説明

塗布液供給装置

【課題】塗布液供給装置において、シールの安定性向上、吸引時間の短縮等を図る。
【解決手段】シリンジポンプ2のシリンダヘッド9の内面9aのうち凹部底部9eの同一円周上に供給口18a,18bと吐出口19を設ける。切換ロッド24の先端に設けた弁板26に供給口18a,18b及び吐出口19と対応する貫通孔27a,27bを設ける。切換ロッド24はロータリアクチュエータ23によって回転駆動され、コイルばね48によって弁板26がシリンダヘッド9の凹部底部9eに押圧される向きに弾性的に付勢される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等の板状処理物、フィルム等の表面にペースト、レジスト液、カラーフィルター用の蛍光体ペースト等の塗布液を塗布する塗工機としてダイコータが広範に使用されている。従来、塗布液タンクからダイコータに塗布液を供給する塗布液供給装置としては、特許文献1にシリンジポンプ2のヘッドに流路切換機構を一体化したものが開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1に開示された塗布液供給装置は、カップリングを介して切換ロッドにエアシリンダを連結し、このエアシリンダの空圧で切換ロッドに設けた弁板とシリンダヘッドとの間のシールを維持する構成であり、弁体の回転時にはシリンダヘッドとの空間をあける方式であるため、シリンダヘッドと弁板との間の摺動面のシールが安定せず、液漏れが生じるおそれがある。また、この塗布液供給装置では、塗布液タンクからの塗布液をシリンダ内に導入するための供給口が1個であるので、塗布液の吸引に要する時間が長い。
【0004】
【特許文献1】特開2002−200452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、塗布液供給装置において、シールの安定性向上、吸引時間の短縮、及び装置の小型を図ること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリンダ内で進退するピストンと、内面が前記ピストンと対向するように前記シリンダの一端に配置されたシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドに設けられ、かつ塗布液タンクに接続された吸引ポートと、前記シリンダヘッドに設けられ、かつ塗工機に接続された吐出ポートと、前記シリンダヘッドの前記内面に開口し、前記吸引ポートと連通する供給口と、前記シリンダの内面に開口し、前記吐出ポートと連通し、かつ前記供給口と同一の第1の円上に配置された吐出口と、前記シリンダヘッドを貫通し、軸線が前記第1の円の中心を通り、かつ前記シリンダの内面側に位置する一端に弁板を備える切換ロッドと、前記弁板に設けられ、かつ前記第1の円と同心かつ同径の第2の円上に配置された貫通孔と、前記切換ロッドを前記軸線周りに回転駆動するアクチュエータと、前記弁板が前記シリンダヘッドの前記内面に押圧される向きに、前記切換ロッドを弾性的に付勢するばねとを備える、塗布液供給装置を提供する。
【0007】
塗布液タンクから塗布液を吸引する際には、アクチュエータで切換ロッドが回転駆動されることにより、弁板は貫通孔が供給口と一致する角度位置となる。ピストンがシリンダ内の容積を増加させる方向に移動し、塗布液タンクからの塗布液は吸引ポートを経て供給口からシリンダ内に吸引される。一方、塗工機に塗布液を吐出する際には、アクチュエータで切換ロッドが回転駆動されることにより、弁板は貫通孔が吐出口と一致する角度位置となる。ピストンがシリンダ内の容積を減少させる方向に移動し、シリンダ内の塗布液は吐出口を経て吐出ポートから塗工機へ吐出される。
【0008】
弁板はばねによって常時シリンダヘッドの内面に押圧される。詳細には、貫通孔が供給口と一致する角度位置から貫通孔が吐出口と一致する角度位置へ弁板が回転する際にも、その逆の向きに弁板が回転する際にも、弁板はシリンダヘッドの内面に押圧された状態を維持する。従って、カップリングを介して切換ロッドをエアシリンダに接続し、弁板の回転時には弁板とシリンダヘッドとの間に空間をあけて回転させ、空圧でシールを維持する場合と比較すると、シリンダヘッドの内面と弁板との間の摺動面のシールの安定性が大幅に向上し、塗布液の漏れを確実に防止できる。また、切換ロッドを進退させるエアシリンダやカップリングが不要となるので、装置の小型化及び簡素化される。さらに、ばねによる付勢力を調整するだけで、簡単に弁板をシリンダヘッドの内面に対する押圧する力を調整でき、装置の操作性が向上する。
【0009】
好ましくは、前記供給口が複数個あり、かつ前記貫通孔が前記供給口と同数ある。
【0010】
供給口の総断面積を増加できるので、塗布液タンクからの塗布液の吸引に要する時間を短縮できる。また、適切な流量で塗布液を吸引するために必要な総断面積を確保しつつ、個々の供給口の断面積は低減できる。個々の供給口の断面積を低減することで、弁板の寸法を小型化できる。さらに、個々の供給口の断面積を低減することで、確実なシールのために必要な供給口と吐出口の間の沿面距離を確保しつつ、供給口と吐出口のとの間の角度範囲を狭めることができる。その結果、吸引と吐出の切換のために必要な弁板の回転角度を縮小し、摺動面の摺動面積及び摺動距離を低減できる。
【0011】
さらに好ましくは、前記供給口は前記第1の円の前記中心に対して点対称に配置されている。
【0012】
塗布液タンクからの圧力は弁板の複数個所に均一に作用する。その結果、シリンダヘッドの内面と弁板との間の摺動面のシールの安定性がより向上する。
【0013】
例えば、前記供給口が2個あり、これら2個の供給口は前記第1の円の前記中心周りに180°の角度間隔を隔てて配置される。
【0014】
前記シリンダヘッドの内面と前記弁板との間に、前記シリンダヘッド又は前記弁板に固定された耐磨耗性を有する固定板が介在していてもよい。
【0015】
前記ばねによる押圧力は、前記弁体と前記シリンダヘッドの間にシール膜兼潤滑膜として機能する前記塗布液の膜が形成されるように設定されている。そのため、弁体が回転するときに、シリンダヘッドの内面と弁板との間の摺動面に広範囲に塗布液を供給でき、この摺動面の全面にシール膜兼潤滑膜として機能する塗布液の潤滑膜が形成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の塗布液供給装置では、ばねによって弁板がシリンダヘッドの内面に押圧される向きに切換ロッドを弾性的に付勢するので、シリンダヘッドの内面と弁板との間の摺動面のシールの安定性を向上できると共に、装置を小型化及び簡素化できる。また、複数個の供給口を設けることで、摺動面のシールの安定性向上、吸引時間の短縮、弁板の寸法の小型化、並びに摺動面の摺動面積及び摺動距離の低減を実現できる。さらに、供給口を点対称に配置することで、シリンダヘッドの内面と弁板との間の摺動面のシールの安定性をさらに向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
図1を参照すると、塗布液供給装置1は、シリンジポンプ2、切換装置3、及びコントローラ4を備える。
【0019】
シリンジポンプ2は、シリンダ6、直動型のアクチュエータ7で駆動されてシリンダ6内で進退するピストン8、内面9aがピストン8と対向するようにシリンダ6の一端に固定されたシリンダヘッド9を備える。
【0020】
図2から図4を併せて参照すると、本実施形態におけるシリンダヘッド9は概ね扁平な円柱状であり、外周には吸引ポート11と吐出ポート12が設けられている。吸引ポート11は配管13により塗布液タンク16に接続され、吐出ポート12は配管14によりダイコータ(塗工機)17に接続されている。シリンダヘッド9の内面9aには断面円形の凹部9cが設けられている。内面9aのうち凹部9cの底部を構成する部分(凹部底部9e)には、2個の供給口18a,18bと1個の吐出口19とがシリンダ6内の内部に開口している。供給口18a,18bは、シリンダヘッド9内に形成された供給流路21a,21bを介して吸引ポート11と連通している。吐出口19は、シリンダヘッド9内に形成された吐出流路22を介して吐出ポート12と連通している。本実施形態では、供給口18a,18bと吐出口19の断面形状は、いずれも円形である。
【0021】
図3に示すように、供給口18a,18bと吐出口19は、内面9a上の仮想の円C1の円周上に配置されている。詳細には、2個の供給口18a,18bは、円C1の中心CT1周りに180°の角度間隔を隔てて点対称に配置されている。また、吐出口19は個々の供給口18a,18bに対して円C1の中心CT1周りに90°の角度間隔を隔てて配置されている。シリンダヘッド9には、円C1と同心の円形断面を有する差込孔9dが厚み方向に貫通するように設けられている。
【0022】
切換装置3はロータリアクチュエータ23と、このロータリアクチュエータ23によってそれ自体の軸線S周りに回転駆動される切換ロッド24とを備える。
【0023】
図1、図2、及び図5を参照すると、切換ロッド24は差込孔9dに挿通されることでシリンダヘッド9を貫通しており、軸線Sは供給口18a,18bと吐出口19が配置されている円C1の中心CT1を通る。シリンダ6内(シリンダヘッド9の内面9a側)に位置する切換ロッド24の一端には円盤状の弁板26が一体に設けられている。弁板26には2個の貫通孔27a,27bが設けられている。これらの貫通孔27a,27bは、供給口18a,18bと吐出口19が配置されている円C1と同心かつ同径の仮想の円C2の円周上に配置されている。詳細には、2個の貫通孔27a,27bは、円C2の中心CT2周りに180°の角度間隔を隔てて点対称に配置されている。また、貫通孔27a,27bの断面形状は、供給口18a,18b及び吐出口19と同一径の円形である。
【0024】
図2に最も明瞭に示すように、弁板26のシリンダヘッド9と対向する面には耐磨耗性の材料からなり、かつ円盤状である、耐磨耗性を有する固定板28が固定されている。この固定板28には2個の貫通孔29a,29bが厚み方向に貫通するように設けられている。詳細には、これらの貫通孔29a,29bは、円C1,C2と同径の仮想の円C3の円周上に中心CT3に対して180°の角度間隔を隔てて点対称に配置されている。また、貫通孔29a,29bの断面形状は、供給口18a,18b、吐出口19、及び貫通孔27a,27bと同一径の円形である。固定板28の中央には差込孔31が設けられており、この差込孔31には切換ロッド24が挿通されている。また、固定板28は一対のピン孔32a,32bに挿通したピン(図示せず。)により弁板26に対して固定されている。
【0025】
切換ロッド24の他端には雄ねじ部33が設けられている。また、図5に示すように、切換ロッド24のロータリアクチュエータ23に挿通されている部位から雄ねじ部33にかけて、互いに平行な平坦面34a,34bが形成されている。切換ロッド24の他の部分の断面形状は円形である。シリンダヘッド9の差込孔9dには3個のブシュ36a,36b,36cとOリング37が装着されており、これらはシリンダヘッド9の外面9bにボルト止めされた保持部品38によって保持されている。Oリング37によって差込孔9dの孔壁と切換ロッド24の外周面の隙間のシールがなされている。
【0026】
シリンダヘッド9の外面にはブラケット39がボルト止めされており、このブラケット39にロータリアクチュエータ23のケーシング41が固定されている。図6を参照すると、ロータリアクチュエータ23のケーシング41内には、2個のシリンダ室42a,42bが平行に設けられている。個々のシリンダ室42a,42bには、それぞれ第2ピストン43a,43bが収容されている。一方のシリンダ室42aは、第2ピストン43aにより仕切られた図において左側の第1室42cと右側の第2室42dとを備える。同様に、他方のシリンダ室42bも、第2ピストン43bにより仕切られた図において左側の第1室42eと右側の第2室42fとを備える。シリンダ室42aの第1室42cとシリンダ室42bの第2室42fは図示しない流路を介して互いに連通している。同様に、シリンダ室42aの第2室42dとシリンダ室42bの第1室42eも図示しない流路を介して互いに連通している。個々の第2ピストン43a,43bの片側にはラック44が設けられている。ケーシング41内には第2ピストン43a,43bのラック44と噛合するピニオン46が回転自在に支持されている。ピニオン46には、前述のように平坦面34a,34bを有する切換ロッド24の断面形状と対応する断面形状を有する差込孔46aが厚み方向に貫通するように設けられている。この差込孔46aに切換ロッド24が挿通されている。ピニオン46の回転は切換ロッド24に伝達されるが、ピニオン46は切換ロッド24の軸線Sの方向に進退を妨げない。
【0027】
シリンダ室42aの第1室42c内とシリンダ室42bの第2室42f内に空気を供給すると、第2ピストン43aが図6において右側に移動する一方、第2ピストン43bが左側に移動する。その結果、ラック44で駆動されたピニオン46は図6において反時計回りに回転する。シリンダ室42aの第2室42d内とシリンダ室42bの第1室42e内に空気を供給すると、第2ピストン43aが図6において左側に移動する一方、第2ピストン43bが右側に移動し、ラック44で駆動されたピニオン46は図6において時計回りに回転する。ピニオン46と共に切換ロッド24が軸線S周りに回転し、その結果弁板26が円C2の中心CT2を中心に回転する。
【0028】
図1及び図5を参照すると、ロータリアクチュエータ23のケーシング41のうちブラケット39への取付部位と反対側の部位には軸受部材47が固定されている。この軸受部材47を厚み方向に貫通する差込孔47aに切換ロッド24の他端側が差し込まれている。切換ロッド24の雄ねじ部33は軸受部材47の外部に突出している。差込孔47aは、ロータリアクチュエータ23に近接している側から、軸受部47b、第1拡径部47c、及び第1拡径部47cより大径の第2拡径部47dを備える。軸受部47bは切換ロッド24のラジアル軸受として機能する。第1拡径部47cと第2拡径部47dの接続部位の段部がばね座47eとして機能する。コイルばね48が第2拡径部47d内に収容されており、コイルばね48の一端(ロータリアクチュエータ23側の端部)はばね座47eによって支持されている。また、第2拡径部47dには円筒状のばね押さえ49のつば部49aが摺動自在に収容されており、コイルばね48の他端(ロータリアクチュエータ23とは反対側の端部)はばね押さえ49に当接している。
【0029】
切換ロッド24はコイルばね48とばね押さえ49を貫通し、雄ねじ部33は軸受部材47の筒状部47fから外部に突出している。切換ロッド24の軸線S方向の進退を拘束しないように、コイルばね48とばね押さえ49の内径は切換ロッド24の外寸よりも十分大きく設定されている。ばね押さえ49のつば部49aとは反対側の端部も、軸受部材47の筒状部47fから外部に突出している。
【0030】
切換ロッド24の雄ねじ部33にはナット51が螺合されており、このナット51を締め込むことで、切換ロッド24は図1において矢印Aで示す方向にコイルばね48によって弾性的に付勢されている。詳細には、ナット51を締め込むと、ナット51で押されたばね押さえ49がばね座47eに向けてコイルばね48を圧縮する。従って、圧縮されたコイルばね48が自然長に復帰しようとする力がばね押さえ49を介してナット51に伝達され、切換ロッド24は矢印A方向に付勢される。コイルばね48の矢印A方向の付勢力により、切換ロッド24の弁板26は固定板28を介してシリンダヘッド9の内面9a(凹部底部9e)に対して常時弾性的に押圧される。
【0031】
コントローラ4は、シリンジポンプ2のピストン8を進退させるアクチュエータ7と、切換ロッド24を回転駆動するロータリアクチュエータ23を同期して動作するように制御する。
【0032】
次に、本実施形態の塗布液供給装置1の動作を説明する。
【0033】
塗布液タンク16から塗布液を吸引する際には、ロータリアクチュエータ23で切換ロッド24が回転駆動されることにより、図7(A)に示すように、弁板26は個々の貫通孔27a,27bが固定板28の貫通孔29a,29bを介して個々の供給口18a,18bと一致する角度位置となる。この角度位置では、吐出口19は固定板28の貫通孔29a,29bが存在しない部位で閉鎖される。弁板26がこの角度位置となった後、アクチュエータ7によってシリンジポンプ2のピストン8がシリンダ6内の容積を増加させる方向(図1おいて右向き)に移動する。その結果、塗布液タンク16に蓄液された塗布液の圧力(静圧)により、塗布液タンク16から配管13、吸引ポート11、供給流路21a,21b、供給口18a,18b、貫通孔29a,29b、及び貫通孔27a,27bを介して塗布液がシリンダ6内に吸引される。
【0034】
次に、ダイコータ17に塗布液を吐出する際には、ロータリアクチュエータ23で切換ロッド24が回転駆動されることにより、図7(B)に示すように、弁板26は中心CT1周りに図において時計方向に90°回転し、一方の貫通孔27bが固定板28の貫通孔29bを介して吐出口19と一致する角度位置となる。この角度位置では、供給口18a,18bは固定板28の貫通孔29a,29bがない部位で閉鎖され、他方の貫通孔27a及び貫通孔29aはシリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eのうち供給口18a,18bも吐出口19も存在しない部位で閉鎖される。弁板26がこの角度位置となった後、アクチュエータ7によってシリンジポンプ2のピストン8がシリンダ6内の容積を減少させる方向(図1において左向き)に移動する。その結果、ピストン8によって加圧されたシリンダ6内の塗布液は、貫通孔27b、貫通孔29b、吐出口19、吐出流路22、吐出ポート12、及び配管14を介してダイコータ17へ吐出される。
【0035】
ダイコータ17への塗布液の吐出後に再度塗布液タンク16から塗布液を吸引する際には、弁板26が図7(B)に示す角度位置から中心CT1周りに図において反時計方向に90°回転し、貫通孔27a,27bと貫通孔29a,29bが供給口18a,18bと一致した後、シリンダ6内の容積が増加する方向にピストン8が移動する。以上のように弁板26の回転とそれに同期したピストン8の進退を繰り返すことにより、塗布液タンク16内の塗布液を連続的にダイコータ17へ供給できる。
【0036】
本実施形態の塗布液供給装置1には以下の特徴がある。
【0037】
弁板26及び固定板28はコイルばね48によって常時シリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eに押圧される。詳細には、貫通孔27a,27bと貫通孔29a,29bが供給口18a,18bと一致する角度位置(図7(A))から貫通孔27bと貫通孔29bが吐出口19と一致する角度位置(図7(B))へ弁板26が回転する際にも、その逆の向きに弁板26が回転する際にも、弁板26及び固定板28はシリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eに押圧された状態を維持する。従って、カップリングを介して切換ロッドをエアシリンダに接続し、空圧でシールを維持する場合と比較すると、シリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eと固定板28との間の摺動面のシールの安定性が大幅に向上し、塗布液の漏れを確実に防止できる。また、切換ロッド24を進退させるためのエアシリンダやカップリングが不要となるので、装置の小型化及び簡素化される。さらに、コイルばね48による付勢力を調整するだけで、簡単に弁板26及び固定板28をシリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eに対する押圧する力を調整でき、装置の操作性が向上する。本実施形態の場合、ナット51の締め込み量を増加させればコイルばね48の付勢力が増加し、締め込み量を減少させればコイルばね48の付勢力が低下する。
【0038】
複数個(本実施形態では2個)の供給口18a,18bを設け、それと同数の貫通孔27a,27bと貫通孔29a,29bを設けているので、弁板26が回転することでシリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eと固定板28との間の摺動面の広範囲に塗布液が入り込み、塗布液の膜がシール膜兼及び潤滑膜として機能する。図7(B)の符号θ1,θ2は弁板26の1回の回転で摺動面に塗布液が供給される角度範囲を示す。回転を繰り返すうちに、摺動面の全面に塗布液によるシール膜兼潤滑膜が形成され、シリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eと固定板28との間の摺動面における液漏れや摩耗を防止できる。
【0039】
複数の供給口18a,18bを設けたことにより、供給口の総断面積を増加できるので、塗布液タンク16からの塗布液の吸引に要する時間を短縮できる。また、適切な流量で塗布液を吸引するために必要な総断面積を確保しつつ、個々の供給口18a,18bの断面積を低減できる。個々の供給口18a,18bの断面積を低減することで、弁板26の寸法を小型化できる。さらにまた、個々の供給口18a,18bの断面積を低減することで、確実なシールのために必要な供給口18a,18bと吐出口19の間の沿面距離(図7(B)に符号Lで模式的に示す。)を確保しつつ、供給口18a,18bと吐出口19のとの間の角度範囲を狭めることができる(本実施形態では90°)。その結果、吸引と吐出の切換のために必要な弁板26の回転角度を縮小し、シリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eと固定板28との間の摺動面の摺動面積及び摺動距離を低減できる。
【0040】
また、複数個(本実施形態では2個)の供給口18a,18bを円C1の中心CT1に対して点対称(本実施形態では中心CT1周りに180°の角度間隔)で配置しているので、塗布液の吸引時の塗布液タンク16からの圧力は弁板26の複数個所(本実施形態では2個所)に均一に作用する。その結果、シリンダヘッド9の内面9aの凹部底部9eと固定板28との間の摺動面のシールの安定性がより向上する。
【0041】
図8はシリンダヘッド9の内面における供給口と吸込口の代案を示し、図9はそれに対応する弁板26を示す。
【0042】
図8を参照すると、4個の供給口18a〜18dと4個の吐出口19a〜19dが2個1対で仮想の円C1の中心CT1周りに60°の角度間隔で配置されている。また、1個の対を構成する供給口18a〜18dと吐出口19a〜19dは中心CT1周りに30°の角度間隔で配置されている。一方、図9を参照すると、弁板26には4個の貫通孔27a〜27dが仮想の円C2の中心CT2周りに90°の角度間隔で配置されている。なお、固定板28には弁板26の貫通孔27a〜27dと連通する4個の貫通孔29a〜29dが設けられている。
【0043】
図10(A)で示すように貫通孔27a〜27d及び29a〜29dが供給口18a〜18dと吐出口19a〜19dのいずれとも一致しない中間位置にある弁板26及び固定板28が反時計方向に30°回転すると、図10(B)に示すように、貫通孔27a〜27d及び29a〜29dが供給口18a〜18dと一致して塗布液の吸込が可能な角度位置となる。逆に、図10(A)の中間位置から弁板26及び固定板28が時計方向に30°回転すると、図10(C)に示すように、貫通孔27a〜27d及び29a〜29dが吐出口19a〜19dと一致して塗布液の吐出が可能な角度位置となる。
【0044】
この代案のように、供給口及び弁板の貫通孔の個数を増加させることで、摺動面の摺動面積及び摺動距離を低減できる。
【0045】
本発明は、前記実施形態に限定されず種々の変形が可能である。例えば、ロータリアクチュエータのピニオンと切換ロッドは切換ロッドの進退を拘束しない構造で連結すればよく、例えばキー止めを採用できる。また、切換ロッドの進退を拘束することなく切換ロッドを回動できる限り、ロータリアクチュエータは実施形態のもの以外の構成を有していてもよい。切換ロッドの回転を拘束しない限り、切換ロッドを弾性的に付勢する構成は、実施形態のコイルばね、ばね押さえ、雄ねじ部、及びナットの組み合わせ以外であってもよい。さらに、弁板は切換ロッドと一体である必要はなく別体の弁板を切換ロッドに固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る塗布液供給装置を示す縦断面図。
【図2】シリンダヘッド、弁板、及び固定板を示す部分分解斜視図。
【図3】シリンダヘッドのシリンダ内部から見た正面図。
【図4】図3のIV−IV線での断面図。
【図5】ロータリアクチュエータと切換ロッドを示す部分分解斜視図。
【図6】ロータリアクチュエータを示す模式的な縦断面図。
【図7】(A)は吸込時のシリンダヘッドと弁板を示す正面図、(B)は吐出時のシリンダヘッドと弁板を示す正面図。
【図8】代案のシリンダヘッドを示す模式的な正面図
【図9】代案の弁板を示す模式的な正面図。
【図10】(A)は中間位置での代案のシリンダヘッドと弁板を示す模式的な正面図、(B)は吸込位置での代案のシリンダヘッドと弁板を示す模式的な正面図、(C)は吐出位置での代案のシリンダヘッドと弁板を示す模式的な正面図。
【符号の説明】
【0047】
1 塗布液供給装置
2 シリンジポンプ
3 切換装置
4 コントローラ
6 シリンダ
7 アクチュエータ
8 ピストン
9 シリンダヘッド
9a 内面
9b 外面
9c 凹部
9d 差込孔
9e 凹部底部
11 吸引ポート
12 吐出ポート
13,14 配管
16 塗布液タンク
17 ダイコータ
18a,18b,18c,18d 供給口
19,19a,19b,19c,19d 吐出口
21a,21b 供給流路
22 吐出流路
23 ロータリアクチュエータ
24 切換ロッド
26 弁板
27a,27b,27c,27d 貫通孔
28 固定板
29a,29b,29c,29d 貫通孔
31 差込孔
32a,32b ピン孔
33 雄ねじ部
34a,34b 平坦面
36a,36b,36c ブシュ
37 Oリング
38 保持部品
39 ブラケット
41 ケーシング
42a,42b シリンダ室
42c,42e 第1室
42d,42f 第2室
43a,43b 第2ピストン
44 ラック
46 ピニオン
46a 差込孔
47 軸受部材
47a 差込孔
47b 軸受部
47c 第1拡径部
47d 第2拡径部
47e ばね座
47f 筒状部
48 コイルばね
49 ばね押さえ
49a つば部
51 ナット
C1,C2,C3 円
CT1,CT2,CT3 中心
S 軸線
θ1,θ2 角度範囲
L 沿面距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内で進退するピストンと、
内面が前記ピストンと対向するように前記シリンダの一端に配置されたシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドに設けられ、かつ塗布液タンクに接続された吸引ポートと、
前記シリンダヘッドに設けられ、かつ塗工機に接続された吐出ポートと、
前記シリンダヘッドの前記内面に開口し、前記吸引ポートと連通する供給口と、
前記シリンダの内面に開口し、前記吐出ポートと連通し、かつ前記供給口と同一の第1の円上に配置された吐出口と、
前記シリンダヘッドを貫通し、軸線が前記第1の円の中心を通り、かつ前記シリンダの内面側に位置する一端に弁板を備える切換ロッドと、
前記弁板に設けられ、かつ前記第1の円と同心かつ同径の第2の円上に配置された貫通孔と、
前記切換ロッドを前記軸線周りに回転駆動するアクチュエータと、
前記弁板が前記シリンダヘッドの前記内面に押圧される向きに、前記切換ロッドを弾性的に付勢するばねと
を備える、塗布液供給装置。
【請求項2】
前記供給口が複数個あり、かつ前記貫通孔が前記供給口と同数ある、請求項1に記載の塗布液供給装置。
【請求項3】
前記供給口は前記第1の円の前記中心に対して点対称に配置されている、請求項2に記載の塗布液供給装置。
【請求項4】
前記供給口が2個あり、これら2個の供給口は前記第1の円の前記中心周りに180°の角度間隔を隔てて配置されている、請求項3に記載の塗布液供給装置。
【請求項5】
前記シリンダヘッドの内面と前記弁板との間に、前記シリンダヘッド又は前記弁板に固定された耐磨耗性を有する固定板が介在している、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の塗布液供給装置。
【請求項6】
前記ばねによる押圧力は、前記弁体と前記シリンダヘッドの間にシール膜兼潤滑膜として機能する前記塗布液の膜が形成されるように設定されている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の塗布液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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