説明

塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法

【課題】塗膜付きめっきプラスチック部品を粉砕することなく、金属めっき層の表面から塗膜を効率よく剥離して、プラスチック部材の純度と歩留りを向上でき、更には金属めっき層の金属成分の純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用を図ることが可能な塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法を提供する。
【解決手段】プラスチック部材10の表面に金属めっき層11を介して塗膜12が形成されている塗膜付きめっきプラスチック部品13の処理方法において、塗膜12直下の金属めっき層11を酸で溶融し、塗膜12を剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜付きめっきプラスチック部品を効率よく処理する方法に係り、更に詳細には、めっきプラスチック部品の表層部に設けられた塗膜を効率よく分離する塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や家電製品等には、種々の形状に成形されたプラスチック部材の表面に、金属めっき層を介して塗膜を形成した部品や製品(即ち、塗膜付きめっきプラスチック部品ともいう)が、多く使用されている(例えば、特許文献1、2参照)。なお、使用後は、この塗膜付きめっきプラスチック部品を、埋立てや焼却により処分したり、また高炉等で溶解やガス化により処理(サーマルリサイクル等)していた。
しかし、塗膜付きめっきプラスチック部品を、埋立て処分や焼却処分する場合、資源であるプラスチック部材を廃棄することになるため、資源の有効利用が図れなかった。そこで、塗膜付きめっきプラスチック部品を粉砕した後、例えば、比重差(水等の液体)を用いた浮沈分離や、風力分離、磁力選別、また色を確認して分離、等の種々の方法を利用して、塗膜付きめっきプラスチック部品から塗膜及びめっき金属を分離し、プラスチック部材を回収していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−200687号公報
【特許文献2】特開2005−336614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した各分離方法は、塗膜付きめっきプラスチック部品を事前に粉砕処理する必要があるため、塗膜の分離効率が悪く(プラスチック部材の純度は高くても99.9%程度)、またプラスチック部材の歩留りも悪かった(回収率約70%程度)。更に、金属めっき層を構成する金属成分を回収する場合は、塗膜が金属めっき層に付着しているため、その純度や歩留りも悪かった。
また、塗膜付きめっきプラスチック部品の粉砕処理にコストがかかり、不経済であった。
このため、金属めっき層の表面に形成された塗膜を、事前に溶剤を使用して溶解除去することも考えられるが、この場合は、溶剤によりプラスチック部材が損傷して、品質が低下する恐れもあった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、塗膜付きめっきプラスチック部品を粉砕することなく、金属めっき層の表面から塗膜を効率よく剥離して、回収されるプラスチック部材の純度と歩留りを向上でき、更には金属めっき層から回収される金属成分の純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用を図ることが可能な塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法は、プラスチック部材の表面に金属めっき層を介して塗膜が形成されている塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記塗膜直下の前記金属めっき層を酸で溶融し、前記塗膜を剥離する。
【0007】
本発明に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記酸は、濃度が15質量%以上の塩酸であることが好ましいが、濃度が10質量%以上40質量%以下の硝酸であってもよい。
本発明に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記酸は加温されているのがよい。
【0008】
本発明に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記塗膜に傷付与処理を行い、前記酸を前記金属めっき層へ浸透し易くすることもできる。
ここで、前記傷付け処理はショットブラストがよい。
また、前記ショットブラストで使用する粉体は鉄粉であるのが好ましい。
そして、前記ショットブラストを行う前に、前記塗膜を加熱処理することが好ましい。
【0009】
また、前記傷付与処理は、剃刃を用いて行う、圧縮力又は衝撃力を付与して行う、破砕機を用いて行う、又は加熱により行うこともできる。
【0010】
本発明に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記酸で前記塗膜を剥離した後、前記プラスチック部材の表面に残存する前記金属めっき層を塩化第二鉄液で溶解処理して、該塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法は、塗膜直下の金属めっき層を酸で溶融し、塗膜を剥離するので、塗膜付きめっきプラスチック部品を粉砕することなく、効率よくプラスチック部材から塗膜と金属めっき層を分離できる。従って、プラスチック部材の回収率を100%に極めて近づけることができ、しかも塗膜の混入もほとんどないため、その純度を100%に近づけることができる。更に、金属めっき層の金属成分の回収率も、従来よりも向上でき、しかも塗膜の混入も少ないため、その純度を100%に近づけることができる。
また、塗膜付きめっきプラスチック部品は、粉砕することなく大きなサイズ(例えば、そのままの状態)で塗膜を分離できるため、粉砕処理に要するコストも不要になる。
以上のことから、高純度のプラスチック部材を高回収率で得ることができ、更には高純度の金属成分も得ることができるため、再利用でき、資源の有効利用が図れる。
【0012】
また、酸に、濃度が15質量%以上の塩酸を使用する場合や、濃度が10質量%以上40質量%以下の硝酸を使用する場合には、酸が、塗膜付きめっきプラスチック部品の側方や塗膜の表面より浸透し、塗膜に接している金属めっき層(例えば、クロムめっき層)を溶解できる。
そして、酸を加温したり、また酸の濃度を高める場合、酸の浸透速度を速くできる。
【0013】
また、塗膜に傷付与処理を行い、酸を金属めっき層へ浸透し易くする場合、塗膜の分離に要する時間を、更に短縮できる。
傷付与処理がショットブラストである場合、簡単な装置構成で処理できる。
ショットブラストで使用する粉体が鉄粉である場合、例えば、後工程において、金属めっき層の金属成分を析出回収する際に鉄粉を使用するため、不純物の混入を防止できる。
ショットブラストを行う前に塗膜を加熱処理する場合、塗膜を柔らかくして傷付き易くできるため、ショットブラストの効果が高められる。
【0014】
また、傷付与処理を剃刃を用いて行う場合や、傷付与処理を圧縮力又は衝撃力を付与して行う場合、また傷付与処理を破砕機を用いて行う場合は、簡単な方法で塗膜に疵(傷)を付けることができる。
そして、傷付与処理を加熱により行う場合、例えば、塗膜を分解して、塗膜に疵を付けることができる。
【0015】
更に、酸で塗膜を剥離した後に、プラスチック部材の表面に残存する金属めっき層を塩化第二鉄液で溶解処理して、塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収する場合、めっき金属を容易に回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法は、プラスチック部材10の表面に金属めっき層11を介して塗膜12が形成されている塗膜付きめっきプラスチック部品13の処理方法であり、金属めっき層11のうち、塗膜12直下に位置する(塗膜12に接する)クロムめっき層14を酸で溶融し、塗膜12を剥離する方法である。以下、詳しく説明する。
【0018】
酸処理する塗膜付きめっきプラスチック部品13は、例えば、自動車や家電製品等に使用した使用済みの部品や製品であるが、部品や製品の製造過程で発生する不良品(例えば、検査不合格品等)や残材でもよい。
この塗膜付きめっきプラスチック部品13のプラスチック部材10は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で構成されたものがあり、具体的には、(1)エンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチック、(2)ポリオレフィン樹脂(類)、(3)これらのプラスチックのポリマーアロイ物又はポリマーブレンド物、等で構成されたものがある。なお、これら(1)〜(3)のいずれか1又は2以上で構成されたものでもよい。
【0019】
上記した(1)エンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチックには、(a)ナイロン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、(b)ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、(c)ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、等がある。
また、(2)ポリオレフィン樹脂(類)には、(a)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、(b)アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、(c)アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、等がある。
【0020】
上記したプラスチックのうち特に好ましいのは、ゴム含有のスチレン系樹脂、例えば上記したポリスチレンを用いたゴム強化ポリスチレン(HI樹脂)、ABS樹脂、MBS樹脂、等であり、とりわけ、ABS樹脂が有利である。この理由は、金属めっきが容易であり、成形加工性がよく、適度な物性を有した安価な汎用樹脂として多岐にわたって使用(例えば、自動車部品や家電製品の部品、又はパチンコやスロットルマシーン等の趣味娯楽関係の製品)され、まとめて収集され易いためである。
なお、プラスチックへの金属めっき処理の目的は、プラスチックが元来有していない金属の硬度、光沢、熱伝導性、高級感等を得ることにあり、自動車への利用では、例えば、ヘッドライトハウジング、ドアハンドル、グリル、ホイルキャップ、エンブレム等がある。
【0021】
このプラスチック部材10の表面には、単一金属、二種以上の金属、又は合金の金属成分で構成される金属めっき層11が、例えば、1μm〜200μm程度の厚みで施されている。
ここで、単一又は二種以上の金属には、例えば、銅、ニッケル、クロム、錫、鉛、ルテニウム、アルミニウム、又はインジウムがある。なお、二種以上の金属とは、例えば、銅の無電解めっきを行った上に、更にニッケルを電気めっきする場合のように、二種以上の金属を複数層に積層してめっきした場合の金属が含まれる。
また、合金には、例えば、銅、ニッケル、クロム、錫、鉛、又はルテニウムを主体とした(例えば、80質量%以上、更には90質量%以上含む)合金がある。
これら金属めっき層11は、従来公知の電気めっきと無電解めっきのいずれの方法を用いて形成されたものでもよく、まためっき浴を使用しないCVD(化学蒸着)やPVD(物理蒸着)等を用いて形成されたものでもよい。
【0022】
金属めっき層11は、上記した金属成分(一部又は全部が酸に溶ける金属成分)で構成できるが、一般的には、プラスチック部材10の表面に、無電解めっきによるニッケルめっき層と、電解めっきによるめっき層(例えば、ニッケルめっき層、銅めっき層)が順次形成され、その最表層に、意匠のためのクロムめっき層14(例えば、5μm以下程度)が施されている。
この金属めっき層11の表面には、塗膜12が、例えば、100μm以下程度の厚みで形成されている。ここで、塗膜12には、塗装(例えば、白色、黒色、メタリック等)による膜や、金属めっき層11の表面に貼付されたフィルム等がある。
【0023】
以上に示した塗膜付きめっきプラスチック部品13から、塗膜12を剥離する方法について説明する。
まず、塗膜付きめっきプラスチック部品13を洗浄処理して、塗膜12の表面に付着したごみや汚れを除去する。なお、塗膜付きめっきプラスチック部品13は、そのままの状態で洗浄処理することが好ましいが、例えば、従来公知の破砕機を使用して、一辺が3〜10cm程度の大きさとなるように破砕処理(粗破砕)してもよい。
次に、上記した塗膜付きめっきプラスチック部品13を、酸で処理する。
この酸には、塩酸、硝酸、硫酸等を使用できるが、金属めっき層の最表層部がクロムめっき層14である場合は、硫酸はクロムを酸化させて皮膜を形成するため(プラスチック部材を酸化し劣化させる恐れもある)、塩酸又は硝酸を使用することが好ましく、更には塩酸(塩化水素や塩酸ミストも含む)を使用することが好ましい。
【0024】
ここで、酸に塩酸を使用する場合は、塗膜を疵付けて剥離できる程度の濃度、例えば、2倍希釈(濃度:15〜18質量%程度)以上の塩酸を使用できるが、塗膜の剥離効率を向上させるため、濃度が20質量%以上、更には30質量%以上の塩酸を使用することが好ましく、更には36質量%の原液(オリジナル)を使用することが最も好ましい。
また、酸に硝酸を使用する場合、濃硝酸(濃度:60質量%程度)ではプラスチック部材を劣化させるため、5倍希釈(濃度:10〜12質量%程度)以上の硝酸を使用できるが、塗膜の剥離効率を向上させるため、濃度を15質量%以上40質量%以下(好ましくは、30質量%(2倍希釈)以下)とした硝酸を使用することが好ましい。
【0025】
上記した酸処理は、塗膜付きめっきプラスチック部品13を酸中に浸漬(例えば、1〜10時間程度)させて行う。なお、酸処理は、例えば、塗膜12に酸を連続的に噴霧したり、連続的に接触(液を垂らす又は液を流す)させて行ってもよい。
この酸は、室温(例えば、20℃程度)であるが、例えば、40℃以上、更には50℃以上に加温(加熱)したものが好ましい(上限値は70℃程度)。なお、加熱する場合は、上記した濃度よりも低濃度の酸を使用することもできる。
【0026】
これにより、金属めっき層11の溶解速度を上昇させることができ、溶解処理に要する時間を短縮できる(浸漬時間:10分〜10時間程度)。このとき、塗膜12は軟化するため、塗膜付きめっきプラスチック部品13の製造時の塗膜12の形成の際(熱処理硬化時)に発生する歪みが緩和され、金属めっき層11の表面からの塗膜12の剥離が促進されて、塗膜12の剥離効率も良好になる。
なお、酸の加温は、クロムの溶解速度や塗膜12への浸透速度の向上のために行うことが好ましい。
【0027】
また、塗膜付きめっきプラスチック部品13を酸処理するに際しては、事前に、塗膜12に傷付与処理を行い、酸を金属めっき層11へ浸透し易くすることが好ましい。この傷付与処理には、例えば、以下に示す方法がある。
1)ショットブラストにより、塗膜に粉体を吹き付ける。
2)剃刃を用いて、塗膜表面に切り傷を付ける。
3)鍛造やクラッシャー等を用い、塗膜に圧縮力又は衝撃力を付与する。
4)破砕機を用いて、塗膜付きめっきプラスチック部品を切断又は破砕する。
5)塗膜を加熱し、その一部を分解する。
6)レーザーやウォータージェットを用いる。
【0028】
なお、上記した1)のショットブラストを用いた方法では、ショットブラストを行う前に、塗膜を、加熱処理することが好ましい。これにより、塗膜を柔らかくすることができ、ショットブラストを行った際に、塗膜を疵付き易くできる。
この加熱処理を行うに際しては、塗膜が溶解すると、塗膜と金属めっき層との接着強度が高まるので、加熱処理は、例えば、100℃以上150℃以下程度の温度で行うのがよい。
また、ショットブラストを行うに際しては、不純物の混入を防ぐため、粉体に、例えば、鉄粉やステンレス粉を使用することが好ましい。
【0029】
以上の方法により、塗膜12直下の金属めっき層11、例えば、金属めっき層11の最表層部に位置するクロムめっき層14を酸で溶解して、金属めっき層11から塗膜12を剥離することができる。このクロムめっき層14の酸による溶解は、クロムめっき層全体に対して行ってもよく、また一部(少なくとも塗膜12と接している部分)に対して行ってもよい。
なお、酸による金属めっき層の溶解は、少なくとも塗膜直下の金属めっき層、即ちクロムめっき層14が溶解されればよいため、金属めっき層の表層部より下層の電解めっき層、更には無電解めっき層まで、溶解されてもよい(金属めっき層の溶解後は、プラスチック部材のみが残存する状態でもよい)。
【0030】
更に、塗膜12が分離して表面に金属めっき層11の大部分(即ち、残存金属めっき層15)が残存するプラスチック部材10を、塩化第二鉄液、又は塩酸が添加された塩化第二鉄液に浸漬して、塩化第二鉄液で残存金属めっき層15を溶解処理することが好ましい。なお、残存金属めっき層を溶かす液には、塩化第二鉄以外の他のハロゲン化第二鉄を含む液を使用することも可能である。
ここで、塩化第二鉄液による残存金属めっき層の溶解処理においては、塗膜12除去後の残存金属めっき層15を有するプラスチック部材10を塩化第二鉄液中に浸漬(例えば、1〜15時間程度)させることが好ましいが、例えば、残存金属めっき層に、塩化第二鉄液を連続的に噴霧したり、連続的に接触(液を垂らす又は液を流す)させてもよい。
【0031】
ここで、使用する塩化第二鉄液中の塩化第二鉄(FeCl)の濃度は、概ね10質量%以上(望ましくは30質量%以上)でよいが、経済性を考慮すれば、60質量%以下(好ましくは55質量%以下)である。なお、塩化第二鉄を溶解させるに際しては、この液を加熱してもよい。また、塩化第二鉄液中に、更に塩酸(HCl)を添加する場合は、塩酸の濃度を、5質量%以上20質量%以下とする。
上記した塩化第二鉄液と、塩酸が添加された塩化第二鉄液には、新たに製造した新液(再生液を含む)と、新液を使用した後の廃液(例えば、塩化銅や塩化ニッケルが溶存している液、更には塩化第一鉄が存在している液)のいずれも使用できる。
【0032】
これにより、残存金属めっき層中の各種金属は塩化物を形成し、塩化第二鉄液に溶解するので、この塩化第二鉄液の廃液からめっき金属(金属成分)を回収できる。
この方法としては、従来公知の方法を使用でき、例えば、残存金属めっき層の金属成分が、銅とニッケルを含んでいる場合には、特開平6−127946号公報に記載の方法を使用できる。また、錫、インジウム等も、同様の方法を使用できる。なお、クロムとアルミニウムは、水酸化物として回収される。
【0033】
このように、残存金属めっき層を塩化第二鉄液に溶解させることで、残存金属めっき層の付着がないプラスチック部材が得られる。なお、得られたプラスチック部材は、その後、弱酸にて洗浄を行い、水洗いも行う。
また、プラスチック部材に形成されている残存金属めっき層の一部が酸化される等して、表面に金属化合物が形成されている場合には、上記した塩化第二鉄液での処理を行う前に、塗膜除去後の金属めっき層が残存したプラスチック部品を塩酸で処理して、残存金属めっき層の表面の金属化合物を除去する。なお、この金属化合物の除去処理は、前記した塗膜除去の酸処理の時間や濃度を調整することで、省略することもできる。
【0034】
金属化合物の除去処理で使用する塩酸液には、10〜35質量%(更に好ましくは、15〜35質量%)の塩酸を含む液を使用するのがよいが、更に濃度が高い場合であっても本発明は適用できる。なお、塩酸の代わりに硫酸や硝酸を使用することもできるが、塩酸の方が後処理が容易である。
この場合の塩酸による酸洗時間は、常温で4〜10分程度が好ましいが、濃度によって異なる。
そして、金属化合物の除去処理、即ち洗浄(酸洗)処理した塗膜付きめっきプラスチック部品を、塩化第二鉄液、又は塩酸が添加された塩化第二鉄液に、例えば、8〜30分程度浸漬し、この塩化第二鉄液に金属めっきを溶解させる。なお、塩化第二鉄液は、連続的に噴霧したり、連続的に接触(液を垂らす又は液を流す)させてもよい。
【0035】
以上の方法により、塗膜付きめっきプラスチック部品13を粉砕することなく、金属めっき層11の表面から塗膜12を剥離して、塗膜付きめっきプラスチック部品13から塗膜12を分離することができる。このため、塗膜12と金属めっき層11の除去後のプラスチック部材10の純度と歩留りを向上でき、更には金属めっき層11の金属成分の純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用が図れる。
得られたプラスチック部材10は、例えば、1〜10mmの適当な大きさに粉砕して分別し、そのまま原料として使用したり、またバージン材料(未使用材料)に適量混ぜて使用したり、更に加熱し溶融してペレットとすることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、塗膜付きめっきプラスチック部品として、ABS樹脂製のプラスチック部材の表面に、無電解のニッケルめっき、電解銅めっき、電解ニッケルめっき、及び電解クロムめっき(厚み:1μm程度)を順次施して形成された金属めっき層(厚み:100μm程度)が設けられた製品を用いた。
【0037】
(第1の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を10cm程度の大きさに加工した後、これを濃度が36質量%の濃塩酸中に5時間浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、黒色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0038】
(第2の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を20cm程度の大きさに粗破砕した後、これを濃度が36質量%の濃塩酸中に4時間浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、黒色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0039】
(第3の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に青色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を20cm程度の大きさに粗破砕した後、これを濃度が36質量%の濃塩酸中に4時間浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、青色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0040】
(第4の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更にメタリック塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を20cm程度の大きさに粗破砕した後、これを濃度が36質量%の濃塩酸中に4時間浸漬した。
これにより、メタリック塗膜が脱色されると共に、クロムめっきが溶融され、メタリック塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0041】
(第5の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、50℃に加温した濃度が36質量%の濃塩酸中に20分浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、黒色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0042】
(第6の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に白色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、50℃に加温した濃度が36質量%の濃塩酸中に20分浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、白色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0043】
(第7の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更にメタリック塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、50℃に加温した濃度が36質量%の濃塩酸中に15分浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、メタリック塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0044】
(第8の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、60℃に加温した濃度が33質量%の濃塩酸中に15分浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、黒色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0045】
(第9の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、40℃に加温した濃度が30質量%の濃塩酸中に80分浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、黒色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0046】
(第10の実施例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、室温下で1.5倍希釈(濃度:40質量%)した硝酸中に12時間浸漬した。
これにより、クロムめっきが溶融され、黒色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離でき、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できた。
【0047】
(第1の比較例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、50℃に加温した2倍希釈(濃度:18質量%)の濃塩酸中に24時間浸漬した。
この場合、前記した第5の実施例と比較して、塩酸の濃度が薄かったため、浸漬時間が24時間では、塗膜を除去できるほどの浸漬時間を十分に確保できなかった。このため、黒色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離できず、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できなかった。
【0048】
(第2の比較例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に白色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、2倍希釈(濃度:18質量%)の濃塩酸中に24時間浸漬した。
この場合、前記した第6の実施例と比較して、塩酸の濃度が薄く、また塩酸の加温も行っていなかったため、浸漬時間が24時間では、塗膜を除去できるほどの浸漬時間を十分に確保できなかった。このため、白色塗膜を電解ニッケルめっきの表面から剥離できず、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できなかった。
【0049】
(第3の比較例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、濃硫酸中に12時間浸漬した。
このように、酸に濃硫酸を使用し、塗膜付きめっきプラスチック部品の浸漬時間を長くし過ぎたため、プラスチック部材が黒く炭化し、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できなかった。
【0050】
(第4の比較例)
処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、金属めっきの表面に、更に黒色塗膜が形成されている。この塗膜付きめっきプラスチック部品を3cm程度の大きさに破砕した後、これを、濃硝酸(濃度:60質量%)中に12時間浸漬した。
この場合、前記した第10の実施例と比較して、硝酸の濃度が高かったため、プラスチック部材が白く発泡し、プラスチック部材及び金属めっきと塗膜とを分離できなかった。
【0051】
以上のことから、塗膜直下の金属めっき層を酸で溶融することで、塗膜付きめっきプラスチック部品を粉砕することなく、プラスチック部材と塗膜とを分離可能であり、しかもプラスチック部材の純度と歩留りを向上でき、資源の有効利用が図れることを確認できた。
【0052】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、本発明の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法で処理する塗膜付きめっきプラスチック部品は、前記した実施の形態で示した具体的なプラスチック部材や金属めっき層の種類に限定されるものではない。
そして、塗膜の剥離に使用する酸の種類や浸漬時間、また酸の温度等は、前記実施の形態に限定されるものではなく、処理する塗膜付きめっきプラスチック部品(プラスチック部材、金属めっき層の金属成分、塗膜)の種類に応じて適宜変更できる。
【符号の説明】
【0053】
10:プラスチック部材、11:金属めっき層、12:塗膜、13:塗膜付きめっきプラスチック部品、14:クロムめっき層、15:残存金属めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック部材の表面に金属めっき層を介して塗膜が形成されている塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、
前記塗膜直下の前記金属めっき層を酸で溶融し、前記塗膜を剥離することを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記酸は、濃度が15質量%以上の塩酸であることを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記酸は、濃度が10質量%以上40質量%以下の硝酸であることを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記酸は加温されていることを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記塗膜に傷付与処理を行い、前記酸を前記金属めっき層へ浸透し易くすることを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記傷付与処理はショットブラストであることを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項7】
請求項6記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記ショットブラストで使用する粉体が鉄粉であることを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記ショットブラストを行う前に、前記塗膜を加熱処理することを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項9】
請求項5記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記傷付与処理は、剃刃を用いて行うことを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項10】
請求項5記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記傷付与処理は、圧縮力又は衝撃力を付与して行うことを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項11】
請求項5記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記傷付与処理は、破砕機を用いて行うことを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項12】
請求項5記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記傷付与処理は、加熱により行うことを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法において、前記酸で前記塗膜を剥離した後、前記プラスチック部材の表面に残存する前記金属めっき層を塩化第二鉄液で溶解処理して、該塩化第二鉄液の廃液からめっき金属を回収することを特徴とする塗膜付きめっきプラスチック部品の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−126032(P2011−126032A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284294(P2009−284294)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000233734)株式会社アステック入江 (25)
【Fターム(参考)】