説明

塗料中の殺生物剤を結合するための方法および酸性化修飾ポリマーの使用

本発明は、スルホン化された、酸性硫酸エステル、ホスホン酸、カルボン酸または酸性リン酸エステルで修飾されたポリマー骨格(例えば、ポリスチレンまたはアクリレートポリマー)へ結合されたイミダゾール含有化合物(例えば、メデトミジン)を使用して、水中構造物上における例えばフジツボの定着を特異的かつ効果的に妨げる防汚塗料における使用および方法に関する。目的は、制御放出目的のために自己研磨塗料中の添加剤として殺生物剤−ポリマー複合体を使用することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2005年3月11日に出願された米国仮特許出願第60/661,290号の優先権を主張する出願であり、この米国仮出願は、参照により本明細書に援用される。
【0002】
ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−ブロック−ポリスチレン(der−PS)は、例えばスルホン酸基とメデトミジン中の塩基性窒素との間にイオン結合を作製する可能性を有する。これは、有効な防汚表面を開発し、そして、例えばフジツボ定着を妨げることにおける均一な放出および効果のための、塗料マトリクス中の殺生物剤の分散および固定に関する防汚塗料の性能を改善する試みにおいて特に興味深い特徴である。等価のシステムが、船舶用防汚塗料以外の塗料において、殺生物剤の均一な放出のために、同一のポリマー相互作用を用いて、使用され得る。
【背景技術】
【0003】
水中構造物上における生物付着生物の増殖は、海洋適用および淡水適用の両方においてコストのかかる有害な問題である。付着生物、例えば、フジツボ、藻類、チューブワーム等の存在は、種々の様式で経済的損害をもたらす:例えば、船体への付着は、燃料効率を減少させ、そして船体を洗浄する必要のために有益な時間を損失させる。同様に、冷却水装置へのこれらの生物の付着は、熱伝導率を低下させ、これは、最終的に、該装置の冷却力を低下させ、そしてコストを上昇させる。また、他の海洋産業および設備、例えば、養殖装置およびオイル/ガス沖合設備およびプラントも、海洋生物付着に関する深刻な問題を有する。
【0004】
船舶表面の機械洗浄が、トキサイドおよび殺生物剤の代替物として導入されている。とりわけ、ウォータージェット洗浄およびブラシを使用する機械洗浄が使用されている。しかし、これらの方法の大部分は、重労働であり、したがって高価である。
【0005】
最も有効な防汚塗料は、例えば英国特許GB−A−1457590号明細書に記載されるような、ポリマー性結合剤に基づく「自己研磨コポリマー」塗料であり、ここへ、殺生物性有機スズ(特に、トリブチルスズ(tributylin))が化学的に結合されており、そしてここから、殺生物性有機スズが海水により徐々に加水分解される。これらの有機スズコポリマー塗料は、ポリマーの加水分解の間に有機スズ化合物を放出することによって、付着を防止する。最外塗料層は、そして船舶が水中を移動することによって殺生物剤を奪われ船体の表面から一掃される。有機スズコポリマー塗料はまた、海洋生物に対して生物付着に有効である酸化銅顔料を含有し、一方、トリブチルスズは、スライムおよび海草からの保護として機能する。
【0006】
有機スズ化合物(特に、トリブチルスズ)を含有する塗料は、負の環境的結果、海洋生物を害すること、カキの変形を引き起すこと、およびウェルクの性転換を生じさせることが判った。有機スズ化合物は徐々に分解され、そして結果として、これらの化合物が局所中の堆積物中に蓄積されていることが注意されている。したがって、いくつかの国および国際機関は、それらの使用に対して制限および禁止を導入し、そして更なる制限が予想される。トリブチルスズ防汚の販売および適用は、2001年10月に合意された国際海事機関(IMO)防汚システム条約下で、廃止されることになっている。この条約は、2003年1月1日から適用についての禁止を求めており、そして2008年1月1日までに船体についての全面禁止を求めている。
【0007】
多くの国々におけるこれらの毒性コーティングの使用に対する最近の制限で、船舶所有者は、技術的に劣るが毒性の低い酸化銅ベースのコーティングへ戻っている。酸化銅ベースのコーティングの寿命は、自己研磨トリブチルスズでの5年と比較して、通常の付着条件において、めったに2年を超えない。酸化銅に基づくコーティングは船舶運転者および所有者を満足させなかったので、不満が存在している。環境に対するその毒性のために、それは環境保護団体を満足させることもできなかった。しかし、前記銅化合物が環境的理由のために低濃度で使用される場合、これらの塗料は、船舶所有者および他のタイプの海洋産業に許容される性能を達成するために、フジツボおよび藻類に対してブースター殺生物剤(booster biocides)を必要とする。
【0008】
自己研磨塗料の分野における最近の進歩としては、放出機構としてイオン交換を使用するアクリル酸亜鉛コポリマーの使用が挙げられる。
【0009】
環境に対する防汚毒物の可能性がある影響についての配慮によって、表面修飾を介して付着を制御しようと試みるシステムの開発および使用が促進された;例えば、以下の特許文献に例えば記載される、ノンスティック特性またはリリース特性を有するシリコーンまたはフッ素含有ポリマーの使用による付着の防止:国際公開第0014166A1号パンフレット、米国特許第92105410号明細書、特開昭53−113014号公報、米国特許第92847401号明細書、DE2752773号明細書、EP874032A2号明細書、およびEP885938A2号明細書。これらの塗料は、脆く、表面の亀裂および剥離が生じる傾向にあることが、示されている。
【0010】
新規の代替技術が1990年代初めに導入された。これも自己研磨技術であると言われたが、これを得るためのプロセスは、もはやポリマーの加水分解を介さなかった。代わりに、例えば欧州特許EP0289481号明細書、EP526441号明細書に記載されるような、種々の感水性かつ部分的に水溶性である結合剤(例えば、ロジン)の組み合わせが、単独でまたはアクリレートと混合されて、使用された。経験によって、これらの塗料は、加水分解性有機スズベースの塗料と同一の高くそして信頼性のある性能を提供し得ないことが示された。
【0011】
最近、有機スズポリマーと同一の原理(即ち、僅かに水溶性の生成物を提供する不溶性ポリマーの加水分解)に基づく、新規のポリマーが開発された。これらの中でも、例えば、国際公開第8402915号パンフレットに記載される自己研磨ポリマーがある。ポリマー鎖に有機スズ基を組み込む代わりに、これは有機シリル基の組込みを記載している。経験により、これらの塗料は、有機スズコポリマー技術と関連する特性の多くを有することが示された。しかし、長期間にわたって、これらの塗料が、表面上において亀裂および剥離を生じさせ得ることも判った。これは、可溶性成分の浸出によって引き起こされ、元の塗料とは異なる組成を有する残留層が形成される。
【0012】
これを解決するアプローチは、EP0646630号明細書、EP1016681号明細書およびEP1127902号明細書に記載されるように、シリルポリマーを種々のコモノマーで修飾することであった。別のアプローチは、国際公開第0077102号パンフレットに記載されるように、繊維を組み込み、全塗料および特に形成される全ての残留層中の結合力を強化および増加させることであった。第3のアプローチは、有機シリルコポリマーとロジンとの混合物がこの残留層の構築を減少させるために使用される塗料を開発することであった。これはEP0802243号明細書に記載されている。低分子量可塑剤、より具体的にはクロロパラフィンの使用もまた、採用された。これはEP0775733号明細書に記載されている。スルホン酸はまた、例えば米国特許第6627675号明細書において、防汚塗料中において以前に使用されており、しかし、その時は塗料の自己研磨特性を改善するためであり、本発明におけるような均一な放出のために殺生物剤へカップリングされていなかった。
【0013】
スウェーデンの西海岸および北大西洋の海岸沿いにおいて、フジツボおよび藻類は、経済的かつ技術的問題である。完全に成長したフジツボは、センチメートルサイズの円錐形および石灰質プレート(calcinous plate)の封入層を特徴とする、固着性甲殻類である。固相表面への該動物の付着の機械的強度は非常に高く、これは、固相表面からフジツボを機械的に除去するのが困難である理由である。該動物は、自由遊泳性幼生のような種々の発生段階を経験し、ここで、最終幼生段階は、キプリス(cyprid)段階と呼ばれる。キプリスは、神経隆起を利用して定着に好適な固体表面を選別する。定着に関連して、フジツボセメントと呼ばれる「定着接着剤」が、該隆起に局在された特殊な腺から分泌され、そして該動物はそれによって固体表面へ定着する。定着後、該動物は、成体固着性動物への変態を受ける。高濃度の銅を有する、昔の銅漏出塗料を使用した場合、付着する最初の生物の1つはフジツボである。
【0014】
藻類もまた銅に対して比較的鈍感であり、そして藻類の付着を抑制するために必要とされる漏出銅の量が多い。したがって、銅含有船舶用防汚塗料は、いくつかの製造業者によってより特定の殺藻剤で「高められている(boosted)」。殺藻剤は、遊走子が付着するのを抑制するか、または光合成を抑制する。両方の方法とも、減少された藻類付着の結果をもたらす。
【0015】
殺生物剤で高められた未来の防汚塗料は、高特異性で作用すべきであり、即ち、唯一の標的付着生物が影響を受け、他の海洋機構は無傷のままであるべきである。塗料はまた、活性物質の制御放出を達成するように設計されるべきである。制御放出を達成するための有効なアプローチは、大きな分子への結合の形成による。大きな分子の低い運動性および大きなサイズに起因して、塗膜を介しての殺生物剤拡散は、制限され得、そしてそれによって、自己研磨塗料の研磨速度にのみ依存する放出速度を有する。さらに、防汚剤の生分解は、水および堆積物中での蓄積、そしてしたがって標的の生物付着生物だけよりもむしろ海洋環境に影響を与えることを防止するために、別の重要な局面である。
【0016】
防汚活性を有するいくつかの化合物が提示されてきた。それらの化合物の中でも、脊椎動物において公知の薬理学的プロファイルを有する薬剤が存在する。セロトニンおよびドーパミン神経伝達物質に作用する薬理学的化合物の選択は、フジツボの付着を妨げるかまたは促進するかのいずれかの能力を有することが報告されている。セロトニンアンタゴニスト、例えば、シプロヘプタジンおよびケタンセリン、ならびにドーパミンアゴニスト、例えば、R(−)−NPAおよび(+)−ブロモクリプチンは、抑制特性を示した。フジツボ定着に関する有効な抑制剤であることが判明している別の薬剤は、高度に選択的なアルファ2−アドレナリン受容体アゴニストであるメデトミジン、即ち、(S,R)−4(5)−[1−(2,3−ジメチルフェニル)エチル]−1H−イミダゾールである。幼生定着は、既に低濃度、1nM〜10Nmで妨げられる。メデトミジンは、2−アドレナリン受容体に対して高選択性を有する、4置換されたイミダゾール環を含む、アルファ2−受容体アゴニストの新規のクラスに属する。カテコールアミン神経伝達物質(例えば、ノルエピネフリンおよびエピネフリン)によって影響を受ける受容体は、アドレナリン作動性受容体(または、アドレナリン受容体)と呼ばれ、そしてアルファ−およびベータ−サブクラスへ分けられ得る。アルファ2−アドレナリン受容体は、神経伝達物質放出の自己抑制機構に関与し、そして高血圧症(高血圧)、徐脈(減少した心拍数)の調節において、ならびに覚醒および痛覚消失(疼痛に対する減少した感受性)の調節においてでさえ重要な役割を果たす。メデトミジンは、ヒト臨床試験において研究されており、そしてまた、有効成分である、(S)−エナンチオマー、デクスメデトミジンと共に動物用の麻酔薬として使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、殺生物剤のより良好な制御放出のために、修飾されたポリマー骨格へ結合されたメデトミジンを使用して塗料中の殺生物剤を結合する方法を提供することである。他の目的および利点は、下記の開示および添付の特許請求の範囲からより完全に明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の概要)
本発明は、スルホン化された、酸性硫酸エステル、ホスホン酸、カルボン酸または酸性リン酸エステルで修飾されたポリマー骨格(例えば、ポリスチレンまたはアクリレートポリマー)へ結合されたイミダゾール含有化合物(例えば、メデトミジン)を使用して、水中構造物上における例えばフジツボの定着を特異的かつ効果的に妨げる防汚塗料における使用および方法に関する。目的は、制御放出目的のために自己研磨塗料中において添加剤として該殺生物剤−ポリマー複合体を使用することである。
【0019】
(発明の詳細な説明及びその好ましい態様)
ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−ブロック−ポリスチレン(der−PS)は、例えば、スルホン酸基とメデトミジン中の塩基性窒素との間にイオン結合を作製する可能性を有する。これは、有効な防汚表面を開発し、そして、例えばフジツボ定着を妨げることにおける均一な放出および効果のための塗料マトリクス中の殺生物剤の分散固定化に関する防汚塗料の性能を改善する試みにおいて特に興味深い特徴である。等価の殺生物剤システムが、船舶用防汚塗料以外の塗料において、均一な放出のために、同一のポリマー相互作用を用いて、使用され得る。
【0020】
ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−ブロック−ポリスチレン複合体は、メデトミジンについて多数の結合部位を提供し、そして多量のメデトミジンが結合され得る。結果として、メデトミジンの濃度は、全塗膜中において等しくなる。したがって、分散は均一レベルであり、そして塗布された塗料の寿命にわたって均一な防汚効果を達成するために、最少量のメデトミジンが必要とされる。
【0021】
本発明の1つの目的は、環境的および経済的に有利である、減少された殺生物剤用量を必要とする防汚方法を作製することである。性能を改善しかつ環境に対する影響を軽減するために、塗膜からの防汚物質の放出の適切な制御を有することが重要である。ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−ブロック−ポリスチレンへ結合されたメデトミジン分子は、制御様式で塗料から水中へ漏出する化合物である。ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−ブロック−ポリスチレンへ結合されたメデトミジン分子は、メデトミジン粒子単独と比較して、その大きなサイズのために、優れた分散安定性を有する。サイズ特性によって、ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−ブロック−ポリスチレン−メデトミジン粒子は、SPC塗膜中において固定的であり、そして水中へ漏出しない。この系は、SPC塗料の研磨速度にのみ依存する放出速度を達成する。結果として、塗膜中の防汚粒子の濃度は、塗料の「寿命」の間、同一のままである。
【0022】
燃料膜の分野における最近の研究は、例えばスルホン酸基を含有する高分子膜は、イミダゾールおよびピリジン等の複素環を含有するポリマーと共にイオン性架橋を形成し得ることを報告している。架橋は、プロトン伝導反応の間の水取り込みの効果を減少させる(Kerres,J.;Ullrich,A.;Meier,F.;Haering,T.「Synthesis and characterization of novel acid−base polymer blends for application in membrane fuel cells」、Solid State Ionics、1999年、125、243−249)。イオン対の形成は、スルホン酸基から(いくつかの窒素を含有する複素環の場合について)複素環のより塩基性の窒素へのプロトン移動を介して生じる。前記より塩基性の窒素はまた、遷移金属への配位にも関与する。これらの報告は、メデトミジンは、スルホン化der−PSとイオン結合を形成する可能性を有する(図1)。水への暴露時に、2つの別個のイオン種が、水和により形成される。しかし、有機非極性溶媒(例えば、o−キシレン、塗料製剤において一般的な溶媒)中においては、溶解プロセスが起こる傾向は低い。これは、メデトミジン−スルホン化der−PS相互作用を使用することによって、制御放出塗料系を維持する可能性を広げる。メデトミジン−ポリマーイオン対は、水との接触の際に、実際の膜表面で溶解され、メデトミジンを放出する。
【0023】
スルホン化ポリマーは、強力な相互作用で、そしてキシレン中においてほとんど不可逆的に、メデトミジンへ結合する。水中において、相互作用は、より弱く、そして実質的により大きな程度の可逆性を有する。両方の溶媒中において、前記ポリマーは、塗料製剤中においてポリマー−メデトミジン複合体を使用する可能性について非常に重要である、大きな利用可能な表面積を有する。水へ暴露されると、表層中のメデトミジンは、ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−ブロック−ポリスチレンから解離し、そして表面から脱着する。したがって、防汚塗料中の表面活性化合物は、塗料から水中へ漏出する化合物よりもフジツボ幼生の定着に対して大きな影響を及ぼす傾向にあり、何故ならば、表面活性は表面付近の濃度を増加させるためである。
【0024】
この系は、金属および金属酸化物を含まず、そして動物種、植物および人間を含む海洋生態系への害を減少させる。
【0025】
スルホン酸基を含有するポリマー膜は、複素環(例えば、イミダゾール)含有ポリマーと共にイオン性架橋を生じさせ、したがって強力な相互作用を生じさせ得る。
【0026】
例えば、メデトミジンは、本発明の1実施形態において、船体塗料中において現在使用されている毒性物質と比較して、比較的無害である。実際に、メデトミジンは、内服用の薬学的調製物として承認されるほど無害である。メデトミジンはまた生分解性であり、したがって、それはより少なく生物濃縮され、そしてしたがって、多くの現存する防汚化合物よりも環境的に安全である。
【0027】
本発明はまた、イミダゾール含有化合物を結合するために、酸性硫酸エステル、ホスホン酸、カルボン酸または酸性リン酸エステル等の他の酸によって修飾されたポリマーへも適用され得る。
【0028】
イミダゾール含有化合物の例は、「カテミン(Catemine)3」(S18616{(S)−スピロ[(1−オキサ−2−アミノ−3−アザシクロペント−2−エン)−4,29−(89−クロロ−19,29,39,49−テトラヒドロナフタレン))等のスピロイミダゾリン(spiromidazolines)である。
【実施例】
【0029】
例1
結合および放出研究
結合研究のためのサンプルの調製
メデトミジン(オリオン・ファーマ(Orion Pharma)、ヘルシンキ、フィンランド)およびスルホン化der−PS(スルホン化der−PSは、シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)から得られ得る)の結合研究を、種々のポリマー:メデトミジン比(ポリマー:メデトミジン、0:1、5:1、10:1、15:1、30:1、50:1、100:1)について、o−キシレン中において行った。一般的手順(示す例は比5:1についてである)は、以下の通りである:1g o−キシレン、2.5mgポリマー(0.05g/gゾルから50mgゾル)、および1ml o−キシレン中の0.5mgメデトミジンを混合し、そして一晩振盪機上に配置した(0:1については、1g o−キシレン、0.5mgメデトミジンを、1ml o−キシレン中に溶解した)。翌日、500μlのサンプルを採取し、溶媒を蒸発させ、そしてさらに500μlのo−キシレンを添加した。サンプルを20分間超音波浴中に配置し、そしてその後、50μlのサンプルを採取し、溶媒を再度蒸発させ、そして500μlのMilliQ水を添加した。前記水サンプルをさらに20分間超音波浴中に配置し、次いで、HPLC−UVシステムを使用して、そのメデトミジン含有量に関して分析した。
【0030】
HPLCでの結合研究分析
メデトミジンのUV吸光度最大値は文献から220nmであると判った。HPLC分析の前に、UV吸光度最大値を、UV分光計(GBC 920UV/可視分光計、サイエンティフィック・エクイップメンツ・リミテッド(Scientific Equipments Ltd.)、ビクトリア、オーストラリア)を使用して文献からの値を確認するために調べた。
【0031】
サンプルを、メルク−ヒタチ(Merck−Hitachi)L−6200ポンプ(メルク−ヒタチ(Merck−Hitachi)、ダルムシュタット、ドイツ)と、前置フィルター(0.5μm)が取り付けられたスペルコ・ディスカバリー(Supelco Discovery)(登録商標)(シグマ−アルドリッチ・スウェーデンAB(Sigma−Aldrich Sweden AB)、ストックホルム、スウェーデン)C18(25cm×4.6mm、5m)カラムと、220nmで作動するスペクトラ−フィジックス・スペクトラ100UV(Spectra−Physics Spectra 100 UV)(スペクトラ−フィジックス・インコーポレーテッド(Spectra−Physics Inc)、カリフォルニア州アービン、米国)とからなるHPLC−UVシステムにおいて分析した。移動相は、10ml/分の流速で勾配(2分間6%B、次いで15分で60%Bまで増加、3分で100%Bまでさらに増加、次いで3分間アイソクラチック、その後2分で出発値に戻る)で実行したミリQ(MilliQ)水:アセトニトリル(0.1%TFA v/v(移動相A):0.1%TFA v/v(移動相B))であった。ピーク分離をUV(220nm)によってモニタリングした。100μlの手動注入を行い、そしてミレニアム(Millenium)ソフトウェア(バージョン3.20、1999)(ウォーターズ・インコーポレーテッド(Waters Inc)、マサチューセッツ州ミルフォード、米国)を使用してデータの回収および統合を行った。
【0032】
放出速度研究のための塗料の調製
ロトレックAB(Lotrec AB)(リンディンゴ、スウェーデン)製のSPC Lefant船舶用塗料を、放出速度研究において使用した。塗料を2つの異なる様式で修飾した:1)メデトミジンの添加;または2)メデトミジンおよびスルホン化der−PSの添加。修飾されていない塗料をコントロールとして役立てた。塗料中のメデトミジン濃度は0.1重量%であり、そして一般的手順は以下の通りであった:ポリマーおよびメデトミジンを混合し、そして5分間撹拌し、その後、溶媒を蒸発させ、飽和溶液を得た。次いで、前記塗料を添加し、5分間撹拌し、そして一晩振盪機上に配置した。
【0033】
パネルの塗装
塗装前に、試験パネルを洗浄粉末(デコンネックス(Deconnex)(登録商標))(ボーアー・ヘミー(Borer Chemie)、ツーホヴィル(Zuchwil)、スイス)で洗浄し、そして表面をサンドブラストにより粗面化した。塗装された領域は11×7.5cm(82.5cm)であり、そして各修飾について、3つのパネルを塗装した。塗膜厚を制御する可能性を与える4面塗布機(4−sided applicator)(50、100、150および200μmのギャップサイズを有する)を使用して、塗料を塗布した。先ず、50μmプライマー膜を塗布し、次に、200μm塗膜を塗布した。パネルを50ml人工海水(pH8)中および振盪機上に配置した。サンプルを、8週間の間、毎週採取した。
【0034】
放出速度研究のためのサンプリング
各週の後に、0.1% TFA(500μl)を前記人工海水へ添加した。次いで、該水をファルコンチューブ(50ml)へ注ぎ、そして7mlサンプルを採取し、引き続いてこれを注射器フィルターを介して濾過した。サンプルを20分間超音波浴中に配置し、そしてHPLCで分析した。
【0035】
HPLCでの放出速度分析
上記の結合研究において使用した同一のシステムを、放出速度研究についても使用し、ただし、異なる勾配(A:B(94:6)の出発値から、30分で60%Bまで増加を行い、その後、5分で100%Bまでさらなる増加を行った)を用いた。これらの値を、さらに5分間維持した。%Aを5分で増加し、1ml/分の流速で出発値94:6を生じさせた。1mlの手動注入を行い、そしてメデトミジンでスパイクした(spiked)2mlサンプル(100μM溶液から20μl)を使用して、正しいピークを同定した。
【0036】
結果
図2において、2つのSPC−塗料から放出されたメデトミジン量を時間(週)に対してプロットする。メデトミジン−SPC−塗料(タイプ1、この例において上記「放出速度研究のための塗料の調製」において規定される通り)およびメデトミジン−スルホン化der−PS SPC塗料(タイプ2、上記の通り)は、1週間後、類似の量の放出されたメデトミジンを示す(それぞれ、3.71×10ngおよび3.45×10ng)。検査期間の前半の残りの週の間、2つの塗料は、匹敵する放出速度、メデトミジン−SPC−塗料については3.39×10ng 週−1およびメデトミジン−スルホン化der−PS修飾化塗料については3.55×10ng 週−1を示し続け、そして第4週までに、それらは、それぞれ、1.37×10および1.51×10ngの総量に達した。しかし、第4週後、1.37×10から2.81×10ngへの、メデトミジン放出速度量の増加が、メデトミジン−SPC−塗料について見られた。これは、メデトミジン−スルホン化der−PS修飾化塗料と比較され得、これは、メデトミジン−SPC増加の約半分に対応する0.71×10ng増加を示しただけであった。メデトミジン−SPC−塗料についての放出量のこの急激な増加は、塗料表面を覆う酸化物または細菌膜の溶解によって引き起こされ得る。この増加後、速度は、同一の放出速度、メデトミジン−SPC−塗料については3.39×10ng 週−1、そしてメデトミジン−スルホン化der−PS修飾化塗料については3.55×10ng 週−1に再度戻り、これらは、最初の3週間の間に示された速度に等しい。引き続いて(8週間後)、メデトミジン修飾化SPC−塗料については3.97×10ng、そしてメデトミジン−スルホン化der−PS修飾化SPC−塗料については3.51×10ngの総放出量が得られ、12%差異に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】スルホン酸基からイミダゾール部分へのプロトン移動による、メデトミジン−スルホン化der−PSイオン対(円で示される)の形成を示す。
【図2】メデトミジン−スルホン化der−PSおよびメデトミジン修飾化船舶塗料についての、放出されたメデトミジン(ng)の量対時間(週)のプロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体へ保護コーティングを塗布することを含む、海洋生物付着生物による基体の海洋生物付着を防止する方法であって、該コーティングが、ポリスチレンおよびアクリレートポリマーからなる群から選択されるポリマー骨格へ結合されたイミダゾール含有化合物を含有し、該ポリマー骨格が、スルホン化物質へ結合されることによって修飾されている、方法。
【請求項2】
前記スルホン化物質がスルホン化酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スルホン化物質が、スルホン化された酸性硫酸エステル、ホスホン酸、カルボン酸および酸性リン酸エステルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー骨格がポリスチレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記イミダゾール含有化合物がメデトミジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記保護コーティングがさらに船舶用塗料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スルホン化物質が、スルホン化された酸性硫酸エステル、ホスホン酸、カルボン酸および酸性リン酸エステルからなる群から選択され、前記ポリマー骨格がポリスチレンであり、そして前記イミダゾール含有化合物がメデトミジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
保護コーティングを含む、海洋生物付着生物による基体の海洋生物付着を防止するための製品であって、該コーティングが、ポリスチレンおよびアクリレートポリマーからなる群から選択されるポリマー骨格へ結合されたイミダゾール含有化合物を含有し、該ポリマー骨格が、スルホン化物質へ結合されることによって修飾されている、製品。
【請求項9】
前記スルホン化物質がスルホン化酸である、請求項8に記載の製品。
【請求項10】
前記スルホン化物質が、スルホン化された酸性硫酸エステル、ホスホン酸、カルボン酸および酸性リン酸エステルからなる群から選択される、請求項8に記載の製品。
【請求項11】
前記ポリマー骨格がポリスチレンである、請求項8に記載の製品。
【請求項12】
前記イミダゾール含有化合物がメデトミジンである、請求項8に記載の製品。
【請求項13】
前記保護コーティングがさらに船舶用塗料を含む、請求項8に記載の製品。
【請求項14】
前記スルホン化物質が、スルホン化された酸性硫酸エステル、ホスホン酸、カルボン酸および酸性リン酸エステルからなる群から選択され、前記ポリマー骨格がポリスチレンであり、そして前記イミダゾール含有化合物がメデトミジンである、請求項8に記載の製品。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−535943(P2008−535943A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500677(P2008−500677)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【国際出願番号】PCT/SE2006/000319
【国際公開番号】WO2006/096129
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(507304926)アイ − テック エービー (4)
【Fターム(参考)】