説明

塗膜形成装置、その塗膜形成装置により形成された電子写真用定着部材、その電子写真用定着部材を有した画像形成装置

【課題】軸芯方向に沿って径が変化する形状の被塗装部材にも均一な厚みの塗膜を容易に形成できる塗膜形成装置を提供する。
【解決手段】塗膜形成装置1Bは、基体4を保持する保持部18と、気体4の外周面4cに向かって塗料7を吐出する塗布ノズル19と、塗布ノズル19から円錐状に吐出された塗料7に向かってガスを噴射することにより、塗料7の吐出方向を変化させる気体噴射手段と、制御装置と、を有している。この気体噴射手段は、塗布ノズル19の全周に亘って円環状に形成されかつガスが収容される気体収容室44と、気体収容室44に連通しかつ塗布ノズル19の内周面30の全周に亘って開口したガスを噴射する第2のスリット45と、気体収容室44に加圧気体を送り込む気体供給ユニットと、を有している。また、制御装置は、基体4と塗布ノズル19との間隔CGの変化に応じて第2のスリット45から噴射されるガスの流量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の円筒面状の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置に関する。例えば、PPC(普通紙複写機)、LBP(レーザビームプリンタ)、ファクシミリなどの電子写真方式を採用した画像形成装置において、転写紙上の未定着トナー像を加熱、加圧により定着させる定着部材(定着ローラ、定着ベルト)の弾性層を形成するのに好適な塗膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の原理に基づく複写機およびプリンタなどの画像形成装置では、加熱された定着部材とこの定着部材に圧接する加圧部材との間に、トナー像が転写された転写紙を通して、前記トナー像のトナーを溶融するとともに前記転写紙に定着させる定着プロセスを行う。また、その定着プロセスで用いられる定着ローラあるいは定着ベルトなどの定着部材は、アルミ、鉄などで構成される円筒形状の芯金や、ポリイミド、Niなどで構成される無端状の基体上にプライマ(接着剤)を塗布するとともに、その上からシリコーンゴムなどの耐熱性ゴムを含んだ塗料を塗布して、厚みが100〜300μm程度の弾性層を形成するなどして得られる(例えば特許文献1を参照。)。
【0003】
上記弾性層は、上述した定着プロセスにおいて、トナーを転写紙に押圧する圧力を均一にし画像の粒状度を向上させることが一般的に知られている。また、この弾性層の厚みが定着画像品質に影響を及ぼすとともに、前記定着部材の立ち上がり時間(所定の温度に達する時間)などに影響を及ぼすことから、上記弾性層の厚みは均一にすることが求められている。
【0004】
また、上述した弾性層を形成する方法として、従来より、浸漬塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法やロール塗布法等の種々の方法が知られている。
【0005】
上記浸漬塗布法は、塗料が充填された液槽に、上述した円筒形状の芯金や無端状の基体などの被塗装物を浸漬した後、この被塗装物を上下移動させて塗布を行うといった比較的手軽な方法である。しかし、この浸漬塗布法は、浸漬時の前記被塗装物の上部と下部とで膜厚差が生じること、塗料の粘度により前記被塗装物の上下移動速度(塗布速度)が決定されるため高粘度の塗料を薄膜状に塗布する場合には生産効率が低いこと、また高粘度の塗料を低粘度化するために溶剤等を用いて希釈した場合であっても、前記液槽内にて塗料の濃度ムラが生じるため液物性の維持が非常に困難であること、といった問題があった。
【0006】
上記スプレー塗布法は、塗料を霧状に噴霧して塗布する方法である。しかし、高粘度の塗料は溶剤等を用いて希釈する必要があること、噴霧した塗料を被塗装物へ吹付けるため塗膜の平滑性に劣ること、また前記被塗装物への塗料の到達率が数%〜30%程度であり塗料の歩留まりが非常に低く生産効率が低いといった問題があった。
【0007】
上記ブレード塗布法及びロール塗布法は、前記被塗装物の軸芯方向にブレードもしくはロールを配置し、前記被塗装物を回転させながら塗布を行い、前記被塗装物を1回転させた後ブレードもしくはロールを後退させる塗布方法である。しかし、ブレードもしくはロールを後退させる際に、塗料の粘性により塗膜の一部に他の部分より厚い部分が生じて均一な塗膜が得られないこと、またこの局所的に不均一な塗膜は、特に電子写真用定着部材においては局所的な定着不足や濃淡ムラなどの定着画像品質の低下を誘発する直接的な原因となってしまうといった問題があった。
【0008】
このように上述した従来の塗布方法は、高粘度シリコーンゴム等の塗料を薄い膜状に均一に塗布することが要求される定着部材の弾性層の製造に必ずしも適しておらず、量産性においても非効率的である。
【0009】
上記問題を解決するため、前記被塗装物の外周面に沿うように環状のノズルから塗料を吐出させ、ノズルと前記被塗装物とを相対的に移動させることにより前記塗料を塗布する環状塗布方法が考案されている(特許文献2〜4を参照。)。
【0010】
上記特許文献2〜4には、軸芯が鉛直方向と平行な状態で支持された前記被塗装物の全周に亘って塗料を吐出するスリットを有する環状塗布ノズルを設け、塗料を吐出しながら前記被塗装物を環状塗布ノズルに対して相対的に鉛直方向上方に移動させることにより前記被塗装物の外周面に塗料を塗布する方法が記載されている。この環状塗布ノズルによる塗布方法は、環状塗布ノズルから吐出される直前まで塗料が大気に曝されていないことから、この塗料の粘度、表面張力、密度、温度を精密に管理する事が容易であり、塗膜の平滑性及び均一性を良好に保持することができる。また、塗料の供給量を調整することで塗布速度を上げる事が可能であり、上述した浸漬塗布法に比べて非常に生産性が良い。また、吐出される塗料の大部分が前記被塗装物の外周面に到達し(付着し)、塗料の歩留まりが高い。
【特許文献1】特開2002−14557号公報
【特許文献2】特公平7−52296号公報
【特許文献3】特開2005−152830号公報
【特許文献4】特開昭56−15866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した特許文献2〜4に示された塗布方法は、前記被塗装物と環状塗布ノズルとの間隔が一定以上に大きくなると、前記被塗装物の外周面に塗料が到達しない(付着しない)という問題があった。このことから、径の異なる多種類の前記被塗装物に塗膜を形成するにあたっては、それぞれの被塗装物の径に応じて前記環状塗布ノズルから被塗装物の外周面までの距離を調整した複数台の塗膜形成装置を設ける必要があり、設備費が増大する傾向にあった。
【0012】
また、前記被塗装物は、軸芯方向に沿った一端部から他端部に亘って同一径に形成されたものばかりではなく、軸芯方向の中央部が軸芯方向の端部よりも小径に形成されたつづみ形状(逆クラウン形状)の被塗装物や、軸芯方向の中央部が軸芯方向の端部よりも大径に形成されたクラウン形状の被塗装物もある。しかし、前述した特許文献2〜4に示された塗布方法では、つづみ形状(逆クラウン形状)の被塗装物の中央部に前記塗料が届かなかったり、クラウン形状の被塗装物の中央部の膜厚が両端部よりも厚くなってしまうといった問題が生じてしまい、このように軸芯方向に沿って径が変化する形状の被塗装部材への塗布は困難であった。
【0013】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
【0014】
即ち、本発明は、均一な厚みの塗膜を容易に形成できるとともに径の異なる多種類の被塗装物に幅広く対応することができる塗膜形成装置、及びその塗膜形成装置により形成された電子写真用定着部材、並びにその電子写真用定着部材を有した画像形成装置を提供することを第1の目的とし、軸芯方向に沿って径が変化する形状の被塗装部材にも均一な厚みの塗膜を容易に形成できる塗膜形成装置、及びその塗膜形成装置により形成された電子写真用定着部材、並びにその電子写真用定着部材を有した画像形成装置を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、被塗装物の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置において、前記外周面が露出しかつ前記被塗装物の軸芯が鉛直方向と平行な状態で当該被塗装物を保持する保持部と、円環状に形成され、かつ前記被塗装物の外周面と間隔をあけて相対して前記保持部に保持された前記被塗装物と同軸に配置され、内周面に前記塗料を吐出するスリットが全周に亘って形成された塗布ノズルと、前記保持部と前記塗布ノズルとを前記軸芯に沿って相対的に移動させる移動部と、前記塗布ノズルに前記塗料を供給する塗料供給部と、前記スリットから円錐状に吐出された塗料に向かって該塗料の周方向全周に亘って均一に気体を噴射することにより、前記塗料の吐出方向を変化させる気体噴射手段と、を有していることを特徴とする塗膜形成装置である。
【0016】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記気体噴射手段が、前記塗布ノズルの全周に亘って円環状に形成されかつ前記気体が収容される気体収容室と、該気体収容室に連通しかつ前記塗布ノズルの内周面の全周に亘って開口した前記気体を噴射する第2のスリットと、前記気体収容室内に移動自在に配されかつ前記第2のスリットに向かって移動することにより、前記気体収容室内の気体を前記第2のスリットから噴射させるピストンと、を有していることを特徴とするものである。
【0017】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記気体噴射手段が、前記塗布ノズルの全周に亘って円環状に形成されかつ前記気体が収容される気体収容室と、該気体収容室に連通しかつ前記塗布ノズルの内周面の全周に亘って開口した前記気体を噴射する第2のスリットと、前記気体収容室に加圧気体を送り込む加圧気体供給源と、を有していることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、前記気体噴射手段が、前記塗布ノズルの内周面に沿って円環状に形成されかつ前記軸芯方向に沿って移動することにより前記第2のスリットの開口面積を変化させるシャッター部材をさらに有していることを特徴とするものである。
【0019】
請求項5に記載された発明は、請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載された発明において、前記保持部に保持された前記被塗装物の一端部と相対した状態の塗布ノズルのスリットから前記塗料の吐出を開始させ、続いて、該スリットから前記塗料を吐出させながら前記塗布ノズルが前記被塗装物の他端部に向かって相対的に移動するように、前記移動部及び前記塗料供給部を制御するとともに、前記被塗装物の外周面と前記塗布ノズルの内周面との間隔の変化に応じて前記気体噴射手段によって噴射される気体の流量を制御する制御部をさらに有していることを特徴とするものである。
【0020】
請求項6に記載された発明は、請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載された塗膜形成装置により形成されたことを特徴とする電子写真用定着部材である。
【0021】
請求項7に記載された発明は、請求項6に記載された電子写真用定着部材を有していることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載された発明によれば、被塗装物の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置において、前記外周面が露出しかつ前記被塗装物の軸芯が鉛直方向と平行な状態で当該被塗装物を保持する保持部と、円環状に形成され、かつ前記被塗装物の外周面と間隔をあけて相対して前記保持部に保持された前記被塗装物と同軸に配置され、内周面に前記塗料を吐出するスリットが全周に亘って形成された塗布ノズルと、前記保持部と前記塗布ノズルとを前記軸芯に沿って相対的に移動させる移動部と、前記塗布ノズルに前記塗料を供給する塗料供給部と、前記スリットから円錐状に吐出された塗料に向かって該塗料の周方向全周に亘って均一に気体を噴射することにより、前記塗料の吐出方向を変化させる気体噴射手段と、を有していることから、前記塗布ノズルから吐出された塗料を、該塗料の自重で落下して前記被塗装物に接触する位置よりも前記塗布ノズルの周方向内側または外側の位置で前記被塗装物に接触させることが可能になるので、均一な厚みの塗膜を容易に形成できるとともに径の異なる多種類の被塗装物に幅広く対応することができる塗膜形成装置を提供することができる。
【0023】
請求項2に記載された発明によれば、前記気体噴射手段が、前記塗布ノズルの全周に亘って円環状に形成されかつ前記気体が収容される気体収容室と、該気体収容室に連結しかつ前記塗布ノズルの内周面の全周に亘って開口した前記気体を噴射する第2のスリットと、前記気体収容室内に移動自在に配されかつ前記第2のスリットに向かって移動することにより、前記気体収容室内の気体を前記第2のスリットから噴射させるピストンと、を有していることから、前記ピストンの移動速度を変化させて噴射される前記気体の流量を変化させることにより、前記塗料の吐出方向を変化させることができる。
【0024】
請求項3に記載された発明によれば、前記気体噴射手段が、前記塗布ノズルの全周に亘って円環状に形成されかつ前記気体が収容される気体収容室と、該気体収容室に連通しかつ前記塗布ノズルの内周面の全周に亘って開口した前記気体を噴射する第2のスリットと、前記気体収容室に加圧気体を送り込む加圧気体供給源と、を有していることから、前記加圧気体供給源から送り込まれる前記気体の流量を変化させることにより、前記塗料の吐出方向を変化させることができる。
【0025】
請求項4に記載された発明によれば、前記気体噴射手段が、前記塗布ノズルの内周面に沿って円環状に形成されかつ前記軸芯方向に沿って移動することにより前記第2のスリットの開口面積を変化させるシャッター部材をさらに有していることから、前記シャッター部材を移動させ前記第2のスリットの開口面積を変化させて噴射される前記気体の流量を変化させることにより、前記塗料の吐出方向を変化させることができる。
【0026】
請求項5に記載された発明によれば、前記保持部に保持された前記被塗装物の一端部と相対した状態の塗布ノズルのスリットから前記塗料の吐出を開始させ、続いて、該スリットから前記塗料を吐出させながら前記塗布ノズルが前記被塗装物の他端部に向かって相対的に移動するように、前記移動部及び前記塗料供給部を制御するとともに、前記被塗装物の外周面と前記塗布ノズルの内周面との間隔の変化に応じて前記気体噴射手段によって噴射される気体の流量を制御する制御部をさらに有していることにより、軸芯方向に沿って径が変化する形状の被塗装部材にも均一な厚みの塗膜を容易に形成できる塗膜形成装置を提供することができる。
【0027】
請求項6に記載された発明によれば、均一な厚みの塗膜を有する電子写真用定着部材を安価で提供することができる。
【0028】
請求項7に記載された発明によれば、均一な厚みの塗膜を有する安価な電子写真用定着部材を有していることから、定着画像品質が良好でかつ電子写真用定着部材の立ち上がり時間を短縮でき省エネルギー化に貢献することができる画像形成装置を安価で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1にかかる塗膜形成装置の概略の構成を示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う断面図である。図6は、図1に示された塗膜形成装置によって塗膜が形成されて得られる定着ローラの斜視図である。図7は、図6中のXII−XII線に沿う断面図である。
【0030】
図1に示された塗膜形成装置1Aは、コピー機などの画像形成装置を構成する電子写真用定着部材としての定着ローラ2(図6に示す。)の被塗装物としての基体4に、塗料7を塗布することにより、塗膜としての弾性層5を形成する装置である。また、この塗料7として、本実施例では、シリコーンゴムと周知の溶媒などを含んだ粘度が30Pa・s程度の2液性高温硬化型液状シリコーンゴムを使用している。
【0031】
上記定着ローラ2は、図6に示すように、円筒状に形成されている。また、この定着ローラ2は、図7に示すように、ポリイミド、Niなどで構成されるとともに直径60mm,膜厚90μmの円筒状に形成された上記基体4と、プライマ(接着剤)層3と、厚みTが100〜300μm程度に形成された上記弾性層5と、プライマ層3と、フッ素樹脂で構成された離型層6とが順に積層されて構成されている。また、この弾性層5は、図1に示す基体4の軸芯方向の一端部(塗膜形成装置1Aによって後述の塗料7が塗布される際には下端部)4aから、基体4の軸芯方向の他端部(塗膜形成装置1Aによって塗料7が塗布される際には上端部)4bに亘って形成されている。このような定着ローラ2は、加熱された状態で、転写紙上に担持されたトナーを該転写紙に押圧して、このトナーを転写紙に定着させる。
【0032】
上記塗膜形成装置1Aは、図1に示すように、塗料供給部としての塗料供給ユニット10と、塗布ユニット11と、気体供給ユニット47と、制御部としての制御装置12とを有している。この塗料供給ユニット10は、工場のフロア上などに設置されるユニット本体13と、複数の原液タンク14と、複数の汲み上げポンプ15と、混合機16と、を有している。また、混合機16と、塗布ユニット11の後述する塗布ノズル19とは、2本の配管40によって互いに連結されている。
【0033】
上記ユニット本体13は、箱状に形成されており、上記原液タンク14と、上記汲み上げポンプ15とは、このユニット本体13内に収容されている。この原液タンク14は、前述した塗料7の元となる液体を収容している。このような原液タンク14は、図示例では、二つ設けられている。また、汲み上げポンプ15は、原液タンク14内の液体を汲み上げて混合機16に供給する。このような汲み上げポンプ15は、一つの原液タンク14に対して一つ設けられている。また、混合機16は、ユニット本体13の上面に設置され、かつ複数の原液タンク14から汲み上げポンプ15を介して前述した液体が供給される。このような混合機16は、複数の原液タンク14からの液体を混合して、前述した塗料7を生成して、この塗料7を配管40を介して塗布ノズル19内に送り出す。
【0034】
上記塗布ユニット11は、フレーム17と、保持部18と、塗布ノズル19と、移動部20とを有している。このフレーム17は、工場のフロア上などに設置される台部21と、この台部21から上方に向かって延在した板状の延在板部22と、この延在板部22の上端部から水平方向に沿って延在した板状の上方板23とを有している。この上方板23は、平板状に形成され、台部21と鉛直方向に沿って間隔をあけて相対している。
【0035】
上記保持部18は、立設柱24と、上チャック25とを有している。この立設柱24は、円柱状に形成されるとともに、軸芯が鉛直方向と平行になる向きで台部21の上面から上方に向かって立設している。このような立設柱24は、基体4内に通されてこの基体4を保持する。また、立設柱24が基体4を保持すると、この立設柱24の外周面と基体4の内周面とが互いに密着する。また、立設柱24が基体4を保持すると、該基体4の軸芯P(図1中に一点鎖線で示す)が、鉛直方向と平行になる。このように、立設柱24即ち保持部18は、軸芯Pが鉛直方向と平行になるように基体4を保持する。
【0036】
上記上チャック25は、チャックシリンダ26と、押さえ部材27とを有している。チャックシリンダ26は、シリンダ本体28と、このシリンダ本体28から突没自在なロッド29とを有している。このシリンダ本体28は、鉛直方向に沿って下方に向かってロッド29が伸長する状態で、上述した上方板23に取り付けられている。また、押さえ部材27は、厚手の円盤状に形成され、ロッド29の先端に取り付けられているとともに、立設柱24と同軸に配置されている。このような上チャック25は、チャックシリンダ26のロッド29が伸長すると、押さえ部材27が立設柱24に保持された基体4の上端部4bと当接して、立設柱24に対して基体4を位置決めする。また、上チャック25は、チャックシリンダ26のロッド29が縮小すると、押さえ部材27が基体4の上端部4bから離れて、基体4を立設柱24から着脱自在とする。
【0037】
上記塗布ノズル19は、図2に示すように、円環状の空洞19a(以下、塗料収容室19aと呼ぶ。)及び円環状の空洞44(以下、気体収容室44と呼ぶ。)を有した円環状に形成されている。この塗料収容室19aは、気体収容室44よりも塗布ノズル19の周方向外側に配されている。また、塗料収容室19aには、前述した塗料供給ユニット10から塗料7が供給されるとともに、気体収容室44には、後述の気体供給ユニット47から気体としてのガスが供給される。このような塗布ノズル19は、移動部20によって、立設柱24と立設柱24に保持された基体4などと同軸に配置されているとともに、前述した軸芯Pに沿って移動自在に支持されている。また、塗布ノズル19の内径は、立設柱24に保持された基体4の外径よりも大きい。即ち、塗布ノズル19は、その内周面30が基体4の外周面4cと間隔CGをあけて相対しているとともに、保持部18に保持された基体4と同軸に配置されている。
【0038】
また、上記塗布ノズル19の内周面30には、塗料収容室19aから塗布ノズル19外に連通したスリット19bが、この塗布ノズル19の全周に亘って形成されている。このような塗布ノズル19は、塗料供給ユニット10から塗料収容室19aに供給された塗料7を、スリット19bを通して保持部18の立設柱24などに保持された基体4の外周面4cに向かって吐出する。この際、塗料7は、円錐状のカーテン状(面状)に吐出される。また、本明細書では、このスリット19bから吐出されて基体4の外周面4cに付着するまでの円錐状のカーテン状に吐出された塗料7を「カーテン膜」と表現する。
【0039】
また、上記塗布ノズル19の内周面30には、気体収容室44から塗布ノズル19外に連通した第2のスリット45が、この塗布ノズル19の全周に亘って形成されている。このような塗布ノズル19は、後述の気体供給ユニット47から気体収容室44に供給されたガスを、第2のスリット45を通して、スリット19bから円錐状のカーテン状に吐出された塗料7、即ちカーテン膜、に向かって噴射する(前記ガスの噴射方向を図2中矢印S1で示す。)。また、この際、塗布ノズル19は、カーテン膜の周方向全周に亘って均一にガスを噴射する。さらに、塗布ノズル19は、ガスを、カーテン膜の先端部、即ち外周面4cとの接触位置K(図2中に示す。)、よりもスリット19b寄り(上流)の位置に向かって噴射する。
【0040】
このように本発明では、基体4の外周面4cに向かって吐出された塗料7、即ちカーテン膜、に、鉛直方向下方から斜め上方に向かうとともに塗布ノズル19の周方向外側から内側に向かう向きでガスを吹きつけることにより、塗布ノズル19から吐出された塗料7の吐出方向を変化させて、この塗料7を、自身の自重で落下して基体4の外周面4cに接触する位置よりも塗布ノズル19の周方向内側の位置で基体4の外周面4cに接触させることが可能になるので、一台の塗膜形成装置1Aにより径の異なる多種類の基体4に幅広く対応することができる。
【0041】
また、本発明では、図示は省略するが、基体4の外周面4cに向かって吐出された塗料7、即ちカーテン膜、に、鉛直方向上方から斜め下方に向かうとともに塗布ノズル19の周方向内側から外側に向かう向きでガスを吹きつけることにより、塗布ノズル19から吐出された塗料7の吐出方向を変化させて、この塗料7を、自身の自重で落下して基体4の外周面4cに接触する位置よりも塗布ノズル19の周方向外側の位置で基体4の外周面4cに接触させることが可能になるので、一台の塗膜形成装置1Aにより径の異なる多種類の基体4に幅広く対応することができる。
【0042】
また、本発明では、第2のスリット45が、塗布ノズル19の全周に亘って形成されているので、スリット19bから吐出されたカーテン膜に向かってこのカーテン膜の周方向全周に亘って均一にガスを噴射することができ、そのために、基体4の全周に亘って均一な厚みの塗膜、即ち弾性層5、を容易に形成することができる。
【0043】
上記移動部20は、塗布ノズル支持板32と、リニアガイドと、モータと、リニアエンコーダなどを有している。この塗布ノズル支持板32は、環状に形成され、かつ表面上に塗布ノズル19を設置している。塗布ノズル支持板32は、内側に立設柱24を通して、台部21と上方板23との間に配置されている。また、リニアガイドは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って移動自在に支持している。また、モータは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って移動させる。即ち、モータは、塗布ノズル支持板32を鉛直方向に沿って昇降させる。また、リニアエンコーダは、塗布ノズル支持板32の位置を検出する。リニアエンコーダは、検出した塗布ノズル支持板32の位置を、制御装置12に向かって出力する。
【0044】
このように、移動部20は、塗布ノズル支持板32を昇降させることで、立設柱24に保持された基体4と塗布ノズル19とを該基体4の軸芯Pに沿って相対的に移動させる。
【0045】
上記気体供給ユニット47は、工場のフロア上などに設置される加圧気体供給源48と、この加圧気体供給源48と上述の気体収容室44とを互いに連結する配管46と、を有している。この加圧気体供給源48は、加圧された状態のガスを収容した収容部と、この収容部から配管46へのガス通路を開閉することができる開閉機構と、により構成されている。また、この開閉機構は、後述の制御装置12によりその開閉動作が制御されている。即ち、開閉機構は、制御部12からの指令により収容部内のガスを配管46を介して気体収容室44に供給したり、供給を停止したり、収容部から気体収容室44へのガス流量を調節したりする。また、上述した気体収容室44と、第2のスリット45と、気体供給ユニット47とで、特許請求の範囲に記載した気体噴射手段を構成している。
【0046】
上記制御装置12は、周知のRAM、ROM、CPUなどを有したコンピュータである。この制御装置12は、塗料供給ユニット10と、塗布ユニット11と、気体供給ユニット47と、接続しており、これらを制御して、塗膜形成装置1A全体の制御を司る。また、制御装置12には、基体4の寸法データが予め記憶されている。そして、スリット19bから噴射されたカーテン膜と、基体4の外周面4cとの接触位置Kが、スリット19bの吐出口31に対して予め定められた高さになるように、塗布ノズル19と基体4の外周面4cとの間隔CGに応じたガス流量が気体供給ユニット47から供給される。
【0047】
また、本実施例では、軸芯P方向に沿った一端部4aから他端部4bまでが同一径に形成された基体4に、一端部4aから他端部4bまで均一な膜厚の塗膜を形成することから、上記気体供給ユニット47のガス供給量は、塗料7の塗布開始時から終了時まで常に一定となるように制御装置12により制御されている。
【0048】
さらに、制御装置12には、移動部20のリニアエンコーダから、塗布ノズル支持板32の位置情報、即ち塗布ノズル19の位置情報、が入力される。そして、制御装置12は、この塗布ノズル支持板32の位置情報に基づいて、以下に説明するように、チャックシリンダ26と、移動部20のモータと、塗料供給ユニット10の混合機16と、気体供給ユニット47などの動作を制御して、基体4の外周面4cに塗料7を塗布して、塗膜即ち弾性層5を形成する。
【0049】
即ち、塗膜形成装置1Aによって基体4の外周面4cに塗膜即ち弾性層5を形成するには、まず、制御装置12が、塗料供給ユニット10を停止させ、チャックシリンダ26のロッド29を縮小させ、塗布ノズル支持板32を移動させて塗布ノズル19をフレーム17の最上方に位置付ける。そして、基体4を立設柱24に取り付けた後に、制御装置12が、チャックシリンダ26のロッド29を伸長させて押さえ部材27で基体4を位置決めする。続いて、制御装置12が、塗布ノズル支持板32をフレーム17の最下方に降下させて、塗布ノズル19のスリット19bの吐出口31を基体4の下端部4aに相対する塗布開始位置に位置付ける。
【0050】
そして、制御装置12が、塗料供給ユニット10に塗料7を塗布ノズル19に供給させて、塗布ノズル19のスリット19bから塗料7を基体4の外周面4c、即ち基体4の下端部4a、に向けて吐出させるとともに、気体供給ユニット47に塗布ノズル19と基体4との間隔CGに応じて予め定められた流量のガスを塗布ノズル19に供給させて、塗布ノズル19の第2のスリット45からガスを塗料7即ちカーテン膜に向けて噴射させる。
【0051】
そして、塗料7の吐出開始からt秒経過して、スリット19bから吐出した塗料7が基体4の下端部4aに付着した後、制御装置12が、移動部20に塗布ノズル19を基体4に対して上昇(上端部4bに向かって移動)させる。この時間t秒は、吐出開始から塗料7が基体4の下端部4aに付着するまでの時間である。また、本実施例では、tを、
1000≦t≦3000(msec)
の範囲に設定している。このようにすることで、塗布ノズル19より吐出されたカーテン膜の先端部が基体4の外周面4cに接触した後、ビードを形成することなくかつこのカーテン膜を崩すことなく塗布ノズル19の上昇が開始され、均一な厚みの弾性層5を形成することができる。こうして、スリット19bから塗料7を吐出させながら塗布ノズル19を上昇させる。
【0052】
そして、塗布ノズル19のスリット19bの吐出口31が基体4の上端部4bと相対する塗布終了位置に位置付けられると、制御装置12が、塗料供給ユニット10に塗料7の供給を停止させ、気体供給ユニット47にガスの供給を停止させ、移動部20を停止させて塗布ノズル19の基体4に対する上昇(上端部4bへの移動)を停止させる。こうして、下端部4aと上端部4bとに亘って基体4の外周面4cに塗料7を塗布する。そして、塗料7内の溶媒が蒸発するなどして、基体4の外周面4cに塗膜としての弾性層5が形成される。
【0053】
その後、制御装置12が、チャックシリンダ26のロッド29を縮小させて押さえ部材27を基体4から離す。そして、弾性層5が形成された基体4を立設柱24から取り外し、弾性層5を形成する前の基体4を立設柱24に取り付けて、前述した工程と同様に、弾性層5を形成する。
【0054】
このように、前述した塗膜形成装置1Aの制御装置12は、立設柱24に保持された基体4の下端部4aと相対した状態の塗布ノズル19のスリット19bから塗料7の吐出を開始させて、続いて、スリット19bから塗料7を吐出させながら塗布ノズル19が基体4の上端部4bに向かって移動するように、移動部20と塗料供給ユニット10とを制御する。また制御装置12は、これらの動作に同期して、塗布ノズル19の第2のスリット45から基体4の外周面4cと塗布ノズル19の内周面30との間隔CGに応じて予め定められた流量のガスを噴射させるように気体供給ユニット47を制御する。
【0055】
本実施例によれば、基体4の周方向及び軸芯P方向の双方に均一な厚みの弾性層5を容易に形成でき、さらに、径の異なる多種類の基体4に幅広く対応することができる。さらに、基体4の鉛直方向下方から上方に向かって順に弾性層5を形成するので、塗料7と基体4との間に侵入しようとする空気が、基体4の上方に逃げることとなって、塗料7と基体4との間に空気が侵入することを防止できる。よって、塗膜としての弾性層5に気泡が生じることを防止でき、高品質な塗膜としての弾性層5を得ることができる。
【0056】
(実施例2)
図3は、本発明の実施例2にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。同図において、前述した第1の実施例と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0057】
本実施例の塗膜形成装置1Bは、実施例1で説明した塗膜形成装置1Aの構成に加えて、図3に示すように、配管46に取り付けられたバルブ55をさらに有している。このバルブ55は、基体4の外周面4cと塗布ノズル19の内周面30との間隔CGの変化に応じて、当該バルブ55を通過するガスの流量を変更するように、制御装置12により制御されている。また、制御装置12には、基体4の寸法と、塗布ノズル支持板32の移動速度と、塗布ノズル支持板32の移動時間と、が関連付けられたデータ、即ち塗布ノズル支持板32がフレーム17の下方から上方に向かって移動を開始してからx秒後の塗布ノズル19の内周面30と基体4の外周面4cとの間隔CG、が記憶されている。
【0058】
この塗膜形成装置1Bにより、例えば、軸芯方向の中央部が軸芯方向の端部よりも小径に形成されたつづみ形状(逆クラウン形状)の基体(不図示)に弾性層5を形成する場合、第2のノズル45から噴射されるガスの流量、即ちバルブ55を通過するガスの流量、は、塗布ノズル19がこの基体の下端部と相対する塗布開始位置からこの基体の中央部と相対する位置に向かうにしたがって徐々に大きくなり、最も小径に形成された前記中央部と相対する位置で最大となり、この中央部と相対する位置からこの基体の上端部と相対する塗布終了位置に向かうにしたがって徐々に小さくなるように制御装置12により制御される。
【0059】
本発明では、このように、軸芯方向に沿って径が変化する形状の基体に塗膜、即ち弾性層5、を形成する際、制御装置12により、基体の外周面と塗布ノズル19の内周面30との間隔CGの変化に応じてバルブ55の開閉量を変化させて、第2のスリット45から噴射されるガスの流量を変化させることにより、スリット19bから吐出されたカーテン膜の先端部が常に基体の外周面に当たるように塗料7の吐出方向を変化させることができるので、づづみ形状(逆クラウン形状)のような軸芯方向に沿って径が変化する形状の基体にも均一な厚みの塗膜、即ち弾性層5、を形成することができる。
【0060】
(実施例3)
図4は、本発明の実施例3にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。同図において、前述した実施例1,2と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0061】
本実施例の塗膜形成装置1Cは、実施例1で説明した塗膜形成装置1Aの構成に加えて、図4に示すように、第2のスリット45の開口面積を変化させるシャッター部材50をさらに有している。このシャッター部材50は、塗布ノズル19の内周面30に沿って円環状に形成されているとともに、図示しない移動機構によりこの塗布ノズル19の軸芯方向に沿って移動自在に支持されている。また、このシャッター部材50は、基体4の外周面4cと塗布ノズル19の内周面30との間隔CGの変化に応じて移動することにより第2のスリット45の開口面積を変化させるように、その移動が制御装置12により制御されている。そして、第2のスリット45の開口面積が変化することにより、第2のスリット45から噴射されるガスの流量が変更される。また、本実施例において、上述した気体収容室44と、第2のスリット45と、気体供給ユニット47と、シャッター部材50とで、特許請求の範囲に記載した気体噴射手段を構成している。また、制御装置12には、基体4の寸法と、塗布ノズル支持板32の移動速度と、塗布ノズル支持板32の移動時間と、が関連付けられたデータ、即ち塗布ノズル支持板32がフレーム17の下方から上方に向かって移動を開始してからx秒後の塗布ノズル19の内周面30と基体4の外周面4cとの間隔CG、が記憶されている。
【0062】
この塗膜形成装置1Cにより、例えば、軸芯方向の中央部が軸芯方向の端部よりも大径に形成されたクラウン形状の基体(不図示)に弾性層5を形成する場合、第2のノズル45から噴射されるガスの流量は、塗布ノズル19がこの基体の下端部と相対する塗布開始位置からこの基体の中央部と相対する位置に向かうにしたがってシャッター部材50が第2のスリット45の開口面積を小さくするように移動することにより徐々に小さくなり、最も大径に形成された前記中央部と相対する位置で最小となり、この中央部と相対する位置からこの基体の上端部と相対する塗布終了位置に向かうにしたがってシャッター部材50が第2のスリット45の開口面積を大きくするように移動することにより徐々に大きくなるように制御装置12により制御される。
【0063】
本発明では、このように、軸芯方向に沿って径が変化する形状の基体に塗膜、即ち弾性層5、を形成する際、制御装置12により、基体の外周面と塗布ノズル19の内周面30との間隔CGの変化に応じてシャッター部材50を移動させ、第2のスリット45の開口面積を変化させて、第2のスリット45から噴射されるガスの流量を変化させることにより、スリット19bから吐出されたカーテン膜の先端部が常に基体の外周面に当たるように塗料7の吐出方向を変化させることができるので、クラウン形状のような軸芯方向に沿って径が変化する形状の基体にも均一な厚みの塗膜、即ち弾性層5、を形成することができる。
【0064】
(実施例4)
図5は、本発明の実施例4にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。同図において、前述した実施例1〜3と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0065】
本実施例の塗膜形成装置1Dは、図5に示すように、実施例1で説明した塗膜形成装置1Aの気体供給ユニット47の替わりにピストン60を有した構成である。このピストン60は、気体収容室44の内面に沿うように形成された移動部材61と、この移動部材61と図示しない移動機構とを互いに連結するロッド62と、を有している。この移動部材61は、前記移動機構により、気体収容室44内を移動自在に支持されている。
【0066】
また、移動部材61は、第2のスリット45から離れた位置から第2のスリット45に向かって近付く方向に移動することにより、気体収容室44内の空気(気体)を第2のスリット45から噴射させる。このようなピストン60は、基体4の外周面4cと塗布ノズル19の内周面30との間隔CGの変化に応じて移動速度を変えながら移動することにより、第2のスリット45から噴射される空気の流量を変化させるように、その移動速度及び移動量が制御装置12により制御されている。また、本実施例において、上述した気体収容室44と、第2のスリット45と、ピストン60とで、特許請求の範囲に記載した気体噴射手段を構成している。また、制御装置12には、基体4の寸法と、塗布ノズル支持板32の移動速度と、塗布ノズル支持板32の移動時間と、が関連付けられたデータ、即ち塗布ノズル支持板32がフレーム17の下方から上方に向かって移動を開始してからx秒後の塗布ノズル19の内周面30と基体4の外周面4cとの間隔CG、が記憶されている。
【0067】
本発明では、制御装置12により、本装置1Dにより弾性層5が形成される基体の外周面と塗布ノズル19の内周面30との間隔CGの変化に応じてピストン60の移動速度を変化させて第2のスリット45から噴射される空気の流量を変化させることにより、スリット19bから吐出されたカーテン膜の先端部が常に基体の外周面に当たるように塗料7の吐出方向を変化させることができるので、例えば軸芯方向に沿って径が変化する形状の基体にも均一な厚みの塗膜、即ち弾性層5、を形成することができる。
【0068】
また、本発明では、本実施例で示したように、気体はガスであっても良く、空気であっても良い。即ち、本発明では、カーテン膜に吹きつけることが可能な気体であれば如何なるものでも良い。
【0069】
(比較例1)
比較例1の塗膜形成装置(不図示)は、実施例1で説明した塗膜形成装置1Aの塗布ノズル19の替わりに塗布ノズル19’(図8を参照。)を有した構成である。この塗布ノズル19’は、上述した気体収容室44及び第2のスリット45を有していない以外は上述した塗布ノズル19と同じ構成である。
【0070】
(比較例2)
図8は、本発明の比較例2にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。同図において、前述した実施例1〜4と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0071】
比較例2の塗膜形成装置1Eは、図8に示すように、実施例1で説明した塗膜形成装置1Aの塗布ノズル19の替わりに塗布ノズル19’を有しているとともに、さらに気体噴射ノズル42を有した構成である。この塗布ノズル19’は、上述した気体収容室44及び第2のスリット45を有していない以外は上述した塗布ノズル19と同じ構成である。
【0072】
また、上記気体噴射ノズル42は、図示しない気体供給ユニットと接続されており、この気体供給ユニットから供給されたガスをスリット19bから吐出された塗料7即ちカーテン膜に向かって噴射する(前記ガスの噴射方向を図8中矢印Rで示す。)。また、この気体噴射ノズル42は、塗布ノズル19’の内周面30と基体4の外周面4cとの間に一つのみ設けられている。
【0073】
(比較例3)
図9は、本発明の比較例3にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。同図において、前述した実施例1〜4及び比較例2と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0074】
比較例3の塗膜形成装置1Fは、図9に示すように、実施例1で説明した塗膜形成装置1Aの第2のスリット45の替わりに第2のスリット45’を有した塗布ノズル19’’を有した構成である。この第2のスリット45’は、塗布ノズル19’’の全周に亘って形成されている。この塗布ノズル19’’は、気体供給ユニット47から供給されたガスを、第2のスリット45’を通して、基体4の外周面4cに付着した塗料7に向かって噴射する(前記ガスの噴射方向を図9中矢印S2で示す。)。即ち、塗布ノズル19’’は、ガスを、カーテン膜の外周面4cとの接触位置K(図9中に示す。)よりもスリット19bから離れた下流の位置に向かって噴射する。また、この際、塗布ノズル19’’は、基体4の全周に亘って均一にガスを噴射する。
【0075】
次に、上記実施例1〜4及び比較例1〜3について下記の試験1〜3を行った。
【0076】
(試験1)
上述した実施例1の塗膜形成装置1Aと、比較例1の塗膜形成装置(不図示)と、比較例2の塗膜形成装置1Eと、を用い、かつ、粘度が30Pa・sの塗料7、及びポリイミドで構成された直径60mm,膜厚90μmの円筒状の基体4を用いて、弾性層5の厚みTを200μm,塗布ノズル19,19’と基体4との間隔CGを350μmに設定するとともに、塗布ノズル支持板32の移動速度、即ち塗布ノズル19,19’の移動速度、を50mm/sに設定し、それぞれの塗膜形成装置により50本ずつ基体4に塗料7を塗布するとともに、塗料7の塗布終了後、形成された塗膜を加熱硬化させて弾性層5を形成した。そして、
(a)比較例1の塗膜形成装置により形成された弾性層5の気体噴射ノズル42と相対する位置における軸芯方向に沿った均一性
(b)比較例1の塗膜形成装置により形成された弾性層5の全周に亘る均一性
(c)比較例2の塗膜形成装置1Eにより形成された弾性層5の気体噴射ノズル42と相対する位置における軸芯方向に沿った均一性
(d)比較例2の塗膜形成装置1Eにより形成された弾性層5の全周に亘る均一性
(e)実施例1の塗膜形成装置1Aにより形成された弾性層5の気体噴射ノズル42と相対する位置に相当する位置における軸芯方向に沿った均一性
(d)実施例1の塗膜形成装置1Aにより形成された弾性層5の全周に亘る均一性
を調べた結果、実用に適さないと判定されたものの数量を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1によれば、弾性層5の軸方向に沿った均一性は、比較例1より比較例2の方が優れていた。これは、気体噴射ノズル42より吐出されたガスにより、塗料7の塗布に伴って発生する同伴気流の影響を抑制でき、カーテン膜が安定した塗膜を形成できたことを示す。さらに弾性層5の全周に亘る均一性は実施例1が最も優れていた。比較例2の弾性層5の全周に亘る均一性が良くないのは、気体噴射ノズル42を一箇所に設置したことにより、ガス噴射によるカーテン膜への影響が全周に亘って均一でなかったことに起因する。
【0079】
(試験2)
上述した実施例1の塗膜形成装置1Aと、比較例1の塗膜形成装置(不図示)と、比較例3の塗膜形成装置1Fと、を用い、かつ、粘度が30Pa・sの塗料7を用いて、基体4の無い状態で、弾性層5の厚みTを200μm(直径60mm,膜厚90μmの円筒状の基体4を用いた場合の数値である。),塗布ノズル19,19’と基体4との間隔CGを350μm(直径60mm,膜厚90μmの円筒状の基体4を用いた場合の数値である。)に仮想的に設定するとともに、スリット19bより塗料7を吐出させることにより形成されたカーテン膜を鉛直方向上方より高速度カメラにて撮影し、このカーテン膜の任意の点における内径を調べた。なお、本試験2では基体4の無い状態であるため、比較例3のガス吐出方向は、仮想的に吐出口31より鉛直下方向下方10mmの位置になるようにした。結果を図10のグラフに示す。また、図10のグラフは、縦軸が内径を表し、横軸が吐出口31からの塗料7の落下変位を表している。
【0080】
図10のグラフによれば、比較例1は通常の円錐状カーテン膜であることが言える。比較例3は、ガス噴射位置にあたる落下変位10mmの位置にて内径が顕著に増大していることが言える。また、実施例1は、比較例1,3と比較して、任意の落下位置におけるカーテン膜の内径が大きいことが言える。また、比較例3も、ガス噴射位置より下方にてカーテン膜の内径が大きくなっているが、実際の塗布においては、すでに基体4への塗布が終了している位置であるため、このような効果は得られない。以上の事から、ガス噴射をカーテン膜に直接作用させることによって、カーテン膜横断面における吐出部31からの変位を変化させることができることが明かとなった。このことは、カーテン膜の成膜範囲をガス噴射によって変化させられることを示している。
【0081】
(試験3)
上述した実施例2の塗膜形成装置1Bと、実施例3の塗膜形成装置1Cと、実施例4の塗膜形成装置1Dと、比較例1の塗膜形成装置(不図示)と、を用い、粘度が30Pa・sの塗料7、及び直径60mm,軸芯方向の中央部(下端部から125mm近傍)での最大つづみ量が100μmのつづみ形状(逆クラウン形状)に形成された基体(不図示)を用いて、弾性層5の目標の厚みTを200μm,塗布ノズル19,19’と基体との間隔CG(基体の軸芯方向の両端部における外周面と塗布ノズル19,19’の内周面30との間隔CGである。)を350μmに設定するとともに、塗布ノズル支持板32の移動速度、即ち塗布ノズル19,19’の移動速度、を50mm/sに設定し、それぞれの塗膜形成装置により基体に塗料7を塗布するとともに、塗料7の塗布終了後、形成された塗膜を加熱硬化させて弾性層5を形成した。また、塗膜形成装置1B,1C,1Dでは、基体の軸芯方向の中央部にて第2のスリット45から噴射される気体(ガスまたは空気)の流量が最大になるように調整して塗布を行った。そして、形成された弾性層5の厚みTを計測した結果を図11のグラフに示す。また、図11のグラフは、縦軸が弾性層5の厚みT(単位:μm)を表し、横軸が弾性層5の軸芯方向の測定位置(下端部を0mmとする。)を表している。
【0082】
図11のグラフによれば、比較例1は、基体の中央部(つづみ量が最大となる位置近傍)にて連続膜を形成することができなかったと言える。一方、実施例2,3,4は、つづみ量が最大となる中央部を含め、軸芯方向全域に亘り均一な連続膜を形成することができたと言える。また、比較例1にて連続膜を形成できなかったのは、つづみ量が最大となる中央部近傍にてCGが大きくなりすぎたために、カーテン膜の成膜範囲を外れてしまったことによる。一方、実施例2〜4は、つづみ量が最大となる中央部近傍にて、第2のスリット45から噴射される気体の流量を制御することにより、つづみ量の変化、即ち軸芯方向に沿った径の変化、に応じて塗料7の吐出方向を変化させ、カーテン膜の成膜範囲を逸脱することなく塗布できたことを示す。
【0083】
以上のことから、実施例2〜4は、軸芯方向に沿って径が変化する形状の基体であっても、安定的に塗膜を形成することができる塗膜形成装置1B,1C,1Dであることが明かとなった。
【0084】
また、前述した実施例1〜4では、定着ローラ2の弾性層5を形成する場合を示しているが、本発明は、定着ローラ2に限ることなく種々の被塗装物に塗膜を形成しても良いことは勿論である。
【0085】
また、前述した実施例1〜4では、基体4を固定して、塗布ノズル19を移動させている。しかしながら、本発明では、塗布ノズル19を固定して、基体4を移動させても良く、塗布ノズル19と基体4との双方を移動させても良い。
【0086】
また、前述した実施例1〜4では、カーテン膜に、鉛直方向下方から斜め上方に向かうとともに塗布ノズル19の周方向外側から内側に向かう向きで気体を吹きつけている。しかしながら、本発明では、カーテン膜に、鉛直方向上方から斜め下方に向かうとともに塗布ノズル19の周方向内側から外側に向かう向きで気体を吹きつけても良く、塗布ノズル19の周方向内側と外側の双方から気体を吹きつけても良い。
【0087】
なお、前述した実施例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施例に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例1にかかる塗膜形成装置の概略の構成を示す斜視図である。
【図2】図1中のII−II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の実施例2にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例3にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例4にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。
【図6】図1に示された塗膜形成装置によって塗膜が形成されて得られる定着ローラの斜視図である。
【図7】図6中のXII−XII線に沿う断面図である。
【図8】本発明の比較例2にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。
【図9】本発明の比較例3にかかる塗膜形成装置の要部を示す断面図である。
【図10】本発明の効果を評価するために行った試験2の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の効果を評価するために行った試験3の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0089】
1A,1B,1C,1D 塗膜形成装置
2 定着ローラ(電子写真用定着部材)
4 基体(被塗装物)
4a 下端部(一端部)
4b 上端部(他端部)
4c 外周面
5 弾性層(塗膜)
7 塗料
10 塗料供給ユニット(塗料供給部)
12 制御装置(制御部)
18 保持部
19 塗布ノズル
19b スリット
20 移動部
30 内周面
44 気体収容室(気体噴射手段)
45 第2のスリット(気体噴射手段)
48 加圧気体供給源(気体噴射手段)
50 シャッター部材(気体噴射手段)
60 ピストン(気体噴射手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の外周面に塗料を塗布して塗膜を形成する塗膜形成装置において、
前記外周面が露出しかつ前記被塗装物の軸芯が鉛直方向と平行な状態で当該被塗装物を保持する保持部と、
円環状に形成され、かつ前記被塗装物の外周面と間隔をあけて相対して前記保持部に保持された前記被塗装物と同軸に配置され、内周面に前記塗料を吐出するスリットが全周に亘って形成された塗布ノズルと、
前記保持部と前記塗布ノズルとを前記軸芯に沿って相対的に移動させる移動部と、
前記塗布ノズルに前記塗料を供給する塗料供給部と、
前記スリットから円錐状に吐出された塗料に向かって該塗料の周方向全周に亘って均一に気体を噴射することにより、前記塗料の吐出方向を変化させる気体噴射手段と、
を有していることを特徴とする塗膜形成装置。
【請求項2】
前記気体噴射手段が、
前記塗布ノズルの全周に亘って円環状に形成されかつ前記気体が収容される気体収容室と、
該気体収容室に連結しかつ前記塗布ノズルの内周面の全周に亘って開口した前記気体を噴射する第2のスリットと、
前記気体収容室内に移動自在に配されかつ前記第2のスリットに向かって移動することにより、前記気体収容室内の気体を前記第2のスリットから噴射させるピストンと、
を有していることを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成装置。
【請求項3】
前記気体噴射手段が、
前記塗布ノズルの全周に亘って円環状に形成されかつ前記気体が収容される気体収容室と、
該気体収容室に連通しかつ前記塗布ノズルの内周面の全周に亘って開口した前記気体を噴射する第2のスリットと、
前記気体収容室に加圧気体を送り込む加圧気体供給源と、
を有していることを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成装置。
【請求項4】
前記気体噴射手段が、前記塗布ノズルの内周面に沿って円環状に形成されかつ前記軸芯方向に沿って移動することにより前記第2のスリットの開口面積を変化させるシャッター部材をさらに有していることを特徴とする請求項3に記載の塗膜形成装置。
【請求項5】
前記保持部に保持された前記被塗装物の一端部と相対した状態の塗布ノズルのスリットから前記塗料の吐出を開始させ、続いて、該スリットから前記塗料を吐出させながら前記塗布ノズルが前記被塗装物の他端部に向かって相対的に移動するように、前記移動部及び前記塗料供給部を制御するとともに、前記被塗装物の外周面と前記塗布ノズルの内周面との間隔の変化に応じて前記気体噴射手段によって噴射される気体の流量を制御する制御部をさらに有していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載の塗膜形成装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちいずれか1項に記載された塗膜形成装置により形成されたことを特徴とする電子写真用定着部材。
【請求項7】
請求項6に記載された電子写真用定着部材を有していることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−161835(P2008−161835A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356389(P2006−356389)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】