説明

塗布液供給装置およびフィルタライン切替方法

【課題】フィルタ交換時の稼働停止時間を短縮するとともに,塗工品質のばらつきの低減が期待できる塗布液供給装置およびフィルタライン切替方法を提供すること。
【解決手段】塗布液供給システム100は,2本のフィルタライン10,20とを備えており,一方のフィルタラインを使用して塗布液11を塗工装置2に供給する。フィルタライン10とフィルタライン20とは並列に接続され,各フィルタ13,23とポンプ5とは直列に接続される。そして,使用フィルタラインの切り替えの際には,待機中のフィルタラインのフィルタに塗布液11の注入を開始する。待機中のフィルタに塗布液を充填した後は,塗布液の注入を停止する。その後,その待機中のフィルタラインを使用フィルタラインに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,塗布液供給装置およびフィルタライン切替方法に関する。さらに詳細には,塗布液供給元と供給先との間にフィルタを有する塗布液供給装置および塗布液供給システムのフィルタライン切替方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,連続走行する帯状の支持体(以下,「ウエブ」とする)上に,塗布液を塗布して塗膜を形成する塗工装置が広く知られている。この塗工装置は,例えば,非水型2次電池の電極の製造において,電極板の製造に利用されている。
【0003】
塗工装置に使用される塗布液は,塗工装置に供給されるに際し,異物や凝集物を除去するためにフィルタを経由して塗工装置に供給されるのが一般的である。すなわち,塗布液は,供給元の塗布液タンクから吐出用のポンプによって送り出され,フィルタによって濾過されて供給先の塗工装置に送られる。
【0004】
上述した塗布液供給システムでは,フィルタの交換作業が不可避である。このフィルタの交換時,フィルタが1つしかないと,ポンプの停止が必要となる。そのため,塗布作業を中断することになり,稼働率に悪影響を与える。そこで,フィルタを複数用意し,各フィルタラインを並列接続し,使用するフィルタライン(以下,「使用フィルタライン」とする)を切り替えることで,塗布作業の可動停止時間を短縮する技術が提案されている。
【0005】
例えば,図4に示すように,塗布液の供給元となるタンク1と,塗布液の供給先となる塗工装置2との間に,2系統のフィルタライン10,20を設ける。各フィルタライン10,20には,それぞれフィルタ13,23を設ける。また,2系統のフィルタライン10,20が共通して利用するポンプ5を設ける。そして,一方のフィルタラインを使用フィルタラインとし,他方のフィルタラインを非使用とする。このような塗布液供給システムでは,使用フィルタラインのフィルタを交換する際,使用フィルタラインを切り替えることで,塗布液の供給を継続することができる。
【0006】
また,例えば,図5に示すように,2系統のフィルタライン10,20を設けるとともに,各フィルタライン10,20に個別にポンプ15,25を設け,両フィルタライン20,20の下流側の合流箇所に配管90を接続し,一方のフィルタラインが塗工装置2に向かうライン80と連通し,他方のフィルタラインがタンク1に戻る配管90と連通するように,切り換えバルブ6を切り換える供給システムが開示されている(例えば,特許文献1)。このようなシステムでも,塗布液の供給を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−313104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,前記した塗布液供給システムでは,次のような問題があった。すなわち,図4に示した塗布液供給システムでは,フィルタライン10,20の切り換え時に,塗工装置2おいて圧力変動が生じる。つまり,切り換え後のフィルタにおいて,空のフィルタハウジングに液流入が起きる。この塗布液がフィルタハウジング内に流入している間,塗工装置2への圧力が著しく低下する。そして,フィルタハウジング内が塗布液で満たされると,再度圧力が上昇する。この圧力変動によって塗工装置2からの吐出量が変動する。その結果,塗工膜厚にばらつきが生じる。
【0009】
また,図5に示した塗布液供給システムでも,フィルタライン10,20の切り換え時に,塗工装置2おいて圧力変動が生じる。つまり,フィルタラインの切り換え時には,瞬間的に流路遮断が発生してしまう。この流路遮断は,圧力変動の原因の1つとなる。また,この瞬間的な流路遮断を回避するために両フィルタラインともに塗工装置2に向かうライン80と連通させる時間を持たせると,ポンプが2台であるために流量が2倍になってしまう。
【0010】
さらに,図5に示した塗布液供給システムでは,非使用のフィルタラインでも常に塗布液が流れており,フィルタの寿命としては使用フィルタラインのフィルタと同程度となってしまう。また,吐出用のポンプが2台あるため,ポンプの機差が存在し,同じ設定値であっても吐出量に若干の差が生じることは否めない。
【0011】
本発明は,前記した塗布液供給技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,フィルタ交換時の稼働停止時間を短縮するとともに,塗工品質のばらつきの低減が期待できる塗布液供給装置およびフィルタライン切替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題の解決を目的としてなされた塗布液供給装置は,塗布液を塗工装置に供給する塗布液供給装置であって,塗布液を貯蔵する塗布液タンクと,塗布液タンク内の塗布液を吐出するポンプと,塗布液を濾過するフィルタを経由するフィルタラインを少なくとも2本有し,各フィルタラインを並列接続し,各フィルタとポンプとを直列接続するフィルタライン群と,フィルタライン群の各フィルタに塗布液を注入する注入手段とを備え,フィルタライン群のうち1つのフィルタラインを,使用フィルタラインとして塗布液の供給に使用し,使用フィルタラインを切り替える際,その切り替え前に,使用していないフィルタラインのうち1つのフィルタラインを切替先フィルタラインとし,その切替先フィルタラインのフィルタに注入手段にて塗布液を注入し,そのフィルタ内を塗布液で充填した状態で,その切替先フィルタラインを使用フィルタラインに切り替えることを特徴としている。
【0013】
本発明の塗布液供給装置は,少なくとも2本のフィルタラインを備えており,そのうちの1本を使用して塗布液を供給する。そして,使用フィルタラインの切り替えの際には,切替先フィルタラインのフィルタに塗布液の注入を開始する(注入ステップ)。切替先フィルタラインのフィルタに塗布液を充填した後は,塗布液の注入を停止する(停止ステップ)。その後,切替先フィルタラインを使用フィルタラインに切り替える(切替ステップ)。
【0014】
すなわち,本発明の塗布液供給装置では,フィルタラインを複数有し,使用フィルタラインのフィルタを交換する際には,待機中のフィルタラインを使用フィルタラインに切り替えることで,ポンプを停止せずにフィルタの交換が可能になる。また,フィルタの切り替え前に,あらかじめ切替先フィルタラインのフィルタを塗布液で充填しておく。これにより,フィルタラインの切り替え直後であっても,圧力低下が生じ難い。そのため,フィルタを切り替える際に生じる圧力変動の影響が,フィルタが空のフィルタラインに切り替える際に生じる圧力変動と比較して小さい。その結果,塗工装置への影響も小さく,塗布膜の品質悪化の抑制が期待できる。
【0015】
また,本発明の塗布液供給装置は,フィルタライン群の各フィルタラインの,フィルタ通過後の圧力を計測する計測手段と,計測手段の計測値に基づいて,フィルタライン群の各フィルタラインのフィルタ通過後の圧力を調節する調節手段とを備え,使用フィルタラインを切り替える際,注入手段にてフィルタに塗布液が注入された切替先フィルタラインの圧力を,使用フィルタラインの圧力に揃えた後に,使用フィルタラインを切り替えるとよい。
【0016】
すなわち,本発明の塗布液供給装置は,切替先フィルタラインのフィルタに塗布液を充填した後に,その切替先フィルタラインの圧力を,使用フィルタラインの圧力に揃える(圧力調節ステップ)。ここで,圧力を揃えるとは,厳密に等しいことを意味するものではなく,例えば,圧力差があらかじめ規定された許容値の範囲内となるように,切替先フィルタラインの圧力を調節する。この構成にすることで,圧力が揃えられた状態でフィルタラインが切り替えられることから,フィルタを切り替える際に生じる圧力変動がより高精度に抑制される。
【0017】
また,上記の塗布液供給装置では,塗布液の注入を停止した後にも,切替先フィルタラインの圧力と使用フィルタラインの圧力とが揃っているか否かを判断し(判断ステップ),両圧力が揃っていると判断した場合には,切替ステップに移行して使用フィルタラインに切り替え,揃っていないと判断した場合には,塗布液の注入を再開するとよい。すなわち,塗布液の注入を停止した後であっても,圧力に変化が生じることが考えられる。そこで,フィルタラインの切り替え前に,再度圧力を検査することで,圧力変動の抑制がより期待できる。
【0018】
また,本発明の塗布液供給装置は,フィルタライン群の各フィルタラインの,フィルタ通過後の塗布液を塗布液タンクに戻す帰還手段を備え,調節手段は,帰還手段にてフィルタ通過後の塗布液の一部を塗布液タンクに戻しつつ圧力調整を行うとよい。この構成によれば,塗布液を塗布液タンクに戻しながら圧力調整を行うことができる。そのため,資源の無駄が少ない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,フィルタ交換時の稼働停止時間を短縮するとともに,塗工品質のばらつきの低減が期待できる塗布液供給装置およびフィルタライン切替方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態にかかる,塗布液供給システム(フィルタライン2本)の一例を示す図である。
【図2】実施の形態にかかる,塗布液供給システムのフィルタライン切替時の動作手順を示すフローチャートである。
【図3】応用例にかかる,塗布液供給システム(フィルタライン3本)の一例を示す図である。
【図4】従来の形態にかかる,塗布液供給システムの一例(吐出用ポンプ共通)を示す図である。
【図5】従来の形態にかかる,塗布液供給システムの一例(吐出用ポンプ個別)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,本発明にかかる塗布液供給装置を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,以下の形態では,非水型2次電池の電極を製造する際に利用される塗工装置に塗布液を供給する,塗布液供給システムとして本発明を適用する。
【0022】
[システム構成]
本形態の塗布液供給システム100は,図1に示すように,塗布液11を貯蔵する塗布液タンク1と,塗布液タンク1内の塗布液11を吐出する吐出ポンプ5と,塗布液11を濾過するフィルタ13,23とを備えている。また,塗布液供給システム100は,フィルタを経由するラインであるフィルタラインを2系統備えている。具体的に,一方のフィルタライン10にはフィルタ13が設けられ,他方のフィルタライン20にはフィルタ23が設けられている。
【0023】
塗布液供給システム100では,フィルタライン10とフィルタライン20とが並列に接続され,各フィルタ13,23はポンプ5と直列に接続されている。また,フィルタライン10とフィルタライン20とは,塗工装置2の手前で合流するように接続されている。すなわち,フィルタライン10,20は,共通の吐出ポンプ5を利用する。そのため,フィルタライン10,20のどちらを使用しても,塗工装置2にてポンプ機差に伴う圧力変動は生じない。
【0024】
さらに,フィルタライン10には,フィルタ13よりも上流に位置するバルブ16と,下流に位置するバルブ17とが設けられている。フィルタライン20には,フィルタ23よりも上流に位置するバルブ26と,下流に位置するバルブ27とが設けられている。塗布液供給システム100では,このバルブ16,17,26,27を開閉することにより,フィルタライン10,20のうち一方を利用して塗布液11を供給し,他方を待機状態とする。すなわち,フィルタライン10を使用フィルタラインとするときは,バルブ16,17を開とし,バルブ26,27を閉とする。一方,フィルタライン20を使用フィルタラインとするときは,バルブ26,27を開とし,バルブ16,17を閉とする。
【0025】
また,塗布液供給システム100は,各フィルタ13,23のフィルタハウジング内に塗布液11を注入する注液ポンプ4を備えている。そして,塗布液供給システム100には,注液ポンプ4の下流側で分岐し,それぞれフィルタライン10,20に接続する注液ライン30,40が設けられている。具体的に,注液ライン30は,フィルタ13よりも上流側でフィルタライン10に接続し,注液ポンプ4によって塗布液タンク1から送り出された塗布液11をフィルタ13に送るラインである。注液ライン40は,フィルタ23よりも上流側でフィルタライン20に接続し,注液ポンプ4によって塗布液タンク1から送り出された塗布液11をフィルタ23に送るラインである。各注液ライン30,40は,待機状態のフィルタに塗布液11を注液する際に使用される。
【0026】
さらに,注液ライン30には,バルブ36が設けられている。注液ライン40には,バルブ46が設けられている。バルブ36は,フィルタ13に塗布液11を注入する間は開となり,それ以外は閉となっている。バルブ46は,フィルタ23に塗布液11を注入する間は開となり,それ以外は閉となっている。
【0027】
本塗布液供給システム100の2つのポンプ4,5のうち,吐出ポンプ5の性能は,塗工装置2への塗布液11の供給量に影響することから,高精度が要求される。ここでいう高精度とは,連続安定性や無脈動性に優れていることである。そのため,吐出ポンプ5は,高価になる傾向にある。一方,注液ポンプ4は,フィルタ13ないしフィルタ23のフィルタハウジング内の塗布液11の充填に利用されるものであり,吐出ポンプ5と比較して,精度は低くてもよい。また,フィルタ13ないしフィルタ23への注液が可能であればよいことから,吐出ポンプ5と比較して,吐出量が少ないものであってもよい。
【0028】
また,塗布液供給システム100は,フィルタ13の下流であってバルブ17よりも上流でフィルタライン10と接続し,フィルタ13にて濾過された塗布液11を塗布液タンク1に戻す帰還ライン50と,帰還ライン50の圧力を計測する圧力計54と,フィルタ23の下流であってバルブ27よりも上流でフィルタライン20と接続し,フィルタ23にて濾過された塗布液11を塗布液タンク1に戻す帰還ライン60と,帰還ライン60の圧力を計測する圧力計64とを備えている。
【0029】
さらに,帰還ライン50には,圧力計54の計測点よりも下流に位置するバルブ58と,そのバルブ58よりも下流に位置するバルブ59とが設けられている。帰還ライン60には,圧力計64の計測点よりも下流に位置するバルブ68と,そのバルブ68よりも下流に位置するバルブ69とが設けられている。バルブ58は,注液ライン30を介してフィルタ13に塗布液11を注入する間は開となり,それ以外は閉となっている。バルブ68は,注液ライン40を介してフィルタ23に塗布液11を注入する間は開となり,それ以外は閉となっている。また,バルブ59.69は,圧力調整用のバルブであり,各フィルタ13,23への注液時に,開放度合を変更して各ラインの圧力を調節する。
【0030】
塗工装置2は,本供給システム100から塗布液11の供給を受け,その塗布液11を連続走行するウェブ8に塗布し,ウェブ8上に塗布膜81を形成するものである。本形態の塗工装置2は,供給された塗布液11を吐出するダイヘッドを備え,そのダイヘッドが,ウェブ8を巻回するバックアップローラ7と対向している。そして,ウェブ8がその対向箇所を走行する際にダイヘッドから塗布液11を吐出することで,ウェブ8上に塗布膜81が形成される。
【0031】
また,塗工装置2は,ダイ塗工方式の塗工装置であって,塗布液11の受給と吐出とが直結した構造を有している。すなわち,グラビア塗工方式のような,受給した塗布液11を一旦溜め込むような構造ではなく,受給したときの圧力がそのまま吐出に反映される構造を有している。このような構造の塗工方式としては,ダイ塗工の他,例えばスプレー塗工が該当する。
【0032】
[フィルタライン切替手順]
続いて,本形態の塗布液供給システム100におけるフィルタラインの切替手順について,図2のフローチャートを参照しつつ説明する。なお,以下の説明では,フィルタライン10が使用中であり,フィルタライン20への切り替えを行うものとする。そのため,フィルタラインの切り替え開始前の段階では,バルブ16および17が開であり,その他のバルブは閉であるものとする。
【0033】
まず,待機中のフィルタライン20に接続する,注液ライン40のバルブ46および帰還ライン60のバルブ68を開にする(S01)。その後,注液ポンプ4を起動する(S02)。これにより,フィルタ23への塗布液11の注入が開始される。
【0034】
しばらく経つとフィルタ23内が塗布液11で充填され,フィルタライン20の圧力も上昇し始める。このとき,バルブ27が閉で,バルブ68が開であることから,塗布液11が帰還ライン60に流入し,帰還ライン60にある圧力計64の計測値が上昇する。なお,圧力計64は,帰還ライン60のうちバルブ68よりも上流であってフィルタライン20との分岐点の直後の圧力を計測しており,その計測値はフィルタライン20のフィルタ23通過後の圧力値に等しい。圧力計54の計測値も同様に,フィルタライン10のフィルタ13通過後の圧力値に等しい。
【0035】
次に,圧力計54の計測値と圧力計64の計測値とを比較し,圧力計64の計測値が圧力計54の計測値に対して±3%以内の圧力差であるか否かを判断する(S03)。つまり,フィルタライン10とフィルタライン20との圧力が等しいと見做すことができるか否かを判断する。「±3%」は,圧力が等しいと見做すための閾値であり,この閾値はあらかじめ設定されている。また,閾値の大きさは,許容される圧力変動量によって個々のシステムごとに異なる。
【0036】
圧力計64,54の計測値が±3%以内で近似していない場合には(S03:NO),帰還ライン60のバルブ69の開放量を調節し,フィルタライン20の圧力調整を実施する(S11)。すなわち,±3%よりも大きい圧力差がある場合には,塗工装置2に与える圧力変動が大きくなり,塗膜81の厚さへの影響が許容できない。そのため,フィルタライン10,20の圧力を揃えるように圧力調整を実施する。
【0037】
圧力計64,54の計測値が±3%以内で近似している場合には(S03:YES),注液ポンプ4を停止する(S04)。その後,バルブ46およびバルブ68を閉にする(S05)。すなわち,フィルタ23への塗布液11の注入を停止する。
【0038】
その後,再度,圧力計64の計測値が圧力計54の計測値に対して±3%以内であるか否かを判断する(S06)。すなわち,フィルタ23への塗布液11の注入を停止している間に圧力変動が生じる可能性がある。そのため,最終的にフィルタ23への塗布液11の注入を停止した状態で圧力差がないことを再確認する。圧力計64,54の計測値が±3%以内で近似していない場合には(S06:NO),S01に戻り,再度,フィルタ23への塗布液11の注入を開始し,圧力調整を行う。
【0039】
一方,注液ポンプ4の停止後の,圧力計64,54の計測値が±3%以内で近似している場合には(S06:YES),バルブ27を開にし,次いでバルブ26を開にする(S07)。その後,バルブ16を閉にし,次いでバルブ17を閉にする(S08)。すなわち,使用フィルタラインをフィルタライン10からフィルタライン20に切り替える。このとき,フィルタライン10とフィルタライン20の圧力が揃えられていることから,塗工装置2への圧力変動は殆ど生じない。これにより,使用フィルタラインがフィルタライン10からフィルタライン20に切り替えられ,待機状態となったフィルタ13の交換が可能になる。
【0040】
なお,上記の手順は,フィルタライン10が使用フィルタラインであり,フィルタライン20への切り替えを行うものとして説明しているが,勿論,フィルタライン20が使用フィルタラインであり,フィルタライン10への切り替えを行う場合であっても,バルブを適宜変更することによって適用可能である。
【0041】
[応用例]
続いて,塗布液供給システム100の応用例である塗布液供給システム200について説明する。塗布液供給システム200は,塗工装置2へのフィルタラインを3本備えている。この点,塗工装置2へのフィルタラインがフィルタライン10とフィルタライン20との2本である塗布液供給システム100とは異なる。
【0042】
本応用例にかかる塗布液供給システム200は,図3に示すように,3つのフィルタラインであるフィルタライン10,20,そして210を備えている。フィルタライン10およびフィルタライン10に接続する注液ライン30および帰還ライン50の構成は,塗布液供給システム100と同様である。また,フィルタライン20およびフィルタライン20に接続する注液ライン40および帰還ライン60の構成も,塗布液供給システム100と同様である。
【0043】
塗布液供給システム200は,これらフィルタライン10,20と同様の構成のフィルタライン210を追加している。すなわち,フィルタライン210は,フィルタ213を備え,その上流の位置にバルブ216を,下流の位置にバルブ217を備えている。また,フィルタ213よりも上流の位置でかつバルブ216よりも下流の位置でフィルタライン210に接続する注液ライン230を備え,注液ライン230にはバルブ236が設けられている。また,フィルタ213よりも下流の位置でかつバルブ217よりも上流の位置でフィルタライン210に接続する帰還ライン250を備え,帰還ライン250にはバルブ258,259と圧力計254とが設けられている。
【0044】
塗布液供給システム200は,これら3つのフィルタライン10,20,210のうち,1つを使用して,2つを待機させる。そして,フィルタの切り替え時には,待機中のフィルタラインのうち1つを切替先のフィルタラインとして選択し,その切替先フィルタラインのフィルタに塗布液11を充填し,その後,その切替先フィルタラインを使用フィルタラインに切り替える。
【0045】
塗布液供給システム200は,3つのフィルタを有していることから,1つのフィルタが交換中で,1つのフィルタが使用中であっても,さらにもう1つ待機中のフィルタが存在する。そのため,フィルタの交換中に使用中のフィルタの切り替えが必要となったとしても,もう1つの待機中のフィルタによってシステムを停止することなくフィルタの切り替えが可能になる。その結果,十分な交換時間が確保できる。
【0046】
以上詳細に説明したように実施の形態の塗布液供給システム100,200は,フィルタラインを複数有し,使用フィルタラインのフィルタを交換する際には,待機中のフィルタラインを使用フィルタラインに切り替えることで,吐出ポンプ5を停止せずにフィルタの交換が可能になる。また,フィルタの切り替え前に,あらかじめ切替先フィルタラインのフィルタを塗布液11で充填しておく。これにより,フィルタラインの切り替え直後であっても,圧力低下が生じ難い。そのため,フィルタを切り替える際に生じる圧力変動の影響が小さい。その結果,塗工装置2への影響も小さく,塗布膜81の品質悪化の抑制が期待できる。
【0047】
また,フィルタライン10とフィルタライン20は,同一のポンプ5を使用している。そのため,ポンプ機差による変動は生じない。また,高精度および高出力が要求される吐出用ポンプは,1台(実施の形態ではポンプ5)でよい。そのため,設備費への負荷が小さい。
【0048】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,2次電池用の電極板の製造工程に限らず,塗布液をフィルタを介して供給する用途に広く適用可能である。
【0049】
また,実施の形態では,1つの注液ポンプ4の吐出によって塗布液11をフィルタ13ないしフィルタ14に注入しているが,塗布液11の注入手段はこれに限るものではない。例えば,塗布液タンク1を密閉し,塗布液タンク1内にエアを送り込むことによって塗布液11を送り出してもよい。また,注液ライン30,40にそれぞれ注液ポンプを設けてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 塗布液タンク
2 塗工装置
4 注液ポンプ
5 吐出ポンプ
10 フィルタライン
13 フィルタ
20 フィルタライン
23 フィルタ
30 注液ライン
40 注液ライン
50 帰還ライン
54 圧力計
60 帰還ライン
64 圧力計
100 塗布液供給システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を塗工装置に供給する塗布液供給装置において,
塗布液を貯蔵する塗布液タンクと,
前記塗布液タンク内の塗布液を吐出するポンプと,
前記塗布液を濾過するフィルタを経由するフィルタラインを少なくとも2本有し,各フィルタラインを並列接続し,各フィルタと前記ポンプとを直列接続するフィルタライン群と,
前記フィルタライン群の各フィルタに前記塗布液を注入する注入手段と,
を備え,
前記フィルタライン群のうち1つのフィルタラインを,使用フィルタラインとして前記塗布液の供給に使用し,
前記使用フィルタラインを切り替える際,その切り替え前に,使用していないフィルタラインのうち1つのフィルタラインを切替先フィルタラインとし,その切替先フィルタラインのフィルタに前記注入手段にて前記塗布液を注入し,そのフィルタ内を前記塗布液で充填した状態で,その切替先フィルタラインを前記使用フィルタラインに切り替えることを特徴とする塗布液供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載する塗布液供給装置において,
前記フィルタライン群の各フィルタラインの,フィルタ通過後の圧力を計測する計測手段と,
前記計測手段の計測値に基づいて,前記フィルタライン群の各フィルタラインのフィルタ通過後の圧力を調節する調節手段と,
を備え,
前記使用フィルタラインを切り替える際,前記注入手段にてフィルタに前記塗布液が注入された切替先フィルタラインの圧力を,前記使用フィルタラインの圧力に揃えた後に,使用フィルタラインを切り替えることを特徴とする塗布液供給装置。
【請求項3】
請求項2に記載する塗布液供給装置において,
フィルタライン群の各フィルタラインの,フィルタ通過後の塗布液を前記塗布液タンクに戻す帰還手段を備え,
前記調節手段は,前記帰還手段にてフィルタ通過後の塗布液の一部を前記塗布液タンクに戻しつつ圧力調整を行うことを特徴とする塗布液供給装置。
【請求項4】
塗布液を濾過するフィルタを経由するフィルタラインを少なくとも2本備え,それらフィルタラインのいずれか1つを使用フィルタラインとして塗布液の供給に使用し,塗布液タンク内の塗布液をポンプによって吐出し,前記ポンプによって吐出された塗布液を前記使用フィルタラインを介して塗工装置に供給する塗布液供給システムのフィルタライン切替方法において,
使用していないフィルタラインのうち1つのフィルタラインを切替先フィルタラインとし,その切替先フィルタラインのフィルタに,前記塗布液の注入を開始する注入ステップと,
前記注入ステップによって注入対象となったフィルタに塗布液を充填した後に,前記塗布液の注入を停止する停止ステップと,
前記停止ステップによって前記塗布液の注入を停止した後に,前記切替先フィルタラインを前記使用フィルタラインに切り替える切替ステップと,
を含むことを特徴とする塗布液供給システムのフィルタライン切替方法。
【請求項5】
請求項4に記載する塗布液供給システムのフィルタライン切替方法において,
前記注入ステップによって注入対象となったフィルタに塗布液を充填した後に,前記切替先フィルタラインの圧力を,前記使用フィルタラインの圧力に揃える圧力調節ステップを含み,
前記停止ステップは,前記圧力調節ステップにて圧力が揃えられた後に,前記塗布液の注入を停止することを特徴とする塗布液供給システムのフィルタライン切替方法。
【請求項6】
請求項5に記載する塗布液供給システムのフィルタライン切替方法において,
前記停止ステップによって前記塗布液の注入を停止した後に,前記切替先フィルタラインの圧力と,前記使用フィルタラインの圧力とが揃っているか否かを判断する判断ステップを含み,
前記判断ステップにて揃っていると判断された場合には,前記切替ステップに移行して前記使用フィルタラインに切り替え,前記判断ステップにて揃っていないと判断された場合には,前記注入ステップに戻って前記塗布液の注入を再開することを特徴とする塗布液供給システムのフィルタライン切替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−115732(P2011−115732A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276346(P2009−276346)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】