説明

塗布方法及び装置

【課題】スジの発生や塗布ムラの発生を防止することのできる塗布方法及び装置を提供する。
【解決手段】塗布装置10は、走行するウエブ12に接触するように配置された略円柱状のバー14と、バー14に対してウエブ12の進入側に塗布液を供給する供給手段と、を備える。バー14の表面には、バー14の中心軸Lに直交する面に対して20度以上70度以下で傾斜した螺旋溝32と、ウエブ12が20%以上の割合で接触する平滑部34と、が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布方法及び装置に係り、特に写真用フィルム、写真用印画紙、磁気記録テープ、接着テープ、感圧記録紙、オフセット版材、電池などの製造において、連続走行する帯状体上に塗布液のビードを形成して塗布を行う塗布方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続走行する長尺状の可撓性支持体(以下、ウエブという)に塗布液を塗布する方法としてバー塗布が知られている。バー塗布は、略円柱状のバーにウエブを接触させるとともに、そのバーの上流側に塗布液を供給して塗布液溜まりを形成し、バーの回転によって塗布液溜まりの塗布液を掻き上げてウエブに塗布するものである。
【0003】
このバー塗布では、大きな技術的課題として、塗布面に進行方向の微細なスジが等ピッチで形成されるという問題がある。これは、ウエブと同速度でバーを回転させる塗工において古くから知られている現象であり、これを防止するため、様々な方法が提案されている。たとえば、バーを被塗布部材の進行方向の逆方向に回転させることにより、スジの発生を防止する方法が知られている。また、特許文献1には、バー表面に形成された溝の形状によって、スジの発生を防止する方法が記載されている。さらに、特許文献2には、グラビアパターンの溝を傾斜して形成したロールを用いて塗布する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平7−31920号公報
【特許文献2】特開2001−104852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のいずれの技術を用いても、上述したスジの発生を完全に防止することが困難であり、また、スジの発生を防止すると塗布面に塗布ムラが発生するという問題もあった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、スジの発生や塗布ムラの発生を防止することのできる塗布方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、走行する被塗布部材に略円柱状のバーを接触させ、該バーに対して前記被塗布部材の進入側に塗布液を供給することによって前記被塗布部材に塗布液を塗布する塗布方法において、前記塗布液が前記バーに対して前記被塗布部材の進入側から進出側に通過する際に、前記バーによって前記塗布液に前記被塗布部材の幅方向の流れを強制的に与えることを特徴とする。
【0007】
本発明の発明者は、塗布液が進入側から進出側に流れる際に塗布液の幅方向の流れを強制的に与えることによって、スジの発生を防止できるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、バーによって塗布液の幅方向の流れを強制的に与えるようにしたので、スジの発生を防止することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記塗布液の幅方向の流れは前記バーの表面に形成された螺旋溝によって与えられ、該螺旋溝は、前記バーの中心軸に直交する面に対して20度以上70度以内で傾斜して形成されるとともに、該螺旋溝を除くバーの平滑部に前記被塗布部材が20%以上の割合で接触することを特徴とする。
【0009】
本発明のように、螺旋溝が20度以上70度以下で傾斜し、且つ、20%以上の割合で平滑面が被塗布部材に接触するバーを用いることによって、スジと塗布ムラの両方の発生を防止できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は請求項1または2の発明において、前記バーが回転することによって、前記塗布液が前記バーの周りに供給されることを特徴とする。本発明によれば、バーが回転することによって、塗布液がバーの周りに供給されるので、バーによって塗布液の幅方向の流れを確実に与えることができる。なお、送液装置等によって塗布液をバーの周りに供給するようにしてもよい。
【0011】
請求項4に記載の発明は前記目的を達成するために、走行する被塗布部材に接触するように配置された略円柱状のバーと、該バーに対して前記被塗布部材の進入側に塗布液を供給する供給手段と、を備えた塗布装置において、前記バーの表面には、該バーに対して前記被塗布部材の進入側に供給された塗布液を、該被塗布部材の幅方向に細分化して流す流路が形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明は、バーの表面に流路を設けたので、塗布液を強制的に幅方向に流すことができ、塗布面にスジが発生することを防止できる。
【0013】
請求項5に記載の発明は請求項4の発明において、前記バーの表面には、前記流路として前記バーの中心軸に直交する面に対して15度以上65度以内で傾斜した螺旋溝と、前記被塗布部材が20%以上の割合で接触する平滑部とが形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明のように、バーの表面に20度以上70度以下に傾斜した溝と、20%以上の割合で被塗布部材に接触する平滑面を形成することによって、スジと塗布ムラの両方の発生を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗布液を幅方向に強制的に流すので、塗布面にスジが発生することを防止することができる。これにより、被塗布部材に塗布液を精度良く塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明に係る塗布方法及び装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明が適用される塗布装置の一例を概略的に示す断面図である。同図に示す塗布装置10は、連続走行するウエブ12(被塗布部材に相当)に塗布液を塗布する装置であり、バー14を有する塗布ヘッド16を備える。ウエブ12は、不図示のガイドローラに巻き掛けられてバー14に所定のラップ角で接触するとともに、矢印方向に走行するようになっている。
【0018】
塗布ヘッド16は、略円柱状のバー14と、このバー14を支持する支持部材18とから成り、支持部材18の上部には円弧状の溝が形成され、この溝にバー14が支持される。バー14は不図示の回転装置に接続されており、回転装置はバー14をウエブ12の走行方向と反対方向に、または、走行方向に回転させる。バー14をウエブ12の走行方向に回転させる場合、バー14の回転速度は、ウエブ12の走行速度よりも低いことが好ましい。なお、バー14の好ましい回転速度としては、たとえば10〜300rpm程度である。
【0019】
支持部材18に対して、ウエブ12の走行方向の上流側には堰20が設けられ、下流側には堰22が設けられる。支持部材18と堰20の間にはスリット24が形成され、支持部材18と堰22との間にはスリット26が設けられる。これらのスリット24、26には不図示のタンクが接続され、このタンクからスリット24、26に塗布液が送液される。この塗布液によってバー14の上流側(一次側)と下流側(二次側)に液溜まり(ビード)が形成され、バー14によって計量され、ウエブ12に塗布液が塗布される。
【0020】
堰20の上流側には液貯留部28が設けられ、堰20の下流側には液貯留部30が設けられる。過剰な塗布液は、これらの液貯留部28、30に回収される。液貯留部28、30には不図示の排出ラインが接続されており、この排出ラインを介して排出された塗布液は粘度や表面張力が調整された後、再びスリット24、26に供給される。なお、塗布液は、後述の螺旋溝32を流れるのに適した粘度(たとえば1〜500mPas、好ましくは1〜50mPas)、または、適した表面張力(たとえば30〜60×10μN/cm)に調整するとよい。
【0021】
また、塗布ヘッド16の構成は上述したものに限定されるものではなく、上流側のスリット24のみを設けたものや、上流側にスリットを二つ以上設けたものなど、様々な態様が可能である。また、図1には、堰20の上端が水平なフラット形状になっており、堰22の上端が楔状になっている例を示したが、堰20、22の上端の形状はこれらに限定するものではない。
【0022】
次に本発明の特徴部分であるバー14の表面形状について説明する。図2は、バー14を示す正面図である。また、図3は、バー14の表面を拡大した断面図である。
【0023】
これらの図に示すように、バー14の外周面には複数の螺旋溝32が形成されている。この螺旋溝32は、螺旋状に連続して形成されており、さらにバー14の中心軸Lに直交する面に対して角度αで形成されている。角度αは、20度以上70度以下が好ましく、30度以上65度以下がより好ましい。これは、角度αがこの範囲よりも小さくなるとスジが発生し、角度αがこの範囲よりも大きくなると塗布ムラが発生するためである。
【0024】
また、螺旋溝32は、一定の間隔をあけて形成されており、螺旋溝32、32同士の間には、外周面がそのまま平滑部34として残されている。すなわち、バー14の外周面は、螺旋溝32、32同士の間に平滑部34が形成されている。ウエブ12は、バー14の位置を走行する際、平滑部34に密に接触されている。ここで、ウエブ12において平滑部34との接触割合は20%以上が好ましく、20%以上70%以下が特に好ましい。接触割合が上記の範囲を外れると、スジが発生しやすくなるためである。
【0025】
次に上記の如く構成された塗布装置10の作用について説明する。
【0026】
スリット24、26から吐出された塗布液は、バー14の上流側に一次側ビードを形成し、バー14の下流側に二次側ビードを形成する。塗布液が一次側から二次側に流れる際、塗布液はバー14の溝32によって幅方向に強制的に移動する。このような塗布液の流れを強制的に作り、且つ、コントロールすることによって、ウエブ12の進行方向のスジが塗布面に形成されることを防止できる。
【0027】
このように本実施の形態の塗布装置10は、バー14の表面に螺旋溝32を設けたので、塗布液を強制的に幅方向に流すことができ、ウエブ12上の塗布面にスジが発生することを防止できる。
【0028】
また、本実施の形態によれば、バー14の中心軸に対して螺旋溝32の角度αを20度以上70度以下にし、且つ、ウエブ12がバー14の平滑部34に接触する割合を20%以上にしたので、スジと塗布ムラの両方の発生を防止することができる。
【実施例】
【0029】
アクリル共重合性ポリマー溶液でエチレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、メチルエチルケトンを溶媒とする液の固形分濃度を変化させることにより塗布液を調製し、この塗布液を所定の塗布速度のPETフィルム上に塗布した。バーは、被塗布部材(PETフィルム)の進行方向に10〜100rpmで回転させた。各試験No.ごとに、バーの条件、塗布速度を変えて試験を行った。そして、得られた塗布面について、等ピッチのスジの有無や、塗布面状を調べて評価した。図4、図5にバーの条件、塗布液の条件、塗布速度の条件と、評価結果を示す。なお、図4、図5において、「溝の角度」は上述した角度[α°]を示し、「平滑長さ」は平滑部の幅方向の長さ[μm]を示し、「ピッチ」は隣り合う螺旋溝のピッチ[μm]を示し、「比率」はフィルムが平滑部に接触する比率であり、「溝形状」はバー表面の溝が螺旋溝かリング状の溝であるかを示している。また、「塗布速度」は、フィルムの走行速度[m/分]であり、調べた範囲を示している。さらに、「スジ」は、無い場合を「○」、ある場合を「×」で示し、「塗布面状」は塗布面を視認した状態を示す。
【0030】
図4、図5から分かるように、溝が螺旋状ではなく、リング状の場合には、塗布液を幅方向に移動させることができないため、等ピッチのスジの発生を防止することができなかった(No.15、19、24、31、36、43参照)。
【0031】
また、溝の角度αが20°未満の場合(No.1〜9参照)には、塗布速度を変えてもスジの発生を防止することができなかった。また、溝の角度αが70°を超えた場合(No.49〜54)には、塗布速度を変えても塗布ムラの発生を防止することができなかった。これに対して、溝の角度を20°以上70°以下とした場合には、スジの発生を抑制する効果が見られるとともに、塗布ムラの発生も抑制することができた。ただし、溝の角度が20°以上70°以下の場合であっても、平滑部の比率が0.2未満の場合(No.10、17、25、32、37、44、49、55参照)や、0.7以上の場合(No.16、23、30、42、48、54参照)には、等ピッチのスジが発生したり、不均一な分布がスジ状に発生したりした。このため、平滑部の比率は0.2以上0.7未満が好ましい。すなわち、バーは、溝の角度を20°以上70°以下とし、且つ、平滑部の比率を0.2以上0.7未満とすることが好ましい。これにより、スジの発生を防止でき、且つ、精度のよい塗布面状を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】塗布装置の概略構成を示す断面図
【図2】図1のバーを示す側面図
【図3】図2のバーの一部を拡大した断面図
【図4】実施例の条件と結果を示す表図
【図5】実施例の条件と結果を示す表図
【符号の説明】
【0033】
10…塗布装置、12…ウエブ、14…バー、16…塗布ヘッド、18…支持部材、20…堰、22…堰、24…スリット、26…スリット、28…液貯留部、30…液貯留部、32…螺旋溝、34…平滑部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する被塗布部材に略円柱状のバーを接触させ、該バーに対して前記被塗布部材の進入側に塗布液を供給することによって前記被塗布部材に塗布液を塗布する塗布方法において、
前記塗布液が前記バーに対して前記被塗布部材の進入側から進出側に通過する際に、前記バーによって前記塗布液に前記被塗布部材の幅方向の流れを強制的に与えることを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記塗布液の幅方向の流れは前記バーの表面に形成された螺旋溝によって与えられ、
該螺旋溝は、前記バーの中心軸に直交する面に対して20度以上70度以内で傾斜して形成されるとともに、
該螺旋溝を除くバーの平滑部に前記被塗布部材が20%以上の割合で接触することを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記バーが回転することによって、前記塗布液が前記バーの周りに供給されることを特徴とする請求項1または2に記載の塗布方法。
【請求項4】
走行する被塗布部材に接触するように配置された略円柱状のバーと、該バーに対して前記被塗布部材の進入側に塗布液を供給する供給手段と、を備えた塗布装置において、
前記バーの表面には、該バーに対して前記被塗布部材の進入側に供給された塗布液を、該被塗布部材の幅方向に細分化して流す流路が形成されることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
前記バーの表面には、
前記流路として前記バーの中心軸に直交する面に対して20度以上70度以内で傾斜した螺旋溝と、
前記被塗布部材が20%以上の割合で接触する平滑部と、が形成されることを特徴とする請求項4に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−226371(P2009−226371A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78333(P2008−78333)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】