点の発生は極わずかしなかった。
【0049】
実施例2
実施例1に挙げた装置の押し当て部において、粘着テープにシワが発生するのを防止するために、粘着テープの幅方向に対して弓型の曲率(R=140000mm)を付与した、シワ伸ばしバー18を備えた図5の清掃装置を用いて、実施例1と同じように清掃を行った。シワ伸ばしバーを設置することで、塗布ヘッドと当接する粘着テープがより平滑化され、接圧が向上し実施例1よりも転写性が向上した結果、残留する付着物が減少した。また、500枚の塗布でも塗布欠点が発生しなかった。
【0050】
実施例3
実施例1に挙げた装置の押し当て部において、隙間を調整する機能とシワを伸ばす機能をあわせ持つ隙間調整バー16aを有する図6の清掃装置を用いて、実施例1と同じように清掃を行った。この隙間調整バーにより、実施例2同様の効果を得られた。また、隙間調整とシワ伸ばしを同時に行えるため、調整の作業効率が大幅に向上した。
【0051】
比較例1
実施例1に挙げた装置の押し当て部において、隙間調整バー16をシワ伸ばしバー18に取り替えた、図9の清掃装置を用いて実施例1と同様に清掃を行った。シワ伸ばしバー18により接触領域Sの前後に隙間領域が形成されるが、接触領域Sの幅Wは30mm程度となり、吐出口の開口幅Dの300倍程度となるため、粘着テープが塗布ヘッドを押し込んだ時に発生した負圧で弾性体に吸着した状態になった。その結果、粘着テープを塗布ヘッドから高速で剥離できないために、清掃後には塗布ヘッドの吐出口近傍に蛍光体ペーストの残留物が残り、良好な塗布ができなかった。
【0052】
比較例2
実施例1に挙げた装置において、粘着テープが弾性体と接触する接触領域Sの幅をW=20D=20×100μm=2mmとなるように調整した、図3の押し当て部を用いて清掃を行った。その結果、塗布ヘッドを弾性体に押し込み蛍光体ペーストを粘着テープの粘着層で広げる工程において、弾性体と粘着テープ間の隙間部分で瞬間的に接圧が得られず、転写不良が発生した。そのため、良好な塗布ができなかった。
【0053】
比較例3
実施例1に挙げた装置において、粘着テープが弾性体と接触する接触領域Sの幅をW=180D=180×100μm=18mmとなるように調整した図4の押し当て部の清掃装置を用いて清掃を行った。その結果、粘着テープが塗布ヘッドを押し込んだ時に発生した負圧で弾性体に吸着した状態になった。このため、粘着テープを塗布ヘッドと同時に持ち上げ、粘着テープに付与された高い張力で高速で剥離することができないため、吐出口周辺に残留物が残る場合があった。そのため、良好な塗布ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、プラズマディスプレイに限らず、液晶ディスプレイ用カラーフィルターや有機ELにおける塗布ヘッドの清掃装置としても応用することができ、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 塗布ヘッド
2 加圧配管
3 蛍光体ペースト
4 吐出面
5 吐出口
6 上フレーム
7 下フレーム
8 粘着テープ
9 巻き出しロール
10 巻き取りロール
11 巻き出しモーター
12 巻き取りモーター
13 押し当て部
14 弾性体
15 支柱
16 隙間調整バー
16a 隙間調整バー
17 隙間
18 シワ伸ばしバー
19 スクレーパー
20 拭き取り布
21 拭き取り傷
D 吐出口の開口幅
S 接触領域
W 接触領域SのX方向の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略一列に配置された複数の吐出口を有する塗布ヘッドの吐出口近傍に付着した塗液を粘着テープに押し当てて除去する塗布ヘッド清掃装置であって、前記吐出口の配列方向をY方向とし、前記塗布ヘッドを前記粘着テープに押し当てる方向をZ方向とし、それらのどちらにも垂直な方向をX方向とすると、前記塗布ヘッドを粘着テープに押し付けるに際して、前記粘着テープの粘着面の反対面側からテープを支持する弾性体と、前記弾性体のX方向両側に配置され、前記粘着テープと前記弾性体の接触状態を調整する調整手段を有し、前記塗布ヘッドを前記粘着テープに押し当てる前の状態で、前記弾性体と前記粘着テープが接触する接触領域SのX方向の幅Wが、前記吐出口の開口幅Dの30倍〜150倍であり、前記接触領域SのX方向両側に、前記弾性体と前記粘着テープが接触しない隙間領域を有することを特徴とする塗布ヘッド清掃装置。
【請求項2】
前記粘着テープのシワを防止するシワ伸ばし手段を有する請求項1に記載の塗布ヘッド清掃装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗布ヘッド清掃装置を用いて塗布ヘッドを清掃する塗布ヘッド清掃方法であって、前記塗布ヘッドを、前記弾性体で支持された前記粘着テープに押し当てて接触させ、前記塗布ヘッドを前記弾性体に押し当てた向きと逆向きに移動させて、前記粘着テープを前記塗布ヘッドから引き剥がして、前記吐出口近傍に付着した塗液を前記粘着テープに転写させる、塗布ヘッド清掃方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−205977(P2012−205977A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71956(P2011−71956)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】