説明

塗装方法およびそれにより得られる塗装体

【課題】3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付けても、最上層表面の凹凸が少なく、基材に対する付着性に優れた積層塗膜を得ることができる塗装方法を提供すること。
【解決手段】基材上に形成された最下層と前記最下層上に形成された1層以上の中間層と前記中間層上に形成された最上層とを備える積層塗膜を形成する塗装方法であって、
前記最下層を形成するための最下層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、前記中間層を形成するための中間層用塗料のうちの少なくとも1種類として熱処理により硬化反応を起こさない非硬化型塗料を準備し、且つ前記最上層を形成するための最上層用塗料として熱硬化型塗料を準備する工程と、
前記基材上に前記最下層用塗料、中間層用塗料および最上層用塗料をウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する工程と、
前記未硬化積層塗膜に熱処理を施して前記最下層用塗料および前記最上層用塗料を硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付ける塗装方法およびそれにより得られる塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層した後、焼き付ける塗装方法により積層塗膜を形成する場合において、従来は、すべての塗料を積層した後に積層塗膜を構成するすべての層で焼き付けにより硬化反応が起こるように、すべての層について熱硬化型塗料が用いられ、積層塗膜全体が硬化されていた。この場合、最下層、または最下層と中間層とを焼き付けてから最上層を形成する塗料を積層して焼き付けた場合に比べて、積層塗膜の肌および光沢が劣るという問題があった。このため、積層塗膜の肌および光沢を向上させるために種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特開平10−277478号公報(特許文献1)には、カラーベース塗料、光輝材含有ベース塗料およびクリア塗料を順次ウェットオンウェット方式で塗装した後、焼き付け処理を行って各層を硬化させる塗膜形成方法が開示されている。この方法では、各塗料の粘度上昇開始時間をカラーベース塗料、光輝材含有ベース塗料およびクリア塗料の順に長くなるように調整して、最上層を形成するクリア塗料が硬化に伴って粘度上昇する前に下層を形成するカラーベース塗料および光輝材含有ベース塗料の硬化を開始させている。
【0004】
一方、積層塗膜の肌や光沢を低下させる原因が焼き付け硬化前の積層塗膜中の溶剤の残存にあることが知られている。特に、積層塗膜中の溶剤が硬化反応時に急激に蒸発すると積層塗膜表面が荒れるため、これを防ぐために以下のような方法が提案されている。例えば、特開2004−275966号公報(特許文献2)には、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を順次ウェットオンウェットで塗装する工程と低温加熱段階および高温加熱段階の2段階の加熱工程を含む塗膜形成方法が開示されている。これらの方法では、低温加熱段階では塗料を硬化させずに塗料中の溶媒を穏やかに蒸発させ、その後高温加熱段階で各層の塗料に含まれる熱硬化性樹脂を硬化させている。
【0005】
このように、従来から積層塗膜の肌および光沢を向上させるために種々の方法が提案されているが、例えば、自動車用鋼板などではより外観品質に優れ且つ耐久性にも優れた塗装体が求められており、ウェットオンウェットによる塗装方法の更なる改良が望まれている。
【特許文献1】特開平10−277478号公報
【特許文献2】特開2004−275966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付けて高耐久性の確保などのために少なくとも最下層と最上層とを硬化させても、最上層表面の凹凸が少なく、基材に対する付着性に優れた積層塗膜を得ることができる塗装方法、およびそれにより得られる外観品質に優れた塗装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付け塗装をする場合において、積層塗膜の最上層以外の層のうちの少なくとも1層を熱処理により硬化反応を起こさない非硬化型塗料を使用して形成することによって最上層が硬化して流動性が著しく低下した後の積層塗膜の収縮を最小限に抑えることができ、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層した後に焼き付けを実施しても外観品質に優れた積層塗膜が得られることを見出した。
【0008】
ところが、本発明者らは、積層塗膜の最上層以外の層のうちの最下層を、非硬化型塗料を使用して形成した場合においては、外観品質に優れた積層塗膜が得られるものの、基材から積層塗膜が剥離しやすい傾向にあることを見出した。そこで、本発明者らは、さらに鋭意研究を重ねた結果、最上層と最下層とを、熱処理により硬化する熱硬化型塗料を使用して形成し、これらの間の層(中間層)を、非硬化型塗料を使用して形成することによって3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層した後に焼き付けを実施しても外観品質に優れ、且つ基材に対する付着性に優れた積層塗膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の塗装方法は、基材上に形成された最下層と前記最下層上に形成された少なくとも1層の中間層と前記中間層上に形成された最上層とを備える積層塗膜を形成する塗装方法であって、
前記最下層を形成するための最下層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、前記中間層を形成するための中間層用塗料のうちの少なくとも1種類として熱処理により硬化反応を起こさない非硬化型塗料を準備し、且つ前記最上層を形成するための最上層用塗料として熱硬化型塗料を準備する工程と、
前記基材上に前記最下層用塗料、中間層用塗料および最上層用塗料をウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する工程と、
前記未硬化積層塗膜に熱処理を施して少なくとも前記最下層用塗料および前記最上層用塗料を硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0010】
前記最上層用塗料としては、その硬化温度における重量減少率が0.5質量%以下の塗料が好ましく、また、前記非硬化型塗料としては、前記最上層用塗料の硬化温度における重量減少率が0.5質量%以下の塗料が好ましい。また、前記非硬化型塗料は、前記最上層用塗料の硬化温度における溶融粘度が500Pa・s以下の基体樹脂を含むものが好ましい。
【0011】
また、本発明の塗装方法においては、前記未硬化積層塗膜に[前記最上層用塗料の硬化温度−20℃]未満の温度で熱処理を施し、次いで[前記最上層用塗料の硬化温度−20℃]以上の温度で熱処理を施すことが好ましい。
【0012】
本発明の塗装体は、基材上に形成された最下層と前記最下層上に形成された少なくとも1層の中間層と前記中間層上に形成された最上層とを備える積層塗膜を有する塗装体であって、前記本発明の塗装方法により得られる塗装体あり、肌や光沢などの外観品質に優れ、且つ基材に対する付着性に優れた積層塗膜を備えるものである。
【0013】
なお、本発明の塗装方法によって3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付けた場合にも積層塗膜の表面の凹凸が少なく、さらに積層塗膜が基材から剥離しにくくなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、従来のウェットオンウェットにより形成した積層塗膜では、最上層を含めすべての層で熱硬化型塗料が用いられているため、最上層を形成する熱硬化型塗料を熱処理(焼き付け処理)により硬化させる際にその下層においても熱硬化型塗料が硬化する。このとき、積層塗膜の各層では縮合反応や硬化剤の脱ブロック反応の後の付加反応により熱硬化型塗料を硬化させるため、この縮合反応や脱ブロック反応により揮発性生成物が生成して残存する溶媒とともに揮発し、積層塗膜が収縮して塗膜表面に凹凸が形成される。この塗膜表面の凹凸は各層が十分に流動性を有している間はその流動などにより緩和されるが、各層、特に最上層の流動性が硬化により著しく低下すると凹凸は緩和されず、基材表面や各層の界面の凹凸が最上層表面に転写され、積層塗膜の肌や光沢が悪化することとなる。
【0014】
一方、本発明の塗装方法では、最上層と最下層以外の層(中間層)のうちの少なくとも1層を非硬化型塗料を用いて形成するため、最上層を熱硬化型塗料を用いて形成してもこの熱硬化型塗料を熱処理により硬化させる際に非硬化型塗料を用いて形成した中間層では実質的には硬化反応が起こらず、揮発性生成物が実質的に生成しない。また、流動性も保持されている。その結果、従来のような積層塗膜の収縮に影響を与えるような揮発性生成物の揮発が起こらず、積層塗膜の収縮を残存する溶媒の揮発のみに起因する最小限のものに抑えることができ、さらにこの収縮および最上層と最下層の収縮による塗膜表面の凹凸も中間層の流動性により緩和されるものと本発明者らは推察する。
【0015】
また、本発明の塗装方法では、最下層を熱硬化型塗料を用いて形成するため、最下層を非硬化型塗料を用いて形成した場合に比べて最下層と基材との間で多くの化学結合が形成され、最下層と基材との界面において層間剥離が起こりにくく、基材に対する積層塗膜の付着性が向上したものと本発明者らは推察する。さらに、熱処理時に最上層中および最下層中の硬化剤の一部が中間層に移動し、最上層と中間層との界面および最下層と中間層との界面において化学結合が形成され、これらの層間においては剥離が起こりにくく、層間付着性が向上したものと推察される。
【0016】
なお、本発明において、「実質的には揮発性生成物を生成しない」および「揮発性生成物の揮発が実質的には起こらない」には、揮発性生成物の揮発による塗膜の収縮が塗膜の表面平滑性に影響を及ぼさない程度に揮発性生成物が生成および揮発する場合を包含するものとする。具体的には、塗料を熱処理して揮発性生成物が生成して揮発しても塗膜の重量減少率が0.5質量%以下である場合には、この塗料は実質的には揮発性生成物を生成せず、揮発しないものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付けて高耐久性の確保などのために少なくとも最下層と最上層とを硬化させても、最上層表面の凹凸が少なく、基材に対する付着性に優れた積層塗膜を得ることが可能となる。これにより、肌(表面平滑性)や光沢など外観品質に優れ、積層塗膜が剥離しにくい塗装体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
本発明の塗装方法は、基材上に形成された最下層と前記最下層上に形成された少なくとも1層の中間層と前記中間層上に形成された最上層とを備える積層塗膜を形成する塗装方法であって、
前記最下層を形成するための最下層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、前記中間層を形成するための中間層用塗料のうちの少なくとも1種類として熱処理により硬化反応を起こさない非硬化型塗料を準備し、且つ前記最上層を形成するための最上層用塗料として熱硬化型塗料を準備する工程と、
前記基材上に前記最下層用塗料、中間層用塗料および最上層用塗料をウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する工程と、
前記未硬化積層塗膜に熱処理を施して少なくとも前記最下層用塗料および前記最上層用塗料を硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0020】
本発明の塗装方法では、先ず、基材上に最下層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥などにより溶媒などを蒸発させて未硬化の最下層を形成する。次いで、この未硬化の最下層の上に1種類以上の中間層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥などにより溶媒などを蒸発させて未硬化の中間層を形成する。さらに、この未硬化の中間層の上に最上層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥などにより溶媒などを蒸発させて未硬化の最上層を形成した後、得られた未硬化積層塗膜に熱処理(焼き付け処理)を施して少なくとも前記最上層用塗料および最下層用塗料を硬化させる。
【0021】
本発明に用いられる基材としては、特に限定されず、例えば、金属(鉄、銅、アルミニウム、錫、亜鉛およびこれらの金属の合金など)、鋼板、プラスチック、発泡体、紙、木、布、ガラスなどが挙げられる。中でも、外観品質に対する要求特性が高い自動車用鋼板に本発明は好適に適用される。これら基材表面は、予め電着塗装などの処理が施されていてもよい。
【0022】
本発明では最下層用塗料として熱硬化型塗料を使用する。これにより、基材に対する積層塗膜の付着性が向上する。このような最下層用熱硬化塗料としては、通常の焼付塗装に使用される熱硬化型塗料が使用でき、例えば、特開2004−275966号公報に記載の中塗り塗料などが挙げられる。最下層用熱硬化型塗料の形態は、溶剤型、水性のいずれでもよいが、揮発性有機化合物の排出量を削減できる点で水性が好ましい。また、最下層用熱硬化型塗料は、熱処理により最上層が硬化して流動性が著しく低下した後の塗膜の収縮を最小限にできる観点から、使用する最上層用塗料の硬化温度における重量減少率が小さいものほど好ましい。
【0023】
最下層用熱硬化型塗料の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂と、アミノ化合物、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、イソシアネート樹脂などの硬化剤とを含む熱硬化型塗料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前記熱硬化性樹脂および前記硬化剤はそれぞれ1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
最下層用熱硬化型塗料には、必要に応じて従来公知の着色顔料や光輝性顔料などが従来公知の範囲で含まれていてもよい。また、各種物性を調整するために粘性制御剤、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤などの各種添加剤を従来公知の範囲で配合してもよい。
【0025】
本発明の塗装方法においては、前記最下層の上に少なくとも1層の中間層を形成するが、前記中間層のうちの少なくとも1層は中間層用塗料として熱処理により硬化反応を起こさない非硬化型塗料を用いて形成される。具体的には、中間層が1層の場合にはこの中間層を非硬化型塗料を用いて形成し、中間層が2層以上の場合にはそれらのうちの少なくとも1層を非硬化型塗料を用いて形成する。また、非硬化型塗料を用いて形成した中間層が2層以上の場合、中間層と中間層との界面での化学結合点が少なく、層間剥離が起こりやすいという観点からこれらの層は互いに隣接していないことが好ましい。
【0026】
本発明に用いられる熱処理により硬化反応を起こさない非硬化型塗料は、熱処理により実質的に硬化反応を起こさないものであればよく、使用する最上層用塗料の硬化温度における重量減少率が0.5質量%以下のものが好ましく、0.3質量%以下のものがより好ましく、0.1質量%以下のものが特に好ましい。このような熱処理による重量減少率が小さい非硬化型塗料を用いると最上層の流動性が硬化により著しく低下した後の積層塗膜の収縮を小さくできる傾向にある。したがって、このような観点から、前記非硬化型塗料としては、塗膜形成可能な基体樹脂を含み硬化剤を含まない塗料が最も好ましいが、熱処理により実質的に硬化反応を起こさないものであれば硬化剤を含んでいるものも使用可能であり、その含有率は、基体樹脂と硬化剤との合計100質量%に対して5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0027】
なお、本発明において、「塗料の硬化温度」とは、対象とする塗料を基材上に塗装して熱処理を施し塗膜を硬化せしめて基材上に定着させるために硬化時間などの硬化条件との関係で最も効率よく硬化できる温度をいい、一般的には塗料毎に設定(設計)されている焼付温度をいう。本発明では、この硬化温度(焼付温度)としてカタログ値を採用することができる。また、「塗料の重量減少率」は、以下の方法により測定される値である。すなわち、対象とする塗料を熱処理後の膜厚が積層塗膜での目標膜厚となるようにアルミ箔上に塗装し、得られたアルミ箔試料を最上層用塗料の硬化温度よりも40℃低い温度および10−2Torr以下の真空条件で90分間乾燥した後、加熱脱着導入装置(例えば、GERSTEL社製Thermal Desorption System)付きガスクロマトグラフ/質量分析装置(例えば、Agilent社製6890GC/5975MSD)を用いて最上層用塗料の硬化温度で30分間加熱して揮発性生成物量(Rc(単位:g))と残存溶媒量を定量し、式(1)により重量減少率を算出する。この重量減少率は、塗膜中の全バインダー量に対する前記揮発性生成物量の割合である。
【0028】
重量減少率=100×Rc/W×100/(100−P) (1)
式(1)中、Wは前記真空乾燥工程で得られた塗膜の質量(単位:g)であり、Pはその塗膜100gに含まれる顔料の質量(単位:g)である。なお、顔料の質量は塗料の配合表の値(カタログ値など)を採用できる。
【0029】
また、本発明に用いられる非硬化型塗料に含まれる基体樹脂としては、使用する最上層用塗料の硬化温度における溶融粘度が500Pa・s以下のものが好ましく、100Pa・s以下のものがより好ましく、50Pa・s以下のものが特に好ましい。このような最上層用塗料の硬化温度において溶融粘度が小さい基体樹脂を含む非硬化型塗料を用いると熱処理時(焼き付け処理時)においても中間層の流動性が確保され、最上層の流動性が硬化により著しく低下した後の積層塗膜の収縮を小さくできる傾向にある。
【0030】
なお、「基体樹脂の溶融粘度」は、以下の方法により測定される値である。すなわち、対象とする基体樹脂をガラス板に塗布し、室温で12時間自然乾燥させ、基体樹脂中の水分を十分に揮発させる。その後、最上層用塗料の硬化温度より40℃低い温度および10−2Torr以下の真空条件で90分間乾燥させ、さらに最上層用塗料の硬化温度で30分間加熱して測定用試料を調製する。この測定用試料の溶融粘度(単位:Pa・s)を、粘弾性測定装置(例えば、ティー・エイ・インスツルメント社製ARES粘弾性測定装置)を用いて測定する。測定は、試料の温度を最上層用塗料の硬化温度まで上昇させて定常状態に保持し、25mmコーンプレートを使用して剪断速度0.1s−1で実施する。
【0031】
さらに、前記基体樹脂としては、高速液体クロマトグラフィにより測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が1000〜100000であるものが好ましく、5000〜50000であるものがより好ましい。基体樹脂の重量平均分子量が前記下限未満になると積層塗膜の耐久性が劣る傾向にあり、他方、前記上限を超えると塗面の平滑性が劣る傾向にある。
【0032】
このような基体樹脂としては、それ単独では熱処理により硬化反応を起こさない樹脂であればよく、例えば、特開2004−275966号公報に記載のベース塗料などから硬化剤を除いた樹脂成分、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂の中から熱処理により硬化反応を起こさないものを2種以上選択して併用してもよい。このような基体樹脂のうち、最上層と中間層、最下層と中間層、さらに中間層同士の付着性が向上するという観点から、水酸基を含有する樹脂が好ましく、水酸基含有アクリル樹脂がより好ましい。
【0033】
また、前記非硬化型塗料に含まれていてもよい硬化剤としては、アミノ化合物、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、イソシアネート樹脂などが挙げられる。
【0034】
本発明に用いられる非硬化型塗料の形態は、溶剤型、水性のいずれでもよいが、揮発性有機化合物の排出量を削減できる点で水性が好ましい。また、前記非硬化型塗料には、必要に応じて従来公知の着色顔料や光輝性顔料などが従来公知の範囲で含まれていてもよい。また、各種物性を調整するために粘性制御剤、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤などの各種添加剤を従来公知の範囲で配合してもよい。
【0035】
本発明では、中間層が2層以上の場合、少なくとも1層が前記非硬化型塗料を用いて形成された層であれば、残りの層は熱硬化型塗料を用いて形成してもよい。
【0036】
中間層用熱硬化型塗料としては、通常の焼付塗装に使用される熱硬化型塗料が使用でき、例えば、特開2004−275966号公報に記載のベース塗料などが挙げられる。中間層用熱硬化型塗料の形態は、溶剤型、水性のいずれでもよいが、揮発性有機化合物の排出量を削減できる点で水性が好ましい。また、中間層用熱硬化型塗料は、熱処理により最上層が硬化して流動性が著しく低下した後の塗膜の収縮を最小限にできる観点から、使用する最上層用塗料の硬化温度における重量減少率が小さいものほど好ましい。
【0037】
中間層用熱硬化型塗料の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂と、アミン化合物、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、イソシアネート樹脂などの硬化剤とを含む熱硬化型塗料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前記熱硬化性樹脂および前記硬化剤はそれぞれ1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
中間層用熱硬化型塗料には、必要に応じて従来公知の着色顔料や光輝性顔料などが従来公知の範囲で含まれていてもよい。また、各種物性を調整するために粘性制御剤、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤などの各種添加剤を従来公知の範囲で配合してもよい。
【0039】
本発明では最上層用塗料として熱硬化型塗料を使用する。この最上層用熱硬化型塗料としては、塗膜形成可能な熱硬化性樹脂および硬化剤(例えば、前記熱硬化性樹脂の官能基と反応可能な官能基を2個以上有する化合物や樹脂)を含むものであればよく、通常の焼付塗装の最上層用塗料として使用される熱硬化型塗料(例えば、特開2004−275966号公報に記載のクリア塗料など)が挙げられる。その形態は溶剤型、水性、粉体のいずれでもよい。最上層用熱硬化型塗料の硬化温度は、特に限定されないが、通常40〜200℃、好ましくは60〜160℃である。
【0040】
最上層用塗料に含まれる塗膜形成可能な熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい硬化剤としてはアミノ化合物、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、およびイソシアネート樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂および硬化剤はそれぞれ1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明の塗装方法では、前記最上層用塗料は熱処理による硬化反応において実質的に揮発性生成物を生成しない塗料であることが好ましい。このような塗料としてはその硬化温度における重量減少率が0.5質量%以下のものが好ましく、0.3質量%以下のものがより好ましく、0.1質量%以下のものが特に好ましい。このような重量減少率が小さい熱硬化型塗料を最上層用塗料として使用すると熱処理による塗膜の収縮を最小限にすることができる傾向にある。また、このような観点から揮発性生成物を生成しない塗料(重量減少率が0質量%)が最も好ましい。
【0042】
熱処理による硬化反応において揮発性生成物を生成しない前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤との組み合わせとしては、水酸基含有アクリル樹脂とイソシアネート化合物および/またはイソシアネート樹脂との組み合わせ、エポキシ基含有アクリル樹脂と多価カルボン酸化合物および/またはカルボキシル基含有樹脂との組み合わせなどが挙げられる。
【0043】
さらに、前記最上層用塗料には、必要に応じて従来公知の着色顔料や光輝性顔料などが従来公知の範囲で含まれていてもよい。また、各種物性を調整するために粘性制御剤、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤などの各種添加剤を従来公知の範囲で配合してもよい。
【0044】
本発明の塗装方法では、先ず、前記基材上に前記最下層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥などにより溶媒を蒸発させて未硬化の最下層を形成する。最下層用塗料を塗布する方法としては、エアー静電スプレー塗装や回転霧化式静電塗装などの従来公知の方法が挙げられる。
【0045】
最下層の膜厚は所望の用途により適宜設定することができるが、例えば、熱処理後の膜厚で5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。最下層の膜厚が前記下限未満では均一な最下層の塗膜が得にくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると最上層の塗膜に含まれる溶媒などを多く吸収する傾向にあるとともにその層自身に含まれる溶媒の揮発も抑制され積層塗膜の外観品質を悪化させる傾向にある。
【0046】
次に、前記未硬化の最下層の上に前記中間層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥などにより溶媒を蒸発させて未硬化の中間層を形成する。このとき、中間層が1層の場合にはこの中間層を前記非硬化型塗料を用いて形成する。中間層が2層以上の場合には少なくとも1層を前記非硬化型塗料を用いて形成し、残りの層は中間層用熱硬化型塗料を用いて形成することができる。また、非硬化型塗料を用いて中間層を2層以上形成する場合、これらの層は互いに隣接していないことが好ましい。
【0047】
中間層用塗料を塗布する際、非硬化型塗料および熱硬化型塗料のいずれの塗料を使用する場合でもエアー静電スプレー塗装や回転霧化式静電塗装などの従来公知の方法を適用することができる。
【0048】
中間層の各層の膜厚は所望の用途により適宜設定することができるが、例えば、熱処理後の膜厚で5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。各中間層の膜厚が前記下限未満では均一な中間層の塗膜が得にくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると最上層の塗膜に含まれる溶媒などを多く吸収する傾向にあるとともにその層自身に含まれる溶媒の揮発も抑制され積層塗膜の外観品質を悪化させる傾向にある。
【0049】
次に、前記未硬化の中間層の上に前記最上層用塗料を塗布し、必要に応じて乾燥などにより溶媒を蒸発させて未硬化の最上層を形成する。最上層用塗料の塗布方法としては、エアー静電スプレー塗装や回転霧化式静電塗装などの従来公知の方法が挙げられる。
【0050】
最上層の膜厚は所望の用途により適宜設定することができるが、例えば、熱処理後の膜厚で15〜60μmであることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましい。最上層の膜厚が前記下限未満では流動性が不十分であり積層塗膜の外観品質が悪化する傾向にあり、他方、前記上限を超えると流動性が過度に大きくなり鉛直方向に塗装する場合にはタレなどの欠陥が発生する傾向にある。
【0051】
このようにして、前記最下層用塗料、前記中間層用塗料および前記最上層用塗料をウェットオンウェットで積層して形成された未硬化積層塗膜に熱処理(焼き付け処理)を施して少なくとも前記最上層用塗料を硬化させる。本発明の塗装方法において、前記熱処理は、少なくとも最上層が硬化する温度以上、例えば[前記最上層用塗料の硬化温度−20℃]以上の温度での加熱処理(以下、「高温加熱処理」という)を含んでいることが好ましい。
【0052】
高温加熱温度は、さらに、[前記最上層用塗料の硬化温度±20℃]の範囲の温度が好ましい。具体的には、最上層用塗料の硬化温度が140℃の場合、高温加熱温度は120℃以上であることが好ましく、120℃以上160℃以下であることが好ましい。高温加熱時間は最上層用塗料の硬化時間の50%以上150%以下であることが好ましく、60%以上100%以下であることが好ましい。具体的には、最上層用塗料の硬化時間が30分の場合、高温加熱時間は15分以上45分以下であることが好ましく、18分以上30分以下であることが好ましい。
【0053】
また、本発明の塗装方法では、前記高温加熱処理を施す前に最上層を硬化させずに積層塗膜の揮発分濃度を低減することが好ましい。これにより高温加熱処理により最上層が硬化して流動性が著しく低下した後の積層塗膜の収縮を最小限にすることができる傾向にある。
【0054】
最上層を硬化させずに積層塗膜の揮発分濃度を低減する方法としては、[前記最上層用塗料の硬化温度−20℃]未満の温度で加熱処理(以下「低温加熱処理」という)を施す方法が好ましい。低温加熱温度は、さらに[前記最上層用塗料の硬化温度−30℃]未満の温度が好ましく、[前記最上層用塗料の硬化温度−40℃]未満の温度が特に好ましい。具体的には、最上層用塗料の硬化温度が140℃の場合、低温加熱温度は120℃未満であることが好ましく、110℃未満であることがより好ましく、100℃未満であることが特に好ましい。低温加熱時間は最上層用塗料の硬化時間の10%以上50%未満であることが好ましく、20%以上40%以下であることが好ましい。具体的には、最上層用塗料の硬化時間が30分の場合、低温加熱時間は3分以上15分以下であることが好ましく、6分以上12分以下であることが好ましい。前記低温加熱温度および低温加熱時間の範囲で未硬化積層塗膜を熱処理すると最上層を実質的には硬化させずに積層塗膜の揮発分濃度を低減することができる傾向にある。
【0055】
さらに、本発明の塗装方法では、ウェットオンウェットにより積層された未硬化状態の塗膜を安定させるために、前記熱処理前に室温で静置(セッティング)させることが好ましい。セッティング時間は通常1〜20分に設定される。
【0056】
また、本発明において、さらに高級な外観を有する塗装体を得るためには、前記塗装方法により得られた塗装体の前記最上層の上にさらに1種以上の塗料を塗布して硬化処理を施し、表面層を形成することが好ましい。前記塗料としては、前記最上層用塗料として例示したものを使用することができる。また、前記塗料の塗布方法としては、エアスプレー塗装やエアー静電スプレー塗装、回転霧化式静電塗装などの従来公知の方法が挙げられる。
【0057】
本発明の塗装体は、前記本発明の塗装方法により製造されたものであり、積層塗膜表面の凹凸が従来のウェットオンウェットで製造した積層塗膜よりも少なく、外観品質に優れている。また、この積層塗膜は基材から剥離しにくく、基材に対する付着性に優れている。このような塗装体は、特に乗用車、トラック、バス、オートバイなどの自動車用車体やその部品として有用である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、基体樹脂の溶融粘度および積層塗膜の重量減少率の測定、ならびに積層塗膜の付着性の評価は以下の方法により実施した。
【0059】
(溶融粘度)
対象とする基体樹脂をガラス板に塗布し、室温で12時間自然乾燥させ、基体樹脂中の水分を十分に揮発させた。その後、最上層用塗料の硬化温度より40℃低い温度および10−2Torr以下の真空条件で90分間乾燥させ、さらに最上層用塗料の硬化温度で30分間加熱して測定用試料を調製した。この測定用試料の溶融粘度(単位:Pa・s)を、粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製ARES粘弾性測定装置)を用いて測定した。測定は、試料の温度を最上層用塗料の硬化温度まで上昇させて定常状態に保持し、25mmコーンプレートを使用して剪断速度0.1s−1で実施した。
【0060】
(重量減少率)
対象とする塗料を熱処理後の膜厚が積層塗膜の目標膜厚となるようにアルミ箔上に塗装し、得られたアルミ箔試料を最上層用塗料の硬化温度よりも40℃低い温度および10−2Torr以下の真空条件で90分間乾燥した後、加熱脱着導入装置(例えば、GERSTEL社製Thermal Desorption System)付きガスクロマトグラフ/質量分析装置(例えば、Agilent社製6890GC/5975MSD)を用いて最上層用塗料の硬化温度で30分間加熱して揮発性生成物量(Rc(単位:g))と残存溶媒量を定量し、式(1)により重量減少率を算出した。この重量減少率は、塗膜中の全バインダー量に対する前記揮発性生成物量の割合である。
【0061】
重量減少率=100×Rc/W×100/(100−P) (1)
式(1)中、Wは前記真空乾燥工程で得られた塗膜の質量(単位:g)であり、Pはその塗膜100gに含まれる顔料の質量(単位:g)である。なお、顔料の質量は塗料の配合表の値を使用した。
【0062】
(付着性)
積層塗膜の付着性を、JIS K5400 8.5.1に記載の碁盤目試験(2mm)により評価した。テープとしてはセロテープ(登録商標)CT−24(ニチバン(株)製、幅24mm)を使用した。
【0063】
(合成例1)アクリルエマルションR−1
下記モノマーを混合してモノマー混合液(酸価:20(計算値)、水酸基価:69(計算値)、Tg:−20℃(計算値))を調製した。
【0064】
<モノマー混合組成>
メチルメタクリレート 10.7質量部
ブチルアクリレート 198.5質量部
2−ヒドロキシエチルメタクリレート 50.4質量部
スチレン 47.3質量部
アクリル酸 8.2質量部
n−ドデシルメルカプタン 4.0質量部。
【0065】
このモノマー混合液319質量部と水105質量部とアニオン界面活性剤(日本乳化剤(株)製「ニューコール707−SN」)14質量部とを混合し、ミキサーを用いて攪拌して乳化させ、モノマープレエマルションを調製した。
【0066】
次に、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器および窒素導入管を備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用反応容器に、水280質量部、アニオン界面活性剤(日本乳化剤(株)製「ニューコール707−SN」)5.6質量部、および重合開始剤として過硫酸アンモニウム(以下、「APS」という。)水溶液(APS(Aldrich社製)0.7質量部と水13.3質量部とを攪拌混合して調製したもの)を仕込み、攪拌しながら80℃に昇温した。この溶液に、前記モノマープレエマルションのうちの5質量%を添加し、80℃で10分間保持した。その後、残りのモノマープレエマルションを4時間かけて攪拌しながら滴下した。滴下終了後、さらに80℃で1時間攪拌を継続して反応させた。その後、水56質量部を添加し、室温まで冷却した。冷却後、10質量%のジメチルエタノールアミン水溶液を用いて反応溶液のpHを7.4に調整し、不揮発分38.1質量%のアクリルエマルションR−1を得た。
【0067】
(合成例2)アクリルエマルションR−2
下記モノマーを混合してモノマー混合液(酸価:20(計算値)、水酸基価:97(計算値)、Tg:−12℃(計算値))を調製した。
【0068】
<モノマー混合組成>
2−エチルヘキシルメタクリレート 100.8質量部
ブチルアクリレート 69.3質量部
4−ヒドロキシブチルメタクリレート 78.8質量部
スチレン 58.0質量部
アクリル酸 8.2質量部
n−ドデシルメルカプタン 4.0質量部。
【0069】
合成例1に記載のモノマー混合液の代わりにこのモノマー混合液319質量部を用いた以外は合成例1と同様にして、不揮発分38.1質量%、重量平均分子量12000のアクリルエマルションR−2を得た。このアクリルエマルションR−2の溶融粘度(140℃)は27Pa・sであった。
【0070】
(合成例3)アクリルエマルションR−3
下記モノマーを混合してモノマー混合液(酸価:20(計算値)、水酸基価:97(計算値)、Tg:10℃(計算値))を調製した。
【0071】
<モノマー混合組成>
2−エチルヘキシルメタクリレート 91.4質量部
ブチルアクリレート 25.2質量部
4−ヒドロキシブチルメタクリレート 78.8質量部
スチレン 111.5質量部
アクリル酸 8.2質量部
n−ドデシルメルカプタン 4.0質量部。
【0072】
合成例1に記載のモノマー混合液の代わりにこのモノマー混合液319質量部を用いた以外は合成例1と同様にして、不揮発分38.1質量%、重量平均分子量12000のアクリルエマルションR−3を得た。このアクリルエマルションR−3の溶融粘度(140℃)は93Pa・sであった。
【0073】
(合成例4)アクリルエマルションR−4
下記モノマーを混合してモノマー混合液(酸価:20(計算値)、水酸基価:97(計算値)、Tg:10℃(計算値))を調製した。
【0074】
<モノマー混合組成>
2−エチルヘキシルメタクリレート 91.4質量部
ブチルアクリレート 25.2質量部
4−ヒドロキシブチルメタクリレート 78.8質量部
スチレン 111.5質量部
アクリル酸 8.2質量部
n−ドデシルメルカプタン 2.0質量部。
【0075】
合成例1に記載のモノマー混合液の代わりにこのモノマー混合液317質量部を用いた以外は合成例1と同様にして、不揮発分38.0質量%、重量平均分子量30000のアクリルエマルションR−4を得た。このアクリルエマルションR−4の溶融粘度(140℃)は490Pa・sであった。
【0076】
(調製例1)着色顔料ペースト
SUS容器に、水123質量部、ウレタンディスパージョン(DIC(株)製「ハイドランWLS−202」)30質量部、湿潤分散剤(ビックケミー社製「Disperbyk−181」)1.5質量部、消泡剤(サンノプコ(株)製「SNデフォーマー1340」)1.5質量部およびルチル型酸化チタン(石原産業(株)製「CR−90−2」)323.4質量部を3分間予備混合した後、仕込み全体積量と同じ体積量のガラスビーズ(粒径1.6mm)を投入し、卓上サンドミルで1時間分散させた。グラインドゲージにより測定した分散終了時の粒度は5μm以下であった。
【0077】
(調製例2)メラミン硬化型水性中塗り塗料P−1
容器に、調製例1で得た着色顔料ペースト244.9質量部を仕込み、これに、攪拌しながら合成例1で得たアクリルエマルションR−1を171.4質量部およびメチル化メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ(株)製「サイメル325」)を40.3質量部加えて5分間攪拌した。その後、水20質量部、ブチルジグリコール8質量部およびブチルグリコール16質量部を加えて5分間攪拌した。さらに、アルカリ増粘剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製「Viscalex HV30」)、ジメチルエタノールアミンおよび水を適量加えて、不揮発分48.3質量%、pH8.4のメラミン硬化型水性中塗り塗料P−1を得た。この水性中塗り塗料P−1の硬化温度は140℃であった。また、この水性中塗り塗料P−1の配合中の全固形分質量に対する全顔料分質量(%)(以下、「PWC」という。)は42であった。
【0078】
(調製例3)イソシアネート硬化型水性中塗り塗料P−2
アクリルエマルションR−1の量を197.7質量部に変更し、メチル化メラミン樹脂の代わりに水分散性ポリイソシアネート(DIC(株)製「バーノックDNW5000」)25.0質量部を用いた以外は調製例1と同様にして、不揮発分47.3質量%、pH8.2、硬化温度140℃、PWC42のイソシアネート硬化型水性中塗り塗料P−2を得た。
【0079】
(調製例4)非硬化型水性中塗り塗料P−3
容器に、調製例1で得た着色顔料ペースト244.9質量部を仕込み、これに、攪拌しながら合成例1で得たアクリルエマルションR−1を250.5質量部加えて5分間攪拌した。その後、調製例1と同様にして、不揮発分45.0質量%、pH8.0、PWC42の非硬化型水性中塗り塗料P−3を得た。
【0080】
表1には、前記水性中塗り塗料P−1〜P−3の組成を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
(調製例5)非硬化型水性ベース塗料B−1
容器に、合成例2で得たアクリルエマルションR−2を263.6質量部仕込み、これに、攪拌しながら水150質量部とブチルグリコール20質量部とを加えて5分間撹拌した。その後、アルカリ増粘剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製「Viscalex HV30」)、ジメチルエタノールアミンおよび水を適量加えて不揮発分21質量%、pH8.5の水性樹脂溶液を得た。
【0083】
また、別の容器に、ブチルグリコール61.5質量部およびリン酸エステル化合物(日本ルーブリゾール(株)製「Lubrizol2062」)5.0質量部を仕込み、5分間攪拌した。この溶液に、2種類のアルミペースト(ECKART GmbH製「Hydrolan2154」およびECKART GmbH製「Hydrolan2156」)をそれぞれ30.0質量部添加し、その後、1時間攪拌してアルミニウム分散液を得た。
【0084】
次に、前記水性樹脂溶液497.6質量部にこのアルミニウム分散液58.6質量部を撹拌しながら添加し、さらに1時間攪拌して不揮発分22質量%、pH7.8の非硬化型水性ベース塗料B−1を得た。この水性ベース塗料B−1の140℃での重量減少率は0質量%(P=14.5として算出)であった。
【0085】
(調製例6)微メラミン硬化型水性ベース塗料B−2
容器に、合成例2で得たアクリルエマルションR−2を255.7質量部仕込み、これに、攪拌しながらメチル化メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ(株)製「サイメル325」)4.0質量部、水150質量部およびブチルグリコール20質量部を加えて5分間攪拌した。さらに、アルカリ増粘剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製「Viscalex HV30」)、ジメチルエタノールアミンおよび水を適量加えて、不揮発分21質量%、pH8.5の水性樹脂溶液を得た。
【0086】
調製例5に記載の水性樹脂溶液の代わりに、この水性樹脂溶液493.7質量部を用いた以外は調製例5と同様にして、不揮発分22質量%、pH7.8、硬化温度140℃の微メラミン硬化型水性ベース塗料B−2を得た。この水性ベース塗料B−2の140℃での重量減少率は0.4質量%(P=14.5として算出)であった。
【0087】
(調製例7)メラミン硬化型水性ベース塗料B−3
アクリルエマルションR−2の量を184.6質量部に変更し、メチル化メラミン樹脂の量を40.0質量部に変更した以外は調製例6と同様にして、不揮発分23質量%、pH8.5の水性樹脂溶液を得た。
【0088】
調製例5に記載の水性樹脂溶液の代わりに、この水性樹脂溶液458.6質量部を用いた以外は調製例5と同様にして、不揮発分24質量%、pH7.8、硬化温度140℃のメラミン硬化型水性ベース塗料B−3を得た。この水性ベース塗料B−3の140℃での重量減少率は3.8質量%(P=14.5として算出)であった。
【0089】
(調製例8)非硬化型水性ベース塗料B−4
アクリルエマルションR−2の代わりに合成例3で得たアクリルエマルションR−3を263.6質量部用いた以外は調製例5と同様にして、不揮発分21質量%、pH8.5の水性樹脂溶液を得た。
【0090】
調製例5に記載の水性樹脂溶液の代わりに、この水性樹脂溶液497.6質量部を用いた以外は調製例5と同様にして、不揮発分22質量%、pH7.8の非硬化型水性ベース塗料B−4を得た。この水性ベース塗料B−4の140℃での重量減少率は0質量%(P=14.5として算出)であった。
【0091】
(調製例9)非硬化型水性ベース塗料B−5
アクリルエマルションR−2の代わりに合成例4で得たアクリルエマルションR−4を263.6質量部用いた以外は調製例5と同様にして、不揮発分21質量%、pH8.5の水性樹脂溶液を得た。
【0092】
調製例5に記載の水性樹脂溶液の代わりに、この水性樹脂溶液497.6質量部を用いた以外は調製例5と同様にして、不揮発分22質量%、pH7.8の非硬化型水性ベース塗料B−5を得た。この水性ベース塗料B−5の140℃での重量減少率は0質量%(P=14.5として算出)であった。
【0093】
表2には、前記水性ベース塗料B−1〜B−5の組成を示す。
【0094】
【表2】

【0095】
(調製例10)熱硬化型クリア塗料C−1
表3に示す割合でポリオール、添加剤および溶剤を混合して2液型の熱硬化型クリア塗料の主剤を調製した。また、前記熱硬化型クリア塗料の硬化剤として表3に示すイソシアネート硬化剤を使用した。この主剤と硬化剤とを表3に示す割合で混合したもの(固形分濃度55質量%)を熱硬化型クリア塗料C−1として使用した。このクリア塗料C−1の硬化温度は140℃であり、140℃での重量減少率は0質量%(P=0として算出)であった。
【0096】
【表3】

【0097】
(実施例1)
電着塗装板(神東ハーバーツ社製、商品名「サクセード80V グレー」)の表面に、調製例2で得たメラミン硬化型水性中塗り塗料P−1(硬化温度140℃)を焼き付け後の膜厚が20μmになるように塗装し、100℃で3分間加熱して水および有機溶剤などを揮発させた。次に、この水性中塗り塗料P−1の層の上に調製例5で得た非硬化型水性ベース塗料B−1を焼き付け後の膜厚が15μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水および有機溶剤などを揮発させ、次いで、この水性ベース塗料B−1の層の上に調製例10で得た熱硬化型クリア塗料C−1を焼き付け後の膜厚が35μmになるように塗装し、メラミン硬化型水性中塗り塗料P−1と非硬化型水性ベース塗料B−1と熱硬化型クリア塗料C−1とをウェットオンウェットで積層した未硬化積層塗膜を得た。
【0098】
この未硬化積層塗膜を室温で10分間静置(セッティング)した後、90℃で10分間の加熱処理(焼き付け処理)と140℃で30分間の加熱処理(焼き付け処理)を順次施してメラミン硬化型水性中塗り塗料P−1および熱硬化型クリア塗料C−1を硬化させた。このとき、ウェーブスキャン(BYK−Gardner社製「Wave−Scan Dual」)を用いてウェーブスキャン値〔Wa(波長<0.3mm)、Wb(波長0.3〜1mm)、Wc(波長1〜3mm)、Wd(波長3〜10mm)〕を測定した。これらのウェーブスキャン値は、Waが小さいほど光沢が優れ、Wdが小さいほど肌がよいことを意味する。表4には、焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを示す。
【0099】
焼き付け終了後の塗装板を室温で30分間放置した後、積層塗膜の付着性(以下、「焼き付け後の付着性」という。)を評価した。また、焼き付け終了後の塗装板を室温で24時間放置した後、40℃の恒温水槽に240時間浸漬した。その後、塗装板を水槽から引き上げ、室温で30分間放置した後、積層塗膜の付着性(以下、「耐水性試験後の付着性」という。)を評価した。表4には、積層塗膜が剥離しなかった升目の数を示す。
【0100】
(実施例2)
前記メラミン硬化型水性中塗り塗料P−1の代わりに調製例3で得たイソシアネート硬化型水性中塗り塗料P−2(硬化温度140℃)を用いた以外は実施例1と同様にして積層塗膜を作製し、Wa〜Wdを測定した。焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを表4に示す。また、実施例1と同様にして焼き付け後および耐水性試験後の付着性を評価した結果を表4に示す。
【0101】
(実施例3)
前記非硬化型水性ベース塗料B−1の代わりに調製例6で得た微メラミン硬化型水性ベース塗料B−2(硬化温度140℃)を用いた以外は実施例1と同様にして積層塗膜を作製し、Wa〜Wdを測定した。焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを表4に示す。また、実施例1と同様にして焼き付け後および耐水性試験後の付着性を評価した結果を表4に示す。
【0102】
(実施例4)
前記非硬化型水性ベース塗料B−1の代わりに調製例8で得た非硬化型水性ベース塗料B−4を用いた以外は実施例1と同様にして積層塗膜を作製し、焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを測定した。その結果を表4に示す。また、実施例1と同様にして焼き付け後および耐水性試験後の付着性を評価した結果を表4に示す。
【0103】
(実施例5)
前記非硬化型水性ベース塗料B−1の代わりに調製例9で得た非硬化型水性ベース塗料B−5を用いた以外は実施例1と同様にして積層塗膜を作製し、焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを測定した。その結果を表4に示す。また、実施例1と同様にして焼き付け後および耐水性試験後の付着性を評価した結果を表4に示す。
【0104】
(比較例1)
前記非硬化型水性ベース塗料B−1の代わりに調製例7で得たメラミン硬化型水性ベース塗料B−3(硬化温度140℃)を用いた以外は実施例1と同様にして積層塗膜を作製し、焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを測定した。その結果を表4に示す。また、実施例1と同様にして焼き付け後および耐水性試験後の付着性を評価した結果を表4に示す。
【0105】
(比較例2)
前記メラミン硬化型水性中塗り塗料P−1の代わりに調製例4で得た非硬化型水性中塗り塗料P−3を用い、前記非硬化型水性ベース塗料B−1の代わりに調製例7で得たメラミン硬化型水性ベース塗料B−3(硬化温度140℃)を用いた以外は実施例1と同様にして積層塗膜を作製し、焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを測定した。その結果を表4に示す。また、実施例1と同様にして焼き付け後および耐水性試験後の付着性を評価した結果を表4に示す。
【0106】
(比較例3)
前記メラミン硬化型水性中塗り塗料P−1の代わりに調製例4で得た非硬化型水性中塗り塗料P−3を用いた以外は実施例1と同様にして積層塗膜を作製し、焼き付け終了時の積層塗膜のWa〜Wdを測定した。その結果を表4に示す。また、実施例1と同様にして焼き付け後および耐水性試験後の付着性を評価した結果を表4に示す。
【0107】
【表4】

【0108】
表4に示した結果から明らかなように、本発明のように最上層と最下層に熱硬化型塗料を使用し、中間層に非熱硬化型または微硬化型塗料を使用したウェットオンウェットによる積層塗膜(実施例1〜5)のWa〜Wdはいずれも、最上層、中間層および最下層の全てに熱硬化型塗料を使用した従来の積層塗膜(比較例1)、ならびに最上層と中間層に熱硬化型塗料を使用し、最下層に非硬化型塗料を使用した積層塗膜(比較例2)に比べて小さく、実施例1〜5の積層塗膜は、光沢、肌ともに比較例1〜4の積層塗膜よりも向上していることが確認された。
【0109】
また、表4に示した結果から明らかなように、最上層および最下層に熱硬化型塗料を使用し、中間層に非熱硬化型または微硬化型塗料を使用した積層塗膜(実施例1〜5)は、全く剥離せず、最上層、中間層および最下層の全てに熱硬化型塗料を使用した従来の積層塗膜(比較例1)と同様に付着性に優れたものであることが確認された。一方、最下層に非熱硬化型塗料を使用した積層塗膜(比較例2〜3の)の場合、耐熱性試験後のものにおいては、全てのマスにおいて基材(電着塗装板)と最下層(非硬化型塗料)との界面で剥離が起こり、付着性に劣るものであった。これは、比較例2〜3の積層塗膜においては、最下層が硬化しないため、最下層と基材との界面には化学結合点が非常に少ない上に、積層塗膜中に温水が浸透した場合に、界面に温水が入り込み、結合が切断されたためであると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0110】
以上説明したように、本発明によれば、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付けて少なくとも最上層と最下層を硬化させても、最上層表面の凹凸が少なく、さらに基材に対する付着性に優れた積層塗膜を得ることができる。これにより、肌(表面平滑性)や光沢など外観品質に優れ、且つ基材と塗膜との付着性に優れた塗装体を得ることができる。
【0111】
したがって、本発明は、3種類以上の塗料をウェットオンウェットで積層して焼き付ける場合においても外観品質に優れ、且つ基材と塗膜との付着性に優れた塗装体を得ることができる塗装方法として有用であり、特に乗用車、トラック、バス、オートバイなどの自動車用車体やその部品の塗装方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された最下層と前記最下層上に形成された少なくとも1層の中間層と前記中間層上に形成された最上層とを備える積層塗膜を形成する塗装方法であって、
前記最下層を形成するための最下層用塗料として熱硬化型塗料を準備し、前記中間層を形成するための中間層用塗料のうちの少なくとも1種類として熱処理により硬化反応を起こさない非硬化型塗料を準備し、且つ前記最上層を形成するための最上層用塗料として熱硬化型塗料を準備する工程と、
前記基材上に前記最下層用塗料、中間層用塗料および最上層用塗料をウェットオンウェットで積層して未硬化積層塗膜を形成する工程と、
前記未硬化積層塗膜に熱処理を施して少なくとも前記最下層用塗料および前記最上層用塗料を硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記最上層用塗料が、その硬化温度における重量減少率が0.5質量%以下の塗料であることを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記非硬化型塗料が、前記最上層用塗料の硬化温度における重量減少率が0.5質量%以下の塗料であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記非硬化型塗料が、前記最上層用塗料の硬化温度における溶融粘度が500Pa・s以下の基体樹脂を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記未硬化積層塗膜に[前記最上層用塗料の硬化温度−20℃]未満の温度で熱処理を施し、次いで[前記最上層用塗料の硬化温度−20℃]以上の温度で熱処理を施すことを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の塗装方法。
【請求項6】
基材上に形成された最下層と前記最下層上に形成された少なくとも1層の中間層と前記中間層上に形成された最上層とを備える積層塗膜を有する塗装体であって、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の塗装方法により得られたものであることを特徴とする塗装体。

【公開番号】特開2010−36095(P2010−36095A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201170(P2008−201170)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】